ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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81『女好き、悲劇の決闘』

「………、」

 

ザ、と船から降りて岩場に立つ。

時刻は既に10時が来ようとしていて、結局私は一睡も出来ず今に至る。

 

「イリス…」

 

「イリスちゃん…」

 

ナミさんとミキータの声が聞こえる。

正直、本当に私が戦ってもいいのかというのは今も思っているのだ。今からでも無理言ってルフィに代わってもらえないものかと…どうにかして私が戦わなくてもいい方向に話を持っていきたかったが、それは決闘を申し込んできたウソップにも失礼だ。

 

「……!」

 

もう10時なのか、ウソップが姿を見せた。

チョッパーに手当てしてもらった時のままの包帯姿で、それでも手には武器であるパチンコが握られている。

 

「…ウソップ、本当にやるの?」

 

「当たり前だ、殺す気で来いよ、返り討ちにしてやる!もうお前を倒す算段はつけてきた!!手の内を知らねェ今までの敵と一緒にするなよイリス。おれとお前は長ェ付き合いだ。お前の能力はよく知ってる」

 

…正直、私の能力は完全なる身体強化だ。対策を立てることなど出来るとは思えないけど…油断も出来ない。

 

「聞いて驚くなよイリス。おれには…8千人の部下がいる!!命が惜しけりゃ今すぐ降参しろォ!!」

 

「行くよ…!!」

 

戯言は聞き流して、早々に決着を付けるべくウソップへと駆け出す。

 

「ウソ〜〜ップ呪文(スペル)!!「全ての歯の間にカミソリが挟まった」!!!」

 

20倍灰(にじゅうばいばい)…!!」

 

「ウ…ゲホ!」

 

「…!」

 

構わず殴り飛ばそうとした私の前で蹲って咳き込むウソップ。

その口元は赤く染まり、抑えた手の平にまで付着しているが…。

 

「嗅覚倍加…、ウソップ、そんなハッタリは私には通用しないって知ってる筈だよ」

 

「知ってらァ…!くらえ必殺!“卵星”!“星”!!」

 

「ッ!?」

 

一瞬でも躊躇った私のわずかな隙を突いて取り出した卵を数個当ててきた。

気にするな…所詮は卵…!!………、っ…!!?っ!!?

 

「うっ…、く、くっさァァ!!!?腐ってるの!?」

 

「腐ってるのは当然!その上お前は今“嗅覚倍加”だろ!?」

 

しまった…!能力を、利用されたのか!!

慌てて嗅覚の倍加を止めて、今度は臭いに対する“耐性”を倍加する。これで臭いのは気にならない!

 

「まだだ!必殺“タバスコ星”!!」

 

「わぷ!」

 

鼻で息をしないように口呼吸に変えた瞬間をウソップに狙われ、今度は口の中にジャヤで1度味わった技を喰らわされる。

 

「か、辛ァァーーーっ!!!!」

 

「イリス!お前は確かに強ェよ…だが対策が全く出来ない訳じゃない!これが俺の戦闘だ!!」

 

「っ…!」

 

辛さに対する耐性を…倍加。

…厄介だ、いくら後から倍加したところでさっきの臭いも、辛さも消える訳じゃない。あくまで倍加後の耐性が増えただけなんだ。

だから私にはまだ卵の臭さは鮮明に鼻に残ってるし、辛さもそのままだ。

 

「はァ…はァ…。…でも、それだけ?ウソップ…私にはルフィみたいに斬撃が有効な訳じゃない。かと言って打撃が効く訳でもない…銃が効かない私に対してこれ以上の有効打があるとは思えないんだけど…?」

 

「そうだな…ダメージを与えるには、その倍加の壁を突破出来る程の威力が必要だ」

 

やけに落ち着いているウソップに違和感を覚える。

この状況で、他に何が…。

 

「…煙?」

 

周りを見ればいつの間にか煙に囲まれていた。

風貝(ブレスダイアル)から風を出し、それでひっそりと煙を広げていたというわけか…。

 

「煙が、どうしたの?」

 

「やっぱり臭いに対する耐性でも倍加してきたな…!そのせいで気付かなかったろ、そこにガスが充満してるなんて」

 

「!!」

 

「悪ィな!くらえ!!必殺“火炎星”!!!」

 

それをウソップが放った直後、物凄い規模の爆発が私を襲う。

まるでボロ雑巾の様に吹き飛ぶ私の体は、空高く舞い地面へと落下した。

 

「……ゲホッ…」

 

20倍のアーマーを越える事の出来る攻撃…それをウソップは見事私に当ててみせた。

当てるまでのコンボも彼なりに考えた結果だろう。私の嗅覚を機能させなくする発想は流石としか言いようがない。

 

「…でも」

 

「!!」

 

ゆっくりと立ち上がり、煙の中からゆらゆらとウソップに向かって歩いて行く。

爆発の衝撃で尻餅をついていたウソップは慌てて起き上がりパチンコを構えた。

 

