魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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I Never Lost Control
千景


 

 

 

 

 経験、知識、能力、技術。概ね、狩人が戦いにおいて必要なものといったらこの辺りだろう。もちろんこの四つも更に細分化される事に注意しながら考えねばならない。経験一つ取っても戦いの経験、日々の経験など枚挙にいとまがない。技術にしても、剣技と銃の取り扱いではまるで違うだろう。

 自慢するわけではないが、かつてヤーナムにおいて私は幾度もの夜を繰り返した。その中でこの四つの狩りに必要な事項はすべて得たと言っても過言ではないだろう。

 そう、決して自慢では無い。これは客観的判断における事実なのだ。それほどの戦いを繰り返してきた、という裏付け。

 

 その点、魔法少女という存在はこの四大要素の内、経験が劣るという事が挙げられる。理由は、彼女達の若さと魔法少女の寿命の短さだろう。

 この見滝原において絶対的なベテランである巴マミでさえも、年数にしてしまえば魔法少女歴5年程度である。もっとも、5年という時間は少女という限られた年代の中であれば十分長いのだが。そしてマミ曰く、その5年の中で彼女以上に生き延びた魔法少女を見た事がないそうだ。故に、いくら能力や技術、そして戦闘に関する知識があろうとも経験が育たない。さやかにしても……彼女は良い狩人で、そして魔法少女であるにも関わらず一ヶ月もしないうちにその遺志を恭介に託してしまった。

 

 それであるならば、目の前の魔法少女の影は異様であると言えよう。こんなにも戦いに精通し、能力こそは高くはないが技術と経験に優れた者はヤーナムにおいても数少ないだろう。

 

 

 音速を優に超える落葉の連撃を影はすべて回避してみせた。私が誇る、技量特化の連撃。それは悪夢で狩りに酔いしれる古狩人ですら防ぎ切ることは難しい。あのゲールマンやマリアお姉様ですら浅く傷を負わせられる程の一撃だ。

 私は驚かず、牽制のために使い捨てのナイフを数本纏めて投げる。それらを的確に剣で斬り捨てると、今度は影の方が攻めてくる。

 速度は、正直に言って遅い。基本的には魔法少女の域を出ないだろう。神速と言ってもいいゲールマンの動きに比べれば目で追えるのだから。

 

「ッ!」

 

 だが、そんな事は彼女にもわかっている。だから普通には攻めてこない。クロスボウを放ちながら間合いを詰め、剣で手数を稼ぎながら合間に投げナイフを投げて来る。これではいくら剣技に優れようとも反撃の隙が無いのだ。

 かなり慣れている。きっとこの影の持ち主は、幾度となく自分よりも格上の相手と戦ってきたのだろう。まるで上位者や獣に挑む我々の如く。

 

 ステップを交えてそれらを捌くと、私は手元に蛞蝓を呼び寄せて獣の咆哮を放つ。私の喉元から放たれる咆哮は、圧を持って相手を弾き飛ばすものだ。しかし影はそれを察したのか、影はローリングで勢い良く距離を取った。お返しと言わんばかりに着地した姿勢でこちらにクロスボウを構えている。

 

 刹那、影から放たれた矢が私目掛けて飛んでくる。装填もせずに撃てるあの矢は、やはり魔力によって精製されているのだろう。隙だらけの私は仕方なくそれを斬り払う。落葉を伝って、魔法の神秘にも似たちくちくとした痺れが腕を刺激した。

 だがここで終わりではない。私は身体から溢れ出る神秘を用いて加速し、影に肉薄する。まだ影はローリング後で膝をついている状態だ。そんな影に、両手の落葉で回転攻撃(変形L2)を見舞う。

 この攻撃こそ落葉の脅威だろう。マリアお姉様が用いる失われた落葉とは異なり、私の落葉は血による神秘を伴わない。故に純粋な技術特化型の獣狩りの武器であり、私の技術が重なれば脅威的な速度と攻撃によって敵はバラバラに事切れる。今まで幾度となく狩人や獣に対して用いてきた技だ。

 

「読めたぞ」

 

