魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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呼びかけ

 

 獣と変わらぬ使い魔達を共同で屠りながら、ルドウイークは空を見上げる。吹き荒れる嵐は未だ止む気配を見せず、使い魔達の数も変わらない。それでも、ほんの一瞬だけ彼は空に何かを感じ見ずにはいられなかった。

 空を飛ぶ、一輪の百合。暗めの衣装に映える灰のような銀髪。かつての悪夢で自らを解放したその者が、元凶であるワルプルギスに向かって跳躍していたのだ。相も変わらず狩りには適さない格好だというのに。

 特に彼がなにをするでもない。労いの言葉も届かなければ、ジェスチャーをしても無視されるだろう。だからなにもせず、ただ見つめた。

 自分の安らぎの為に甘い嘘をついた狩人を。自らの弟子に助言をした、最初の狩人であるゲールマンの弟子を。ただ、見送る。

 やはり彼女は、どこまでも狩人なのだ。その狩人とはかつてのヤーナムにおいて卑下されたような存在ではない。人を守り、自らの正義のために殉ずる覚悟のある狩人だ。

 

 あぁ、さやかは結局最後まで彼女を理解してやれなかったのだろうが。それでも二人は友であったはずだ。それで良い。狩人とは本来孤独なものだから。

 

 ルドウイークは贋作の聖剣を振るう。重い銀色の隕鉄が使い魔を叩き潰す。

 だが悲しむなかれ、狩人よ。貴公の弟子はしっかりと亡き者の遺志を継げるだけの器量を持つ正しい狩人だ。彼は、愛弟子の想い人である恭介を見据えた。あの若い狩人は、受け継いだ月光を巧みに操り狩りを成している。血に飲まれる事もなく、狩に酔いしれる事もなく、ただひたすらに約束を果たそうと。自らの愛するものを守ろうと足掻いている。

 例え月光に真に見定められていなくとも、彼は立派な月光の狩人であり、月の香りの狩人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーザーがすぐ真横を掠める。やはりあの美国織莉子という少女は、想像していたよりも対魔法少女戦に熟知していた。

 美国織莉子はかつて、聖女として崇める鹿目まどか殺害のための撹乱として魔法少女狩りを行なっていた。故に魔法少女の追跡、襲撃などの行為に対し熟知している。実際行動していたのはキリカだが、それを指揮していたのは織莉子だ。思慮深く、知識もある彼女ができないはずもない。

 

「これじゃあジリ貧なのです」

 

 次第に正確になっていくレーザー攻撃から逃げ惑うなぎさが呟く。

 

「僕じゃ彼女の魔法は打ち消せない。何とか逃げ切るんだ!」

 

「言うは易しなのです」

 

 ビルから飛び降り、霧揉みしながら地面へと飛び込む。勘違いされがちだが、百江なぎさという少女は実に賢い。戦う経験こそほぼないが、彼女にはいざというときに躊躇いなく敵を斃せるだけの覚悟もある。故に彼女は、逃げの一手ではなく反撃のタイミングも伺っていた。

 なぎさは路地裏に逃げ込むと、シャボン玉を辺り一面にばら撒く。上にも周辺にも満遍なく。

 織莉子が彼女を追って裏路地へとやって来た頃には、なぎさはどこかに息を潜めていた。如何に織莉子が智略に優れた魔法少女であろうとも、今の彼女は未来予知の魔法を封じられている。故に罠が張られていようともそれを予知する事などできるはずもない。

 

 だが、それでもやはり賢いのは織莉子。彼女は自分が裏路地に誘い込まれた事を瞬時に理解した。次に彼女は、水晶を真上に放り投げて自身に当たらない程度に周辺へレーザーを放つ。

 

 刹那、路地裏が爆風でごった返した。なぎさが秘匿していたシャボン玉がすべて、レーザーによって誘爆したのだ。

 

「小癪ね」

 

 織莉子はそう吐き捨てると、粉塵の舞う中で精神を研ぎ澄ませる。きっとあの小娘はこれを煙幕代わりに襲いかかってくるに違いない。彼女にはわかっていた。逃げられないのならば、なぎさは必ず立ち向かってくるという事が。そしてそれは、正しい。

 突如、真横から気配がする。そちらを振り返り即座にレーザーを放てば、煙が晴れて襲撃者の姿が露わになる。

 

「あっぶないなぁ!」

 

