ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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タグに追加したオリキャラは今回から登場します。前世関連ですね。


偉大なる航路(グランドライン) エニエス・ロビー 女王編
85『女好き、追憶の過去』


「……ん、っ……、?」

 

びちゃびちゃと、体に水をかけられている様な不快感に目を覚ます。

覚醒し切っていない頭で辺りを見渡せば、どうやらここは檻の中らしく、用心深く手錠もかけられている。

その檻の天井に直径15センチ程度の小さな穴が空いており、そこから出ている水に打たれていた様だ。本当に水をかけられてたのか…。

 

出た水は檻の両端にある網状の排水溝へと流れ落ちていた。

…ああそうか、凍った私を溶かす為の…。

 

…いやそれより、ここはどこなの…?ロビンは、みんなは?

 

 

「目が覚めたか、思ったより早かったな」

 

「……青キジ」

 

散々な目に合わせてくれた奴の声に、怠い体を起こして檻の外を見ればそこには案の定青キジが立っていた。

力が上手く入らない…この手錠、海楼石か。

 

「ロビンはどこ?」

 

「起きて1番に言うことがソレか。ま、いいや…ニコ・ロビンなら今はCP9の下で拘束されている。ついでに言えば、今麦わらのルフィ…そして恐らくその一味全員がここに向かっている事だろう」

 

…一味全員が…って事は、サンジとウソップは上手く逃げ切れたんだね、良かった…。

 

「ここは?」

 

「言っても分かんねェだろうが、ここは司法の塔…その中の牢屋だ」

 

「…司法の塔」

 

「まァ、そんな事はどうだっていいじゃないの、俺も一応仕事でここに居るんだ…手短に済ませたい」

 

そう言うと青キジは檻ごしに私の前まできて横になった。

…くそ、余裕ぶりやがって。

 

「まず1つ、お前の親の名は?」

 

「知らない」

 

「……即答じゃねェか、本当にか?」

 

「本当だよ…それより、質問に答えていけばどうなるの?解放してくれるの?」

 

「んな訳ねェだろ」

 

はぁ〜、と怠そうにため息をつく青キジ。

 

…本当にどうしよう。このままだとナミさん達と会う事なく連行されちゃうじゃん。

それにロビンを何としてでも助けないと…!

 

「…お前さん、もしかしてまだニコ・ロビンや自分がどうすればここから抜け出せるか考えてるか?」

 

「!」

 

「オイオイ…マジか。ハッキリ言わせてもらうが、お前さんの思考はどうも平和が過ぎるんじゃねェのか。それともその思考回路自体がお前の生まれに関係しているのか…」

 

平和が過ぎる、か…確かに、それはそうかもしれないけど…、私はただ、最後まで諦めたくないだけだ…!

 

「これだけは言っておくが、真面目に答えねェとお前の一味は殺していくぞ」

 

「…は、じゃあそれは、私が真面目に答えたなら仲間は見逃してくれるってこと?」

 

「考えてもいいってだけだ」

 

…私の失態で捕まってるんだ。最悪、私1人の犠牲は仕方がない…。

だけど出来ればそれは避けたい。捕まったらハーレム女王なんて絶対なれない…!

…いや、もう捕まってるんだけど。

 

「それで、お前の親の名は?」

 

「それはさっき答えたでしょ、知らないって」

 

「…、なら育ての親は?お前が1人でそうやって生きていける様になるまでは誰に面倒を見て貰った?」

 

「そんなの居ない。私は生まれた時から1人だったし」

 

ピク、と青キジの眉が動いた。

奴はゆっくりと座り肘を足に立てて顎を触る。

 

「…悪魔の実はどこで食った?」

 

「生まれた島で。なんかあったから食べた」

 

「なら、本当に自分1人で生きてきたってのか、言葉はどこで覚えた」

 

…仲間の命がかかってる…ここは、もう正直に話した方が良いのかな…?

