魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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無限に有限

 

 

 私の目と鼻の先で、黒髪を乱雑なショートカットに切り揃えた少女が地面を這いつくばっている。半ば錯乱した様子で無くし物を探す姿は飼い主に逃げられた犬のようで愛らしくも思えた。

 ボーイッシュというのは、真にこの事なのかもしれない。事実、彼女の服装には想い他人以外を意識しておらず、ボーイッシュさの中にもちゃっかり可愛らしさを取り入れるさやかとは異なっている。

 私は手にしたキーホルダーを這いつくばる彼女の目の前で揺らした。

 

「探し物はこれかな?」

 

 少女は天啓が舞い降りたかのように目を輝かせ、私の手から素早くキーホルダーを奪い取ると眩い笑みで言う。

 

「うお〜ンあいたかったよぉおお!愛が壊れずに済んだぁあああ!」

 

 必要以上に喧しい子であるが、それだけキーホルダーに対する愛情が深いようだ。いや。深いなどと言い表せるものではない。それは最早、深淵そのものだ。これほどまでに人間は愛を深めることができるのかと、上位者たる私ですら感心してしまう。

 少女はそのまま四つん這いで私に迫ると半ば叫ぶように言った。

 

「君のお陰で愛は死なずに済んだ!ありがとう!」

 

 そんな奇行とも言える行動を取る少女に、私は笑みを返した。

 

「それは良かった。愛は大事だからね」

 

「恩人!君は話が分かるねっ!私は呉キリカ、恩人に恩返しがしたいッ!」

 

 まるで一人だけ違う世界からやってきたようなテンションで提案する少女……キリカに、私も満更でもなさそうに肯く。

 恩を返すと言うのは実に人間らしい行動ではあるまいか。ヤーナムでは恩が呪いになって帰ってくるなんて事がザラだった。助けてやった偏屈な男もそうだし、あの珍しい獣と化した男もまた。

 

「そうだね、それじゃあお言葉に甘えて」

 

 私は恩を仇にしない。ましてや少女から貰えるのだ、無碍にすればそれこそ呪われるだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的とは、正に彼女の事を言うのだろう。さやかと仁美は傷付いた身体で地に這いながら、襲撃者の少女を見上げる。

 たった数分。いや数秒かもしれない。二人がかりで挑んだにも関わらず、手も足も出なかった。さやかが直線的に剣で突っ込もうものならば槍で遊ばれ、仁美が搦手でチェーンソーで刻もうとするならば三節棍で翻弄され。

 特別な事は何一つ無い、ただ単純に、魔法少女としても狩人としても彼女達は杏子の足元にも及ば無いのだ。

 

「マミとあの薄気味悪い狩人の仲間だっていうから期待してたのによ。なんだこりゃ?全然雑魚じゃんか」

 

 心底失望したと言わんばかりに杏子は菓子を貪る。そこに戦いは有らず。ただ遊戯として二人を相手にしていただけにも思える。

 さやかと仁美は武器を杖にして立ち上がり、強敵と改めて対峙する。勝ち目がない事はわかり切っていたが、それでも自分や仲間を脅かすであろうこの少女を放っておけるわけはなかった。

 

「あんたがキュゥべぇが言ってた魔法少女だね……!」

 

「なんだ、マミとあの狩人から聞いてなかったのかい?しかしまぁ、マミがアマちゃんならその弟子達もアマちゃんだな。使い魔なんて放っておいてさ、何人か食わせりゃ魔女になるんだから。そうじゃなきゃグリーフシードが手に入らないじゃん」

 

 その身勝手かつ現実的な言葉に、さやかは激昂した。気がつけば、さやかは魔力で無理やり身体を回復させ杏子へと突撃を仕掛けていたのだ。

 直線的な動きだった。ただ迫り、剣を振るうだけ。当然の如く杏子はそれを避け、がら空きのさやかの腹部へ蹴りを見舞う。勢い良くさやかは仁美の真横へと吹き飛ばされた。

 

「さやかさん……!」

 

 気を失ったさやかを守ろうと彼女の前に立ち、チェーンソーをフルスロットルで回転させる。威圧的、しかし単なるこけおどしでしか無いその行為は杏子に何も影響を与えない。

 興醒めと言わんばかりにため息を吐くと、杏子は細いチョコクッキーを食べほして仁美を見据えた。

 

「はぁ〜……まったくこんなのが魔法少女なんてキュゥべぇも何考えてんだか。ま、そういう夢見がちな奴には……」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、杏子は槍を構える。その鋒には一切のブレがない。

