魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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懺悔

 

 

 

 人形は、空を仰ぐ。曇り空の夢の果て、その端正な顔付きと硝子細工の瞳で少女達の行き着く果てを幻視するように。

 つい先程、ここで和やかに暮らしていた少女達が連れ去られた先。常人ではおよそ見ることも叶わぬ人形の生きた姿を見せる啓蒙、端的に言うならば寄生虫の有無によってのみ真の姿を見せる人形は、その擬似的な脳に寄生させた虫を用いて見るのだ。

 

「ああ、狩人様。どうか、御無事で」

 

 彼女の側には誰も居ない。車椅子に乗って薔薇園と少女達を眺める老人も、私が姉と慕う猫好きの古狩人も。そして私が居場所を与えた少女達すらも。すべてが不在。残るのは人形と、戦う術を知らぬ無垢な使者達。

 使者の一人が案じるように人形のスカートの袖を掴む。使者とは言葉を持たぬ。それでいて不気味で、商人気質で、しかし狩人の手助けになるのならばどこへでも赴く従順な僕。人形はしゃがみ込み、慈悲を見せる微笑みを彼に向けた。

 

「大丈夫。きっと、狩人様は狩りを成就されますから」

 

 それは祈りにも似た確信。彼女は知っている。彼女が仕える百合好きな狩人の遺志の強さを。故に待ち続けるのだ。人形とは、創造主を信じ愛し続けるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開幕、私は星々に語りかける。神秘を宿す蛞蝓を用いずとも良い、何故ならここは深淵。その奥深く。即ち高次元の暗黒に他ならぬのだから。現世とはまた異なる場所でやはり私は星々を司る上位者達との交信を成功させた。

 そして来たる流星の数々。本来であればこの流星とは交信の失敗を意味する。しかし皮肉なものだ。暗黒に潜む上位者のすべてが、新たな神の誕生を受け入れていない。故に交信の成功は、流星の要請という形で私に力を貸して見せたのだ。

 

 彼方への呼びかけとは比べものにならぬ量と質の流星が神へと迫る。しかし神は動じず、それらを迅速に目で追うと一本だけ矢を射出した。それは分裂し、星々すべてを撃ち落としてみせた。やはり飛び道具では彼女に分があるようだ。

 ならばと、私は加速して一気に神へと詰め寄る。カインの流血鴉との戦いでは、この技のせいで苦戦させられたものだ。人を超越した狩人でさえ目に追えぬ速度ならば、神でさえも追随する事は難しいはずだ。

 

「見えてるよ」

 

 だが。まどかはその動き辛そうな服装と髪の長さでもって、私の落葉の一撃を必要最小限の動きで完璧に回避してみせた。ならばと、私はとっておきの攻撃を続け様にしてみせる。

 私の持つ落葉とは、かつてマリアお姉様が用いた技量特化の剣である。筋力は無用、持つ者の技術のみが須く反映される達人の剣。しかし時計塔の戦いにおいて、お姉様は自らの血によって落葉を強化してみせた。

 それはトゥメルの呪われた血を色濃く反映させた攻撃手段。ならば、上位者と化しトゥメルやカインハーストの穢れなど気にならぬ程に極めた血であれば、再現は容易い。

 

 そして、強制的な瀉血は青ざめた血の特権。その娘である私ならば当然その逆も然り。故に私は、生命力を削って自らの血を身体から吹き出させる。その血は燃え滾り、落葉にこびりつく。

 

 血の医療、その最たる一撃。振るう落葉は付着した血を振り撒き、その血は延長された刃となって神を襲った。彼女の白磁の如く白いドレスと肌が、浅く斬り付けられ血に染まる。同時に、燃え盛る。これこそ神秘。獣を散らし、浄化する血の炎。

 

 仰反るまどかに追撃する。分離した落葉を両手に持ち、回転切りで彼女を滅さんと迫る。

 

 

 何か、彼女の手の内にあるのを見た。否、見る事は出来ぬ。しかし啓蒙された。それは聖鈴だと。あれだけ敵視していた月光から、今すぐ離れろと催促を受けた。しかし勢いに乗った私はその手ごと斬り捨てようとし。

 

 

 

「因果応報だよっ!」

 

 

 

 自信に満ちた表情の神が、意気揚揚と語る。刹那、神から紫炎のような波動が放たれた。それは近接する私を容易に弾き飛ばし、内側から破壊してみせたのだ。吐血しながら、全身から血を溢れさせながら落下する私を見送り神は語る。

 

