魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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親と子

 

 

 

 青ざめた血。またの名を月の魔物。それは只人が彼を呼ぶために勝手に名付けたものに過ぎない。上位者という人知を遥かに超えた存在である彼らにとって、名とは重要では無いのだろう。形に囚われ思考を放棄するよりもすべき事は沢山ある。そうしてウィレーム先生は思考のみで人を超えたのだから。

 それでも無いよりはマシだとは思うが。だってアメンドーズや星の娘のことをあれとかこれとか表現するのは彼らにとって失礼に値するだろうし、何よりも分かりづらい。上位者で一括りにしてしまっては、それこそ思考の放棄に他ならないだろう。

 

 そんな娘に翻弄される月の魔物は、一人学校に忍び込んで屋上にて黄昏る。月の魔物という名が示す通り、彼は夜に生きる種族なのだろう。この晴天は似合わない。

 彼はボロボロのリュックサックをベンチに下ろすと、リュックのポケットから一枚の紙切れを取り出した。それは彼の、本来の顔の似顔絵だった。随分と昔に貰ったであろうそれは、幼年期の娘が描いたものだ。まだ仲が良かった頃の。

 それを懐かしむように彼は見つめる。今となっては仲の良かった娘は反抗期真っ只中。永らく上位者の赤子というものが存在しなかった彼らにとって、上位者にも反抗期があるのかと話題になったほどだ。

 

 

「やぁ。まさか君ほどの存在がこちらの世界にやってくるとはね」

 

 

 少女のようで、少年のような声が背後からかけられる。月の魔物は胸ポケットに紙切れを仕舞い込むと、ゆっくりと振り返って声の主を睨んだ。

 

「インキュベーター」

 

「おや、まさか僕を覚えていたとはね。もっとも、その名前も人類が勝手につけた名前だ。そこに意味は無いよ」

 

 ひょこひょことこちらへと歩いてくるキュゥべぇ。姿は一体のみだが、彼らは独自のネットワークで各個体の情報を統括している。即ちそれは、月の魔物がこの世界に降り立っていると知られている他ない。

 月の魔物は特に何をすることなくキュゥべぇの接近を許した。そもそも、娘に言ったように今の彼には攻撃の手段など無い。人間の姿を模す事は上位者にとっては容易だが、本来そのままでもその溢れんばかりの神秘を扱うことなど容易いはずだった。それでも彼が自らに枷をかけているのはやはり、娘に敵意がないと示すためだろうか。

 可愛い娘に嫌われたい親などいない。

 

「よくも俺の前に姿を出せるな」

 

「怒っているのかい?君達らしくないね。それに、僕は彼女には何もしていないよ。白百合マリア……あぁ、リリィだったかな。彼女と会ったのも最近さ」

 

 即座に月の魔物はキュゥべぇを踏み潰す。ぐちゃりと白いタンパク質の塊が彼の足元に広がった。

 

「そんな行為に意味がない事は君も分かっているだろう?」

 

「あの子の名前を気安く呼ぶんじゃない」

 

 新たなキュゥべぇがやって来る。月の魔物が言えた事ではないが、相変わらず不気味な奴だ。

 

「随分と彼女を気にかけているんだね。まぁ当然だろう、彼女は君達が待ち望んだ赤子だからね」

 

「鹿目まどかから手を引け」

 

 単刀直入に月の魔物は言う。

 

「それはできない。まどかの素質は本物だ。彼女の因果をすべて回収できれば宇宙のエネルギー問題は解決されるんだ。君達の世界の宇宙にすらその影響は及ぼされるだろうね。悪い話じゃないだろう?赤子のためだけに街一つ壊滅させられる君なら、僕たちの行いも理解してくれると思っているんだけどな」

 

「お前、何もわかってないのか」

 

 呆れたように、されど怒り問いかける。

 

「確かに彼女が魔女となれば……最悪の魔女と化して地球上の生き物は朽ち果てるだろうね。でもそれは必要な犠牲だ。それに君の娘は狩人で上位者だろう?なら恐れる事はないさ、上手くいけばまどかすらも狩れるに違いない」