 影が、不敵に笑う。刹那、私の初撃をいつのまにか手にしていた短剣で弾いてみせたのだ。古の時代、まだ獣狩りという言葉すら無い時代に用いられていたパリィと呼ばれる業だ。一度私も見せただろう。単純に、相手の攻撃を弾くのみ。だがその恐ろしさたるや。しかしそれはヤーナムの狩人においては一般的では無い。なぜなら相手は大概自らよりも筋力で勝る獣であるし、そもそも接近して危険を冒してまでパリィするよりも銃撃で相手を崩した方が容易いからだ。

 パリィによって強制的に攻撃を弾かれた私はバランスを崩した。

 

「一本、取った」

 

 空いた胴に、影は剣を突き刺す。鋭い剣は容易に私の肉を裂き、内蔵を貫いた。吐血する私を、影は蹴り飛ばす事で引き離した。

 蹴り飛ばされた私は落葉を杖に立ち上がる。影は追撃せずに、そんな私を眺めていた。至極満足そうな表情で。それが私の顔なのだから、なんとも憎たらしい。

 

「出し惜しみは良く無いよ、君」

 

 影はそんなふうに、まるで私が魔法少女の諸君らに助言するように言ってみせた。私は輸血せずに流れ出る血と寄生虫を筋力で塞き止めると血を吐き捨てて笑った。

 

「何を言う。君もまた、全力で来ると良い。今のはほんの小手調べだ。なるほど、私を模しているだけあってやはり君は手強い狩人だ……ただの影と侮ってはならんな」

 

 獣血の丸薬を飲み込む。今の一撃で「彼女」の強さは身に染みた。どうやら狩人として本気を出さなければなるまい。生半可に挑むのは相手にも私にも誉がないだろうし。

 

「まだそんな事を言う。まぁ良い、それもまた、君の意志なのだろうからね」

 

 呆れたように言うと、影は直剣を霧に帰し、代わりの武器を精製してみせた。その姿はまるで夢を知る狩人の如く。だが方法はもっと根源に近いものだろう。

 取り出したのは大剣。クレイモアとでも呼べば良い、ルドウイークの聖剣よりも少し小さい何の変哲もない剣だ。

 対抗し、私も落葉を連結させて左手にエヴェリンを握る。そして勢い良く落葉を腰のポーチにマウントさせてあった雷光ヤスリに擦り付けた。

 黒獣由来の雷が落葉に宿る。聖杯にて幾度も用いたものだ。

 

「これは私が啓蒙された程度に過ぎないが」

 

 お互いに距離を取りながら、円形にゆっくりと回る。間合いを確かめるように、いつでも詰められるように。さながら西部劇と呼ばれる決闘のように。

 

「君を狩り、その遺志を拾えばはっきりとするはずだ。君が何者なのか、その存在の理由が」

 

 右手に隠していた精霊に神秘を灯す。すると私の頭上に暗黒の宇宙が出現し、数多の星々(彼方への呼びかけ)が影に飛来していくのだ。私はそれに乗じて加速しながら突撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミという魔法少女は非常に強い。これは比喩でも何でもなく、ただひたすらに溢れ出る素質と因果、そして培ってきた経験と知識がそうさせるのだ。

 生き延びたいという意志が彼女に力を齎し、本来の弱い心はベテランであるという自負と戦いの優雅さでひたすらに隠してきた。そうしなければ彼女は生き残れなかったのだろう。

 だが、今のマミは昔の心弱き少女ではない。守りたいものがあり、依存先とでも呼べるものがある。それは紛れもなく私、百合の狩人であり、マミの後輩達だろう。故に彼女は心折れぬ。ただ戦いの中であれば。それはかつての聖剣のように。

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

 

 マミの詠唱と共に彼女を囲っていた影共が無数のリボンによって拘束された。これこそマミの本来の武器。あとはマミに狩られるのみだ。

 

「パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!」

 

 やたらと長い技名を言い終えれば、マミの周囲には無数のマスケット銃がずらりと並び、その銃口はすべて拘束した影に向けられていた。

 無数の撃鉄が降り、魔力を供した火薬が点火すれば最早逃れる術はない。影達は須く彼女の魔弾に貫かれ、霧と化す。そしてそうなれば新たな影が彼女の下へと群がるのだ。それを、マミはかれこれ1時間は繰り返していた。

 

「キリがないわね」

 

 そう言いつつも無傷のマミはさすがベテランの魔法少女だろう。やはり支えを手に入れ油断をしない彼女は天下無敵。いつか来る神浜での戦いでも、きっと相手の街の魔法少女連中から見滝原のやべーやつと言われるに違いない。かくいう私もやたらめったに侵入していた時は百合のやべーやつと狩人の間では制裁神と共に話題に上がっていたらしい。