「今の私はね。過去と未来、そして世界を超えてすべての魔法少女に愛されて、その力を使えるの。なら火の時代にいた魔法少女の物だって扱えるよね。まぁ、私あんまり器用じゃないから剣とかは使うの難しいんだけどね」

 

 ティヒヒ、と独特な笑みを溢して淡々と語る神。私はヨセフカの輸血液を動脈に差し、身体を回復させる。貴重な一本だが、今使わないでどうするのだ。あの女医の手を借りるのは釈だが仕方ない。

 しかし、彼女の話が本当ならば手数が多過ぎる。狩人の最大の敵はもちろん数の暴力だが、それと同じくらい同業者の連中は脅威だ。彼女は獣で上位者だが、それ以上に戦い慣れした人間である。いくら私と言えども侵入してきた狩人には苦戦する。制裁神とか。

 

 私は左腕にガトリング銃を装備する。最大まで強化したガトリングは威力、連射とも凄まじい。あの奇跡も、近距離でなければ意味を為さぬだろう。ならば遠距離から攻めれば良い。

 言葉は不要、私はガトリングを構えて神目がけてトリガーを引く。けたたましい音と共に水銀弾の嵐が彼女を襲った。この数と速度を弓で撃ち落とせは出来まい。

 

「わわっ!」

 

 神は可愛らしく焦るが、それも束の間。気がつけば重そうで岩のような盾を取り出して弾丸をすべて防いでいく。しかし衝撃は消せないようで、少しずつ後退りしていっている。ここは根比べだ、水銀弾が尽きるまでだが。

 

「それでもっ!」

 

 吠えると、神は盾を構えたまま一気に突撃してくる。近くにつれ増していく衝撃を物ともせず、あの小さな身体でシールドバッシュをかまそうという魂胆だろう。

 あの膂力で盾をぶちかまされれば不味い、狩人は案外脆いのだ。私はガトリング銃を夢に仕舞い込み、右手にシモンの弓剣を握る。そしてバッシュされる瞬間に加速で彼女の背後へと回り込んだ。そして武器を変形させ、ガラ空きの彼女の背中を射抜こうと弓を引く。

 

 瞬間。まるでフィルムが飛んだかのように、まどかは盾を消し去りこちらに弓を構えていたのだ。

 

「弓なら、負けないよ!」

 

 最大展張。私は弦を離す。強靭な獣など一撃で屠れる程の太矢は、まどかの放った細い矢によって相殺されてしまった。やはり彼女と私は相性が悪いようだ。

 しかし心は折れぬ。私が折れてしまったら、私への愛はどうなる。取り戻さなければならない。私だけではない。さやかと仁美の恭介を愛する心は。依存するマミの心は。やらなければならない。

 何より、取り戻した記憶の底に眠る、古い友の愛を。

 

 二撃目を放とうとする神の弓を、即座に取り出したノコギリ鉈の変形攻撃で弾く。そのまままた変形させ、リーチは短いが素早い攻撃で神を攻撃していく。

 流石の神も右手の矢で受け流す事しかできないでいる。先ほどの奇跡が受けたダメージを返す、文字通りの因果応報ならば今はまだ発動できないだろう。

 

 ならば、発動前に狩り殺すまで。

 

 気付かれぬように左手に銃ではなく蛞蝓を握る。そしてノコギリ鉈で幾度か攻め、そちらに集中させ。

 

 エーブリエタースの先触れを発動させる。

 

「っ!」

 

 突如私の左手から飛び出した触手の大群に、神は面食らった。咄嗟に弓で防御するも押し寄せる触手は彼女の手足、そして胴体を貫き弾き飛ばす。

 勝機。あの鈴は鳴らせない。ルドウイークの聖剣を取り出し一気に跳躍する。そして縦に回転しながら巨大な剣を転がるまどか目掛けて振り下ろした。

 

 

「神を怒らせると、怖いよ」

 

 

 ゾワっと、うつ伏せのまどかが呟いた。確かに耳に届いたその言葉には、ある種の呪いが込められているに違いない。だがそれでも、私は手を止めなかった。

 そして剣が彼女を両断する刹那、それは起こる。

 

 

 先程とは異なる質の衝撃波が、まどかを中心に吹き荒れた。それは究極の神秘。神のみが為せる奇跡の業。曰く、それは神の怒り。かつて火の時代、高めた信仰を用いて再現された神罰。

