ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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84『女好き、絶望の氷』

「よっと」

 

ひょい、と列車屋根に上り視力倍加と聴覚倍加を併用する。

今の私は全・倍加(オールインクリース)が使えないから、強敵との戦闘を避けつつロビンを救出しなければならないからね。小手先の技でとにかくこっそり動かないとマズい。

 

うーん、見たところ全部で7車両か。

最後尾の車両は敵しか居ないっぽかったし、探すのはその前からでいいだろう。

 

走る足音を消したりとかは出来ない訳だし、ゆっくりと歩いて第6車両へと行き屋根端にしゃがみ込んだ。

 

「窓があって助かったよ、中確認し放題じゃん」

 

びょーん、と首の長さを倍加してろくろ首の様な見た目になった私は、そのままホラー映画よろしくひっそりこっそり中を覗く。

 

「…ロビンは……」

 

居ないか。…ん??…あれは…ウソップ!

良かった…扱われ方は雑だけどちゃんと無事だ!隣にいるリーゼントのチンピラは見ない顔だけど、ウソップと一緒に捕まってるなんて何やらかしたんだろう。

そうだよ、ウソップもなんで捕まってるの?まさか役人の前で自分は海賊だとか言ったの?…まぁ、その辺の“嘘”を付けるような男じゃなかったね。

 

ま、ウソップの心配はいらないか、後ろからサンジも来てるし…私は次の車両を確認してこよう。

 

 

そんな感じで5、4、3、2両と順に覗いていき、残すは先頭車両だけとなった。

前へ進むたびに寒くなっていく…かなり嵐に熱を吸われてるみたいだ。

 

…というか、5から3両目まではいいよ、サンジ達でも勝てそうな奴らしか居なかったし。

ただ…2両目の奴はヤバい。船大工してる時には感じなかった“圧”を…黒服着たルッチ達からびしびし感じたもん。

 

1人1人倒せるならサンジも対抗出来そうだけど、一斉に襲い掛かられたらまず勝てない。そう思わせられる程の実力が伝わってきた。

 

「あれで2両目って…先頭には誰が配置されているのやら」

 

出来るだけ戦闘は避けたいというのに…。

おっかなびっくりといった感じで慎重に、ゆーっくりと窓を覗く。

 

「………!!!ロビン…!!」

 

私がいる方とは反対側の窓際の席で、ぽつりと座って外を眺めているロビンを見つけた。

…誰も傍に居ないの?何でかは知らないけど、ラッキーだ。

 

「こっそり…こっそり…!」

 

首と同じく腕も伸ばして鍵近くの窓を割る。

 

「!!」

 

バッとこちらを見たロビンと目が合ったが、私は気にせず鍵を開けて窓から入った。

…中も寒い!暖房付けといてよね!!

 

「赤目…さん…!!?どうしてここへ…!?」

 

「どうしてって…勿論、ロビンを連れ戻しに」

 

どうしてロビンがわざわざ私達から遠ざかろうとしているかは分からない。ロビンの後ろに誰かが居ると言うのも結局は推測でしかない訳だし。

だけど…私達はそんな勝手な離脱に納得してやれる程広い心は持ってないんだ。

 

「うちは厄介だよね、来る者拒まず、去る者は追うってね」

 

ウソップだって、あんな経緯じゃなければ離脱なんてイヤだった。今もまだ、私はあの時の決闘を鮮明に思い出せるのだから。

 

「…私は、あなた達にはっきりとお別れを言った筈よ!!私はもう二度と一味には戻らない!!赤目さん…お願いだから今すぐここから出て行って!!」

 

「そうは言うけど、海列車から飛び降りたら死んじゃうよ。あとここに居るのは私だけじゃない、サンジにウソップも居るからね」

 

「そん…な…!私は助けて欲しいなんて欠片も思ってない!勝手なマネしないで!!」

 

…偉く強情だね。

世界政府から20年も逃げ続けてきて、何故今になってこうもあっさりと連行されてるのか。

そして何故、頑なに私達を遠ざけようとしているのか。

 

うーん…ロビンの裏で動いていた“クソ野郎”は、CP9…ルッチ達で恐らく間違いないだろう。

それを踏まえて考えれば、ロビンはルッチ達に脅迫、或いは取引をしている関係なのかもしれない、とも考える事が出来る。

 

