ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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90『ハーレム女王を目指す女好きな女の話』

1歩前に進む度に…私はこの世界に来てからの……いや、それは違うか…。

…みんなに出会ってからの思い出が、記憶から溢れて止まらない。

 

「……、」

 

見上げると、そこには果てしなく巨大な扉が雄大に存在していて…これが開くなんて想像が出来なかった。

だけど、開くんだ…私はそれを知っているから(・・・・・・・)分かる。

 

「赤目さん…!あなた…!」

 

「…ん?ロビンもここに居たんだ、ああ、そういえばもうそんな時間になるんだね」

 

彼女も私と同じようにこの『ためらいの橋』まで連れてこられた様だけど…ロビンは大丈夫。なんて言ったってみんなが居るから。

 

今頃みんなはそれぞれCP9を撃破して…ルフィとルッチが戦ってるトコかな?

…あ、正義の門が開き出した。向こうに海軍の船も沢山見えるけど…。

ああ、確かスパンダムが通話電伝虫と間違えてバスターコール用のゴールド電伝虫を押したんだっけな。そういえばさっきバスターコールがどうとかって、スパンダムとロビンの声がスピーカーから聞こえてたね。

 

「随分余裕じゃないの、アレだけの軍艦を見て…まだ麦わら達の勝利を信じてんのか」

 

「まぁね、信じてるって言われれば…それはちょっと違うかもしれないけど」

 

「そういや、そうだっけか。知ってるんだったな」

 

「だけど、信じてるよ」

 

完璧に記憶を取り戻した今となっては、何だか全能感がある。隣にいる奴にはどうやっても敵わないからそれも台無しだけど。

これから起こる出来事を全て知っているっていうのも、何だか優越感があるね。

 

…それにしてもスパンダムめ、原作通り散々ロビンを痛めつけてくれた様で…!

体もそうだけど、顔にも沢山血が付いてる……。もう、私がどうこう言える立場ではないけれど…。

 

青キジは私を連れたまま橋から海へ飛び降り、足が海水に触れた瞬間そこだけパキ…と凍った。

 

「赤目さん!!」

 

「俺ァ先に行ってる。あんたらはこの氷を渡ってくるな、手助けをしないってのが取引内容に含まれているからな」

 

「なんだと…!?大将とは言え所詮政府の犬が、この俺様に楯突こうってのか!?」

 

「…アンちゃん、そう誰でもかれでもに噛みつくもんじゃねェよ、中には権力なんざ関係ねェって輩も居るんだ」

 

私を横目で見ながらそんな事を言う青キジをギロリと睨む。

無駄な時間を使わないでほしい。そんなのと会話してる暇などないのだから。

 

「赤目さん!何をしているの!?その男に何をされたの!?」

 

「ロビンこそ、私の言葉には耳を貸さなかったのにみんなに言われたらそうやって心を入れ替えるんだね?」

 

「っ…違うわ!これは…赤目さんが列車で私を、最後まで助けようとしてくれたから…!」

 

「…もう私は、ロビンを助ける気は無い。じゃあね」

 

嫌われる様に、わざと嫌味を言った。最低な発言だ、だからこそ…私がみんなと心の距離を離すには丁度いい。

このまま私を追ってこられても困る、せっかくした青キジとの取引が無駄になる上に更にみんなを危険に晒してしまう。

 

ロビンの言葉にそう返して青キジについて行く。そうして辿り着いた1番大きな海軍船に乗り込み、甲板で膝を尽かされて両側から剣を首筋に添えられた。

能力が使えないとここまで簡単に刃物が通るんだ…刃を置かれただけで血が出てるよ…。

 

「能力の使えないただの子供に随分厳重な警備じゃない?」

 

「海楼石でもお前さんの未来と過去を見通す力は抑え込めない様だからな。まー保険だ保険、気にすんな。…つかガキなのは見た目だけじゃなかったのか」

 

見通すっていうか、実際記憶を見てるだけなんだけども。

…というか私の実年齢知ってるんだ。

 

「お疲れ様です大将殿、どうぞこちらへ」

 

「いや、俺はまだ外でコイツを見張っておく。この状態で隊を全滅させられては敵わねェだろ」

 

「いや、無理だから」

 

…直にこの船は旋回し、あの門を直ぐにでも通過するだろう。

そうなれば…これで、本当の本当にお別れだよ。

 

心残り?…あるよ、沢山ある。だけど…私には夢なんかより大事な人達が居る…!