 防ぐ術を持たぬ私は再度衝撃波に弾き飛ばされた。幸いなのはルドウイークの聖剣を盾に出来た事だろう。故にそこまでのダメージは受けていないが。ゆっくりと立ち上がる彼女は、呪いに染まった瞳で私を睨んだ。

 

「私を怒らせたね」

 

 言うと、神は自身の身体を修復させて周囲に魔法陣を描く。

 

「過ぎた啓智は人を蝕み、しかし上位者とて理解出来ない叡智はやはり毒となる……ならマリアちゃんにもこれは毒だよね」

 

 急激に狂気が高まる。あれは彼女の奇跡、救済。かつて私を発狂させた呪いの類だ。私は急いで輸血液を打ち込み、同時並行で鎮静剤を飲み込む。口の中に濃厚な鉄の味が広まると、溢れた狂気は鎮まる……が、それも束の間。また狂気が脳の瞳を震えさせた。まるで悪夢に蔓延る鬼灯女の如く所業だ。気がつけば体内の血に宿る虫が反応して身体から槍のように血が突き抜けてくる。

 それでも加速しながら輸血液を打ち、発狂覚悟で祈る神に突撃していく。そして大振りで落葉を突き刺すのだ。

 

 

「パリィができるのは、貴女だけじゃないよ」

 

 

 ドンっ、と。彼女の無垢な左手の甲が落葉の腹を弾いた。最早神業だろう。盾や短刀を用いずに彼女は、極めた一撃を容易くパリィしてみせたのだ。

 ガラ空きになった私の胴に、彼女は右手を思い切り突っ込む。手刀は私の胴を貫き、そのまま内臓をもぎ取ってみせた。

 

「おぐっ!?」

 

 吐き出した血を浴びる神は、強引に私を弾き飛ばす。無様に転がる私に、反撃する力は残されていなかった。

 それでも、震える手で輸血しようとする私の身体に神は跨り。輸血液を持つ私の腕をへし折った。

 

「うぐぁっ!ま、まどかぁ!」

 

 名を呼び睨む私の顔を、彼女はそっと両手で支える。そして妖しく微笑む神は顔を近づけてその吐息で私の鼻を擽った。

 

「ねぇ、マリアちゃん。ううん、リリィちゃん」

 

 無垢な貌を血で染める彼女は、敵であっても魅力的で妖艶だった。

 

「リリィちゃんが教えてくれたんだよ。魔法少女を愛する事を。貴女が私に瞳を授けてくれたんだよ」

 

「っ……獣だ、君は」

 

 抵抗の遺志を示す私は、空いた右手で彼女を突き刺そうとし。その手を掴まれた。

 

「いけないんだぁリリィちゃん、神様に抗うなんてぇ!ティヒヒヒヒィ!でもいいの!いいの!そうやって抗う子なんていなかったから!啓蒙に溢れて真意に気付く子なんていなかったから!だからもっと抵抗して?抗ってみせて?その身も心もへし折って、私の愛だけに染め上げてあげるからッ!うごぉおおおお!!!!!!」

 

 自らの心臓に、彼女はあえて落葉を突き刺した。溢れ出る血が私の身体に染み込む。これは、拙い。血が、彼女の聖血が、私の青ざめた血を上書きしようとしているのだ。それは私の消失と言っても過言ではない。

 しかし痛みは無く。そこには快楽のみが広がるだけ。でも屈してはならない。この快楽を受け入れれば、死なぬ狩人は真の意味で死んでしまう。遺志など捨てて、彼女のペットとなってしまう。それだけは死んでもお断りだった。

 

 ぐったりと私に重なるまどかは、それでも私の顔に手を添えて私の血で染まる頬を舐める。イヤらしく、まるで自分の女のように。彼女の唾液と私の血が混じるその様は、なんと魅惑的か。

 

「大好き。そうやって反骨心を剥き出しにして、快楽に抗うリリィちゃん、とっても魅力的。ねぇ、もういいでしょう?あの子も貴女を待ってるよ。一緒に円環の理で、私を愛してよ。きっと、ううん、絶対気持ち良いから、ね?」

 

「ん、んん!」

 

 むちゅっと、彼女の唇が私の唇を強引に奪う。なんと淫らな神様か。親が見たら悲しむに違いない。

 私は抵抗するが、なす術なく彼女の口に蹂躙されていく。しばらく神は私の口を楽しむと、ぷはっと離してニヤついた。

 

「本当は楽しんでるくせに……なら、もう死んでいいよ。遺志は私が拾い上げるから」

 

