あの後ルフィとウソップ、それからチョッパーに連れられて島の中へと歩いて行った私達は、そこにぽつんと建っているドーム状の家を見つけた。
その近くには綺麗な毛並みの大きな馬と小さなおじさんが生茂る草の上に座って楽しげに話していて、ルフィ達を見つけるなり手を振って出迎えてくれた。
「ブッ飛ばしてきた!」
ルフィが奪ったフォクシーの旗をおじさんに見せて、ニッと笑う。
何かあったのかな?
「……、随分ケガしてる」
「こんなのいつもだ」
そう言ってまた笑うルフィに、おじさんも笑顔でお礼を言い馬も嬉しそうに鳴いたのだった…。
「…その綺麗な馬、ケガしてるっぽいけど…まさか」
「ああ、それがーーーー」
ウソップによれば、フォクシーが馬…シェリーを撃った事に怒ったルフィが決闘を受けたのだと言う。
そもそもそんな事になった理由として、このトンジットと言うおじさんの身の上話を聞かされたのだが…それが何とも壮絶な話だったのだ。
トンジットは竹馬が好きで、生き物も植物も何もかもが長いこの島の竹を使って世界一長い竹馬に挑戦したところ、登ったはいいが恐くて降りられなくなってしまったという。
なんとしかもその期間10年……凄い気が遠くなる話だ。
まぁ、それだけならただの超人話なのだが…彼にとって問題なのはそこではなく、その10年の間に自分の村が移動していた事が問題だった。
と言うのも彼等は遊牧民である為に移住を繰り返しているのだ。この島は長いリング状の島だが、普段は海によって10の島に区切られている。凹凸があり凸部分が島となるって訳だ。
年に1度だけ大きく潮が引く日があり、彼等はそこを狙って3年に1度島から島へと移住する。
つまり…1つの島に3年ならここへ帰ってくるのは大体30年後。トンジットが竹馬に乗っていた年月を引いても後20年は仲間に会えないのだ
「成程ね、それで決闘を受けたの」
ウソップの言葉に納得して頷くナミさん。
でもあれだよね、ルフィならこの馬が撃たれてなくても決闘受けてそう。
「キャハ、その移動したっていう村へ私達が連れて行ってあげられないのかしら?」
「それがよ、10の島はそもそも繋がった1つの島だから
「いいんだ、そこまでやって貰う事はねェ…俺達は気が長ェから大丈夫だ。それより…そうか、これがお前らの仲間か。せっかく来たんだ…ウチへ入れ、もてなそう」
そう言って玄関まで歩いて行くトンジットだったが、扉の前で何かにぶつかって止まる。
何だ…?え、人じゃん……でか…。
「ぐごー…」
「え、寝てるの…?」
「寝てるわね…」
立ちながら寝るって器用だな…。ていうかこれ人だったのか、全く動かないから大きいし木だと思ってた…。
「…、んん!!?何だお前ら」
「「おめェが何だ!!」」
その男は騒がしさからか目を覚まし、付けていたアイマスクを外す。
……すっっごく見た事ある。前世かな?
「…ぇ」
「っ!ロビン!?」
男の顔を見た途端、急にロビンの顔色が悪くなって尻餅をついた。
顔色どうこう以前に…震えてる…?この男に怯えてるの…?
「ハァ…ハァ…!…え!?」
「どうしたのロビン!こいつと知り合い!?」
「……あららら、コリャ、いい女になったな……ニコ・ロビン」
「…私の、嫁ですけど?」
すっとロビンの前に立ち構える。
ルフィもすぐ動ける様にし、サンジは腰を落とし、ゾロは刀に手を掛け、ウソップはパチンコを構えた。
「……あららら、まーまーそう殺気立つなよ嬢ちゃんと兄ちゃん達…。別に指令を受けて来たんじゃねえんだ。天気がいいんでちょっと散歩がてら…」
「指令だと!!?何の組織だ!!」
ゾロも額から汗を流しながら問う。
だけどその問いには男ではなく、ロビンがぽつりと答えた。
「…海兵よ。海軍本部“大将”青キジ」
「「大将!!!??」」
う、嘘でしょ…!?大将って言ったら…えーっと、んーっと……、ま、まぁすっごく偉いじゃん!!もしかしてこの人の顔見たことあるって前世じゃなくて新聞とか何か!!?
