「あ!?お前はあん時の!?」
「今はあのクソ強ぇガキいねぇのか!?」
「ん?」
船に戻ると、島に着く前に海に放り投げた三人がいた。
「おい、その手に持ってる宝は置いていきな!痛い目にあいたくはねぇだろ?」
「…はぁ」
私は三人を通り越して、船に手を当てる。
ぽんっ、とその隣に全く同じ船が出現した。
「この船はあなた達も知っての通り、結構宝が入ってる。この船をあげるから見逃して欲しい」
「お前も悪魔の実の能力者か!?…よし、ここは下手に逆らうより、ここで大人しく引いておくのが賢い選択ってもんだな」
「へっへっへ、じゃあな、また無くなったら増やしてくれよ」
そのまま上機嫌で海に出て行った。
「…ちょっとあんた、そんな凄いことできるなら初めからいってよ」
「あっはっは!ナミさんまで本気にしないで下さいよ!私の能力は確かにこうやって物を増やすことが出来ますけど…持続時間は十分が限界ですからね」
「…へぇ、なるほど、それは確かにあいつらにとっては天国から地獄ね」
ナミさんもくすくす笑いだす。まったくこの人は。
「それで、どうですか?私の自慢の変身は!お姉さんっぽいですよね!?」
「えっ…そ、そうね、うん、いいんじゃない?」
さっと顔を逸らすナミさん。おっと、これは私の顔面パワーが効いたな?
普段の私は自分で言うのも何だけど、どこからどう見ても子供なのだが…、この技を使えば身長だけじゃなく、何故か外見も大人びて見えるようになるのだ。
くりっとしてた目はほんの少し切れ長のクールな印象にかわり、髪も少しだけ伸びる。自分で言うのもなんだけど綺麗なお姉さんって感じ?スーツとか似合うよね絶対。
「で?どうしてあんたは、私の言うことを無視してこっちに来たのかしら?」
「あっ、……てへ」
「てへ、じゃないでしょ!!海賊を相手にするのは本当に危険なの、たとえ今回退けられたとしても、報復を狙われたらどうするつもり?」
ナミさんは本気で私を心配してくれてるようだ。
だから私も、本気で応えたい。
ナミさんを横抱きしたまま跳躍して船に乗った私は、ゆっくり彼女を下ろして自分の考えを話した。
「私、女の人が好きなんです」
「そこがそもそも気になるんだけど、どうしてあの島でずっと居たはずなのに男女の区別や言葉が喋れるの…」
「あー……まぁそれはいずれ」
その辺に関しては信じてもらえると思っちゃいないので黙っておくことにした。
「だから、ナミさんが好きだーってなって、夢のハーレムの正妻に迎えたいって本気で思ってるんです。その為なら海賊でも何でも、邪魔する奴は蹴散らす覚悟がある」
「ふーん…例えば、そいつが絶対敵わない奴だとしても?」
「私が夢を叶えるために、あなたを正妻に迎えたいって決めたんです。その為に戦って死ぬなら、別に構いませんし」
要は魅力的な女性を、障害が大きいからと見逃したくないのだ。
自分が良いな、欲しいと思った人を諦めるくらいならもともとハーレム女王など訳わからないものを目指したりはしない。
「死ぬつもりもありませんし、ね?私こう見えて強いですので」
「…ぷっ、あははっ、あんた、やっぱりどこかおかしいんじゃないの?…じゃ、私に男がいるって言ったら…あっ、嘘!嘘だからそんな顔しないで、ね?」
そういうのは弱いのでやめて。
「人の女性を狙う趣味は持ってないので、ナミさんのような魅力的な女性は時間との戦いなんです!」
と口にした時、3分たったのか体が元の大きさに戻ってしまった。
「…それとこの身長との戦い…!」