 

どう見たって怪しい私を信頼して、正妻にまでなってくれたナミさん。

 

いつでも私の隣で笑って、どんな時でも私を第1に考えてくれたミキータ。

 

出会ったのは最近でも、私達の為に自分の命を賭けてくれたロビン。

 

…勿論、他のみんなだって…私は、守りたいんだ!例えそれで、私が死ぬことになろうとも…!!

…美咲達には、あの世で怒られるだろうけどね。

 

ついに船はゆっくりと正義の門の方へ旋回していく。私にはそれがやけにゆっくりに見えてーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリスーーーーーーーーッ!!!!!!!」

 

「ーーーーーーっ」

 

「イリスちゃーーーーーんッ!!!!!!!」

 

ヒュ〜、と隣で青キジが口笛を吹いた。

ためらいの橋から私を呼ぶのは…やっぱり、ナミさんとミキータだ。

その近くには2人にやられたのかスパンダムが転がっており、ロビンも解放されていた。

 

「な……」

 

なんで、2人がここに…!だって、ここに来る為にはルッチを越えるか、青キジの氷を破壊するしか道は無いのに…っ。

…いや、そんな事より…。

 

「イリス!!!あんたそんなトコで何してんのよ!!早くこっち来なさい!!」

 

「…っ、なんで…」

 

「そんな奴けちょんけちょんに倒して!!イリスちゃんなら余裕よっ!!」

 

「どうして…っ!!」

 

ギリ、と歯を食いしばる。

私は…確かに別れを言った筈なのに…。今になって私達を拒絶したロビンの気持ちが分かった…。

ロビンは私と違って助かるけど…それは当たり前だ。

私は異物で、ロビンは元々この世界の住人。万が一の話、ロビンを犠牲にして私が助かるなど…あってはならない事だ。

 

「どうして、ここまで来たの!!!早く帰ってッ!!!」

 

「イヤよ!!!帰るもんですか!!あんたが帰ってきなさいよ!!!」

 

「っ…私は、そこに居ちゃいけないから!!!帰らないッ!!!!」

 

腹の底から、力の限り叫ぶ。

首に当たる刃が食い込む事すら気にも留めずに。

 

「何を…!」

 

「みんな知らないでしょ!私の近くにいる大事な人は、みんな死ぬ!前回もそう、そして今回だってそうなる所だった!!私みたいな、この世界に生まれ変わった(・・・・・・・)異物は消えるべきなんだ!!」

 

「!!」

 

「この世界の事は良く知ってたよ!だって前世の有名な読み物だったからね!そしてナミさん達は登場人物として出てて、様々な苦難を乗り越えていた!私が居なくても!!」

 

ついに言ってやった。…別に、この事を今まで隠していたつもりは無かった。

ただ…何故か心のどこかで打ち明けるのを躊躇っていたのは事実。…それこそ、前世の“無謀”だった自分を無意識ながらに意識していたからだろう。…矛盾してはいるけどね。

 

「だから私はこの世界で、その知識を利用して立ち回った!クロも、アーロンも、クロコダイルも、エネルも、…今回の事も!!!そして未来も、全部知ってる!!!だから私は上手いこと手柄を横取りして、みんなに恩を売ったに過ぎない!!!」

 

ナミさん達は私の叫びに戸惑っているのか、私を呼ぶ声は聞こえなくなった。

…はは、そもそも、いきなり言われてこんな話信じるわけないか。…ま、いいや、頭がおかしい人だと思われたって今は何も不都合はない。

…ただ、胸が抉られる様に痛いだけのことだ。

 