 

「現実を見せてやらなきゃなァ!」

 

 互いに攻撃を仕掛けると、火花と少量の血が舞った。血は言うまでもなく仁美のものであり、しかしそれくらいでへこたれるお嬢様でもない。

 戦いは一方的で、けれども苛烈を極めた。さやかは朧げな意識の中、ただそれを見ている事しかできない。

 

「甘いんだって!」

 

 杏子の槍の連撃が仁美を傷付ける。致命傷をチェーンソーで防ぎながら、しかし小さなダメージが蓄積していく。それは人を超えた魔法少女とて無視できるものではない。痛みは薄くとも、出血と疲労のせいで動きは鈍くなる一方。

 それにだ、チェーンソーは大振りの武器。軽量かつリーチの長い槍相手では不利を極めた。

 

「ちょこまかと!」

 

 壁を蹴り、上空で乱れ打ちする杏子へと跳躍する。そしてチェーンソーを回転させて斬撃。

 

「あんたがノロすぎるのさ!」

 

 それを槍で押さえつけると、仁美の胸部にドロップキックした。足に伝わる柔らかい感触……女としての敗北感をいくらか味わった気もするが、今は関係がない。

 仁美は吹っ飛びながらもそれを意思とフィジカルで強引に耐え、なんとか着地する。

 

(せめて、さやかさんだけでも逃さないと……!)

 

 さやかは意識を取り戻したのか、咳き込みながら吐血している。立ち上がれるような状態でもない……戦闘続行は困難だろう。

 だからこそ、友達として彼女を守らねばなるまい。同じ人を好きになった者同士、ライバルとして、欠ける事は許されない。

 

「しかしまぁ、根性だけは認めてやるよ。そこの青いやつなんかに比べりゃ全然マシさ」

 

 さも当然のように上から投げかける杏子の言葉を、さやかははっきりと聞いていた。

 自分の無力さを、改めて思い知る。そして思い出すのだ、想い他人と病室で寄り添い、しかし何もしてやれなかった時間を。結局、願いを叶えてまでやりたかった事がこれなのかと。

 

 ━━ああ、私ってほんと……

 

 こうして自己嫌悪に陥っている中でも同志である少女は果敢に斬りかかっているというのに。自分は何もできないのだから。

 失望とは、こうも暗くて無気力なものなのか。いや違う。自分は甘えているだけだ。仁美という友達に、そして魔法少女というものに。立ち上がらなくてはならない。けど、それすらもままならない。

 焦燥感を通り越し、絶望が深まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に、光が舞い降りた。眩い、それでいてか細い糸のような何か。

 けれどもそれは、暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだ。

 光の糸はさやかを導くように舞い。この世のものとは思えぬ啓智を与えるのだろう。かつてその身を獣に落とし、しかし最期には確かに英雄であった彼のように。

 

 ━━恐るなかれ。導きは、確かに存在する。私は見たのだから。悪夢において、確かに月光は私を狩人たらしめたのだから。

 

 男の優しい、けれども確かな遺志を感じた。同時にそれは継承される。月光という、まだ見ぬ高次元暗黒……それを照らす、導きを。ただ一人の少女でありながらも正義を信じる少女へと。

 だから少女は迷わず立ち上がるのだ。狩りに酔うことも無い。血に酔うこともない。ただ導きのままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思うに、クレープとは最高に少女を少女たらしめる食事だとは思わないかね?」

 

 私はクリームいっぱいのクレープを貪りながら、それを訝しむように眺める呉キリカに語りかける。甘いものは大好きだ。マミのケーキも、それにこのクレープも。帰りがけにマリアお姉様やこのみ達に買っていくくらいには好きだ。

 

「恩人は本当にそんなものでいいの?」

 

「そんなものとは失礼だな、クレープほど罪深い間食は無いだろうに……私は太らない体質だが、そうではない少女からすればこのクレープは罪なのだよ。それにしても、奢ってもらってすまないね」

 

 ほっぺにクリームを付けながら私は感謝する。

 

「むしろ足りないね!私の愛がその薄い食べ物と一緒なんて思われたく無いな!」

 

 愛。その言葉を聞いて、私は食べる手を止める。そして並々ならぬ彼女が捧げる愛について問うことにした。

 

「愛……ふふ、そのキーホルダーも愛する誰かからの贈り物なのかな?」

 

 そう尋ねれば、キリカは困ると言わんばかりに困惑しながら……と言うよりも、そこに質問されたく無いと言うような雰囲気で曖昧に答える。

 

