急ぎウォーターセブンへと入ってさっきウソップが倒れていた場所までブルを飛ばした私達だが、そこに辿り着いた時、ウソップの姿はどこにも無かった。
あんな傷で何処に…!
「イリスちゃん、ウソップが居たのはここで間違いねェのか?」
「そのハズ…!……あ、これ…」
地面を見ると、血がとある方向へぽつぽつと落ちているのを発見した。
バカ…勝手に動いちゃダメじゃん…!
「…って、まさか…」
「…可能性はあるな」
「なんだ!?何があるんだ!?」
私の呟きにサンジが顎を触って肯定する。チョッパーは気付いていない様だけど…ウソップはきっと、責任を感じて1人でフランキーハウスまで行ったに違いない。
「ぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「…ん?」
上空からの聞き慣れた声に顔を上げれば、何故かルフィが空から飛んで来ていた。
あれ絶対ルフィの事だからカクのマネでもして、そんでもって失敗して落ちたってとこだろうね。
「ぶべっ!!」
「ルフィ!」
やっぱり地面に激突して「やー、難しいなーこれ」とか呑気に言ってるのはルフィだった。
一歩間違えれば水路に落ちるってのに…。まぁでも、上手く行けばその方法が1番早いのは確かだけどね。
「イリスか!ウソップは!?」
「フランキー1家にやられてたよ…!それでチョッパーに診て貰おうと思ったら居なくなってたの!多分…敵のアジトにケンカ売りに行ったんだ!」
「え!?」
ルフィとチョッパーが驚愕に目を見開く。特にルフィはウソップがやられたって事すら知らなかった訳だから…その顔に焦りが出てしまうのは仕方ない事だろう。
「イリスの言うように、そういう事だルフィ。俺達は今からそのアジトへ向かおうと思ってる」
「だったら急ごう…!ウソップが危ねェ!!」
もはや金の事など忘れてそうなルフィに、彼らしいなと少し口角を上げる。
行ったり来たりで大変だけど…とにかく岩場の岬からずっと北東へ行けばフランキーハウスがあるんだよね!
「ごめんねブル、もう一走りよろしく!!」
「ニーッ!!」
陽気に笑うブルの背に乗り、私達はまたまた来た道を全速力で引き返したのだった。
ウソップ…、何も無ければ良いんだけど…!
***
岩場の岬
「フランキーハウス」前
「……どうも、認識が甘かったみたい。チョッパー、息はあるよね?」
「ああ、大丈夫、助けられるよ!完全に気を失ってるけど…!」
私達の足元にボロボロになって伏しているのは、さっき見た時よりも更に傷が酷くなったウソップだった。
…ウソップにとっては、どうしても無くてはならないお金だった。それはメリー号を直すお金だと彼は思っているからだ。
だから…責任を感じたんだね、ウソップ…!!
「…ちょっと待ってろよ、ウソップ」
ルフィが指を鳴らし、サンジがタバコに火をつけ、ゾロがバンダナを被り、チョッパーが人型へと変化する。
…私も、
「あのフザけた家…吹き飛ばして来るからよ…!」
三日月を屋根に突き刺した様な見た目の家からは、大金が手に入ったからなのか喧しい声がここまで聞こえてきている程だ。
「……
もう、容赦はしないからね…!!フランキー1家!!
「…?イリスちゃん、それは新しい技か?」
「ん?」
不意にサンジから声が掛かり、何のことか分からずに首を傾げて彼を見上げる。
「え…あれ…!?
あ、あれ…?何回やっても出来ない…何で!?
