魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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継承、月光

 黄金の三角頭。さやか達の前に姿を現した敵対者は、変わったナリをしている。それは正しく、穢れに対する不退転の意思の表れであり強靭な覚悟の表明でもあるのだ。現れたそれが手にするおよそ武器とは呼べぬ大車輪。しかし恭介はその車輪から、怨嗟にも似た夥しい数の遺志を感じる。きっとあの車輪はただただ相手を叩き潰す事に特化した武器なのだろう。かつて狩人の夢で見た記憶がある。

 三角頭はしばらくそのまま呆けたようにその場に立ち尽くした。さやか達は警戒し、しかし所以の分からぬ存在に声をかけるのも憚られている。

 しかし、恭介には分かる。あの三角頭の左手に持つ長銃。あれは正しく、医療教会の工房が作成した長銃であろう。皮肉にも、敵対者が持つあの長銃の名はルドウイークの長銃。さやかが師と仰ぐ古狩人が作成したものだった……が。彼の記憶ではかの長銃は取り回しが悪く、一人で運用するのは難しいはずだ。

 

 と、いう事はあの三角頭は見た目通り相当頭が狂っているか実力があるということ。そして装束と武装からして医療教会に縁のある者であるということ。

 

「おお……ここは、宇宙か?」

 

 三角頭がようやく口を開く。いつのまにかあれだけいた魔女の使い魔はいない。きっとあの三角頭が抱く怨念にも似た意思に恐れをなしたのだろう。超弩級の魔女の使い魔すら恐れさせるとは、一体あの三角頭はなんなのだ。

 

「あんた……それ、嫌なものを感じるよ」

 

 宇宙に啓蒙されている少女、さやかが三角頭から何かを感じる。と、三角頭はこちらに気がついたのか驚いたような素振りを見せた。

 

「貴女は……?もしや、その剣は!医療教会の方でしょうか?」

 

「はい?」

 

 およそ敵対者として呼び出された者に相応しくない親切な言葉遣いだった。三角頭は感動したように車輪を地面に叩きつけながら歓喜する。

 

「間違いない!その聖剣は……まさしく英雄ルドウイークのもの!という事は、貴女もまた私の友という訳ですね!」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待った!あんたいきなり現れてなんなのさ!」

 

 やはり狂人は狂人でしかない。一人言葉を連ねる三角頭にさやかは困惑する。

 

「さやか、こいつちょっとヤバ」

 

「お前かァー!この私を呼び寄せた穢れはァーッ!!!!!!」

 

 杏子の言葉を遮り、三角頭は憤怒した。突如として車輪を振り被り、こちらに突っ込んでくる。あれだけ重そうな車輪を悠々と振りかざすあたり、やはり普通の人間ではなさそうだ。

 

「ちょっと杏子あんた何したのさ!」

 

「知らねーって!」

 

 全員が怨念を積もらせた車輪を避ける。車輪はいともたやすくアスファルトを砕いて見せた。どうやら威力は相当なものらしい。

 後退しつつ、やはり鐘の音に誘われた者にまともな者はいないのだと恭介は痛感した。思えば聖杯で呼んだメンシスのダミアーンといい、格好もそうだが揃いも揃って個性的だった。彼らには幾度も助けられたが、偏見というものは中々覆せない。

 

 恭介は乙女達を守るべく前衛に出る。

 

「さやか、気を付けろ。やはり彼も狩人の一人だろう……それもタチが悪い医療教会のね」

 

 発火ヤスリを用いてノコギリ鉈に火を灯す。

 

「タチが悪いだとォー!?お前からあの雌犬の臭いがするなァー!あの裏切り者の狩人と同じ臭いが!」

 

 そう言うと、彼は手を振るジェスチャーを背後に送る。そちらの方向はワルプルギスの夜……するとどう言うわけかあれだけ三角頭を避けていた使い魔達が一斉にさやか達に襲い掛かる。どうやら彼と使い魔達は提携しているようだ。

 杏子は舌打ちすると槍の切っ先を三角頭に向けた。

 

「だぁーもう!ただでさえ使い魔達が厄介だってのに!」

 

「来ますわ!杏子さんと私で使い魔を倒します!その隙にあの変態を!」

 