内容は…ロビンが捕まる代わりに私達は見逃す、といった所が濃厚だろうか。だからロビンは私達に別れを告げ、自分だけ捕まった。

 

…うん、なんだかスッと胸に入ってきた。多分この考えは正解だね、違和感がないから前世の朧げな知識と相違がないって事の証明にもなる。

 

「勝手なマネで結構。ロビンの意思なんて関係ないよ、私はロビンを見捨てられない」

 

「…っ、赤目さん!本当に、早く出て行って!!お願い…っ!!!」

 

「…ロビン?」

 

…なんだ?今私は、強烈に違和感を感じている。

 

私の推理もどきは正解しているという自信がある。つまり何とかロビンを拐って、ルッチ達との車両を切り離せば逃げる事は可能だ。

…でも今、ロビンは…私の中に眠る知識とは別の“ナニカ”を恐れているような…そんな違和感だ。

 

「早く!!!」

 

「わっ…ちょっと、ロビン落ち着いて…!」

 

グイっとロビンに窓近くまで引っ張られる。そのまま私を列車外へ押し出そうと必死だが、力で私に勝てる訳もなく彼女の顔は焦りで包まれていた。

 

「ま、待ってロビン!落ちたら本当に死ぬよ私!」

 

「…この列車に乗っているよりかは生き延びる可能性が高いわ…!例えあなたが、能力者でも!!」

 

「それって…どういう…!」

 

今ので、ロビンが私達を生かそうとしてくれてるのはハッキリした。

だけど、ロビンはONE PIECEでもここまでの手段に出たのか…?いや、違う…そんな事はしてない筈だ。分からないけど…。

 

普段冷静なロビンがここまで焦りを隠すこともなく、海へ能力者の私を突き落とした方が生存率が高くなると言うほどの…ナニカ。

 

「…ロビン!」

 

「きゃ…っ!」

 

何とか彼女の拘束から抜け出し、ドン!と床に押し倒して逆にその身を押さえ込む。

 

「この列車に何があるっていうの!?何が来たって、私はあなたを守ってみせる!!信じてよ!全部話して!!」

 

「話した所でどうなる事でもないのよ!言っているでしょう…!私はもうあなた達の一味じゃないの…関係ないのよ!!」

 

「バカ!!そんな理由で納得できる訳ないじゃん!!私達を信じてはくれないの…!?」

 

「…私は…」

 

キッ…と私を強く睨んだロビンの瞳が微かに潤む。

小刻みに震える肩はまるで何かに怯えているような……。

 

「私は、あなたを信じたいわ!!だけど、その気持ちが許されない時もある!!それが今なの…!赤目さんや他のみんなが強いのは知ってる…!あなた達なら恐らくは、バスターコール(・・・・・・・)からすらも逃げ出せるかもしれない!!!」

 

「…ッ!」

 

バスターコール…それを乗り越えられるかもしれないとロビンが言った事に、何故か私の心臓はドキリと跳ねた。

 

「だけど…っ、あの人(・・・)は…!!」

 

「あの人…?それって、誰の……、…え」

 

その時、ふと床に視線を落とした私はそこで起きている現象から目を固定させ、動かせなくなった。

それはきっと、私の脳が強烈に感じる違和感、情報…それらを整理するのに時間がかかっているからだ。

 

「なんで…床が、凍ってるの…?」

 

「…ッ赤目さん!早く!!」

 

何とか顔を動かして周りを見れば、床だけじゃない…壁も、窓も、天井も、椅子も、机も…何もかもが所々凍っていた。

 

「…まさ、か」

 

 

「ーーーーーーあららら」

 

 

「ッーーーーー!!?」

 

ソイツ(・・・)の声を聞いた瞬間、私は反射的にロビンの腰を抱えて車両前方へ跳んだ。

 

バギィンッ!!

 

跳んだ瞬間、私達がさっきまでいた所に岩のように巨大な氷の塊が出現する。

 

…おかしい、あり得ない、居る筈がない…!!ここには、居ない筈だ!!

喧しく吠える私の記憶と、奴の強さを知る今の私の記憶…そのどちらもが警笛を鳴らす。

抱えられたロビンは私の腕の中で目を瞑って歯を食いしばり、氷を生み出した本人は第2車両へ続くドアからゆっくりと、この第1車両に足を踏み入れた。

…確認した時は、居なかったのに…!!どうして…!?

