ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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78『女好き、奪われる大金、涙の訴え』

「メリー号が直せねェって!?何でだ!!おめェらすげェ船大工なんじゃねェのかよ!!」

 

「………」

 

「金ならいくらでもあるのに!!」

 

「金は…」

 

ばんばん、とケースを叩くルフィにカクが口を差す。

私とルフィだけじゃない。ナミさんもミキータも…言葉が出ない程信じられない事実だった。

 

「関係ないわい。いくら出そうともうあの船は元には戻らんのじゃ。よくもまァ…あの状態でここへ辿り着けたもんじゃと、むしろ感心する程のもんでな」

 

「…どういう事!?メリー号に何が起こってるの!?」

 

「お前ら、竜骨って分かるか?」

 

同じく近くで座っているパウリーが、タバコの煙をふかしながら何やら聞き慣れない言葉を口にした。

 

「…!船底にある…」

 

ナミさんは知っていたのか、時間を置かずにどの部位なのか当てる。

 

「そう、船首から船尾までを貫き支える、船において最も重要な木材だ。船造りはまず…そいつを据える事から始まり、船首材、船尾材、肋根材…肋骨、肘材、甲板梁…全ての木材をその“竜骨”を中心に緻密に組み上げていく。それが“船”だ」

 

「…まさか」

 

「ほう、ガキのくせに察しが良いじゃねェか。そのまさかだ。船の全骨格の土台、“竜骨”は「船の命」…そいつが酷く損傷したからといって挿げ替えるなんて事ァ出来ねェってわけさ。それじゃあ船を1から造るのと同じ事だからな。ーーーだから、もう誰にも直せねェ。お前らの船はもう、死を待つだけのただの組み木(・・・)だ」

 

…!!

トゲのある言い方に、私の中で沸沸と怒りが込み上げてくる。

…だけど、それが爆発する事はない。何故なら…メリー号の状態は、一流の職人にこうまで言わせるほどだって事なんだから…。

 

「…じゃあ!だったらよ!もう1回、1から船を造ってくれよっ!!ゴーイングメリー号を造ってくれ!!」

 

『それも無理だ、クルッポー』

 

「何で!!」

 

ルフィの言葉に即返答したのは今度はルッチだった。

でもルフィは手を広げてどうしてだと声を張り上げる。

 

()()()なら造ってやれるが、厳密に言って同じ船はもう誰にも造れねェ。この世に全く同じ船は2つと存在し得ねェのさ』

 

「どういう事!?」

 

『世界中に全く同じ成長をする“木”があるか?帆船はほぼ木材で出来ているから、船の大きさも曲線も全て木の形に左右される。同じ設計図を使っても全く同じ船は2度と造れねェのさ。例えばそんな船を造ったとして…それが全く別の船であると最も感じてしまうのは、きっとお前達自身だ。クルッポー』

 

腹話術だか何だか知らないけど、こんな状況でクルッポークルッポー言われると腹が立つな…。

私も、相当気が立っているんだろうか…普段なら、そんな事気にしないのに。

 

「…そんな、じゃあ本当にもうゴーイングメリー号では2度と航海出来ないの!?」

 

「そうなるのう。このまま沈むのを待つか…さっさと解体してしまうかじゃ。言っちゃなんじゃが、船はキャラベルじゃろう。そもそもそんな古い型の船じゃあ、この先の航海も厳しかろう」

 

ちらりとルフィを見れば、彼は視線を固定させたまま何か考え事をしている様だった。

…ウソップがこの場に居なかったのは、良かったのか、悪かったのか…。でもどの道言わなきゃならない事だし…。

 

「……いいや、乗り換える気はねェ!!おれ達の船はゴーイングメリー号だ!!まだまだ修理すれば絶対走れる!大丈夫だ!!今日だって快適に走ってたんだ!なのに急にもう航海できねェなんて信じられるか!!お前ら、あの船がどんだけ頑丈か知らねェからそう言うんだ!!!」

 

「……沈むまで乗りゃあ満足か。呆れたもんだ…てめェ、それでも1船の船長か」

 

「……!!」

 

あくまでもメリー号が良いと叫ぶルフィに向かって、アイスバーグが冷たく、それでも悟す様にそう口にした。

 

「話は一旦終わりだな。よく考えて…船を買う気になったらまた来い、世話してやる。有り金4億出せば最新の船でも何でも造ってやれる。カリファ」

 

