「追いついた…!」
全力で追いかけていたからか、この島が平坦過ぎるからか、フォクシーの姿を確認するのにそう時間は掛からなかった。
その頃にはナミさん達もゴールの手前で、このまま行けば間違いなく勝てる。
…でも、わざわざナミさん達の乗るボートと並走して陸を走るフォクシーと大男が気になる…。何か仕掛けてくるのは間違いない。なら…。
「おい!てめェら!よくもここまで手こずらせてくれたな!!“ノロノロビ”」
「させるかァ!!
「なぬッ!!?ぐへェッ!!!?」
ナミさん達を見ていたフォクシーの後ろから拳をお見舞いする。卑怯だなんだと言われようが…こいつよりはマシだと思う、うん。
『ゴーーーーーーーッッル!!!!なんとデービーバックファイト1回戦、「ドーナツレース」を制したのは!!!まさかまさかの継ぎ接ぎイカダ、タルタル号〜〜〜!!!!』
「てめェ女好きー!卑怯だぞーー!!」
「オヤビンの邪魔をするんじゃねェ!!」
「はーーっはっは!!負け犬が何か吠えてるなぁ…!ん〜??」
私の素敵な嫁達に危害を加えようとした時点であなた達の敗けは決まってたから!!ざーんねーん!!
「ぐふゥ…!て、てめェ女好き…!よくもやってくれたな…!」
「はん、ナミさん達に何しようとしてたのかは知らないけど、どうせ下らない事だったんでしょ」
「下らないとはなんだ!おれのノロノロビームは当たれば最強なんだぜ!」
「はいはい、当たればね」
クロコダイルやエネルみたいな、そもそも避けようがないって攻撃じゃない時点でいくらでも対策は打てるっての。
…でもこの人も能力者なんだ、なんか意外だ…。
「イリス、何話してるの?」
「あ、ナミさん!ミキータ、ロビンも!お疲れ様ー!」
「キャハハ!余裕だったわ!ねぇロビン?」
「えぇ、ミス・バレンタイン」
「………」
勝ったけど別の理由でがくりと項垂れるミキータ。そんな彼女を見てクスクス笑っているロビンを見る限りでは…ミキータの反応を面白がっているようにも見える。
「丁度いい…!てめェらもよーーく見とけ!ノロノロビームの恐ろしさ…!!聞くよりも見ろこの威力!!ハンバーグ!」
「ヘエ!」
奴が隣に佇む大男に声をかければ、その男はフォクシーから少しだけ離れ、何の躊躇いもなくフォクシーにバズーカを撃った。
「“ノロノロビ〜〜〜ム”!!!!」
「おお」
フォクシーの指先から放たれた円錐の様に広がるその光線に、ハンバーグの放った砲弾が当たる。
するとその光を浴びた砲弾が言葉通りノロノロした動きになり、宙でゆっくりと動いていた。
「フェッフェッ…見たか!光を浴びた全てのものが減速する。この原因はノロマ光子…この世に存在するまだまだ未知の粒子だ!この光を受けたものは生物でも液体でも気体でも…!他の全てのエネルギーを残したまま物理的に一定の“速度”を失う!おれはノロノロの実を食ってそいつを体から発せられるノロマ人間になったのだ!!フェッフェッ……ぐふェ!!!?」
「オヤビーーーン!!!?」
ノロくなっている筈の砲弾の速度が元に戻ったのか、かなりの勢いでフォクシーに直撃した。すっごい音したけど…大丈夫?…って、心配するのはおかしいか。
「…ご、ごのどおり…、約30秒経てばその後に速度を取り戻す…!フェッフェッ…」
「でも負けたじゃん」
「……そうだけど…」
ガクン、と膝を突いて落ち込むフォクシー。
まぁどうでもいいけど、勝ったんだから何かしら指名しなきゃいけないんだよね…。
『第1回戦決着〜!持ってけドロボー!!誰を指名するんだー!?私か!?』
いらん。
という事なので、ルフィ達の元へ戻ってどうするか話し合う。
ぶっちゃけ、向こうの船員で欲しい人なんていないもんね。ポルチェちゃんくらいか…でも指名して来てもらうのはなんか違うよね。ギスギスしそうだし。
「人は要らないからお金が欲しいね、食糧とか」
「それが一番良いけど…ルール的にはどうなの?」
『ダメだよ〜!デービーバックファイトはあくまでも人取り合戦っ!!物取りじゃないからね〜!!』
ナミさんの質問に実況のなんたらって人が答える。物で唯一取れるのは旗ってことか…。
「ルフィは?誰かビビっとくる船員いる?」
「いや、いねェ」
ビビっととか言ったらビビに会いたくなってきた。震える。
キャプテンであるルフィが要らないと言っちゃったので、私達は指名無しにした。つまり何も要らないということである。…ルフィ、こういう時の嗅覚は流石だね…。
***
「…さて、2回戦は私達だね。…ゾロとサンジか、寝てても大丈夫そう」
「アホかてめェは」
「あまりレディに負担はかけさせれねェ、俺に任しとけ」
準備に時間はそう掛からないとの事で、その通り待つ事数分…私達は海岸近くの草原に集められていた。
天然の芝生のように平坦で広いそこに、サッカーのようなフィールドが白線で描かれている。
互いのフィールドの端には大きな浮き輪がぽつんと置かれており、中央は自陣敵陣を分ける為の白線が引かれて、各陣地の中央にも白線で円形が引かれていた。
『準備が完了した所で、「グロッキーリング」のル〜ル説明をするよっ!フィールドがあってゴールが2つ〜〜!!球をリングにブチ込めば勝ち!!』
ゴール…あの浮き輪のことだよね。
『ただし!“球”はボールじゃないよ!人間!!両チームまずは球になる人間を決めてくれっ!!』
ああ、そういうルールか!前世ではそんな怪我人続出しそうなルールのスポーツはなかったけど、この世界ならなかなか楽しめそうなスポーツだね!
