合衆国召喚~星条旗異世界にはためく~   作:アスタラビスタ

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三毛猫@読み専様 誤字報告ありがとうございました。


2話

????年 ?月??日 20時33分

ワシントンD.C. ホワイトハウス

 

ワシントンは季節外れの降雪に見舞わていた。

事の起こりは1日前に発生した謎の発光現象からであった。

発光現象自体は一瞬の事であったが、現象以降ワシントンD.C.は7月のうだるような暑さから一変し1月の凍えるような寒さへと変わってしまったのだ。

そんなワシントンD.C.はホワイトハウスの保安ゲートを国務省のナンバーを付けた黒塗りのリンカーン・ナビゲーターが通過した。

車はそのままホワイトハウス南玄関の湾曲したドライブウェイを上っていった。

車の後部座席には国務省トップであるシドニー・アントニオ・レンツ国務長官が乗り込んでいた。

レンツがブリーフィングの要綱を纏めたタブレット端末から目を上げれば、前方で光るブレーキランプを見ることが出来た。

それが危機対策チームの他のメンバーの到着を告げていた。

レンツの車がその車の後方に止まったとき、前方の車からニコール・フラワーズ国家安全保障局(NSA)長官が降り立つのを見た。

片手にブリーフケースを持ったフラワーズはそこで立ち止まり、レンツが降りるのを待った。

 

「幸運をお祈りします、長官」

 

レンツの運転手を務めるシークレットサービスの警護官が後部座席を振り返りながら言う。

 

「ありがとう、フランク」

 

「昨日は何をしている時に連絡を受けたの?」

 

玄関口でコートの雪を払い落としながらフラワーズが訪ねた。

 

「ドイツ首相との長い一日の準備していたところさ、彼は西ヨーロッパでもっとも退屈な10人のうちの1人なんだ」

 

「運が良かったわね」

 

ブロンドの髪が白くなりかけている長身の女性長官は溜息をついた。

 

「わたしはジョーと一緒に娘の結婚式に参加する為に西海岸に行くところだったのよ」

 

「今、運がいい人間は合衆国にはいやしないよ、フラワーズ。全くもって厄介なことにね!」

 

二人はホワイトハウスのカーペット敷きの静かな廊下を足早に歩きながら言い合った。

ホワイトハウス地下に存在するブリーフィングルームに通じるエレベーターの左右の固める警備チームに近づくと二人は会話を止めた。

この政権発足以来幾度となくここに通っているがそれでもシークレットサービスの警護官は、いかにもアメリカ人らしいレンツの彫が深い顔と身分証明書の写真を見比べた。

そして証明書のICチップをスキャナーにかざし、国務長官が名乗った通りの人物である事を確認する。

NSA長官にも同様の保安手順が繰り返えされ、二人はエレベーターに乗ってホワイトハウスの地下2階へと降りていった。

 

「なにかしら纏められた?」

 

エレベーターが動き出すとフラワーズはたずねた。

 

「なにかしらは。ボスが満足するかはわからないがね」

 

レンツがそう言ったところで、エレベーターのドアが開き目的地に着いた事を知らせる。

 

 

 

????年 ?月??日 20時40分

ワシントンD.C. ホワイトハウス地下2階 大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)

 

「それで紳士淑女諸君、今回の…特異現象に関して現時点での状況報告を実施して欲しい」

 

しばらく前に改装された大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)は壁も、楕円形の大きな会議用テーブルもその周りに置かれた椅子も焦茶色に統一されていた。

カーペットは青色のビロード製だ。

四方の壁には大型の有機ELディスプレイが埋め込まれている。

優秀な空調のおかげで地下130ftとはとても感じられない空間に大統領の声が響いた。

オブライエンの声に、ブリーフィングルームに静けさが訪れる。

誰しもが互いの様子を伺っている様であった、そんな中大統領の斜め右に座っていた白人男性が立ちあがった。

スーツ越しでもわかる筋肉質の肉体と髪を刈り上げたスタイルの男性、国防長官のジェラルド・W・ボーウェンであった。

 

「国防総省からですが、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)からの報告によれば観測していた軌道上の衛星すべてがロストしている事を確認しております。これは我が国および同盟国、ロシア、中国すべての衛星です。これにより全てのNAVSTAR衛星(GPS衛星)SATCOM(衛星通信)、偵察衛星、早期警戒衛星に至るまでありとあらゆる軌道資産が壊滅状態になっています」