 

そいつの名は…その、怪物の異名は…!!

 

 

「青、キジ…!!?」

 

「1週間ぶりくらいか?やっぱりこの列車に乗ってきたな、女好き」

 

 

青キジが、そこに居た。

 

「……どう、して?」

 

ギュッとロビンを抱きしめ、青キジから目を離す事なく問う。

大将ってこんなホイホイ出歩くもんなの…?

 

「あー…まァ、話せば長くなるんだが、なんだ…1度本部に帰って報告したはいいが、やはり女好き、お前を見過ごすのは無理との事だ」

 

「長くなってないけど…?いや、それより、私程度で大将さんが出向くなんて、海軍って相当暇なんだね?それに、さっき確認した時はあなたの姿は無かったんだけど」

 

額から流れる汗、酷く波打つ鼓動を誤魔化すように小さく口角を上げる。

 

「さっきまで腹が痛くてな。トイレだ、ありゃ参った」

 

なんつータイミングだよ…。強敵とは戦いたくないって言った側から最高難易度の強敵と遭遇する事になるなんて…ね。

 

「私より危険な存在なんて山程居るでしょ…。その人達から捕まえたらどう?」

 

「お前はまだ自分の異常さに気付いてねェようだが…そもそも“覇王色の覇気”ってのがどんなのかは知ってるか?」

 

「さぁ、前に言ってた事しか知らないけど」

 

「“覇気”には3つの種類が存在する。1つは“武装色”、そして“見聞色”。これら2つは並外れた鍛錬を積む事で、一般人ですら習得可能な技だ」

 

武装だとか見聞だとか、何言ってるの…?そんなの、この世界に来てから聞いたことも見たことも…。

 

「武装色は実体を捉える力、見聞色は声を聞く力…見たことねェか?」

 

「…さぁ」

 

…見聞色…ってのがどうなのかはまだ分かんないけど…空島で心綱(マントラ)って力があったな…それはもしかして見聞色の覇気ってやつなの?

 

いや、そんな事はどうでもいいか…!ロビンがどうして頑なに私達を遠ざけようとしていたのかがようやく分かったんだ…!!

CP9だけじゃない、その裏に青キジまで居るってなれば、ロビンの今までの行動にも合点が行く。

…だったら私は、何としてでもこの状況からロビンを連れ出して青キジから逃げる事を考えるべきだ!

 

「だが、“覇王色の覇気”はその2つとはまるで違った性質を持つ。鍛錬で成長を積める2つの覇気と違い…覇王色は己の心が成長しなければ成長しないモンだ……そして覇王色とは、即ち“王の資質”」

 

「だから?」

 

「覇王色ってのは、数100万人に1人しか素質がねェと言われている。とりわけお前のソレ(覇王色)は…威圧だけで髪色が変化したり、頭に王冠を乗せている様な幻を見せる事が出来る程のレベル…潜在能力だけで見りゃ、四皇(・・)並だ」

 

ピク、と腕の中のロビンが跳ねた。

四皇…?聞いた事はあるけど…何だっけか。

 

「実際あの島でお前と戦った時、俺は恐ろしいとさえ思った…!今はまだ赤子の様に自らの力の有用性を理解していなくとも、これから先…成長していく上で武装色、見聞色共に覚えてしまえば…世界の脅威となるだろう…そう、上は判断した訳だ」

 

「ああそう…!じゃあさ…!」

 

青キジの後ろで影が動く。

それは私が発動した神背(ヒューマ)で生まれた“私”だった。

“私”は列車内の椅子を持ち上げ、青キジに振り下ろす!

 

「勝手に怖がっててね!!私は世界の脅威とやらになるつもりは毛頭ないし!!」

 

“私”が青キジの体を粉砕させ、私はその隙にロビンを持ち上げて窓を目指す。そこから列車屋根に登ればまだ逃げ切れる可能性がある!

 

パキィン…!

 

「…っ窓が…!」

 

脱出する直前に、車両の窓が全て凍らされた。

それらを叩き割ろうと20倍の力で攻撃してもビクともしなかった…どんな氷だよ!

