魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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ヤーナムの影大嫌い、犬はもっと嫌い、赤蜘蛛は死んでいい




 

 

 瞳が齎す啓蒙に、価値が無いと言えば嘘になる。瞳とは正しく思索の果てに得る輝きであり、人が次の超越を迎える為に求め続けなければならないものだ。ウィレーム学長はかつて思索の果てに人の身でありながら上位者へと至った。それは到底人が成し遂げられる偉業ではなく、ビルゲンワースの流れを汲む医療教会とメンシスの檻達は彼の正しさを須く認めなければならないという証でもある。

 血に酔い、狂気に酔い、ヤーナムという土地はしかし滅んだ。思索を捨て、血と実験、そして交信という分かりやすい成果を求めた学徒達の最果てによって。しかしそうまでして求めたかったものが瞳なのだ。瞳とは、人が人を超えた証。更なる思索を得た証。100マイル離れた先から人類を見据えるための光り輝く暗黒の星。

 かつて私は、狩りの果てにその瞳を脳に宿した。私は人間や狩人という枠を超え、赤子が齎した啓智を継承して上位者と変わったのだ。

 

 だが。そんなもので望むものがすべて救えるわけでは無い。

 

 

 さやかが死んだのだと、私は深まる神秘の中で感じてしまった。月光を信じ、人を愛して愛された少女はとうとう報われなかった。それが例え少女が望んだことにせよ、幸せな結末である訳がない。恭介が遺志を拾ったのだろう、彼女の彷徨える遺志を感じることはできない。それが唯一の救いだろうか。

 

 本当に?あの少女の願いは自分達を見て欲しいという欲の果てに得た願いだったはずだ。ならば死にたくはなかったはずだ。どんなに手段が無くて、最期には笑っていたとしても、通じ合っていたとしても失われて良い命ではなかったはずだ。

 上位者とは、人を超えた存在ではなかったのか。私の夢は少女達の楽園を築くこと。しかしそれは、ただ少女の遺志を拾って意思を再現する事ではない。その夢の中には、確かにあったはずなのだ。少女達を生きたいように生かせ、導いていく私の姿が。

 

 歯が砕けそうになる程に顎が軋む。悔しくて堪らない。かつて仁美が魔女となりかけた時は、それでもよかった。きっと恭介は二人を選べない。人とは最愛のものを二つと選ぶようにできてはいないから、きっとどちらか一方の少女が気付かずに捨てられてしまうのだろうから、そうであるなら私が彼女を楽園へと導くだけだったから。そして仁美も、自らに起きた身体の変異に絶望していたのだから。

 だが、さやかは違う。受け入れて、それでも進もうとしていた。それは狩人が最も尊敬すべき生きるという意志。果たすべき使命の自覚なのだ。そんな少女を殺して良いはずがない。

 

 

 ビルから飛び降りた先には、かつて見たであろう人物達が背を向けていた。悪夢の先で狩ったはずの二人。きっと漂っていたわずかな遺志が、ワルプルギスが放つ濃い神秘に惹かれたのだろう。彼らは死人だ。その存在は霊体に近い。怨霊と言っても良いだろうが。

 

「アッハッハッハ! おぉ、素晴らしい(Oh, majestic!)!狩人の身で上位者となるとは!」

 

 その内の一人、メンシス学派でありヤーナムにおいて悪夢の主をしていた学者、ミコラーシュが私の存在に気付いて歓喜した。啓蒙高き彼であれば私の正体の看破は容易いだろう。そしてもう一人、あの診療所でなり変わっていた医者が狂った笑みを向ける。

 

「あら、貴女……そう。結局、真に貴女が選ばれたのね」

 

 仕込み杖を握った彼女……名前などない。ただヨセフカと呼ばれた女を偽った、聖歌隊の生き残り。そんな女は、上位者の子を身篭って私に無残にも殺され腸を引きずり出された挙句にその赤子の臍の緒を奪われた。

 彼女から感じるものは嫉妬。彼女では無く、私が真に選ばれた事に対する灼熱の怒り。自らを私を生み出すための手段とされた事に対する、正当な怒りだが。

 哀れ偽のヨセフカ。せっかく赤い月により齎された叡智も死して怨霊となり嫉妬に囚われた事で無為と化したか。

 

「悪夢とは、正しく廻り終わらぬものだ」

 