「…だから、…ナミさん、ミキータ…ロビン!もうそろそろ夢から覚めてよ!!私を好きになってくれたみんなの気持ちは…私が作り出した幻に過ぎないんだよ!!都合の良い女として利用された事に気付いてよ!!ほんとちょろかったね!少し優しくしたら勝手に惚れてさ!!もう、飽きたんだ!!!!…飽きたんだよ……!」

 

最後は俯いて、ギリ…と歯を噛み締めた。

飽きた…か。はは……流石に言葉に重みが無かったかもね。だけど、みんなは戸惑ってその足を止めてくれているかな?だったら私の思惑は上手くいったって事だね。…さて、一体みんな…どんな顔して……。

 

「……え」

 

俯いた状態から再び前を見れば、ミキータがナミさんとロビンを抱えてこの船へと飛んできていた。その顔は陰になっていてよく見えず、視力倍加も使えない今となっては諦める他ない。

そもそもどうやって飛んで…いや、違う…!何でこっちに来てるの!?

 

かなりの速さで飛んできていたから、3人は時間をかけることなくこの船の甲板に降り立った。

当然、海兵達は銃を構えるが青キジがそれを手で制す。

 

「青キジ…!これは違うよ、状況が…!早くみんなを船から追い出して!」

 

「追い出すのは、別れの挨拶がきっちり済んでからでも遅くはないだろう。会うのはこれで最後になるんだ、互いの想いを伝え合うなり無事を祈るなり、好きな事をすればいい」

 

ポリポリと頭を掻きながら青キジがそう言うと、海兵が私の首筋に当てていた剣を外し、私はよろよろと3人の元へ近付いて行く。

 

「みんな…なんで、どうして!!!」

 

「どうしてって、勿論、赤目さんを連れ戻しに」

 

…!!それは、海列車で私がロビンに言った…、

 

「みんな、話聞いてた!?私…知ってたんだよ!ナミさんの過去も、ロビンの過去も、ミキータの夢も全てさ!!」

 

これがどういう意味だが、みんな分からない訳じゃないでしょ…!!

 

「本来ならアーロンを倒すのはルフィだった!クロコダイルもそう!私の世界の話ではそうなのッ!!!…私は、それを横から掠め取って英雄面してただけ……!!」

 

それをダシにナミさんを正妻にしたり、ミキータやビビを嫁にしたり…他にも沢山の嫁を、私は手柄を横取りする事で得てきた…!

美咲達の事も忘れ、自分の欲を満たす為に…好き放題していただけだ!

 

「だけど、その話には…今青キジが出てくる事は無かった…!!!何でか分かる…?私が居ないからだよ!!私がみんなと関わらなければ、ここで青キジが出て来る事は無かった…!!この世界にとって異質(イレギュラー)な私が、出しゃばるべきじゃなかった…っ!!!ウソップの事だってそう、あの決闘は本来…私がすべき事じゃ無かった!!」

 

「……そう」

 

私がみんなと一線越えるのを躊躇っていたのだって、今考えれば心のどこかに負い目があったからだろう。

微かに残っていた記憶の残滓が、自分を異端者(イレギュラー)だと戒めて…。

美咲達を殺した私の望みを、私自身が遠ざけていたんだ。

 

「分かったら、もう帰って。…みんなの顔はもう、見たくもない。…正直、助けに来たつもりなんだろうけど迷惑だから」

 

…流石に、バレバレの嘘だろうけど。

それでも、こんなこと言われて嫌悪感を感じない人は居ない。そこから私に対する不信感、悪感情が増幅してくれれば…私なんかを助けようと思わなければ…全て丸く収まるんだ。

 

麦わらの一味はこれまで通り航海を続けて、苦難を糧に成長し、数多の島を駆けて、どんな強敵だろうと乗り越えていける立派な海賊団になるんだから。

 

「だからさ、みんな…もう、私の事はーーーーー」

 

 

 

パァンーーーーーッ!!

