バーの色もオレンジになって…本当に感謝しかありません…!
高評価してくれた方、作品に目を通してくれた方、誤字を見つけてくれた方、感想をくれた方、全ての方に溢れんばかりの感謝を!ありがとうございました!!
「これがアクセルで、そんでこっちがブレーキって訳だね」
コニスちゃんにウェイバーの仕組み…と言っても物凄く簡単に説明を受けた私達は、それじゃあ早速乗ってみようという事になった。
じゃんけんで勝利した私が1番手だ。
アクセルが右足側でブレーキが左足側、立って運転…よし。
動力は“ダイアル”と呼ばれる空島特有の貝がどうこう…まぁそれは後で詳しく教えてくれるらしい。
「いざ、発進!!……おお!!」
ブオオ!とエンジン音を鳴らして走るウェイバー。
ちなみに前世では女子高生だから車はもちろん、原付すら免許持ってなかったと思います、多分…あんまり覚えてないけど。
だけど前世でアクセルやブレーキ、おまけにこういった乗り物に関しての知識だけは一般常識として得てる訳だし、この世界の人達よりもこのウェイバーに関してはアドバンテージがある筈だ!!
「うおおおおおおおぉぉぉ!!!」
「…声だけは立派だな」
「ウェイバーってのどっか飛んでったぞ」
「ちょ!イリス!!」
ゾロの言う通り、とにかく声を上げた私を待っていたのは物凄く揺れるウェイバーだった。アクセルを踏んだ直後は勢いで前に進んだのだが…そこからが無理だったよ……。
振り落とされたし…雲の海も泳げない事が分かったし…。
「ほら!掴んで!」
「っげほっ、ごほっ!む、難しいよこれ…!」
助けに来てくれたナミさんの腕を掴んで雲上に顔を出す。まさか雲に溺れるとは…。
「ウェイバーの船体は動力を充分に活かす為とても軽く作られているのです。小さな波にさえ舵を取られてしまうので波を予測できるくらい海を知っていなければならなくてすいません!」
浜まで運んでくれた時、お父様がそんな事を言っていた。
何だそりゃ…日本にそんな安全機能の一切を取り外してスピード特化にしましたみたいな車なんてないよ!スポーツカーだって何かしらあるよ!!
「ナミさんは乗れるんじゃない?」
「私?」
波を予測とか、ピッタリだと思うけど。
「…じゃあ、あんたが後ろに来るって条件付きなら乗るわ」
うーん…ちょっと見てた未来とは違うけど、それはそれでアリかな!!
「1人乗りっぽいけど乗れるのか?」
「子供1人だけなら問題なくてすいません!」
「誰が子供だって?」
頰を引きつらせながらナミさんの乗るウェイバーの後ろに乗り、ナミさんの腰にギュッと抱きつくとウェイバーが走りだす。
勢いよく走り出したウェイバーは、まるで整備された道を走る車のように揺れなく進む。ちなみにさっきの私はこの時点で落ちてました。
「キャハハ!凄いじゃないナミちゃん!」
「何と…!私達でも乗るのには数年から数10年の訓練が必要だと言うのに…信じられません!」
「確かにコツが要るわね、デリケートでイリスには無理かも」
「わ、私もコツ掴んだら大丈夫かもしれないじゃん!」
数10年くらい訓練すれば何とかなるよ!!
「ナミー!おれ達おっさん家に行くから早く戻ってこーい!!」
「先行っててルフィ!おじさん、もう少し遊んでていい?」
「ええどうぞ、気をつけて下さい!」
「ハッ…あれってよく考えればイリスちゃんと密着して2人乗り…!?羨ましいわナミちゃん…」
わくわくと言った感じでコニスちゃんの家に向かうルフィ達とは裏腹にしょんぼりと歩くミキータ。
アラバスタの1件以来かなり変わったよね彼女。具体的にはより一層好意を曝け出してくる様になったというか…、ほんとに可愛い。
「ねぇイリス、このウェイバーって乗り物ルフィ達が深海から引き上げたガラクタの中になかった?」
「生タコしか記憶にないかなぁ…、あったっけ」
「あった筈よ、…もし直せるなら直して、地上に持って帰りたい所ね」
それこそ本当に水上バイクみたいな使い方が出来るよね…。
私なら自分の能力を使って速さ倍とか色々出来そう、運転できないんだけど!