 そう言って、彼女は私の首に手をかけた。ぎゅっと万力が如く私の首を締め付ける彼女の顔はやはり狂気の笑みに染まっている。私は右手で必死に抵抗して、しかしやはり彼女の腕力に敵わない。

 

「ぐ、うぐ、お、おおおお!」

 

 彼女に突き刺さった落葉の柄を握る。そして強引に捻る。

 

 

「ティヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!すっごいねぇ!死ぬ寸前まで狩人だよッ!」

 

 

 それを物ともせず、彼女は笑う。笑って、この瞳に滲む涙を舐めとると。そっと優しく囁くのだ。

 

 

「大丈夫。リリィちゃんの祈りは、無駄じゃないよ」

 

 

 女神の如く。それは私の遺志を砕けさせるだけの神秘を伴っていて。

 脳が幻視するのだ。今までの道程を。過酷で陰惨で、しかし諦めなかった戦いを。それは狩人の記憶だけではない。魔法少女の頃の記憶さえも。

 険しく、しかし優しい日々を思い出す。あの子は私にすべてを教えてくれた。戦い方、生き方、誇り、そして人の愛し方を。一人になった後も、私の人生は長かったが。それでもあの子を忘れた事は無かった。

 

 

 

 あぁ。でも、そうさね。

 

 

 あの子に会えるのなら。ここで死んでも、いいんじゃなかろうか。

 会って、もう一度抱きしめたい。その最期は、あんまりにも愛を語るには惨過ぎたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━霊体 火の無い灰 に侵入されました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛んできた雷の矢が、まどかだけを貫いた。軽い彼女の身体はすぐさま吹き飛び、同時に酸素と血液が脳に行き渡る。私は咽せながら首を押さえると、何が起きたかを確認するために手元に残された落葉を杖に立ち上がる。

 まどかは貫かれた衝撃よりも、雷が齎す痺れによって深淵の地で悶えていた。これは良い気味だが、いったい何が起きたのか。

 

 ガシャ、ガシャ。

 

 そんな、金属が擦れ合うような音が深淵に響く。回復するよりもまず、私はそちらを眺めた。この場には、自分と神しかいないはず。

 

 

 

「娘に手を出せば、殺すと言ったはずだ」

 

 

 

 いつになく怒りに震えた声で。しかし堂々とした声色で。父は、そこにいた。

 

 青ざめた血。月の魔物。しかしその正体は、古き火の時代、その不死であり。王の火を継いだ薪の英雄。人の時代を齎し、遂には居場所すらもなくなり無形の上位者と成り果て、その先に自らの子を為そうと野望を持ち果たした王殺しの王。

 灰の英雄が、全身の鎧に火を灯してそこにはいたのだ。

 

 神は雷を打ち払い、すぐ様身体を修復して父を睨む。

 

「こんなのって無いよ、あんまりだよ……」

 

 ワナワナと震える神は、しかし明確な殺意を父に向けていた。その隙に父は私の真横に立ち、一時的な盾として立ちはだかる。

 私は折れた左手で輸血液を数本打ち込み回復すると、問う。

 

「良いのですか?」

 

「何がだ」

 

 分かっていて、父は問い返した。

 

「その姿、それは不死の時代のものでしょう。あれほど忌み嫌っていたではありませんか。遺志を問わぬ不死など、この宇宙で最も忌むべきものだと」

 

「子を守るために全力を尽くすだけだ」

 

 それだけ言って、灰は見慣れた鐘を鳴らす。それは古人呼びの鐘。我ら血によって造られた狩人を呼ぶ道具だ。

 二回、三回と鳴り、その音色は世界の次元を超えていく。そして呼ぶのだ。私の大切な人達を。

 

 

 

 ━━ 「古人呼びの鐘」に共鳴がありました。

 

 

 

 師であり、姉であり、友でもある彼らを。

 

 

 

 

 ━━ 鐘の共鳴により、最初の狩人、ゲールマン がやってきました。

 ━━ 鐘の共鳴により、時計塔のマリア がやってきました。

 ━━鐘の共鳴により、烏羽の狩人、アイリーン がやってきました。

 

 

 私の師であり助言者、老ゲールマンが。その大鎌を携え、しっかりとした背筋で。かつて私と対峙した時のような堂々さを兼ね備えて。

 私が姉と慕う美しくも強いマリアお姉様。あぁ、やはり落葉は彼女が手にすると美しい。真似事しか出来ぬ私とは異なり、その左手に持つエヴェリンもまた輝きを放っている。

 獣狩りの夜に訳も分からぬまま放り出され、しかしヤーナムにおいてまともであったアイリーンは救いだった。死にかけヤーナムを彷徨う彼女を夢へと誘い、初めて素顔を目にした時は惚れてしまったものだ。