他の倍加は……うん、大丈夫。何でそんな限定的な…。
「新技じゃなくて、ただ出来てないだけみたい…。ま、あいつらにカチコミするくらいなら訳ないよ。待たせてごめん、行こう!」
今までこんな事は1度も無かったのに…。
違和感は感じるけれど、今はそれどころでもない筈だ。
気になる気持ちは奥にでもしまっておいて…まずはあいつら、やってしまおう。
フランキーハウスの前まで行き、大きな扉を蹴破ろうと足を振り上げる。
丁度その時、中から買い物にでも行くのか札束を握りしめて外に出てきた大男と目が合った。
「ん?何だおまっぶこッ…!?」
もともと蹴破ろうとした扉の前に潰してやろうと思っていた奴らの1人が出てきただけだし、構わずそいつごと蹴り抜いて入り口を大きく破壊しながら中を見渡した。
…人数だけは一丁前に居るけど…所詮烏合の衆。
「ぶわ!?な、何だー!どうした!!?」
「誰だァ!てめェらは〜!?」
「いや待て!あれは…麦わらの一味!!」
料理の良い匂いが、今は腹が立つ原因の1つにしかならない。
これは一体何の金で買ったんだ…誰から奪った金で…楽しんでるんだ!!
「ゴハハハ!!金を取り返しに来やがったな!?バカめ、この人数を見ろ!たった5人でおめェら何しようってんだァ!?ゴハハハ!だがまァ…来たからにゃあ賞金の懸かったその首、置いていって貰うぞォ!!」
どすん、と入り口で吹き飛ばした奴より大きな男が一歩前に出てくる。
全身纏う鋼鉄のアーマーに、体に合う巨大斧が危険そうな奴だ。
…まぁ、ルフィには関係ないか。
「あの
…そんな、私でも言えないよそんな事。
ほら、ルフィ…すっごく怒ってるっぽいけど。
「ゴムゴムの…!」
一見
あれは…勢いを付けてるのか!最終的に繰り出される技の威力は計り知れないだろうね。
「ん?何やっとるんだ!パンチか!?戦艦の砲撃も通じねェこの巨大鋼鉄アーマーに!?ゴハハハ!笑わせるぜ!!遊んどるならこっちから叩き潰すぞォ!!」
「
「ゴッ…ガフッ!!?」
案の定、全ての勢いを乗せたルフィの両腕がアーマーなど容易く貫き男を吹き飛ばした。
うちの船長を甘く見るなんてね、手配書は嘘付かないよ。
「きょ、巨大アーマーを貫いたァ!」
「ええェ〜!?ちょ、ちょっと待てお前ら!まず話を…!」
「はなし…ハナ、ハナ…!」
「放て砲弾!!」
ドン!ドン!と10は余裕で越える数の大砲を撃ち込んできた。
不意打ちのつもりだろうけど…所詮それならまたまた意味なんて無い。
「三刀流…!
ゾロの3本の刀が飛来する何10個もの砲弾を容易く真っ二つに斬り捨てる。
鉄だろうがなんだろうが、うちの剣士は最強を目指してんだから斬れない訳がない!
「20倍灰…
瞬時に移動してバキッ!と大砲の口を蹴り壊し、そのまま大砲から足を離さず敵が集まっている所へ蹴り上げた。
「ギャーッ!!?大砲が降ってくるぞ!!やべェ!ちょっとコイツらまじでやべェぞ!!」
「裏口から逃げるんだ!!急げ!!」
「…人にケンカ売っといて、締まらねェマネすんじゃねェよ…!!」
「ギャー!?」
裏口へと走り出したフランキー1家の内、1人の顔を鷲掴みにしたサンジがその手を軸にカポエイラの様な動きで周りの奴らに蹴りを喰らわせる。
前世じゃあ、元々のカポエイラよりもあの某国民的ゲームでその武術をモチーフにして作られたあのキャラの方が知られてたけどね。
「う、裏口はダメだ!窓から!!」
「“ランブル”!
獣型へ変形したチョッパーの角が、みるみる立派に成長していく。
戦闘要員としての影はそれ程濃くはないチョッパーだけど、こうしてみると彼も十二分に強い!