「はい。…どうぞご検討を、新型から中古までのカタログです。値段の参考に…」

 

カリファの差し出すカタログはミキータが受け取り、それを伏し目がちにぺらぺらと捲っていくがすぐに溜息をつきながらぱたんと音を立てて閉じた。

 

…まずは、ウソップを見つけて話をしないと…。

 

「…ごめんルフィ、辛い役押し付けちゃって…。とりあえずみんなでウソップ探そう。勝手に決めちゃうのはウソップに悪いよ」

 

「あァ…そうだな」

 

ルフィはいつもよりずっと低いテンションで返事をし、アタッシュケースを持ち上げる。

 

「……ん?」

 

「どうしたの?」

 

ケースを持ってる方の腕を上げたり下げたりするルフィを見て首を傾げる。ははは、やだなぁそんな、中身があるかどうか確認する様な動作はやめてよね!

 

「軽い…」

 

「いやいや、そんな訳ないじゃん!多分ルフィの力が強くなって大金の重みを感じられなくなったんだよきっと!!」

 

慌ててケースを開けて中を確認する。

ほら!どこからどう見ても私達のケースじゃないでしょ!中は空だし、継ぎ接ぎだらけのボロアタッシュケースじゃん!全く…脅かさないでよ…。

 

…………、って…、

 

「ええええええええええーーーーーーッッ!!!!?」

 

「オイ!お前ら何騒いでんだ!!」

 

「パウリー…取った!?」

 

「取るか!!いや、欲しかったけどよ!!」

 

叫ぶ私達の元へ寄ってきたパウリーに聞くが、そりゃそうだ。パウリーはずっと私達の視界に居たんだからあり得ない。

 

「騒がしいな。どうかしたのか」

 

そこへ、また新しい船大工がやってくる。アイスバーグやカクがルルと呼んでいるから名前はルルで間違いなさそうだけど…寝癖とんでもないな。

 

「いや、今はそれより…カクお前、さっきフランキー1家と一緒に居なかったか?」

 

「ん?何言うとる、ワシァ今日はフランキー1家など見かけてもおらんぞ」

 

「?おかしいな…確かにおめェの長ェ鼻(・・・)を確認したんだが」

 

…!!

 

「ちょっと待って!それってもしかして…!」

 

「ウソップだっ!!」

 

「フランキー1家と一緒にいたの!?」

 

カク程の長い鼻なんて早々居るもんじゃないよ!居たとしてもウソップくらいでしょ!!

 

「一緒に居たと言うか、抱えられて連れてかれてたというか」

 

「誘拐じゃないっ!!」

 

しまった…!あいつら、工場内にまで入ってきてウソップごとケースを盗んだのか!!

 

「ルフィ、イリス、ミキータ!急いで探すのよ!!」

 

「おう!」

 

「ってちょっと待ってルフィ!どこ探す気よ!ルフィ〜〜!!」

 

話を最後まで聞く事なく、何処かへ走り去っていくルフィを呼び止める事に失敗するナミさん。

でも大丈夫、犯人は分かってるんだ…!フランキー1家の家が分かればそれでいい!

 

「フランキー1家ってアジトはどこ!?」

 

「アジトというか…解体の作業場はお前らが船を停めてるっていう岩場の岬から、ずっと北東へ行った海岸にある『フランキーハウス』だ」

 

パウリーの言葉が本当なら、まずはヤガラに乗ってブル屋まで戻るのが良いのか!ついでにゾロ達も呼んでこよう…!あのフランキー1家どもめ…誰から金を盗んだのか思い知らせてやる!!

 

そうと決まれば早速行動開始だ。ルフィは放っておいても何とかなるタイプだから探すのは諦めるとして、とりあえず私達の持ってる2億だけでも安全にメリー号へ送り届けるという事になり、3人でヤガラに乗り込む。

 

「行こう!ブル、悪いけどめっちゃ急いで!」

 

「ニーッ!」

 

私の言葉に不満なく頷いたブルが、来た時よりもずっと速いスピードで下町へと下っていく。

途中の水門エレベーターではどうしても往生しなければいけなかったが、それを越えてしまえば後は時間との勝負だ。

あの2億は、使われる訳には行かない…。メリー号を乗り換えるにしても、メリー号を修理するにしても、結局必要な金なんだ!!

