魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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獣狩りの夜

 

 

 闇夜のビルの屋上。この見滝原の夜景を一望できるこの場所に、彼は何食わぬ顔で佇んでいた。見滝原中学校の制服に身を包み、両手はポケットに突っ込んでただ下界の者共を見下すは異界の悪魔殺し(Slayer of the demons)でありながら、古い獣の悪魔(デーモン)。つまりは鹿目タツヤである。

 いつものように激しい感情を出さず、氷のような瞳に映るは狩人と魔法少女の争い。それを見て何を想おうなど彼の勝手であろう。

 

「やはり世界とは悲劇だ。しかし悲劇もまた繰り返されると喜劇となり得るのだろうな。そうだろう、キュゥべぇ?」

 

 彼の独り言は、しかし確かに背後の使者達に投げかけられたものだった。そっと、背にする闇から白い異形達が姿を現す。それはキュゥべぇ。インキュベーターと呼ばれる上位者の使い魔。人類を利用し、見返りに発展させてきた者達。いつものように愛玩動物のようで無機質で宝石のような瞳が悪魔殺し(Slayer of the demons)の姿を捉える。

 

「君をマークしておいて正解だった。君の魂はあの鹿目まどかや美樹さやか、そして暁美ほむらよりも膨大な因果を抱えているようだったからね」

 

「ほう。やはり貴公らにも(ソウル)を観測する技術はあったか。それは良い」

 

 態とらしく驚くタツヤは、それでもキュゥべぇに一瞥もくれない。まるで羽虫を気にかけずといった様子で、人の身で上位者へと至り悪魔を殺す者として成り上がった者からすれば彼ら宇宙人程度に価値は見いだしていないのだ。

 彼が欲するのは、強大なデーモンの(ソウル)なのだから。感情を持たず、ただ壮大な使命とやらのためだけに他人の手を汚させる彼らに大きな(ソウル)が宿っている方がおかしいのだ。

 

「さあ、タツヤ。君と僕達の仲だ。そこを退くんだ。あの狩人達を排除しなければならないからね」

 

「フン。貴公らの計画を邪魔するからか?」

 

 キュゥべぇはタツヤに近寄らず、ただ肯定した。

 

「へぇ、それが君本来の口調なんだね。そうだね。僕達はただ暁美ほむらを迎えに来る円環の理を捕獲したいだけなのに……まったく、やはり他の上位者がやる事は理解できないよ」

 

「ほう……円環の理を、な」

 

 鹿目タツヤとは、鹿目まどかの弟である。そして鹿目まどかとは。その本当の姿とは、円環の理、その本人である。そして今のタツヤが願うのはあの少女が平和に家族や仲間と暮らす日常。

 それを壊すのであるのならば。あまつさえ奪うのであれば。それは敵なのだ。

 

 ここでようやく悪魔殺し(Slayer of the demons)はキュゥべぇへと振り向いた。その貌を月光の影に隠しながら、しかし在りし日の殺意と闘志を向けて。常人であるのならば魂が震えるほどの強烈な殺意は、しかし感情を持たぬキュゥべぇにとっては単なる意思表示としてしか意味を持たない。

 

「あの狩人に肩入れする訳ではないが」

 

 ポケットから出した手に、(ソウル)から顕現させた剣とタリスマンを握り。

 

「俺も俺で、貴様らを駆逐しなければならんようだ」

 

 悪魔(デーモン)と化した乙女から奪いし(ソウル)より錬成された本当に貴い者の剣。それは人の持つ本来の力によってこそ真価を発揮する、人の為の剣。その剣に、左手の獣のタリスマンを当てがう。

 それは光の武器と呼ばれる、つらぬきを名に冠した記者の象徴。瞬く間に直剣が光り輝き、その光はタツヤの貌に反射する。それは数多の世界において彼の敵を震撼させた光景。

 

「やっぱり人間とは相入れないね」

 

「だったら、せめて邪魔者だけは排除しないとね」

 

 闇夜からわらわらとキュゥべぇが現れる。

 

「君達の弱点を知っているよ」

 

「それは集団で囲み、損害を無視して蹂躙することだ」

 

「狩人も、不死人も、これには勝てないんだろう?」

 

 数えきれないほどのキュゥべぇが彼を囲む。それは狩人にとっては想像もしたくない程の窮地。かつてのヤーナムにおいて最強を誇った私でさえも、獣と化した住民達に囲まれればあっという間に殺されたものだ。それはいくら悪魔殺し(Slayer of the demons)でも変わらないだろう。事実、かつてボーレタリアという没落した国に降り立った彼はそうして奴隷兵達にタコ殴りにされて殺されているのだから。