「
「ホゲーーーッ!!?」
窓から逃げようと躍起になって走る奴らの真ん中へと突っ込んで、その立派な角を振り回し蹴散らすチョッパー。
裏口も無理、窓も無理、じゃあ正面なんてもっと無理。
この場にいるまだ倒れていない残りのフランキー1家も、ようやく立場を理解したのか顔から汗をだらだらと垂らしているが…お前達がした事は、頭を下げてどうにかなる問題じゃない。
「ちょちょ…っちょっと待ておめェら!!金だろ!?えェ!?返して欲しいのは!あのヘナチョコが持ってた…2億ベリーだろ!?残念な事にここにはもうその金はねェんだぜ!一家の頭、フランキーのアニキがあの金持って買い物に出ちまったんだ!今頃はもう海列車のなばべっ!?」
「あ、しまった。大事な事言ってたのかな、うるさくて殴っちゃった」
「構わねェよイリスちゃん。金だとか何だとか…
「そうだな…もう、手遅れだ」
ゾロの言う通り、もう手遅れなんだ。
最悪、私やゾロ、サンジ、チョッパーはどうにか口で丸め込めたとしても…ルフィはダメだ。
友達を傷付けられたんだから、嫁を傷付けられた私と同じく…止まる筈がない。
「ーーーお前ら骨も、残らねェと思え」
そうして、私達の蹂躙は開始された。
もう奴らに私達がただの5人組だという認識などなく、例えるならば獲物と狩人。どこへ逃げようとも、どう反撃しようとも…勝てる筈のない力の差の前には無力だって事を悟った。
散々ボコボコにして、家まで粉々に解体してやって…そこでようやく私達は手を止めたのだった。
既に立っているフランキー1家の面子は1人として居らず、ボロボロになった家の残骸に埋もれたり、近くで倒れ伏したりしている。
終わった後、チョッパーは直ぐにウソップの元へ駆け付けて応急手当を始めていた。
「追うか?フランキー」
ふと、新しいタバコに火をつけたサンジが瓦礫に座りながらそう口にした。
「…どこへだよ」
「…そりゃ、そうだ。…ふゥ、参ったな。金の行方は本当にわからねェ様だ…そのフランキーって奴を締め上げても…買い物された後じゃあな…」
「…うーん…」
ここでずっと待ってるにしてもナミさんやミキータも心配だし…ロビンも帰ってきているかもしれない。それに、そもそもメリー号自体の問題も解決していないからなぁ。
「おーーい!!応急処置終わったぞ!!タンカで運ぶから手伝ってくれよ!!」
「今行くー!」
手を振ってチョッパーに知らせ、よっこらせ、と立ち上がった時…何やらずっと海を見て考え事をしていたルフィが口を開けた。
「船よォ…」
「ん?」
「決めたよ…」
それは、何か決意の籠もった声だった。
普段は感情の起伏が激しいルフィの珍しく平坦な声色に、周りの音が無くなった様な錯覚に陥る。
「ゴーイング・メリー号とは…ここで別れよう」
「!」
「イリスやウソップには、悪ィとは思ってる」
そう言って帽子を深く被り直すルフィを見て、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
…メリー号は、カヤからの贈り物だ。そしてウソップはメリー号の修理を主に担当していたのもあって愛着も一味の中では飛び抜けてある。
そんな私達には言いにくい事を、ルフィは船長として…決断したんだ。
「…悪いことなんて、ないよ。ルフィはルフィの決断に胸を張って!私はついてくよ、
「!…イリス…」
私を見るルフィにニッと笑って応えた。ゾロもサンジも少し口角を上げてルフィの決断に異論はないと態度で示す。
私だけじゃない…いや、私達なんかより、ルフィはもっとずっと辛い筈だ。
…だから私が、精一杯考えて答えを出したルフィにどうこう言う事なんて何もない。
でも……、ウソップは、何て言うかな…。
……胸がざわつく、時折感じる嫌な予感。
この世界に来て、ルフィやみんなに会ってからはよく感じる様になったこの感覚は…そう言えば外れた事が無かったな、なんて…私は後になって思い返すのだった。