魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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咲き乱れる花

 

 

 

 

 

 狩りとは元来孤独なものだ。鐘を鳴らせば協力者を呼ぶ事もできたが、それでも制限はある。どちらかが死んでしまったり強敵を倒せば協力してくれた者達は自分の世界に帰る事になるし、そもそも制約上会話はできないからそれは寂しいものなのさ。

 だがそれで良いのだ。狩りとは言葉を持たぬ。ただ獣を狩り、自らの血の遺志とするだけなのだから。先にも述べたが、ここまでの見滝原での狩りが異様だったのだ。我ながら喋りすぎたと思う。啓蒙を得て人を辞めた上位者である私が、こうも心地良く口を開いていたなどと……ふふ、マリアお姉様が知ったらさぞかし笑うかもしれないな。

 

「志筑さんッ!僕に合わせて!」

 

「わかりましたわッ!」

 

 だから恭介よ、君は未熟なのだ。孤独に成りきれずに少女と狩りを成そうなどと。今まで単なる技術しか教えてこなかったツケが回ってきたのかもしれないな。ならば師として、私が教えてやろうじゃないか。

 狩りの孤独を。何故狩人は単体で狩りに臨むのかを。

 

 恭介の斬り付けをステップで回避する。単なる縦切り……あまりにも単調な攻撃だ。もちろん、この意図に気がつかない私ではない。背後を取るように仁美が忍び寄っている事には気がついている。

 凶悪なチェーンソーの音が後方から一気に響く。私は振り向かずに左手のエヴェリンのみを彼女に向けた。

 

「ッ!」

 

 眼前に迫った銃口に、仁美は息を呑んだ。急いで銃線から頭を回避させたと同時にエヴェリンが火を吹く。けたたましい銃声は彼女の鼓膜を傷つけたが、間髪入れずに私はノコギリ鉈を振るった。

 チェーンソーとノコギリがせめぎ合う。振りの速い未変形のノコギリ鉈……ああ、なんと使い易い事か。

 

 私は命の火でせめぎ合う中、顔だけを仁美に近づけた。それはかつて、お姉様が私にしたように神秘的であるに違いない。かつての私と同じく仁美はギョッとしたように顔を痙攣らせた。

 

「甘い少女の匂いだ……たまらないものだ」

 

「ほんっとうに……悍しいッ!」

 

 悪態を吐く仁美はそのまま押し切って私を遠ざけた。魔女化の影響か、筋力は既に魔法少女のものではないようだ。

 すかさず恭介がノコギリ鉈を変形させて大振りの攻撃を放ってくる。いつになく洗練されたフォームだ。怒りを制御し、血に飲まれる事も無い……強い意志を感じた。なるほど、愛のなせる技という事か。

 

 私は蛞蝓を夢から取り出し、それを彼に翳した。エーブリエタースの先触れだ。悍しくも美しい触手は回避の余裕もない恭介に迫った、が。

 それを、仁美の半身が邪魔をした。彼女の魔女化部分……その腕がエーブリエタースの触手を抑えたのだ。

 

「ほう、美しい娘に触れたか」

 

 触手は所詮、借り物でしかない。すぐに触手は離散して元の世界へと戻っていった。そして、恭介の一撃が私の肩へと食い込む。

 

「捉えたぞッ!」

 

 肩から血が吹き出る。その威力は、人間相手ならば即死する程の威力。きっと獣相手にも致命傷を与えられるだろう。だが生憎、私は人ではない。ただの狩人ですらないのさ。

 古い狩人の遺骨で瞬間的に距離を取ると、輸血液を注入する。刹那、傷が一瞬にして治る……でも服は直らないな。後で使者に仕立てて貰おう。

 

「悪くないな……狩人として立派に成長しているようだ」

 

 弟子の成長ぶりを褒める。

 

「なら、私も君の全力に応えよう。狩人とは……気高い血の狩人とは、気高いものだ」

 