 マミの戦いは一方的だ。燃費に優れている事に加え、その素質は最上級。一発でもマスケットが当たればいくらワルプルギスの夜の使い魔である影でさえ霧に還る。

 だがそれでも、無限に戦えるわけではない。魔力とは有限だ。そして魔力が無くなれば、自身も敵の一味と化す。

 

「暁美さん、急いで……!あんまり長くは持たないわよ……!」

 

 マミは新たに迫る影共を打ち滅ぼす。相手の数は無尽蔵で油断ならない。

 

 だが、その時。先ほどから何度かしていた鐘の音が、また聞こえた。

 

 それと同時に、何かに怯えた様に影共の動きが止まる。何が起きているか分からないが、これ幸いとばかりにマミは目に見える影全てにマスケット銃を一斉発射する。

 影共はそれで打ち滅ぼされた。今の所は。だが今までの様に新たな増援が来ないのだ。一旦マミは地上に降り立ち、周辺を確認する。

 

 嵐が吹き荒れる中、誰もいない。さすがに遠くでは仲間達が戦っているだろうが、それにしては不自然なほどなにも聞こえないし感じない。

 

「何なの……」

 

 得体の知れない恐怖が彼女を包む。

 

 

 

 ガシャリ。

 

 

 そんな、金属が擦れる様な音が聞こえた。そんなに遠くはない。彼女の背後で。条件反射に近い。振り向き様にマスケット銃を構えると。それは、確かにそこにいた。

 無言で、ただマミに歩み寄ってくる。わずかばかりの気品が見て取れる金属の鎧。その上から意匠の凝った服を身につける姿は騎士に近い。だがそれよりも目を引くのは、まるでカラスのようなヘルムだろう。表情も、目も見えないそのヘルムに身を包む者。

 その者は右手に悍しい何かを宿した刀を携え。左手には彼女が依存する百合の狩人と同じく女性の名を冠した短銃が握られている。

 

 

 敵対者 カインの流血鴉 がやってきました

 

 

 そんな言葉が、宇宙から啓蒙された。そうなれば、嫌でも突然の来訪者が敵であると分かってしまう。

 

「何者かしら……人間?いえ……」

 

 狩人。啓蒙されるよりも早く、その事実にたどり着く。そして流血鴉が何か骨のような物を砕くのと同時に、その姿が視界から消える。

 

 

「えぅ!?」

 

 

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。それは正しく、長い魔法少女生活の中で得られた経験だったのだろう。まるでブリッジするようにマミは身体を逸らした。刹那、あの流血鴉が目の前で刀を振っていた。恐るべき速度で奴は迫り、刀を振るった。それだけの事だ。

 マミは仰け反った姿勢から、流れるように銃撃してみせる。だが鴉はそれすらも神速のステップで躱してみせたのだ。すぐ様マミは姿勢を整えると、対峙するために銃を構える。

 

「ッ!」

 

 その時には既に流血鴉の姿は見えず。ただ真横からの気配を頼りにマミは横にローリングして一撃を躱す。ローリングからの復帰様にすぐに反撃しようにも、今度は流血鴉の短銃が彼女を捉えていた。

 放たれる弾丸の速度は、音速を超える。骨髄の灰によって上乗せされた威力のある水銀弾はマミを一撃で葬るには十分だった。避けきれないと瞬時に判断したマミは、ほぼ条件反射でマスケット銃で弾丸を受ける。

 

「くっ!」

 

 だが骨髄の灰を重ねた弾丸はそれでは止まらない。集中力により遅まる時間の中でマミは弾丸受け流すようにマスケット銃を振るった。きっとあのまま受け切っていたのならばマスケット銃を貫通し、マミの心臓を貫いていただろう。

 辛うじて弾道が逸れた水銀弾は、マミの右腕を掠るのみ。だが掠っただけで、マミの腕から多量の出血が齎された。それ程までに、血質と骨髄の灰によって強化された水銀弾は恐ろしい。

 

 すかさずカインの流血鴉はマミを仕留めるべく加速する。鞘に納めた刀を勢いよく抜けば、それは血の刃を伴ってマミに襲い掛かった。

 これこそカインハーストの呪われた刀、千景の脅威。その刃に自らの血を這わせる事により、その血すらも刃となるのだ。代償は、その者の生命力。徐々に身体を蝕むその代償は、しかし勝利の為には必要な犠牲。

