魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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ヒロインはエーブリエタース


少女の叫び

 

 

 

 金属がぶつかり合う音が路地裏に響く。ヤーナムではなんて事ないあり触れた狩りの音色だ。それはこの平和な世の中では相容れない物なのだろう。

 だがそれも些細な事。そもそも人々は自分にメリットを齎すもの以外に興味を持たないものだろう。魔法少女という存在が戦う事も、街中を走る車やスピーカーから発せられる騒音によって取るに足らないと脳が判断して気にすらならないのだろう。

 

 この時代の人間は、肉体的に成長すれども啓蒙が低い。それでも魔法少女に選ばれるであろう者達は未熟なれど決して低い啓智ではないではないか。

 単にそれは、ウィレーム先生の正しさを証明するだけなのだ。情けない進化は人の堕落なのだと。

 

 

「オラオラどうしたぁ!この前の力を使って見せろよ!」

 

 

 杏子の執拗な槍のラッシュがさやかを追い詰めて行く。さやかは通常の剣と短剣でそれらを捌き、時に掠めながらなんとか凌いでいると言った状態だった。

 そう。月光は、今の彼女を導いてはいない。きっとあの欺瞞の光はさやかにこの事態を打開して欲しいのだ。それが彼女の成長に繋がるのだと信じて。

 

 だから君は欺瞞だと、狩人風情から言われてしまうのだよ。

 

 指導とは。最適な物の教え方とは何だろうか。それは時に厳しく、的確な助言を与え、褒める事ではないだろうか。

 ただ厳しくあっては教え子は拗ね、見て学べと突き放せばセンスの差で成長の度合いは変わってしまい、褒めなければ何が最適なのか分からない。故にだ、月光よ。君は本当に必要な時以外は手を出さないつもりなのだろうが、そんな前時代的な手法では時間が掛かり過ぎはしないかね?私も意味深な物言いをして相手の啓蒙に語りかける事はあるが、それでも分かりやすく答えに導いているつもりだよ。

 

 だから、自らの正体が露見されるや否や絶望されるのだ。

 上位者とは神聖なものではなく、須く人類とは掛け離れた異形の存在なのに。人はそれを、愚かと言うのだ。

 

 

(相手の攻撃は反撃に繋がる……!なら!)

 

 

 さやかは夢での授業で得た教訓を生かそうとする。狩人が得意とするカウンターを試そうとしたのだ。

 だが実際はそんな隙はない。そもそも杏子という魔法少女は強者だ。相手に合わせていたとは言え、この私に神秘を使わせたのだ……そんな手練れが、新兵が分かるような隙を見せると思うだろうか。

 

「いや、きついっしょ先生!」

 

 だから防戦一方になってしまう。これが魔法少女としてのさやかの限界でもあったのかもしれない。だがそれを理解していても、彼女は諦めない。

 弱いのは今だけなのだ。人は成長する。未来の彼女は今よりもっと強いのだと、希望を抱いて今は守る。

 

 仁美とまどか(厳密にはキュゥべぇもいる)はそんな二人を、ただ遠目で見ていることしかできなかった。さやかは仁美の参戦を許さなかったのだ。

 これは導きなのだと。魔法少女同士の醜い争いではなく、ただ哀れな戦士を導くための指導なのだと。その役目はさやかのものであると。

 さやかは確かに導き手である。だがその態度は心折れて長い杏子の琴線に触れたのだろうさ。

 

「お前の態度が気に入らねぇッ!」

 

 叫ぶ杏子は槍を分解し、三節棍へと変形させる。剣よりも長いリーチを誇る槍が更に長くなる。扱いが難しい鎖と棒の変形武器は、杏子という生存と狩りのベテランが使ってこそ真価を発揮するのだ。

 縦横無尽に飛び交う三節棍は、まるで結界のようにさやかを包囲する。

 

「食らいな!」

 

 高らかに叫ぶと三節棍の先端部分が背後からさやかを襲った。まるで狩人のようなステップでそれを避けようとするも、寸でのところで肩にぶち当たる。

 右肩が外れる音がして、華奢な少女の身体がアスファルトに転がる。

 

「さやかちゃん!」

 

「まどか、君なら止められる!早く僕と契約を!」

 

 悲痛なまどかの叫びといつものキュゥべぇの請求は何度もさやかを殴打する三節棍の様々な音で掻き消される。宙を舞い、血を撒き散らしながらさやかはただ為す術なく杏子の蹂躙に遭うのみ。