「た、大将っておめェ…ど…どんだけ偉い奴だよ」
「海軍の中でも、“大将”の肩書きを持つ将校はわずか3人……!!“赤犬”・“青雉”・“黄猿”…!!その上には海軍トップ…センゴク元帥が君臨するだけ…。世界政府の“最高戦力”と呼ばれる3人の内の1人が…その男よ…!!」
「な、何でそんなお偉いさんがこんな所に…!!?」
「あららら、こっちにも悩殺ねーちゃん、スーパーボイン!今夜ヒマ?」
「ちょっと待てコラ。お偉いさんだか何だか知らないけど私の女口説くとはいい度胸してるね!!!」
ナミさんとミキータに声をかける青キジとやらに詰め寄る。
大将だからなんだ!!私の嫁はやらん!!
「ちょっと待ちなさいお前ら。全く…そっちこそ話を聞いてたのか?俺ァ散歩に来ただけだっつってんじゃないの、カッカするな。だいたいお前らアレだよ、ホラ…!……忘れた、もういいや」
「話の内容グダグダかお前っ!!」
「それに私がカッカしてるのはあなたが散歩に来たことと関係ないから!!」
まぁ?ナミさん達は美人だから?そりゃ口説きたくなる気持ちは分かるけど??
「何なんだコイツ…!おいロビン!人違いじゃねェのか!!こんな奴が海軍の“大将”な訳がねェ!!」
「オイオイ、そうやって人を見かけで判断するな」
ウソップの言葉に青キジは不服そうに返す。
何?言動はこんなだけど正義感は強いってやつ?
「俺の海兵としてのモットーは「ダラけきった正義」だ」
「「見かけ通りだよ!!!」」
本当に何なんだこの人…。
「…とにかくまァ…。…あァちょっと失礼、立ってんの疲れた…」
よっこらしょ、とその場で抱えていた軍服を枕に横になる青キジ。
…海賊を前にしてここまで無防備になるなんて…こりゃ、本当に大将かも…。
「そんでまあ、早ェ話お前らをとっ捕まえる気はねェから安心しろ。アラバスタ事後消えたニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ。予想通りお前達と一緒にいた」
「私の嫁となってね!」
ロビンはまだ嫁じゃないけどね…。くそ!どうしてなってくれないのか!!
「本部に報告くらいはしようと思う。賞金首が1人加わったら
「しろよ計算」
「ゴムゴムのォォ!!!」
何でルフィはいきなり青キジに殴りかかってるの!?
いきなり過ぎて驚いたけど、何とかウソップとサンジが奇行を止めた。
「離せ!何だよお前ら!!ロビンが連れてかれるんだぞ!!」
「いやだから、何もしねェって言ってるじゃねェか…」
「ていうかちょっと落ち着いて!」
尚も暴れ続けるルフィの腹にとりあえず右ストレート!
ぶへっ、と声を上げたルフィが何すんだ、と不満げに見下ろしてくる。
「だから、この人はただの散歩でここに来ただけだってば。私達にどうこうする気がないのならこっちから喧嘩をフッかける必要ないでしょ?」
「なんだ、散歩か!じゃあこんなとこ通るなお前!あっちいけ!!」
「めちゃくちゃじゃないっすか…」
青キジも軽く引いてるし…ルフィは走り出したら止まらないからなぁ。
「…じゃあ、わかった…。帰るがその前に…さっき寝ながら聞いてたんだ。…あんた」
「ん?」
トンジットを指差す青キジ。さっきって、仲間とはぐれたって話だよね?