 

 そんな彼ら彼女らが、私の前に、護るように立ちはだかる。

 

「やぁ……狩人よ。まさか青ざめた血となった君を護る時が来るとはね」

 

 ゲールマンはいつもの声色で、振り返らずに語った。しかし意思は伝わってくる。彼は師としての役割を果たそうとしているのだ。

 

「酷い女だな、貴公は……動画を見ていた最中だったのに」

 

 猫の呪いに嵌ったお姉様が呟く。だがそこにはいつもの気怠さは感じられない。ただ狩人としての、獣狩りに挑む凛々しさがあるのみ。やはりお姉様は素晴らしい。

 

「酷い有様じゃないかまったく……まぁいいさね。前は助けられたんだ、その借りを返させてもらうよ」

 

 既に私の眷属となった彼女もまた、慈悲の刃を分離させ獣狩りに挑む。やはり頼れるのは先輩なのだろう。それは上位者となっても変わらない。

 

「済まないね、皆」

 

 そうなれば、私も闘う遺志を放棄してはならない。狩人は、獣狩りにおいて闘志を捨ててはならぬ。ただ自らの使命を果たすのみ。死は、与えるものだ。

 落葉の血を払い、神と対峙する。

 

 

「みんな、みんな私を邪魔するんだね」

 

 

 神は弓を握りしめ、私達全てを睨んだ。遍く呪いをぶつけるように。ただ敵を殺さんとする神がいるのみ。

 

 

「私の愛を邪魔するなら……殺しちゃうよっ!」

 

 

 神の背から大いなる翼が生える。それはどこまでも白く、しかし分かる。あれは人間性そのものだ。人の身にとって毒となり得る。

 彼女は空目掛けて弓を引くと、一発の矢を放った。同時に私達は危機を啓蒙されて動き出す。あの一撃は、無数の矢と化していた。それが降り注ぐのだ。

 

 父は一直線に神へと迫る。その素早さは流石火の時代の生き残り。矢の加害範囲から逃れつつ手にする螺旋剣で神を貫かんとする。

 

「逃げないとマズそうだね」

 

 アイリーンの一言で、私達も加速して逃れる。加速の術を持たぬアイリーンは私が抱き抱えた。やはり彼女の狩人としての身体は引き締まっていて少女とは異なる良さがある。どさくさに紛れて尻を触ろうとして怒鳴られる。

 

「真面目にやんな!」

 

 刹那、私達が先程まで陣取っていた場所に矢が降り注いだ。見るに、かなりの神秘が宿っているようだ。先程隕石を撃ち落としたものとは比べものにならない。

 父を見れば、あの神と斬り合っているようだ。

 

「初めて会ったときに殺しておくべきだった」

 

 冷徹に後悔する父の剣は、神の持つ弓に防がれている。

 

「やっぱり、火の時代の不死人だったんですね。なら、何回でも殺してあげる!」

 

 鍔迫り合いを制したまどかがゼロ距離で矢を撃つ。しかしそれをソウルより召喚した盾でパリィすると、矢はあらぬ方向へと飛んでいく。

 私達が戦いに入れないでいると、不意にゲールマンがゆっくりと私の隣に立った。

 

「さて、狩人よ。我々の役目は君を逃す事だ」

 

「なに?彼女を狩りに来たのではないのか?」

 

 その発言に私は反発した。

 

「無理だね。あの娘はとうに上位者の域を超えている。たとえかの王殺しでさえもね」

 

 そう言われて、私は再度父を見る。気がつけば父は弓しか持たぬ神に押されていた。瞬間的に動き回る神が、翼に宿した神秘で父を猛打している。

 いかに不死の時代の王殺しだとしても、本質は人だ。人を超えた存在に対してはやはり不利なのだろうか。だが。

 

「それでも、私は父を見捨てられない」

 

 一人、父の下へ駆け出す。それを見て、ゲールマン達は分かっていたのか止めはしなかった。それどころか追随して戦いに赴くのだ。

 

 狩人とは孤独なものだが。しかし共闘も悪くない。

 

 飛び回る神を撃ち落とすために、私は大砲を構える。直撃させなくて良い、大砲の弾は私の遺志に反応するのだから、至近距離で爆発させればそれで良いのだ。

 撃発し、大きな弾が飛んでいく。それは空中で炸裂し、飛び回る神を確かに傷つけた。

 