 キュゥべぇ。レーザーを間一髪で避ける彼が、そこにはいた。なぎさの姿などどこにもない。

 してやられたと悟る。彼は囮だった。そしてやはり、反対側から新たな気配がするのだ。急いでそちらを振り向こうにも、もう迎撃には遅い。なぎさの姿を見たときには既に彼女は腕を突き出していた。

 

 なぎさの腕から、正確には彼女が手にする蛞蝓のような何かから、触手が溢れ出す。それは正確に織莉子を突き飛ばして見せた。まるでトラックに轢かれたような衝撃が、彼女を簡単に跳ね飛ばす。

 エーブリエタースの先触れ。私がなぎさに貸し与えたものだ。しかしいくら上位者の一部を召喚しようにも、その威力は召喚者の神秘に依存する。故に神秘に劣るなぎさでは殺し切るほどの威力は発揮できなかった。だがそれで十分。

 

 なぎさはゴムボールのように跳ね飛ぶ織莉子を追撃する。手には固有武器の如雨露ではなく、形状が異なるこれまた如雨露。

 聖歌隊はそれを、ロスマリヌスと呼ぶ。水銀弾を消費し先端から放たれる霧は、濃い神秘である。これもまた星の娘の恩寵である。

 

 まるで殺虫スプレーの如く吹き荒れる神秘の霧は、常世にある人の身体には毒となる。織莉子はなす術なくその霧によって肌を焼かれ、度重なる神秘との邂逅によって発狂しそうになる。

 とどめと言わんばかりに、なぎさは未だ宙を舞う織莉子目掛けて前方宙返りのまま蹴りを放つ。織莉子の身体が無理矢理地面へと打ち付けられた。

 

「すごいよ!あの織莉子を一方的に攻撃するなんて!囮にされた時はいつか殺してやるクソガキと思ったけど、それもチャラだね」

 

「キュゥべぇが感情を楽しんでいて何よりなのです……でも、まだ終わりじゃありません」

 

 ここで終われば、織莉子はおりこ☆マギカでラスボスなどやっていない。なぎさの言う通り、織莉子は満身創痍の身体を無理矢理起き上がらせると震える足を支えに立ち上がる。どこからどう見ても、敗色濃厚な彼女だが。

 その瞳から溢れ出る闇は失われていない。

 

 織莉子は咳き込み吐血しながら、静かに言葉を紡いだ。

 

「絶対に、貴女はこういう狭い場所で反撃してくると思っていたわ」

 

 ゲリラ的な気質、武器、戦力。それらを総合的に判断し、彼女は言う。

 

「そして、それは私も同じ。貴女達を確実に討ち滅ぼすために、あえて乗ってあげた」

 

 そして彼女は、空を指差す。その瞳に狂気的なまでの人間性の闇を溢れさせながら。

 

 

「宇宙は空にあるッ!聖女様の意思は、何としてでも成し遂げなければならないのよッ!このクソガキ風情がぁ〜ッ!」

 

 刹那、何かとてつもない巨大な影が路地裏を覆った。見上げれば、それはある。とてつもない数の隕石が……今まさに路地裏を、いやこの周辺のビルごと更地にしようと迫っていた。

 それを見た一人と一匹は血相を変える。自分の身を顧みず、自分達を殺しにくるとは思ってもいなかった。これでは目標であるキュゥべぇごと殺してしまうではないか。

 

「に、逃げるんだッ!」

 

 キュゥべぇが叫び、なぎさは全速力で路地裏から逃げ出すが。

 

「無駄よ。何人たりとも聖女様の邪魔をした者を生かしてはおかないの。だから死になさい」

 

 無慈悲に、彼女は言い放つ。そしてなぎさの予想よりも早く、隕石は辺り一帯を砲撃してみせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影は所詮、影でしかない。邪魔をする影を落葉で斬り刻みながらワルプルギスの夜の表面へと着地する。なんて事はない、よくある狩の道中だった。そして中へと足を進めれば、誰かが戦っていた痕跡がある。小さな弾薬の撃ち殻。ほむらのものに違いない。

 どうやらかなりの規模の戦闘だったようだ。爆発の痕も見て取れる。強敵でも現れたのだろう。それにしては短時間で決着がついたようだが。

 

 更に内部を進む。すると外の風雨以外に、何やら物騒な音が混じって来た。発砲音と爆音だ。

 

「このっ!」

 

