翌朝
私は起きてすぐにこの宿の屋上へと向かった。
理由としては隣にナミさんもミキータも居なかったからだ。要は慌てて探してる所である。だって起きて居ないってちょっと不安になるじゃん。
どうして屋上なのかと言うと、聴覚倍加を使用した時に屋上から声が聞こえたからだ。残念ながらナミさんやミキータの声では無かったけれどチョッパーの声は間違いなく聞こえた。
「ナミさーん、ミキーター」
ガチャ、と屋上の扉を開けて外に出れば、空からさんさんと輝く太陽さんが寝起きの瞳をこれでもかと刺激してくるので手で覆い隠す。
眩しさに対する耐性でも倍加すれば良かったか…いやでも、何でもかんでも倍加してたらその内貧弱になりそうだよね…。
「あ、チョッパー、サンジもゾロも、ルフィも居るじゃん、みんなどうしたの?」
男性陣揃い踏みじゃん。
…ウソップは、まぁ、居ないけど…。
「せっかく宿とったってのに、みんな揃って眠れてねェんだ」
「そっか…私達だけ寝ちゃって、何だか悪い気が…」
「イリスちゃんは休むべきだった。ナミさんやミキータちゃんのお陰でだいぶ顔色良くなってるな」
ぺたぺたと頰を触ってみる。そうなのだろうか、確かに気持ちの整理はついたけどね。
「俺は夜中中岩場の岬を見張ってたんだが、ロビンちゃんは結局帰って来なかったよ。…どこ行ったんだろうな…、何も言わずに…」
ロビン…変なことに巻き込まれたりしてなければ良いけれど…でも、全く連絡が無いっていうのもおかしな話だし…。
「俺は今日は町中を探してみようと思う。もし何かあってもこの宿を落ち合い場所にしとこう」
「お…おれも行くぞ!探しに!」
「私も行こうかな、ロビン捜索」
サンジの意見に私とチョッパーが乗った。ウソップだけでも相当マズいのに、その上ロビンにまで居なくなられたら何だか一味がバラバラになっていくようで良い気がしない…というか、イヤだ。
「ルフィはどうする?」
「そうだな、だったらおれも…」
「イリス!あとルフィも!!」
突然私の後ろにある扉がバン!と勢いよく開かれた。
向こうから息を切らして現れたのはナミさんとミキータだ。2人は何やら焦っているのか表情が険しく見える。そんな表情も可愛いなぁ。
「どうしたの2人共、何かあった?」
「ええ、それも大変な事がね」
それを聞いて、冗談言ってる場合では無さそうだと気を引き締める。
「実はーーーー」
***
「え…!?アイスバーグが、撃たれた!?」
「アイスのおっさんが…!?」
「ええ、今は意識不明だって…!」
ナミさんの口から出てきた事件とも呼べる内容に私とルフィは目を見開いて驚く。
だ、だってアイスバーグって凄く尊敬されてるとか、そういう人じゃなかったの!?
「誰だいそりゃ、ナミさん」
「昨日造船所で私達がお世話になった人よ。造船会社の社長で、ウォーターセブンの市長」
「そりゃまた随分と大物が…」
ナミさんが言うには町中この話で持ちきりらしいが、それはそうだろう。
さっきも思ったけどアイスバーグはこの街のトップで、それでいて嫌味もなく、上に立つ人物としては…いや、かなり適当な所もあったけれどそれも含めて支持されていた筈なのだ。
ウォーターセブンに住む人達からしてみればこの上ない大事件だろう。
「ちょっと行ってみる」
「待ってルフィ、私も行くから!ミキータもね」
「キャハ、どうして私も?」
「それは勿論、私の護衛よ」
私がロビンを探すって言ったから私を連れていくのは気が引けたのか、代わりにミキータを指名するナミさん。
でもその判断は凄く助かる…!私もアイスバーグは気になるけど、やっぱり今1番気になるのはロビンの居場所だし。
「じゃあ俺達はロビンちゃんを探しに行くぞ。お前はどうする?」
「…いや、俺はもう少し…成り行きを見てる」
「何かあの人カッコつけてる、ぷぷ」
「よーし、イリスそこに座れ、叩っ斬ってやる」
こめかみをぴくぴくと痙攣させてるゾロとは目を合わさない様にして、私達はそれぞれの目的の為に行動を開始した。
それにしてもゾロとのこんな会話も久しぶりな気がするなぁ…心なしかゾロもノリノリだったし、私が思ってるより楽しんでるのかな?