 右手にノコギリ鉈を。左手には……眼に見えぬ何かを。きっとこの何かは、仁美達には見えない。だが多少の啓蒙を施された恭介には感じ取れたようだ。一瞬身を震わせたようだった。

 ふふ、君には見せた事が無かったね。ならば光栄に思うが良い。この神秘は……文字通り、私なのだから。

 

 私は左手を掲げると、二人はそれを阻止しようと走り出す。だが無駄さ、私を止められるものは誰もいない。いつの世も、どんな時代も。私は止まらず、狩りを続けてきたのだ。

 さぁ、我が父よッ!貴方を超えたその時から、ずっとこの力を使いたくてたまらなかったんだッ!私をガッカリさせないでくれ、月の魔物よ!

 

 それを、握り潰す。眼には見えぬ、しかしへその緒のような何かを。

 

 

 

 咆哮が、鳴り響いた。血を奪う、彼者のけたたましい声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は争わずにはいられない生き物だ。その理由は様々あれど。そして解決までの道のりに変化はあれど。最後は争って勝ち取るものだ。

 人の歴史とは、闘争の歴史だ。我々が今教授している平和とはまさしく人の屍の上に成り立っているのだろう。それこそ、一部の魔法少女が魔女を狩り人々の暮らしを守るように。だが、その先にはあまりにも救いがない。

 魔法少女の行く末が魔女であるとするなら。幼い娘らに救いはあるのだろうか。

 

 

「だからこそ、貴女にはなってもらわねばなりません」

 

 

 夜の鉄塔、その上で織莉子は両手を月光に広げる。その貌を甘美な笑みに歪めて。その背後で、呉キリカはなんとも言えぬ表情で想い人を眺める。彼女は聡明で素晴らしいが、それゆえに脆い。きっと、彼女が予知した何かが彼女を変えてしまった。

 

「マリアさんには悪いけれど。貴女はこの先、脅威になる」

 

 綺麗で、狂気を孕んだ瞳。人は生まれながらにして獣性を有す。獣性とは人の性。対して啓蒙は、更なる次元に潜む者たちの啓智。本来ならば人とは相容れないものなのだろう。

 だから、啓蒙を高めた人間には二通りしかない。自らを律しその啓智を我がものとするか。或いは、人を超えた啓智に脳を犯されるか。そのどちらかなのだ。

 

 聡明な織莉子とて、所詮は人の子。それにまだ幼い。あの狩人が齎した啓蒙は魔法少女としての格を更に上げた。だが同時に、人としての領域を離れてしまった。

 だからキリカは理解できない。なぜ今まで殺そうとしていた少女を……今度は崇拝するのか。嫌いだが、友人として迎え入れた恩人である狩人を排除しようとするのか。今はまだ、分からないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁美ちゃんが言っていた、悍しいという感情。きっと、この事を言っていたんだ。でもそれだけじゃないけれど。私と仁美ちゃんは、それ以外の事も感じていたけれど。今は、この事を悍しいんだと幼いながらに思ってしまった。

 マリアちゃんは、自らを狩人と名乗る。それは詰まるところ、魔法少女でもなく人間ですらない。種族そのものを指しているのだろう。でも私の知り得る限り、狩人というものはあんなにも悍しいものだったであろうか。

 

 あんな、ポンチョの末端から蛸のような触手が出ているものが、狩人などと。

 

 

 

 

 

 かつてお姉様がそう仰っていたように、愚かな好奇は人を殺すものだ。人の身に余る好奇はそれこそ自らを飲み干して、獣へと堕ちていくのだろうさ。

 でも残念だね。私は最早人間じゃない。単なる狩人でもない。ましてや純粋な上位者でもないのさ。愚かな好奇も、獣性すらも超越した存在なのだ。

 

「良い夜だ。月も出て、狩りに適している」

 

 触手をうねらせ、私は二人に話しかける。あまりそんな目で見るな、まるで私が化け物みたいじゃないか。

 それにしてもいつかぶりの触手だ。幼年期の頃はまだ人間の姿に戻る事ができなかったからあんな姿だったが……なるほど、これも悪くない。星の娘がなぜあんな触手を有しているのかわかった気もするよ。