 遠くで、その姿を見つける。ほむらと影が戦っている。ほむらが銃撃し、影が斬り込みにかかっているのだ。私は友を救出すべく駆け出すと。

 ほむらが影の蹴りを喰らってこちらに吹っ飛んできた。おっと、と私は運よくほむらを抱き抱えてその華奢な身体を受け止める。それにしても軽いな、しっかりと飯を食べているのだろうかと心配になるが、今はそれよりも。

 

「さ、白百合マリア?どうしてここに」

 

「なに、影相手の狩りにも少し飽きてね。随分と威勢の良い影もいたものだ」

 

 軽口を叩きほむらを下ろす。しばらくして、影はこちらへと歩いて近づいて来た。どうやら他の影とは違い、何かしらの意思があるようだ。

 しかし何故だろうか。凄く。凄く見覚えのある……いや、見た事はない。それなのに懐かしいような感覚がある。それにあの服……あれは異邦の服だ。私がヤーナムにおいて最初に着ていた服。所々意匠は異なるが、概ね同じものだ。

 

「どうやら……少し特殊な使い魔のようだね」

 

「気をつけて白百合マリア。奴は何かが違う。戦略的な判断もできるようだわ」

 

 なるほど。ワルプルギスの親衛隊か。一人で親衛隊というのもおかしな話だが。

 

「ほむら、あの影は私の役目だ。君は先行し、ワルプルギスの脳を叩け」

 

「頼むわよ」

 

 すんなりと、彼女は私を信用した。少しは友達として仲が良くなったのだろうか。ふふ、可愛いじゃないか、素直な君は。私と対峙している隙にほむらは時間停止を駆使してこの場を抜ける。それで良い、なすべきことをなすのだよ。

 私はしばらく影と、お互い動かずに対峙していた。相手は私の何かを窺っているようだった。どうも切り出すタイミングを見ているようには見えない。

 

 それならば、私から仕掛けるか。落葉を分離させ、威圧する。その時だった。

 

 

 影が、フードを脱いだのだ。

 

 

「……実に、不愉快だね」

 

 

 その影の顔。それは、私自身。なるほど、ワルプルギスめ。私の意志を感じてコピーしたとでもいうのだろう。最大戦力だからだろうね。光栄に思えとでもいうのだろうか。

 

 

 いや、違う。そんな単純な事ではない。もっと何か、大切なことを私は忘れている。あの影は、ただの影じゃない。何か意志を、いや遺志を感じるのだ。懐かしい、どこかに置き忘れて来た遺志を。

 

 

 

「ずっと、私は君を待っていたよ」

 

 

 

 影が口を開く。私の顔で、しかしその顔に愛を滲ませながら。

 

「……何の話かな」

 

「忘れていても無理はない。何万マイルも遠い、御伽噺のようなものだ。それで良いのだ、リリィ」

 

 私が唯一覚えている、私の名を影は呼ぶ。やはり私は彼女を知っていた。

 

「貴公は、一体」

 

「その啓蒙で、瞳で。感じているはずだ。君は愚かではない。ならば、言葉は不要なのだろう。君は闇で、同時に私も闇だ。呪いであり、私も呪いだ。だが、最早その毛色は異なる。血を力に変える君ならば分かるだろう。同様に私も、魂を力に変えるのだから。得た遺志を遡れば、お互いの齟齬は解決するはずだ」

 

 影は言い切って、剣を構える。酷くあの剣にも見覚えがある。いやそれだけではない。その重み、切れ味。全ての感触を覚えている。

 私も同様に、落葉を構える。狩人に言葉は不要であると、彼女は言ったのだから。その通りなのだ。私は狩人で、分からぬ事があれば相手の血の遺志を奪って知識とすれば良い。それだけで良いのだ。

 

「お互いに、死力を尽くそう。最期なのだから」

 

 影が向かってくる。私は言葉を封じ、ただ相手を狩殺すためだけに意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焼け野原なんてものではない。そこは、一方的に爆撃されてリセットされた更地。織莉子が見せた彼方への呼びかけは、周辺数百メートルを消し去ってみせた。きっと避難に遅れた人間など、痛みを感じる間もなく死んだに違いない。

 そんな中、生きているといえば異形の存在と成り果てた魔法少女くらいだろうか。それと、それらを影で使役する上位者。

 なぎさとキュゥべぇは辛うじて生きていた。だが無傷という事はあり得ない。なぎさの指はちぎれかけ、全身を火傷と裂傷が襲い、もはや動かぬ。キュゥべぇの方も生きているというだけで反応が無い。ほぼ動かぬ身体で、何とか逃げようとするもやって来た気配を前に動きを止めた。

 