みんなと別れて街中をサンジとチョッパーと共に捜索していると、時間が経つにつれて段々と風が強くなってきた。
あれだけ輝いていた太陽は時折雲に潜み、その雲の流れるスピードも普段よりずっと速い。
「何だろ、嵐かな?」
「ナミさんがいればな…」
きっとこの気象の理由なんてすぐ当ててくれるだろうにね。
『ーーお知らせ致します』
「ん?」
突然、町内アナウンスでサイレンが鳴り響いた。何?警報?
『こちらはウォーターセブン気象予報局。只今、島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました。繰り返します、只今ーーーー』
「……アクア・ラグナ?何それ」
「さァ…」
警報が発令とか言ってるくらいだから、何かしら災害なんだろうけど…。そのアナウンスが流れてからと言うもの住人達も血相変えて慌て出したし、そんなにヤバい災害なのかな。
このまま考えてても知識が無いんだから時間を浪費するだけだと思った私達は、とりあえず近くを通る住人に話を聞いてみた。
その人も例外なく忙しそうにしているからわざわざ捕まえるのは気が引けるんだけど…。
「あァ、そうか君達…旅の者か。いや、運の悪い時にここへ来たなァ、“アクア・ラグナ”ってのは「高潮」さ」
「高潮?」
「ああそうだ。ちゃんと高い場所へ避難しとかねェとこの町は海に浸かっちまうぞ。まあ別に今すぐって訳じゃねェから大丈夫だ、予報じゃ今夜半すぎと言ってる。毎年の事だ、気ィつけなよ!」
わはは!と笑い手を振って去っていく住人に手を振り返して別れた。
高潮か…いや、それにしてもこの町全域が浸かるって相当な規模の波が来るんだろうな。
「なら早いとこロビンを見つけないとね。チョッパー、ニオイとか辿れそう?」
「ごめん、さっきから潮のニオイが強くて良く分からないんだ」
確かにチョッパーの言う通り、嗅覚を倍加しても潮のニオイが濃くなるだけだった。
アイスバーグの事も気掛かりだし、アクア・ラグナってのが来るならウソップも危険だ…!
「そうか、ウソップが危ないんだ…!ウソップはアクア・ラグナを知らないから…!」
「!!なら早ェとこ知らせないとやべェ、もう今夜にはその、アクア・ラグナってのは来るんだろ!?」
「知らせるって言っても、ウソップはおれ達の話を聞いてくれるのか!?」
…今の状態だと、言っても突き返されるのがオチだ…!なら…!
「…すっごく簡単な事だけど、私に作戦がある。聞く?」
そういう私に、2人は迷わずコクリと頷いた。
例えあんな別れ方をしたからと言って、ウソップを見捨てられる訳がないもんね…何としてでもこの事は伝えなきゃ!!
***
「えーーーーッ!!!!?アクア・ラグナっていう“高潮”がここへ近づいてきてるの!!!!!?」
「そうそう!!!今日の夜中にはこの町は海に浸かっちゃうんだぞ!!!!この海岸だってどっぷりさ!!!!!」
「そりゃ大変だ!!!じっとしてちゃダメだな!!!!早く高ェ場所へ避難しねェと!!!!」
「避難しないとね!!!!避難!!!!!ひ・な・ん!!!!!!!」
叫んだ後、ハァ、ハァ、と肩で息をする私達3人。
何をしているのかと言えば、勿論私の考えた「ウソップに何とか伝えよう大作戦」を決行しているのだ。
岩場の岬にあるメリー号の近くまで行き、そこでとにかく必要な情報を叫ぶ。
後は中から声に気がついたウソップが出て来たら全力で逃げる。これだけの超簡単ミッションだ。
「お」
「逃げるぞ…っ!」
ガチャ、と叫んだすぐ後に船内から扉を開けてウソップが出て来たので、見つかる前に全力で逃げた。
きちんと聞こえてたら良いんだけど…!!
何とか見つからずに町へと戻ることができ、無事ミッションコンプリート!