…だけど、何故か抵抗がある。…なんて、言ってる場合じゃ無いか。

 

「ーーーー“この世界”に生まれる前の世界で」

 

今度こそ、青キジの顔が怪訝そうに歪む。

まるで私を狂人を見るかのように見てくるけれど、私は何も間違った事は言っていない。

 

「…囚人は次第に精神が壊れ出す者も少なくない。だがお前がそうなるのは些か早過ぎるんじゃねェの」

 

「勝手に人を精神異常者みたいに言うのやめてくれない?嘘なんてついてないんだけど」

 

「だが、信じるに値する情報じゃねェ」

 

そんな事言われても…。

 

「親も前の世界には居たよ、こっちに来るときに記憶は大半が無くなったけど」

 

「…一応、詳細を聞いておこうか。何かしらのショックで生まれた時の記憶を失っている可能性もある」

 

バカにしてるなこいつ。

そもそもこの世界に転生してきました、とか言っても誰も信じないと思ったから私は今まで誰にも言わなかったのに。

 

「詳細って言われても……そうだね、前の世界で住んでた国の名は日本。そこで女子高生してました。覚えてないけどなんか死んで、この世界の無人島に転生してました。だからある程度の知恵はあるけどこの世界の一般常識には疎いです。以上」

 

「医者を呼ぶか」

 

「自分から聞いておいて酷くない!?…いっ…!」

 

…っ、何か頭がズキっとしたけど…何だろう。

ウォーターセブンでもあったっけ…あの時と違って変な声は聞こえないけどさ…。

 

「っ…いつ…。…言っとくけど、嘘じゃないからね、私は異世界の人間なの」

 

「医者を…」

 

「もういいってそれ!」

 

頭をがしがし掻く青キジにはぁ…とため息をつく私。

そりゃ意味は分かんないだろうけど、真実なんだから仕方ないじゃん。

 

「捕まったすぐだ、檻の中で混乱してる可能性もある。少し頭を落ち着かせてからにするか」

 

「落ち着いてるんだけど」

 

気持ちは焦ってるけどさ…。

 

青キジはよっこらせ、と立ち上がって近くの椅子に座りアイマスクをして寝始めた。

…何とかしてこの海楼石の錠を外せたら今が好機なんだけど、能力者にとって海楼石は本当に毒だからな…。…毒では無いか?体に悪くはないし…。

 

「…ふぅ」

 

とにかく、今は頭も心も落ち着かせよう。

いざって時に冷静に動かなきゃ話にならない。

 

…それにしても、前世かぁ。

記憶があんまり無いからそんな意識した事なかったけど…よくよく考えれば私ってONE PIECEを知ってるんだよね。

じゃあ…何とか前世の記憶を掘り起こせば…ここを脱出する手がかりとか、青キジの弱点とか見つかるかも…。

 

私がはっきり覚えてる事と言えば、高校生だったって事と、ONE PIECEを見てたって事。

…あと、多分苗字が入洲。

 

「……うーん…」

 

思い出そうとしても記憶にモヤがかかってるみたいに思い出せない。

でも何とか、何とか思い出さないと…。

 

「……っ!!?い…っ!」

 

突然、私の頭を割れる様な痛みが襲う。

ウォーターセブンで起きたものや、さっきのとは訳が違う程強烈な痛みに座る事すら出来ずその場に倒れ込んだ。

 

「…んあー…?なんだ?どうした」

 

青キジがアイマスクを外して声をかけてくるがそれに返すだけの余裕がない。

痛い、痛い!なに…これ、何これ…!!痛いし、怖い…怖い…!!

 

「はァ…はァ…っ、う…っ……、ぁ」

 

そして、そのまま私は意識を手放した。

…水に濡れた床は、気付かず流した私の涙と混ざり溝へと流れていったーーーーーー。

 

 

 

***

 

 

 

「……どういう事だコリャ」

 

頭をボリボリ掻きながら青キジが倒れたイリスを見て呟く。

その顔は恐怖で染まり、流した涙や鼻水で汚れ、さっきまで普通に会話していたとはとても思えなかった。

 

「マジで医者を呼んだ方がいいか?」

 

ぽつりと呟いた所で返ってくる返事がある訳もなく、海賊とはいえ気絶した女をいつまでも放置しておくのも、それは正義ではないだろう。

 

「…はァ」

 

ため息を吐きつつも檻を開け、イリスを出して適当に顔を拭き、その辺の床に寝かせる。

檻の中は水浸しだった訳だから、その辺の床でもまだマシだろうという判断だ。

 

「こいつァ…本気で謎だな」

 

イリスを見ながらまたもため息を吐く青キジは、結局自分は異世界人だと訳の分からない事しか言われなかった事に気付きつつも頭を掻き、イリスが目を覚ますまで寝る事にした。