 右手に落葉を。左手にエヴェリンを。愛すべき友を失おうとも私がやるべきことは変わらぬ。宇宙の光が私に囁く。為すべきことを為すのだと。いつかいた、狼達のように。

 

「学徒よ、貴公の言った通りだった。私はやはり、上位者となっても悪夢に囚われ続ける未熟者よ」

 

 ならば、この怒りも正しい。怒りは啓蒙低き行いであり思索の邪魔である。しかし事人間とは無駄大き存在よ。無駄に無駄を重ね、繰り返す狂気の果てに進化を得る。私が獣狩りの夜を繰り返したように、最後に辿り着くまで。

 ならば良いのだ。怒りをもって、少女らしく、人間らしく彼らを狩ろう。そしてワルプルギスの夜を討ち殺そう。

 

「貴公らこそ我が悪夢を語るに相応しい」

 

 神秘の高まるこの街にて、我に敵う者無し。彼らは狩殺されるだろう。敵意の無い学徒も、嫉妬に狂う女も共々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かがおかしいと、ほむらは無反動砲の数々を操作しながら思考した。それは今までの経験から齎された彼女なりの啓蒙であろう。

 ワルプルギスの夜という存在は、こうも敵対する魔法少女に無関心であったか。もちろん今も使い魔の攻撃は続いているが本来からの攻撃は一切無いのだ。通常であればこの時点で本体の魔女の集合体からの苛烈な攻撃を受けていて然るべき頃合いだ。それなのに、本体は一向にこちらを向かず、前進を止める事もない。こちらの攻撃も相変わらず効いている気配はないが、それでもなお、この様子はおかしい。まるで何かに引き寄せられているような、そんな感じすらもある。

 

 ワルプルギスの夜の進行上にセットされていた爆薬を作動させる。自衛隊から盗んだ指向性散弾と呼ばれる爆薬が爆ぜ、その上に積み重ねられていた高性能炸薬が爆ぜる。爆発の指向性を持たせるために創意工夫をし、そのエネルギーのほとんどがワルプルギスの夜の反転した頭部へと文字通り突き刺さった。

 が。しかし止まる気配は無い。多少はダメージが通ったようで、頭部が焦げている。やはり外部からの攻撃は効果が薄い。

 ならばと、ほむらは軽機関銃を両手に抱えて本体へと突撃を試みる。使い魔である魔法少女の影を空中で弾幕を張り撃ち落としながら先へ進む。ほむらには一つの秘策がある。それは、ワルプルギスの内部破壊。数多のループの中で、かなりの有効打となった攻撃だった。方法は明快単純、ただワルプルギスの機械的な体内に乗り込み、破壊のかぎりを尽くすだけ。問題は、ワルプルギスの夜に近づけば近づくほど使い魔が増え、乗り込んだとしても変わらぬ量の使い魔と逃げ場のない内部で戦闘になるということか。

 

「どきなさい!」

 

 怒号のように叫びながら、ほむらは使い魔を駆逐していく。彼女の魔法少女としての素質は薄いものだ。だが、潜ってきた修羅場の数々が彼女を歴戦の魔法少女と変えた。きっと、凄まじい素質を持つマミですら彼女には苦戦するだろう。

 

 だが不思議な事に、ほむらがワルプルギスの表面にたどり着くと魔法少女達の影が離れていく。到達した面にも使い魔は見当たらない。こんなに不思議なことがあるものか。

 しかしそれでも進まねばならぬ。仲間達は自分を先行させるために使い魔と戦っているのだから。

 

 そう決意して、機械仕掛けの魔女の内部を進んでいく。敵は誰一人として見当たらない。ほむらは持ち得る火器を最大限に使用し、破壊の限りを尽くす。

 人間であれば心臓の部分に辿り着いた頃だろうか。変わらず爆薬で吹き飛ばしてやろうとしていた時だった。不意に、使い魔が現れた。

 

 それは、やはりいつもと変わらない。見知らぬ、しかし魔女になったであろう魔法少女をモチーフとした影。血のように赤く、だがほむらを見つけても向かってくる様子はない。

 ほむらは警戒し、しかし倒すべき敵である事には変わらない。ただ、ライフルの銃口を向ける。そして、その影の顔を見て、驚くのだ。

 

 

 

 

「白百合、マリア?」

 

 

 

 百合の狩人。その人物にそっくりな影が目の前にいるのだ。だが、よく見てみれば服装や武装が異なる。

 服装は古めかしく仕立ての良い動きやすそうな地味な服の上にマントのような布を羽織っている。左手にはあの銃ではなく、腕に備え付けられた弩が備え付けられ、手には短い短刀。何よりも右手には狩人特有の仕掛け武器ではなくただ何の変哲もない剣が握られていた。

