魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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Only women kneel and smile
襲来


 

 

「お世話になりました、先生」

 

 夢に潜むルドウイークの下にさやかがやって来たのは、ワルプルギスの夜がやって来る前日の事だった。

 彼女が月光の導きに狂わされる事が無くなってからはその力を存分に発揮できるようになり来ることもなくなったのだが、どうやら今日の彼女は別れを告げに来たらしい。だがルドウイークとしては、僅かな時間しか共にいなかった弟子の別れは好ましくも思えた。

 そもそも、彼が教えた者達は別れの言葉を言う間も無く死んでいくのだから。さやかのその行為はつまり、健全であるという事だ。

 

 しかし、気がかりでもある。元気溌剌で騎士の誉れすらも持ち合わせる彼女が、いくら強敵と戦うと言えども別れを切り出して来るだろうか。

 

「挑むのだな、さやか」

 

 師の言葉に、さやかは頷いた。

 

「はい。だから、別れの挨拶をしに来ました」

 

「死ぬつもりではないだろうな」

 

 その問いに、さやかは否定も肯定もしない。

 

「月光が囁くんです。全部守れって。そのために自分を惜しむなって」

 

 彼の師でもある月光の導き。それが何を考えているかは分からないが、彼女の師であるルドウイークには不吉の前兆であるようにしか聞こえない。

 だがそれも、彼女の意思で決めたことに他ならない。ならば彼には否定をする権利などないのだ。

 ルドウイークは懐から、とある古びた鐘を取り出した。それはヤーナムにおいては狩人が用いるものだ。

 

「これを持っていくと良い」

 

 その鐘を、さやかへと手渡す。

 

「自らの力でどうにもならぬ時、その鐘を鳴らすのだ。さすれば己の力となろう」

 

 さやかはその鐘をしばらく見つめ、それを握りしめた。そして日本人らしい一礼をする。

 

「ありがとうございます、先生」

 

 あぁ、きっと何かが違えばローレンスとウィレーム先生もこういった別れがあったに違いない。お互い後腐れ無く、学び舎から卒業していく学徒達。離反することもなかったのだ。

 だが、そうはならなかった。歴史は変えられない。変えられるのは未来だけ。ならば己は、この少女の未来を変えられるだけの事はできたのだろうか。彼には分からない。最早彼は、夢の中に生きる遺志なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さやかが師と会うならば、夢から異界へ誘われた杏子もまた主人と顔を合わせるというもの。杏子は廃城カインハーストの女王の間において、相変わらずの鉄仮面を被る女王アンナリーゼの前に跪いていた。

 それはおおよそヤーナムで見られるような跪き方ではなく、異国の修道女を思わせる敬虔な神の使徒の礼儀であり。教会の敵であるアンナリーゼであるが、不思議とその光景に異を唱える気など湧いてはこない。

 ただ少女のその姿は美しい。自らに祈りを捧げる少女はまるで、絵画のよう。

 

「……して、異形の少女よ。貴公の望みを申してみよ」

 

 まさか何も無しに、あの粗暴な杏子が祈りを捧げている訳でもあるまい。杏子は面を上げる事なく、静かに言う。

 

「私の望みは、もう使い果たしました」

 

「それでも良い。申してみよ」

 

 そう諭せば、杏子はそのままの姿勢で言葉を紡ぐ。

 

「仲間達を、救って欲しい」

 

 その言葉に嘘偽りは無い。ただただ、杏子の願望がそこには滲み出ている。

 

「救いの中に貴公はおらぬのか」

 

「私は十分救われました。新たな仲間ができ、犯してしまった罪を償う時なのです」

 

 およそ少女とは思えぬ思想。だがその思想が、懐かしい。アンナリーゼの脳裏に在りし日の自分と友が浮かぶ。本来ならば、こんな事は女王である彼女がする事では無いが。誰もおらぬ、求婚も断った今、彼女が唯一杏子という眷属にしてやれる事は。

 

 アンナリーゼは立ち上がる。そしてゆったりした動作で王座を降りて来る。一歩、また一歩。彼女は杏子へと歩みを進める。

 跪く杏子の眼前へと立ち止まると、アンナリーゼは片膝を付いて杏子の顎を押さえて上げた。仮面越しの瞳同士が合う。

 

