魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

39 / 61
最後の宇宙で漂うまどかとほむらが裸なので興奮しました(台無し)


獣狩り

 

 

 

 因果律の特異点。数多の世界の運命を束ねた選ばれし少女。そしてその少女は願う。無限の可能性を一つに集約し、白き上位者、宇宙の監視者に。

 もしその願いが叶うのならば、最早魔法少女という枠などに収まるはずも無い。強欲で、愛に塗れた唯一の神。火を継いだ神々や宇宙の暗黒に潜む者共など取るに足りない唯一無二。最初の死者でさえも、混沌の魔女達でさえも、そして薪の王でさえも。

 ただ、赤子に等しい。

 

「君は、本当に神になるつもりかい?」

 

 故に問う。その腕に抱えられ、人間性を宿した失敗作は未だ潰えぬ赤い瞳を少女に向けた。そして少女は強い意志で頷いて見せる。そこにかつての弱々しい鹿目まどかなど存在せず。今あるのは瞳を宿し、上位者となるべく存在。

 マミは狩人から与えられた僅かな啓蒙で、彼女が為そうとしている事を感じ取る。それは最早、直感に近い。

 

「鹿目さん……そうなれば、貴女はきっと人でいられなくなるわ。大切な家族にも、誰にも会うこともできず、一人宇宙を彷徨うのよ?」

 

 因果律への反逆。それすらも彼女には容易い。縛る物など何もない。ただ彼女は素質と瞳故に至上へと到達するのみなのだ。

 

「私はトム少佐じゃありません。宇宙に魅了されて帰還できなくなる事はないんです、マミさん。私は、宇宙そのものになるんです。魔法少女の愛を受けて」

 

 最早後には退かない。だが長年の友として、仁美だけは。それでも問わねばならなかった。今は亡きさやかの遺志を代理して。

 

「鹿目さん」

 

 傷付き、しかしその意志を明確に保つ魔法少女は問う。

 

「白百合さんもまた、魔法少女を救済しようとしています。ならその役目は彼女に任せてもいいのではありませんか?」

 

 分かってはいた。一度は魔女となり、人の領域から外れたからこそ見えるものもある。そして彼女は、愛を知っている。二人の少女が一人の男に想いを寄せるという事が、何を齎すのかも気付いている。

 まどかはその質問の意図を理解した上で、答える。

 

「私、マリアちゃんに感謝しなくちゃ。こんなにも魔法少女って美しかったんだって。奇跡を起こして絶望して、それでも根本にあるのは願いなの。私はね、仁美ちゃん。魔法少女達すべてが欲しいの」

 

 そしてやはり、彼女は狩人の敵だ。まどかの思考は尽く上位者らしい。上位者とは本来常に、狩人の敵である。ならば上条恭介の敵でもある。

 恭介は獣とその仲間共に容赦はしない。例えそれがかつての友であろうとも。むしろ獣やそれ以外に堕ちたのならば葬らなくてはならないのだ。

 まだ間に合う内に。それが葬送。

 

 恭介は有無を言わさず聖剣で斬りかかる。まどかの願いは、きっとさやかが祈る導きではない。それくらい鈍感な彼にも分かっている。そしてこのまま野放しにすれば何れ彼の大切な少女の魂でさえまどかに奪われ、その愛も取り払われてしまうのだと。

 

 だが彼は忘れている。鹿目まどかが瞳を得た遠因を。だから、時は止まる。

 

「まどかの邪魔はさせない」

 

 つい数刻前まで歓喜と絶望を味わっていた少女が、動いた。暁美ほむらと鹿目まどか以外の全てが止まる時の中で、彼女は軍用の散弾銃を取り出しその薬室とシェルチューブの中に弾薬を装填していく。

 12ゲージスラッグ弾。細かい散弾を撃ち出すのでは無く、大きな一発の弾頭を発射するクマ撃ち用の弾薬。それを8発すべて入れて上条恭介に向けて引き金を引く。

 轟音のような発射音と共に、スラッグ弾が目の前に滞空する。フォアエンドを引き排莢、フォアエンドを前進し装填、そして撃発。その動作を8回繰り返す。

 

