魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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BLACK★STAR
渇望の玉座へ


 

 

 

 

「待ってくれ!あれは暁美ほむらなんだ!」

 

 

 くるみ割りの魔女に立ち向かおうとする私達の前に、突然キュゥべぇが横槍を入れた。いつものようにその表情は変える事なく、ただ声色のみで感情を再現しているだけの哀れな使徒。彼は宝石のような赤い瞳の中央にまどかを捉えながら懇願する。

 

「君達は仲間を殺すつもりかい?あんなに仲が良かったのに!」

 

 そんなマスコット的な彼を、皆が各々の感情を視線に含ませながら眺めた。まどかは悲しそうに彼の名を呟くと、遮るように杏子が立ちはだかった。

 

「ふぅん、あんた普通に喋れたんだ」

 

 疑念と確信を同時に得た杏子は、態とらしくキュゥべぇに言う。だがキュゥべぇは彼女の言葉に返事を返さず表情も変えない。まるで意に介さないと言わんばかりに。マミもまた、彼に対する感情を悲しみによって顔に表していた。なぎさを後ろから抱きしめ、瞳をそらしながら呟く。

 

「残念だわキュゥべぇ。これでもう、なぎさちゃんの言葉を信じるしかないのね」

 

 完全に彼は魔法少女達に見捨てられていた。それを分かっていたからだろう、キュゥべぇは最後の手段とばかりにまどかに駆け寄る。そして懇願するのだ、哀れな道化として。最後には君しかいないのだと。

 まるで恐れるような素振りを見せるまどかに、彼は言って見せた。

 

「まどか!君ならほむらを救えるはずだ!君が持っている本当の力に気付きさえすれば!」

 

 懇願するキュゥべぇを、まどかは何も言わずに眺めていた。彼女からすれば目の前の白い物体は不審で危ない動物でしかないのだから仕方あるまい。

 そんなキュゥべぇの首根っこを、恭介が掴み上げる。強靭な狩人の膂力はキュゥべぇの首をミシミシと締め上げるも、当のキュゥべぇは何とも思っていなさそうだ。

 

「黙れ、汚らしい害獣め」

 

 いつものように口元を隠し狩人の帽子を深々と被りながらも目だけはきっちりと出している恭介の眼力は凄まじい。それだけで人を殺せそうな程には狂気が滲み出ていた。

 

「そいつは放っときな、まどか」

 

 まどかの肩に手を置くさやかが言う。彼女はしっかりと友に向き合うと力強く笑って言ってみせた。

 

「大丈夫。さっきあたしが教えた通りにやればいい」

 

「……うん」

 

 対してまどかはどこか不安げな様子だ。無理もない。今の彼女は力を持たぬ一人の魔法少女。その使命も、抱いた欲望でさえも忘れてしまったのだから。

 さやかは今一度友を信じると、戦場へと赴く。大切な人達を引き連れて。その後ろ姿は正しく英雄。かの聖剣の遺志は、今度こそ彼女に流れ着いたのだ。

 

「恭介、仁美。なぎさも、行くよ」

 

 手にするのは月光ではない。彼女が本来持つ長剣だ。きっともう、彼女には必要がないものだ。誰かの導きなど、未来を生きる上で邪魔にしかならないのだ。そして高次元暗黒でそれを見守るあの白竜もまた、その事に気がついているのだろうから。

 恭介はノコギリ鉈を手に。仁美は変わらずチェーンソーを鳴らしながら。そしてなぎさは、マミの下を離れれば私に言ってみせた。

 

「なぎさの力を見てるのです」

 

 そう言って彼女達はくるみ割りの魔女を助けるべく向かう。先手はなぎさの攻撃だ。ラッパを取り出せばそれをけたたましく鳴らして協力者を召喚する。

 それは円環の理に導かれた少女達が駆使する使い魔━━ああ、あれはこのみとあやかの使い魔だ。きっと、彼女達もほむらの救出に志願したんだろう。かすかな遺志が私に啓蒙する。彼女達もまた私を愛していてくれたのだと。

 

 くるみ割りの魔女の使い魔……まるで眼鏡をかけたほむらの分身達が手にする槍で使い魔を攻撃しようとするが。

 

「慌てなさんな」

 

 鞘に納めた剣が無数の刃を生み出す。私の並外れた動体視力を持ってしても、すべてを捉える事はできぬ。秘伝、渦雲渡り。一瞬にして八つ裂きにされた使い魔は、しかし数を減らす事なく行進していく。まるで最後尾にいるくるみ割りの魔女を処刑台に連れていくが如く。

 さやかだけで倒しきれぬのであれば、それを援護するのはやはり恭介と仁美。恭介はひたすらにノコギリ鉈を振るい、時に秘儀を発動させ。仁美はチェーンソーで敵を細切れにし、道を拓く。

 

「あんたを外に出そうってんじゃ、ないッ!」

 

 ここぞとばかりにさやかは自身の魂を曝け出す。それは人魚姫。彼女の魔女。まるで演奏するかのようにさやかは振る舞い、それに合わせて恋慕の魔女が剣を振るう。その切っ先は暁美ほむらへと。しかし彼女もただやられるのではなく、繋がれた手を巧みに動かして防いでいる。

 

 そして、そんな光景をただ驚愕して見ている者がいる。それはキュゥべぇ。白き宇宙の使者はその啓蒙が足りぬ故。

 

「君達は……一体」

 

 ここまで来ても分からぬとは、やはり感情が無い上位者などこれしきのものか。

 

「私達は、かつて希望を齎し。そしていつか絶望に散っていった者達。そして今は━━」

 

 恋慕の魔女とさやかの二重不死斬りが炸裂する。まるで筆で一本書きしたような軌跡が空に走る。

 

