魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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置いとくゾ

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Crazy Great Thing Called Love
紅蓮の槍


 

 さやかと仁美の共通点といえばなんだろう。まぁ問題提起しておいてなんだが、言うまでもなく上条恭介という男子だろう。同級生や友達という面も確かに共通点と言えるが、そこまで広域に考えてしまうと狩人である私ですら彼女達と共通点を持ち過ぎてしまう。

 二人は上条恭介のお見舞いという大義名分を持ちながら、その実好きな男子に会いに行きたいという欲求の為に病室へ向かう。

 なぎさが“生活していた”部屋を通り過ぎ、そのまま恭介の部屋へと辿り着く。

 

「まさか仁美も隠れてお見舞い来てたなんてね〜。流石のさやかちゃんも気づかなかったわ〜」

 

「でも、この頃はお稽古も忙しくて中々お見舞いにも来れませんでしたの」

 

 適度な会話をしつつ、二人はノックして病室の扉をスライドさせる。

 二人にとってはいつもの事だった。いつものように扉を開け、ベッドの上の上条恭介に挨拶をする……それだけの事だったはずだ。

 

 前提として、二人とも上条恭介の絶望的な快復を知っており、今日はその励ましのために来たというのに。

 

 

「やぁ、二人とも。一緒なんて珍しいね」

 

 

 いつもと変わらぬ……されど少しばかりの爽やかさを伴った声で二人を出迎える少年。その少年を見て、二人は固まった。さやかは肩に掛けていたバッグを落とし、仁美は口を上品に押さえて驚きを表す。

 昨日まではあれだけの怪我を負っていた少年は立っていた。それだけではない、もう二度と動かないと医師に宣告された左手で、マグカップを持ちながら優雅にコーヒーを飲んでいるのだから、驚かないはずがないのだ。

 

「きょ、恭介、腕……」

 

 さやかの言葉でようやく気がついたのか、恭介はああ、と言って答える。

 

「治ったんだ。さやか、やはり君が正しかった。奇跡も魔法も、あるんだね」

 

 今までに見たことのない、どこか達観したような表情で。ただ二人を迎え入れる。どこか変わったような想い他人……でも二人は互いに歓びを隠しきれなくて。人魚姫となるはずだった少女は涙し、蚊帳の外だったはずの少女はそんな人魚姫のなり損ないの肩をさする。

 ふふ、キュゥべぇくん。覚えておくことだ。何も願いを叶えれば少女は狩りに勤しむのではないのだ。そこには確かに、見返りが必要なのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、私とマミは街の治安維持を名目に魔女探しに勤しんでいた。ゆっくりと落ちる陽を背に二人とも制服で、街の隅々まで魔女の反応を探していく。

 しかし何だ、この世界の男というものはやはり獣だな。制服を着て中学生と分かっているのにも関わらず、良い歳の大人が声をかけてくる。マミ曰くそれはナンパというやつで、しょっちゅうだそうで。やはり私は正しいのだ、百合とはつまり何物にも勝る。男など、誠実で無ければ有り得ない。

 

「あら、使い魔かしら」

 

 と、マミがソウルジェムに映る反応を見て呟く。使い魔か……できれば魔女になるまで放っておきたいが。彼女と共にあるならば、そうもいくまい。

 あまり治安の良くなさそうな裏路地に入り、やはり居る魔女の手下共に出会す。だがしかし、マミは強い。それらをものの数秒で一蹴すると魔女結界はあっさりと消え去ってしまった。

 

「私が一緒にいる必要はあるかな?」

 

 半ば自嘲気味に言うと、マミは少し機嫌を損ねたのか眉をハの字に歪めた。

 

「私が寂しいじゃない」

 

「ふふ、素直なマミも嫌いじゃないよ」

 

 そうして今日の分の魔女探しは終わりを迎える……と、マミは思っていたのだろうが。すべてを見通す私の瞳が囁く。物好きな少女が私達を眺めていると。

 路地裏から出ようとするマミだったが、一向に動かない私を訝しんで言った。

 

「どうしたのマリアさん?」

 

 そう尋ねられ、私は見滝原中学校の制服からいつもの狩装束へと姿を変える。しかしこの狩装束、ワンポイントで襟元の赤いタイがあるとは言え少し地味だな……まぁ銀髪と白い肌に映える黒は気に入っているが、今度誰かに頼んで私も魔法少女のような可憐な衣装を作ってもらおうか。