 恭介の眼前には今まさに迫らんとするスラッグ弾が滞空している。それを見届ける事なく、まずは散弾銃を捨てて振り返り、最愛の友を抱きしめた。

 

「まどか……後悔は、無いのね?」

 

 耳元で囁くと、まどかは返答せずほむらを抱きしめ返す。

 

「いつか、きっと。ほむらちゃんも迎えに来るよ。だからそれまで私への愛を忘れないでね?こう見えても私、嫉妬深いんだから」

 

 しばらく口づけを交わすと、ほむらは無理な笑顔でまどかから離れる。それは一瞬の事。また敵対者へと向き直り、その貌を冷徹な氷のように変えてしまうと盾を作動させた。

 これで良いのだと、ほむらは無理に納得するしかない。本当ならばまどかを魔法少女に、否。神になどさせたくはないが。愛には抗えない。ほむらの人間性が叫ぶ。自らの愛をまどかという深淵に差し出せと。だから、そうするのだ。

 

 

 

 

 

 

 恭介の胸に穴が空く。熊をも仕留めるエネルギーは少年を少女達の下へと吹き飛ばすには十分すぎた。血や臓物を撒き散らして無残に吹き飛ぶ少年を、訳も分からず少女達は見ていることしかできない。

 

「上条くんっ!」

 

 仁美は叫び恭介へと駆け寄るが、彼はと言えば動かぬ身体を起き上がらせ、血涙を流しながら鹿目まどかを指差した。

 

「か、彼女を、止め、なければ、みんなが」

 

 しかし狩人とて人の子。その血に呪いを宿した所で死には抗えぬ。恭介はそのまま力尽きると霧散してしまった。それは単純な死ではない。ただ夢へと還るだけ。悲惨な思い出は悪夢のせいにしてしまえば良い。

 

 

YOU DIED

 

 

 けれど今は、そうとも言えぬ。恭介の言う通り、まどかはさやかや仁美が恭介に向ける愛すらも奪おうと言うのだから。

 

「鹿目さん、貴女はそうまでして愛を独占したいのですか!?」

 

 仁美の問いに、まどかは微笑む。

 

「愛って、素晴らしいよね」

 

 狂気とは、彼女の為にある。ただ狂い暴れるだけならば誰にでもできる。人を殺す事さえも容易い。

 しかし須く愛を奪うなどと。そんな事、誰にでもできる訳がない。だからキュゥべぇには分からないだろう。彼女が真に為そうとしている事が。

 

「それが、君の願いだね」

 

 どこからか現れたキュゥべぇの群れに、流石の巴マミですら寒気を覚えた。彼らはまどかとほむらを囲み、少女の願いを叶えようとしている。

 その中心で、まどかは失敗作を手放し両腕を広げた。その姿は、全てを手に入れんと翼を広げる神。そして愛という名の欲望を曝け出す人間性の塊。

 

 

「今まで戦ってきた魔法少女達を、絶望の淵に追いやりたくない。私は、みんなを、救う。希望に溢れ、絶望に満ち、それでも愛は全てを救う。私は上位者を超え、神すらも超える!さぁ、叶えてよインキュベーター!」

 

 

 光が、迸る。その光は彼女を飲み込み柱となり、吹き荒れ、嵐を超える。この世のすべてが、それこそ宇宙でさえも彼女に飲み込まれる。

 これこそ宇宙の創生。神の誕生。愛を知らぬインキュベーターはそれを理解できず、手を貸してしまった。彼らを超えた存在を生み出してしまった。天使ではない。しかし悪魔でもない。彼らはただ、宇宙の為に、宇宙を創り変えてしまった。

 

 

 ほむらはその誕生を、祈るように真近で眺めていた。これは彼女が愛した少女の死。しかし終わりではない。絶望の先に見出した、新たなる希望。暁美ほむらという少女は、実に狂信者である。まどかの救済を心から信じ、すべての魔法少女はまどかという神に救われるのだと考えている。