 

 そうではないと、月の魔物は首を横に振る。そして彼ら白き使徒を嘲笑した。

 

「上位者なのに、瞳を失った理由が分かったよ。お前も低俗な人間となんら変わりないな」

 

「心外だな。君達こそ、無駄な思考ばかり求めて何もしない。僕達には感情はないけれど、母なる宇宙のために身を捨ててまでこうして貢献しているのに」

 

 まぁいいや、と。キュゥべぇは背中を見せる。

 

「お互い干渉するのはやめないか。上位者同士の争いなんて何の利益も産まないからね。僕達としても君とやりあうつもりなんて無いんだよ。じゃあね、月の魔物。もう二度と会わないことを祈るよ」

 

「ああ。二度とその面を見せるな」

 

 そうしてキュゥべぇは消えていく。後に残されたのは月の魔物だけ。しばらくするとチャイムが鳴り響いた。昼休みを知らせるものだ。学校などに通わずとも、それくらい分かる。

 そして、屋上で食事を摂る人間など限られている。それは言うまでもなく彼の娘とその仲間達なのだ。

 

 

 

 朝から例の一件で不機嫌な私を、マミは昼食に誘った。どうやらさやか達も私の機嫌の悪さを気にしていたらしく、あれだけ険悪だったさやかから食事を共にしようとの誘いがあったのだ。

 平時であれば喜んで少女達からの誘いは受けるのだが、今日ばかりはそんな事すらできないほどに虫の居所が悪い。そっけない態度をとってしまった事で自己嫌悪に陥っていた。どれもあの父親ぶった上位者のせいだ。

 さやかやまどかは月の魔物についての話題には触れなかった。ただどこか私に配慮したように、会話がぎこちない。普段通りなのは何も知らないほむらだけだろう。

 

 そうして屋上への階段を上り、扉を開ける……と同時に、さやか達が言葉を止めた。私は俯いていたせいでその理由が分からず、思わず前を向く。

 

 

 

 

「ああ、リリ……マリア」

 

 

 

 

 私が不機嫌になっていた理由がそこにいた。ベンチに腰掛け、いつか見たリュックを背負っている父親が。私は即座に踵を返すと立ち去ろうとする。

 

「待って、マリアちゃん」

 

 そんな私を、まどかが引き留めた。手首を掴む華奢な腕は、少しばかり震えている。臆病な子だ、こんな親子問題で震えるなどと。でも同時に勇敢でもある。

 

「ちゃんと話してあげて」

 

 何も知らないくせに、とは言えなかった。私はそのまま足を止め、しばらく停止する。友達の意思とは言えあの父親と話す気など無いのも確かだった。

 まどかを援護したのはやはりさやかだ。彼女は半ば敵である私に声をかける。

 

「お父さん、あんたを探して魔女に襲われてたんだよ。そうまでして仲直りしたいんじゃない?」

 

 ため息を漏らす。仲直り。聞こえは良いが、そういう間柄でもない。私達は上位者で、狩る者と狩られる者だ。

 確かに血は繋がっている。月の魔物との戦いにおいて、強制的に血を流された私は彼の血を、自らのもの全てと置き換えるほどに取り込んだのだから。でもそれだけ。上位者になったのは三本目の三本目、そして自らに芽生えた瞳のおかげだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 だが。

 

「分かったよ。手を、離してくれないか」

 

 渋々、私は頷いた。手を離され、私は重い足取りで待ち受ける青ざめた血へと向かう。

 彼も彼で、何と声をかけて良いのか分からないようだ。ぎこちない動きで、挨拶のように腕を上げた。

 

「ああ、なんだ、マリア。その……ちょっと話せるか」

 

 私はしばらく黙って、

 

「良いでしょう」

 