 

「次起きたらもう正義の門通っちまうか」

 

正義の門とは、エニエスロビーにある巨大過ぎる門の事だ。

そもそもエニエスロビーという島自体が犯罪者を連行する為の司法の島であり、司法の島とは名ばかりで、本来ここに連れて来られた犯罪者はこの司法の塔を素通りして正義の門を通り『インペルダウン』という監獄に行くか『海軍本部』に行くしかないのだ。

 

…つまり、正義の門を潜ってしまえば…その時がイリス、そしてロビンの最後である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……ん」

 

ぱち、と私は目を覚ます。

…真っ暗…という事は…。

 

『…自分からここに来るなんて、珍しい』

 

やっぱり…。

 

前に見た光の球が、私の目の前でふわふわと浮かんでいる。

暗闇で光を見てるのに眩しいと感じないのは何故だろう。

 

「自分から来た覚えは無いんだけど…」

 

『あなたは、過去を望んだでしょ』

 

「過去を?」

 

…確かに、今までよりずっと知識を欲したけど…。

 

『過去は、誰にでもある事。だけどあなたはそれを拒否した』

 

ピカッと一瞬強く球が眩く光り、流石に眩しくなって目を瞑る。そして次に目を開けた時、そこには暗闇とは似ても似つかない…学校の教室に私は居た。

 

「……え?」

 

『これは、あなたが忘れた過去。ここは、あなたの記憶の世界』

 

「記憶…」

 

いたって平凡な教室には、休み時間なのか1つの机に固まって話をしたり、1人で読書をしたり、黒板に絵を描いて遊んだり…それぞれが思い思いの行動でその時間を充実したものへと変えていた。

私や光の球を見えてる人は、記憶の世界とやらだからか誰もいない様だ。

 

「あ」

 

そしてその中の1人に、純白に輝く綺麗な長髪、まるで日本人とは思えない青色の瞳、モデルのような高身長…あの時見た入州(いりす)がそこに居たのだったーーー。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「相変わらず王華の髪と目って綺麗だよねー」

 

「ほんと、同じ女として羨ましいわ」

 

「いやー、そんなに褒められても何も出ないよ?」

 

私、『入州 王華(いりす おうか)』は、友達の美咲(みさき)(かなえ)沙彩(さあや)と共に休み時間を使っていつもの様に私の席に集まり話に花を咲かせていた。

私にとってはみんな以上に幸福なこの時間に、いつもの事なのに胸が弾む。

 

「ねぇ王華ー、次の小テストがマジでヤバいから勉強教えてよー」

 

私達の中でも小柄な、だけど胸は1番大きく、短めのポニーテールがぴょこぴょこ可愛い美咲がそう言った。

 

「はっはっは、それを私に尋ねるとは、さては全問不正解がお望みかな?」

 

「しまった、見た目のわりにバカだったのを忘れてた」

 

「ひ、酷いよ美咲!」

 

ぽこぽこと美咲を殴った私は、ある程度のとこで満足して拳を引っ込めた。

勿論相手にダメージが響くようにはしていないから、ほんのじゃれあいみたいなものだ。…私にとってはただのじゃれあいとは意味合いが違ってくるけど。

 

「それに美咲、私達もう受験生ですよ?入州はともかく、あなたは勉強をすればそこそこのトコを受験出来ますからK大にしたのでは無かったのですか?」

 

「ちょっと待って、今もしかして私バカにされた?私も一応K大なんだけど!?」

 

私と同じ様に長い髪を、ツインで三つ編みおさげにしている叶が美咲を咎める。

平均的な150センチ台だけど、真面目な委員長オーラが眩しい美少女だ。胸はない。…何で叶私を睨むの?心読めるの!?