 仁美は、そんな勝負とも言えない光景をただ見ているだけ。彼女は……仁美という少女は、人との約束を守る律儀で堅物な少女でもある。

 幼き日からの教育の賜物かもしれない。信念を貫き、人との信頼を決して傷つけてはならないと考える彼女はどんな時でも言いつけを守るものだ。

 

 それは魔法少女になった今も変わらない。習い事はしっかりとこなし、今も尚友が死に瀕していても手を出さないのだ。

 

「ちっ……興醒めだね」

 

 攻撃の手を止め、ただ地面に転がるゴミのようなさやかを見下す。杏子は三節棍を再び槍へと変形させると、その鋒をさやかに向けた。

 そこに慈悲は無い。ただ勝者と敗者の関係があるのみなのだ。

 

 本来は当然の権利なのだ。勝者が敗者を屠り、その血の遺志を奪い取るなど。ならば杏子よ、君もそうあるべきだろう。

 

「じゃあ、そろそろとどめを……刺そうかね!」

 

 杏子が地に伏せて動かないさやかに引導を渡すべく跳躍した。この期に及んでも仁美は動かない。息を飲むも、彼女が出れば約束を違える事になる……

 

 

「ダメだよ!」

 

 

 突然、さやかを覆うようにまどかが割って入った。魔法少女では無いただの人の身で、彼女はともをまもるために非力ながら勇敢に立ち向かったのだ。

 今にも泣きそうで身体を震わせているまどかを目にし、杏子は驚いたように突撃を止める。そして一瞬にしてその熱を上げると怒鳴った。

 

「おいッ!これは魔法少女同士の戦いなんだぞ!外野が出張ってんじゃねぇ!」

 

「こんなのおかしいよ!魔法少女同士が喧嘩なんてしちゃダメだよ!さやかちゃんはただみんなを守りたいだけなんだよ!」

 

「おい、こいつマジか!?お前私達が喧嘩してるように見えたのか!?私達は殺しあいをしてるんだ!魔法少女でも無い奴が邪魔するんじゃねぇッ!」

 

 槍の鋒を向けられてもまどかは引かぬ。弱くとも友のためならば死ぬ覚悟があるのだと。まどかの正義は、その自己犠牲なのだ。

 杏子は本来、真に力を持たぬ弱者に向ける槍を持ち合わせてはいないが。自身の悪夢を触れられ冷静さを欠いた様子では抑えが効かないのだ。ベテランと言えども少女なのだから。

 

 

 

 

 

 

「何度言ったら分かるのかしら」

 

 

 

 

 

 

 だが、守護者は決してその生贄を許さない。

 

 槍はまどかを貫くこともせず、後ろにいるさやかを傷つける事すらできず。ただ宙を空振りするばかり。

 気がつけばまどかとさやかは赤き少女から離れ、その間を埋めるようにして暁美ほむらが立ち尽くすのみ。その凍えるような瞳で、感情に欠けるはずの貌を怒りで燃やし杏子を睨みつけた。

 

「あんた……」

 

 杏子は顔をより一層歪ませる。そこで冷静になれたのだろう、クライアントの意向を無視してしまった己の浅はかさに嫌悪しつつ、結果的にあの桃色の純粋な少女を殺めなかった事に心より安堵したのだ。

 

 だがそんな事情を知らないほむらはただ杏子に告げる。

 

「言ったわよね、手を出すなって。それが契約のはず……貴女は今、最もやってはいけない事をやろうとしたのよ」

 

「……けっ、そうかい。あんたも所詮は」

 

 瞬間、杏子の視点が反転する。気がつけば彼女は上下逆さまになって地面から落下した。何とか頭だけは守り、何が起きたか状況が掴めないまま立ち上がろうとして。

 頭に銃を突きつけられた。鈍く、硬い金属がひんやりとした冷気とともに伝わってくる。

 

「改めて言わせてもらうわ、佐倉杏子。ワルプルギスの夜のグリーフシードが欲しければ、彼女達には手を出さないで。事が済めば好きにすればいい。けど、今は駄目」

 

 杏子はジッと、ほむらではなくその後ろの二人を見詰めた。怯えた様子の桃色の少女と、ゆっくりと立ち上がる青色の戦乙女。その手に握る剣は、青く輝いていた。

 

