ーーー・・・いやぁ、だからさあ。これはきみのやり直しのチャンスなんだよ。
ーーー・・・いや、やり直しというのも適切じゃないかな?
ーーー・・・挑戦だ、そうだ挑戦だよ。偉大で愚かで莫迦げた人生の挑戦だよ。
「まあ、きみは首を縦に振るだろうね」
ハツユメロンパ プロローグ1
…………。
……………………。
目を開ける。眩しくてまた目を閉じる。今度はゆっくりと目蓋を開ける。
電灯が真上にあるのを確認して、視線を動かす。
天井が白い。
次に上半身を起こす。床に直接寝っ転がっていたようだ。
壁や床も白い。一面真っ白な部屋だ。
自分は何故こんなところに寝っ転がっていたのだろうか。
確か、自分は【超高校級の幸運】に選ばれた為、色々な【超高校級】が在籍する『希望ヶ峰学園』の入学が決まったんだった。
そして日付が変わっていなければ今日、その入学式だ。
「そうだ、俺は入学式に向かう途中から記憶が無い……!」
誘拐か?いやそれにしてはどこも縛られてない状態だ。
見ると部屋のドアを開いている。部屋に軟禁でもない。
ともかくずっとここにいても仕方ない。
部屋を出てさっさと出口を探して外に出よう。
硬い床に寝込んでいたからか、少しばかり固くなった体を解しながら立ち上がる。
部屋から出て廊下に出て、目を見開いた。
「なっ…」
廊下一面の窓が全部鉄板、鉄線、鉄棒などで打ち付けられており、窓としての機能を果たしていなかった。
隙間から入る光から、夜ではないことだけがわかる。
「なんだよこれ……」
いや、窓はともかくどこかに必ず出入り口はある筈だ。
ここでただ茫然と立ち竦むだけじゃ何も変わらない。
一先ずはこの建物を探索し、何か情報を集め最終目的は此処からの脱出だ。
大丈夫だ、俺は【超高校級の幸運】に選ばれたんだ。
そうして、薺 幸星(ナズナ コウセイ)は歩みを再開した。
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探索を開始した薺がはじめに見つけたのは1人の少女であった。
少女は人が来たことに怯えたあと、薺が同い年くらいの人とわかると、ホッと胸を撫で下ろした。
「わたしは逢田 琉羽(アイダ ルウ)。入学式に行こうとして、外を歩いてたら気づいたらここにいたの」
「俺も、入学式に行こうとしてたらここにいたんだよ」
「わっ!偶然かな、それとも誘拐犯が新入生を狙ってたのかな?」
「まだわかんねーけど、もしそうなら俺たち以外にも同じ状況の人がまだいるかもしれない」
「じゃあ一緒に探そう!」
「おう、わかった」
逢田は、左右のツインドリルの髪を揺らしながら歩く。
すごい髪だな、毎日セットは大変じゃないか?と薺が聞くと、さらりとウィッグだと答えた。
いわゆる付け毛だから、パチンと止めるだけだよー。とも付け足す。
「なんでそんなのつけてるんだ?」
「うーん、見た目のインパクトの為?に最初やって、それからこの髪型がわたし!みたいにファンの皆も印象が強いみたいだから」
「ファン?」
「ああ、うん、わたしアイドル!と言ってもテレビには出たことはないネットアイドルなんだけどね」
「でもファンがいるんだろ?ならすごいじゃん」
「そうかな?そうだね、そうだよね!えへへ……っ」
嬉しそうに逢田の歩みがスキップに変わる。
「わたしだって【超高校級のネットアイドル】に選ばれたんだもん!」
超高校級、その言葉に薺は「俺も」と声を出す。
「俺も超高校級。【超高校級の幸運】に選ばれてる」
「ええー偶然!あ、でも違うのかなこの状況!?」
「んん、今日が入学式だった【超高校級】の新入生ってのが俺たちの共通事項……?」
「他の人、他の人もそうだよ、次人にあったら聞いてみようよ」
「そうだな」
そう話していると、バタリ、曲がり角で人と対面した。
相手も同じ二人組で、向こうは女子2人の組み合わせだ。
変わった形のパーカーのフードをかぶった少女と、民族衣装のような服を着た少女だ。
「噂をすれば影ーーー!」
「人を指さしちゃいけません」
「ごめんなさい!」
ビシッと叫びながら相手を指さした逢田の腕を押し下げる。
対面した2人のうち1人が、戸惑いながら話しかけてきた。
「あ、あの、貴方達も私達と同じで、気づいたら此処にいた感じなのかな?」
オランダの民族衣装を見に纏った少女は、琴鳴 奏薇(コトナリ ソラ)と名乗る。