 

 無数の暖かい矢が放たれる。暗い人間性を宿した矢が。それは次元を超えるのだ。もちろん、「私」のいた世界にさえもその矢は届いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀の世界などと形容は出来ない。雪はただ、今の私にとって命の輝きを吸い取るだけのものに過ぎない。傷から流れ出た血が雪に染み、ゆっくりとこの大地を赤く染めていく。その血は私だけではない。この雪原を埋め尽くすくらいの魔法少女達の骸も、また。

 

 傷付き、失いながらも敵対する数多の魔法少女を討ち滅ぼした。友を守る為に。自らの命を繋ぐ為に。

 そして魔法少女が希望を産むのであれば、その対価は重いのだ。希望はいつか絶望へと変わる。それは必然なのだろう。私達は敵を倒したが、ソウルジェムの濁りは最早どうにもならない。

 

「ここで、お別れだ」

 

 共に動けぬ状態で、最愛の友が呟く。痛む身体に鞭を打って、私はその友に寄り添った。

 愛するその人を、少女を。私に魔法少女のすべてを教えてくれた愛しき人を看取りたくて。

 

「そんな、悲しい事……言わないで」

 

 私は暖かい涙で顔を歪めながら友の手を取る。その手には、確かに彼女のソウルジェムが握られていた。命を現す、その宝石が。

 友は美しい金髪を自らの血に混ぜながらも、もう片方の手を私の頬に添わせる。感じられる脈拍は弱い。それもそのはずだ、彼女の胸から下は既に失われているのだから。生きている方が不思議だ。

 

 戦いに不向きな私を守る為に、敵の魔法少女の攻撃から私を庇って空いた穴。本来死ぬべきは私だったのだ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 腕を抱きしめて謝ってももう遅い。彼女の身体を治せるだけの魔力は私にはもう無い。他の魔法少女は皆戦いで死んだのだ。残りは私達だけ。でも、自らを消費してまで彼女の命を繋ぐ勇気も私には無い。

 私は無力だ。無力で、愚かだ。

 

 そんな愚かな私に、友は頼むのだ。

 

「最後の、頼みを……」

 

 そう言って、彼女は濁り切ったソウルジェムを私に託す。それは介錯。魔女となる前に自らを人間らしく死なせてくれとの懇願。

 だが私にはできない。大切な人を殺す勇気なんて、弱虫な私には無いんだ。だからやめて、お願いだから。

 

「できない、できないよ」

 

 更に溢れる涙が彼女の腕を伝う。友はそれでも、笑った。

 

「お前に、殺されるなら……それも良い」

 

 そして、彼女はもう一つ手渡す。きっと最後の最後まで隠し持っていたグリーフシード。まだ使った形跡のないそれは、私のソウルジェムくらいなら容易く浄化できるだろうが。

 幼く、そして愚かな私は分からなかった。それが魂の継承であると言うことが。無知とはなんと罪深いのだろう。

 

「はや、く……もう、ジェムが……黒く……」

 

 手にするソウルジェムの穢れが溢れていく。最早魔女化を止める術など無い。私にできる事は。彼女を殺し魔女にさせない事しかないのだ。

 泣きじゃくりながら左腕の弩の弦を引く。今までの思い出を頭の中で巡らせながら、魔法の矢を装填していく。

 

 そんな私を苦しそうな笑顔で見つめながら、彼女は私に呪いを与える。

 

「あり、がとう。リリィ」

 

 最早私の方が先に魔女と化しそうな程に、私の心は絶望のどん底に落とされていた。しかし友のため、震える手を絞って掌のソウルジェムを狙うのだ。

 

 

 

 あとは、発射するのみ。そのはずだった。

 

 

 

 

 

 ━━頑張ったね。もう苦しまなくて良いんだよ。

 

 

 

 

 

 そんな、美しい少女の声が天から舞い降りたのだ。

 