「貴公の願いが叶えられるかは分からぬが……持って行くが良い。それが主人として、今の私にできる唯一だ」

 

 そう言えば。アンナリーゼは仮面を取り外す。私ですら見たことのない素顔に、杏子は釘付けになった。

 美しい、歳を取る事を知らぬような若々しい貌だ。流れるような金髪が、その美しさを更に映えさせる。そんなアンナリーゼが、自らの舌を僅かに噛み、流血させていた。そしてその血を指ですくうと、杏子の舌へと這わせるのだ。

 

「穢れた血は熱かろう。しかし貴公にとっても力となろう。フフフ……」

 

 冷静に微笑むアンナリーゼ。杏子は舐めとった血が身体に巡っていく感覚を味わう。身体が熱い。息が乱れる。だが、悪く無い。これは力だ。杏子の望みを叶えるためのものだ。

 燃え盛る血は、きっと彼女の槍にも宿るだろう。啓蒙が囁く。

 

「また、訪れるが良い。貴公を失うのは惜しい」

 

 そう言うアンナリーゼの言葉は本心だ。だから杏子も、その言葉に応えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の工房にて、恭介は様々な上位者がいるにも関わらず夢中になって武器の改造に勤しんでいた。マリアお姉様と集めた血晶石はもちろん、その過程で得た血石の塊などを用いて愛用するノコギリ鉈を強化していく。

 私はそんな新米狩人の背後から、その作業を眺めていた。エーブリエタースと共に。

 

「本当にあの武器は野蛮ね。最初に会った時を思い出すわ」

 

 忌々しいといった様子でエブたんが呟く。私はほくそ笑み、その事を思い出していた。

 

「あの頃の私は狩に酔いしれすぎていたからね。面白味も何も無い頃だ」

 

「そうね。今じゃあの制裁神に影響されて個性の塊だもの」

 

 あの驚異の神秘99が脳裏に浮かぶ。確かに彼が居なければ、私は没個性のどこにでもいる狩人でしかなかっただろう。彼には感謝せねばなるまい。例え人をクソホストとか言って罵倒しようが、それも彼の個性だ。甘んじて受け入れよう。そもそも何を持ってクソホストなんだろうね。啓蒙に溢れていてもそれは分からぬ。

 ふと、エブたんが私の肩にもたれ掛かる。私はそんな彼女の頭に重ねるように頬を乗せた。

 

「月の魔物と仲直りしたようね」

 

「多少はね。お父様も、私の背中を押して下さるだろう」

 

 ふぅん、と彼女はいつものようにダウナーな感じで頷く。

 

「最近、貴女からする女の匂いが強くなってるわね」

 

 痛い所を突かれた。大体マミの匂いだろう。私は濁すように咳払いをする。

 

「私よりも胸が大きい女がデレデレするのはさぞ嬉しいでしょうね。そんなに肉厚のほうが良い?」

 

「いや……そう言う訳では」

 

 愛が重いという事自体は好ましいが、重すぎるというのは何とも……エブたんは本当に良い娘であることは疑う余地もない。しかし私も、愛されているということが深く理解できる。故に彼女の愛を受け入れよう。

 私は彼女の剥き出しの肩にそっと手を置く。そして彼女の身体を抱き寄せた。私の好きな百合の花の匂いが鼻にまとわりつく。彼女が気を利かせてくれたのだろう。

 

「私はね、すべての無垢な少女が好きなんだ」

 

「あら、なら私は無垢じゃないわ」

 

 拗ねる星の娘の横で、私は笑う。

 

「そうかな。こうして人間であった私を好いてくれるじゃないか。偏見など捨てて……ただ愛しい者に愛を向けてくれるじゃないか。嘆きの祭壇で涙に濡れる君も魅力的だが、こうして嫉妬している君もまた、実に愛らしいよ」

 

 そう言うと彼女はふん、と鼻で笑った。その頬を赤らめながら。

 と、そんな時だった。恭介が手を止めて私の目の前までズカズカと歩いてくる。そして私に手を差し出した。

 

「血の岩をくれ」

 

「……君は恋人が二人もいるのにまるで空気が読めないな」

 