 

 だが、その程度で臆する程彼も伊達ではない。不敵に笑えばタツヤはタリスマンを掲げて宣言する。

 

「炎の嵐」

 

 それは異形の魔法。竜の神の(ソウル)から生まれし怒りの炎。タツヤを中心に巨大な火柱が屋上を覆う。それはその場に現れたキュゥべぇ達を殲滅するのに事欠かない。そして彼は走るのだ。かつて走り嵐と呼ばれ恐れられた禁断の技を用い、敵を殲滅する。

 何も言葉を発することなく、何も出来ることはなく。キュゥべぇは燃え尽きていく。その光景の何とも滑稽なものか。

 炎が治れば屋上にはタツヤ以外の者は存在せず。炭と化した残骸が無数に散らばるのみ。

 

「少々君を侮っていたようだ」

 

「こちらもそれなりの力で行かせてもらうよ」

 

 だがそれだけで消え失せるのであれば暁美ほむらは苦労しない。どこからかまた現れたキュゥべぇ達。しかしその背後には強力な助っ人がいる。

 それは悪夢。この偽りの世界においての敵対者達。言い表せぬ異形達がタツヤを取り囲んだ。だがそれでも足りぬ。彼の(ソウル)を満たすには、悪夢程度では足りぬのだ。

 

「笑止。有象無象を連れてきた所で俺をどうにか出来ると考える方が愚かなのだ」

 

 気がつけば彼の姿が変わる。全身に甲冑を纏い、左手には暗銀の盾が握られている。右指には再生者の指輪を。左指には戦い続ける者の指輪を。そして強過ぎる(ソウル)は周辺の次元すらも歪め、色の無い濃霧を発生させる。

 場は整った。あとは彼が思うがままに暴れるのみ。

 

 最初の一波が正面から彼を襲う。悪夢の形はそれぞれだが、そのすべてが近接攻撃。タツヤはそれらを暗銀の盾で受け止めると、目にも留まらぬ速さで直剣を振るった。

 たった一振り。そんなに長くは無い直剣は、襲って来た悪夢達をすべて両断して見せたのだ。

 

「腐れ谷の忌み人共のがまだ根性があるぞ。この世界には貧弱な奴らしかいないのか」

 

 その言葉に激怒したのかは分からない。しかし残りの悪夢達は言葉が終わると同時に再度彼を四方八方から襲うのだ。その中には遠距離攻撃を持つ者も混ざっている。

 しかしそんなもの、彼には関係が無い。すべて価値が無い。再度獣のタリスマンを、今度は右手に握ればそれを掲げる。刹那、彼の周囲を時空を歪める程の衝撃波が悪夢達を襲った。

 

「神の怒り」

 

 宣言された奇跡は、文字通りの破壊力を見せた。屋上にいるすべての者は常識外れな範囲攻撃に圧殺される。空を飛び遠距離からタツヤを殺そうと企む悪夢は逃れたが、それを許すはずもなし。

 

「浮遊するソウルの矢」

 

 タツヤの背後に青白い光がいくつも浮かぶ。魔法的な攻撃力を持つその光は、まるでそれぞれが意志を持つように浮かぶ悪夢達を追っていく。そして光は容易に悪夢を貫けば、爆発四散。かつて黄衣の翁の(ソウル)から生まれた魔法は、新たなデーモンによって進化を遂げていたのだ。

 

「この程度か。もう少し遊べると思っていたのだが……失望したぞ、キュゥべぇ」

 

 落胆するタツヤに、しかしキュゥべぇは言う。

 

「無茶言わないでほしいな。そもそも君がおかしいんだ。今のナイトメア達だって、強い憎悪を持った人間達から産まれた凶悪なナイトメアなんだ」

 

「それだ。そもそも現代人は(ソウル)が弱過ぎる。さぁキュゥべぇ、もっと骨のある奴を出せ」

 

 この闘いも瞳を宿した赤子からすれば戯れに過ぎない。だがそれで良い。彼の目的はキュゥべぇの本隊を引き付ける事なのだから。しかし、何と言うか。彼はこのまますべて倒す気でいるのだからタチが悪いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大切な弟が戯れている頃、鹿目まどかは突如消えてしまった友人を探して街中を奔走していた。今にして思えば今日のほむらは様子がおかしいというか、妙にしっくり来るというか。ともかくいつもと違ったのだ。その差異を感じる事は、親友である彼女達にしか分からないだろう。巴マミもどこかに消えてしまったし、マミの大切なべべすらもいない。