 私達は今際の際であってもその不思議な声の主を確かめずにはいられなかった。お互いあと一歩の所で天を仰ぐ。どうにも私にはその声が、人間のものでは無いように聞こえたのだ。きっとそれは、目の前で死に瀕する少女とて同じ事だったろう。

 

 天使。否、女神。そう形容するのが正しいのだろうか。万の言葉を充てがっても言い表せないほどに美しい“何か”が、そこにはいたのだ。

 桃色の髪は先端が見えぬほどに、大地を埋め尽くさんばかりに伸び。仕立ての良い純白のドレスは現れた女神を引き立たせる。顔つきも私よりも幼いくらいだが、愛らしく端正である。

 だがそれよりも私を魅了したのは、その瞳に宿す黄金の宇宙。それは神秘に溢れていて、空に浮かぶ月よりも輝き、しかしどこか底知れぬ闇すらも内包しているように見て取れる。

 その瞳は溢れた慈愛。私は彼女の宇宙に、愛を感じていた。

 

 その女神は私達の下に舞い降り、私には目もくれず瀕死の友に添い寄る。

 きっと、この女神は私達の願いを聞き入れてくれ、彼女を治してくれるのだと。私は勝手に妄想していた。生き残りたいという人間性の表れが、この女神をここに導いたのだと。そして、今まで悲惨な目に遭いながらも戦ってきた私達への褒賞なのだと。

 

 

 だが、女神は。

 

 

「ああ……女神が……私を……」

 

 

 友が女神を、私の手を放り出して両手を差し伸べ迎え入れる。彼女の心には最早私という最愛の友は存在しなかった。ただ今目の前にあるのは女神の救済。私は喪失感に苛まれながら、その光景を唖然と見ている事しかできない。

 そのうち女神は友を抱きしめ、その魂を肉体から吸い上げるように昇っていく。気が付けば、ソウルジェムの穢れなどとうに消えていた。あるのは輝きに満ちた友の魂の具現。

 

 この時、初めて。この女神は友を天に連れていくのだと理解した。同時に……これが、啓蒙なのだ。女神の宇宙を覗いた事によって、私は宇宙より思考を齎された。彼女は救済などしていない。私達の愛を、その手で奪い取ろうとしているのだ。

 

 気が付けば私は空に浮かぶ女神に向けて矢を放っていた。

 

「待って!待ってよ!私からその人の愛を取らないで!」

 

 だが女神はそれすらも無視し、彼女に抱擁され惚けている友を拐っていく。最早友の愛は私には向いていなかった。あれだけ愛し合って育んだ愛は、どこぞの女神によって一瞬で奪われたのだ。それは女神の所業ではない。ただの、ただの。

 もう一発、更に一発。私は濁るソウルジェムを無視して矢を放つ。しかしそれらはすべて彼女らをすり抜けていってしまう。

 

貴女は!貴女は女神なんかじゃない!私達の愛を奪ってッ!貴様は獣だッ!死ね!獣は須く死ね!

 

 呪いの言葉をかけていた。あの女神だけではない、友にさえも。私を捨てて、愛を消してしまった友にも。

 

 そこでようやく女神は止まり、私を一瞥した。その瞳には友に向けていた慈愛など存在しない。ただ邪魔な虫を眺めるだけの獣。哀れで、奪われてしまった弱い少女を蔑む女。

 

 ━━やっぱり、貴女はどこまでも狩人だね。

 

 女神はそれだけ言うと消え去る。友の魂と友に、天へと還ってしまった。

 あの女神が言っていた事の真意は分からない。分からないが。愛を、そして友を介錯する役目さえも奪ったあの女神が、憎くて仕方なかった。

 だが私にはもう何もない。ただその場で、下半身の無い友の亡骸に縋って泣き噦るだけの弱虫少女。

 

 心無しか、友の貌は微笑んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。呼んでる」

 

 