 

 

 

「ッつ…!!…ぇ、あ…え、み、ミキータ…?」

 

「イリスちゃん…私の目を見て」

 

私の言葉を遮る様に、加減など全くしていない全力の平手打ちがミキータの右手から私の頬に飛んできた。

痛みを堪える暇もなく、ミキータはガシ、と私の顔を両頬から包み込む様に掴んで強引に視線を合わせる。

 

「…イリスちゃんの言う、別の世界の麦わらの一味に…果たして私は居たのかしら?」

 

「それは…」

 

「居ないでしょう、当然よ。だってイリスちゃんが居ないと私が入る意味なんてなかった。今でこそみんな仲間で、みんな大事だけれど…私が加入した理由の全てはあなただもの。…ねぇイリスちゃん、あなたの言う異端者(イレギュラー)っていうのには、私も含まれてるんでしょう?」

 

「…違う、確かにミキータは麦わらの一味には居なかったけど…それでも、ONE PIECEには…物語には登場してた立派な登場人物で……っいっ…!!」

 

ミキータが手を離した瞬間に、今度は逆の頰にロビンからの平手打ちが飛んできた。

既に彼女の海楼石の錠は解かれているけど、能力は使わず力だけで思い切り振り抜いたのだ。

 

「赤目さ…いや、イリス」

 

「!!」

 

「あなたは私に言ったわ、『夢なら簡単に諦めるな。もし諦めるとするならば、それは死ぬ時だ』と。…イリス、今回のは果たして…死ぬ時かしらね?」

 

静かに、だけれど確かに怒気を含んだ声色でロビンはただ私に問いかけて来る。

 

「…青キジに目をつけられた時点で死ぬ時だよ。世の中、どう足掻いたって勝てない存在は居るって…私は知ったん…っだっぼ!」

 

最後自分でも何言ったのか分からなかったけれど…そうなった原因がナミさんの顔面右ストレートだった。

能力も使えない私がその衝撃に耐え切れる筈もなく、ただ後ろにばたりと倒れると、ナミさんは間髪入れずに私に馬乗りになって胸倉を掴み上げた。

 

「あんた…本気で言ってんの…?」

 

「本気だよ、私はこの世界の住人じゃないし、つまり麦わらの一味じゃ…」

 

「そんな事どうでも、いいわっ!!」

 

ガツン!とナミさんに強烈な頭突きを入れられて視界がチカチカと点滅する。

ど、うでもって…!

 

「あんたの世界だとか、この世界だとか…ハッキリ言って全然何言ってるのか分かんないけど…!ただ、これだけはハッキリしてる…!!…私達の(・・・)世界には、あんたが居なきゃ始まらないでしょうが!!!」

 

「……ぇ」

 

「アーロンとクロコダイルを倒したのはルフィ?本来ならミキータは一味じゃなくて、そもそもあんたが居ない?一緒に居たら死ぬ?…あのね、正直に言わせてもらうけど…あんたにとってこの世界がどう見えてるのかは知らない…!だけど、私にとって、私達にとってこの世界は、あんたも居るのが当然なのよ!!」

 

「っ…!」

 

「あんたがアーロンとクロコダイルを倒したのがこの世界でしょ!!!

あんたが私を好きになって、私があんたを好きになったのがこの世界でしょ!!!そんなどこの誰とも知らない…あんたを知らない“私”のいる世界なんてどうでもいいの!!!死ぬだとかもそう…!あんたが居れば死ぬ?ふざけないで!あんたが居なくなったら死んでやるわ!!!」

 

ガン!と胸倉を掴んだまま甲板に私を押し付けてナミさんは尚も言葉を止めない。

その瞳からはボロボロと大粒の涙を流して、怒っている様な、だけれど縋るような…そんな感じだ…。

 

異端者(イレギュラー)だとか、青キジだとか、横取りだとかね…どうだっていいから、あんたは私達の傍に居なさいよ!!!今まであんたを信じて嫁になってくれた“みんな”に顔向けできないようなマネするんじゃないわよ!!」

 

「っ…何も知らないクセに、何でそこまで私を想えるの!!言っておくけど、前世の私の近くにいた大切な人はみんな死んだよ!!今回だって考えなくても分かる事じゃん!!バスターコールだけじゃない…!青キジまでここに来てる…っ!普通にやって勝ち目がある!?死ぬよ!私達全員…!!ここで!!!」

 

こんな、希望も何もない状況で…どうして私なんかを信用出来るの!!