「え?あ、ああうん。そう、だね」

 

 私は特に突っ込まずに笑い、

 

「物凄く君に愛されているのだね、その人は」

 

 だが、この言葉が彼女の何かに触れたらしい。少女の多感で不安定な心は一気に爆発する。

 

「そんな軽々しいものじゃないぞッ!」

 

 私はそんなキリカを、いつもの微笑でもって眺めた。語りたければ語るが良い、私は少女の味方なのだから。

 

「愛はすべてだッ、愛を単位で表すような奴は愛の本質を知らないッ!」

 

 獣の臭い……しかしそれに紛れて少女の匂い。私はほのかに香るその匂いを嗅ぎながら、ずいっと顔を寄せたキリカの目を見据える。

 ああ、美国織莉子は幸せ者だな。こんなにも少女から愛を受けているなど。壊れた愛ほど甘いものは無いだろうさ。

 

 呉キリカはふらふらと私から少しだけ距離を取り、その歪んだ笑みを空にむけた。その笑みは、あの悪夢において血と狩りに囚われてしまった狩人達のように獰猛で、獣染みている。

 

 

「愛は無限に、有限だよ」

 

 

 刹那、彼女の真下から魔女が飛び出てキリカを飲み込んだ。哀れな魔女だ、自分一人でどうにかなるとでも思ったのだろうか。同情するよ……だから君も、私の下に来給え。すぐさま狩装束へと切り替えると、落葉を手に対峙する。

 

 だが、私の願望とは裏腹に。

 

 魔女の体内を突き破り、魔法少女姿の呉キリカが飛び出してきた。

 

「愛は無限に有限なんだ……」

 

 凄まじい速度で魔女を切り刻む彼女の両手には鉤爪……まるで獣の爪だ。獣化せずとも獣のような愛を持ち得る彼女に適しているとも思える。

 眼帯は……失ってしまった彼女の過去を彷彿とさせるに違いない。目を失い、光を美国織莉子に依存する彼女らしい。

 

「私は彼女に無限を尽くす」

 

 何が起こったかも分からぬ魔女は裁断され。

 

「恩人を故人にすることも、無限の中の有限に過ぎないよ」

 

 籠絡の魔法少女、呉キリカ。明確な敵意が私に向けられた。私はしばらく忘れていた本来の獣との戦いに、嬉しさのあまり身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩い光の波が杏子に迫る。危険を察知した杏子は仁美から離れると、迫り来る未知の光を避けた。瞬間、それは物質では無いはずなのに、近場にあった鉄製の遊具を粉微塵にしてみせた。

 杏子は着地すると、光波がやってきた方角を睨む……そこには、先ほどまで地に伏せていた少女の姿があった。

 

「お前……」

 

 だが、どこかおかしい。それは友達の瞳であるならば尚更感じる事ができた。

 虚に佇むさやかはいつもの一振りの剣を、その鋒を杏子に向けるのみ。闇夜に、しかし青く光り輝くその剣は。魔法少女という神秘の存在から見ても異端であり。

 

「……私達は魔法少女。陽は当たらず、ただ闇の中で獣と対峙する。私はそれを照らす月光」

 

 少女は呟く。マントを翻し、月光を剣に宿し。

 

「あんたみたいな魔法少女や魔女から皆を守るのが、私の使命だよ」

 

 言い放ち、剣を振るう。その剣の軌跡から、先程の光波を放ちながら。

 

「さ、さやかさん!?大丈夫ですの!?」

 

「仁美、ありがとう!あとは私が!」

 

 心配する仁美を他所に、さやかは研ぎ澄まされた剣技で杏子と戦う。

 光波を再び避けた杏子に、再度彼女は剣で迫る。先程と同じ……ように見せて、何かが違う。

 

「このッ!」

 

 杏子の槍を見切りつつも、さやかは無理に攻撃はしてこない。ただ隙あらば剣を打ち込むのみ。杏子が技を繰り出そうものならば光波で妨害し、逃げようとするのならば剣を飛ばし、左手の短剣で追撃し。杏子の攻撃には防御だけでなくステップを交えて回避する。

 先程までの新米魔法少女はいない。ただ狩りに慣れた一人の狩人が、そこにはいた。

 

「見える、見えるよッ!私にも光がッ!」

 

「こいつ……!」

 

 杏子はその瞳に、狂気の一端を見た。まるで力に酔いしれるような、そんな目の輝き。

 

「調子に乗るんじゃ、ねぇー!」

 