 狩人の夢。いつものように薔薇の手入れをしていたこのみが宇宙を見上げて立ち尽くす。それは彼女だけでは無い。同じく百合の狩人に魅入られたあやかも。

 彼女達はつい先ほどまでしていた事柄を全て投げ出し、両手を広げて宇宙と交信し出す。その姿はかつての聖歌隊。しかし明確に言えるのは、彼らとは異なり、魔法少女の成れの果てである二人の語り掛けに、かの女神は答えるであろう。

 

 ゲールマンは渋い表情で車椅子から立ち上がる。

 

「愛弟子よ……些か相手が悪いようだ」

 

 そして愛しい姉である時計塔のマリアでさえも、スマートフォンをテーブルに置いて宇宙を見上げた。しかし交信では無く。ただ不吉な物の訪れを察したに過ぎない。

 

「現世から分断された狩人の夢にさえ干渉するか……」

 

 それは最早、上位者を超えていると。時計塔のマリアは感じるのだ。あの漁村の呪いさえも超える、深い深海の訪れを。トゥメルの血が、人ならざる者の訪れを予期させるのだ。

 

 そしてそれはやって来る。曇り空の夢の奥。遥か彼方、それでいて辿り着けないであろう途方も無い宇宙の底から。

 女神の姿を象った悪夢が、降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 「ここは、どこ?」

 

 因果の輪廻を彷徨う魔法少女、暁美ほむら。彼女は宇宙と過去と未来と今の狭間における神秘的な月面において漂流していた。正しくは、召喚された。

 魔法少女の姿で彼女は目の前に浮かぶ地球を眺める。惑星地球は青く、彼女に出来る事など何も無い。

 

 だが、呼ばれていたのは彼女だけでは無い。白き宇宙の使者、インキュベーターもまた。彼はさも当然のようにこの宇宙を練り歩き、ほむらの側に駆け寄った。

 

「やぁほむら。見てくれあれを」

 

 インキュベーターが示す先。そこには巨大な、太陽すらも飲み込む何かが地球目掛けて飛来していた。

 それは悍しく、しかし暖かく、それでいて冷たい深淵そのもの。膨れ上がった人間性の塊。ソウルジェム。そんな途方も無いものを持つ者は、宇宙広しと言えども一人しかいない。

 鹿目まどか。彼女の最愛の友。

 

「あれは……まどかのソウルジェム?」

 

 疑問を呈すほむらに、インキュベーターは頷いて肯定を示した。

 

「流石に神になると言っていた時は焦ったけど、最後はやっぱり僕らの勝利だ。彼女のソウルジェムはこの世の理を外れてまで穢れを吸い込んだ。いずれ地球へと衝突し、彼女はかつて無い程の規模の魔女となるだろうね」

 

 とても感情が無いとは思えない程に満足したようにインキュベーターは語った。事実、彼らは安堵しているのだろう。長年の悲願であった宇宙の確実な延命が齎されるのだから。他人を顧みず自らの願望を達成するとは、実に上位者らしい。

 

「しかし、宇宙を再編するとはね。こればかりは僕達ですら予測できなかった。まぁ良いけどね。僕達の目的は達せられたんだから」

 

 ああ、と。キュゥべぇは思い出したかのようにほむらに振り返った。その瞳はいつになく赤い。

 

「君もまた、時間を超越した魔法少女だったね。なら資格があるだろう。共に見届けようじゃ無いか、鹿目まどかという少女の結末をね」

 

 悍しいほどに穢れ切った巨大なソウルジェム。

 

「宇宙を変えてしまうほどに強い祈りは、その対価として膨大な……そうだね、宇宙すらも終わらせる程の呪いを生み出すんだ。当然だよね」

 

 宇宙を終わらせるのは彼らの本意では無いはずだ。しかし焦る様子を見せていない所を見るに、彼らインキュベーターには何か策があるのだろうか。それとも、策を弄せずとも対処ができるのか。

 

 だが、そんな事はどうでも良い。今は最愛の友の安否のみが心配だった。

 巨大なソウルジェムは地球に衝突する前に砕け散り、途方も無い量の呪いを撒き散らす。それは地球を飲み込み、ほむらのいる遠く離れた月にすら到達してしまった。

 