「こうしてあんたと2人でゆっくりするのも、なんだか久しぶりな気がするわ」
「あー…実際そうかも、一味も段々増えて賑やかになったもんね」
少し前にはビビが居て、今ではロビンやミキータが居る。
男性陣も最初はルフィとゾロだけだったのに今ではサンジ、ウソップ、チョッパーと3人も増えたし…それに何よりみんな良い人ばっかりだ。
「だけど、やっぱりこうして2人で居るのもいいね」
「ふふ、私は立場上あんまりあんたと2人きりって言うのは良くないんだけど…、たまには、いいわよね?あんたをさ…独り占めしたって」
立場上…か。
ナミさんは私の正妻だからか、私の夢を誰よりも応援してくれている。
それが時にはナミさんの思いを縛り付けている事もあったのかもしれないと思えば胸が締め付けられる様な気持ちになった。
「…ナミさんはさ、もっと我儘になってもいいんだよ」
「え?」
「私の目指す夢を知ってるナミさんだからこそ、正妻って立場は軽くないと思う。…それでも私はナミさんにその重荷を背負って欲しい、それは変わらないよ。…だけど、そのせいでナミさんが私に我慢するのはやだ」
聞けば聞くほど自分勝手な言い分だ。
大変な立場になって欲しい、だけど楽にして。という事なんだからナミさんからすれば訳が分からないかもしれない。私だって私が何を言いたいのか分かってないのだから。
「2人きりになりたい時があるなら、言ってよ。もっと私に不満があるなら、それも抱え込まないで教えてよ。…私は、ナミさんの頼みなら何だって叶えてあげるから」
ナミさんを抱き締める力を強くした。ウェイバーは静かに雲を走る。
「……、それは、今日の夜私とエッチしてって言っても?」
「えっ…、…えっと……」
「…………」
「あ、あの…」
「…ぷっ、あっはは!何不安げな声出してんのよ!…それに何?あんたに不満?そんなのあったら正妻にはなってないわ、あるとしたら夜のヘタレ具合くらいかしらね?」
うぐっ、何か刺さった、胸に刺さった!
「我慢は…ちょっとだけしてる。でもねイリス、私は…あんたの幸せそうな顔を見るのが幸せなのよ。例えば私とミキータに挟まれてる時のあんた、可愛い女の子を見つけた時のあんた、ロビンと何かは分かんないけど話してる時のあんた。全部…好き。我慢するのは好きでしてる事だから気にしないでいいのよ、だから…たまにこうして2人きりになれたその時だけでも独り占め出来たら…それだけで良いの」
「…ナミさん」
顔は見えないけど、本当に本心からの言葉だって事はナミさんの声で分かった。
私には勿体ない程の良い女性だ、そんな彼女を正妻にする事が出来ている幸せを再確認出来ただけでもこの雲デートはして良かったと思えるよ。
「……ん?」
「ナミさんどしたの…って、これは…」
話に夢中になり過ぎて周り見て無かったよ。
気が付いたら目の前に雲に浮かぶ島があった。それも空島じゃない、何故なら地面が…大地がその島にはあるからだ。
「……まさか」
ロビンと話した“もしかして”を思い出す。
ジャヤの一部が
ただ、ジャヤだと言うのならちょっと色々と大きすぎるけどね。リトルガーデンのジャングルに生えていた木よりも更に巨大な…まるでビルの様な大きさの木が当たり前にそこかしこに生えている。根は複雑に隣接した木同士で絡まり合って道を険しくし、耳を澄まさなくとも奥から獣の唸り声が聞こえる。
「でっっ…かい…、何コレ、この木の大きさ…樹齢何年の木なの?これ全部天辺見えないわ」
「…獣の声に紛れて別の…何だろう、戦闘…かな、何か聞こえるよ。入る?」
「入るわけないでしょ、離れましょ」
戻ってルフィ達に言ったら絶対来たがると思うけど…。
それに私は結局黄金郷を探しに入ろうと思うけどね、ナミさんが嫌なら今はやめとこうかな。
「…っ」
何やら気配を感じて振り向くと、島や私達から少し離れた所にさっきの仮面の男がバズーカを構えてこちらを見ていた。
…いや、私達じゃないな…島の方?