 

 影はほむらをジッと見据えた後、フードを頭に被せてから構える。その構えには、少女らしさは一切感じられない。巴マミのような華やかさも、美樹さやかのような実直さも、佐倉杏子のような猛々しさも、個人としての癖すらない。ただ敵を倒すことのみに特化した、実戦的な構えであることが見て取れる。

 

 長い時を戦いと共に生きてきた彼女だから分かる。この魔法少女を模した影は、なるほどワルプルギスの心臓を守るに値する強敵であると。

 

 ほむらはライフルを盾にしまい、代わりに取り回しの良いドイツ製のサブマシンガンを取り出した。4.6mm弾を使用するその特殊な銃は、破壊力自体はライフルには劣るが制御のしやすさと連射力、貫通力、そして何より室内戦における取り回しに優れる。

 見た所、あの影は防御力に優れた服装はしていない。ならば破壊力よりも、相手の上を行く速度と取り回しで上回る必要があるだろうと考えてのことだ。

 

「っ!」

 

 最初に動いたのは影の方だった。影は全速力で走って来ると、弩で矢を飛ばしながらほむらを牽制する。

 一瞬の時間停止で矢を回避し、反撃に移る。単発でダブルタップ、軍の特殊部隊にも劣らぬキレのある射撃は無駄なく影の胸と頭を捉えていた。

 

「!」

 

 影は驚いたように表情を変えると、剣で銃弾を斬り払う。もしこれが重量のある7.62mmであるならば剣をへし折りながら影を殺せたかもしれないが、高初速軽量弾はあっさりと無に帰ってしまった。そもそも、銃弾を切り払えるなどさやかですら難しい。それどころか、並の狩人ですら無理な神業だ。

 しかし音速を超える弾を斬ったせいで刃こぼれはしたらしい。影は剣を捨てると新たに魔力で精製した短剣を召喚した。そしてその隙に、ほむらは一気にサブマシンガンのセレクターを切り替え連発しながら詰め寄り、弾の回避に専念する影の胸をドロップキックする。

 確かな感触。影はそのまま後方に吹っ飛んでいく。

 

「もらった……!」

 

 そのままほむらが追撃しようとして、何かに気がつく。

 

 

 吹っ飛びながら、弩の先端がほむらに向いていたのだ。

 

「くっ!」

 

 射出される矢をサブマシンガンで受ける。咄嗟の事で時間停止が間に合わなかった。影はその隙に体勢を立て直すと、蹴られた胸を摩る。どうやらかなり痛かったらしい。

 ほむらは機関部に矢が刺さったサブマシンガンを投げ捨てながら、疑問に思う。ワルプルギスが召喚する使い魔としての影は、取り込んだ魔女の魔法少女時代を再現するものだ。思考、魔力、武器、その全てを。

 しかしあの影はどうだ。もし今の一撃が他の魔法少女のものであるなら、今頃ほむらはサブマシンガンごと貫かれていても不思議ではなかった。

 魔法少女とは、自らの魔力を出し惜しみなどしない。持てる力をもって、魔女を粉砕する。ならばなぜ、相手が撃った一矢の威力が低いのだろうか。

 

「どうやら、魔法少女としての素質は低かったようね」

 

 それに尽きる。きっと、目の前の影は卓越した技量と戦いに関する先見性で魔力を補って魔女と戦っていたのだろう。つまりほむらと同じタイプ。だが、影にはあってほむらにしか持ち得ないものもある。

 ほむらは構える影に突進せず、固有魔法である時間停止を作動させる。

 

 すると、彼女以外の時間が止まる。この法則にはあの百合の狩人以外当てはまらない。

 ほむらは即座に飛び上がり、小盾から対戦車ロケットを取り出して影の死角である真上から発射する。

 

「でも、魔法運用では私の方が上ね」

 

 そして加害距離から離れ、時間を進めた。

 

「ッ!?」

 

 影は突如真上から迫ったロケット弾に気がつくも、もう遅い。防御するように羽織っていたマントで自身を包む。

 そして、爆発。最新の戦車ですら後部ならば破壊する弾頭は、影を爆風と粉塵で包んだ。包んだのだが。

 

「……面倒ね」

 

