「ルフィ、イリス!あそこ!」
「了解!!」
「間違いねェな!!」
「うん!あの穴だよ!」
アイサちゃんのいう洞窟に入る。
私とルフィは地面を走り、アイサちゃんは馬になったピエールに乗ってついてきていた。
「…!あれは…」
洞窟に入って少し奥へ進めば、かなり広い空間に出た。
自然に出来た穴と言うより…
「…でっけェ船だな」
「そうだね…プロペラとかついてるし、飛行船じゃない?」
神って大きく書かれてるし、船の中央には大きな金ピカ地蔵の顔の意匠を凝らしている。
「…そんで、さっきぶりだね、自称神サマ。このダッサイ船はなに?」
船端に立って私達を見下ろすエネルを見据えて不適に笑う。
奴は不機嫌さを隠す事なく言った。
「ーーー実に不愉快、私の“予言”は外れだったと言うわけか…」
「いい歳して予言だの神だの恥ずかしくないの??…アイサちゃん、ピエール……下がってて」
「う、うん」
「ピエ」
1人と1羽が岩陰に隠れたのを確認してエネルをキッと睨む。
「お前か、エネルって奴は。…お前何やってんだ、おれの仲間によ」
「?
「お前のどこが神なんだ!」
「ルフィ、先行くよ…早く
フッ…と私の姿が消える。
ルフィはギョ、と目を見開きエネルも軽く眉を潜めた。
「(青海の娘…何やらさっきと風貌が違うようだが…どこに消えた…?)」
「下だよ」
「…っ!!?」
「
ゴォオ!!と目にも留まらぬ拳がエネルの腹を貫く。
…文字通り貫いてる訳だが、奴に攻撃ができたわけではない。ただその拳の衝撃波だけで後方の岩壁にクレーターが出来上がった。
「……なるほど、貴様もただの人間ではないらしい。その見た目の変化が鍵か…?だが、所詮
ぴた、とエネルの手の平が私の頭に当たる。
「貴様は電撃の耐性も多少はあったな。なら…1億V…
「イリス!!」
ルフィが腕を伸ばして船を登ってきた。
私はエネルの電撃に打たれながらそれを涼しい顔で見る。
「…なに?…出力を間違えたか…!ならば…
「!!」
これは、一番最初にナミさんと
それが私を呑み込み、そして私の後ろから向かってきていたルフィをも巻き込んで壁に激突して大穴を開けた。
「眩しいなぁ…そうだ、眩しさに対する耐性でも上げておこう」
「?」
壁が破壊される程の密度を誇る雷光線の中だけど、私とルフィは普段通りに存在していた。
私はちょっとピリっとする感じだが、ルフィに関してはノーダメージかも。何やってんだこいつ、みたいに首傾げてるし。
「……、上手く避けた様だな……!」
「え?」
いや私はあなたの目の前にいるから避けようが無かったんですが…。
完全に現実から目を背けているエネルが持ってる黄金の棍棒をくるくる回して背中の太鼓を2個ドドンと叩く。
「6000万V…
龍を模した雷が私とルフィを襲う。ていうかいい加減…、
「バリバリうるさい!」
「!!」
エネルの腹に足裏でスタンプする。またも後ろの壁に穴が空いたが…そのくらいの破壊はシャンディアも許してくれるよね!
「………」
バッとエネルが私から距離を取る。そのタイミングでルフィも私の隣へとやってきた。
「何やってんだあいつ、ゴロゴロゴロゴロ…腹でも減ってんのか?」
「あっはっは!言えてるね!…それで?次はどんな雷で来るの?」
エネルを見れば物凄い驚愕の表情を浮かべていた。何だあれ、目玉飛び出て口開いて…顔全体で感情表しすぎでしょ。
…とにかく、ここからどうするかだね。
あ、ルフィが突っ込んでった。
「うおァア!!」
「ッ!!?」
ルフィの蹴りは、幾度となく私の攻撃を無効化してきたエネルの腹に直撃し、すり抜ける事なく確実に捉えた。
その証拠にエネルは口から血を吐き出してよろよろと覚束ない足取りだ。
やっぱりルフィは“ゴム”だから“雷”のエネルに対しては絶対的なアドバンテージを持ってるんだ…!
……、あれ、という事は…。
「ルフィ、ちょっと失礼」
「え、何すんだイリス、おォ!?」
ルフィの両足を手の大きさを倍加して片手で鷲掴みにする。
「何だと言うのだ…貴様ら…!!」
「うちの船長はゴム人間でね、あなたには良く効くでしょ!…行くよ」
「ゴム…?」
棍棒の様にルフィを肩に担いで構える。
これで完成…変幻自在の、予測不能なゴム棍棒の出来上がりだ。ふざけた見た目だけど奴に対しては効果抜群だろう。
これで奴を殴ってもルフィはゴムだから彼自身にダメージが入る事はない。
「
「っ!」
一瞬で奴の目の前に移動してルフィを振りかぶる。
「
「遅い!!