いきなりとは言ってもあり得ないほど最低な罵倒を浴びせられて、それでもまだ私を助け出そうとしてる意味は…理由は…っ!!!

 

「前世のあんただか何だか知らないけど…じゃああんたは誰なのよ…!」

 

「…!!」

 

「ちょっとヘタレで、喧嘩早くて、ゾロを小馬鹿にするのが好きで、少しおバカで……、だけど仲間を大切にしてくれて、笑顔が可愛くて、年齢を間違えられて不貞腐れた顔も愛おしくて、泣きそうな顔してると抱き締めてあげたくなっちゃって、そして…誰よりも私達を愛してくれる。…私は…確かにあんたの前世は知らない。だけど…“イリス”の事は誰よりも知ってるわ…!」

 

「……っ」

 

ポロ…とナミさんが涙を零す。その瞳には私だけが映っていて…私だけを、見ているんだ。

こんな、海軍に囲まれた今でさえ…私の事だけを…!

 

「辛いなら、頼ってよ…!悲しいなら縋ってよ!!今更私達に何の重みも無い冷たい言葉を数だけ並べたって届かないわよ!!ねぇ…お願い…っ!私から……っ、…ぅう…、あんたを… 愛する人(イリス)を…奪わないで…っ」

 

「……、……私、は」

 

 

「イリスちゃんッ!!」

 

「オイイリス!聞こえてっか!!」

 

「おれも居るぞーー!!!あ、違う今はそげキング!狙撃〜の島で〜」

 

 

 

「み、んな…」

 

ためらいの橋は、バスターコールの影響で沢山の海軍に囲まれてるというのに…サンジも、ゾロも、ウソップも…そして大声を出せない程の深手を負ったチョッパーでさえも手を振って、私を見ていた。

 

 

「オオオオオオオオ!!!!!巨人の銃(ギガント・ピストル)!!!!」

 

ボォン!!と司法の塔から巨大な腕が現れた。

その拳の先にはルッチが居て、腕は当然…ルフィのものだった。

 

「イリスーーーッ!!!おれはこんな奴に負けねェ!!だからお前も、そんなトコで諦めんなーーーーーッ!!!うぉおっ、ち、ちっさくなる〜〜っ!!」

 

 

「…なんで」

 

ルフィなんて、私の事情を全く知らないくせにそんな事言って……。

…いや、違う。彼はいつもそうだった。どんな時でも誰かを助けて、人の心の1番大事な所に火をつけるのが上手な人だった。

事情とか、そんなの…ルフィにとってはどうだっていいんだ。

 

 

「……ね、イリス。あんた…これ見てもまだ自分を異端者(イレギュラー)だなんて言える訳?」

 

「…だ、って…っ」

 

「みんなあんたを思って、みんなあんたを失いたくなくて…それで命張っちゃってるじゃない。私もそうよ?もしあんたが青キジについて行くって言うなら、私も行くわ」

 

「キャハ、ナミちゃんだけ抜け駆けなんてずるいわ!私も!それからイリスちゃん、ウソップはイリスちゃんに決闘を申し込んだのよ?寧ろイリスちゃん以外は受けるべきじゃないと思うわ」

 

「フフ…私は元々助けてもらった命、あなたの隣で死ねるなら本望ね」

 

っ……だって、だって…!私は…っ、私は…最低な人間なのに…!

自分の事を最優先に考えて、起こす行動が勇気か無謀かの違いすら分からない!そのせいで殺したんだ!叶も、沙彩も、美咲も!!!