20倍灰(にじゅうばいばい)…!去柳薇(さよなら)ッ!!」

 

最高速度でウソップの前へと移動し、拳を放つ。

でも彼はそんな事など読んでいたとでもいうかの様に私の拳を受け止める。その手には… 衝撃貝(インパクトダイアル)が握られていた。

 

「貰ったぞ…お前の“衝撃”」

 

スッ…と私の顔に衝撃貝(インパクトダイアル)を当て、ウソップは力の限り叫んだ。

 

衝撃(インパクト)!!!」

 

「………知ってるよ」

 

「…え」

 

私に向かって放たれた衝撃は、まるで意味のなさない微弱なものだった。

それもその筈で…ウソップが私の手の内を知っている様に、私だってウソップの手の内を知っているんだ。衝撃貝(インパクトダイアル)が主力になる事くらい…最初から分かっていた。

だからさっきも20倍でなんて攻撃していない。素のパンチだったってだけだ。

 

「今度こそ、20倍だよ」

 

「ッ…!」

 

20倍灰(にじゅうばいばい)…!!」

 

今度こそ本当に打つ手無しのウソップが、悔しげに私を睨んでくる。

…本当に、これで……良かったんだろうか。…わからない、わからない…けど。

本気でやらないのは、絶対に違うって分かるから…だから私は、本気で勝ちに行ったんだ!!

 

去柳(さよ)……!!…ッ!!……うああああッ!!!!!」

 

ズドン!!とウソップの腹へと拳を叩き込み、一撃で地に沈めた…。

…結局私は、決めの技に別れの言葉を使えなかった。それだけは…イヤだったから。

倒れ込んだウソップに背を向けて、私は少し俯きながら話しかける。

 

「…メリー号は、ウソップの好きにしなよ。ただーーーーメリーに、仲間を殺させないでね」

 

「!!!」

 

痛みで体は動かせないだろうが、ピク、と身体が跳ねた気がした。

…こんなの、私の役目じゃないよ。船長のルフィがやってくれないと…。

 

「…っ」

 

頰を涙が音もなく伝う。

ルフィが、やってくれないと……私には、重すぎる…!!

 

「…あの時、空島で私達が見た影は…こう言っていたよ。『船が保たないなら、気にせず置いて行って欲しい。次の海を乗り越えられないのは凄くイヤだ』ってね…。私は、その意思を尊重したい。メリーに私達を殺させない為にも…ここで船を乗り換えて、私達は先の海へ進む」

 

それだけ言って、私はみんなの元へと戻って行った。

ウソップを殴った右手がズキズキと痛む。右手だけじゃない…心だって…。

 

「…イリス…っ」

 

船の前まで辿り着けば、ナミさんとミキータが急いで降りてきて私を抱きしめた。

2人だけじゃなく、他のみんなも続々とメリー号から降りてくる。

 

「…悪ィ、イリス…」

 

「ううん…ルフィが謝る事じゃないでしょ」

 

「…どの道、メリー号ではもう居られねェな。どうする?」

 

「なら、中で適当なホテルでも探しましょう。それっぽい所ならいくつかあったわ」

 

ミキータが覚えていてくれた事もあり、私達はすぐに街へと入ってホテルを借りた。

男女別の2部屋しか借りなかったから果たして私が寝ることが出来るのかどうかは謎だ…。

 

ちなみにロビンが帰ってきた時の為にメリー号に書置だけは残してきた。それを見て明日の朝にでも合流出来たら良いんだけど…。

 

 

 

 

そして今、問題の部屋で私はお風呂に入っていた。

私の1番風呂を強く勧める2人に押され、結局根負けして最初に入ったのだけど…2人とも何であんなに強引だったのだろうか?

 

ガチャ…

 

「え」

 

「入るわよイリス」

 

「キャハ!来ちゃった♡」

 

え。

入るわよって…あの、どうして2人は服をお脱ぎになられているのでしょうか?というよりここってホテルだから、お風呂と言ってもお手洗いとかと共用の3点ユニットバスというやつなんですが…そもそも、鍵してなかったっけ!!?

 

「ああ、鍵?イリス忘れてそうだから言うけど…私泥棒よ?」

 

ナミさんの前では鍵を閉めた所で無意味って事ですかそうですか。

 

「イリスちゃんもっと詰めて!ほら、私の上に座って?」

 

「ちょ、ミキータ…!湯も張ってないのに座ったって意味ないーーー」

 

「あらイリス、まさか今から何をするか、分からないあんたでも無いでしょ?湯船なんて邪魔なだけよ、少し狭いくらいが丁度いいわ」

 

少しって何だっけ!?そりゃナミさんもミキータも細いけども、強調してるそのぽよんがかなり幅取ってるから!!