 とだけ。そうして二人、ベンチに腰掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。疲れなど知らぬ、だがひたすらに夜の路地を走る。貴族の娘を胸に抱え、追手から逃れるために。少女の姿はいつもの外套と異国の服ではない。簡素な、運動性に優れるドレスとマント。そして空いた腕には秘匿していた緋色の弩が取り付けられている。

 魔法少女の姿。魔女狩りという迫害を逃れるために隠していた姿。人間ではない魔法少女としては、こちらが本来のものなのだろう。とにかく少女は走る。

 

 目的の地、貴族の娘が住む土地へは後少しだった。もう一週間ほど馬で行けば辿り着くはずだった。この街へは、その過程で寄ったに過ぎなかった。

 宿で寝込みを襲われた。たまたま、本当にたまたま。食糧を買って戻った時だった。部屋に戻ると、斬られた娘と、斬った本人がそこにいたのだ。

 

 怒りというものを久しぶりに思い出した。娘のために買った好物の苺ジャムの瓶ごと物を落とし、気がつけば追手をバラバラに引き裂いていた。それだけならまだ良い。魔法を用いれば治せない傷ではなかったから。

 そうはさせてくれないのが世の常。追手の仲間達が次々と現れては、剣や車輪を向けてきた。守りながら戦えるほど、今回の追手は柔ではなかったのだ。

 膂力は人を超え、扱う武具は明らかに人に対して用いるものではない。より大きな脅威に対して。それを殺すためのものだと、直感した。

 剣を折られ、思わず魔法少女へと変身して殺し尽くした。それでもまだ追手は尽きない。娘を抱えて逃げることに徹するしかなかった。

 

 無数の流星が迫る。小さな、しかし人を殺すなど容易にできるそれは魔法少女相手でも脅威でしかない。追手は異常だ。そんな魔術のような攻撃を、全員がしてくるのだ。

 

 魔術など、魔法少女の専売特許ではなかったのか。自らを魔法少女にした白い悪魔を恨む。彼らはそう言っていたではないか。

 

 流星の数々を避けると、真上から気配がした。少女は娘を傍に抱えたまま弩を構えると、飛び掛かる白装束の追手を射抜く。

 一発、二発、三発。胸に突き刺さっているはずなのに、追手は中々死なぬ。常軌を逸した耐久性だ。四発目で脳天を魔力の矢が貫き、追手は事切れた。

 少女は降ってきた追手を避けるとまた走り出す。こいつらは中々死なないだけではなく、異常なほどに回復力がある。瀕死になったと思いきや、自らに何かを打ち込んで元通り。そんな事、癒しの魔法少女でもない限りできはしない。

 ならば魔法少女ですらない。彼らは皆男だ。男が魔法少女などと、それは少女ですらないじゃないか。

 

 少女は逃げる。意識の無い娘を抱えて。向かう古都までの道のりはまだ遠かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気そうだな」

 

 第一声がそれだった。ご機嫌を伺っているようなその言葉に、素っ気なく返す。

 

「いつも通りです」

 

 ああ、そうだな。父は頷いて私を見ようとしない。いや見れないのだろう。彼からすれば、合わす顔が無いと言った感じだろうし。ちなみにまどかやマミ達は離れた場所で昼食を取っている。気を遣ってくれるのはありがたいが、今だけは一緒にいて欲しかった。

 月の魔物はしばらく黙ると、話題を放り出す。

 

「良い友達だな」

 

「ええ。貴方が恐れている少女もいます。皆、優れた思考を持つ少女です」

 

 父がまどかをチラリと見た。そして頷く。きっと因果を感じたのだろう。私は少しばかり意地悪になっていた。

 

「ヤーナムで貴方が狂わせた者達も私の友でした」

 

 そう言えば、やはり気まずいのだろう。言葉を失って父は俯いた。

 

「アリアンナはカインハーストから逃れてきた娼婦でしたが、とても親切だった。自分を卑下していたけれど、狩に疲れた私を癒してくれた。ええ、あのカインハーストです。貴方の計画で赤子を産ませようとしていたね」

 