無謀な私がみんなを危険に晒して、そして死に近付かせた…!そうだ、私は本当にこの世界に居てはいけないんだ…!私は、この世界の住人じゃないんだ…!

だから本当は、みんなと一緒にいちゃいけないのに……!!!

また、みんなを危険に巻き込んで、美咲達の様に…殺してしまうかもしれないのに…!!

 

 

 

 

ーーーーーどうして、涙が止まらない…!!

 

 

「初めてあんたと会った時も、あんたはそうやって私の胸の中で泣いたわね。…何でもかんでも背負わないで…もうちょっと、私達を信用しなさいよ…バカ」

 

ナミさんが私の手錠に何かを差し込む。…まさか…、

 

「…私は、私達はあんたを信じてる。だからイリス…あんたも私達を信じて。何があったってあんたを1人にはさせない、異端だなんて2度と言わせない…!どんな苦難だって、あんたとなら何だって乗り越えられる!!今回もそう…ちょっと大将が居るだけ!ちょっと海軍に囲まれてるだけ…!だから、まずは無事に帰る為に…この状況を何とかしなさい!!」

 

「…は、はは…無茶言うよ」

 

ガチャリ、と私の手錠が完全に外れた。

それを見て流石に海兵達も黙っていられなくなったか再び武器をこちらに構えてくる。

 

「……本当、無茶、言うよ…っ」

 

「無茶を言ったのはあんたが先よ。…あんたが選んだ嫁達は…正妻は、ここであんたを…イリスを放って逃げる事が出来る女なワケ?出来るわけ無いでしょ…!私達は、私は…イリスが何者だろうとなんだろうと、心の底から……愛してるわ」

 

そう言ってナミさんは私にキスを落とした。…はは、こんな時でも羨ましそうにしてるミキータや、優しげに微笑んでるロビンが…本当にいつも通りで…。

ちょっと落ち着いてると思ってたのに、また溢れ出す涙に目を瞑る。唇に伝わる感触がより強く伝わって…たったこれだけの行為で黒く濁った私の心は優しくナミさんの心へと溶けていく。

 

ーーーそして次に目を開けた時、そこは前世の私の自室だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

いきなりこんな場所に来た事に対する驚きなんてない。何故なら、私からここに来たからだ。

 

「……全く、私は泣き虫だね」

 

流れる涙を拭いながら、机の前の椅子の上に浮かび上がる光の球に手を伸ばす。

 

『ひっ…ぐ、ぅ…、う!』

 

「もう…、…逃げてたのも、忘れる様にしたのも全部あなたなのに、今まで散々言ってくれちゃってさ」

 

逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。

恐怖から逃げて、絶望から逃げて、過ちから逃げて、そして、世界からも逃げた。

そして、出会ったんだよ。私はーーー“私達”は、何よりも代え難い宝物に。

 

「…もう、大丈夫だよ。どうやら私は… 宝物(みんな)が離してくれないくらい人気者だったみたい。…だからさ、いつまでも記憶(そんなトコ)に篭ってないで…ほら」

 

光の球が、次第に人の形へと変形していく。

そうして光が完全に晴れた時…そこには王華が居た。

 

「…王華として過ごした18年。そしてイリスとして過ごした約16年…私達は同じ存在でも、別々の記憶を持って育った」

 

『ぅ…、っ、う、ん…。だから…前世の死んだ私は、もう消えるよ…、私の心残りは……、っ…もう無いから…私の記憶を、今みたいに全てイリス()に託してーーー』

 

「私さ、思うんだ」

 

王華の言葉を遮って、私は強引に話をしていく。

当の王華は目をぱちくりとさせて私の言葉を待った。

 

「私は16年間、入州 王華としての記憶がほとんど無く育って来た。あったのは知識と、朧げな、本当に朧げな記憶。…ね、そんな状態の私達ってさ、本当に“同じ人”?」

 

『え?』

 