 冗談はさておき、私は腰に下げた落葉を抜きもせずに声を鳴らす。

 

「出て来給えよ、恐れることはない」

 

 マミはそんな私の言動の意味を尋ねようとして、気がつく。私の背後、建物の上に居座る……紅蓮の少女。キュゥべぇが言っていた、厄介な魔法少女に。

 

「へぇ、よく気づいたじゃん」

 

 少女は飛び降りると、およそ人ではミンチになりそうな高さを物ともせず着地した。振り返れば、私は新たな少女に期待を込めて視線を送る。

 ああ、まさしく聖女。それもただの聖女ではない。あれはそう、私が好きな部類の……狩人として優れた、それでいて心は美しい聖女だ。

 脳が震える。啓蒙だ、瞳が新たな啓蒙を授けたのだ。私は交信したい気持ちをぐっと抑えた。

 

「佐倉、さん」

 

 マミが、その少女を視認して震えた。どうやら知り合いのようだ……ふむ、今カノが私だとして、彼女は元カノのようなものだろうか。いや、弟子か。

 赤い少女は鼻で笑い、

 

「はっ、新しい魔法少女が生まれたって聞いて来てみりゃあ……なんだいマミ?無関係な一般人を巻き込んで、まだこんなことやってんのか?」

 

 こ ん な こ と。……なんだ今の啓蒙は。

 私は下劣な啓蒙を振り払い、少女の考察を始める。なるほど、どうやら彼女は現実主義のようだ。マミとは違う……魔法少女は正義の味方ではないと。グリーフシードを落とさない使い魔を殺されてご立腹というわけか。

 

「あと2、3人食わせりゃ立派な魔女になっただろうに。相変わらず甘っちょろいなあんたは」

 

「佐倉さん、どうしてここに?」

 

 マミは魔法少女姿になりつつ、質問を重ねる。

 

「今言ったじゃん。新しい魔法少女がどんなやつか見に来たのさ。ま、結局勘違いだったみたいだけどね」

 

 キュゥべぇめ、何が厄介な魔法少女が来る、だ。君が教えたんじゃないか。まあ良い。同じく宇宙を共にする者として、今回の件は不問に処すとしよう。私としても、新たな魔法少女は好ましいからね。

 警戒し、私の前に行こうとするマミを制する。不思議がる彼女を他所に、私は佐倉、という魔法少女に言葉を投げかけた。

 

「いかにも、私は魔法少女ではないさ。でも、そうだね。強さだけで言ってしまえば私は君たちよりもうんと強いだろうね」

 

 自惚れでもハッタリでもない。それは紛れもない事実だ。事実、私は強い。ゲールマンを下し、時計塔のマリアを殺し、獣に成り果てたルドウイークでさえ救済して見せた。鐘の音に呼び寄せられた狂人達を屠り、上位者すらも狩ってみせるのだ。これが弱いわけがないだろう?

 私の言葉が癪に触ったのか、少女は私を品定めするように眺める。

 

「へぇ……随分な自信じゃん。でもあんた、やめときな。喧嘩を売る相手を間違えてるよ」

 

 ここで襲い掛かって来ない所を見ると、やはり彼女は思慮深い。その歳に見合わない思考の深さは過去に何か自らの浅はかさで失敗を経験しているのだろう。

 そうでなければ。狩人とは失敗し、学び、成長し、狩殺すものだ。嬉しいよ、ほむらはともかくとしてようやく狩人らしい魔法少女と出会えるなんて。

 

「マリアさん、下がって。これは私の……」

 

「いいや、マミ。いくら君の願いでも、私の狩りへの渇望が抑えきれないのさ……昨日はただ痛い目にあっただけだから、今日こそは発散させてもらうよ」

 

 腰に下げた落葉を取り出し、刃を鞘から抜く。それを見た少女は己も空虚から一本の槍を取り出すのだ。話が早い、やはり狩に言葉は不要だ。ただ狩り、殺すのみ。……いや、殺しちゃまずいか。

 

「もう!また火がついちゃって……」

 

「手出しは不要さ、マミ。殺しはしない。話は狩の後でも良いだろう?」

 

 怒れるマミを言葉でも制して下がらせると、少女は少しばかり苛ついたように槍を構えた。

 