「っひゃう!?」

 

 虚を突かれ撃ち落とされる神は地面を転がる。すかさずゲールマンとマリアお姉様が追撃にかかった。

 最初の狩人が巻き起こす風圧により嵐が起こり、神を掬い上げる。同時にお姉様が血を通わせた落葉で斬りかかった。

 

 凄まじい一撃。それは並の狩人であれば、いや上位者であろうとも屠れるほどの暴力。

 

 

「なるほど、腐っても神か」

 

 

 渋い顔をしてゲールマンは呟いた。神は、そんな暴力に晒されていてもめげずに弓を構えていたのだ。斬撃後で隙だらけなお姉様を狙い、彼女は矢を放ったのだ。

 加速の業を用い、ゲールマンは盾となる。老体にはさぞ辛かろう。しかし彼は酷く愛する女を守るためにその身を犠牲にする事を躊躇わない。肩を貫かれたゲールマンはそのまま崩れ落ち、その巨体をお姉様が支えた。

 

「無茶をする、我が師よ」

 

「たまには、男らしい所を見せなくてはね……流石に無理をし過ぎたが」

 

 私とアイリーンも攻撃に加わる。烏羽の放つ投げナイフは確かに神の気を引いた。その隙に私は上位者としての血を解放し、大きく跳躍する。ゲールマンが起こした嵐に巻き込まれる事も躊躇わず、身を削りながら神に迫った。

 貧者の血晶石が発動し、とてつもない火力を持った落葉を、なんと神は片手で白羽取してみせたのだ。だが彼女も相当無理をしているらしい。いつになく焦った表情をしている。

 

「ここで君を討ち取らせてもう。友として」

 

「まだ私を友達って言ってくれるんだね……!」

 

 拮抗する神と上位者、だがそれで良い。本命は。

 

 

「うぐぅあっ!?」

 

 

 背後に回った父の剣が神の胸を貫く。バックスタブ、それは不死人達の致命業。胸を貫かれ、そのまま地面に叩きつけられる神。父はそのまま最初の残り火で彼女の身体を焼いた。

 

「っ、ぐ、ああああああああ!!!!!!」

 

 まどかの絶叫が木霊する。決着はついた。そのように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━神の邪魔はさせんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、叫び声。

 

 

 そして訪れるは一人の魔法少女。

 

 

 クレイモアを携え、父を叩き潰さんと迫る美しい金髪の少女。

 

 

 父は辛うじて不意の一撃を逃れ、突然の襲撃者を葬り去らんとするが。

 

 

 私が、それを止めてしまった。振り上げる父の剣をパリィし、思わず防いでしまった。

 

 

 

 

「……リリィ?」

 

 

 

 背後の、突然現れた少女が私の名を紡ぐ。

 恐る恐る、私は震えながら振り返らずにはいられなかった。なぜなら、その少女は。

 

 

 

「やはり、リリィ……なぜ君が神に刃を……?」

 

 

 

 あの日、私から去ってしまった友。私に愛を教えてくれた、生きる全てを教えてくれた大切な人だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋。その診察台の上で、私は医療者の男に問う。青ざめた血とは一体何なのかを。あの貴族の少女が残した唯一の疑問を、彼にぶつけた。

 彼は不気味な笑みでその言葉を飲み込むと、続けて口を開く。暗くて分からないが、きっとその顔にはいつもの如く笑みを携えているのだろう。

 

「確かに、君は正しく、そして幸運だ」

 

 その意図は分からない。しかしこの男が青ざめた血について何かを知っているのだけは確信できた。そして経験上、それが何かまともでもないという事も。きっと、何か禁忌の類いだろうか。

 

「正にヤーナムの血の医療、その秘密だけが……」

 

 君を導くだろう……と。意味あり気に語る様は、やはり奇妙だ。この街の縮図そのものと言っても良いだろう。

 だが、と彼は続け。

 

「よそ者に語るべき法もない」

 

 それは当たり前の事。秘密とは甘いものだ。秘密とは秘匿されなければならないから秘密なのであり、それを漏らす事など言語道断。正にヤーナム。秘匿された医療の地。

 

「だから君、まずはヤーナムの医療の血を受け入れたまえよ……」

 

 そう言って男は懐から一枚の紙切れを取り出す。それは誓約書だった。汚れた、しかし書くべき部分はしっかりと空欄であるその紙を、私に差し出す。さぁ、契約書を、と催促され、不気味に思いながらもそれを受け取る。