 暗く、しかし暖かい狂気がほむらを包む。けたたましい笑い声が脳に直接響いてくる。呪いはいつしか形作り、顔となり、身体となり、魔女となっていた。それはいつか見た救済の魔女。しかしその姿は元のものよりも悍しく巨大だ。

 

「君が鹿目まどかを最強最悪の魔女にしたんだ。見なよ、もう地球上の生物の殆どが死に絶えている」

 

「そんな……まどか……!」

 

 キュゥべぇに言われるまでもなく、ほむらは絶望した。膝をつき、流す事のなかった涙を流す。最早こうなってしまってはどうしようも無かった。為す術は無い。

 

 

 

 ━━ううん、大丈夫。

 

 

 

 

 遥か彼方、宇宙の暗闇から。友が舞い降りる。

 

「まど、か?」

 

 白い装束に、どこまでも伸びる桃色の髪。そして瞳に宇宙を宿した少女は弓を携え、やって来る。

 降臨した女神は一矢を自らのソウルジェムへと向け、語る。

 

「すべての愛を手にするのが私の願い」

 

 強い意志を持つ眼差しがソウルジェムを捉える。

 

「なら、私には━━絶望する理由なんて、無い」

 

 放たれる矢。それは分裂し、地球を覆い尽くす呪いを尽く射抜くのだ。そしてその余波は、月面にいるほむらでさえも。否、すべての宇宙すらも覆い尽くし変えてしまうだろう。

 それが新たな神の誕生。宇宙の創生。これより行われるのは上位者や神々が為し得なかった行い。それを止める術など、何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海。かつて神喰らいが幻視した、来るべき世界。その微睡の中で、まどかは使者であるキュゥべぇと、そして最愛の友であるほむらとの対話を行なっていた。

 どこまでも暗く、底はなく。故に全てを受け入れる世界の底。しかしその領域は最早、まどかの手にある。キュゥべぇは、その肉体を放棄し思念で語りかけるのだ。

 

「まどか。これで君の人生は、終わりも始まりも無くなった」

 

 事実上の死。いや、それすらも生温い。存在が消えるという事の恐ろしさを理解していない筈も無し。しかしそれを理解していても尚、少女は貪欲に求めるものだ。

 

「この世界に生きた証も、その記憶も。どこにも残されていない」

 

 証など、あるでは無いか。

 

「君という存在は、幾つもの次元を超えて最上の高みの存在へとシフトしてしまった。誰も君を認識しないし、君もまた、誰にも干渉できない。君はこの宇宙の一員では無くなってしまった」

 

 しかしまどかは微笑む。

 

「何よそれ……!これがまどかが望んだ結末だって言うの!?こんな終わり方で、あの子が報われるの!?愛は……私達のあの子への愛は、どうなるの!?こんなんじゃ……死ぬよりも辛い……惨い……」

 

 違うのだと、女神と成り果てた少女は語り、友を抱きしめる。生まれたままの姿で、その温もりを余す事なく伝えて。

 

「今の私にはね。未来と過去の全てが見えるの」

 

 宇宙はまどかにある━━

 

「かつてあったかもしれない宇宙も。これからありえるかもしれない宇宙も、全部」

 

 故に彼女は視た。その瞳で、友が行ってきた全てを。

 

「ほむらちゃんがどれだけ傷付いて、私を愛してくれていたのかも。約束を果たそうと、何度も繰り返してきた事も。……夜な夜な私の部屋に忍び込んで、下着を盗もうと考えた事も」

 

「そ、それは……見ないで欲しかった……」

 

 少女とは正直である。しかしほむらの業にまどかは否定を示さない。

 

「違うの。それだけ愛してくれていた事を理解できた。その身を全て私に捧げてくれていたんだよね。ずっと、気づけなくて、ごめん。ごめんね」

 

 そうしてほむらは、真の意味で救済された。これまで数えきれないほどの世界で、鹿目まどかという最愛の少女を見捨ててきたのだから。その総体である少女に赦される。それこそほむらの至上。