 啓蒙低き彼女達からすれば、あの三角頭はまさしく変態だろう。そして思索を巡らし啓蒙の高い私からしてみても、やはりあの装備は変態だ。あの金のアルデオと呼ばれる装具の意味は知っているが、やはりそれでも変態装備だ。

 

 血族狩り、アルフレート

 

 さやかは聖剣に月光を迸らせると、手始めに死なない程度の光波を振るう。三角頭はそれを華麗に避けると距離を詰めてきた。

 

「何ですか!?なぜ医療教会の者が穢れた売女と共にいるのですか!?何故私に刃を向けるのですかァー!?」

 

 やたらとテンションの高い彼はそのまま車輪を振るう。さやかの聖剣がそれを受け止めれば、見た目よりもずっと重い車輪が彼女を押し潰さんとしていた。聖剣越しに、さやかの骨が軋む。

 それだけではない。車輪から溢れる怨念がさやかを内側から蝕んでいくのだ。それは呪いに近いだろう。

 

「彼女に触れるなッ!」

 

 すかさず恭介が真横から変形したノコギリ鉈を縦一直線に振るう。三角頭に刃が当たれば、たまらず三角頭は吹っ飛んでいく。多少はあの黄金もへこんだだろうが、致命傷にはなっていないだろう。

 

「なんですか!嫉妬ですか!?狩人の嫉妬は醜いですよ!前にも言ったでしょう!」

 

 どうやら彼は恭介を誰かと勘違いしているようにも見える。だが、それは正しい。恭介もまた月の香りの狩人なのだから。私の意思は少なからず彼にも流れている。

 

「さやか!躊躇っちゃダメだ!殺すんだ!」

 

「そんな……でも、人でしょ!?」

 

「狩人だッ!」

 

 燃え盛るノコギリ鉈をダウンした三角頭に振るう。一回、二回と斬り付け、すぐにノコギリ鉈を変形させて鋸部分で三角頭の皮膚を切り裂いた。

 狩人の膂力は凄まじい。三角頭は耐えきれずにまた後方へと吹っ飛ぶ。恭介は追撃しようとして、倒れ様に三角頭の長銃の銃口が彼を狙っていることに気がついた。

 

 刹那、発砲。長銃とは名ばかりの散弾が恭介を襲う。ステップで避けようとも、広がる水銀弾は避け辛いのだ。致命傷は避けられたが腕に数発ペレットを受けてしまった。

 

「恭介!」

 

「大丈夫だ!これくらい……」

 

 すかさず距離を取って輸血する。これぞ狩人の業。受けた傷はすぐに塞がり、元と変わらぬ恭介があるのみ。

 三角頭はむくりと立ち上がり、受けた傷にショックを受けているようだ。

 

「血が!血が出たじゃないですかァ!」

 

「狩人だろうに……」

 

「貴様のように血に飲まれてないわァー!」

 

 輸血すらせず、三角頭は車輪を空に掲げて怨霊を解き放つ。さやかですら秘儀が来ると分かった。人ならざる業が、あの車輪より解き放たれる。

 現れたのは巨大な髑髏のような怨霊の塊。それはゆっくりとさやか達へと迫る……かつて彼が師と仰ぐトゥメル出身の聖職者、ローゲリウスが用いた業と同一のものだ。

 

 死して、あの三角頭……血族狩りのアルフレートはその秘儀に目覚めたのだろう。師の業を再現し、彼は叩き潰した者達の怨霊を使役したのだ。

 

「神秘……!」

 

 すぐさま恭介も対処しようと試みて、さやかが前に出た。神秘には神秘を。月光に絶対的な信頼を寄せる彼女はすぐに月光の聖剣を掲げて魔力を貯める。

 

「うおぉおおおりゃあああッ!」

 

 月光の奔流。古い火の時代より受け継がれしその業は、確かに強力だ。かつて対峙したルドウイークが用いた時も私は苦戦を強いられた。

 だが、隙が大きい。隙というものは獣狩りであればさして支障にならぬ。しかし相手が狩人であれば。

 狩人とは、その速度と業によって獣を狩る。隙を晒せばどうなるか、狩人である恭介はよく分かっていた。

 

 だから。見逃さない。怨霊を放った三角頭が、それを隠蓑にステップで接近していることを。

 

