魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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恐ろしいもの

 

 

 

 私としては珍しく、屋上にて暁美ほむらと二人きりで昼食時間に休憩を取っていた。ちなみにいつもならばマミとまどか、仁美、そしてさやかと五人で昼食を取るのだが、今日の朝の一件以来さやかに随分と警戒されている……そのため、私達を昼食に誘いにきたマミや魔法少女の手を取ってどこかへ行ってしまった。

 つまり、今日の私の昼ご飯は無しという事だ。最近はよくマミに作ってもらっていたから悲しい。

 

 項垂れてベンチに座る私を、ほむらは相変わらず興味がなさそうに見ていた。いや、興味はあるのかもしれないが……きっと、表情が変わらないだけだ。いつも微笑を浮かべるようにしている私が言うのもなんだが、そのうちさやかあたりにまた突っかかって来られるぞ。

 

「珍しいわね。貴女が一人で屋上にいるなんて」

 

「上条恭介の件が知られてね……」

 

 だが彼の腕の回復の細部を知らないほむらは可愛らしく首を傾げた。おおほむらよ、それは所謂ギャップ萌えというやつかね。

 

「彼の腕を治したのは私だ。同時に、彼には私と同じく狩人になってもらったが」

 

「……驚いたわ。てっきり美樹さやかか志筑仁美のどちらかが軽薄な考えで祈りを彼に使ったものだと」

 

 随分な物言いだが、それは理解できる。きっとほむらは今までさやかのそういった行動に悩まされてきたのだろう。さやかが契約するということはつまり、まどかも一緒になって契約する可能性が高いからね。まどかは優しいから、傷ついた友達を放っておかないだろうさ。

 

「それを知られてね……まぁ、結果的には彼女達のためにはなるだろうが、さやかが偉くお怒りなのさ。私の男になんて事してくれるんだって」

 

 それ以上に、月光が何かしでかさないか心配だ。どうやって月光に接触したのかは分からないが、仁美曰くさやかは月光の力を自らの剣で行使したらしい。

 そんな事をする人間を、私は一人しか知らない。聖剣のルドウイークだ。彼の遺志をさやかが吸収していてもなんら不思議ではなかった。

 

 正直な話、ルドウイークという男が彼女に取り憑いていたところで問題は無いだろう。彼の英雄としての志が高いことは知っているし、仮に彼がさやかの闘い方に影響を及ぼすならばそれは良い方面での影響に違いなかった。

 彼の剣技は素晴らしい。あんな獣の姿で、慣れないだろうに月光の聖剣を存分に操ってみせたのだから……きっと狩人時代はとてつもなく優れた狩人だったのだろう。

 

「……ああ、そういえばほむら」

 

「なにかしら?」

 

「二人の件は一時的に片付いた。織莉子は当分まどかに手を出さないだろう」

 

 そう告げれば、ほむらの表情はようやく驚いたように変化してみせた。どうやら私が彼女達をどうにかするのは想定外だったらしい。

 

「殺したの?」

 

「いいや。キリカと戦いはしたが、それでも話し合った。結果的に協力は取り付けたが、マミ達とは会わせない方がいいだろうね」

 

 きっと彼女達は相容れない。目的のためならば手段を選ばない冷酷な魔法少女と、正義や人々の為に戦う熱き魔法少女。だがほむらも……そうなのだろう?君は自分で思っているよりも熱い人間だよ。

 ほむらはしばし考えると、私に背を向けた。どうやら立ち去るようだ。

 

「それでも彼女達が脅威であることには変わりないわ。美国織莉子が未来を予知している以上、いつかまどかを襲いに来る」

 

「そう、ネガティブに物を捉えるのはやめ給えよ。君の心情は察するが、それでも今彼女達は私の協力者だ」

 

 私も立ち上がると、空腹を紛らわせるように大きく欠伸した。

 

「ほむら、まどかをもっと信用してあげなさい。彼女は強い」

 

 そう忠告すれば、ほむらは少しだけ怒ったような表情をこちらに向けて振り返った。

 

「言われなくとも分かってるわ」

 

 コツコツと、彼女は屋上を去って行く。私はその背中を最後まで見送ると、再びベンチに座り込んだ。次の話し相手を待つ為だ。

 そして、その話し相手はまるで私達の会話が終わるのを待っていたかのように現れる。宇宙からの使者にして少女達からの嫌われ者、キュゥべぇ君だ。

 彼はいつもの無機質な顔で、しかし私には決して不用意には近寄らない。警戒されているのだろう。

 