 槍を分解して鎖と連携、得意の搦手でさやかを四方から攻撃する。

 だがさやかは一歩も動かず、ただ剣をアスファルトに突き刺して魔力を放出した。

 

「うりゃぁあああああ!!!!!!」

 

 魔力の奔流。かつて悪夢で、人間を取り戻した男が使った技。彼女の身体から放たれる魔力は迫り来る槍と鎖をすべて弾き返した。

 その余波は、杏子を吹き飛ばすだけの力を持っている。吹き飛ばされたベテランは、立ち上がろうとしてさやかが次の攻撃を繰り出す瞬間を見た。

 

「これで、終わりッ!」

 

 天高く掲げた剣。それに宿された導きの月光は、サーチライトのように夜空を照らし。

 さやかは勢い良くその剣を振り下ろす。先程までとは比べ物にならない光波……否、光の柱が杏子を襲った。

 

「こ、のぉおおおおおおおッ!!!!!!」

 

 槍と結界で全力で防御をするも、それを貫き杏子を今度こそ完膚なきまでに吹き飛ばした。100メートルは宙を舞う杏子、変身はその道中解除され。赤いソウルジェムが舞う。

 それが仁美の目の前に落ちたのは幸運だっただろう。友が繰り出した渾身の一撃に見惚れた彼女は、それを拾い上げると強敵を打ち倒したさやかに駆け寄った。

 

「さやかさん、やりましたわねっ!」

 

 背後から声をかけるも、声は返ってこない。するとどうだろう、さやかは変身を解除してその場に倒れ込んでしまったではないか。どうやら……相当な負荷がかかっていたらしい。見てみれば、彼女のソウルジェムもかなり黒ずんでいた。

 功労賞のさやかを背負い、同じく倒れた杏子の下へと近寄る。彼女は……何というか、息をしているのかすら怪しい。

 

「……死んで、いる」

 

 首に指を添えて脈を確認してみれば、杏子は息絶えていた。だが、外傷はそこまで無いはずだ。ならばなぜ。

 興味本位で。仁美は回収した杏子のソウルジェムを取り出して眺めた。色は燻んでいるが、さやかのものほど黒ずんでいない。ならばなぜ……

 

 まさか。まさかそんなはずは。

 

「いえ、そんな。嘘、そんな……」

 

 聡明な彼女は気がついてしまう。だが好奇心は強くて。ソウルジェムを、杏子の死体に置いた。

 

「うっ!うごほ、ごほッ!」

 

 瞬時に息を吹き返す杏子。相手がいくら悪い魔法少女でも生きていて良かったと思える反面、気がついた真実に絶望しかける。

 

「く、そ……」

 

 杏子には立ち上がる気力も無い。だがそんな事はどうでもよかった。仁美はそれよりも、自身らが願った奇跡の代償を理解してしまったのだから。その事実に、ただただ震えた。

 

 だがそれで絶望は終わるはずもなく。気がつけば、彼女達がいた公園は魔女の結界に包まれていて。

 

「魔女……くそ、ついてない」

 

 満身創痍の杏子が呟く。三人は十分に戦えるほどの力を今持ち得ていないのだ。きっと、今襲われれば誰かが死ぬ。

 だが、杏子としてはそれも仕方のない事だろう。今まで好き勝手やった報いが来たのだと、納得するほか無い。

 そう思っている間にも、きっと彼女達が追っていた使い魔が成長したであろう魔女が三人に迫る。仁美が硬直したように動かないのは不思議だったが、どうでも良い。

 

「ゆま、ごめん」

 

 ただ残してきた一人の少女が気がかりなだけ。杏子は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━獣の臭いだ……むせるじゃ無いか。

 

 

 

 

 

 

 声が響いた。少女のものでは無い、若い男の声。その声に反応するように、仁美は我に帰る。

 気がつけば、魔女と彼女達の間に割って入るように一人の影があるのだ。春だというのに黒い外套など着て、おかしな帽子を被り。その手には大きな大砲と、鋸のような武器を手にした男。

 顔は見えないが、こちらに背を向けるその男は魔女と明確に対峙していた。

 

「貴様は良い音を奏でるんだろうな……?」

 

 男は不気味な声色で呟くと、魔女に大砲を向ける。刹那、大砲が火を噴いた。轟音が耳を痛めたが、それよりも通常の武器では魔女に太刀打ちはできないはずだ。

 だが。

 

『ぎゃああああああ!』

 