 さやかが月光を放つのと同時に、恭介は奔流に巻き込まれる事を承知で前に割り込んだ。月光の力は凄まじく、掠っただけの恭介の腕を吹き飛ばす。

 同時にアルフレートが振るう車輪を、さやかの盾となる形で受け止める。無論、人より少し強靭である程度の狩人がそれを受け止めればどうなるかは火を見るより明らか。

 

 恭介は車輪に潰された。怨嗟を募らせた車輪は、恭介の胴を半分ほど擦り潰したのだ。

 

「あ、」

 

 想い人が、自らの隙を守るために潰れていく。さやかはその光景を目の前で見つめながら。

 

「さや、かッ」

 

 臓物と血を吹き出しながら、恭介の身体はさやかと共に吹き飛ばされる。地面に激突したさやかは、その身体に軽すぎる恭介を感じた。

 そして、身体の半分以上が消えている恭介を腕に抱える。

 

「あ、ごめ、恭介」

 

 恭介の血を浴びながら、さやかは震える身体で謝る。それだけではない、魔力で治療も施しているのに身体が治っていかないのだ。

 狩人の身体は人間とは違う。その身に虫を宿し、その意思は宇宙と繋がっている。はたしてただの魔力で再生できるほど単純でもない。狩人を癒すのは、同じく虫を宿す血なのだ。

 

「貴女が!貴女が殺したんですよ!その狩人を!」

 

 アルフレートは責めるように指を指して怒鳴り、車輪を掲げた。

 

「さぁ、潰れるがいい!売女め!」

 

 憔悴しているさやかに車輪を振るおうとして。

 

 

 

「テメェ何してんだァー!」

 

 

 杏子の槍が、彼を背後から貫いた。

 

「ゴアぁあああ!?なんですか貴女はァー!?」

 

 刺されてもなお暴れるアルフレート。杏子は怒りに震えながらもその槍を介して彼の意思を感じた。

 

「テメェ……あの人の敵か!」

 

「貴様、穢れた血族の……!」

 

 刹那、杏子の槍に炎が灯る。それはただの炎ではなく、教会の狩人に殺された城の者達が抱く復讐の念。

 それは瞬く間にアルフレートを包むと彼の身体を消し炭に変えていく。

 

「あああああ熱いッ!血が、熱い!」

 

「仁美ィ!」

 

 杏子が叫ぶと、チェーンソーを携えた仁美が燃え盛るアルフレートの前に立ちはだかる。そして一気に彼の首筋目掛けて得物を振るった。

 

「死になさい、悪魔め!」

 

 けたたましい機械音と共にアルフレートの首が金のアルデオごと切断されていく。それはさながら処刑のようだ。

 彼は、処刑する側であった彼は、処刑された。穢れた血族とその仲間によって。血を噴き出し、重低音の金属音と共に首が転がる。侵入者は、完膚なきまでに殺された。

 

 

 ━━PREY SLAUGHTER━━

 

 

 余韻など無い。すぐさま杏子は追ってきた使い魔を屠る。仁美は……やはり恭介とさやかへと駆け寄るのだ。

 ぼろ雑巾のようになって動かない恭介をさするさやかを見て、絶句した。これはもはや死んでいる。彼女達の想い他人は死んでいるのだ。

 

「かみ、条くん」

 

 膝をつく仁美。まさしく絶望が彼女達を襲う。

 

「おい!しっかりしろ!私一人じゃこいつらを……うわっ!」

 

 使い魔の攻撃をギリギリで受け流す杏子。いくらベテランの彼女と言えども、この数の使い魔をさやか達を守りながら狩るのは至難の技。

 しかしそれを理解していても二人は動けない。顔を涙で歪めるさやかは、何度も治癒魔法を恭介にかけるも治らず。深い絶望は、すなわち彼女達の魂を汚していく。

 

 しかし宇宙は見捨てず、彼女に語りかけた。

 

 

 ━━ 狩人よ、光の糸を見たことがあるかね?とても細く儚い。だがそれは、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった━━

 

 

 師の言葉が、彼女の脳に流れる。脳に宿る瞳が、さやかに何かを訴えた。まだ終わっていない。そう、恭介はまだ死んでいない。

 夢に囚われた狩人は死なず、ただ自らの死を夢として流すのみ。ならば彼の死体は残るはずがないのだ。また生き返り、狩をなすだけのはず。

 であれば、恭介はなぜ形を留めたままここにいるのだろうか。それはやはり、あの狩人アルフレートによる呪い。狩人とは不死と対峙する時、確実に狩殺すために生きる意思すらも奪う。今の恭介はただ、あの三角頭に意思を奪われているに過ぎない。