「随分と暁美ほむらの肩を持つんだね、白百合マリア」

 

 咎めるような台詞だった。私は彼らを鼻で笑う。

 

「そうかな?彼女は可愛い少女だからね」

 

「君達上位者はいつもそうだ。気紛れで、宇宙の危機にも関わらず呑気に赤子を探している」

 

「月の魔物やオドン然り、男は皆そういうものさ」

 

「僕達からすれば、君も少女という娯楽を求める上位者に過ぎないよ」

 

 おや、それは随分な物言いだね。

 

「街一つ獣塗れにさせたり女性を勝手に孕ませたりなんてしていないさ。私はただ、少女達の安息を願うだけだからね」

 

「力のある君達上位者はもっと宇宙の為に働くべきだ。僕たちのようにね」

 

「生憎、私は宇宙の神秘に興味があるだけでその生存には興味がなくてね」

 

 くすくすと笑えば、インキュベーターも何も言わずに背を向ける。

 

「君が何を考えているのかは分からないけれど、結果は変わらないよ。まどかには宇宙のためにその身を捧げてもらわなければならないんだ」

 

「おやおや、それこそ君達の身勝手さの現れだね。あんなに愛らしい少女に死ねなどと……まぁ、私としては楽園に迎え入れるだけだ。残念だけど、君の望むような結果にはならないだろうね」

 

 そう挑発すると、キュゥべぇは相も変わらずの無表情で言うのだ。

 

「君がどこで何をしようが勝手だ。でもね、マリア。勝手に魔女の魂を遺志として攫っていくのは僕は感心しないかな。魔女の魂も僕らにとってはエネルギー供給源の一種だからね」

 

 私はおもむろに立ち上がると、瞬時にキュゥべぇを掴み上げた。きゅっぷい、と鳴く彼をそのまま食す。肉がちぎれ、しかし血は出ない。なんとも言い表せない食感だ。うまくもなければ不味くもない。なんだか損をした気分。

 

 白い生物を食べ終える頃には、また新たなキュゥべぇが私の背後に立ち尽くしていた。

 

「もう少し味を改善し給えよ。ほむらがよく食べている栄養食よりも味気ない」

 

「僕の身体は食用じゃないんだけどな。まぁいいや、それじゃあね。あまり個体を減らさないでくれよ、もったいないじゃないか」

 

 それだけ言って、キュゥべぇは走り去る。私は食した個体の尻尾を吐き出すと、それを夢の中へと押し込む。気づいているのかは分からないが、彼はやはり愚かだ。賢いが、愚かなのだ。

 

 さて、残りの昼休みをどう過ごそうか。ああ、もっと友達というものを増やしておくんだったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、さやか達は空き教室にて昼食を摂っていた。しかしどうにも空気が悪い。その原因は明白で、上条恭介の件についての怒りがさやかの中に燻っているから。

 

「美樹さん、あの……話は聞いたわ」

 

 マミは恐る恐る、配慮するような形で話を切り出す。ガツガツとお弁当を食べるさやかだったが、ふと何かを考え出した。その挙動を見守る少女達。

 そして、さやかは語り出す。虚な瞳で、何かを考えながら。

 

「マリア……あれはどういう意味だったんだろう」

 

 さやかと仁美の願いを奪ったと言った時。あの狩人は確かに言ったのだ。そうは思わない、と。その真意が分からない。頑固なのか、それとも。

 さやかの低い啓蒙が答えを導こうとするも、それは叶わない。知りもしない情報を導き出せるほど、彼女の啓蒙は高くないのだから当たり前だ。

 次第にさやかはどうでもよくなり、うがーっ!と吠えてみせた。

 

「マリアのやつ!やっぱり許せない!杏子とかいう奴もそうだし……あーもう!」

 

「美樹さん……」

 

 杏子の名前を聞いてマミの表情が暗くなる。事情は聞いている。杏子はかつての弟子だ。そしてその事を、まださやか達は知らない。この秘密は私とマミだけのものなのだ。

 またもややけ食いするさやかを、まどかは困ったように笑って見ていたが。ふと、隣の仁美の表情が曇っている事に気がついた。彼女は俯いて、何か別の事に気を取られてもいるのだと、鋭くも優しい心の分かる少女は気がつく。

 

「どうしたの、仁美ちゃん?」

 

「え?ああ、なんでもありませんの」

 

 仁美は直様引きつった笑みを見せると、何事も無かったかのように食事を再開した。

 

 

 仁美には、秘密ができてしまった。魔法少女という存在、その根本に関わる秘密が。

 自らの魂の在り処。その秘密を彼女は昨日の戦いで察してしまったのだ。その恐怖が今の仁美の心に巣食っている。

 

(もし、このソウルジェムが私達魔法少女の魂の入れ物なら……肉体は?ただの殻でしかないの?)