 魔女は、その一撃を受けて悶える。確実にあの古臭くて血生臭い大砲は魔女へとダメージを与えているようだった。

 男は大砲を投げ捨てると、何かの丸薬を飲み干し腰に吊り下げていた古そうなピストルを代わりに持ち、鋸と合わせて突撃していく。

 

「待て!魔法少女じゃなきゃ……」

 

 杏子の忠告も無視し、男は怯んだ魔女にノコギリ鉈を振るう。血が出て、肉が削ぎ落とされ、魔女は絶叫している。杏子の心配は杞憂だったようだ。

 

「ハハハハハッ!鳴け!奏でろッ!獣めッ!」

 

 嬉しそうに叫ぶ男は何度も何度もノコギリ鉈でもって魔女を切り裂いていく。だが魔女は抵抗し、触手のような手で男を振り払うように攻撃した。

 それを、容易く男はステップで避けて見せる。それは先程さやかが覚醒して見せたようなものでもあり。昨日戦った狩人のようにも見える。

 

 男は避けざまにヤスリを取り出すと、ノコギリ鉈に着火させる。勢い良く、都合良く刃の部分が燃え盛り、凶暴な武器がより一層攻撃的になった。

 

「獣は死ねッ!遺志を寄越せッ!」

 

 笑い、獰猛に燃え盛る武器で攻撃すると、魔女はあっという間に膝をついた。圧倒的な火力の前に魔女は無力だ。

 

「ああ……なんて、なんて綺麗なの」

 

 仁美はその姿に見惚れる。男の、まるで演奏のような狩り姿。認めたくはない。けれどあの声、姿、佇まい、すべてが想い他人と直結する。

 男は手刀を魔女の内臓へと突っ込むと、強引に引き抜いた。夥しい血と内臓が彼の手によって引き摺り出され、公園の土を汚していく。

 

「死ね、獣め」

 

 男が言い張ると、魔女は絶叫と共に霧散する。あっという間に、いかに生まれたての魔女と言えども男は圧倒的なまでに勝ち誇って見せた。

 

 

  ━━PREY SLAUGHTERED━━

 

 

 男は武器を一瞬でどこかへ消すと、彼女達へと振り返る。そこに敵意は見られない。だが、杏子を見ているわけでもない。ただ仁美とさやかだけに、その恐ろしい瞳を向けていた。

 理解する。奴もまた、昨日の女と同じく狩人なのだ。

 

「かみ、じょうくん」

 

 惚ける仁美に、男は寄っていく。そして口元を隠していたマスクを取ると、その顔が露わになった。なんて事はない、同年代の整った顔をした少年だ。返り血に塗れていなければどこにでもいそうなお坊ちゃん……上条恭介。

 恭介は仁美に寄ると、どこか偏愛を感じる笑みで言った。

 

「それが、今の君達の姿なんだね」

 

 その声色には優しさが混じる。仁美は想い他人の優しさに歓喜しつつも、同じくらい動揺していた。魔法少女の真実を知ってしまった今、彼と顔を合わせるのが躊躇われるのだ。

 

「その、上条くん、きゃっ!」

 

 背中のさやかごと、恭介は二人を抱きしめる。そして囁くのだ。甘く、神秘に満ちた声で。

 

「美しいよ。その魂も、すべて……二人とも」

 

「あ、あ、あ!そ、っそそそその上条くん!?」

 

 顔を真っ赤にしてアタフタする仁美。杏子はそんな光景に困惑と呆れを持ちつつも、逃げるならば今だと算段する。体力はもう大丈夫だった。

 杏子は魔法少女にならずに全力でその場から逃げ出す。恭介はその後ろ姿を見ていたが、追いかけることはしなかった。

 今は目の前の愛おしい少女達にしか興味が無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 毒や猛毒、そして発狂。こちらの内側から攻撃をしてくる敵はヤーナムには沢山いた。特にあのほおずき女は厄介の極みだ、見ているだけで発狂しそうになる。……上位者となり、更なる啓智を手に入れた今となっては愛らしい。

 しかしまぁ、まさかこちらの速度を下げてくる魔法とは。実に魔法少女とは神秘に溢れている。

 

「はははッ!恩人強いな!」

 

 凄まじい速度で鉤爪を振るうキリカに、私も落葉で対処する。実際にはそんなに速くはない。だが彼女の魔法でこちらの速度が下げられてはやり辛くもあるな……経験にはなるが。

 私はエヴェリンで彼女を牽制すると、持ち主のいない魔女結界を逃げ回る。少女と追いかけっこというのも雅だろう。

 