 

 名前の欄。そこには嘘偽り無くLilyと。苗字などありはしない。私の生まれた時代では、苗字など貴族か領主くらいしか持ち得なかったのだから。

 生まれた地は、オルメンの村。今はありもしない懐かしい寒村。そこで私は生まれ育ち、魔法少女となった。

 年齢は……若いとだけ、書いておく。自らの年齢など最早覚えていない。数百年生きたのだ、それすら意味を為さないだろう。

 他にも筆記すべき箇所に筆を入れ、男に返す。それを確認した彼はニンマリと笑った。

 

「よろしい。これで誓約は完了だ」

 

 そうして、彼は台のそばにある輸血液の針を手にする。

 

「それでは、輸血を始めるとしようか」

 

 正直、不安しかない。病気など魔法で治せるが、それでも得体の知れない血を自らに輸血するなど、常識的ではないのは確かで。

 そんな私の不安を察したのか、男は笑ってみせた。

 

「なぁに、何も心配することはない……」

 

「待って」

 

 そう言った彼を、後ろから現れた誰かが止める。それは見た目の若い女性だった。金髪を後ろで縛り、医療従事者特有のエプロンをしているが……その下の衣服は何やら大層な白いものだ。

 彼女は男をどこかへ追いやると、私を安心させるように微笑みかけてくる。

 

「知らない男の人に肌を触られるのは、女の子として嫌でしょうから」

 

 そう言う彼女の言葉は理にかなっている。それに、先ほどの医者か浮浪者かも分からぬ男ではやはり信用できない。何より、その声色が私の好みだった。

 やはり女性は安心する。そしてその手つきもまた、優しく母性溢れるものだ。だからだろう、私は一つ、彼女に質問した。

 

 

「私の呪いは、これで消えるのだろうか」

 

 

 長く生き、しかし根は少女の私が唯一溢した弱音。その弱音を、女性は驚いたように目を見開いて聞いていた。だがすぐに優しい笑みへと戻れば彼女は頷く。

 

「何があっても、それは悪い夢でしかないわ」

 

「夢……すべて、長い夜の夢」

 

 彼女はうなずき、とうとう私の腕に針を刺す。ちくりとした痛みは、しかし次第に薄れ行く意識の中で消えていく。私の中に、血が流れていく。新しい人生をやり直すための血が。すべてを忘れ、新しい悪夢へと飛び込むための鍵が。

 こうして、私の魔法少女としての人生は幕を閉じたのだろう。肉体の安らぎに、しかし魂は拒絶を示し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 診察台に寝かされている私の身体を、しかし同じく私は眺めていた。魂のみになってしまった浮遊霊。それが今の私。

 最早ソウルジェムなどありはしない。肉体に添えられた魂の宝石は砕け、意味を成していない。それを霊となっても手にすれば、私は啓蒙された。

 

 呪いなど、消えてはいない。ただ形を変えて存在しているに過ぎない。それが霊体である私。

 

 絶望はしなかった。最早絶望など幾度もしている。薄れているだけだ。ジェムは濁り切っている。魔女でもない、しかし人間でもない霊。それが私。ならば怨霊なのか。否、誰も恨んでなどいない。

 

 それならば、私の存在意義は。分からぬ。分からぬが。もし魔女でもなく人でもないのであれば。今度こそ自由に生きようではないか。生きてはいないが、自由に放浪しようじゃないか。穢れを気にする事もなく、自由気ままに魔女達と触れ合って、共にして。

 

 それが良い。いつか聞いた、魔女の集会。ワルプルギスの夜。そんな存在になるのも悪くない。だって私達は現世に拒絶された魔法少女の成れの果て。そして人とは群れたいもの。なら、魔女だって群れたいだろう?

 

 

 診察室を後にする。あの抜け殻の私はどうなるのだろうか。いや、きっと新しい魂を受け入れるだけだ。血の医療という名の新たな呪い、そこから生じた狩人という魂を。なら祈ろうじゃないか。

 

 君に、暗い魂があらんことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友を守るように。私は両手を広げて父の前に立ち塞がった。きっとこのままでは父は遅かれ早かれ友の魂を狩り取るだろうから。そんな事は、既に記憶を取り戻した私にはできない。させられない。友にも、父にも。

 父は躊躇い、しかし啓蒙されたのか私の意図を理解した。

 

「リリィ、退くんだ。もう手遅れだ」

 

「それでも、あの子は私の友だ。父に友を殺させない」

 

