メリー号へとウソップを運び終えてから、時間は既に1時間程経過しているというのにロビンは帰って来なかった。
本格的にロビンを探しに行った方がいいかもしれない…聞いた話によると、サンジがロビンを1度見かけていると言うのだ。それも見た事のない仮面をつけた大男と一緒にいた所を。
「みんな!ウソップが目を覚ましたぞ!」
「本当!」
色々と思考を張り巡らせている頭を1度ストップさせて、みんなでウソップを仮で寝かせていたキッチンへと向かった。
部屋へ入った直後、ウソップはゾロの足に泣きながら飛び付き何度も謝ってくる。
とにかく奪われた2億の行き先などをウソップに話して、取り返すのは難しそうだと伝えた。
「…そうか、やっぱり金は戻らねェのか…。すまねェ…!みんな…!…でもよ、じゃあ船は…メリー号は残りの2億ありゃ何とか直せるのか!?せっかくこんな一流の造船所で修理出来るんだ、この先の海でも渡っていける様に今まで以上に強い船に…!」
「いや、それがウソップ、船はよ!乗り換える事にしたんだ。ゴーイング・メリー号には世話になったけど、この船での航海はここまでだ」
明らかに…明らかに無理しているという事が分かるルフィの言葉に、ウソップは何を言われたのか分からないとでも言うような顔をして固まる。
「ほんでな、新しく買える船を調べてたんだけど、カタログ見てたらまァ1億あれば中古でも今よりデカイ船が…」
「待てよ待てよ…!そんなお前、冗談キツイぞバカバカしい!…何だやっぱり、修理代…足りなくなったって事か!?おれがあの2億奪られちまったから…金が足りなくなったんだろ!」
「違うよ、そうじゃねェ!」
「じゃあ何だよ、はっきり言え!!おれに気ィ使ってんのか!!」
段々とヒートアップしてきた2人にゾロやチョッパーが落ち着けと声を掛けるが止まらない。
「落ち着いてられるか!バカな事言い出しやがって!!」
「ちゃんとおれだって悩んで決めたんだ!!」
「ちょっと2人共、そんなに熱くなったら話し合いなんて…!」
止めに入ろうとしても手で押し退けられてしまう。
ダメだ…!このままじゃ、何かがダメなんだ…!
「メリー号はもう、直せねェんだよ!!!」
「ーーーーー!!!?」
「…どうしても、直らねェんだ。じゃなきゃこんな話しねェ!」
呆然としたウソップの顔が、徐々に怒りへと染まって行く。
なおも止めようとした私は後ろからミキータに引っ張られて彼女の胸の中へと収められた。
「…もうこれは、2人の問題よイリスちゃん。止めたって止まらないわ」
「!……、うん…」
ミキータの目は、悲しみに揺れていた。
きっと彼女は…今までにもっと酷い状況を目にしてきたのだろう。
海賊時代も、バロックワークスでも…。だからミキータは無理に止めようとはせず、当人達に任せようとしているのかもしれない。下手に止めに入るというのは、昂った人達からすれば逆効果だからだ。
「何言ってんだお前…ルフィ」
「本当なんだ、そう言われたんだ!造船所で、もう、次の島にも行き着けねェって!!」
「ハァ…そうかい、行き着けねェって…今日会ったばかりの他人に説得されて帰って来たのか」
「何だと!?」
今度はルフィの表情にまで怒りが滲む。
私を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなり、ミキータだけじゃない、一味全体に緊張が走った。
「一流と言われる船大工達がもうダメだと言っただけで!今までずっと一緒に海を旅して来た、どんな波も!戦いも!!一緒に切り抜けて来た大事な仲間を…お前はこんな所で…見殺しにする気かァ!!!!…!!この船はお前にとっちゃそれくらいのもんなのかよ!!ルフィ!!…ゲフッ…!」
「ウソップ、だめだ!そんなに叫んじゃ!」
元々傷だらけの体で無理して叫んでいるんだ。体はろくに言う事を聞かない筈で、案の定血反吐を吐く。
それでも、ウソップの瞳から怒りが無くなることはなかった。
「…じゃあ、お前に判断できんのかよ!この船には船大工がいねェから!だからあいつらに見て貰ったんじゃねェか!!」
「だったらいいよ!もうそんな奴らに頼まなきゃいい!今まで通りおれが修理してやるよ!元々そうやって旅を続けて来たもんな!」
「おい待てウソップ!」
傷付いた体を引きずりながら外へ向かおうとするウソップをサンジが呼び止める。
そんな言葉など聞こえないとでも言うようにウソップは口を止めない。
「よし、早速始めよう!おいお前ら手伝えよっ!そうだ、木材が足りねェな、造船所で買って来よう!さァ忙しくなってきたっ!!」
「…!!!お前は船大工じゃねェだろ!ウソップ!!!」
「おうそうだ、それがどうしたルフィ!だがな、職人の立場を良い事に、所詮は他人の船だとあっさり見限るような無責任な船大工なんかおれは信じねェ、自分達の船は自分達で守れって教訓だな、コリャ!!」
「…!」
「絶対におれは見捨てねェぞこの船を!!バカかお前ら!大方船大工達の尤もらしい正論に担がれてきたんだろ!おれの知ってるお前なら、そんな奴らの商売口上よりこのゴーイング・メリー号の強さをまず信じたハズだ!!そんな歯切れのいい年寄りじみた答えで…!船長風吹かせて何が“決断”だ!!!見損なったぞルフィ!!!」
ガシ!とルフィの胸ぐらを掴んで言い寄るウソップに対し、ルフィはあくまでも意見は変えないと叫ぶ。
船は乗り換える、メリー号とはここでお別れなんだと…、まるで自分にも言い聞かせているみたいに。
「いいかルフィ、誰でもおめェみたいに前ばっかり向いて生きて行けるわけじゃねェ!!おれは傷付いた
「…そうだね。だからこそ、メリー号とはここでお別れなんだ」
「ッ!!?何なんだおめェら!どうしちまったんだよ!メリーは仲間じゃねェのか!?大事じゃねェのか!!大方もう次の船に気持ち移してわくわくしてんじゃねェのかよ!!上っ面だけメリーを想ったフリしてよォ!!」
「!!いい加減にしろお前ェ!!お前だけが辛いなんて思うなよ!!全員気持ちは同じなんだ!!!」
勢いよくウソップを床に叩きつけ押し倒し、ルフィが感情を露わにする。
私だって今のはちょっとキたけど…ミキータに言われた事もあるし、必要以上に突っ込むのはやめておこう。
「だったら乗り換えるなんて答えが出るハズがねェ!!」
「…!じゃあいいさ!そんなにおれのやり方が気に入らねェんなら、今すぐこの船から…」
「バカ野郎がァ!!!」
ルフィが最後まで言葉を紡ぐ前に、サンジがルフィの顔を蹴って吹き飛ばす。
…ああ。
嫌な予感っていうのは…何でこうも、当たるんだろう。
お願いだから、これ以上引き戻れない所までは行かないで欲しい…!