「ぐほォ!?」
とてつもない勢いで叩きつけられたルフィの顔がエネルにぶち当たり、この洞窟端の壁にめり込ませて人型の穴を作り上げた。
「イリス…痛くはねェけどよ、なんかコレおかしくねェか」
「ううん、かっこいいよルフィ、変幻自在の武器なんてロマンでしょ?」
「変幻自在〜!?何だそれよくわかんねェけどいいな!」
チョロイ。
「…MAX2億V、
「ん?」
いつの間にか船に戻ってきていたエネルが、中央に設置され、船と繋がっている2つの黄金の玉に両手を置き電撃を流す。
流石雷の速度…結構速いね。
「…ヤハハ、見ろ、浮くぞ…私を
「へぇ…やっぱりこれって飛行船だったんだ」
「なんだ!?船が飛ぶのか!?」
最初に見た時も言ったけど、プロペラ付いてるし飛びそうな雰囲気だったから…飛行船だって言われても驚かないよね。
「ヤハハハハハ!!…この方舟の究極の機能への回路が既に開き作動している。名を「デスピア」…“絶望”という名のこの世の救済者だ!!」
…、船上に取り付けられてる煙突みたいなものから煙が上がってる…いや、煙じゃないな…。
「雷雲…?」
「ヤッハハ…!そうさ、雷雲だ。私のエネルギーによって“デスピア"は極めて激しい気流を含む“雷雲”を排出する!やがて雲はエネルギーを増幅させながらスカイピア全土を闇と共に包み込む…それらは私の合図で何10本もの雷となり、この国の全てを破壊する!!例えば…」
バリッとエネルの体から電撃が走り、空の雷雲へと向かっていく。
その電撃が雲へ到達した時、エンジェルビーチのある方角から大きな落雷の音が鳴り響いた。
…こいつ、エンジェル島を攻撃したの…!?
「ヤハハハ…なに、天使達を少しからかってやったのだ」
「神なら何でも奪っていいのか!?」
「そうだ。“命”も“大地”もな」
ルフィの怒声に涼しげな顔で答えるエネル。
…この雷雲が広がれば広がるほど、こいつの射程圏内も増える…。つまり、あの雷をどこにでも落とせるようになるって訳だ。
「貴様はなかなかやるみたいだが…所詮青海人…所詮人間!神に敵う道理などな……っごふ!」
ルフィを振り回してエネルにぶち当てる。
「ごちゃごちゃとうるさいな…神?人間?天使?…何だっていいよ、神に敵う道理も、この“空”を守る理由も…私にとっては同じものなんだから」
「…っ、ぐゥ…!なんの、これしき…!」
コツコツとエネルの前に歩いていく。
蹲って息を荒らげてる奴の頭にルフィを振り下ろして船に顔を沈めさせた。
「お前がいると嫁達が危ない…だから私はお前に勝てるんだよ」
「…くっ!」
ボコッと顔を抜いて雷の速度で距離を取るエネル。その顔には焦りがわかりやすく表れていた。
「貴様のその力は……、いや、所詮私へ攻撃が出来るのもあの青海人のゴムとやらで…」
エネルの持つ棒がバチバチと光り、その棒がまるで三叉の槍のように精錬されていく。
「形ある雷だと思え!」
「…!くそ、刃物の類か…!ルフィ、一旦武器モードは解除しよう!」
「おう!おーし、やっと動けるぞ!…っと!」
エネルが突き出してきた槍を足で払い除けるルフィだが、その槍に触れた瞬間ジュッと焼ける音がした。
「んあぢぃ!?」
「ヤハハハ!高電熱スピアだ!」
ルフィ…ゴムに対して熱や斬撃が有効だと気付いたエネルが標的をルフィに定めて攻撃を繰り返す。
「あちち!」
「おっと!」
そのままルフィを貫こうとした槍を片手で鷲掴みにして押さえる。
高電熱がなんだ、今の私には効かない。
「何…!?」
「ゴムゴムのバズーカ!!!」
「……グフッ!!」
その一瞬の隙を突かれて、エネルはルフィの攻撃で後方へ転がっていく。
「ゴムゴムの…、
腕を捻って捻ってして伸ばし、その回転の勢いも合わさった強烈な拳が起き上がる前のエネルに刺さって更に奥へと飛ばした。
「…ゴハッ…、ハァ…ハァ…、バカめ…、これ、…これしき、…ゲホ!ハァ…ハァ…!貴様らさえいなくなれば…私の天下なのだ。再び…誰もが私に怯え…崇め!奉る…!!貴様らなどが、私に敵うものか!!不可能などありはしない、我は全能なる神である!!」
「何が全能…全能なら、もっとこの国の人を笑わせてみせろ!」
「…ヤハハハ、所詮そこのゴム人間がいなければ手も足も出ない小娘が言うじゃあないか…!見てろ…墜つ島の絶望……もう誰にも止められん……っ!!」
「やめろ!!」
ルフィがエネルに腕を伸ばして殴りかかる。
エネルは後ろにある金の壁に触れ、熱でドロ…と溶かしたものをルフィの腕に巻きつけた。
「
「…!!あ、あぢィ〜〜っ!!!」
巻きついた金は丸く巨大な塊となり、ルフィの右腕にはかなり大きく重い物体がついてしまった。
「青海のゴム人間…貴様さえ封じてしまえば…小娘のパワーやスピードなどは何の意味もない…!」
「ルフィ!」
金塊を船外まで蹴られたルフィがその重さに引っ張られて落ちそうになる。く…困ったな、ルフィがいないと攻撃の手段が…!
