「…誰を、殺すって?」
「………、ふゥ」
意味はないと分かっていながらも、牽制の意味を込めて殺気を放ってみる。
…だけどやっぱり効果なしーーーどころかやれやれ、と首を振られる始末だ。
「政府はまだまだお前達を軽視しているが…細かく素性を辿れば骨のある一味だ。少数とはいえ、これだけ曲者が顔を揃えてくると後々面倒な事になるだろう。初頭の手配に至る経緯、これまでにお前達のやってきた所業の数々、その成長の速度…長く無法者共を相手にしてきたが…末恐ろしく思う……!!」
「…へぇ、そこまで調べてるなら知ってるんじゃない?さっきあなたは、私にとって許されない発言をしたって事にさ」
「まァ…そうだ、お前の言う通り…政府はお前達についてある程度の情報を掴んでいる。特に危険視される原因の
ロビンが危険視の原因…?
だったら何だ、私にはそんな事関係ない!
「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表す物じゃない…政府に及ぼす“危険度”を示す数値でもある。だからこそ、お前は8歳という幼さで賞金首になった」
淡々と語る青キジに今にも飛びかかってしまいそうだが…仮に戦闘になってしまったら間違いなく周りを巻き込む…。この男の能力はそれ程までに強大だ…!
「子供ながらに上手く生きてきたもんだ、裏切っては逃げ延びて…取り入っては利用して…、そのシリの軽さで裏社会を生き延びてきたお前が、次に選んだ
「っ!んだとこのネボスケが!!!ロビンに何の恨みがあるっていうの!?」
「ちょ、ちょっと抑えてイリス!あんたにしてはよく保ったわ!どうどう!」
…危ない…ナミさんが居なきゃ、さっき思ったばかりの戦闘になってしまう所だった…。
すぐ感情的になるのは悪い癖だとは分かってるんだけど…。
「別に恨みはねェよ…因縁があるとすりゃあ、1度取り逃しちまった事くらいか…、昔の話だ。お前達にもその内分かる…厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねェさ。それが証拠に…今日までニコ・ロビンの関わった組織は…ーーーー全て、壊滅している。その女1人を除いて、だ…何故かねえ、ニコ・ロビン」
「簡単な事ほざくな!あんたら海軍がロビンを追うもんだから、逃げるのが得意なロビンだけ海軍から逃げ切れた。ただそれだけの話でしょ!要は立ち回るのが上手いってだけなのによくそこまでロビンが疫病神みたいに言えたね!!!」
「…成る程、上手く一味に馴染んでるな」
ぐ…なんだ、コイツ…!!
「何が言いたいの!?私を捕まえたいのならそうすればいい!!
ロビンが怒り、能力を発動させる。
青キジの体や地面から生えた何本もの腕が奴の体に巻きついていき、身動きを封じた。
…
「あららら…少し喋りが過ぎたかな。残念、もう少し利口な女だと買い被ってた…」
「クラッチ!!!」
ボキッ!と青キジの背骨を折るくらいの勢いで、並の相手なら一撃必殺になる攻撃を喰らわせて奴をコナゴナにした。
……そう、コナゴナにだ。
今度は、こういう系か…!!
「んあァ〜…酷い事するじゃないの…」
「ギャーー!!!」
コナゴナになった“氷”は、徐々に人の形へと変わっていき青キジは無傷でそこに立った。
ウソップじゃないけど…私も叫びたいよ、こんなの。
そして青キジは足元の草を手の平で掴んで引きちぎり、宙へ放り投げてその草に息を吹きかけた。
息すらも冷たいのか、吹きかけられた草は瞬時に氷漬けになり1つの武器と化す。バラバラに散る草を無理矢理氷で繋げているだけの歪な剣ではあるが…舐めてはかかれない。
「アイスサーベル。…命取る気は無かったが…」
「ロビン!!」
「待て、俺が行く!」
そのままロビンに向かって氷の剣を振り下ろそうとした青キジの攻撃はゾロが刀で応戦して止めてくれた。
「
その隙にサンジが青キジの持つサーベルを蹴り飛ばす。
これで奴は無防備だ!油断は出来ないけど…コナゴナになるんだ、全くダメージを受けない訳でもないのかもしれない!!!