悲しいかな、私の最大の問題はこの子供すぎる体なのだった、まる。
それからルフィ達がくるまでは私がナミさんにアプローチし続けて、華麗にスルーされる流れが続いた。
もはやナミさんからしてみれば手のかかる妹みたいな扱いだったのは気にしないようにしよう。
ルフィがゾロを担いで戻ってきたので、ゾロを船に担ぎ上げ、日の当たらない所に寝かして応急手当だけする。
「おほー、イリス、お前でっけェ船持ってんなァ!」
「うん、島と交換に船を貰ったの」
「物は言いようよね…」
とナミさんの呆れ顔を貰った。カメラくれ。
とりあえず仮で私の船に乗ることにした。
「ルフィ、私仲間になっていいんだよね、ナミさんと一緒に入るよ」
「ちょっと、手を組むって言ってくれない?海賊の仲間なんてゴメンだわ」
「ほんとか!?いやー、これで遭難しなくて済みそうだ!ししし!」
ルフィはほんとに嬉しそうに笑う。なんかこっちまで嬉しくなってくるのが彼の凄い所だ。
そしてついに船を出した時、港から町長さんの声が聞こえた。
「おい待て小童共!!!」
「町長のおっさん!」
ルフィがいち早く気付く。
「すまん!!恩にきる!!!」
「…へへ」
涙を流しつつも笑顔でお礼を言ってくれた町長さんに対して、皆笑って返した。
「気にすんな!楽に行こう!!」
ルフィの返答に言葉も出ないようだ。本当に主人公の器だよね、私にはこんな返し無理だよ。
何もしないのはどうかと思ったので、私も一応手を振って別れを伝えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
それから数日後…。
「なおったーーーーっ!!」
ルフィが麦わら帽子を見て喜んでいる。どうやらバギーとの戦闘中傷付けられたらしく、相当落ち込んでたのを見兼ねてナミさんが直したのだ。
「応急処置よ、穴を塞いだだけ、強くつついたりしない限り大丈夫だと思うけど」
「いやーわかんねェわかんねェ、ありがとう!あんなにボロボロの帽子をここまで」
つんつんと直した所をつつくルフィ。
「あ」
つつきすぎて穴を開けていた。
「人の話をちゃんと聞けェ!!」
「ぎゃあああああ!!!」
眉間に針を刺されて痛がるルフィだけど、仕方ないよ、それはルフィが悪い。
「ナミさん、私のナミさんに対する劣情も、どうか治療して貰えないでしょうか?」
「あんた…段々要求が激しくなってない?」
気のせいじゃないですよ、これは猛アプローチです!!
「…それにしても、あんた達本当にこれで
確か、この世界には海が二種類あるとかいう話で、今私たちがいるこの海が前半の海、
そんでもって、後半の海が
「確かにな!イリスの船にも食べ物いっぱいあったけど、やっぱ肉がないと力が」
「食糧のこと言ってんじゃないわよ!」
ルフィの言葉をナミさんが遮る。
んー、海とか、そういうことに関しては女子高生にはわからんですね。
「私達の向かってる
ふむふむ。
「船員の頭数にしてもこの船の装備のなさにしても、とても無事でいられるとは思えないわ」
「でもこの船、もとは海賊船だよ?」
「ダメね、
まぁ…大砲もなければなんかしょぼいし、この船。やっぱオニオンが船長の船って感じだよね。
「で?何すんだ?」
「準備するの!先をしっかり考えてね、ここから少し南へ行けば村があるわ、ひとまずそこへ!」
「肉を食うぞ!!」
「船を探しなさいよっ!!」
とにかく次の島は船探しってことね、よーし、ナミさんの為に天蓋付きベッドを探すぞーー!!あと美人!