 

 ならば。意思を与えれば彼は蘇る。

 

 光の糸が舞う。それはさやかに纏わり付き、次第に恭介の身体へと溶け込んでいく。

 

 

「仁美」

 

 

 覚悟を決める。なすべき事をなすのだ。

 

 

「恭介をお願いね」

 

 

 訝しむ仁美を他所に、さやかは月光を彼の亡骸に突き立てる。何をと尋ねる仁美に微笑みかけ、さやかは受け継いだ鐘を取り出し鳴らした。それは不吉な鐘とは異なり、どこか懐かしさすらも覚える音色。

 さやかは、月光を通じて自らの意思を流し込む。魔力の奔流とも異なる意思が、生きる意思さえもが恭介の亡骸に流れ込んだ。

 

 同時に仁美は啓蒙された。さやかは自らの命と引き換えに恭介を救おうとしているのだと。そして、それを理解していても止められない自分がいる。

 なんと人間とは身勝手な生き物なのだろう。想い人が生き返るならと、親友の死を止めないのだから。だが自己嫌悪すれど絶望はしない。それが彼女の望みなのだから。そして、その望みは己ではできぬ事だと理解しているから。

 

 

 ━━「古人呼びの鐘」に共鳴がありました。

 

 

 失われた四肢が戻っていく。その命に息吹が芽生える。

 そして、さやかの命が失われていく。

 

 

「ねえ、恭介。私」

 

 

 ソウルジェムに亀裂が走る。限界だった。いくら月光に導かれた魔法少女といえど、人であることに変わりはない。

 完全にソウルジェムが砕ければ、月光の奔流は止まる。命が流れ出て、さやかという少女の生涯は呆気なく止まる。だがそれで良い。

 最後の瞬間、彼女には聞こえた。友の声だ。それは走馬灯の中の一部かもしれないし、幻聴だったのかもしれない。だが、確かに耳にしたのだ。

 

 

 ━━大丈夫だよ。さやかちゃんの意志は無駄にはしないよ。

 

 

 これで美樹さやかの物語は終わり。後は残されたものが紡ぐのだろう。

 

「さやかっ、クソ!」

 

 叫ぶ杏子は、しかし見た。彼女が最期に鳴らした鐘に共鳴し、やってくる者を。

 

 

 ━━鐘の共鳴により、聖剣のルドウイーク がやってきました。

 

 そして、姫の口付で王子は眠りから醒める。悪夢に再び戻るために。

 やってきた彼の師は、足元に横たわる弟子の少女を見下ろした。跪き、開いた彼女の瞳を閉じる。そこに命は感じられない。だが、それで良かったのだと彼女の貌は告げている。

 

 

「なすべき事を、成したのだな」

 

 

 慈しみ、しかし嘆くとルドウイークはさやかの胸に彼女の腕を乗せた。少女は身も心もは綺麗なまま死ねたのだ。それは狩人には稀有な、良い死に方なのだろう。

 恭介は目を見開き、その顔で心の苦痛を表現した。

 

「狩人は死なないのに、さやか」

 

 胸に刺さる聖剣を引き抜き、立ち上がる。月光と少女の遺志は、確かに彼の中に流れている。だから、余計に虚しいだけだ。その遺志が、さやかの死を実感させるのだから。

 かつての英雄は少年の肩に手を乗せると言うのだ。

 

「さやかは、確かに君を導いたのだ。狩こそが、君の使命なのだよ」

 

「さやか……」

 

 恭介は受け継いだ聖剣を掲げると、そのクリスタルの刀身に魔力を迸らせた。彼が信仰するのは月光ではない。それに魅入られた少女を信じるのだ。

 そしてその信仰は、杏子を囲む者達を須くこの世から消して見せた。あまりにも強大な力に、しかし恭介は喜びはしない。深い悲しみと決意のみが残る。

 

 

 

 さやかの親友であった上位者は宇宙に祈るのだ。友の安らぎを。そして安らげる場を作るため、暗躍するのだ。

 

 

 

 

 




なんでさやかすぐ死んでしまうん?

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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