 晴れた粉塵から、その姿を現すのは爆発を耐え切った影。しかし無傷ではないらしく、マントはボロ布と化し、立つ事さえやっとの様子だった。剣を杖代わりにし、影はなんとか立ち上がる。どうやらあのマントには魔力的な防御結界か何かが仕込まれていたようだ。

 ほむらは拳銃を取り出し、まだ倒せない影に苛立ちを覚える。早いところ始末しなければならない。

 

 

「えっ?」

 

 

 思わず、影が取った行動にほむらは面食らった。影はマントを脱ぎ捨てるや否や、全速力で逃げ出したのだ。こんな事、あるはずがないと脳内で否定しながらも実際目の前で起こっている事にほむらは対処すべく、同様に走り出す。

 

「待ちなさい!」

 

 イレギュラーだった。影が、防衛を無視してまで逃げるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簡単な事だ。相手の攻撃に合わせて銃を撃てば、相手は体勢を大きく崩す。その隙に内臓を引き抜いてやれば、それで終わり。相手は上位者や獣のように大きくもない人間なのだ、ならば手で握れるだけの内臓を引き抜いてやればそれだけで良い、終わる。

 引き抜いた内臓を捨て、私は横たわる偽のヨセフカの胸に落葉を突き立てる。彼女は相変わらず私を憎悪した目で睨んでいたが、それで終わり。狩人は死体すら残さず、悪夢に沈むのだ。彼女が居たという痕跡はなくなる。これは屠殺だ。

 

「は、はは、は……やはり君は、どこまで行こうが狩人のようだね……」

 

 その横で、壁に横たわるミコラーシュが皮肉った。片腕と足は既に取り払われていて、新鮮な血が溢れていた。

 

 久しぶりに、一方的な狩りというものをさせてもらった。百合の狩人を名乗って久しく、相手の尊厳を無視した狩りだった。最早虐殺と言っても良い。

 ミコラーシュが呼び寄せた隕石を、上回る私の神秘で相殺し、余剰の隕石が彼を貫いた。狩人の端くれらしく接近戦を仕掛けてきた偽のヨセフカを、銃撃でパリィして内臓を引き抜いた。それだけのことだ。

 

 勝負などにもならない。これがかの制裁神であったならば、手こずっていたのだろうが。

 

「悪夢に囚われ、その微睡だけを享受する者共が私に勝てるはずも無し……メンシスの学者よ。いかに上位者に媚びようと、自ら思索せねば瞳など得られるはずもなかろうよ」

 

 私の忠告を、彼は吐血しながら不気味に笑って受け入れた。

 

「アッハッハッハ……そうだねぇ、夢に戻ったのならば……私もウィレーム先生のように、自らの脳のみで考える事にするよ……」

 

 それだけ言い残し、彼は霧散した。きっと彼は目覚めない。永遠と悪夢の中に囚われ、そして巡っていくのだ。それが正しいと信じ、上位者から瞳を授けてもらうために。

 私は落葉に着いた血を払い、鞘に納刀する。先ほどからほむらの戦いが随分と静かだが、彼女が死んだという事も無い。きっと内部に乗り込んだのだろう。

 情けない、さやかの死をきっかけに、少し血が荒ぶり過ぎたか。本当ならもっと二人と戦ってやっても良かったのだが。

 

「だが、もう良い。今こそあの遺志の塊を私の手に。それこそ、今の私の悲願なのだから」

 

 人間とは、思索も大事であるがもっと欲深くあるべき存在でもあるのだ。ならばそれで良い、私は変わらず少女達を導き、あの狩人の夢をハーレム化する。それだけなのだ。

 私はそれだけ考え、ほむらの後に続くために当たり前のように浮かび、ワルプルギスの内部へと侵入する事に決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めないキリカを簡易ベッドの上に寝かせ、まどかは避難所の体育館を後にすべく裏口へと向かう。未だ織莉子は逃げたキュゥべぇを捕まえられていないが、それでも良いのだ。運命とは、自ら歩みを進めなければ向かっては来ないのだから。

 上位者となりかけても尚、まどかは友達想いだ。今まさに死地にいる友が死んでしまったが、それでもジッとここで待っているのは性に合わない。臆病だが、それでも今の自分は昔の自分とは意思が違う。ならば、赴かなくてはならない。それこそ、来るべき時に向けた試練。

 

 そしてこれもまた、試練なのだろう。裏口へ行けば、まどかの母が彼女の手を引いた。娘が娘ならば親も親、また啓蒙に溢れている。きっと何かを察したのだ。

 

