「それで、ウォーターセブンまでの地図ってどんなの?」
「ああ、そうね、確認しなきゃ」
地図を受け取ったのは勿論航海士のナミさんだ。
可愛いナミさんはペラ、とココロさんから貰った地図を広げた。
「…成程」
「キャハハ!凄いわ、地図というよりお絵かきね!」
ミキータの言う通り、地図っぽくはないそれを見て私達は苦笑いを浮かべる。
まぁ…線路沿いに進んでいけばウォーターセブンに辿り着くんだなって事はわかるから…まぁいっか。
「…でも、ようやくメリー号もきちんと直してあげられるね」
「ああ、この継ぎ接ぎも戦いと冒険の思い出だからな、おれァ感慨深くもあるわけだ…」
すりすりとメインマストにしがみついて話すウソップの顔は本当に感慨深そうだった。
何だかんだ言ってもこの船を1番修理してきたのはウソップだもんね、私じゃ上手く出来ないし。
「…ん?おい、アレじゃねェのか」
「アレって?」
「てめェ分かってて言ってんだろ、島が見えたんだ。見てみろ」
双眼鏡を片手にゾロが首をくい、と動かして前を指す。
どれどれ……、おお、……おお!凄い…まさに水の都!って感じ!
「イリス、見えんのか!?」
「ふふん、いつもの視力倍加です!」
「ずりィぞ!よし、みんな漕げ!オール!」
冒険を至上の悦びとしているルフィにドヤ顔で言えば、分かりやすく悔しそうな顔をして地団駄を踏んだ。
だけどそれも一瞬で、直ぐに切り替えて島へいち早く辿り着くことを優先するのは何ともルフィらしい。
そんなルフィの頑張りもあってか、島には思ってたより早く近づく事が出来た。
私は早くから視認出来ていたが、近くに来た事でよりくっきりとその全貌が明らかになる。
「すごい…」
「素敵ね」
水の都、ウォーターセブンは、まさにそう呼ばれるに相応しい…圧巻の一言に尽きるものだった。
島の中央部に聳えるタワーの様に高い噴水から湧き出る水が、島全域に行き渡っているみたいにも見える。そう見えるのは、この島の形自体が中央から外周に向かって低くなっているからだろう。
「でっっけ〜〜噴水だ!!」
「うは〜!こりゃすげー!まさに産業都市!!」
「海列車も走る訳だ」
ジャヤはなんちゃってリゾートだったけど、ここならゆっくり羽が伸ばせそうだね!
水の都デート…いい!!
「正面にあるのが駅ね、ブルーステーションって書いてある」
「港はどこだろ」
「キャハ、多分街の方じゃないかしら?」
確かに、そりゃそうか。
じゃあこのまま港まで向かえば…、
「おーーい!君達!!」
「ん?」
近くで小舟に乗って釣りをしているおじさんに声をかけられる。
何だ?海賊に気安く声かけられるって凄いな、一般の方じゃないの?あ、分かった、海賊って気付いてないんだね。
「海賊が堂々と正面にいちゃマズいぞ、向こうの裏町へ回りなさい!!」
気付いてますやん…。
「…はーい、ありがとう!」
ナミさんも同じ疑問を抱いたのか、少し考えてからおじさんに返事をした。
とはいえ、おじさんの言っている事は正しいから私達は素直に裏へと回る。
確かに…段々と
「裏へ来ても凄いわね、水上都市!」
「町が水浸し!家が海に沈んでるぞ!」
「違うわ、元々沈んだ地盤に造られた町なのよ。家の下の礎を見て」
成程…つまりこの島は人工島なのか。
あの柱を全部破壊したらウォーターセブンは沈む訳だ…。ヤバイ海賊の気まぐれでやられなかったらいいけど。
「よし、じゃあ早く船着けるぞ!」
「コラコラおめェら!ここはダメだ海賊船は。何しにきた?略奪か?」
「えー…」
今度はまた違うおじさんに呼び止められる。
海賊に略奪かって聞く?フツー…。
「違うわ、船を修理したいのよ!」
「それならこの先に岬がある、とりあえずそこに停めるといい!」
「…うん、ありがと!!」
言われるがままにその先の岬へと船を進め、ようやく岩場付近で錨を降ろせる事になった。
じゃ、帆を畳んで早速行っちゃいますか、水の都!