 

「…赤目さん…今からでも遅くは無いわ…私を置いて逃げて…!」

 

「いいや、ニコ・ロビン…それは違う。前回と違って俺は今“任務”でここに居るって事を忘れて貰っちゃ困るんだが…」

 

「だけど、私1人を捕まえる代わりに一味の安全は保証してもらった筈よ!!」

 

「それは世界政府との取引じゃねェの?俺は関係ねェだろ、違うか?」

 

「…ッ」

 

もはや氷で囲われていると言ってもおかしくはないくらい氷漬けになった列車内で、青キジだけがいつも通りのダラケ顔を浮かべている。

“私”は氷漬けにされて足元に転がっていた。… 神背(ヒューマ)で増やした分身とはいえ…強さは私と同等なのに…!

 

「この先のエニエス・ロビーで、女好き、お前には色々と聞きたい事が山程ある。…まァ、俺を介した上のモンの質問だが…。その後はニコ・ロビン同様正義の門を抜けて、まずはインペルダウンだ」

 

インペルダウンってのが何なのかは分かんないけど、ロクでも無い所なのは確かだろうね。

 

「もう、私達を捕まえた気でいるの?私はまだ捕まってないけ…ど!!」

 

ダッと青キジに距離を詰め、飛び上がって顔に蹴りを放つ。

青キジはそんな私の足を片手で受け止めて床に叩きつけてきた。…くそ、やっぱり動きが読まれてる…!これが見聞色ってやつなの…!?

 

ロビンを逃そうにも窓は塞がってるし、第2車両と繋がる道は青キジを越えないと辿りつかない。

…何とかして、青キジを怯ませる必要があるんだけどどうすれば…!

 

「これなら、どうだ!!」

 

すぐに起き上がって腹に拳を見舞う。しかも拳の熱を20倍上げてやってるんだ、氷には効くでしょ!!

 

「ッぐ」

 

しかし、殴っても青キジの体にダメージが入る事はなく逆に私の腕が凍っていく。

…この、氷って…普通の氷とは全然違う…融点が高過ぎるし何より硬い…!!

 

「オイオイ、俺はこれでも大将をやってるのよ、挑んじゃいけない敵の見極めをつけろって前言っただろうに」

 

「うる、さい!!」

 

腕を増やして殴る、殴る、殴る。

だけど、どれだけ回数を重ねた所で結果が変わる事は無く…ただそこに青キジという怪物が立っているだけで私はなす術もなかった。

私程度が生み出す熱ではビクともせず、私程度の力では青キジがちょっと強く作り出した氷を砕く事も出来ない。

 

ちくしょう…!私は、ロビンを助けないといけないのに…!!どうすればこいつに、青キジ相手に少しだけでも隙を作る事が出来るの…!?

 

「何度やっても結果は同じだが……ま、そろそろ良いだろう」

 

「っ…あ」

 

青キジに首を掴まれ、ピキ…と凍って行く。

 

「覇王色を使えてない今のお前が俺に敵うハズはないんじゃねェのか?もはや自殺行為と思うが…」

 

「赤目さん!!」

 

「ろ、ビン…!」

 

ロビンが私に駆け寄ろうとするが、青キジはそれを目で制した。

 

「落ち着け、別に今すぐ殺そうって訳じゃない。さっきも言ったろ、俺は…海軍はこの女に用がある」

 

「だったら私が捕まる代わりに、彼女は離して!!政府との取引よ、あなたも無関係じゃないでしょう!?」

 

「関係あるか?そもそも…海賊と政府が取引をするのがおかしいだろ」

 

…っく…!

ま、ずい…この列車にはまだサンジも、ウソップも居るのに…!!

 

「が…!く、嫌だ…ロ、ビンを連れて行くな…!!」

 

「ん?まだ喋れるのか、だがあまり暴れるな、殺さない様に凍らせるのは簡単じゃねェんだ」

 

「うるさい…!ロビン!!お願い…死のうとしないで…!私は、誰も失いたくない!!今の内に、何とか逃げ…!」

 

うぁ…!ま、ずい…氷が広がって…!

 

「ぅ…」

 

やがて、私の体は完全に氷に包まれた…。

…情けない…。ロビンを助けるって乗り込んだのにこのザマか……、こんなの、誰に笑われたって何も言えないじゃん…。

助ける筈だったロビンを助ける事も出来ず、私が失敗した事で一味にも迷惑をかけて……ぅ、もう(・・)誰も、失いたくないのに…!私は、私はーーーーーー!!!

 

 

 


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