 

 少女は悩む。それはつまり、自らがゾンビのように死人に寄生するものでしかないという事だ。多感な少女にとってそれは紛れもない絶望である。

 これを話すか否か。話してどうなるのか、それは仁美には分からないが。いずれは知らなくてはなるまい。それが魔法少女という奇跡の対価なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、この夢だ。

 

 綺麗なステンドグラスから差し込む月光、そしてそれを浴びる巨漢……否、先生。彼は私を見るや否や、男らしい笑みで迎えてくれた。

 名前も知らないその人は、前のように大きな大剣を手にしている。私は何も言わずに、ただ一礼すると魔法少女姿へと変身した。そして同じように月光の剣を手にするのだ。

 

「また会ったね、少女よ」

 

「はい、先生」

 

 先生と呼ばれ巨漢の男は少しばかり面食らったような顔をしてみせた。そしてどこか懐かしむように俯くと、照れ臭そうに言うのだ。

 

「昔を思い出す。遥か彼方、もうそれを覚えている者はいないだろうが」

 

 その言葉の意味は分からない。だが私には言っておくことがあった。

 

「あの、私美樹さやかって言います」

 

「さやか、そうか。良い名だ」

 

 先生は大剣を一度背中に背負うと、何かの仕掛けを作動させた。そうすれば、大剣は鞘となって彼の腕には一振りの細身の長剣が握られている。それはどこか、さやかの握る剣と似ている。

 

「さぁ、来給えよさやか。今度はしっかりと剣技を教えられるように加減をする」

 

 そう言うと、先生は剣を構えた。その立ち姿はまさしく英雄そのものだ。私もああなりたい……なれるだろうか。私も月光の剣を構え、突進していく。前は一撃で叩き潰されてしまった。もっと慎重に行動すべきだろう。

 まずは振り下ろしだ。キレのある振り下ろしは、しかし先生を捉える事なく宙を切る。先生はいつの間にかステップで横へと逃げていた。

 

「っ!」

 

 そして気がつけば、彼は剣を横一線に振るっている。何とか左手の短剣でそれを受けるが、この先生は化け物か。強烈な力で剣ごと私を弾き飛ばした。

 

「痛った……!」

 

 防御したはずなのにジンジンと腕が痛む。だがそればかりに意識を割いてはいられなかった。何故なら先生はもうこちらに迫っていたから。

 先生は流れるように連撃を繰り出す。私は必死にそれを受け流すことしかできない。

 

「相手の攻撃は時にまたとない機会でもある」

 

 先生はそれだけ言うと、容赦のない蹴りを私の腹にぶち込んで見せた。私はそれだけで容易に何メートルも吹っ飛ぶ……が、痛みに負けずに空中で回転すると、何とか足から着地して復帰した。このまま転がって倒れてしまったらそれこそ最期だろう。

 そんな私を見て、先生は何もせずに突っ立っているだけ。

 

「今度は君が打ち込んで来なさい。カウンターの手本をお見せしよう」

 

「それじゃあ……お願い、しまぁすっ!」

 

 またも私は瞬発力に身を任せ、強引に剣を振るった。先生はそれらをわざと剣で受けながらも、すべて対処してみせる。そして私が突きをしようとした時。先生は、弾くように私の剣を受け流した。

 ほんの一瞬、私は無防備になる。先生はそれを見逃さず、剣を一直線に私の肩へと突き刺した。

 

「あ゛ぁああッ!」

 

 強烈な熱さが肩を覆い尽くし、その直後には鋭い痛みが襲ってきた。先生は剣を引き抜くと、私の首根っこを掴んで振り回す。そうして勢いがついた私は、教会の柱目掛けて思い切りぶん投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肩をさすり、具合を確かめる。いくら素質の低い私でも治癒魔法くらいは使える。あの後先生が私の首元に剣を突きつけて「授業」は終わった。今はただ、傷を癒し教会の椅子に二人並んで座っている。

 

「しっかし夢なのに痛いな〜……いてて」

 

「夢と現実の境界は曖昧なのだよさやか。夢の痛みは現実の痛みの代替わりでもある……忘れないことだ」

 