 

「いやー、でも王華もそろそろ本腰入れて頑張らないとまずいんじゃない?みんなでK大に行くって決めたんだから、あんただけ落ちちゃったら困るわ。勉強、教えてあげよっか?」

 

「うぅ…お願いします師匠…」

 

私達の中でも1番の姉御肌な沙彩が私のほっぺたを突つく。

美咲程では無いにしろ大きな胸…というか全体的にスタイルが良く、たまに寝癖か何かでぴょこ、と跳ねているミディアムヘアがギャップで可愛いのだ。

成績も私達の中では叶に次いで2番目に良い。

 

みんなとは1年の時に仲良くなって、それから今まで特に衝突も無くやってきていた。

…問題があるのは、私だけだったのだ。

 

 

「ごめん、ちょっとお花抜いてくる」

 

「せめて摘むって言って」

 

「いてら」

 

ひらひら、と軽く手を振って私は教室から出てトイレに向かう。

トイレに入った私は、個室に入る事なく洗面台の前に立ってはぁ、とため息を吐いた。

少しだけ火照る頰を手の平で撫で、少しだけ早まる鼓動を意識するかのように目を閉じる。

 

「…はぁ、みんな可愛すぎる…」

 

ぽつり、と呟いた言葉に自然と熱が篭る。

…私は、みんなとは感性が違う。みんながじゃれあうように抱きつき合うのも、時折見せる無防備な姿も…私にとっては毒なんだ。

だって私は、女の子が好きだから。

 

「私にもう少し勇気があれば…」

 

俯きがちに前髪を弄り、2回目のため息を吐く。

 

私は自分の気持ちを隠して生きてきた。

そういう人達にも寛容的になりつつある世の中とはいえ、自分がそうだと言える人間が果たして何人居るのだろうか。

 

…だから私は誰にも、親にすら言ってなかった。いや、言えなかったという方が正しいか。

要は度胸が無いだけなんだけど…。

 

「受験も近付いてるんだし、あんまり考え込まない様にしないと…!」

 

なんて思った所で、これは私が物心ついた時からの課題なのだ。逆に考えないようにしようと思った方が考えてしまう…というよくある話だった。

 

私はもう一段と気合を入れ直して、教室へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーそれから2ヶ月後。

本格的に受験勉強で忙しくなり始め、みんなより劣っている私はそれはもう全力で過去問と睨めっこをしていた。

こうして忙しくなる前は、思い出作りとして休日にみんなと遊んだり、家に泊まり合ったり、軽くプチ旅行をしたり…恐らく、今後生きていく上で忘れる事は無いって程には幸福な時間を過ごしていた自信がある。

“本当の私”を隠すのには骨が折れたけれど、楽しかったのは事実だから良しとしよう。

 

「…ん?」

 

ベッドに置いてあったスマホが軽く振動して通知を知らせる。

なんだろ…勉強してるかの監視LINE…!?…な訳ないか。ない、よね?

 

寝転がって見てみれば、画面には「次の休日は息抜きも兼ねて今話題の恋愛映画をみんなで観に行こう」という内容のLINEが映っており、それを見た私の鼓動がドキ、と跳ねる。

 

それもその筈で、実はこの恋愛映画…女性同士の儚くも美しい恋愛を描いた、とかそんなキャッチコピーにしている作品であり…つまるところ百合だったのだ。

あまり大衆受けするジャンルではないのだが、この作品は登場人物の心理描写を見事に表しており、何よりラストが泣けるとの事で有名になった。

 

「……みんなは、こういうの…平気なのかな」

 

ぽふ、と枕に顔を埋めながら呟く。

不安と期待がごちゃ混ぜになった声は今にも消え入りそうで、脳内でぐるぐるぐるぐる…思考が行ったり来たりを繰り返した。ぶっちゃけた話勉強よりも頭が回転してる気がする。

 

「……、よし!」

 

勢いよくベッドの上で立ち上がって、ぐっと両手に握り拳を作って意気込む。

 

「映画観たら、みんなに私の事を打ち明けよう…!」

 

何のきっかけも無かった今までとは違うんだと言い聞かせるように、私の瞳に決意が宿る。

きっとこの映画を機に、“本当の私”だって受け入れてくれる筈だ。

 

ああでも、みんなに映画の内容が不評だったら言うのはやめようかな。それで打ち明けてもただの自殺行為だよね。

ほら、よく言うやつ…関係が終わってしまうくらいならこのままで良い、みたいな。

 

…なんて、弱気すぎるかな?

だけど…もともと度胸がない私からすれば、それくらいの意気込みが丁度いいよね!前進はしてる…よ?きっと、多分!

 

 




入州 王華。

『入州』に関しては執筆前から決まっていた事ですが、王華という名前はギリギリまで考えてなかったです。友達にも入州と呼ばせる予定でした。
名を追加した理由は後々説明します!

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