「このォ…!外れろ!外せこの!」
「く、…!」
私の力なら、金塊ルフィでも問題なく振り回せる…だけど無闇矢鱈に振り回しても電熱や斬撃で逆にルフィが傷付く可能性が出てきたから…くそ、エネル…神だと自分でいうだけの厄介さはある…!
だけどルフィが居なくなればどうしようもない…!何とか引き上げないと…。
「っ…」
「それを私がただ見ているとでも思ったか?」
ルフィを引き上げようとした時、エネルが私をルフィごと船外に蹴り飛ばした。
空を飛ぶ船から落とされるって事は…戻るのが難しくなるじゃん…!
「伸びろ!!」
腕を伸ばして船にしがみつく。
後はこのまま元の長さまで戻せばいいだけだが、それは大きな隙があったらの話だ。
当然のようにエネルに手を蹴られて、私とルフィはそのまま下へと落ちていく。
「ルフィ!イリス!」
「アイサちゃん!」
ピエールに乗ってアイサちゃんが近づいてきた。
そうか…船が地から離れる衝撃で地面が崩れたからピエールと避難してたのか…!
「イリス!雷が来るぞ!!」
「追い討ちか!抜かりないね…!」
あれは、
「50倍…!」
手の平を高く上に翳して、大きさを50倍にする。
これでアイサちゃん達もルフィも守れる筈だ。
直後に降ってきた雷が私の巨大な手の平の上に落ちて、そこから全身に駆け巡る。
とはいえ奴の攻撃は私には効かないから耐えるのは容易く、
「よっ!」
「ぶへ!」
すた、と着地する。あの高さから落ちてきてもダメージないって…やっぱりこの状態はかなり強化されてるのか…。
ルフィは顔から地面に刺さってブリッジしてるみたいになってたので引っ張って救出した。
「アイサちゃん、ピエールも怪我ない?」
「大丈夫!」
「ピエ!」
「よし、それなら…とにかくナミさん達がいた所へ戻ろう!あそこにあった巨大蔓を登って船に行く!それでいい?」
「おう、こんな金玉がついたところで…おれを止められると思うなよ!」
金玉言うな。
そうして私達はさっきの遺跡へと戻ったのだが、ルフィが重そうにしていた金塊をひょい、と持ち上げて走る私を見てちょっと複雑そうな顔をしていた。…珍しい顔だね。
「…あれ、ナミさん達は!?」
遺跡へと辿り着けば、そこにナミさん達の姿はなかった。
「多分もう上に登ったんだよ!」
「そうか、ロビンか。よし行こう」
巨大蔓を利用して上の階へ運んでくれたんだね…頼りになるなぁロビンは!
…あの船…ぐんぐん上へ飛んでってるからね…急がないと!
「…イリス、ルフィ…!」
「アイサちゃん?………!」
走り出そうとした私達を呼び止めて、アイサちゃんが俯かせてた顔を上げる。
その顔は涙に塗れ、悲しげに瞳を揺らしていた。
「空島…失くなるの…!?」
アイサちゃん…いや、今この空に住むシャンディアの民…空島の住民の居場所がここ“空島”の筈だ。
失くなるなんて考えたくない筈だし、アイサちゃんはまだ子供なんだ…シャンディアと空の民のいざこざなんかより、もっと大事な事を本能で分かっている。
「……、空島が失くなる?…あり得ないよ。だってアイサちゃん…私が、ルフィが居るんだよ」
「!」
アイサちゃんの涙に、“空”の想いにルフィの顔つきが変わってるんだ。
「…絶対に救うよ、何もかも。未来の私の嫁がさ…悲しそうに泣いちゃダメだよ」
ね、と頭を撫でながら言えば、アイサちゃんはほんのりと頰を染めて頷いた。
「……って誰が嫁だ!!」
そんな叫びはスルーしてルフィと蔓まで走る。
アイサちゃんはピエールがいるから問題ないだろう。
「……終わりにするよ、ルフィ!!」
「当たり前だ!!」
蔓を煙だてて登りながらルフィと頷き合った。
…もう、落とされない、次は奴を確実に倒す!!!