 

 流石のマミも、直撃は免れたが血によるリーチの長い攻撃は予測できなかった。低い斬撃は彼女の美しい太腿の表面を斬りつける。

 

「痛ったぁ……!」

 

 だが、この千景の恐るべき真価はそれだけではない。

 後ろに下がったマミは、不意に視界が揺らぐ。まるで高熱が出た時のような具合の悪さに思考が纏まらなくなった。そして啓蒙されるのだ。あの刀の悍ましさを。

 

「毒……!そういう搦手は女の子に嫌われるわよ!」

 

 魔力を用いて毒を少しばかり抑え、マミは反撃に出る。逃げながら、その経路上にマスケット銃を配置した。

 追いかけてくる流血鴉を逃げながらにして銃撃する。どうやら先ほどの遺骨の効果は切れたようで、脅威的な速度では追ってこないが、それでも魔法少女に追い縋るその姿は悪魔と言っても過言ではない。

 それよりも、毒の方が深刻だ。ゆっくりと、確実にあの千景によって受けた毒が彼女の身体を蝕んでいた。どんどん血が腐っていくような、そんな感覚に陥る。

 

「長引かせるのは……良くないわね」

 

 一気に跳躍すると、マミはビルを蹴って高度を上げていく。流石の流血鴉もそこまでの芸当はできない。そして、一気に反転した。ここで仕留める。

 より一層、大きなマスケット銃が現れてマミの肩に担がれる。それはマミが最も得意とする火力による蹂躙の象徴。

 

「決めさせてもらうわ!」

 

 魔力が砲塔に集まる。それは必殺の一撃。幼きマミが朝まで考えてようやく名付けた必殺技。

 

「ティロ、フィナーレッ!」

 

 流血鴉は逃げようにも、その魔力の奔流と呼ぶべき一撃から逃れられぬ。青白い魔力の束は、容易に鴉を飲み込んで見せた。その直前、手袋を懐から取り出し。

 

 

 轟音と光が辺りを包む。それは間違いなく勝利を齎す一撃だった。そして、油断とはいつも勝利の間際に齎されるもの。まだ少女であるマミは慢心を捨て切れない。

 安堵が心を満たし、次の事を考えながら落下していた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゔぁぁあああああああああッ

 

 

 

 

 

 

 

 悍しい、髑髏のような何かが着弾地点から迫ってきた。出来の悪いホラーのようなそれは、確実にマミを狙ってきている。

 心臓が一気に跳ね上がった。元より少女とは怖いものが苦手だ。マミも勇ましいが、夏の夜にテレビで放映される心霊特番などを見ようものならキュゥべぇを抱かずに寝られない。きっと戦いでなければ声をあげていただろう。

 咄嗟に腕を交差させて防御するも、それは秘儀。神秘により齎された物理を無視した攻撃なのだ。マミはその怨霊共に身を打ち付けられ、無様に落下した。

 

「あがッ!うっ、ああ……」

 

 狩人ならば死ぬような高所からの落下でも死なないのは流石魔法少女だろう。しかしダメージは深刻だった。流血鴉が放った秘儀、処刑人の手袋から溢れ出た怨霊の一撃は彼女の無垢な身体をズタボロにしてみせた。最早手足は動かない。いくつかの内臓も、そして肺も潰れている。おまけに毒が彼女の残った内臓すらも傷つけていた。

 

 そして、マミは見たくもない光景を見る事となる。それは、依然として立ち上がる流血鴉の姿だった。その身を大砲で焼かれながらも、その身に宿す怨嗟で辛うじて耐えているのだ。そして自らに輸血液を突き刺せば、その傷は癒えた。

 その後の行動は決まっている。マミを仕留めるのだ。

 

「う、あ、あ」

 

 ろくに声が出せないマミに迫る流血鴉。ゆっくりと、弄ぶように。

 

 

 

 けれど。けれどね。私が、この狩人の最上を征くこの私が、マミを死なせるはずもないだろう?