 

「上位者め……!」

 

 恭介が憎しみを込めた目でこちらを睨む。

 

「怒りは制御しろと、教えただろう。怒りは理性を喪失させ、いつか獣へと変えてしまう。恭介よ、ただ狩りに徹しなさい」

 

「黙れッ!志筑さん!」

 

 刹那、仁美の魔女がノコ刃を飛ばした。私がそれを触手でなぎ払うと、すかさず恭介が接近してノコギリ鉈を振るう。

 獰猛に微笑み、私は“加速”した。瞬間移動にも似た回避は、脅威的な動体視力を持つ狩人である恭介にも捕らえることはできない。私は瞬時に仁美へと向かうと触手で彼女を簀巻きにしてみせた。

 

「きゃっ!」

 

「加速!?志筑さんッ!」

 

 触手に巻かれて動けない彼女をそっと抱き寄せる。どうやら本体の状態によって魔女は動きを制限されるらしい。私は仁美の頬をねちっこく舐めると耳に息を吹きかけた。

 

「生の少女ね……甘いわ、ふふ、その全身、私の舌で舐め尽くしてあげたいね」

 

「ひぃ……!なんで舐めるの!?」

 

 シュッ、とナイフが飛んでくる。投げナイフだ。それらは彼女を捕まえていた触手を傷つける……これは、毒入りか?私は思わず仁美を恭介に投げつける。だが毒の蓄積量的に白い丸薬を飲むまでもない。

 恭介は投げ出された仁美を抱き抱える。私はその隙を逃さない。

 

 一気に触手を伸ばす。その触手は、エーブリエタースの先触れと同様に硬く、鋭いものだ。人間の身体程度なら二人まとめて貫けるだろう。

 迫りくる触手に恭介は反応した。すかさず仁美を突き放す。

 

「か、上条くんっ!」

 

 触手の先端が、恭介の胴を貫いてみせた。大量の血が側にいる仁美に降り掛かる……触手を引きぬけば、恭介はその場に崩れ落ちた。

 

「言っただろう、狩に徹しろとね」

 

 冷酷に、だが適切に助言をする。やはり私はゲールマンの代わりにはなれないか。今現在、弟子は絶賛反抗期中だからね。

 膝をつく恭介に駆け寄る仁美。その精神的な動揺は見ればすぐに分かった。

 

「上条くん!ああ、どうすれば、ああ!」

 

「僕は……死なない……君は、鹿目さんを連れて……逃げ……」

 

 響く破裂音。それは私のエヴェリンが、恭介の脳天を貫いた音。私の血質によって威力が上乗せされた弾丸は、いともたやすく恭介を絶命させた。彼の身体はその場で灰のように消え去る……死にはしないのだ、夢で目覚めるだけなのだからいいではないか。

 

 

 ━━YOU DIED━━

 

 

 それに。

 

「あ、あ、かみ、上条、くん」

 

 そこで絶望に打ち拉がれる仁美も、すぐに夢へと誘うんだから。

 

 

「狩りとは孤独なものだ」

 

 

 触手を納め、私は項垂れる仁美へと近寄る。

 

 

「だからだろうね。狩人とは常に孤独だ……それだけ仲間を失う事は辛いのさ」

 

 

 介錯を。深い眠りへと誘うための、介錯を。天国へ。君も少女ならば。私はノコギリ鉈をしまって落葉を取り出し……振り上げる。

 

 

「ダメだよ!」

 

 

 なんとこの少女の優しく勇敢な事か。私と仁美の間にまどかは割って入った。震える身体で、両手をいっぱい広げて。嗜虐的な嗜好は無いが、どうにも苛めたくなるなぁ、君は。

 私は足を止めるといつもの冷笑でまどかを見据えた。振り上げた落葉は、一度下げる。これでは益々怯えさせてしまうだろう。

 

 