「い、イリス…!あれ…!」
ナミさんが指差すのは島の中、ジャングルの奥だ。
目を凝らせば4人の人達が争いながら1人の男を追い掛けているのが見えた。
私がその光景を視認した瞬間、仮面の男がバズーカを島の4人に向けて放つ。思ったより火力が高く、巻き添えくらった逃げてる1人が崖際まで吹き飛ばされてきた。
「!!…オイ、助けてくれ…!乗せてくれ…!…ハァ…、船に…乗り遅れたんだ…!頼む!礼ならいくらでも…」
息も絶え絶えで今にも意識を失いそうな男がそう言う。崖下から見てるだけの私達には何が何だか全く分からないが…。
「だったら早くそこから飛び降りて!よく分かんないけど狙われてるんでしょ!」
「あ、あぁ…!…うわ!!ゲリラ……」
「ッ!!?危ないッ!!!」
崖下に飛び降りようとした男は、私達の後ろにいるゲリラに驚いて一瞬固まった。
その時だった…まるでその男を狙ったかのような大きな雷が男に落ちたのだ。それは男だけじゃなく島もえぐり取り、余波だけで私とナミさんは吹き飛ばされそうになった。ていうか男を助ける為に島へと近付いていたから私がナミさんを咄嗟に庇ってなかったら飛ばされてたかも…。
「くそ…!エネルか!!よくも“ヴァース”を!!……くっ!」
雷は今度は仮面の男を襲うが、男は予測していたのか打たれる前に身を翻して避け何処かへ去っていった。
あの雷…やっぱり意思がある…?いや、それよりは何かの能力…仮面の言葉を信用するなら『エネル』って奴の仕業だろうけど…。
「…くそ、あの人…死んじゃったよね…!!」
「そうね…残念だけど、これを見て助かってるって思える人は居ないわ…」
私達の眼前にあるのは、天辺が見えない程の巨大な大木をあっさりと真っ二つにして男がいた地点の島の一部を跡形もなく消し去っている光景だ。
「…!あの人を追ってた4人が居る…!隠れよう…!」
4人の死角になる所へと行き身を潜めた。
私1人ならともかく、今はナミさんも居るから下手に出られない…まずは様子見だ。
「……今の男、誰かと話していた様だが…?」
「ゲリラだ、今逃げた」
こっそりと顔だけ覗かせると、4人だけじゃない…大きな鳥や犬もいる様だ、ペットか?
4人の特徴としてはとりあえずみんな翼がある。つまりさっきの男と違って空島の民って事だろう…仮面の男もコニスちゃんもお父様も生えてるから間違いない。
1人は玉のように丸い体型の男。
2人目は鳥を連れたパイロットみたいな格好の男。
3人目は訳わかんないイソギンチャクみたいな髪型の男。
4人目は犬を連れた坊主サングラスのマッチョな男。
……何だこいつら、個性的過ぎる…。
「しかしエネル様もどういうおつもりだ、自分でカタをつけるとは…我々は何の為に…」
「時間切れという事だろうよ、次の“不法入国者”が既にこの国に侵入している。
「!!……」
隣のナミさんと目を合わせる。青海人9人…ぴったし私達と同じ人数だ。それにあの時の老婆の言葉…色々裏がありそうだとは思ったけど…まさか本当にそんな事になってるなんて…。
「たった9人とは手応えがない」
「首9つか、割り切れんな“4”では」
…どう聞いても友好的な話じゃないね。
それにあの雷も気になる…あんなの、規模が大きすぎて流石にどうしようもないよ。
「……戻ろう、ナミさん」
ボソッとナミさんの耳元で呟く。
ナミさんは少し顔を赤く染めてコクリと頷いた。
…いや、そういう反応はむらむらするからやめて、確かに私も急に耳元で囁かれたらそうなるけど…!