 

 

 

 

 

 ━━鐘の共鳴により、烏羽の狩人、アイリーン がやってきました。

 

 

 

 

 

 

「言ったはずさね。あんたは私の獲物だってね」

 

 

 一羽の烏が舞う。それは何処までも黒く、そして慈悲に溢れている。

 油断とはやはり狩人もするものだ。このカインの流血鴉も例外ではない。一瞬の油断が、異界にやってきた彼の運命を決めた。狩人狩りの烏はあっという間に流血鴉の背後を取ると、重い一撃を無防備な背中に打ち込む。

 

 あっさりと、流血鴉は片膝をついてみせた。となれば、後は。

 

「葬送ってやつさ。今度は私の手でね」

 

 狩人狩りアイリーンは右腕で流血鴉の胴を貫くと、彼の内臓を掴み取り引き裂いた。それで、終わり。あれだけ大聖堂で苦戦したあの相手を、不意打ちと言えどアイリーンは一撃で屠ってみせたのだ。

 死に至った狩人は夢に帰るのみ。そしてカインの流血鴉も例外無く生まれ出た悪夢へと帰って行くのだ。

 

 アイリーンは慈悲の刃の血を拭うと、仮面越しに平伏したマミを眺めた。

 

「酷い格好じゃないかまったく。ほら、これを飲みな」

 

 そう言ってアイリーンは手にした白い丸薬をマミに無理矢理飲ませる。敵ではないとは分かっていても、得体の知れぬものを飲むのは少しばかり抵抗があったのだろう。そしてそれを飲めばあっさり毒は治った……しかし身体の傷はそうはいかない。

 

「参ったね……あたしゃ狩人以外の治し方なんて知らないよ」

 

 マミは狩人ではない。もっと言えば、血の医療を施されていない。血に寄生虫を宿さぬ身では、輸血液は単に毒となり得る。

 だが心配は要らぬ。私がアイリーンを寄越したように、彼もまた娘の友である少女達を見守っていたのだ。

 

 煌びやかな魔法陣がマミを中心に広がる。アイリーンは警戒し飛び退いて、気配を感じた。それは遠く、ビルの上。そこには一人の男が杖のような何かを掲げている。

 

「あ、あれ……傷が」

 

 すると、あれだけの酷い傷が治っていく。それは神秘から齎される秘儀にも似た、しかしもっと古い時代の奇跡だ。アイリーンはため息をつきながら、聞こえもしないのに呆れた声で言う。

 

「娘が娘なら、父親もまぁお節介だね」

 

 父はマミの無事を見送ると、背を向けてその場を去る。それは隠せない父性が見せた奇跡。火の時代からの神話の賜物。太陽の光の癒し。

 マミは立ち上がると、助けてくれた恩人に語りかける。

 

「あの、助かりました……貴女も……狩人?」

 

「そうさね。あの若造に頭を下げられちゃあ、私も出るしかなかったんだよ」

 

 要領を得ない回答に、マミは訝しみながらもアイリーンが百合の狩人が差し向けた応援である事を理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織莉子は、一人歩くまどかの下へと辿り着くと片腕で戦利品を献上した。跪き、まるで王に捧げるように。くたびれた白い上位者もどきを与えた。

 まどかは織莉子の手を包み込むようにキュゥべぇを受け取ると、彼女の身体を抱きしめる。慈悲に溢れ、すべての魔法少女を愛する少女の抱擁は、織莉子という救われぬ者にとって最上の喜びだった。

 

「ありがとう、織莉子さん。ごめんね、腕、痛いよね」

 

 そしてそんな聖女が、自らの身を案じてくれている。それだけで達そうになった織莉子だが、理性を保って片目だけでまどかを見上げた。

 

「これも、魔法少女と世界のためなのです」

 

 そこに嘘偽りは無い。ただひたすらに、彼女は従者であり続けた。犠牲を出そうとも、それはコラテラルダメージに過ぎない。必要な犠牲だ。殺した名も知れぬ魔法少女も、百江なぎさもそうなのだ。

 まどかが行う事に比べれば、些細な事だ。その後、すべてが救われるのだから。

 

 まどかは織莉子から離れると、その胸に未だ動かぬ上位者を抱き命じる。

 

「キリカさんの所に行ってあげて。きっと待ってるから」

 

「はい……お気をつけて、聖女様」

 

 ふらふらと、まるで操られたように千鳥足で立ち去る織莉子を背に。まどかは進む。

 未だ終わらぬ戦地へと。彼女が求める世界のために。それはきっと、美しく、救いのあるものだから。

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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