 

「転校生、邪魔をしないで」

 

 

 ほむらの背中に声を投げかけるさやか。その姿は酷く汚れていて、とてもこれから戦えるものではない。だがさやかはそれでも自らの足で立ち、瞳の輝きを濁らせてはいなかった。

 言われてほむらは振り返らず、ただ警告する。

 

「何度言えば分かるのかしら。一般人を危険に巻き込んで、貴女は愚かなの?」

 

「まどかの事はありがとう。でもね、これは導きなの。私は導かなくちゃならないんだ……ほむら、あんたもね」

 

 一切の躊躇を捨て、さやかはほむら諸共月光の光波を投げるように振るう。暗い闇夜に光る月光の刃が二人に迫った。

 ほむらはそれを一瞬で避け、杏子も間一髪で光波を回避する。二人の注目はさやかに向いた。

 

「これは……」

 

 その光を初めて見たほむらは驚愕した。今の今まで、どんな時間でもさやかはあんな攻撃手段を持たなかったからに違いない。

 さやかは光る刀身をほむらに向ける。

 

「私は魔法少女達の導き手になるんだ……その迷いも、私は導かなくちゃならないんだ」

 

 啓蒙を通り越した狂気が高まる。彼女は狩人ではない。故に発狂による死を迎える事は無い。しかしそれでも、精神は違う。狂気は心を蝕み、狂わせる。

 

「……一体、何のことを言っているのかしら」

 

 ほむらの問いに答える事なくさやかは剣を振るった。何度も振るった。

 衝撃波と共に魔力を伴った光波が二人に再度迫る。まどかはどこかおかしいさやかに懇願する。

 

「ねぇさやかちゃん!もうやめて!仁美ちゃんも、なんで誰も止めないの!?こんなの絶対おかしいよ!」

 

 まどかの悲痛な叫びにも、仁美はなにも出来なかった。ただただ恐怖していた。さやかの言う導きというものを考えれば考えるほど頭の中の何かがおかしくなりそうになる。

 

 導きとは。月光とは。それは暗黒の宇宙、そのまた先の次元。人の身では決して届くことのない啓智の先。その辺境に足を踏み入れるなど、人理を超えた魔法少女ですら不可能なのだ。

 故に狂気が溜まる。考えるだけで宇宙の闇が心を侵食していく。

 

 夥しい数の光波の内、その一つが避けたばかりの杏子に迫る。それを避けることは不可能に近くて。

 

 

「佐倉さんっ!」

 

 

 黄色いリボンが光波を弾く。見覚えのあるリボンだった。それは、杏子にとってのかつての導き。あの忌々しい月光の青ではない優しい黄色。

 巴マミのもの。

 

「マミ!?」

 

 杏子は驚いて、彼女を守るように降り立ったマミを見上げた。相変わらず凶悪な胸が重力に従って揺れている。

 マミは迫る月光をマスケットのレーザーで掻き消す。その後ろ姿は、かつて杏子が憧れた魔法少女そのものすぎる。

 さやかは師であるマミの姿を見てもスタンスを崩さない。まともに狂って、ただ言うのだ。

 

「マミさんも、強がって魔法少女の先導を騙る必要なんてないんです。もっと弱さを見せてくれていいんですよ」

 

「なにを……正気に戻って!」

 

 あの、素質に溢れたマミですら光波を防ぐのに必死である。いかに月光という力が人の身に余るものか分かるだろう?

 

 

 

 

 

 

「月光の狂気に呑まれたか。なるほど、やはり高暗黒次元に潜む上位者というのはタチが悪い」

 

 

 私は、百合の狩人は落葉を抜くとさやかに向かって前進した。あれくらいの光波は問題ではない。元の使い手に比べれば小さいし、量も少ないからステップで簡単に避けられる。

 それにだ。私はあの男のように清くも英雄でも無いが。それでも友をただ飲み干されるのは面白くは無いからね。

 

「マリア……あんたこそ欺瞞の光に満ちた悪夢だよ」

 

「そうかな?私からすれば月光こそ眩い光で心を惑わす邪悪だと思うが」

 

 私は英雄というものを好かぬ。何故狩りに酔いしれず、血に酔わず、人に罵倒され嘲られ、その姿をただただ人に合わせて正しくあろうとするのだろうか。

 心折れぬ、だと?否、折れられないのだ。それは自らに課した正義に反してしまうから。だからあの男は獣と化した。ただ縋っていた光の糸に裏切られ、勝手に見捨て、何も無くなった男は酔い過ぎたのだ。