「やはり、宇宙は私を見捨てなかった」

 

 恍惚とした表情で、空を見上げる織莉子がそこにはいた。呼び寄せた隕石が片腕をもぎ、破片で身体を貫かれようとも彼女は歓喜に震えている。

 だが、悲しい事だ。そもそもやってくる隕石とは、交信が失敗であるという証。織莉子は宇宙に拒絶され、しかしそれを理解せぬまま喜ぶのだから。

 なぎさは改めて目の前の魔法少女に恐怖した。元よりこの魔法少女に理性などない。自らが犠牲になろうとも、誰が死のうともあの上位者もどきのために献身を尽くすのだ。恩などない、ただ自然に。

 

 

「さぁ……聖女様の下へ参らなければ」

 

 

 織莉子は残った腕でキュゥべぇを掴み上げると、その場を立ち去ろうとした。そんな彼女の足に、絡みつく小さな手。

 

「マ、リアの、邪魔は、させないのです」

 

 歯を食いしばり、なぎさは織莉子の足首を掴む。そんな幼子を、織莉子は冷めた目で見下ろした。そして、腕を振り解くとなぎさの頭を踏む。虫を潰すように、ぐりぐりと幼子の頭を踏みつける。

 

「忌々しい聖女様の敵。でも、その意志だけは認めましょう」

 

 足を離すと、ボロボロになったなぎさの顔がこちらを向いていた。負けても尚、闘志だけは捨てていなかった。そして切り札も。

 織莉子を見上げるなぎさの瞳から、眩い小さな隕石が飛び出る。突然の攻撃に、解除された未来予知を持ちながらも対抗できなかった。織莉子は容易に左目を貫かれ、悶絶する。

 

「ぐ、ああああああああッ!このちっぽけなガキがッ」

 

 一矢報いて不敵な笑みを浮かべるなぎさの背中を、織莉子は容赦無くレーザーで貫いた。失った瞳から流れる血が、なぎさの血と混ざり合う。

 なぎさの命が消えていく。それは、痛ましく苦しい事であるが。当の本人はそれほど悲観はしていなかった。自分が死ねば、その遺志は必ずマリアへと届けられる。それはとても、救いのある話だ。

 それで良い。自身は一度、死んだも同然なのだから。運命に従ったに過ぎない。それよりも使命を果たせずに死ぬことの方が辛いのだ。

 

 なぎさのソウルジェムが砕ける。だが、魂が消えても彼女の勝ち誇る笑みは消えなかった。

 

「あひ、ひひひ!ひひひひひ!やった!聖女様、私はやりました!白い害獣を奪って、敵を屠ってみせました!あひゃ!あひゃっひゃ!私はやったんだァーッ!!!!!!」

 

 後には織莉子の絶叫が響くのみ。それも嵐の音に掻き消され。すべては夢に沈んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤーナムとは、実に奇怪な場所だ。これ程までに医療が進み街が発展しているというのにも関わらず、人々は閉鎖的で余所余所しい。他所から来た少女を見れば罵倒こそしないが、まるで腫れ物を見るような目で彼女を見つめた。無論、魔法少女として世界を放浪していた彼女はこれしきの事は慣れている。

 それにしても、先程も思ったが実に面妖である。このヤーナムという土地は。血の医療という怪しげであるが確実な医術と、医療教会という医療を施すための宗教が一体化しているのだ。通常であれば宗教と学術の最先端である医療は反目し合う。それはどこの国でもそうである常識だ。

 これほどまでに宗教と学術が融合するとは、正に神秘。少女は住人達の気質を除けば、このヤーナムという街がいかに優れた場所であるかということを悟る。

 

 どうやら血の医療を受けに来る異邦人は度々いるようだ。怪しげだが医療教会の者と自称する男は少女を受け入れた。そして自らに募る呪いの事を簡易的に説明すれば、それすらも容易く治るのだと豪語する。

 にわかには信じられない事だった。これまで散々放浪し、その欠片すら見つけられなかった治療法が、ここにはあるのだと、この男は言うではないか。嘘ではないのだろう、今まで数多の詐欺師を見てきたが、この男はそのどれとも合わぬ自信と確信を抱いている。

 

 得体の知れない血を輸血するのは抵抗があるが、それでもこの呪いを解くためにできる事があるのならばと、少女は男の後について行く。

 まだ昼だというのに、ヤーナムの街はどうにも薄暗い。ジメジメと、嫌な空気だけが彼女の肌に纏わりついていた。

 

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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