 

「…ちょっと待ってイリスちゃん!あそこに人だかりが!!」

 

「でもミキータ!今はそんな事…!」

 

「…!!ダメ、イリス止まって!!」

 

何やら2人の焦った声に急いでブルを停止させ、人だかりに目を向ける。

水路の方が多いウォーターセブンの数少ない陸地で人だかりが出来てるなんて、一体何が…。

 

「……!!!」

 

人だかりは、“何か”を中心に出来ていた。

1番ドックで見た様な黄色い声が飛び交う物とは程遠く、ざわざわと不穏な空気を放つその周辺の真ん中で倒れていたのは…、

 

「ウソップ!!!?」

 

「ッ!!」

 

慌ててヤガラから飛び降り、人だかりを押しのけてウソップの下まで駆け寄って上半身を抱き上げる。

酷い…全身傷だらけじゃんか…っ!

 

「ウソップ!しっかりして!ちょっと…!大丈夫!?ねぇっ!!」

 

「な、なァおい、君達もしや海賊か…?」

 

「うん、騒がせてごめん。でも見せ物じゃないから…何処か行ってくれる?」

 

ギロリと睨めば周りの人達はびくりと肩を跳ねさせて散り散りに去って行った。

別に彼らが悪い訳では無いけど…いつまでもウソップのこんな姿をジロジロ見せる訳にも行かない。それはあまりにも彼が不憫だろう。

 

「ウソップ!やったのはフランキー1家なの!?あいつら!?」

 

ナミさんが呼び掛ければ、弱々しく咳き込みながらもまだ意識がある様だった。

 

「そうだ…。おれが弱ェもんで…大金…全部奪られた…!!…ナミ、イリス、ミキータ…おれ、みんなに、会わせる顔がねェよ!やっとメリーを…!直してやれるハズだったのに……、っ、みんなに、会わせるガオがねェよ!!!…うヴ!!面目ねェ…チギショオ……!」

 

「……っ」

 

…くそ!!くそ!!何が、何が弱いもんで、だよ!!

弱い人が、こんなに傷つく(・・・)か!!本当に弱いっていうのは、動かなきゃ行けない時に動けない人の事を言うんだ…!必死に取り返そうと足掻いて、やられて、それで傷付いたウソップが…弱い…!?

 

「…平気だよ、ウソップ…!お金なら必ず取り返す!!」

 

「イリス…!そうよ、ウソップ!イリスもみんなも居るんだから何も心配はいらないわ!私達は今から急いでチョッパーを呼んでくるから、ここでじっとしててね!」

 

ゆっくりとウソップを移動させて、近くの壁にもたれ掛ける。

そしてすぐに戻る、とウソップに言葉を残して私達は再度ブルへと乗り込んだ。

 

「…まさか、あのバカそうな集団がここまで非道なんてね。…初めて見た時に手足の骨でもへし折っておくべきだったかも」

 

「イリス、遠慮はいらないわ。…好きにやっちゃって!」

 

真剣な顔のナミさんに、私もふざける事なく頷いただけで返した。

 

そこからメリー号へ戻るまでは早かった。ブルに頼んで速度を最高まで上げてもらい、ほとんど暴走と言っても過言では無い速さで水路を渡ってブル屋まで辿り着き、ダッシュで岩場を駆ける。

そうして船まで帰ってきた私達は、早速船にいたゾロ、サンジ、チョッパーに事情を説明する事にした。

…あれ、ロビンは……?…まぁ、彼女の事だ。何処かで情報でも集めてまたふらっと帰ってくるに違いない。

 

 

 

***

 

 

 

「ウソップが!?」

 

「……あいつらか」

 

事の顛末を3人に説明すれば、案の定3人とも表情に怒りを浮かべていた。

チョッパーからは焦りも見て取れる。やはり医者だけあって容態が気になるんだろう。

 

「ウソップの居る場所は私が知ってるから、まずは私と一緒に街まで来て欲しいの!ミキータとナミさんは船に残って2億の管理。…大丈夫?」

 

「平気よイリスちゃん、任せて」

 

「絶対あいつらぶっ飛ばしてきなさいよ、イリス!」

 

事が事なのでゆっくりしている暇もない。

私はゾロ、サンジ、チョッパーを連れてさっき通ってきた道を急いで戻って行くのだった。

 

 

 


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