 友の胸に涙ながらに顔を埋めるほむら。そんな本来弱気な少女をまどかは再度抱きしめた。

 

「今の私になったから、本当の貴女を知る事ができた。私には、こんなにも愛を捧げてくれる友達がいたんだって。だから、嬉しいよ」

 

 そう言って、友の頬を支えて口付けする。

 

「だから、嬉しいよ。貴女は私の━━」

 

 

 ━━最高の友達だったんだね。

 

 ほむらは達そうになる意識を保ち、女神の御言葉を聞いた。だからこそ、最高の友達として問わねばなるまい。

 

「だからって!貴女はこのまま、帰る場所も無くなって!大好きな人達とも離れ離れになって!こんな場所に永遠に取り残されるって言うの!?」

 

「一人じゃ無いよ」

 

 だがその問いに、まどかは笑顔で否定した。

 

「私はいつだってみんなと一緒だよ。これからの私はね、どこでも、いつだって一緒にいるの。だから見えなくても、聞こえなくても、私はほむらちゃんの側にいるよ」

 

「まどかは……それでも良いの?私は貴女の事を忘れちゃうのに?もうまどかを感じ取る事さえできなくなっちゃうのに!?」

 

 少女の悲痛な叫びが木霊する。

 

「ううん。諦めるのは早いよ」

 

 そう言って、髪留めを解く。

 

「ほむらちゃんはこんな場所までついて来てくれたんだもの。もしかすれば戻っても、私の事を忘れずにいてくれるかも」

 

 その髪留めのリボンを、ほむらに手渡した。

 

「大丈夫。きっと大丈夫。信じようよ。私達の愛を」

 

「まどか……」

 

 ほむらの身体が、存在が希薄になって行く。最早人の身で深海に留まれる時間はとうに過ぎていた。

 

「だって魔法少女は、夢と希望を叶えるんだから」

 

 そして女神に至った彼女ならば分かる。

 

「きっとほんの少しなら、本当に奇跡だって起こせるかもしれないよ?」

 

 とうとうほむらの存在は消えていく。元の世界に戻るために。それでも少女は懇願する。

 

「待って!行かないでまどか!」

 

 だがまどかは向かわねばならない。女神として、決着をつけるために。

 

「ごめんね。でも私、戦わないと。あの子も待ってるから。ほむらちゃん、いつか私が迎えに行くまで……迎えに行っても、私を愛していてね」

 

 それまでは、ほんのちょっとお別れだね。ほむらの絶叫が響くのと、彼女の存在が完全に戻されたのは同じ時。

 こうして深海にはただ一人、女神へと至った魔法少女がいるだけになった。暗い、されど暖かい闇の底。それは人間性の海。泥の塊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 否、私がいる。

 

 

 

「……やっぱり諦めないんだね、マリアちゃん」

 

 

 

 いつの間にか完全に女神の装いへと戻ったまどかが振り返る。明るい宇宙の闇、深淵の底は本来暗い場所だ。ほむらに見せていた光は偽りの光でしかない。

 故に啓蒙高き私には分かる。あれは魔女の成れの果てでしかない。鹿目まどかという最恐の魔法少女から産み出された、救済の魔女の成れの果て。

 

 “私達”はゆっくりと立ち上がり、この赤い瞳を上位者に向ける。そこには少女達への愛など無い。ただ宿敵に向ける怨嗟のみ。“私達”は初めから、彼女を葬り去るために深海へと至ったのだ。

 

「奪ったものを、返してもらおう。まどか……いや」

 

 

 

円環の理、鹿目まどか

 

law of the circles madoka

 

 

 

 

 それが彼女。人を捨て、少女達への愛を奪い去る獣の果て。獣ならば狩るしかあるまい。それが私達狩人の存在理由なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いリボン

 真の上位者へと至った少女が友に残したリボン。聖遺物の一種。そのリボンは何の変哲もなく、特に神秘を帯びないが、残され戦い続ける友を支え続けるだろう。

 円環の理を広めるために。少女達の愛を須く奪うために。

 

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。