 

ミキータの膝の上に座らされて、ミキータと私がナミさんと向かい合う様な形になった。

何だコレ…2人とも、今日はやけに無理矢理というか…強引というか…!

 

「んっ…!」

 

ナミさんの唇が私の唇を塞ぎ、いきなり舌を入れてくる。

 

「っふ…ひゃ」

 

しかも後ろのミキータも私の首筋に舌を這わしてきて、ついさっきまで普通に髪の毛を洗っていたとは思えない状況になってしまった。

待っ…ちょ、ホントに待って…!あ、そこは…まだ洗ってないから!洗ってないからーーーーーッ!!!!!

 

 

 

***

 

 

 

 

「……がくり」

 

ぼふ、とベッドに倒れ込み、びくびくと体を痙攣させる。

散々弄ばれて…好き勝手されました…はい…。いや、そりゃ悪い気はしないよ?だって嫁だし、何なら凄く良かったよ、うん。

でもなんか違うよね?無理矢理は違うよね?前からも後ろからもね…まぁアラバスタでは2方向どころか3方向からわちゃわちゃされたけども!

 

「どう?イリス、…少しは気分晴れた?」

 

「!…うん、おかげさまで」

 

予想はしていたけど、やっぱりナミさん達の狙いはそこだったようだ。

私がウソップと決闘した事を辛く受け止めているのは、態度からしてバレバレだったのは知っているけどまさかこういった方法で気分転換させてくれるとは思ってなかったかな…。

 

「ごめんねナミさん、ミキータ…心配かけて。慰めてくれて嬉しいよ。だけどもう少しソフトに…」

 

「ダメよ、私はシたいもの」

 

「キャハ、同じく」

 

心配の裏に下心も混ざってたかー…。

まぁ、そんな2人なりの照れ隠しなんて分かり切っているけども。…やっぱり私の嫁は良い女だと思う。

痙攣から立ち直り何とか座ると、ミキータが用意してくれていたお茶を渡してくれたので一気に飲み干した。いやぁ、風呂場で運動は汗の量がね…。

 

「実際の問題として…ウソップはどうなるんだろう」

 

「…こればかりは、成り行きに任せるしか無いと思うわ。今からウソップを説得しに行ったって彼が惨めになるだけ…。イリスちゃんは、あの場でベストを尽くしたと思う」

 

「うん…ありがと。ところで明日の予定は?」

 

「もう1回アイスバーグさんに会って船の話をしてみようと思ってるけど、あの人も忙しい身だからどうなるかは分かんないわね」

 

ああ…確かに乗り換えるとなれば、もう1度相談に行くのが素人の私達からすれば手っ取り早いのか。

 

「ふわぁ〜…、ん…」

 

「イリスちゃん、おねむ?」

 

「確かに眠たいけどねミキータ、その言い方はちょっと引っかかるかなぁって」

 

ぶつぶつ文句を呟きながら横になり布団を被る。

…今日は色々あったし、最後に2人に激しくされちゃったせいですっごく眠たい…すぐにでも夢の世界へ旅立てそうだ…。

 

パチ、と電気も消され、各々用意されているベッドに潜り込む……なんて思ってた私がバカでした。

 

「…あの、ナミさん?ミキータ?ここ私のベッドだけど…」

 

「何か問題が?」

 

「ないけど…」

 

ナミさんが前から、ミキータが後ろから私のベッドへと入ってくる。

問題はないけど、あるんだよねぇ。特に私のむらむら度とかさァ…。

 

「私、今日はどうしてもイリスと一緒に寝たいの」

 

「私もよ、どーーーーしても」

 

「2人共…」

 

私が抱く劣情などなんのその、ナミさんとミキータはただ私の事を思ってくれている上での行動だった。

当然だ、2人が私の事を1番に考えてくれているなんて事は…私が1番知っているんだから。

 

「ありがとう…」

 

さっきから2人には慰められてばかりだ。

ロビンの事や、勿論ウソップの事で悩む私に無理をさせまいと出来る手段で息抜きをさせてくれている。

 

「…おやすみ」

 

「ん、おやすみ」

 

「おやすみなさい、イリスちゃん、ナミちゃん」

 

大好きな2人に包まれて、疲れ切った私の体は夜に堕ちていく。

ああ…私……幸せだなぁ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

静寂に包まれる夜に、安らかで幸せな3人の寝顔。

 

次の日も、また次の日も、彼女達は幸せに日々を過ごすようにと強く願う。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、何としてでも乗り越えなければならない。

 

だからこそ、何としてでも乗り越えて貰わなければならない。

 

近いうちに訪れる“絶望”を。

 

絶望から生まれる“恐怖”を。

 

恐怖から始まる“過ち”を。

 

イリス…あなたはきっと、本当の意味でーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー幸せになってね。




分かりにくくてすみません…最後の場面はイリス、ナミ、ミキータの誰でもない第三者視点となっております。
1度ウイスキーピークで使用した天の声視点ではありません。

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