「
「ゴムゴムのォ…!!」
「
「
私とルフィの拳が、もろに青キジの腹へと刺さる。
手応えある…!青キジにはやっぱり実体が…!!
「ぐあァ!!」
「おああっ!!」
「っ…え!?」
青キジにガシ、と掴まれたゾロの腕とサンジの足、それから奴を殴って体に触れている私とルフィの拳から急激に冷気が襲う。
それは瞬く間に広がり、各々触れられた部位が一瞬にして氷漬けになった。
「ッ…く、そ!!」
実体があってもダメージは入ってないじゃんか…!!
単純にタフなのか…それともそういう
「た…大変だ!すぐ手当てしないと、凍傷になったら手足が腐っちゃうぞ!!」
チョッパーが言うなら間違いないんだろうけど…こんな一瞬で凍らせる事が出来るなんて…。そりゃ、あれだけの規模で海を凍らせた時点で既に分かっていた事だけど…!
…ぐ、っ…!冷たいを通り越してすっごく痛い…!引き裂かれるような痛みだ…っ!
「いい仲間に出会ったな…。しかし、
「違う…私はもう……!!」
狼狽えるロビンの隙を突いて、青キジが正面からロビンを抱きしめる。
こいつがただの男なら、ロビンを抱き締めた行為についてはただの変態野郎で説明がつく。…ただこいつはそうじゃない。
抱きしめたって事は、青キジの体がロビンの体に密着してるって事に他ならない…!!マズい…ッ!!!
「ロビンっ!!!」
「私は…っ!!」
急いで青キジに突撃しようにも、腕が凍っていて上手く動かせない…!!でも、そんな事言ってる場合じゃ…!!!
「…!!あ…ロビン…ッ!!!」
ロビンの体全体を徐々に氷が覆っていく。
こんな奴に…ロビンを殺させてたまるか…ァ!!!
「う、おおおおおッ!!!!」
「…ん?」
右手の痛みなど忘れ、青キジへ突撃して蹴り飛ばす。
ダメージなんて無いだろうけどね!
「ロビン…っ!…ぁ…」
「ロビン〜〜ッ!!!!」
だけど、時既に遅く…、ロビンの体は氷で覆い尽くされていた。
嘘…でしょ…?こんな…人間を、氷像みたいに…!
「青キジッ!!!!」
「喚くな…ちゃんと解凍すりゃまだ生きてる。ただし…体は割れ易くなってるんで気を付けろ、割れりゃ死ぬ。例えばこういう風に砕いちまうと…」
「…っ速…っ!!…ッふざ、けるなァ!!!」
凍って固まったロビンに対して、青キジは一瞬で私の前まで移動して非情にも拳を振り上げた。
大将がなんだ…!
「はぁああああッ!!!」
「おっと…!オイオイ…お前さん、それは…」
「イリス!」
凍ったロビンを抱えて青キジの攻撃を避けた時、私の体にまたあの時の変化が発生しているのに気が付いた。
髪の変色、謎の透明なティアラ…。
だけど、好都合だ…!これならまだ、戦える…!!
私は
「みんな!!ロビンを連れて船へ逃げて!!後から追うよ!」
「バカ言わないでイリスちゃん!!だったらみんなで逃げましょう!!」
「…ルフィ!!お願い…!!…一生のお願いだよ」
「……!!」
小さく笑ってルフィを見れば、彼は唇を噛み締めて目を見開いた。
…私だって分かってるんだ。これが…危険な賭けだって事くらい。
だけど、この状態に私がなってしまったんだから…私がやらないとダメだ…!それに、ロビンの借りも返してやりたい…!
「みんなも、ナミさんも、ミキータもお願い!!一騎討ちでやりたいの!」
「…っ、ばか…バカイリス…!こっちの気も知らないでッ!!!!」
ナミさんの悲痛な叫びを背中で受け止める。
だけど、やっぱりナミさんはナミさんだ。私の思いをきちんと受け止めて…船へ逃げてくれた。
ルフィ達も同じく、ナミさんの後を追って船へと帰っていく。
「…ま、そう言う事なんで…、タイマンでよろしく」
「…構わねェが、連行する船がねェんで…殺して行くぞ?」
「やれる物なら…やってみなよ!!」
ダッ!と一気に距離を詰めて青キジの顔面を殴り飛ばす。
…くそ、頭が砕けただけか…!どうせすぐ元通りなんでしょ…!