「最近魔法少女が殺されているらしいが、やったのは君だね?」

 

 逃げながら笑い、そう尋ねればキリカは満面の笑みで頷いた。

 

「うんっ!」

 

 刹那、真上から彼女が突撃してくる。瞬時に触媒を握り獣の咆哮で叫ぶと、キリカはたまらず退いた。

 

「すごい!今のを切り抜けるなんてね!」

 

「だろう?狩人だからね」

 

「あれ、魔法少女じゃないの?」

 

 この子は頭が弱い。だが、そんなところも好き。

 

「そうさ。でもね、魔法少女も大好きだよ。君も、そして君が愛する織莉子もね」

 

「黙れ殺すッ!」

 

 感情を反転させたキリカがジグザグに迫る。なるほど、銃撃対策か。意外と機転は利くようだ。

 ローリングで攻撃から逃れると、私は真横のキリカに蹴りを放つ。筋力はあまり自信はないが、それでも牽制にはなる。キリカは蹴りを鉤爪で受けると、押し返す。私はその反動を利用して吹っ飛び、再度逃げた。

 

「しかし君の愛は素晴らしい」

 

 相手の壊れた愛を称賛しながら着地すると、新たな触媒を握った。

 

「そうだろうッ!恩人、見る目あるよ!」

 

 相手も私を褒めながら迫る。

 

「帰ったら愛する人にクレープでも買っていくと良い。丁度、お腹も空いただろう?」

 

「確かにね!うん、それ採用!」

 

 彼方への呼びかけを行う。すると、私に夢中のキリカの背後に高次元暗黒が出現した。

 

「でもまずは恩人を殺さないとね!君は織莉子に何かしようとしているからなぁ!」

 

 私は動かず、笑った。

 

「そうだね。でも、私が死ぬ必要なんてないさ」

 

 キリカの背後から流星が迫る。それに彼女が気がついたのは、キリカの背中に直撃する直前。同時に、私は彼女を称賛した。まさか当たる寸前に流星に速度低下を施してダメージを軽減するとは。

 背中に流星が突き刺さり、キリカは結界の床を転がる。

 

「だが獣に身を落としかけるのは頂けないな……君は本来、そんな人間ではないのだからね」

 

 目の前で倒れ伏すキリカに言葉を投げかける。

 

「さて、君の想い人もやって来たし……三人でクレープでも食べるかい?」

 

 軽口を叩きながら、私は瞬時に加速して迫る水晶を回避する。なるほど、君は愛されているなキリカ。羨ましい、私もお姉様に愛を向けて欲しいものだ。

 水晶が巻き起こした煙に紛れ、少女がキリカを回収する。

 

「私の事……ご存知のようで」

 

 現れたのは白い装束に身を包んだ魔法少女。美国織莉子……呉キリカが愛を一心に向けるその人だ。

 私は埃を払い、丁寧に簡易礼拝してみせた。

 

「もちろん。私は少女の味方だからね」

 

「貴女は魔法少女ではないと御見受けしますが」

 

 私の礼拝を無視して織莉子は質問する。

 

「ああ、そうさ。私は狩人……百合の狩人。そして君は、美国織莉子。呉キリカの深淵のような愛を受ける、未来を憂う魔法少女だね」

 

 そう言うと、彼女の表情が少し強張った。

 

「なら……私の目的も、ご存知で?」

 

「そうだね。それについて、君と話がしたくてね……そうだ、キリカもお腹が空いたと言っていたし。美味しいクレープ屋があるんだ。三人で食べながら話すと言うのはどうかな」

 

 しばし、織莉子は沈黙した。まるでこちらの意図を探っているような、そんな感じだ。

 

「……いいでしょう。どうやらキリカも御迷惑をおかけしたようですし」

 

 魔女結界が晴れる。同時に、私たちはそれぞれの装束から自身の制服へと戻った。おお、織莉子の制服姿のなんと美しいことか。まさかお嬢様学校だとは。素晴らしい!

 

「ついて来てください、狩人さん」

 

 その、相手を警戒しながらも丁寧な言葉遣いに私は心を洗われる。そして思うのだ、どこかお姉様と人形ちゃんに似ているなと。

 

「少し、いいかね?」

 

「なんでしょう」

 

「一回で良い、狩人様、と言ってみてくれ」

 

 その問いに、織莉子は訝しみながらも、

 

「……狩人様?」

 

「あ゛あ゛」

 

 思わず血が沸騰し掛けた。良い声だ……むせるじゃないか。

 




ルドウイーク戦大好きです
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