「獣以上に獣ね」

 

 無視する恭介に私は血の岩を差し出す。貴重だからあまりあげたくないが、余らせるよりは良いか。

 恭介は無言でそれを受け取ると、また作業台に戻る……狩人になると人間的な常識が欠落する病にでもかかるのだろうか。まぁ良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別れはやはり、突然だった。あの街を迂回し、少女は娘と雪の降る田舎道を歩いていた時のこと。突然、今までの追手とは異なる衣装に身を包む騎士達に囲まれたのだ。

 少女は即座に身構えたが、娘がそれを手で制した。どうやら彼女の迎えらしい。どれも顔が見られぬように鳥の嘴のような仮面をしていたが、気配で分かる。彼らもまた、人ならざる力を持った者達なのだろう。それはやはり、娘が少女に語った血の医療というものの産物なのだろうか。

 

 娘は少女に別れを告げる。涙混じりの笑顔を向け、今までの礼を語り尽くした。そして騎士の一人に命じて旅の分の謝礼を渡した。これで当分の間、食うものには困らぬだろうというほどを。

 少女は笑顔で娘に別れを告げると、旅立とうとした。どうやら少女は騎士達にとっては招かれざる客だったようだ。それはそうだろう、どこの馬の骨とも知れぬ異形の者が、大事な貴族の娘を連れてきたのだろうから。怪しまれるのは仕方のない事だ。

 

 だが、貴族の娘が馬に乗って去ろうとする少女を引き止めた。そして迎えの馬車から何かを取り出して少女の下へと走る。

 手渡されたのは、何かが入った木箱。もし、呪いが解けずに行き詰まったならばこれを開けろと。娘は告げた。呪いの事はすでに告げてあったが。少女は礼だけ言うと足早にそこを立ち去る。

 娘が去っていく少女に向けて何かを叫ぶ。馬の蹄が地を踏み締める音にかき消されながら、それでも娘は礼を叫んでいた。

 

 少女はもう、娘に会う事は無い。それでも良いのだろう。思い出は、十分に集めた。それを死なせなければ良い。少女は駆ける。この不毛の地を。そしてまた、旅に出る。

 少女は今日も、呪いを解こうと歩みを止めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜が、やって来る。それはそれは恐ろしい魔女達の宴が始まる。

 見滝原は未曾有のスーパーセルの接近に震えていた。早朝に警報が鳴り響き、住民達は避難所へと逃げ惑う。それが良い。立ち向かう力を持たぬのであれば力を持つ者に託すが良い。そうして獣狩りの夜であれば、狩人達が狩に赴くのだ。

 夜明けを待ちながら、感謝するが良い。我ら狩人を。命の限り狩に酔いしれる者達を。君達ができるのは、それのみなのだから。

 

「来るわ」

 

 吹き荒れる雨風を受けながら、ビルの上でほむらが強張った様子で呟いた。私達は立ち上がると、沿岸から見える地平線を眺める。

 ずっと戦い続けてきたほむら。私に救いを求めたマミ。月光に導かれたさやか。獣から人へと這い戻った仁美。初の弟子であり、ひたすらに狩りに身を費やす恭介。新たな仲間に巡り合え希望を見出した杏子。何かに啓蒙されまどかを聖女と崇める織莉子。その織莉子を崇拝し、そしてまどかに嫉妬を向けるキリカ。

 そして私━━百合の狩人であり、月の香りの狩人。

 

 少女達の救いとなるため。私はこの魔女の集合体とも戦おう。

 

 

 1つ。それは我が欲望のために。

 

 2つ。それは救われぬ少女達のために。

 

 

「あれが……ワルプルギスの夜……」

 

 

 3つ。楽園の完成のために。夢は夢であるために。

 

 

 

 

 そして、ワルプルギスの夜は姿を表す。けたたましい、狂気に満ちた笑い声を上げながら。結界に姿を隠すこともなく。まるで自らを自然の一部と謳いながら。

 逆位置の魔女はやって来るのだ。道行くものを破滅させるために。少女の約束を食い潰すために。

 

「発狂しそうな声だ……あれが獣だと?」

 