薺と逢田も、同じくそれぞれ名乗った。
「守菓ちゃんと同じ部屋にいて、それで2人で今まで行動してたの」
「そ〜そ〜、きみらとが初遭遇〜第一村人〜」
「この子は紗藤 守菓(サトウ シュカ)ちゃん。私と同い年の高校一年生なんだけれど、有名なコンフィズールなんだよ」
「こんふぃずーる?」
逢田が首を傾げる。薺もあまり聞き覚えが無かったから正直に「悪い、それってなんだ?」と尋ねた。
特に気分は害した風は無く、紗藤は長すぎて指先も見えない袖をパタパタ振りながら答えた。
「コンフィズール、すなわち砂糖菓子職人、その【超高校級のコンフィズール】がぼくなんだよ〜」
「砂糖菓子!ええーすごい!わたしも食べたことあるかな!?って、あ!超高校級!ビンゴだよ薺くん!!」
「いや、ビンゴならせめて5人揃えようぜ?」
「私達以外にも超高校級が……というよりも、薺くんと逢田さんも?」
「おう、俺は【超高校級の幸運】で、こっちが」
「【超高校級のネットアイドル】だよ!あと琉羽でいいよ!」
「じゃあ琉羽ちゃんって呼ぶね。私が【超高校級のオルゴール技師】です」
これはもう決まりだね。逢田は「謎解けました!」とばかりに踏ん反り帰った。
実際にはあまり何も進歩はしてないのだが、そこを細かくとやかく言う必要は無い。
「ね〜ね〜、今年の入学生って何人だっけ」
紗藤が疑問を出して琴鳴が答える。
「例年通り16名だよ」
「じゃああと12名だね〜」
「えっ、なんで?」
「ここに4人、新入生の【超高校級】がいるなら、誘拐に失敗しない限り、全員集めるんじゃないかな〜?」
「あ、そっか、そうなるよね」
「でも俺たち入れて16名、それなりな人数集めて目的はなんなんだ?」
16名という人数、それも同じ学園本日入学する者達なんて、身代金目的や、絶望党の仕業にしても、色々とおざなり過ぎる。
せめて縛るか、部屋の鍵をかけるか、見張りを置くかするべきだろう。
窓は確かに強固に閉まっているが、だとしてもやはり色々甘い。
「わからない……けれど、正直ホッとしてる。
私1人だったらきっとどうにかなってたから、最初の目覚めた部屋に守菓ちゃんがいて良かったし、薺くんや琉羽ちゃんにも会えて良かった」
にこり、と琴鳴が微笑む。
「わかる!わたしも薺くんに会った時めちゃくちゃ安心した!」
「最初びびってなかったか?」
「薺くんを認識してからは安心したからセーフ!」
「ぼくもそらりん達みんなに会えてよかったよ〜」
「あ、ほらやっぱりえりるたち以外にも人がいたよ!」
一つの部屋の中から声がする。ドアは開いてたのでそのまま覗き込む。
5人、男3人と女2人のグループだ。
声を出したのは、そのうちの少女で、海兵スタイルの様な帽子とセーラー服に身を包んでいた。
「えっ、小学生もいるの!?」
逢田がびっくりした声を上げる。確かにこの少女は背もだいぶ小さく、幼い顔つきをしている。
多分だが、身長は140cmあるかないか、だろう。
「小学生ってえりるのこと!?ちっがーうよ!えりるはりっぱな【超高校級の航海士】なんだから!」
「ごめんなさい、見た目で判断しちゃいました!」
「しつれいな人だなあ、もう」
「ほんとごめんね?わたしは逢田琉羽!【超高校級のネットアイドル】だよ!」
逢田に続いて、薺達も自己紹介をしていく。
4人が紹介し終わると、えりると名乗っている少女は、「えりるは二絽 えりる(フタロ エリル)だよ」と改めて名乗った。
そして部屋の中にいる、人達にも自己紹介を促す。
「はくいおねーちゃんやいのりくん達も!」
「ええ、じゃあ私から。私は【超高校級の栄養士】羽咋 双葉(ハクイ フタバ)よ。美味しくて栄養バッチリの料理が得意なの」
「僕は祈里 聖(イノリ ショウ)。【超高校級の聖職者】だ。よろしく頼む」
「オレは【超高校級の植物学者】の三枝 千種(サイグサ チグサ)って言うんだ。よろしくな!」
「俺は春坂 雅大(ハルサカ マサヒロ)だ。【超高校級のスキーヤー】だ」
「いやあ、こいつすげーよ。色んなスキーの大会出ては次々と優勝してんの。
よくTVにも試合結果とか写ってるからある意味アイドル並の有名人!」
「うるさいぞ三枝。大なり小なり俺達は【超高校級】と呼ばれるレベルなんだ。それなりに有名なのにはどいつも変わりないだろ」
「えー、でもオレテレビに出るタイプじゃないしな」