「うおっ!?」
「わー!何やってんだゾロ〜っ!?」
「違…!俺はただロープを引いただけで」
ぐいっ、と帆を畳むためのロープを引っ張った瞬間、その力にすら耐えきれずメインマストが嫌な音をたてて折れ曲がった。
幸い完全に折れてはいないけど…まさかここまでガタが来てるなんて…。
ウソップにびしばし叩かれながらパワーでメインマストを元に戻すゾロを尻目に、ナミさんは腕を組みながら疑問を口にした。
「ところで、島の人達何で海賊を恐れないの?」
「海賊だって“客”だからって事かしら?」
「海賊に暴れられても構わないくらいの強い用心棒がいるとか…」
「いるだろうな、これだけの都市だ」
でも問題ないけどね、私達は客な訳だし。
まぁ…普通なら海賊船なんて直さないと思うけど、産業都市ってくらいだから客は選ばないよね。…ね?
「なら、みんなこれ受け取って!滞在1週間分のお小遣いよ」
「おおーっ!肉!!」
「食材!」
「刀!」
刀は買えないでしょ!
イッポンマツみたいに気前が良い店主なんてそうそういないからね。
「じゃあ、どうする?私はナミさんと一緒に行くけど」
「私も」
「そうね、じゃあ船長のルフィと、あとウソップ、イリス、ミキータと私でアイスバーグという人を探すって事でどう?サンジ君達は自由行動で大丈夫よ、ただし、夜は船に帰ってくる事!ついでに言うならロビンも私達と一緒にどう?」
「私は…、…悪いけど、遠慮しておくわ」
少しだけ考え、軽く笑って断るロビン。
単純に行きたい所でもあるのかな?そもそもここに来るのはロビンも初めてだろうから、考古学者の血が騒いだりとか。
「そっか…残念。でも1週間もあるんだからまたどこかでデートしようね!」
「フフ、ええ」
そうして、私達アイスバーグ探し隊は“水の都”ウォーターセブンへと入るべく船を降り、ロビンに大きく手を振って歩を進める。
ルフィの引く台車には空島で手に入れた黄金がぎっしりと袋に詰めて乗せてあり、まずは換金所を目指す事となった。
理由としては、やっぱり黄金のままだと持ち運びが不便で仕方がないから。私とルフィしか持てない重さなのはちょっとね。ミキータに全部任せる訳にもいかないし。
「あったあった、ここから入れそうだよ」
「ここだけ?」
町と岩場岬を繋ぐのは、たった1本の石橋だけだった。
あるだけ助かるからいいけど、何かあってこの橋壊れたらまた作り直さなくちゃいけないんだからもう1本くらい作ってたら良いのに。
しかもその橋を越えた先の門の上には、何やら謎の看板が貼り付けられていた。
「レンタル“ブル”ショップ?ブルって何だろ」
「知らねェ…ブルドッグか?いや、なわけねェよな」
「入ってみるしか無さそうね、行くわよ」
ナミさんの言葉にみんな頷いて、ルフィを先頭に門を開いて中に入っていく。
いや、建物の中に入ると言うよりは、ここがウォーターセブンの入り口か。
「すいませーん!誰か居ますかー?」
「…ん?ああ、はいはい、ブルだね、何人だい?」
「5人です」
カウンターを挟んで受付のおじさんが新聞を読んでいて、私達が来たと分かれば前まで歩いてくる。
「おお」
思わず声が漏れてしまった。
ここからでも町の様子は見えるのだが、まさに水の都だ。歩道より水路の方が多いからか住人達はみな見た事もない動物に乗って移動している。
…そうか、ブルってあの動物の事か。
「何ブルにしようか。ランクはヤガラ、ラブカ、キング。まァ5人ならヤガラ3匹ってとこでいいね」
「ブルってあの動物だよね?」
「ああ、知らないのかい?」
「初めて来たからね、海列車じゃなくて
やっぱり馬みたいな顔してる動物がブルなのか。
確かにああやって移動しないとこの町では生きていけなさそう。
「ほォ、
「あの魚が船を引いてるの?」
「引くっつーより乗せてんだ、背中に。まー、陸でいう乗馬のような、馬車のような…」
なるほど、小さな首長竜みたいな体型をしているのか。
水上に出ている首は体の一部で、水中には人が座るボートを乗せられるだけの体が隠れているって訳だね。
「そこに生簀があるだろ、まー乗ってみな、快適だ。二人乗りのヤガラブル3匹で3000ベリーだ」
しかもお手頃価格だね。
という訳で早速ヤガラブルに乗り込む。
私はナミさん、ミキータと同じブルに。ウソップは1人、ルフィは黄金と一緒だ。
「そんな大量の黄金のせても大丈夫なの?」
「黄金?わはは!面白いな、何にせよ大丈夫だよ、ブルの力は凄いからな」
そう言うおじさんにルフィは袋を開けて中の黄金を見せる。
「うおーー!!くれ!!」
「やるかっ!」
「キャハ!正直な人ね」
でもこの人の反応が正しいよ…私達もこれだけの黄金を見つけた時はテンション上がったからね。
「いや…驚いたよ。さて、ヤガラブル3匹で150万ベリーだよ」
「値段上がったぞおっさん!!」
ウソップのツッコミが刺さる。
本気で言ってる訳じゃないのはニュアンスで分かるから、このおじさんが良い人なのは今回の事で良くわかったよ。
ただこんな人ばっかな訳ないから、あまり人に見せるのは良くないけど…。
「ねえ、この辺に換金所はある?」
「んー…あるにはあるが、そんな量の黄金だと店に金が無いだろう。造船島の中心街へ行った方がいい」
「じゃ、そこ行こっか!しゅっぱーつ!」
「ああ待て待て!ついでだ、この街の地図をあげるよ」
さっすが、良い人は気前も良いね!