「どこへ行くんだ」

 

 そう母が尋ねれば、まどかは振り返らずに落ち着いた様子で答える。

 

「友達を助けに行くの」

 

「消防に任せろ、素人が動くんじゃない」

 

 母は正しい。だが、人の身でまどかの為そうとする事を思索するまでには至るはずもない。それほど神秘の中で生きてきたはずもない。

 

「私にしかできない事って、何かな」

 

 娘の問いに、母は首を傾げた。

 

「出来もしないのに止めて、泣き噦ること?帰ってくるかも分からない友達を、待ち続けること?契約をしないこと?」

 

 目の前にいるのは娘のはずだ。しかし母にはどうにもいつもの娘には見えない。思えない。

 

「違うんだ。私は私自自身を補って、至高の存在(Great one)になるの。だからね、ママ。行かなくちゃならないんだよ」

 

 まどかが振り返り、瞳を覗かせる。その瞳は、いつもの可愛らしい瞳ではない。光り輝く星々を宿した、超次元の存在。娘は、母の知らぬ間に人を超えてしまっていた。

 只人にとって、理解できぬものとは毒となる。それは目の前の娘もまた同じ。鹿目詢子の脳に、異形が囁く。

 

「ママとパパに、私は大切にされてた。愛されてた。今ならもっと分かる。だから私は自分を蔑ろにするつもりはないよ。でもねママ、それ以上に、私は皆を見捨てられないの」

 

 まどかが母の手を握り返す。

 

「ママ、今でも私が正しいと思う?嘘もつかない、良い子だって信じてくれる?」

 

「まどか……」

 

「私は自分に嘘はつかないよ。例えそれが、高次元暗黒に揺らめく存在になろうと。だからママも、私を信じて」

 

 啓蒙が、正しさを証明する。だから鹿目詢子は娘を引き止められない。自分が、そう育てたのだから、娘を信じなければならないと、否定しようともできない人間性が彼女を止めさせた。

 手を離せば、まどかは笑顔で母の頬に唇をつけた。

 

「さよなら、ママ。大切にしてくれてありがとう」

 

「まどか……!」

 

 走り去る娘を追いかけることはできない。身体が動かない。意思とは異なる、人間性がそれを止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、できる手段は尽くした。最早すべき事は何もない。何もないのだ。

 娘と別れて数年、少女はイギリスの地を放浪した。その間、沢山の出来事があったが。それはどれも、少女という異形であり魔法を司る存在を否定していた。

 技術は進歩し、魔術はすでに御伽噺の中でしか生きられない存在となっていた。そうなれば魔法を使う人間はおろか、治す存在などいるはずも無し。少女はそれでも放浪しなければならなかった。

 自らの呪いを解くために。死ぬことすら、今の彼女を解放できるとは思えない。それほどまでに、少女は魔法少女の中でも異端と化していた。長く生きた代償か、最早彼女のソウルジェムは浄化を必要としない。ただ闇に染まり、人間性を貯め続け、奪った魂を自らの糧とすればそれで良し。空腹すらも懐かしい。

 

 終われない苦しみというものが、彼女を襲っていた。発狂など、してしまえばどれ程楽だったか。だが悲しいかな、彼女の脳は既に啓蒙に溢れている。長い時の中で考え、見て、実感して、現世において発狂するには既に遅い。

 

 

 

 そういえば。あの貴族の娘を送り届けた場所、あの街はどんな所だったか。

 遠目に見ただけだが、確か医療によって隔絶されながらも発展したのではなかったか。

 

 今までずっと、魔法こそ自らを治す手段だと思い込んでいた。しかしそれほどの医療ならば彼女を治す事も可能なのではないか。

 ポーチから、懐かしいものを取り出す。それは貴族の娘から最後に与えられた手紙。結局今の今まで読む事は無かったが。少女はそれの封を切る。

 

 中には招待状だけが入っていた。カインハーストと呼ばれる、とある国の招待状だけが。

 

 少女はそれをまたしまい、考える。

 

 もし、かの街で自らを治療できるのなら。呪いを解けたのなら。もう一度、あの娘に会いに行っても良いかもしれない。それくらいしか、楽しみというものが無いのだから。

 

 決めれば、少女は馬に跨り次の目的地へと進む。

 

 ヤーナム。より深い呪いが渦巻くその街が、次の目的地だった。

 

 

 

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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