「球は私で良いよ、この中だと1番身軽だからね」
「いや、イリスちゃんにそんな役を押し付けるくらいなら俺が」
「大丈夫、そんな簡単に運ばれたりなんかしないよ!」
そう言いながら3人でコートに入れば、向こうの船員が私の頭に毱のような球を乗せた帽子を被せた。
なるほど…これで球役を一目で判断させる訳だ。
「みんなーー!似合うーー??」
「キャハハ!キュートよイリスちゃん!」
「あんたはイリスの事となるとほんとイエスマンよね…」
「赤目さんだから、まだ見た目は悪くないわ」
「ロビンまで…。私がおかしいの?」
ぶっちゃけナミさんが正しいと思うよ。もし球役がサンジかゾロならちょっと絵面の違和感がとんでもないことになってそう。
ゴンダバダバ♪ゴンダバダバダ♪
『おっと聞こえてきた、
「でっか…」
訳のわかんない陽気な音楽が流れ出し、奴らの船から相手の3人が姿を現しこの場に降りてくる。
1人はさっきフォクシーと一緒にいた大男で…その後ろにそれより大きな大大男、そしてその後ろにはもっと大きな…というか巨人族程の大きさはある大大大男だ。
『先頭には四足ダッシュの奇人ハンバーグ!!続いて人呼んで“タックルマシーン”ピクルス!!そして再後方には巨人と魚人のハーフ!“
ハンバーガーでも作るの??
『我らの誇るグロッキーリング最強軍団に対するは、1回戦でお邪魔軍団を蹴散らした“暴力コック”サンジ!!そしてその上オヤビンまでぶっ飛ばしやがった“女好きのイリス”!!6000万の賞金首、“海賊狩り”ロロノア・ゾロ!!』
前に並べば更にその大きさが分かる。しかも1番大きなハーフの巨人が球役だった。
「凄いね、相手」
「そう言うのはちったァ焦った表情を浮かべてから言え」
「えへへ…バレちゃったか」
大きいだけの相手なんてどうとでもなる。逆を言えば相手の球役は巨大だからこそ私達がゴールに入れやすいって事でもあるのだ。
そうして審判が駆け寄ってきて、コイントスをする。
ハンバーグがコインの向きを当てた事でフィールドorボールの選択権は相手となり、ハンバーグはそれでボールを選んだ。
『ボールを取ったのは我らがグロッキーモンスターズ!!麦わらチーム“ボールマン”は敵陣のミッドサークルへ!試合中球印を頭につけたボールマンは2人!敵のボールマンを敵陣リングに叩き込めば勝ちだよ〜!!』
ミッドサークルって、あの丸い枠線か。
よーし、ボールマンイリス、行きます!!