「ちょっと見縊りすぎじゃない?痛い目に合うのは……あんたさ!」

 

 

 自棄の魔法少女、佐倉杏子。

 叫んだのと同時に、紅蓮の魔法少女は一直線に槍を放ってくる。そのリーチは見かけ以上のもので、すぐにその槍が我ら狩人と同じ仕掛け武器の類であると理解できた。

 私はステップして一撃を回避すると、続け様に繰り出される槍の連続攻撃を避けるため横へローリングする。

 

「オラオラどうしたぁ!」

 

 勇しく少女が叫びながら槍を振るう。いつまでもこの勇姿を目に焼き付けたいが、これは狩だ。私も攻撃に出ねば失礼だろうさ。

 槍を落葉で捌くと、私は彼女を蹴り付けて距離を取る事にした。しかしこの少女は凄まじい。私の蹴りを回避すると、ビルの壁を幾度も蹴って空高く舞い上がった。この間さやかがスマートフォンでプレイしていた……何だったか、岩男みたいな名前のゲームのようだ。

 

「素早いな」

 

 落葉を分割させる。エヴェリンは使わない。そもそも、スピードのある彼女に水銀弾を当てるのは難しいだろう。

 私は同じく壁を蹴って彼女を追う。あと数メートルの所まで接近すると、一際壁を強く蹴って彼女に猛ダッシュしてみせた。クルクルと落葉を振り回しながら。この戦法は対狩人に有効だった。

 

「おっと!」

 

 空中の少女は私の斬撃をすべて受け流すと、体勢を変えながら私を蹴り飛ばす。私はあえて少女に腹部を蹴られる快感を味わいながら、ビルの壁に叩きつけられた。

 

「マリアさん!」

 

 心配するマミに笑みを見せながら、大丈夫とだけ言った。参ったな、予想以上に強い。だが、マリアお姉様程ではない。彼女の内臓攻撃はそれはもう、至高の逸品だった……

 私が妄想にふけていると、少女は無防備な私に再度迫ってくる。私は夢から一つの軟体動物を取り出した。

 

「終わりだよ!」

 

 鋭い突き。だが若い、そのパワフルな突きは阻まれた。

 

「うっ!なんだそりゃあ!?」

 

 突然私の腕から現れた、太い触手に槍を阻まれ嫌悪感を示す少女。失礼な、これこそ神秘の極み。エーブリエタースの先触れだ。

 先触れの触手は槍を弾くと、瞬時に消失する。今頃星の娘は突然の衝撃に驚いている事だろう。

 

「とんだ隠し球だね!」

 

 少女は地上へ着地すると、同じく落下している私の到達を待たずに槍を回転させた。何かをするつもりらしい。

 

「なら私も使わせてもらおう、じゃんッ!」

 

 刹那、槍の節々が分裂した。それらは鎖で繋がっており、まるで蛇のように私に襲い掛かる……聞いたことがある。 多節棍だったか。素晴らしいじゃないか、やはり狩人は自らの人間性を証明するために仕掛け武器を用いるべきなのだ。獣ではその複雑な仕掛けを持ち入れないのだから、これ以上無い証明だろう。

 見惚れている私の身体を、それらは絡めとる。ゲールマンが見れば何かのプレイとでも言われそうな状況だ。私は四肢を拘束され、その身を少女に晒していた。これは……良い。

 

「さぁ、今度こそ終わりだよッ!」

 

 新たに召喚した槍で、私を貫こうとする少女。だが、甘いね。手だけが攻撃の手段でないことを、君は忘れている。

 既に、私は触れているのだ。新たな軟体生物に。そしてそれは、かの宇宙と交信を求めるだろう。

 

 マミの悲痛な叫び声と共に、私の背後に宇宙が広がる。少女はその異様な光景に、硬直こそせずとも困惑した。

 

 そして私の交信は届かない。代わりに、宇宙は爆ぜるのだ(彼方への呼びかけ)。まるで着信拒否のように、それを知らせるコールの代わりに熱した星々を。

 無数に現れた小さな星々は、軌跡を描きながら私を拘束する多節棍と少女を狙った。

 

「なッ!?」

 

 驚愕しながらも追跡してくる星々を避ける少女。その判断は素晴らしい、仮に手にした槍で弾こうものならば彼女はその高熱に身を焼かれていただろう。現に、私を拘束していた多節棍を焼いたせいかその熱が伝わってくる。熱い。

