ヤーナムは、ここ見滝原と異なり古い時代らしい。街のあちこちには電気を原動力とする機械がたくさん設置されており、小さなトニトルスで電撃攻撃すれば街くらい簡単に落とせるんじゃ無いかと思ってしまうくらい発展していた。
特に車というのは素晴らしい。餌を与えずともあれだけのスピードで走るとは、馬はもうお役御免だろう。おまけに自動で走る。
さて、魔法少女の素質があるまどかとさやか。二人は巴マミの提案で彼女の住む家へと招待され、これから魔法少女について詳しい事柄を聞くのだそう。何やら面白いので、私も付いていくことにする。
「貴女はお呼びでないのだけれど」
あからさまに怪しい私はお呼びでないようだが、そうはいかない。魔法少女百合天国を完成させるためには、現役魔法少女である巴マミと接点を持っておくことは必要不可欠だ。故に、私は出来る限り気に入られようとまるで男のように振る舞う。
「まぁまぁ、良いでは無いか……マミ。私も魔法少女について知りたいんだ」
これでも声には自信がある。まぁヤーナムでは人形ちゃんと話すか烏羽の狩人にべたつくか、死ぬときの絶叫くらいしか声を発することはなかったが……それにだ。顔にも自信はあった。いくら時計塔のマリアとその生写しである人形ちゃんが美しいとは言え、それに負けないくらいの美貌はあると、無い胸を張って言える。くっ。
どうやら巴マミも満更では無いらしく、何だかんだ警戒しながらも私を上げてくれるようだ。友達が少ないのだろう。きっと、彼女の胸で震えるキュゥべえくらいだったのだ。
「ここが私の家。一人暮らしでロクにおもてなしの準備もしてないけれど」
そう言われて、私達はとある高級マンションのそれなりに高い階層にある部屋へと辿り着く。ヤーナムでの記憶しかない私が言うのもなんだが、少女が一人で住むにはいささか豪華すぎやしないだろうか。
「すっごーい……!」
「うっわー、セレブだ……!」
思春期の少女二人が各々の感想をのべる。やはり思考的次元が低いせいか、小学生並みの感想だが……いや、それが可愛いのだろう。
しばらく居間で巴マミを待つ。その間、私は多少居心地が悪かったと言う事を理解してほしい。なぜなら、まだ私を怪しんでいる二人が、コソコソとこっちを見ては何かを言っているからだ。
「あの人の格好、コスプレなのかな……?」
「うーん、でもすっごくきれいだよね……」
聞こえている。聞こえているのだ二人とも。
狩人は耳が良い。薄暗いヤーナムや地下墓地では、視界がロクに効かない場合も少なくない。また、獣風情も知恵はあるから罠なんかも仕掛けてきたりする。そういった視覚だけでは対処しきれない敵には耳を傾けるのだ。
でも、まどか。綺麗って言ってくれてありがとう。貴女は私の天国に招くのに値する。
その後、マミが震えるキュゥベえを無視してケーキを持ってきてくれた。もちろん私の分も……それを、やや啓蒙的な三角形のガラス張りのテーブルに置く。余計なお世話かもしれないが、このテーブルは接客には向いていなくないか。
「うむ……美味しい。君が作ったのかい?」
狩人は食事を必要としない。狩りと血こそ食事に等しいだろう。しかし食べれないわけではない。ヤーナムでは味わったことのない甘みを舌で堪能した。今度人形ちゃんと一緒に作ろう。
「ええ……ほんとに、美味しい?」
私の反応を伺うように聞いてくるマミ。やはり友達を呼ぶなんてことはあまりないのだろう。
「おいしいですぅ!」
「めちゃうまっすよ〜!」
ほっぺにクリームをつけたまどかと、どこかリーゼント高校生みたいな口調のさやか。まどかの頬を舐めたい衝動を抑えながら、私は頷いた。
「こんなに美味しいのは初めてだ。美人で魔法少女だとケーキまで美味しいのかい?」
「もう……調子が良いわね」
そう眉をハの字にするマミは、先程までの凛々しくも強い魔法少女とは打って変わって年相応の……そう、胸が大きいだけの少女だ。うむ、人形も私も、そしてマリア様も総じて胸が残念だったから、大きいのも味わってみたい。
しばらく紅茶とケーキを味わうと、頃合いを見てマミが話を始めた。やはりと言うか、魔法少女に関しての説明だった。
「キュゥベえに選ばれた以上、貴女達も人ごとじゃないものね……必要なことは説明させてもらうわ。貴女にもね、百合の狩人さん?」
不敵に笑うマミ。あぁ、その強がった顔も美しい。この顔を快楽に歪めてやりたいと思いながらも、私は口を出さなかった。
「なんでも聞きたまえ〜」
「逆だよさやかちゃん」
口煩いさやかに困り気味のまどか。マミは苦笑いしながらも、懐からあるものを取り出した。先程持っていた、黄金の宝石……啓蒙によればソウルジェムと呼ばれる、魔法少女の「命」。
それを、まだ敵か味方もハッキリしない私にも見えるように見せてきたのだ。
私は薄ら笑いをキュゥべえへと向ける。なるほど……随分と悪趣味じゃないか。彼女達に肝心な事を知らせず、己が欲の為に利用するか、外道め。