 

「復旧にはどれ程かかる?」

 

「各衛星本体に関しては地上予備機を使用できます。打ち上げロケットに関しては現在予定されていた軍・民間問わずスケジュールを変更しかき集めています。ただ問題があり、これに関しては後程NASA(アメリカ航空宇宙局)の方からご報告します」

 

ボーウェンはそこで一度間を開けてつぎの話題に移る。

 

「そして…核抑止体制については本土のICBM(大陸間弾道ミサイル)部隊と爆撃飛行隊との連絡はついておりますが、任務中であったオハイオ級SSBN(戦略ミサイル原潜)2隻との連絡が途絶しています」

 

国防長官の報告に室内が騒めいた。

オブライエンはこめかみを押さえる様にしながら続きを促す。

 

「ティンカー空軍基地よりE-6 TACAMO機(通信中継機)を飛ばしていますが全くもって連絡が付きません…恐らくですが…元の…地球に残されていると思われます。」

 

ボーウェンは恐らくこの室内の誰しもが言う事を躊躇っていたであろう単語を口にする。

 

「ボーウェン…その言葉を口にするからにはなんらかの確証を持っているのだな?」

 

オブライエンの言葉にボーウェンは「もちろんです」と答えるとディスプレイを操作する職員に合図を出す。

四方のディスプレイが大統領府のロゴマークから切り替わり、なんらかの空撮映像に切り替わった。

 

「これは?」

 

「いまから12時間前にサンディエゴを発進した海軍の哨戒機が撮影した映像です。」

 

そう言うと映像にオーバーレイされるように地図が映し出された。

地図上にはサンディエゴの場所を示す光点と哨戒機を示す三角形のマークが記されていた。

 

「サンディエゴを発進した哨戒機は針路を南西に取りました。そして南西約1200mi(約1900km)の地点でこれを確認しました」

 

地図上の三角形が左下に動きある一点で停止すると再び空撮映像へと切り替わった。

映像には海岸線がハッキリとみてとれ海岸線から続く内陸がこれが岩礁や島嶼ではない事を物語っていた。

その映像に室内はざわつきはじめた、ボーウェンは一度言葉を区切ると再び説明を始める。

 

「ご存じの通り、本来であれば太平洋上のこの様な場所に陸地は存在しません。そしてこちらをご覧ください」

 

再び映像が切り替わった、先ほどまでは正対して接近していく映像であったがこんどの映像は平行に飛行しながら撮影した映像の様であった。

しばらくすると映像が進行方向にパンする、そこには都市らしきものが写し出されていた。

無段階ズームで映像がよるとデジタル処理された鮮明な都市の姿が露になった。

16世紀ごろのヨーロッパを思わせる街並みが広がっており、市街地を囲む様に城郭が聳え港湾の様な場所には帆船の姿が確認できた。

 

「これは…」

 

「お分かりいただけると思いますが、この映像は本物です。そしてこちらを」

 

映像のなかの都市が更に鮮明になったところでカメラがパンし、城郭上を映し出す、そこには甲冑を着込み弓を装備した幾人もの人間がカメラの方を見上げていた。

カメラは次第に遠ざかっていきそこで映像がストップした。

 

「哨戒機はこの陸地でご覧いただいた都市を確認しました、詳細な分析についてはNRO(アメリカ国家偵察局)が実施しておりますが、おそらくは15~16世紀程度の文明かと思われます」

 

オブライエンは顔を両の手で覆う様にしてから小さな声で「なんということだ…」とつぶやく。

そして暫くの間をおいてボーウェンに続きを促した。

 

「そしてですが…私も正直信じられない画像でしたがこちらを」

 

ディスプレイに一枚の静止画が映し出された、瞬間室内にどよめきが広がった。

そこには空想の産物とされ映画やビデオゲームの中の存在であるはずのドラゴンが映し出されていたのだ。

そして驚くべき事にドラゴンの背には甲冑を着込んだ人間の姿と尾の付け根にはなんらかの意匠を施した旗がなびいていた。

そしてどよめく各員を他所に更にもう一枚の画像が映し出される。

そこには先ほどと同じドラゴンが12体映っており、横一列にカメラの方を向いて口を大きく開けている画像であった。

 