 下水道で発狂した彼女を思い出す。望まぬ子を産み、最期は私が手を下した。

 

「盲目の男はその身の醜さとは裏腹に、最後まで人のためを思っていた。全てが終わったら友になろうと約束もしました」

 

 皆が狂ったのを自らのせいにして、発狂した男を思い出す。いくら無意識下でオドンに唆されていたとしても、その優しさは偽物ではなかったはずだ。それを分かっていたから私も約束した。

 

「神父の娘は教会にすら辿り着けなかった。豚に食われ、これだけしか残らない」

 

 血塗れの、あの神父の娘のリボンを取り出す。顔すらも見たことはない。それでもあんな無垢な少女、私が気にかけないはずがないのだ。死んで良い子ではなかった。父が狂わなければ。母が獣に襲われなければ。

 リボンを握る手の力が増す。

 

「全員、狩人として守るべき人達でした。でも、貴方が狂わせた。幼年期の私では知る由もなかったが……オドンが貴方である事を知った今では、恨まずにはいられない」

 

 姿なきオドン。姿が無いのは当たり前だ、なぜなら本体の上位者は狩人の夢、そこに浮かぶ月にいたのだから。

 

「貴方は私が完全な赤子となるまで何度も繰り返させた。今となっては、不完全なままその輪廻を断ち切りましたが」

 

 瞳が開く。私が上位者になってもなお繰り返していたのは、その身を完全なものにするためだった。そしてそれを仕組んだのは他ならぬ月の魔物。

 父はただ私の非難を受け入れていた。そしてボソッとした声で、呟く。

 

「俺は、ずっとお前を待ち望んでいた」

 

 紡ぎ出すように父は声を鳴らした。相変わらず私の顔は見れないまま、眼前に広がるグラウンドを見下ろしながら。

 

「最初は種族のためだった。瞳を授けたゴースが悪夢で死に、生まれたのはあまりにも不完全なその遺子のみで……トゥメルやカインハーストを利用して赤子を生み出そうともしたが、それも無駄に終わった。そんな中で、お前だけがあの悪夢で赤子になれたんだ」

 

 ヤーナムでの記憶を思い返す。きっと過去の私は、赤子になりたくて青ざめた血を求めたのでは無いのだろう。過去の記憶を失った今となってはもう、知る由もないが。それだけは魂に刻まれていた。

 この、左手の指輪とともに。

 

「お前がゲールマンを倒し、あの夢で初めて対峙した時……俺は嬉しかったんだ。こんなにも強い意思と瞳で、俺に立ち向かって上位者を目指してくれたんだってな。そんなお前が幼年期を迎えて、俺の娘になった時に……そうだな、人間の親の気持ちが分かった気がした。同時に、俺がヤーナムでやって来た事の罪深さも啓蒙されたんだ。笑えるよな。いくら啓智を持っていても、俺はそんな当たり前の事にも気がつけないなんてな」

 

 父は自嘲気味に笑った。そうだった、この人は上位者でありながらも変わり者だった。

 

「でもな、マリア……いやリリィ」

 

 少しばかりの狂気が父の言葉に混ざる。それは上位者由来の啓智に満ちたものではない。どちらかと言えば獣性を感じるような、人間らしいものだった。

 

「だからお前の事が心配なんだ。父親として、青ざめた血を持つ者としてな」

 

 私は立ち上がった。もうこれ以上父の言葉を聞いていたくない。きっと次には私の計画を否定するだろうから。

 だから、父が私の予想を裏切った事が信じられなかった。彼は私の顔をチラリと見上げて言うのだ。

 

 

「お前は、お前のやりたい事をやれ。それが親である俺が言える事だよ」

 

 

 私は目を丸くして、脳の瞳を駆使して彼の言葉に裏が無いかまでも確認してしまう。ヤーナムをあんな風にした奴が言うことではなかった。これではまるで、私はただ反抗期で何に対しても父に反発する愚かな娘みたいじゃないか。

 

「お父様……」

 

「だがな」

 

 語気を強め、父は忠告する。

 