ソウルジェム。魔法少女が歴史の裏側の使者と契約する際産み落とされる宝石、そしてその証。魔法の使用や外傷、精神的な損傷により濁ってしまうがグリーフシードによって癒すことができる。
少女達はこの宝石と共に死地に赴く。だが彼女達は知らない。何気なく用いているその宝石こそが、自身の願いの対価そのものなのだと。
でも、分かるよ。君たち宇宙の民もまた、自らの使命のために魔法少女を生み出したんだ。その事に私は感謝こそすれど非難するつもりは今のところ無い。
強くて美しい狩人なんて、素敵じゃ無いか。なぁ?キュゥベえ。
その間にもマミは二人にソウルジェムや魔法少女について教えていく。私もそれに頷いてはいるが、魔法少女については啓蒙されたおかげでマミよりも深く知り得ている。キュゥベえはこちらを警戒しながらも、マミと共に魔法少女セールスをしていく……願いを一つ叶える代わりに魔女と戦う使命を与えられると。
なるほど、酷いじゃ無いか……儚い少女に狩人紛いの事をさせるなどと……クフフ、エグいじゃないか。嫌いじゃない、そういうのは。
続いて説明は魔女に関して。
「願いから生まれるのが魔法少女なら、呪いから生まれるのが魔女なんだ」
白々しく、この上位者もどきは言って見せた。だが、まぁ、ふふ。嘘は言っていない。巧妙な話術とはこういうことを言うのだろう。上手くぼかし、必要最低限の事だけを説明していくキュゥべえ。
魔法少女が希望を与えるように、魔女は絶望を撒き散らす。挙げ句の果てに素質がない人間には見えないときた。まるでアメンドーズじゃないか……狩り甲斐がありそうだ。
「キュゥべえに選ばれた貴女達にはどんな願いも叶えられるチャンスがある。でも同時に、常に死と隣り合わせであることを忘れないで」
一人思案に耽っていると、マミがそんな事を言い出した。そうか、彼女達は夢を見ない。だから一度死んだらそれで終わりなのか。
それはそれで、ある種の救いだろう。私のように何百回も繰り返さずに済むのだから……とうの私も、狩りにはやや飽きてきたが死にたいとは思わない。それに、幼年期になった事を利用して更なる宇宙と交信し、その連鎖も止まってこうして別世界に侵入できている。楽しくて仕方が無い。
少女達は悩む。それでいい、幼子とは本来悩むものだろう?メルゴーのように赤ん坊なのに気が付いたら色々な策略に巻き込まれていて何もできないのとは訳が違う。
「そこで提案があるの」
マミが言った。
「二人とも、しばらく私の魔女退治に付き合ってみない?魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみるといいわ。その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えてみると良いと思うの」
そこで、会話は終わる。厳密には、まどかさやかコンビとマミの、だが。
「なぁ、マミ」
だから、このチャンスを逃さない。こちらを訝しむ少女に、私からも提案した。
「その魔女狩り……是非とも私も協力させてくれないかな」
「え……?」
紅茶のカップを置いて、私はマミの隣に座り直す。そっと手を重ね、吐息が当たるくらいの近さまで顔を近づけた。
動けまい。私の狩りに対する狂気から、ただ強いだけの少女が逃れる術はあるはずもない。そんな彼女に、艶っぽく、丁寧に、舐めるように言う。
「悪い話じゃ無いよ、マミ。私も奴らと戦える力はある……見ただろう?それに私は魔法少女じゃ無い。ただちょっと啓蒙が少し高いだけの女さ。君と変わらない」
慌てて仰反る彼女を追うように。
「で、でも、私貴女のこと全然知らないわよ!」
「教えてあげる。私は狩人。月の香りの狩人であり、百合の狩人でもある……魔法少女達の守護者さ。なぁキュゥベえ?」
そう同意を得ると、キュゥべえはそうだね、と頷いた。きっと彼らからしてみても上位者と関わり合いになるのは好ましく無いのだろう。無理もない。
「うわ、うわ……ねぇまどか、あの狩人さんって女の人好きなのかな……?」
「う、うん、多分そうなんだと思うよ……?」
こら君たち、あまりこそこそ話しないの。
マミは目を逸らした。ここぞとばかりに私は彼女の顎をそっと掴み、まるでキスするかのように目を合わせた。しまった、私も心臓が回転ノコギリのように速い。しかたなかろう、今まで人形ちゃんと烏羽と、たまにエーブリエタースとしか話さなかったのだから。
「そう、これは……友達さ、マミ。同業の友達。狩人と魔法少女の組み合わせなんて格好いいだろう?」
啓蒙が降りてきた。マミはこういう……この世界で言う厨二病的言葉に弱い。ほれみろ、確かに……と納得して目を輝かせているじゃないか。これは良い流れだ。
相手に考える時間を与えない事が闘いにおいて重要なのだ。そしてこの問いかけも、また闘いだ。多少文脈がおかしかろうが、勝った方が正義なのだから。