 拘束から逃れると、もう星々の怒りは収まっていた。私はアスファルトに着地すると、一息してから身構えてこちらの動きを窺う少女に言う。

 

「上位者相手でも宇宙はシャイだね」

 

 少女は答えない。それどころか、まだ攻撃してくるようだ……良いぞ、狩こそ血が滾る行いだ。

 だが、少女がまた攻撃をする直前。私と少女の間に一発の銃弾が撃ち込まれた。その突然の横槍の正体に予想はつけながらも、呆れたように私は上を見上げる。

 

「ああ、ほむら。一番萎えるぞ、それは」

 

 一人呟けば、暁美ほむらは低いビルの屋上で私達を見下ろしている。

 

「おいおい、アンタは関係無いだろ!」

 

 直様少女はほむらに攻撃をしかける。しかしやはり、ほむらの魔法は凄まじい。時を止め、それらを難なく回避していくと紅蓮の少女は困惑して手を止めたのだ。

 

「契約に無いことをしないで、佐倉杏子。まだやるつもり?」

 

 冷酷に、しかし少し怒りながらも注意するほむら。口約束では効力が薄いだろうに。

 

「へっ……まぁ良いや。手の内が分からないのが二人もいるとなっちゃあねぇ」

 

 杏子……紅蓮の少女は変身を解くと、私に背を向けた。どうやらお開きらしい。これ以上はほむらの不信感を強める事にしかならないだろう。

 

「貴女も、余計な事はしないで」

 

「狩人から狩を取るとは……酷い女だな、君は」

 

 そう言うと、ほむらは姿を消す。まぁ良い。佐倉杏子という魔法少女に会えただけでも収穫だ。久しぶりに純粋な狩人として戦いたくなったのだから。

 私は制服に戻ると、精神的に疲弊しているマミの手を取って裏路地から出る。そして言うのだ。

 

「さぁ、帰ろう。もう夜さ……獣が来る。それに佐倉杏子について、色々聞きたいからね」

 

 そう言えば、マミは複雑な表情をしてただ俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の病院にバイオリンの音色が響く。甘く、そして冷酷なまでに脳を震わせるような……それは狩りに似ていて、どこまでも聞く者を酔わせるのだ。

 演者は上条恭介。そして観客はさやかと仁美。二人は思い他人の音色を堪能しながら叶った願いに身を震わせていた。

 一頻り演奏を終えると、恭介は空に浮かぶ月を仰いで言う。

 

「まず君達に聞かせたかったんだ」

 

 そう語る恭介の表情はやはり清々しい。まるで別人になったような、奇妙な錯覚を覚えるもそんなものどうでもいい。今はただ、願いである少年の音色を聴けたことだけがすべて。

 

「これだよね、やっぱり」

 

 椅子に座るさやかが言う。

 

「バッハも何も、色んなクラシック演奏をCDで聞いてきたけど……やっぱり、恭介なんだ」

 

 その顔はどこまでも少女で、儚い恋心を滲ませていた。

 

「命を賭けるとは、素晴らしいのですね」

 

 同じく、仁美もその凛々しい少年の姿に恋をする。

 その様子はどこまでも少女的で、しかしその場にいる全ての者が異端であり。まるで、ヤーナムの異形を表している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い女だな、彼女は……」

 

 マリア。本来の、時計塔のマリアはカップをソーサーに置くと呟いた。工房のテーブル、その周囲で師であるゲールマンと紅茶を楽しんでいる……のだが、その様相はどこか複雑だ。

 ゲールマンは彼女の視線の先にいる、二人の少女と人形を眺めた。そして車椅子に深く腰掛け、言う。

 

「だがそれで救われるのであれば、良いでは無いか……マリア」

 

 そっと、老師の手がマリアの手に触れそうになり……彼女にパチンと叩かれて妨害される。

 

「相変わらずだな、貴方は」

 

「ああ、そうとも……君のガードの固さもな」

 

 年老いても偏執に似た恋心は衰えない。ここは狩人の夢、すべての狩人のためにある安らぎの場所。

 月の魔物は滅び、今支配するは百合の狩人だ。そして疲弊した狩人はやって来るだろう。この偽りの楽園へと。

 夢もまた、海と同じく底はないのだから。

 




杏子ちゃん回。順調に上条君は夢に囚われています
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