「確かに…パワー、スピード共にかなりの物だ。その上気付いているのかは分からねェが、“
「何を訳の分からない事を…っ!!」
「お前の体から出てるソイツの事だ、知らず知らずの内にそこまで制御してるなら大したもんだが…どんな力か聞いとくか?」
「うるさい!!」
今度は腹を蹴り後方に飛ばす。
アイツは、私のオーラについて何か知っているのかもしれないけど…私は奴と話す事なんて何も無い…ッ!!
「まあ聞け。お前の“覇気”はこの際置いておくとしてもだ…麦わらの一味で政府が目を付けていたのは何もニコ・ロビンだけじゃあない、お前もだ、女好きのイリス」
「はぁ?」
さっきから攻撃しているというのにまるで効いていない青キジが、緊張感もなく私にそう言った。
「政府はニコ・ロビンに関係したお前達…麦わらの一味の素性を調べ上げた。その中には調べ切れない者も居たようだが…女好き、お前はそうじゃない。
「そりゃね、無人島にずっと居たんだから当然でしょ」
「なら、何故お前には知恵がある?言葉を話せる?政府は不思議に思っているって事だ。…お前に両親が居て、知恵も語学も親に教えて貰ったのだとしたら…その親の情報すら手に入らないってのは不自然だと。正直な所…俺にとってはどうでもいいんだが…上はどうも気にかかるらしい」
…正解は、この世界の人間じゃ無いからです。ってとこなんだけど…。
この世界に両親は居ないし、知恵は生まれた時からあったから…。
「世界政府の情報網がスカスカって事が言いたいの?それこそ私にとってはどうでもいい事だけど…ね!!!」
「おっと…、危ねェな」
「ッ…!」
一気に距離を詰めて殴りかかるが、青キジはそこに拳が来るのが分かっていた様に手の平で受け止める。
しまった…!掴まれたら…!!
「このォ!!」
使える足で蹴りを放つが、当たった所が砕けるだけで直ぐに再生した。…さっきは蹴り飛ばしたり出来たのに…こいつ、遊んでたの…!!?
「1つ、俺から忠告しておこう。…大将としてじゃなく俺個人としてだ、そう警戒すんな。まず…敵う筈のない敵に挑むのは時に勇気と呼ばれる物だが、今回の場合はただ無謀なだけだ。お前の女が言ってた様に共に逃げるべきだったろう」
「それで、逃げ切れるならそうするよ!!」
「ここでお前を殺し、その上で追いかけたとして直ぐに捕捉出来る。それは最初に見せた俺の能力を見たお前なら…分かるだろ?お前は心の何処かで思っていた筈だ……“俺に勝てる”」
「だったら何!?勝つよ…!あなたはロビンを殺そうとした…!!」
腰から小太刀を抜き、私の拳を掴む青キジの腕を斬る。
すぐに再生するだろうが、それでも少し隙が生まれ、その間に青キジの体を空高く蹴り上げた。
私はこの時気付くべきだった。
「…強く想えば、勝てると思っているのが間違っているんだがなァ…世の中にはどうやっても勝てねェ存在ってのが居るもんだ」
「ッ…!!黙れ!!
「人の話はちゃんと聞きなさいよ、今からでも逃げれば…仲間を悲しませずに済んだだろうに」
「な……ッ」
クロコダイルを1発で沈めた私の技は…、エネルに反応する隙も与えなかった私のスピードは…、少しだけ首を傾ける事で躱された。
気付いた時にはもう遅い…、ロビンと同じように、青キジは私を抱き締める。
「アイス…タイム!」
「……!わた、しは……!!負け…」
ない…。
大層な口を開くまでもなく、私は奴の技で氷漬けにされた…。
体だけじゃなく、心までも凍っていくような錯覚に陥る。勝てると思っていた…この力なら…私は…!
………。
……ああ、…私は、ロビンの為に…みんなの為に…あんな奴に、負けたく…無かった、のに……。
…かっこ悪い、なぁ……。
…ごめん、みんな……ナミ、さ……ーーーーーー。