「俺は睡眠が浅くてね、話は大方頭に入ってる。すぐに移住の準備をしなさい」
「おいおっさん!こんな奴の言う事聞く事ねェぞ!!こいつは海兵なんだ!!!」
「………」
「………」
数秒間見つめ合うルフィとトンジット。
トンジットは訳が分からないって顔をしていて、ルフィも何か自分がおかしな事を言った自覚はあるようだ。
「いーんじゃねェのか?」
「いーーんだそうだよ、いーーんだ。普通海兵が味方でおれ達の方が悪者だよ、あっはっは!!」
普通はそうだよね。
ルフィって本家イメージ通りの海賊って感じじゃないから、海賊=悪って認識が薄れちゃうよ。こんな事ルフィに言ったら機嫌悪くなりそうだから言わないけど。
「要するに…留守中に移住しちまった村を追いかけて3つ先の島へ行きたい。引き潮を待ち馬で移動したいが、その馬が足にケガを負っちまったってんだろ、違うか?」
「そ、それがわかってんなら今は移住なんてできねェのわかるだろ」
「大丈夫だ」
ウソップに返事する青キジの言葉は強気だけど、如何せん態度がダラけ過ぎてて説得力がない…。
「本当に大丈夫なの?」
「……確かに、その男なら…それが出来るわ」
「?」
未だに尻餅をついて動く事の出来ないロビンが、震えながらもそう言葉を繋ぐ。
…この男、態度は軽いけど…ロビンの状態を見る限りだと相当ヤバい奴なんだろうね。
「…よし、わかったよ。じゃあトンジット、荷物用意してね」
「あァ」
「それが終われば海岸に行く。年に1度引き潮で道が出来るって言ってたろ。そこだ」
青キジもよっこらせ、と起き上がり私達と共にトンジットの荷造りを手伝い出した。
ちゃんと働けるんだ……ぶっちゃけまだちょっと疑ってるよ…。
***
「よし、海岸に着いた。たまには労働もいいもんだ」
「ほんとだ、いい気持ちだ!お前なかなか話せるなー!!」
「やめときなよルフィ、一応敵の四天王みたいな奴だよその男は」
トンジットとシェリーの荷造りを終えた私達は、それを例の海岸まで持ってきていた。ちなみにここまで運ぶのは我が嫁、運び屋ミキータの能力のお陰でかなり楽出来たんだけど。
何故か打ち解けているルフィと青キジはもう知らない。コミュ力高すぎてついてけないよ…。
「で?どうすんだ?このままおめェが馬も荷も引っ張って泳ぐのか?」
「んなわけあるか…。少し、離れてろ」
言われるがまま距離を取る私達を背に、青キジは海面近くまで歩いて行って右手の先を海に浸けた。
だがその瞬間、海に大きな影が映ったと思ったと同時に海中から巨大な海王類が現れる。そいつは腹でも空かせているのか一直線に青キジを狙って食いつきに迫った。
「!!!あれは…!?」
「いかんっ!!この辺りの海の主だ!!」
「危ねェぞ!!!」
青キジが何をしようとしているかは知らないけど、このままじゃぱくりと丸呑みコースじゃん!!
「まずい…!!
「ーーーーーー“
私が腕を伸ばして海王類を殴り飛ばそうとした時、それは起きた。
青キジの放った技は迫り来る海王類だろうと関係なく、辺り一面、見渡す限りの大海原を一瞬にして凍結させる。
その規模は計り知れず、急に寒冷地帯に放り込まれたかのような錯覚に陥ってしまう程であり、私はそのあまりの規模、威力に我が目を疑った。
「あ、悪魔の実…!」
「海が、凍った……!!」
「…
こ、れは……とんでもない…ね。
…ロギアってあれでしょ、スモーカーとかクロコダイルとかエネルとか…実体の無い面倒なやつ。
しかもその能力で大将って…まぁ、この海を見ればその実力の程は大体分かるよ。底は、見えないけど…。
「1週間は保つだろ……のんびり歩いて、村に合流するといい…少々冷えるんで……あったかくして行きなさいや…」
「…夢か、これは…。海が、氷の大地になった…!なァシェリー、海を渡れる、みんなに会えるぞ!!」
トンジットは嬉しさと興奮のあまり飛び跳ねて喜んでいる。
そのままのテンションで青キジとルフィ達にお礼を言うと、氷の大地に降りて次の島まで歩いて行った…。
「…まぁ、これで一件落着か。これからどうする?」
「そりゃおめェ、次の島に行って船大工探しだ!凄ェもんも見れたし、ここに来て良かったな!」
「確かに凄かったけど…あれってつまり……ん?」
私はそうでもないが、海が完全に凍ってしまった為にそこから出る冷気で寒いのだろう。みんなして海から離れていけばそこに青キジが胡座をかいて座っていた。
何か考え込むように頭をポリポリ掻いているのが気になる……というか…悪い予感しかしない。
「何というか…じいさんそっくりだな、モンキー・D・ルフィ…奔放というか…掴み所がねェというか……!!」
「…!!…じ…じいちゃん…!?」
「じいさん?」
主人公のおじいちゃん…?しかもルフィそっくりか……ルフィのこの反応を見るに、出来ればお会いしたくない所ではあるが…。
「お前のじいさんにゃあ…俺も昔
チラリと私を見る青キジから視線を逸らす。
…何で私を見たの?別に私、大将に目をつけられる事なんてやった覚えないんですけど。
「ーーーやっぱお前ら…今死んどくか」
「……はっ!?」
お前“ら”って…それは勿論、私の嫁も含めてだよね!!?
……大将だか何だか知らないけど…私の嫁を殺そうとするなら…絶対許さない!!