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おー、本当に大陸についた」
「何言ってんの、当然でしょ地図の通り進んだんだから」
ナミさんの案内のもと、目的の島にたどり着いた私たち。
よっ、と船から降りてナミさんをエスコートする。
「ふーーっ、久し振りに地面に下りた」
「ほんとにね、これがほんとの地に足つくってやつだよ」
ゾロがぐっと身体を伸ばしてるのに合わせて私もせっせと柔軟する。
「ところで、さっきから気になってたんだが…あいつら何だ?」
ゾロが指差すのは近くの崖から私達を監視するかのように見ている四人だ。
そのうち三人はまだ子供みたいだが。あ、子供の方は見つかったのに気付いて逃げてった。
残った少年と私達の目が合う。
「………」
「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!!人々はおれを称えさらに称えわが船長、キャプテン・ウソップと呼ぶ!!」
言ってることも大袈裟だしなんなら名前でウソだとわかる少年、ウソップが現れた。
網目模様のバンダナを頭に巻いた、とんでもなく長い鼻が特徴的な少年だ。
「この村を攻めようと考えているならやめておけ!!このおれの八千人の部下共が黙っちゃいないからだ!!」
「うそでしょ」
「ゲッ!ばれた!!」
「ばれたって自分で言ってるよ」
「こんな小さな子にも言われたァ〜っ!!」
首から私は19歳ですって看板でもかけといてやろうかこんにゃろ。
「はっはっはっはっはっは!!お前面白ぇなーっ!」
「おいてめェ、おれをコケにするな!!おれは誇り高き男なんだ!!その誇りの高さゆえ、人がおれを『ホコリのウソップ』と呼ぶ程にな!!」
それ、馬鹿にされてるよ。
「なァ、美味い飯屋知らねェか!俺もう腹へっちまってよォ」
「飯?村に一つあるが…」
「じゃあそこに案内してくれ!」
私達四人に敵対心がないことは伝わったのか、ウソップは軽く頷いて村のめし屋まで案内してくれた。
せっかくなので一緒にご飯を食べることになり、この島へやってきた理由もルフィが話す。
「何!?仲間を!?あとでかい船か!」
「あぁそうなんだ」
はーっ、と感心したように話すウソップ。当のルフィは肉に夢中できちんと話す気があるかはわかんないけど。
「まァ、大帆船ってわけにゃいかねェが、船があるとすりゃこの村で持ってんのは
「あそこ?」
ウソップの言葉に首を傾げる。
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒たってる、その主だ」
ほぇー。金持ちさんか、前世では関わり合いにならなかった人種だね。
「だが主と言ってもまだいたいけな少女だがな、病弱で…寝たきりの娘さ…!」
「え……どうしてそんな娘がでっかい屋敷の主なの?」
ルフィとゾロは既に酒や肉に夢中で対して聞いてないようだ。
ナミさんの呆れ顔がまた見れてしまったぜ…。
「…もう一年くらい前になるかな、かわいそうに病気で両親を失っちまったのさ、残されたのは莫大な遺産とでかい屋敷と十数人の執事達…!!どんなに金があって贅沢できようと、こんなに不幸な状況はねェよ」
…でも、病弱のお嬢様か…。
確かにかわいそうだけど、美人センサーがすごい…。
「……やめ!」
ナミさんが軽くテーブルを叩く。
「この村で船のことは諦めましょ、また別の町か村をあたればいいわ」
「ナミさん…!流石私の嫁…!」
「え?お前らそういう関係?」
「違うから」
…でも一目みたいな、そのお嬢様。
「…おっと、時間だ、すまんお前ら、おれはこれから重大な極秘任務に赴かなければならない、生きて帰れるかわからん過酷な任務だ」
なんかよくわからんけど用事があるようにウソップが言う。
私たちが手を振ってウソップを送り出すと、入れ違いにさっき逃げてった三人の子供が入ってきた。
「「ウソップ海賊団、参上っ!!」」
「なにあれ…」
「さー…何だろうな…」
「子供の遊びだよ、可愛いね」
「お前も混ざってこいよ」
ジロ、とゾロを睨んでもどこふく風。くー!
何やら三人でコソコソ話してると思ったら、意を決したように真っ直ぐ私たちの方へ向かってきた。
「お…おい海賊達っ!!われらが船長キャプテン・ウソップをどこへやった!!」
「キャプテンを返せ!!」
……あー、そうきたかー。
こんな時に思うのもどうかと思うけど、一応キャプテン・ウソップって子供には呼んで慕われてるんだね…。
ちなみにここら辺の原作の話はめっちゃ好きです。
ウソップの覚悟が泣ける。