「それだと私も普段学業以外はこもってオルゴール作ってるからそこまで有名じゃないかも」
「そらりん達は知る人ぞ知る!って感じかも〜」
「そもそも俺は抽選で選ばれた幸運枠だからどっちでも無いな」
「え、お前幸運枠?すげーじゃん!」
三枝が薺を見る。
元々、毎年の希望ヶ峰学園の新入生は15人の【超高校級】に選ばれた少年少女からなっている。
それにもう1人、『幸運枠』として選ばれる。
全国の中学三年生の中からたった1人だけ、クジによって決められた【超高校級の幸運】。
それが今年は薺が選ばれたのである。
「おう、すげーだろ。讃えろちなみに特技はとくに無い!」
「ブッハ、高慢なのか謙虚なのかどっちだよ!」
「はったり、かな」
「ドヤ顔で言うことじゃないだろ幸運様も!」
「様付けするな幸星様にしてくれ」
「ヤだよ!そんなら普通に幸星って呼ぶからな!」
「じゃあ俺は三枝って呼ぶな」
「え、下の名前で呼んでくれない……?」
「まだ出会って数分だし……よく知らないまま下の名前はちょっと」
「まじで、じゃあこれから知ってて」
「おう」
「漫才は終わったのか?」
神父の格好をした祈里が咳払いをしながら2人に声をかける。
「聖!漫才じゃなくて友情を紡いでたんですー!」
「ああ、悪い、何か待たせたか?」
「いや、君たち以外で情報の共有してたんだが、この建物以外にも、まだ建物があるんだ。
この先に渡り廊下があって、別の建物につながっている」
「そしてここは2階だ。ちなみに1階には誰もいなかった。そして玄関は窓のようになっていた。」
「私達5人で、向こうの建物に行くか話してた時にえりるちゃんが貴方達を見つけたのよ」
祈里に続いて、春坂、羽咋が状況を説明する。
「で、今向こうに行こうって方向になったんだが、2人はそれでいいか?」
再び説明が祈里に戻る。祈里の問いかけに、薺と三枝は頷いた。
「ああ、大丈夫だ問題ない」
「そんな装備で?」
「偶然だよ、今のは!でも装備ってもオレなんも持ってないな」
「私も守菓ちゃんも、目覚めた時は鞄も携帯もなくなってた……」
「えりるたちもだよ!お気に入りの帽子がぶじでよかったけど」
「せめて携帯は手元に戻ればいいのだけれど……」
「向こうの建物にあるかもしれない。きちんと為すべき事を為せば神も見ていてくださる」
「じゃあとりあえず進むか?」
「正直ここにいてもなんにもナッシング〜ってことで早速ゴーゴーだよ〜」
歩き始める紗藤の後を追って、9人は渡り廊下を進んでいった。
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渡り廊下を進んで、別の建物に入る。
渡り廊下から入る扉は特に施錠はされておらず、問題なく移ることが出来た。
「あれ、これって……」
薺より前に入った逢田がポツリと呟く。
「学校の校舎……?」
1-2と書かれたプレートがドア横に掲げてあり、ガラリと引き戸を開けて見た中は机と椅子が並び、前後に大小の黒板がある。
一般的に思い浮かぶ『教室』そのものだった。
「こっちは学校だったのか……?えと、時計は、これが正しいなら今は13時か。……ちょっと腹減ったな」
「生徒や先生は誰もいないみたいだね。休校なのかな?」
「普通の学校は窓に鉄板や有刺鉄線張り巡らさないと思うよ……?」
そう、琴鳴が言うように、こちらの窓も、元居た建物と同様の状態だ。
それさえ無ければ普通の学校の廊下なのだが。
「あ、みんなみてみて!」
教卓から二絽が手招きをする。みてみると破かれたメモ帳が置いてあった。
「なになに、『音楽室にいる』、か。オレ達と同じ【超高校級】のやつか?」
「誘拐犯からの呼び出しの可能性は〜?」
「それならこんな切り端で気づくかわからないようなところに置かないだろう。黒板に書けばいい」
「僕も春坂と同じだ」
「それじゃあ音楽室に向かいましょう」
「それなんだけど、この場所を集合場所にして、二手に別れるのはどうかな?」
「えりるもことなりおねーちゃんにさんせー!」
結果として、薺、逢田、二絽、羽咋、三枝と、祈里、琴鳴、紗藤、春坂で別れた。
薺達は音楽室、をはじめ特別教室。
祈里達は音楽室とは別方向。所謂一般教室の方向をみて回ることとなった。
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