ナミさんがおじさんから地図を受け取り、お金を払ってついにウォーターセブンへと繰り出した。
ちなみに私のポジションは勿論ミキータの膝の上ですね。元々ヤガラブルは2人乗りだから、こうするしかなかったの…!ウソップは1人で乗ってるとか、そんな事は今はどうでもいいの!
「ありがとうおじさん!」
「ああ!まいどあり、気をつけてなァ!」
そのままスーっとブルは抵抗もなく進む。
私達へ揺れは伝わってこないし、速度も遅くなく、そして速すぎないから快適!
「まずは商店街を目指しましょう」
「よーし!行けヤガラ!」
「ニーーっ!」
それから、ものの数分後に商店街へと到着した私達はまたもやその光景に圧倒されていた。
さっきまで通っていたのは住宅街っぽかったから、やっぱり商店街は人の数からして違うや。
ブルもかなり大きめのサイズも居る。あれがキング…だよね?
「ねぇイリスちゃん、何だか仮面付けてる人多くないかしら」
「ああ…確かに。パーティーでもあるのかな?」
この街特有の物かもしれないけど、全員が付けてる訳じゃないからなぁ。仮装の様なものなのかもしれないね。
「ニ〜!!」
「わっ!おい、どこ行くんだ!」
「おいルフィ、どうした!」
突然、ルフィの乗るブルが進路を変えて“水水肉”とやらを専門に売っている店の前から離れなくなった。
肉とあっちゃルフィも黙ってはいられないので、彼らしく豪快に10個程買って戻ってくる。
「ねールフィ、私にも1つ頂戴」
「やだよ、買ってくればいいじゃねェか!」
ぐぐ…肉の事となるとやっぱダメか…。
仕方なしにナミさんにお願いして店の前まで移動してもらった。
ルフィ程ではないが、ブル用に2個余分に購入して合計3個となる。ナミさんとミキータは要らないらしい。…でも美味しそうじゃん、この肉。
「はいブル。乗せてくれてるお礼」
「ニ〜〜っ!!」
倍加で腕を伸ばしてブルの口元まで持っていくと、2個丸々口の中に放り込んでむしゃむしゃ食べ出した。さっきのブルもそうだったけど、どうやらこの種族は水水肉が好物らしいね。
「どれどれ…あーん」
ぱくり、とまずは一口。
水の滴るその肉は、何がどうなっているのかかなりの柔らかさで…口の中に肉の旨味と水が同時に広がる感じだ。
お、美味しい…!すっごく美味しい…!サンジに調理して貰えばとんでもない絶品メニューになるよこれは!!
「美味しい?イリス」
「すっごく美味しい!病みつきになりそう!」
「そう、良かったわね。でもこぼしちゃダメよ、汚れ落ちないんだから」
ナミさん…それじゃお母さんみたいだよ。
ほら!通りすがりの女の人も微笑ましい物を見るような目で見てくるもん!違うから!この美少女は正妻だから!!お母さんじゃなーーーい!!
水水肉って凄く美味しそうだと思いませんか?
これを武器にすれば我々でもクロコダイルと渡り合える可能性がありますよね?実は強武器の可能性も秘めているのです。…はい、冗談です、すみません。