 そうしてしばらく駆けていれば、何やら大きな物音が路地裏から響いて来た。もしかすれば、彼女の探している友がいるかもしれないだろうと考え。

 

「やぁ、鹿目さん」

 

 そこには一人の老人と、美しい銀髪の女性が佇んでいた。学校の用務員である老人と、親友の姉である事は一目見て理解できた。何よりその姉は、毎回母を家まで送ってくれているのだから。

 

「あれ、ゲールマン先生……と、リリィちゃんのお姉さん?こんばんわ……」

 

 優しい表情の老人に対し、隣の女性は恐ろしいほどに無表情だ。それ以上に奇怪なのは彼らの服装。老人は擦り切れた黒いコートに、いつもの麦わら帽子ではなくこれまた年季の入ったトップハットを被っている。そして友達の姉は意匠の凝った、動き易そうな……まるで貴族のような装束だ。

 そして二人共、その手には得物を握っているのだ。

 

 一歩後退りするまどかに、ゲールマンは安心させるように笑いかける。

 

「ああ、恐れる事はない」

 

 そう言って老人は近くのベンチに腰をかけた。それでもその長身は未だまどかよりも高い。

 

「感心しないな……こんな夜に、一人出歩くとは」

 

 涼しい声で女性は言う。

 

「えっと……その……」

 

「なぁに、詮索はしない。きっと何か大切な用があるのだろう」

 

 老人はそう言うと、得物の鎌を杖代わりにして言うのだ。

 

「これは、老人の戯言だ。だが助言でもある」

 

 そう発する老人の声は弱々しく、しかしどこか心に訴えるものがある。気がつけばまどかはその言葉に聞き入っていた。

 

「何があっても、後悔してはいけない。君はただ、為すべきことをすれば良いのだ。だが引き返す事はできる。それを忘れてはいけないよ」

 

 ありきたりな言葉。しかしそれは、確かな助言。今はまだ分からない、だがきっといつか分かる時が来るのだと少女の脳が囁く。

 

「だって君は、若いのだから」

 

 一層老人の表情が和らいだ。そして彼は鎌を露地の奥へと向ける。

 

「さぁ、行き給え。君が望むものが待っている」

 

 そう宣言すると、しばらく少女は呆然としていたが、次第に瞳に輝きを取り戻し力強く頷いた。そうすれば少女は駆ける。為すべきことを為すために。

 親友の姉の横を通り過ぎようとして、その女性は口を開いた。

 

「秘密を知っても、君は君でいられるかな?」

 

 まどかは足を止め、振り返る。

 

「それでも、私はほむらちゃんを助けたい」

 

 その少女はどこまでも純粋で、しかし独占欲に溢れている。それこそ人の業。故に鹿目まどかは駆けるのだ。忘れ去った記憶すらも取り戻さず、ただ自らの人間性のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃が、飛ぶ。

 

 円環の理、その右腕かつ守護者たる少女が振るう剣は最早魔法少女の域を超えている。

 遠くから振るったはずの剣は見えぬ剣となって恭介達を襲う。狩人としての感が恭介の身体を動かし、辛うじてそれを月光の聖剣で防ぐ。その間に仁美がチェーンソーで斬り掛かる。

 ギリギリと音を鳴らすそれを、しかしさやかは容易に弾いて見せた。それは達人の技。高速回転する無数の刃を、一本の長剣で弾くなどという事が並の魔法少女にできるはずもなし。

 

 すかさずさやかは仁美を蹴飛ばす。その場で斬り捨てることもできたはずだ。それをしなかったのは、やはり友を手に掛けるほど非情になりきれていないのだろうか。

 

「さやかッ!」

 

 恭介が跳躍し、月光に神秘が宿る。光り輝く聖剣を振り下ろせば、さやかは横にステップして回避する。

 それを予想できない狩人ではない。地面に打ち付けられた聖剣は光の粒子を波を周囲に振り撒く。さやかはマントで自らを覆うとその光波を防御した。

 

「ふんっ!」

 

 それは明確な隙だ。マントで顔まで覆ってしまっては姿も見えないだろう。聖剣をさやかに振り回すように打ち付ける。

 

「やっぱり」

 

 それを、容易くしゃがんで回避した。そして空いた左手で恭介の顔面を殴る。魔法少女の膂力で殴られた恭介は後方に勢いよく吹っ飛んでいく。それを見届けたさやかは倒れる二人を見下ろしながら言うのだ。