 恭介の疑問ももっともだ。あれは最早、魔女という少女の成れの果てを超えてしまっている。その性質は制御の取れぬ上位者に近いだろう。

 だが上位者ならば狩り取れる。私がヤーナムにおいて散々やってきたことだ。

 

「見て、あれ……悪趣味だね」

 

 さやかが指差すのは道路上のパレード。ワルプルギスの配下である使い魔達が、まるで魅せるかのように練り歩く。統制の取れた彼らは今までの使い魔とは比べ物にならないほど強いだろうさ。

 

「狩の成就を。そして、私の願いを叶える為に」

 

 落葉を分離させる。それが合図。皆はそれぞれの役目を果たす為に走り出した。

 

「まどかは殺させない!」

 

 執念にも似た愛を滲ませ、ほむらは駆ける。

 

「恭介、仁美、杏子!誰が一番狩れるか勝負だね!」

 

「へっ、負けても泣くんじゃねーぞ!」

 

 勇ましい少女達が後に続いた。

 

「織莉子、君は私が守るよ!」

 

「頼もしいわキリカ」

 

 しかし彼女はキリカを見ていない。哀れな事だ。

 

「白百合さん……絶対、死なないで」

 

「死なないさ。君も、狩に励み給えよ」

 

 そうして私達もあの地獄へと向かうのだ。これは誰のためでも無い、自分自身のための戦いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上の使い魔を狩るのはさやか達の役目だ。彼女達は四人で連携し、次々と襲い掛かる使い魔達を狩り殺して行く。その勢いは、この風雨を打ち破るものだ。

 さやかの月光が光を放ち、その光波はアスファルトごと使い魔を砕く。それでも狩りきれない使い魔は杏子と仁美が各々の武器で捌く。恭介は……いつも通り、単身で攻めている。

 

「おりゃあああ!!!!!!」

 

 月光の聖剣の三連撃と共に、光波が使い魔を切り裂く。私は月光の導き手にはなれなかったからか、あのように水銀弾を用いずに光波を飛ばせない。やはりさやかは月光に認められている。

 

「背中も見ろって!」

 

 杏子の三節棍が伸び、さやかの背後を狙う使い魔を引き裂く。どうやら血質強化されたらしいそれは、ワルプルギスの夜の使い魔であろうと簡単に引き裂く。

 

「キリがありませんわね」

 

 淡々と、トドメを刺しきれなかった相手をチェーンソーで斬り刻む仁美。彼女の魔女はまだ出現させていない。

 

「ハハハッ!これでこそ狩りだッ!最大強化したんだ、もっと得物で試させろッ!」

 

 使い魔でノコギリ鉈の切れ味を確かめる恭介。一見すると完全に狩りと血に酔っている。返り血で顔が凄いことになっているが、狩人にとってはいつもの事だ。

 幸い、使い魔は見滝原のメインストリートのみを行進している。だから彼女達さえ生きていれば、その防御ラインを突破される事はない。これは願ってもない幸運だった。

 

「なんだ、楽勝じゃん!」

 

「へっ、あたしらがいなけりゃ速攻やられてるのによく言うよ」

 

 さやかと杏子が軽口を言い合う。だが、忘れてはならない。もしこれほどまでに容易い相手ならばほむらは何度も負けてはいないのだ。

 いつだって、最悪というものは唐突にやってくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鐘の音が、聞こえてくる。

 

 それは耳に纏わり付くような、不快な音で。そしてその音色は世界の壁を越えどこまでも届く。

 ヤーナムにおいて、幾度も耳にした音色。

 

「何?風鈴?」

 

「いや、これは……」

 

 何か良からぬことが起きていると、杏子の啓蒙が警鐘を鳴らす。それは今まで魔法少女として生き抜いてきた彼女だから得たものだろうが。

 

 

 

 

 

 「鐘を鳴らす女」が、不吉な鐘を鳴らしています……

 

 

 

 

 

 私が世界の壁を越えてきたのであれば、奴らもまた同じ事だろう。

 

 

 

 

 

 

 敵対者 血族狩りアルフレート がやってきました━━

 

 

 

 

 そして、いつの世も狂った聖職者もどきというものは血に寄ってくるものだ。火に集る蛾のように。

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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