「マリアちゃんおかしいよ!仁美ちゃんももうまともなのに、上条くんまで殺しちゃって!なんで?ねぇ、どうして?どうしてみんな仲良くできないの?」

 

「狩人だから。そして魔法少女だから。戦いからは逃れられない。その運命を覆したければ戦うしか無いのさ」

 

 まどかににじり寄る。今はまだ、彼女には夢の住人たる資格はない。だがその後ろで絶望する仁美にはこちらに来てもらおうじゃないか。

 まどかを退かそうと手を翳す。だが。

 

 殺気が私を貫く。瞬時に後方へ加速し、やってくるであろう攻撃を回避した。刹那、私がいた場所にレーザーが着弾した。これは、織莉子のものだ。

 それだけでは終わらない。真上から、笑い声がしたと思いきや誰かが降ってくる。呉キリカ……あの所謂、サイコレズという奴だ。人のことは言えないかもしれないが。

 

「死んでくれ恩人!」

 

「おいおい……」

 

 キリカの鉤爪を落葉で受け止める。力任せに押しやると、彼女はまどかの前に立ち塞がるように位置して見せた。なるほど、目的はまどかか。しかしおかしいね、彼女達は元々彼女を殺すために動いていたのに。

 キュゥべぇは、私たちを傍観する。相変わらず惚けるマミの横で。

 

「想定外だけど、これはこれで上手い方向に流れたね」

 

「あら、そうかしら」

 

 麗しい声が聞こえた瞬間、キュゥべぇはレーザーによって消滅した。少々雑だが、あの上位者もどきにはこれがお似合いだろう。

 マミの横を素通りし、グリーフシードを取り出して仁美のソウルジェムに触れる。彼女の絶望は、少しは緩和されただろうか。

 

「あなたは……」

 

「絶望に打ち勝ちし聖女の遣いよ、私は貴女方を救いに参りました」

 

「え?」

 

 いつもよりも三割ほど厨二感が増した織莉子が言う。なるほど、君は私を敵だと言いたいのか。

 

「織莉子、私は君たちを友達だと思っていたんだけれど」

 

「ええマリアさん。貴女は恩人ですが……同時に、聖女に歯向かう獣でもあります」

 

「聖女?」

 

 私は首を傾げる。もしやそれは、まどかの事を指しているのだろうか。と、織莉子はまどかに振り向いてまだ震えの止まらない彼女に対し跪いた。

 何がなんだか分からないといった表情のまどかを気にもせず、織莉子は言う。

 

「ああ、なんて美しいのでしょう」

 

「え、あ、ありがとう、ございます……?」

 

「聖女よ、今はまだ貴女様の役目をご自身で理解できていないかもしれません。でも、いつか貴女様は私達の救いになる……私はその時まで、貴女とその遣いを御守りする盾となります」

 

「はぁ……」

 

 だが、まどかを崇拝している織莉子に対してキリカは複雑そうな表情をしている。ふふ、好きな人を盗られて焼きもちを焼いているんだね。可愛いじゃないか。

 落葉を分離させる。そろそろ私とも会話してくれないかね。

 

「まぁ、人生何が起こるか分かるはずもない。これもまた、一興なのかもね」

 

 誰が来ようが構わない。私は狩人で、仇なす者をただ狩るのみ。キリカが鍵爪を構える。言葉は不要だ、なら戦おうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要は」

 

 

「ないよッ!」

 

 

 

 

 

 眩い月光が、私の目を覆った。迫り来る波動を感じ、獣の咆哮でもってそれを遮る。それは言うまでもなくさやかの月光の大剣が生み出したエネルギーだった。

 ついでに、銃弾が一度に複数も迫っている。それらを一気に落葉で払う……少し刃がかけたかもしれないな。後で修理しなければ。ただでさえ血晶石のせいで耐久性が落ちているのに。

 

「マリア……恭介を、どうした」

 