「いいかリリィ、これは罠だ。あの神が仕組んだ罠だ」

 

「でも友なんだッ!私が愛した友なんだ!」

 

 そんなやり取りを、友は困惑した様子で眺める。

 

「一体何が……なぜリリィが!?」

 

 突然女神の危機に召喚されたかと思えば、友が神を殺そうとしていて。しかも今度は守ろうとしている。だから、これは神にとっては願ってもないチャンスだった。

 神は立ち上がり、傷を治す事もせず少女に囁く。

 

「私を、殺そうとしているの……助けて……お願い」

 

 それは悪魔の囁き。しかし他でもない神の願いならば捨てる理由もない。だが敵は友でもある。

 

「あの子は、貴女の知ってる子じゃない。良く似た魔女なんだよ」

 

 そう言われ、単純で正義感溢れる少女は決心がついた。大剣を担ぎ、ガラ空きの背中を狙う。せめて一突きで。いくら敵とは言えど、見た目は最愛の友だ。

 

「リリィ!」

 

 父が、背後から迫る友に気がつき私を押し退けようとする。だが、それを拒んだ。

 

「いいんだ、お父様」

 

 それで、良いのだ。あの子を殺す事なんか無いのだから。もう一度死んでいるのだから。彼女は不死では無い、普通の子なのだ。

 私の背中にクレイモアが突き刺さる。それは胸すらも貫き、良く知った剣先が目に見えた。

 

「アン、リ」

 

「……やはり、君は、リリィ……?」

 

 夢を見る狩人は、死ねばその死を夢にするだけ。私は吹き出る血を見ながら霧散する。ようやくここで、私は友に殺された事により許された気がした。

 友を置いて生きていた事を。一人呪いから逃れようとした事を。だからこれでよかったのだろう。

 

 

「リリィッ!」

 

 

 激昂した父が剣を振り上げるも、神はその前にいくつもの矢を放ち父を射抜く。

 

 

「うぇっひひひひひ!やったやった!マリアちゃんを倒した!ウェヒヒヒ!」

 

 

 吹き荒れる矢の嵐。たまらずゲールマン達古狩人は放心する薪の王を抱えて狩人の確かな徴を使用して逃走する。そうして残ったのは神と娘。勝敗は、神の勝ち。

 神が絶叫にも似た笑い声を上げる中、友は一人貫いた剣を手放す。そしてその時の感触を思い出す。

 

「私は、私は友を……?いや、そんなはずは、だってあの子だって魔法少女で、生きてるはずが、そんな」

 

 

 こうして、新たな神の誕生は終わる。我々狩人の敗北により。そして始まるのだ。新たな世界の創生が。それは少女達が無条件で女神を愛する世界。私が夢見て、しかし本質は異なる世界が。

 

 

 

 




この小説内では青ざめた血という上位者=火の無い灰です。ちなみにダークソウルループ説を推してますので何度もループを繰り返しています。
ロードランの牢獄に不死として閉じ込められる→グウィンらを殺す→闇の王→ループして火継ぎ→
気がついたらドラングレイグで放浪してた、火の力も無いしそろそろ死にたいから呪いを消さなきゃ→デュナシャンドラを倒して火を継ぐ→ループして最初から→なんか原罪の探求者とかいうのに影響されて探求の旅に出る→
放浪してロスリック建国とかに立ち会う→来たるべき人間の世界が来るまで寝ます→自らも内包した王達の化身に起こされ灰となる→王殺し一通りループ→
火継ぎの終わりエンド→人間の時代がやって来る→神性が消え闇というものは普遍的になり薄れ、同時に不死というものは長い年月をかけて消えていった→その中でただ一人不死として生き続け放浪する→
なんか上位者とかいう自称神がいるらしい→人でいるのにも飽きたし探求もやり尽くした→人間性も程よく虫と化したから啓蒙貯めて上位者ブチ殺しに行くかな〜俺もな〜→やめてくれよ……(絶望)そんなに暇なら瞳あげるよ〜!(GO is Great one)→やったぜ。→
あ^〜思索するの最高や。でもなんか足んねぇよな?あ、そうだ(啓蒙)不死の時は子を為せなかったし、最近上位者が出生率足らないから作ろう→ヤーナムでリリィを何度もループさせて赤子にする→もっと逞しくしなきゃ(使命感)→幼年期すらもループさせる→リリィさん百合に走る

という感じです。なおロードランで神殺しも経験してますしドラングレイグで原罪の探求もしてた設定です。つまりダークソウルトリロジー設定です。

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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