 

 そうだろう、ルドウイークよ。

 

 

 

「このっ!」

 

 私の落葉を月光の聖剣が受け止める。いつの間にかさやかの剣は本来の……ヤーナムで月光と呼ばれた姿を取り戻していた。

 激しい鍔迫り合いを制し、私は落葉を分割させて回転斬りを仕掛ける。体勢を崩していたさやかはそれをアンバランスに避けると、私の超接近を許した。

 

「友に使いたくは無いが。仕方あるまい、これもあの糸のせいさ」

 

 獣の咆哮。耳をつん裂く雄叫びを、絶叫を放つ。するとさやかは簡単に吹っ飛んでいった。きっと鼓膜も破れたに違いないが、魔法少女ならあっという間に治ってしまうから問題は無かった。

 

「もうやめてよ……ねぇ」

 

 まどかの呟きは聞き入れられない。皆が皆、さやかという異端を押さえるか狩るために剣を取るのだ。

 そしてこれ幸いとばかりにキュゥべぇは自らの使命を果たす為にまどかに寄り添う。

 

「君の力があれば戦いを止められる。さぁ、早く僕と契約を」

 

「なんで、なんでみんな」

 

 震える。ただ、傷ついていく友達を見て。

 

 月光を振るい、落葉を振るい、槍を振るい、リボンを靡かせ、銃を撃ち。

 

 

 

 

 

 だからだろう。私達、戦うべき定めの少女達は気がつかないのだ。ただの少女である彼女の嘆きに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなやめてッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だった。ただ見ていただけの仁美を除く、私を含めた少女達の動きが止まったのだ。

 急激に高まる狂気のせいで私は全身の血が噴き出るような錯覚に。いや、事実噴き出かけていた。これはあのほおずき人形やメンシスの脳みそと同じく狩人の発狂を促すもの。ただその根底にある想いは、殺すという物騒なものではなく優しい思い遣り。

 

「これは、発狂……っ」

 

 急いで鎮静剤を取り出して飲もうとしたが、間に合わない。発狂して白目を向いた私の全身から血が噴き出た。そのせいで膝をついてしまう。

 

「まどか……君はまさかぎゅううううう」

 

 驚いたと思えば破裂するキュゥべぇ。

 

「ひぃっ!?え!?なに、何なの?」

 

「か、鹿目さん、あなた」

 

 怯える仁美。魔法少女達はその場で倒れ、うごかない。まるで先日、佐倉杏子からソウルジェムが離れたように。

 肉体から魂が離れてしまったように。

 

「これは、神、秘……?違う……?」

 

 

 宇宙からの啓蒙が私に答えを促す。

 

 それは奇跡。彼女の争いを止めたい想いが具現化した奇跡なのだ。攻撃的で、しかし確実に止まる争い。もしかすれば、その奇跡は。

 

  救済

 途方も無い因果を束ねられた少女の優しい心は、宇宙に潜む者達すらも恐れさせる。優しき友の記憶は時の歪みに囚われた少女が長い年月をかけて自らの中に奇跡として積み上げられた。膨れ上がった因果の前ではこの世の法則は存在し得ない。故に心優しき少女は争いを止められるのだ。

 敵味方問わず戦う者達の魂を一時的に止め、狩人ならば高次元すぎる啓智のため発狂を促す。また不死人であるならば因果より振り分けられた呪いで石化する。

 

 少女はただ慈悲の心の下に救済したいだけなのである。たとえその救済のさきにあるものが死であるとしても。

 

 

 

 まどかは。その因果の重さ故に人であろうともその力を行使できるというのか。

 私は落葉を杖代わりに立ち上がると、血塗れのまま混乱して怯え、少女達の身体を揺さぶるまどかを見る。

 

「ねえ、起きてよ!さやかちゃん、マミさん!ほむらちゃん!ねぇ!」

 

 真に厄介なのは月光では無い。彼女なのだ。その優し過ぎる心と因果は、そのままでは宇宙すらも覆い尽くすに違いなかった。

 

 そんな彼女が、とてもとても眩しく見えた。

 

「う〜ん……きょうすけぇ……えっへへ……はっ!?あ、あれ?どうしたのまどか……」

 