「お前が危なくなったら、俺は躊躇わないぞ。嫌われてもいい、お前を助ける」

 

 強い意思を感じた。その眼差しが、私の心を掴む。啓智とも違う何か魅了されるようなものだ。きっとそれは父性なのだろう。親の愛情をほとんど知らぬ私にすら分かるほどの父性で、父は娘に宣言した。

 私は父の目を見据え、表情を硬くして告げる。

 

「そうならないように努めます。これは私の為すべき事なのですから」

 

 それだけ言うと、私は彼に背中を向けて友の方へと歩き出す。そして立ち止まると、振り返らずに言った。

 

「貴方の父親らしい部分、初めて見ました」

 

 それを聞くと、父は鼻で無理に笑った。

 

「俺も言うのは初めてだ」

 

「……これが終わったら、一緒に夢でお茶会でもしましょう。私達はまだ、親子らしい会話もできていませんから」

 

 言うだけ言って、私は今度こそ父のもとを去った。彼は少しだけ驚いた表情で私を見ると笑ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狩人の夢。本来月の魔物に魅入られた狩人が狩りの拠点とするこの異次元だが、最近は客人が多いようだ。

 最も客とは人ならざる者たちが大多数だが。純粋な人間と呼べる者は、そもそもここにやって来れない。血の医療を受け、その身に上位者の血を受ける者のみがやって来れるその場所は、今は月の香りの狩人の所有物だ。

 そんな場所の薔薇園にて、明るい月を浴びながらお茶をする者たちが居る。それは客人である二人の麗しい女性。星の娘と乳母だった。

 

 彼女達はこのみが運んできた紅茶とスコーンを口にすると、しばし無言で過ごす。きっと無言ではないのだろう。互いの啓蒙が、言葉を交わさずとも読み合い、情報を交換している。上位者とはあまり口を開かぬものだ。カレル文字という至極少ない文字を見ればそれは理解できる。あれが全てではないが、あまりにも不便だろう。

 

「青ざめた血と彼女は……概ね和解したようね」

 

 煌く翠の瞳を覗かせながらエーブリエタースは口にした。乳母は微笑みながら頷く。

 

「親子ですもの。どちらも頑固ですが、やはり似た者同士という事ですわ」

 

「ふん……やはり元が人間だと、互いにやり辛いでしょうね」

 

「片や火の時代からの異端、片や狩人……すれ違う部分はあれど、それが人間ならば自然な事です」

 

 いつも通りむすっとした表情で星の娘は鼻で笑う。

 

「やっぱり人間って馬鹿だわ」

 

「でも、そんな人間に惹かれたのでしょう?」

 

「私が好ましいのはリリィだけ。それ以外は興味すらも湧かない……特に聖歌隊は、姿形を真似るだけだもの。そんな輩に瞳は授けられないわ」

 

「あの学び舎の長も嘆く事でしょう」

 

 上位者トークはここで打ち切られる。そもそも、声に出して会話をするなど実に人間らしい行為だ。およそ上位者らしくない。

 けれど、そんな啓智に溢れた上位者だからこそだろうか。獣性を宿し理性に欠けた人間を羨ましく思うこともあるのだろう。きっとエブたんは私のそういうところに惹かれたに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかは、優しい少女だ。きっと好ましく思っていないであろう私に対しても、ああやって父との和解を仲介してくれたのだから……織莉子が言うように聖女と言っても過言ではない。

 好み的にも、ああいった小動物系の少女は大好きだ。ほむらがゾッコンになる理由も分かる気がする。マミに聞かれたら危ないが。

 そんなまどかだが、今日の下校は一人だった。友達である魔法少女達は三日後に迫る戦いのために魔女から得られるグリーフシードを集めているのだと。一人、辛い運命から脱却されているまどかは疎外感を感じることもあるだろう。しかし彼女は心折れぬ。友が戦い、彼女達のために平和を守るのであれば。まどかは我儘を言わず、その平和を受け入れるのだ。そう、納得した。辛い過去も無い、命に換えても叶えたい願いもない。ならば、魔法少女になるべきでないと皆に諭されて。