ふんす、と鼻から息を吐き出して敵陣のミッドサークルに入る。
「おいお前ら、武器は反則だぞ、刀を外せ!」
「え、そうなんだ」
『そう!これは球技!武器を持っちゃゲームにならないよ!!』
腰に下げている小太刀を外してナミさんに渡す。ゾロも同じように外してウソップに預けていた。
まさか遠距離技をこんな所で封じられるなんて思ってなかったけど…ルールなら仕方ないよね。
『さァさァまったなし!!麦わらチーム“ボールマン”イリスが敵陣サークルについたよ!』
「ビックパン、速攻でぶっ潰して行くど!!」
「…………。は?」
「ぷーっ!!ぷぷぷぷぷぷ、聞こえてねェ!」
「いや…イヒヒヒヒ、いや…お前、イヒヒ…聞けよっ!イヒヒヒヒ!!」
「ぶしし!!ぶしししししし!!!あァ……え?」
「ぷー!!ぷぷぷぷぷ!!」
なんだこいつら、楽しそうだなぁ。
『いつも勝手に楽しそうだ、グロッキーモンスターズ!!さァこの楽しい勢いで〜〜!!!時間は無制限!1点勝負!!』
要するに敵のビックパンとかいう魚巨人を敵陣のリングにブチ込んだら勝ちって事でしょ。
『まさかの1回戦、何も指名しなかった麦わらチームがもう1度勝つか!はたまたやり返して
ピ〜〜〜〜〜〜ッ!!!
『試合開始〜〜〜〜っ!!!!』
その合図と同時に大いに観客が盛り上がる。
じゃ、始めますかっ!!
「やるどーー!!!」
「おっと!」
開始直後に肩をぶつけるようにタックルしてきたタックルマシーンことピクルスの肩を、衝突する前に片足を上げて足裏で受け止める。
『1億の首は伊達じゃ無い!!女好きイリス、ピクルスのタックルを難なく受け止めたーー!!!』
「
「ふべっ!?」
肩を弾き返して、体勢が崩れた所を狙って顔面に強烈な一筋の軌跡を残す蹴りを放った。それは狙った箇所に違うことなく直撃し、ピクルスを1発で昏倒させる事に成功した。
『なぬーーー!!?なんとピクルス、女好きの1撃で軽くKO〜〜!!!』
「サンジ!ゾロ!上がって!!!一気に攻めよう!」
「任せろ!
「ぷぼォっ!?」
行く手を邪魔するハンバーグも軽く蹴散らし、早くも残るはビックパンだけとなった。
…いやぁ、こうなっちゃえば負ける気しないね。
「無刀流…!
「うお…!?」
荒れ狂う暴風をその身一つで発生させたゾロが、それをビックパンにぶつけて体をグラつかせる。
刀無しでなんでそういう事が出来るのかなぁ、本当に人間?
「サンジ!ゾロ!私をお願い!!」
「指示が適当なんだよてめェは!」
「ごちゃごちゃぬかすなマリモヘッド!ここはイリスちゃんに従っておけ!」
サンジの足とゾロの腕に乗る。ビックパンは大きいからね、勢いで倒さないと!!
「後は頼んだぜイリスちゃん!
「下手こくんじゃねェぞ!
「了解!!!」
『女好きイリス、飛んだーーー!!!!コックのサンジ!海賊狩りのゾロ!2人の合わせ技が奴をビックパンのもとへ誘うぞー!!』
「ぶし!そう簡単に…!」
「いーや、簡単に終わらせて貰うよ!!
大きく手の平を広げてビックパンの顔に手を置く。見るがいい!華麗な私のダンクを!!
「
置いた手の平がビックパンの顔を鷲掴みできる程大きくなり、アイアンクローを決めて押し倒して行く。
倒れる位置にはリングがあり、思いっきりその中へビックパンの頭を叩き込んだ。
「よし、勝ちっ!」
強く打ちすぎたせいか気絶して起き上がってこないビックパンを放って、ぱんぱんと手を払いゾロとサンジの元へ戻る。
『………、はっ!!?まてまさか、まさかまさかまさか!!?グロッキーモンスターズ…何も出来ずに2回戦敗北〜〜〜ッ!!!そして麦わらチームの勝利だ〜〜!!!なんだこの速さは!!無敵のグロッキーモンスターズを瞬殺したァ〜〜〜ッ!!!』
無敵とか言うほど強く無かったけどね。ハンバーガー要素は名前だけなの?
「審判、笛は?」
「は?え?」
「私達勝ったから。笛」
親指で倒れ込むビックパンを指して言うと、審判は分かりやすく顔を青くさせて高らかに笛を吹いてくれた。
これで正式に私達の勝利が決まった訳だね!
『デービーバックファイト2回戦!無敵のグロッキーモンスターズを無傷で下し!!ゲームを制したのはこいつら!!!麦わらチ〜〜ム!!大勝利〜〜っ!!!』
圧倒的勝利に対する大歓声を浴びながら、私達はナミさん達の元へと戻ったのだった。
次でラストか…ま、ルフィだし何とかしてくれるよね。
イリスが入る事によって、上手くサンジとゾロの相性の悪さを中和し速攻勝利した訳ですね。ちょろい。