 さやかが目を覚ますと同時に、他の魔法少女達も魂が身体に戻る。

 それぞれが困惑する中、ただ一人、仁美だけは抱いていた疑念が確信に変わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狩人の夢。老人と美女がただ動かずに狩人を待つ。その異様な空間に、またもや異様な乱入者がやってきた。やってきてしまった。

 

 いつものように修練の為に夢へとやって来た恭介は、何も変わらぬはずの夢の中で確かに感じたのだ。嗅ぎ取った、と言っても良いだろう。

 ただその、獣とも人間ともつかないその臭いは禍々しいもので。いつもの工房から漂うその異臭は恭介の中にある狩人の血を沸滾らせるものであることは間違いない。

 

 ただ吸い寄せられるように、恭介はこのみの制止を振り切ってまで扉を開ければ。

 そこにはいるのだ。例え人では低き啓蒙で分からずとも、狩人にはわかる。今老人と対面している異形の姿が。

 

「獣かぁっ……!」

 

 有無を言わさず恭介はノコギリ鉈を振りかざす。ゲールマンはそんな熱い若者を止めることはせず、深い溜息を溢して見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや絶対やばいって!あの女の人、すっごく綺麗だけど怖かったもん!」

 

 慌てるこのみに毬子あやかは楽天的に笑うと言う。

 

「大丈夫っしょ!案外恭介くんも仲良くやってるかもしれないし!」

 

 このみが慌てている原因は、恭介にあった。夢に現れるなり目を血走らせ客人の元へと急行した恭介……このみは先程の一件もあり客人に良い思いを抱いていない事は明白で。

 どうやらあの百合の狩人の友人らしいから、その客人がまともな訳もなく、そこへ武器を掲げて走っていく恭介が何かやらかさないか心配でしか無い。

 

 丁度暇そうにしていたあやかと人形ちゃんを捕まえたは良いが。

 

「エーブリエタース様は非常に消極的な方ですが。新しい狩人様は彼女を見かければ狩りを行うでしょう」

 

「え、なんで今言うのかな人形さん」

 

 それはつまり、恭介は客人を襲う気満々と言っているのに等しい。

 二人と一体は恐る恐る工房の扉の前まで辿り着くと、聞き耳を立てようと頭を扉に近づける。

 

 

 ガシャーンっ!と、何かが勢い良く割れた。どうやら人形ちゃんの予想は的中してしまったようだ。

 

「どどど、どうしよう!きっと上条くん襲い掛かってるよ!いつもマリアさんと狩人さんにやられちゃってるからストレス発散しようとしてるよ!」

 

「このみって結構酷いこと言うよね」

 

 その時だった。扉が勢いよく開けられて二人の頭が打ち付けられる。そのまま階段下まで吹っ飛ぶ少女達。ただ一人、人形ちゃんだけが後ろからその光景を見ていた。

 同時に、恭介も中から吹っ飛んでくる。ボロボロの雑巾みたいになって。

 

「ぐわっ!」

 

 恭介は階段を転がり、このみとあやかの上に倒れ伏すと工房の中を覗き見た。

 

 

 星の娘、エーブリエタース

 そこには、異形の存在がゆったりとした動きで這い出て来ていて。

 

「ああ、修繕が大変だからあまり壊さないでくれ」

 

 呑気に言うゲールマンを無視して客人、星の娘……上位者が姿を現した。そんな異形に、人形ちゃんはゆったりとお辞儀をする。

 

「化け物め……!」

 

「ちょ、いいからどいてって!おーもーいー!」

 

 恭介は立ち上がると、輸血液を自身に打って回復する。エーブリエタースと呼ばれる娘はそんな彼を見るとその触手とも呼べるであろう腕を天に掲げた。

 第六感が危機を告げる。恭介は急いでその場から離れる。

 

 暗黒の宇宙が、天に広がる。彼方からの呼びかけ、その失敗がもたらすのは隕石。小さな隕石は恭介を狙い飛翔した。

 それらをステップで回避すると、恭介はまたエーブリエタースへと突撃する。

 

「うわー、すっごい魔法!」

 

「あの女の人強いんだね」

 

 啓蒙とは、授けられるもの。そして授けられる者は狩人に他ならない。

 だから彼女達には、あの上位者が美しい娘にしか見えないのだ。だがそれで良い。皆が皆、真実を知る必要はないのだから。

 

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