 なるほど、わからん。とにかく傷を治せば、私は沸騰していたアドレナリンを落ち着かせることができた。

 

 そうしていつの間にか、私は先生に相談していたのだ。

 

「ねえ先生、相談いいかな」

 

「なんだね?」

 

 先生は嫌な顔一つせずに答える。私は恭介の事を、名前を伏せて一から説明したのだ。もちろん、マリアの事も。

 

「……百合の狩人。なるほど、君もまた苦労人というわけだ」

 

「どういうことです?」

 

 先生は少しだけ同情するように笑い、

 

「私は、その狩人が間違った事をしたようには思えなくてね。だが現に君は想い人が狩人になってしまった事に心を痛めている……」

 

 その通りだ。私はただ頷いた。

 

「だがね、こうも思ってしまうのだよ。君は傷つこうとも、想い人は悲観していないのではないか?むしろ腕を治され、歓喜こそしている。確かに狩人という存在は限り無く救いが無い……しかし、望んだのであるのならば、それもまた答えなのだよ。……かつてヤーナムで私が募った者達のように、民の平和のために剣を取る事もあろう」

 

「先生は狩人のこと知ってるんですか?」

 

 そう尋ねると、先生はちょっとだけ悲しそうな顔で頷いてみせた。

 

「私もまた、狩人なのさ」

 

 それは恭介の事実を知った日の晩。私の夢の中でのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呉キリカは苛立っていた。理由は目の前で優雅に紅茶を啜る少女にある。キリカと同じ制服に身を包み、自身の愛する人が淹れた紅茶を美味しそうに飲んでいる。それを飲んでいいのは自分だけだ。

 いかに彼女が恩人であろうが、その後の行動はキリカのただでさえ狂った沸点を越えさせるのに苦労はしない。

 

「紅茶が不味くなるよ、キリカ。怒りは抑えてこそ人間だよ」

 

 怒りの矛先である狩人がそんな事を言い出す。

 

「ねえ織莉子!やっぱりこいつ殺させて!」

 

 彼女が依存する少女、織莉子に嘆願するも問われた本人は困ったように首を横に振った。

 

「やめなさい、キリカ。彼女は……味方なんだから」

 

 一瞬言い淀んだ織莉子を、私は微笑を持って見た。

 

「そんなに警戒しなくてもいいよ、織莉子。私はただ君の友達になりたいだけなのさ……ね?」

 

「こんの……!」

 

 かぎ爪を取り出し攻撃しようとするキリカ。そんな彼女を、織莉子は制止する。良い番犬だが、その手綱はしっかりと握っておくべきだね。でなければ、いつか君を噛み殺すだろう。

 さて、私がまたこの薔薇園にやって来たのは報告をするためだ。私はスマートフォンを取り出すと、慣れない手つきでネットニュースを表示させる。うーむ、やはり文明とは優れたものだが、扱いが難しい。よくもまどか達は上手く操作するものだ。

 

「君が望んでいた事を、友達の私が代理しておいたよ」

 

 スマートフォンを織莉子に差し出す。すると彼女は恐る恐るそれを手にしてニュースを見るのだ。

 

「……!さ、白百合さん、どうやって!?」

 

 そこに書かれていたのは、汚職がバレて自殺した議員の記事。なのだが……日付は今日。つまり彼女の父の一件とはまた別のものだ。

 

 ━━……議員はまた、美国元議員に自らの汚職を被せた疑いもあり、県警は捜査を━━

 

 

 

 織莉子は戦慄した。いつか復讐しようとしていた相手を、しかし絶対に不可能な暗い夢を、この少女はやり遂げてしまったのだと。

 

「それとも、君が直に仇を取りたかったかい?」

 

 そう尋ねると、織莉子はスマートフォンをそっとテーブルに置いてこちらに差し出して返納した。

 

「いいえ……私ではきっと、不可能でしたから」

 

 不可能では無い。だがここまで完璧に追い詰められはしなかっただろう。

 しかし実に簡単だったよ。人は発狂すると、あんなに簡単にボロを出すものなのだね。まぁ散々発狂して死んでいった身としては何も言えないが。

 

「これで、条件は飲んでくれるね?」

 

 織莉子はただ、頷いた。そこに歓喜は無い。ただ私を恐れているだけだ。

 まぁ良い。君もいつか、私の天国に来るはずさ。そうなればもっと自由になれる。君は美しいからね、是非とも愛らしい狂気を持ったキリカと添い遂げてほしいものだ。

 




ちなみに章の名前にピンと来た人いますかね?
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