 キリカの横に着地したさやかが剣を構える。その刀身はいつにもなく輝いている……ふむ、感情が月光の神秘に影響を与えているのか。

 同様に、銃弾を撃ち込んだほむらもまどかを守るように立ち塞がった。そして両手に握る拳銃を私と織莉子に向ける。どうやら彼女達は別に結託しているわけではなさそうだ。となると、織莉子とキリカはまったく別の思惑で動いていると。

 

「揃いも揃ってクラスメイトを敵扱いか……悲しいじゃないか」

 

「恭介をどうしたァ!」

 

「落ち着きなさい美樹さやか!」

 

 あからさまにさやかは激昂していた。冷静さのカケラも感じない彼女の声色はそばにいるまどかを震えさせる。そんな彼女に、私はいつもと同じように答えた。

 

「殺したよ。でも心配するなよ、明日にはひょっこり登校しているだろうからね」

 

 プツン。離れていても、さやかの血管が切れる音が聞こえた。そこからは早いものだ、彼女は光る月光の聖剣を振りかぶりながら跳躍して見せると、物理法則を無視してこちらに迫ってくる。

 ローリングで彼女の攻撃範囲上から逃れると、湖の盾を夢から呼び起こして構える。ルドウイークとの戦いで、私は散々あの月光の波動を喰らったのだ。その対策をしない訳がない。

 

 案の定、さやかの聖剣はアスファルトを砕きながら青白い神秘の波動を撒き散らす。狩人に盾は似合わないが、湖の盾を気紛れで強化しておいてよかった。鏡のような美しさを誇る盾は不完全ながらも高威力の波動を防ぎ切ってみせたのだ。

 

 

「これはこれは……ヤーナムの影の時ですら三対一だったのに」

 

 

 ため息まじりに笑いながら、カラン、という音を逃さなかった。気がつけば頭上にほむらが滞空しているではないか。音の正体は彼女が落とした筒状のもの。爆弾か。

 刹那、私の目と耳が奪われた。幾度か小爆発したそれは私の足元で眩い閃光と轟音を撒き散らしたのだ。なるほど、こういう爆弾もあるのか。相手を惑わすには良いものだろう、是非とも対人戦で使いたいものだ。

 

「ナイス転校生ッ!」

 

 さやかの叫びは私には聞こえないが、狩人の直感が彼女が向かってきていると警鐘を鳴らした。きっと確実に殺しにくるために突きを放つに違いない。長い年月を戦いに費やした私だからこそ分かる。

 盾をそのまま構える。そして、直感に任せて私は盾を思い切り弾くように振ってみせた。

 

「えッ!」

 

 確かに、盾越しに感触が伝わった。さやかの大剣を弾いたのだ。今、彼女は必殺の一撃を逸らされて無防備になっているに違いない。

 

「貰ったよ」

 

 囁くように私は宣言する。古来、神の時代の話だ。まだ盾が使われていた頃。私達が攻撃の瞬間に銃撃によって相手の体勢を崩すように、騎士達は盾によって攻撃を逸らしたという。

 聞きかじっただけの知識も、たまには役に立つじゃないか。

 

 復活した目を見開いて、私は驚いて身体を晒すさやかと向き合う。そしてやる事といったらもちろん内臓攻撃であり。

 

「っ、ああ、君の存在をすっかり忘れていたよ」

 

 私の必殺の右手はさやかの内臓を捕らえる前に鉤爪によって止められてしまった。呉キリカが邪魔をしてきたのだ。

 鉤爪の刃に突っ込む形になってしまった私の拳からは血が流れる。いやはや、やはり多人数を相手に立ち回るのは狩人らしくないのだろうね。

 

「恩人、死ね」

 

「美人が台無しだ、もっと顔を柔らかくしなさいな」

 

 迫るもう片方の鉤爪を、私はステップで回避する。すかさずキリカが私を追ってくるが。

 

「どきなさい呉キリカ!」

 

「あんた誰さ!」

 

 同じように迫っていたほむらが邪魔をしていた。無理もない、彼女達は異なる世界で戦った事はあれど共闘などした事がないのだろう。それに戦い方も全く別で、タイミングが合うはずもない。

 その隙に加速して距離を取り、輸血液を注入する。攻撃によるリゲインが期待できない以上、仕方がない。そんなに深い傷でもないが、やはりこれだけの相手をするのだから万全を期したいだろう?