「こちらも同じ哨戒機が撮影した画像になります。一枚目は陸地から14mi(約24km)の地点で、二枚目は最初の接触地点から約90mi(約150km)の地点です。最初の都市に居た兵員とこのドラゴンに乗っていた兵員の甲冑と旗の意匠が似通っている事から同一の軍組織かそれに準ずるものと思われます」

 

「つまりはこの…未知の陸地には国家かそれに準ずるものが存在する訳だな?」

 

「私はそう確信しております」

 

「そうか…レンツ、君はどう思う?」

 

話を振られたレンツはネクタイを一度緩めると手元の資料に目を落としてから発言する。

 

「国務省としては、もし仮に国家やそれに準ずる組織があるのであればコンタクトを取るべきと申し上げます。…ですがまず最重要問題として言語があります。元の世界…地球では約7000種、主要な言語でも30種以上の言語がありました。これらは長い年月と専門家の手によって翻訳され我々の言語に落とし込む事が出来ました。ですがこの世界…新世界とでも申し上げましょうか、この世界の言語に関して全くサンプルがないのです。」

 

レンツはそこまで言うと一度手元のペットボトルから水を口に含む。

 

「現在、大学・研究機関の言語学の専門家を招集し特別チームを編成する様に指示を出しております。仮にコンタクトを取るのであればこれら特別チームを同行させ意思疎通を図りたいです。またこの国家の反応が分からない事も不安要素です。私としましては万が一に備え軍…海兵隊を帯同させるべきだと考えます」

 

オブライエンはレンツの言葉を聞けば、数舜考えこみ口を開く。

 

「私も同意見だ、国務省と国防総省はその方向で動いてくれ…次は――」

 

対策会議は日を跨ぐまで行われた。

そして2日後、サンディエゴから国務省職員、専門家チームを乗せたワスプ級強襲揚陸艦 USSボノム・リシャールを中核としたボノム・リシャール遠征打撃群(ESG)が合衆国北西に位置する未知の陸地に向け出港した。

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 マイハーク沖合 60km

 

マイハーク港を母港にするクワ・トイネ公国海軍 第2艦隊に属するガレー船ピーマを旗艦とする4隻の小艦隊は穏やかな海を帆に風を受け進んでいた。

彼らの任務は洋上から侵攻してくる敵国海軍の早期発見と増援が来援するまでの時間稼ぎであった。

そしてこの小艦隊を指揮する旗艦ピーマ 船長ミドリは一段高く作られた船尾に立ち望遠鏡を片手に周囲を見回していた。

彼は出港時に艦隊司令官ノウカからの言葉を思い出していた。

曰く、6日前に未確認騎がワイバーンを凌ぐ速度でマイハーク上空に飛来し、なにをするでもなく去っていったという物であった。

国籍こそ不明であったとの事だが関係が悪化している西のロウリア王国か海の向こうの列強国パーパルディア皇国の偵察ではないかと上層部は考えている様だった。

そして偵察があったという事は侵攻も考えられる状況であった為、第2艦隊は持てる戦力で周辺海域の哨戒活動を実施していたのだ。

ミドリのそんな思考はマスト上から見張りを行っていた水兵の声で途切れた。

 

「右舷水平線上!距離約26km!船影!!」

 

「なに!?」

 

ミドリはその報告に望遠鏡を覗き込み右舷に目をやる。

しかしミドリの位置からではまだ水平線の下の為か確認する事が出来ない。

 

「何隻だ!」

 

「1隻です!」

 

見張りに発見した船の数を問えばそう答えがかえってきた。

 

「艦隊ではないのか…全艦戦闘準備!。通信士!マイハークの艦隊司令部に連絡をするんだ!」

 

ミドリの指示で、水兵達が慌ただしく動き出す。

白兵戦要員は鎧を着込み、甲板上に設置されたバリスタにも人員が配置される。

漕ぎ手達も海面へと櫂を下ろし、太鼓の音に合わせ漕ぎ始める。

ミドリも自身の鎧を着込めば、ようやく水平線上に姿を現した不明船を睨みつけた。

 




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