「ルフィてめェ、今何言おうとしたんだ!!頭冷やせ!滅多は事口にするもんじゃねェぞ!!」
「…あ、ああ…!悪かった、今のはつい…」
「いや、いいんだルフィ…それがお前の本心だろ」
「何だと…!」
流石に言い過ぎたと思ったのか素直に謝るルフィだが、ウソップの熱が冷めることはない。
原作でも、こんな事あったのだろうか…ウソップは、どうなるの…?
「
「おいウソップ、下らねェ事言ってんじゃねェぞ!!」
「いや本気だ、前々から考えてた…正直、おれはもうお前らの化け物じみた強さにはついて行けねェと思ってた!!今日みてェにただの金の番すらろくに出来ねェ。この先もまたおめェらに迷惑かけるだけだおれは…!弱ェ仲間はいらねェんだろ!!ルフィ、お前は海賊王になる男だもんな、おれは何もそこまで高みへ行かなくていい…!思えばおれが海へ出ようとした時に…お前らが船に誘ってくれた、それだけの縁だ…!!意見がくい違ってまで一緒に旅をする事ねェよ!!」
そう言ってウソップはバン!と扉を勢いよく開けて外へ飛び出し、船から降りる。
私達も全員ウソップを追って部屋の外へと出た。
「ウソップ!どこ行くんだ!!」
「どこ行こうとおれの勝手だ。おれは、この一味をやめる」
……!!!!うそ…でしょ。
「お前とはもう…やっていけねェ、最後まで迷惑かけたな。…だから俺なりに、筋ってモンを通させて貰う!!イリス、この船はカヤから貰ったお前のモンだ!!お前がこの船を捨てるって言うなら、おれと戦え!!!おれが勝ったらメリー号は貰って行く!!」
「え…」
完全に油断していた方向から攻撃が飛んできて固まる私をキッ、と下から見上げるように睨むウソップ。
ルフィは静かに私を見てきて、ナミさんやミキータは不安げに、チョッパーは泣きそうに…いや、泣いてる。
「イリス…!おれと決闘しろォ!!!!」
「……ウソップ」
きゅっと唇を結んでウソップを見下ろす私は、一体どんな顔をしているんだろうか。
「今夜10時!!またおれはここへ戻って来る。そしたらメリー号をかけて、決闘だ!!おれとお前達との縁も…それで終わりだ!」
それだけ言うと、ウソップは振り返って街の方へと歩いていった。
…こんな事、思いつきで言うような人じゃない…。ウソップは、本気なんだ…。
「イリス…!あんた、大丈夫…!?」
「………、ナミさん、今は何時?」
「ちょっとイリス!聞いてよ!どうしてあんた達が戦わなきゃならないの!?ねぇってば!」
私の肩を掴んで揺らすナミさんの顔をまともに見ることが出来ない。
…私だって分かんないよ…どうして、こうなったんだろう…。
「ちょっと部屋に戻るね。…じゃ」
ナミさんの腕をそっと退けて、そのまま早足で寝室へと戻った私はすぐにベッドへと倒れ込んだ。
…原作には、有り得ない事が今起きたんだ。
もし、もしこんな事がONE PIECEにもあったのだとすれば、それはルフィとウソップの決闘だった筈だ。
だけど、私がカヤからメリー号を貰ったって前提があったから…ルフィの代わりに私が選ばれた。
「……怖い」
この後、なんだかんだでウソップが戻ってきてくれるなら良い。
…だけど、決闘を私がする事によって、今回みたいに内容が変わればどうなる?
今まではルフィが戦うハズだった“敵”を私が貰っていたけれど…“敵”じゃないウソップとこんな大事な場面で戦うなんて。
しかも私の意思が介入していない状態での変化だなんて…初めてで…。
…ウソップが、一生一味に戻ってこなかったら?
例えば、10時からの決闘で私が判断を誤り、正しい選択をしていれば戻ってきたウソップが戻ってこないとなったら?
「……ダメ、これ以上は、深く考えちゃ…」
考えれば考える程ネガティブになっていく思考を打ち切り、私は1度睡眠を取ることにした。
……寝れるかどうかは、ともかくとしてだけど。