 まどかは幼いながらも、自らの理性と知性、そして優しさで自らを啓蒙している。そしてそうする事で、彼女達が安心できることも知っているのだ。

 

「あれ……」

 

 ふと、自宅の前に誰かがいる。目を凝らせば、それが友である白百合マリアの父である事が分かった。まどかは声をかけるべきか悩み、少々俯く彼にようやく言葉を投げかけた。

 

「あの、こんにちは」

 

 そう挨拶をすれば、友の父はまどかを見る。厳し目の顔付きを少し柔らかくさせて。

 

「ああ、こんにちは。その、昼間はどうもありがとう」

 

「いえ……あんなに悩んでるマリアちゃん、初めて見ましたから……」

 

 しばらく沈黙が人見知りの二人を包む。その沈黙を破ったのは、友の父だった。

 

「今、ちょっといいかな。マリアについて話しておきたくて」

 

 ぎこちなく、まどかを安心させるように話す。まどかは少し悩み、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほむらの住処はとあるマンションの一室にある。女子中学生が住むには広すぎる空間は、しかし魔法少女軍団がやってくるには少し狭い。

 それにしても簡素な内装だ。お洒落とか可愛いものとか、年相応のインテリアは全くない。まるで事務室のような……必要最低限のものしか置かれていない。溜まっているゴミ袋を除けば、人が住んでいる気配はあまり感じられなかった。

 

「揃ったわね」

 

 ほむらは自宅にやって来た皆の衆を見回す。美樹さやか、佐倉杏子、志筑仁美。そして私にもたれかかる巴マミはもちろんのこと、さやかと仁美の想い他人である上条恭介もいて、私の事を睨んでいる。また、珍しく美国織莉子と呉キリカもいるのだ。これは何事か。

 

「それではワルプルギスの夜についての情報共有を始めるわ」

 

 ほむらの言った通りの事だった。今回集められたのは、ワルプルギスの夜に対する認識の共有と作戦会議だ。狩りの前に情報を与えられるのはありがたい。

 ほむらは部屋の電気を消すと、プロジェクターのスイッチを入れる。同時にスクリーンに見滝原の映像が映った。マミ、暗くなったどさくさに紛れて恥ずかしいところを触るのはよしなさい。コラ、さやかと仁美も恭介と手を繋ぐな。キリカ、君も隙を狙って織莉子に接触しようとしない。

 そんな乙女達の状況を知る由もないほむらは話を進める。

 

「今から三日後に、見滝原にとてつもない規模のスーパーセルがやって来る。ワルプルギスの夜はスーパーセルの発生と同時に現界、見滝原を蹂躙するわ」

 

「そのすーぱーせるって奴は、ワルプルギスの結界みたいなもんなのか?」

 

 杏子が尋ねれば、ほむらは頷く。

 

「正確にはワルプルギスの夜に結界は必要無い、奴はそれほど力が強大だから。スーパーセルはワルプルギスの夜から溢れている魔力の片鱗に過ぎないわ」

 

 さやかが手をあげる。

 

「放っておけば、どれくらいの人が死ぬの?」

 

「見滝原の人口の半分は」

 

「そんな……」

 

 皆が黙ったところでほむらは話を進める。スクリーンを切り替えれば、見滝原の上空写真が現れた。

 

「ワルプルギスの出現ポイントは港沖、そこから時速20キロで街の中心部へと侵攻する。私達がすべきことは、それまでに奴を倒し切る事よ」

 

 なかなかに速い。きっとあっという間に街の中心部へと辿り着くだろう。そして中心部には、避難所として機能する学校がある……なるほど、ワルプルギスの夜の目的は因果が集まるまどかと言うことか。引き寄せられているのだろう。

 ほむらがまたスクリーンを切り替える。そこには古い、ワルプルギスの夜のスケッチが映っている。きっと遥か昔に現れたものだろう。しかしまぁ、上下逆さまとは。

 