 

「君達が複数で来るのならば私にも考えがあるよ」

 

 スカーフの下から触手を大量に放出する。私も古き良き上位者に倣って触手の物量で攻めてみようじゃないか。

 エブたんには敵わないが、それなりの質量を持った触手の数々が少女達に迫る。必然的に迫っていたキリカとほむらが真っ先にその被害に遭っていた。彼女達は触手を斬り裂き撃ち落とすも、その数のせいで四肢を拘束されてしまう。

 

「ぐっ、この!」

 

「転校生!」

 

 さやかが月光を用いて衝撃波を飛ばす。拘束した触手を狙ったものだが、甘い。連続して攻撃ができない性質上、一本切ってもまた次の触手が彼女らを拘束してしまうのだ。

 

「何なのさこの!」

 

 苛立つさやかにも触手が迫る。まどか達にもそれは迫っていて、さやかは一人でそれらを迎撃する他ない。

 

「拘束される少女を眺めるのも好きだからね……ふふ、ほむら。触手が君の細身の手足に絡みつくと、その、興奮するよ」

 

「へん、たいっ……!」

 

 必死に強がるほむら。それは褒め言葉として受け取っておこうじゃないか。

 

 

「さやかちゃん!ほむらちゃん!」

 

「ああ、悍しい……あんな女に、上条くんは……」

 

 

 震える少女達。だが、対照的に織莉子は落ち着いていた。まるでゴミを見るような目で私を見据えると、手にする水晶を真上に放り投げる。そして空中の水晶に向かってお得意のレーザーを放った。

 離散する細いレーザー。それらは私の触手を的確に弾いてみせた。もちろん二人を拘束する触手も……ああ、私なりの趣が。

 

「それは、ちょっとずるいんじゃないかな」

 

「あら、人ならざる力を持つ貴女がそんな事を言うなんて」

 

 私の抗議に織莉子は軽口で対処する。なるほど、ならば私も似たような技を使わせてもらおう。

 

「ではレーザー対決でもするかね?」

 

 私は蛞蝓を取り出し、それを握りながら頭上に掲げる。所謂、彼方への呼びかけだ。水銀弾の残量的にあと一回は撃てるだろう。

 

 

 

 

「おりゃあッ!」

 

「がぁっ!なんだいいきなり!」

 

 

 

 

 突然すぎた。誰もいない背後から急に槍が突き立てられた。槍は容易に私の胸を突き破り、多量の血を噴出させてみせたのだ。槍が引き抜かれてから千鳥足で後ろを振り返れば、次の攻撃を構える杏子の姿があった。

 

「あんたには悪いけどッ!」

 

 次の突きが来る。私は加速して強引にそれを避けると貧血のせいで地面を転がった。危なかった。まさかバックスタブされるとは。夥しい血を撒き散らしながら、私はヨセフカの輸血液を自身に注入する……凄まじい快楽と回復力を齎すそれは、できれば使いたくなかった。だって数が少ないし、補充しようにも当のヨセフカはもうこの世にはいないのだから。

 

 前衛で警戒する杏子の横にさやかが並ぶ。

 

「杏子、来たんだね」

 

 どこか嬉しそうに言うさやかに、杏子はバツが悪そうな表情で答える。

 

「別にあんたの考えに納得した訳じゃないさ」

 

「それでもいいよ」

 

「ただ、なんだろうね。あんたの考えに、少し光を感じた自分もいるんだ。だから、その……」

 

 だぁあああ、と頭を横に振る杏子。捻くれた少女は素直になる事ができない。

 

「あたしを納得させてみろ、美樹さやか!それまで共闘してやる!」

 

「素直じゃないな〜杏子は。まぁ、いいや。今はまずあいつを倒そう!」

 