 

「二人じゃ無理だよ。私を倒すのはね」

 

 背にするは月光。かつて彼女が導きと称し従っていたであろう象徴。やはり彼女には青が似合う。神秘的な月の青白い光はさやかのシルエットを妖しく光らせていた。しかし影に浮かぶは人の形ではなく、魔女のそれ。きっと今の姿は、私やエーブリエタースのような仮の姿なのだろう。

 私がちょっとした考察を脳に浮かべていれば、恭介が輸血液を自らに突き刺し立ち上がる。英雄ルドウイークがそうであったように、やはり月光に魅入られた者は心折れぬのだろう。

 

 ただ信じる者のために戦うのであれば。

 

 

「それはまた、君もだった。聖剣よ」

 

 

 隣で啓蒙に溢れトランス状態に入っているルドウイークに語り掛ける。獣に堕ち、理性を失ってもなお導きの月光により狩人としての誇りを取り戻すに至った狩人。遺志のみとなってなおも助けを必要とする少女の下で、ただ正しくあろうとした聖剣。そして偽りの世界において、ようやく平穏を享受した教師。

 やはり、悪夢は巡るものだ。例えこの夢が幸せだったとしても醒めてしまえば辛く重たい現実へと引き返す事になるのだから。

 それは悪夢と言っても差し支えないだろう?

 

 諦めずにガムシャラに向かう恭介と仁美を一瞥し、私は背を向ける。最早ここでの役割は果たしたのだ。私は私の為すべきことをなすまでなのだ。

 

「君は、優しくも残酷な狩人だな」

 

 不意に、隣のルドウイークが宇宙を見つめながら口を開いた。そうだとも。私は残酷で冷酷で、血に酔った狩人であると同時に人の考えなど超越した上位者なのだから。優しいのは、少女にだけ。

 

「やはり民が言っていた通りだった。酷く歪んだ獣憑き、それが私達狩人だったのだ」

 

 彼から神秘を感じる。瞳が幻視するはウロコの無い白き竜。最早秘匿は破られ、彼を邪魔する幻想は打ち払われた。それで良い、貴公は狩人なのだから。教会最初の狩人、聖剣のルドウイークなのだから。

 私は彼の顔を見ず、ただ笑う。

 

「だが、それでも彼女達は戦っている。愛する者に刃を向けながら。自らの愛と信念を貫かんとしているのだ。それは獣では出来ぬ人の業。人間性の真髄。それで良いではないか。嘲り、罵倒されようと、獣に堕ちようと。君はどうするかね、聖剣」

 

 私の言葉に彼は何も返さない。だがね、君は言ったではないか。例え私の言葉が嘘だったとしても。嘲と罵倒、それでも成し得たのだとね。よく考え悩み給えよ。君は彼女の先生なのだから。月光もきっと君の事を後押ししてくれるに違いない。

 そうして私は歩き出す。次の戦場へと。今頃べべがマミを連れて真相を話している頃だろうから。

 

 そしてあの人はいつもの頼りなさそうな姿で私を待っているのだ。

 

「お父さん」

 

「リリィ」

 

 父と向き合う。私が殺し、目醒めたばかりの青ざめた血。私の半身。否、この場合は私が半身なのだろう。その父に、私は正面から深々と抱きついた。

 中年の好ましくない洗っていないタオルみたいな臭いがする。でもそれが好きで好きで堪らないのだ。懐かしく、しかし真新しい記憶の匂い。偽りであっても、普通の親子のように過ごした日々が愛おしい。

 父は驚きながらも私を大きく抱き締め返した。それはどこからどう見ても親子のそれで。

 

 一度目は、拒絶した。最初の狩人を屠り現れたそれの抱擁を、三本目の三本目で打ち返した。

 

 でも二回目は。愛を自覚し、迎えに来てくれた父に自ら飛び込んだのだ。

 

「遅れてすまない」

 

 厚い胸板の中で私は首を横にふった。

 

「迎えに来てくれて、ありがとう」

 

 上位者であり狩人である私らしくない少女性が出る。だがそれで良い。本心なのだから。本心をぶつけてこそ、私は次に進める。ようやく人間らしく。魔法少女でもない、狩人でもない。ましてや上位者でもないただのリリィとして。それは荒れた数百年を取り戻すかのように。

 しばらくの抱擁の後、私は父から離れた。親子ごっこはもう終わり。しばらくは、上位者として振る舞う時間が続くだろう。

 

「さぁ、目的を果たしに行きましょう」

 

 その言葉に父は力強く頷いた。

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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