さてと…なんだかんだ言って移動だけで結構時間かかったし、ロビンを探さないと…。
「あ、ちょっとそこの人!何か落としたよ」
「え?あ、ああ…!親切にどうも…!」
ぴら、と号外と大きく書かれた新聞を拾う。
?何だか慌てている様な雰囲気だけど、どうかしたのかな。…いや、よく見ればこの人だけじゃない、町にいる人全員が同じように慌しく何かを探しているみたいだ。
アクア・ラグナがどうこう言ってたのに、また違う話題で持ちきりになってるのだろうか。まさかアイスバーグを襲った犯人が見つかったとか。
「はい。どうかしたの?」
「あ、ありがとう!…それが、昨夜アイスバーグさんを襲った犯人の正体が判明したんだ!あんたも見るかい………って、……ん?」
え、なに?何か新聞と私の顔を見比べてうんうん唸ってるんだけどこの人…。
まさか、とは思うけど…いやいや、まさかそんな…いやまさかぁ〜。
「…い、いたーーーーッ!!!麦わらの一味だ!!女好きのイリスが居たぞ!!!ひっ捕らえろ!!!!」
「嘘ーーーーーッ!!!?」
「「ええッ!!?」」
ぎょ!?っと目を飛び出させて驚く私とサンジとチョッパー。
いやだって、ちょっと町を離れた間に身に覚えのない罪を被せられてるんだよ!?確かに私は海賊だけれど、悪事の全てを引き受けてる訳じゃないからね!!!
「本当だ、間違いない!麦わらの仲間だ!!!」
「逃すな!!!捕まえろ!!」
「うわああああっ!!!?」
物凄く恨みの篭った表情で追いかけてくる住人達に手を出す訳にもいかず、とにかく逃げる私。
…あれ、サンジとチョッパーは追われてない?…あ、そうか、手配書が無いからか…!!もーっ!!私はロビンを探したいのに!!
「居たぞ!女好きだ!!」
「そっちに行ったぞ、回り込め!!」
「子供は全員家に入れろ!!残った外に出てるやつが女好きだ!!」
どこまで本気なの!!?本当に身に覚えがないってのに…この感じだと言っても信じてくれなさそうだよね…!
だとしたら、真犯人は誰…?わざわざこうして私達に罪をなすりつけて、何が目的なの?
「こんな時に
言っても仕方がないけど、そう思ってしまう。
手配書には素の私しか写ってないから、結局
「……っ、しまった…!」
道が分からないからとにかく目に入った所へ進んでいたのだが、ある曲がり角を右へ曲がればその先に道は無く、右は民家、左は水路となっていた。
「もう逃げ場はないぞ!観念しろ!!」
「他の仲間の居場所も吐いてもらうからな!!」
…くそ、こうなったら…あの手しかない…!!
「ねぇ!さっきから私、全く身に覚えが無いんだけど!」
「とぼける気かァ!!アイスバーグさんが証言しているんだぞ!!」
証言って何の証言だよ!寝ぼけ過ぎだって!!
「あくまでも私の話を聞かないって言うなら……あなた達の家の屋根がどうなっても知らないからね!!私は加減を知らないよっ!!」
じりじりとにじり寄ってくる住人達にそう宣言して、私は右側にある民家の屋根に飛び乗った。
さぁて…ここに居てもすぐ登ってくるだろうから、やってやりますか!!山風式移動術を!!
「屋根に…!?」
「くそ!みんな、何としてでも見失うな!!絶対に奴らを許すなァ!!」
ひぃ〜、全く身に覚えの無い事でとんでもない程の恨みを買っちゃってるよ〜!
だけど、私もこんな意味の分からない事で時間を潰してる暇はないから、全力で逃げさせて貰うよ!!
「ほっ!!」
ダン!と大きな音を立てて走り出す。
ウォーターセブンの家は造りからして屋根が平らなのが多いから走りやすい!
完全にカクのマネが出来てるかは知らないけど、屋根から屋根へぴょんぴょん移動してるだけでも住人達を撒くのは十分可能だろう。
現にもう私を追いかけている人達の姿は見えず、ものの数秒で逃げ切る事に成功したようだ。
「上手くいって良かった…!それにしても、一体何で私達が犯人扱いされなくちゃ……っあ!」
ちょっと調子に乗り過ぎたか、屋根の端に足を滑らせて真っ逆さまに下へと落ちる。
ぐへ!と地面に直撃して痛む頭を撫で、どこに落ちたか確認する為に前を見ればーーーーー。
「あっ…ロビン!!」
「……赤目さん」
何と!落ちた所にはロビンが居ました!!
凄い、運命かな!?ただ見た感じここって路地裏的な、
…ま、いっか!別に細かい事は。見つかったんだから気にしないでおこう!