「全長は約100メートル。空中に浮かんでいるから道路上の障害は無効化するわ」

 

「100!?イデオンより大きいじゃねぇか!」

 

「ちょっと杏子!イデオンは意外と小さいんだよ!」

 

 さやか、注意するポイントはそこではない。というか、なんだイデオンとは。

 

「目的地は避難所となる学校……?なら、経路上と避難所の人達を逃せば」

 

 仁美が提案をすると、ほむらは首を横にふった。

 

「奴の目的は……大きな因果よ。人々を別の場所に避難させてもワルプルギスは因果を求めて別の場所を襲撃する」

 

「因果って?」

 

 杏子の質問に私が答える。

 

「まどかさ。彼女の因果の大きさは計り知れない」

 

「ならまどかを逃せば……」

 

「それも意味はないわ。まどかを逃せばワルプルギスは人々の因果を求めて、それこそ街中の人々を殺し回る」

 

「獣め……狩り尽くすべきだ」

 

 恭介が唸る。それには同意だ。

 

「ちなみに、その情報はどこから?」

 

 ふと、仁美がほむらに尋ねた。ほむらは少し言葉を詰まらせ、

 

「経験則よ」

 

 と曖昧な言葉を返す。そんな彼女に私は言う。

 

「もう、すべて教えてしまっても良いのではないかね?ほむらよ」

 

 と。するとほむらはあからさまに私を睨んだ。しかしそんな睨むこともないだろう。君がこの戦いの後にどんな事を考えるかは自由だが。それでも私たちは少女で、友達なのだ。秘密は共有すべきだ。でなければ、その甘さによって来た者達を尽く破滅させる。

 秘密とは、そういうものだろう?

 

「……ほむらが何を抱えているのか、私には分からない」

 

 さやかが口を開く。その瞳には、月光の如き光が宿っている。ほう、たまには役に立つではないか。

 

「でも、私はほむらともう友達なんだよ。だから助けたいとも思ってる。そのために死ぬ事だって覚悟しているつもりだよ。だからほむら、あんたからも歩み寄ってほしい」

 

 知的な誘いだった。ほむらは悩む。悩んで、ようやく。

 

「まどかには。あの子には言わないで。それを約束出来るなら、いいわ」

 

 そうしてほむらは、彼女達に自らの秘密を語る。それで良い。壁を作る必要は無いのだ。君は狩人では無い。魔法少女で、未来ある乙女なのだから。

 乙女とは、友と語り合い、共有するものだろう。そうあるべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の医療。逃げ延びた先で貴族の娘から語られた、そんな眉唾物の話は長らく生きて来た少女ですら知らぬものだった。

 少女は追手を撒いた後、娘を魔法で治癒しようとして止められた。代わりに娘が持つ輸血液を体内に取り入れれば傷など治るのだと教えられて。

 半信半疑で渡された血を輸血すれば、たちまちに傷は治り、その話を聞かされた。曰く、この話は秘匿すべきものだったらしい。

 

 そして娘は語るのだ。彼女の住む地域には、まだ世には知られぬ医療があり、それは万病を治すものなのだと。少女はにわかには信じられなかった。しかし目の前でその奇跡にも魔法にも似た術を使われた事も確か。少女はこの秘密を守る事を約束し、また旅を続ける。

 

 この身に流れた穢れた呪いもまた病であるならば。少女は旅をしながら考える。だがこの呪いは病と呼ぶには悍ましすぎる。奇跡の対価として生まれたこの呪いは、そんな医療で治るはずも無し。

 煮え切らぬ思いを抱き、それでも少女は娘と旅をする。あと数日の旅だ。もし、本当に。何でも治すようなものであるならば。

 

 最後の最後に、その医療をあてにしようではないか。少女にはまだまだ時間はあるのだから。

 




あくまで上位者の設定は個人的な解釈です。ていうか完璧な考察なんてフロムゲーじゃできるわけないってそれ一

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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