 ジリジリと、私を包囲した魔法少女がにじり寄ってくる。ああ、これはちょっとまずいかも知れない。いくら私が強くても、基本的に狩人は複数を相手にすると敵が弱くてもタコ殴りにされて死ぬ事だってあるんだ。それは上位者となった今でも変わらない。

 そもそも、上位者とは強さでなるものではないし。水銀弾も血で補充する必要がある。それだけの隙を見せてくれるとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女が魔女になるなら……皆、マリアさんに救ってもらうしかないじゃない!」

 

「そうなのです!」

 

 

 

 

 シャボン玉が混ざった銃弾の雨が魔法少女達に降り注ぐ。急な攻撃に、対峙していた魔法少女達は対処しきれなかった。致命傷こそ避けたものの負傷は免れない。その上、謎のシャボン玉は彼女達の側で弾けると炸裂してみせたのだ。衝撃波という不可視の攻撃は彼女達の三半規管と内臓を揺さぶってみせた。

 

 私は深く溜息を吐き、安堵した。そして目の前に降り立った二人の魔法少女を見据える。

 

 金色の衣装に身を包み、豊満な身体を健全に主張する巴マミ。そして幼い、小さいながらも数多の魔法少女相手に物怖じもせずに助太刀してみせた百江なぎさ。

 私の窮地を救ったのは、少なからず私が干渉して救ってみせた少女達だ。マミはまぁ……精神的にだろうが。

 

 マミはマスケット銃を少女達に構えると、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。

 

 

「もう、やめましょう?だって私達魔女になるのよ?なら、死んで、死なないと、そのうち大切な人を殺すことになるかも知れない!でもマリアさんは救ってくれるの!人じゃないかも知れないけど、私達を救ってくれるのよ!?なら争う事なんてないじゃない!」

 

 これはもう、依存だ。我ながら、エブたんに次ぐヤンデレを生み出してしまったなと笑うしかない。

 

「銃撃しといてよく言うぜマミ!化け物になるか化け物の手先になるかの違いしかないじゃねぇか!なら私は最期まで自力で戦い抜くさ!」

 

「そうだよ!そのために私は月光を取るんだ!偽りじゃない、魔法少女として魔法少女の導きになるためにね!」

 

 杏子とさやかは似た者同士だ。きっと二人なら良い百合を見せてくれるのだろう。

 

「百江なぎさ……貴女を魔法少女にしたのは白百合マリアよ。それなのに、どうして彼女を守ろうとするの?」

 

 理解できないと言うように、ほむらは幼子に問う。なぎさはさも当然といったように淡々と答えた。

 

「恩があるからなのです。なぎさは仮初だとしても、マリアに助けてもらった。なら忠を尽くすだけなのです」

 

「特殊部隊の母みたいな事を言うねなぎさは」

 

 彼女の芯の強さに驚いてそんな事を言ってしまった。まぁ良い。今この場においては彼女達の存在は心強いものだ。君も、一人で呪われた聖杯を攻略していたら心細いだろう?

 

「でも、マミさん!仁美をみてよ!あの子は魔女にはならなかった!人として、魔法少女として留まってるじゃんか!」

 

「それも全てがそうなるわけじゃないわ!」

 

 その通り、と私は念を押す。

 

「仁美が魔女とならなかったのは啓蒙が人よりも高かったからだ」

 

「けい、もう……?」

 

 仁美がこちらを見上げて首を傾げる。

 

「そうさ。理性、啓智、色々と呼び方はあるけれど。自らの獣性を抑え込むために啓蒙は必要なのさ。……まぁ、それも私が与えたものだが」

 

「人ならざる次元の思考……そうまでして超次元的な暗黒に興味がおありで?」

 

 織莉子は冷めた目付きで問うた。私は両手を広げ、

 

「それはもちろん!啓蒙とは、人が次のステップに進むために必要さ!そのために上位者へと進化した!……けれどね、本当はそんな崇高な事はどうでもいいんだ」

 

 私は広げた腕で、マミとなぎさを背後から抱きしめる。優しく、愛おしげに。その時の私はきっと、娘を抱きしめる母親のように暖かかったに違いない。

 