「私は違うと思うんだ。私とあなたは確かに入州(イリス)だけど、私はあなたじゃないし、あなたは私じゃない。…つまり何が言いたいか、わかる?」

 

王華は、分からないとでも言うように首を振って続きを促した。

ほらね…分かってない時点で、私達はやっぱり同じじゃないんだ。

 

「同じじゃないって事は、あなたは私とは違う女の子(・・・)

 

『!!…まさか…』

 

「そう…!だったらさ、私の前から消えるなんて…許す訳ない!!」

 

ガシ!と王華の手を掴んで引き寄せる。彼女の大きな体が私に引っ張られた為、体勢を崩して膝をつき、私と同じ目線となった。

 

「あなたは消えない…!私と今度こそ1つになって…私の中で生き続けて貰うからね!」

 

『っ…でも、そんな事したら、私を消さなかったら、またあなたに宿った記憶は私に戻ってくるよ!!そうなったらこの世界の未来も分からない!それに私は、もう、耐えられないよ…っ、美咲達を殺した私が、まだ幸せになりたいだなんて…っ!!』

 

王華の悲痛な感情が私に刺さる。

…私は、美咲達に対して物語の登場人物くらいの認識しかない。…それは、実際に彼女達と仲が良かったのが王華だから。

 

「…ねぇ王華、王華は死ぬ前に、何を願ったの?」

 

『え…?』

 

「覚えてない?…自分が生まれ変わるよりも、優先して欲しい3人が居るって…強く願ってたでしょ」

 

王華は目を見開く。私の言わんとしている事に気が付いたからか…その瞳には、さっきまで一切感じられなかった“希望”が見えた。

 

「私があなたの人生を継いでいるのに、この世界に美咲達が転生してない筈がない。優先されてる筈の3人が居ない訳がない。…だというのに、死ねないでしょ」

 

だから…!!

 

「…記憶が無くなるのは、良いんだよ。私は予言者でもなければ女子高生でもないんだから。…絶対に、美咲達も見つけられる!何年後かは分からない…もしかしたらお互いお婆ちゃんになってるかもしれない…!だけど約束する。…絶対に探し出してみせるって!」

 

『…っ…私、期待しても、いいのかな…!』

 

胸の前で片手を握り、その瞳はまだ戸惑いで揺れながらも入州が力強く私に問いかける。

 

「あなたが今世を託した“イリス(わたし)”は、やると言ったらやる女だって知らないの?私は負けないよ…世界にだって」

 

『っ…、…ぷ、…はは、諦めかけてたのに良く言うよ』

 

「なぬー?そもそも私がああなったのもあなたの負の感情が大きすぎたのが悪……っと」

 

涙で塗れた顔を拭くこともせず、王華はその端正な顔立ちをぐちゃぐちゃに歪めて私に飛びついた。

 

…きっと王華は死ぬほど辛かった筈だ。

転生しても意識は私にあったから、彼女は記憶と共に私の中に封印されて…そこで光の球として過ごして来た。

だけれど…私が忘れていた彼女は、結局いつも大事な所では力を貸してくれたよね。例えば私の髪の色が変化するあの変化だって…あれは王華の白髪が原因に違いないし、覇王色はもともと彼女の素質だ。

 

 

「今度はもう、絶対に忘れたりなんかしない」

 

 

王華と私の体が薄くなり、重なり合う。

それを境にして、前世を形作っていたこの空間にガラスが割れた様な亀裂が入った。

 

「3人の事も、絶対に見つけ出してみせる」

 

2人のイリス(入州)が混ざり合い、そして…私の中にあった記憶が段々と抜け落ちていく。

この世界での思い出はそのままに、前世の記憶がすっぽりと…だけれど“王華”や“約束”の事は何1つ忘れずに…。

 

「だからさ、特等席で見ていてよ。この先の未来と…希望に満ち溢れた世界を。そしてこれから始まる、新たな私の…私達の物語をーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー『ハーレム女王を目指す女好きな女の話』を!!!」

 

 


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