「私はただ、無垢な少女と過ごしたいだけなんだ。私達だけの天国で……そこには憂いも絶望も無い。ただ過ごし、今までの苦労を労うためだけに生きて良いのだ」

 

「マリアさん……」

 

 マミとなぎさも私の腕に手を添える。

 

「まどか、これが私の理想だよ。宇宙の延命とか、そういうのじゃない。ただ一人の疲れた少女として、私は生きているだけなんだ」

 

 蚊帳の外にあったまどかへ声をかける。別に同情してほしいわけではない。だが、まどかには知っていてほしい。彼女はこの先、この物語を左右する存在になるのだから。

 そして私は、抱きしめた腕に力を込める。

 

「だから、だからね君達」

 

 暗い笑いがこみ上げる。

 

 

「君達もその遺志を寄越せ。この私に、遺志を寄越すんだ。天国へ行こうじゃないか……ククク、くふふふ」

 

 狩人の確かな徴を砕く。ここは身を引く場面だ。

 すぐに私達の転送が始まる。まるで霧のように身体が薄くなっていくのだ。これには対峙する魔法少女軍団だけでなく、マミやなぎさも驚いた。

 

「私が憎いかい?でもね皆、私は君達のために色々としてやったよ?対価も無しにね……なのにあーでもないこーでもないと言って私を殺そうとするのはおかしいんじゃ無いかな?まあ良い。いずれまた会おうじゃないか。今はまず、君達は頭を冷やして本当の敵を見定めるべきだ」

 

「逃げるのかッ!」

 

 さやかが月光を振るうも、時すでに遅し。私達の実態はこの次元から離れてしまっていた。

 

「これ以上争ってまたまどかに奇跡を施されるのも嫌だからね。まぁまた明日学校で会おうじゃないか。私は敵ではないのだから……」

 

 そう、私は敵ではない。むしろ少女達の味方じゃないか。攻撃をされなければすることもない。私が狩るのは獣と、気に食わない上位者だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マミの厚めの唇が私の色素の薄い唇と触れ合う。転送先はマミの部屋だった。転送した瞬間、彼女は私を押し倒してキスしてみせたのだ。

 隣で目を輝かせるなぎさを横目に、私も彼女の甘えを受け入れる。息が切れて苦しくなってもマミは唇を離さなかった。しばらくして、満足したのか彼女は唇を私から離した。お互いの唾液が糸を引いている……甘美な味だった。きっと私の口の中は血の味しかしなかっただろうに。

 

「マリアさん、約束して」

 

 彼女は私に跨ったまま呟く。

 

「私を天国に連れてってくれるって」

 

 決意したような、強い表情だった。私はいつもの微笑みでもって頷く。

 

「言われなくとも」

 

 それだけ言うと、マミは魔法少女の衣装を脱ぎだす。あれ、これはもしかすると……もしかするかも知れない。

 突然のピンク色なシーンに、いくら私と言えども困惑せざるを得なかった。助けを求めるようになぎさを見れば、お邪魔虫は消えるのですと言って玄関から立ち去ろうとしていた。なんと薄情な事かこの娘は。

 

「ま、待ち給えマミ。ねぇ待って!」

 

「私、貴女を逃さない。だからここで一緒になりましょう」

 

 気がつけば彼女は下着だけになっていて、ついに私のボロボロな衣装を脱がし始めたではないか。

 魔法少女の髄力は狩人のそれに近い。マウントを取られている私はなす術なく、マミに良いようにしてやられるしかないのだろうか。

 

 啓蒙が囁く。百合は素晴らしいと。

 

「待ってマミ!まだ早い……あっ!」

 

「ふふ、可愛い声も出せるのね……私の初めて、あげるから」

 

 ああ、かつてのヤーナムで狩人に怯える獣達の心情が分かった気がする。ここに来て、まさか私が狩られる側になるとは。エブたんになんて説明すれば良いのだろうか。

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