「円環に導かれ、この世の因果を超越した百合の花」

 

 そんな、とキュゥべぇが想定外の事象に困惑する。

 

「まどかだけに狙いを絞ってまんまと引っかかってくれたね」

 

「じゃあ君たちも、また……円環の理」

 

 不敵に笑うさやかは言う。

 

「私は聖剣。女神を守る双刀のうちの一つ……ま、鞄持ちみたいなもんだけどね。ほむらの結界に取り込まれる時にまどかが置いていった記憶と力を誰かが運んでやらなきゃならなかったからね!」

 

「いざとなったらなぎさとさやか、そしてリリィ。無事な魔法少女が預かっていた本当の記憶をまどかに返す予定だったのです……リリィは家族ごっこで忙しかったみたいですけど」

 

 悪かったね。案外居心地が良すぎたんだ。私は苦笑しその苦言を甘んじて受け入れた。

 だがほむら一人を助け出すのに強力な魔法少女六人がかりとは、随分と苦労をさせるものだ。しかしそれも良いのだろう。まぁそのうち二人は最早私の手中だがね。

 

「ここまで頑張ってきた奴には御褒美あげないとね!」

 

「さやかちゃん……」

 

 さぁ、それでは我々も行くとしよう。彼女達ばかりに良い所を持っていかれるのは癪だ。私は一歩踏み出し、両腕を広げる。それは失われたはずの魔力の解放。さやかと同様に、私の中に眠る魔女を解き放つ。

 そして私の魔女と言えば。

 

 嵐が吹き荒れる。マミ達のスカートをめくり上げる程の嵐は、しかし収束すれば一人の魔女を産み出した。

 

 

 

「……やぁ、もう一人の私。随分と遅かったじゃ無いか」

 

 

 

 大きな、大きな歯車を携えた正位置の舞台装置。その名をワルプルギスの夜。かつての耳に障る笑い声は失い、しかし理性を伴って私に語り掛ける。確かに私は魔法少女であるが、同時に狩人である。かつてヤーナムで輸血をした際に、魔法少女である私の魂は離別してしまったのだから、こうして自我を持つのも仕方のない事だ。

 私は笑い、大きな駆体を揺らす自分に言う。

 

「君も楽しんだだろう?さぁ、行き給え。最早君は私ではなく、一人の魔法少女の成れの果てだ」

 

 そうして魔法少女リリィは救うべく敵へと向かう。私と私。しかし解き放たれた魔力は自由を手に入れた。これで良い。リリィは二人もいらない。彼女はこれより、円環の理として役目を果たすのだ。

 

「君は、ワルプルギスの夜だったのか!でもそんなはずは、あれは魔女の集合体だったはずさ!」

 

 キュゥべぇが吠える。

 

「それもまた正しい。だがそこは、やはり私なのだろうね。魔女という百合に誘われた私の魂は他の魔女を誘惑し、堕落させ、その身にまぐわせた。なんと羨ましい事か……」

 

 という事は、知らないうちに私は殆ど目標を達成していたのだろうか。まぁ良い、あれは私であって私ではないのだから。私は狩人として少女達を導くだけなのだ。

 と、魔女同士の戦いの余波が広がる。見ればほむらの魔女はワルプルギスに対して過剰な程に攻撃を仕掛けている……トラウマに触れたか。ほむらもまさか私が宿敵であったなどと思うまい。

 

 足元が崩れ落ちれば、私達は跳躍する。マミはまどかを抱え、共に戦場へと向かうのだ。

 

「鹿目さん!私達もいくわよ!」

 

「……はいっ!」

 

 マミに発破をかけられ弓を取り出すまどか。彼女は独り立ちすると弓を頭上に掲げて矢を弾き放った。あれはかつて私にやってみせた矢の嵐。無数の矢はほむらの使い魔を襲う。

 私も落葉を取り出し戦おうとした所で、声が聞こえた。それは思念に近い。

 

 ━━もうやめて。私はこの世界で死ななきゃならないの!

 

 それは悲痛な叫び。同時にくるみ割りの魔女から新たな影が伸びる。それは今までの使い魔とは異なる、ある種個性を持った者たち。

 偽街の子供たち……啓蒙が、そう名付けた。そしてそれはほむらの強い感情が生み出した娘達であるとも。

 

 複数現れた偽街の子供達は、特に私とワルプルギスに対し苛烈な攻撃を仕掛ける。脅威判定ができるのだろう。さやかにもちょっかいをかけているな。

 

「色から生まれた子らよ、私に遺志を寄越せ」

 

 獰猛に笑えば、私は子供達を相手に狩りをする。四対一。私達狩人が苦手とする個対複数戦だ。だがそんなもの、最早恐るるに足らぬ。

 獣や訳の分からない虫ならばともかく、この子たちはほむら自身なのだ。それを狩り、自らの物とするのならばこれ以上の喜びは無い。

 迫る槍を躱し、落葉を突き立てる。刺突はカウンターとして攻撃すれば本来以上の力を有する。貫かれた子供は逃げ出そうとするが、その前に私が抱きつき行動を阻害した。

 

「ほむら、友達だろう?一緒に楽園へと向かおうじゃないか」

 

 耳許で囁けば、子供の顔から笑みが消えた。そんな反応は心苦しいな。

 かつて父が私にしたように、その抱擁は逃れ得ぬ誘惑。呆気なく霧散し私に取り込まれた偽街の子どもは、ヤキモチ。私はほむらからヤキモチを奪った。

 

「我ながら、君は随分と気色が悪いね」

 

「そうかな?魔女を取り込んでその魂と混ざり合ってイチャイチャしている君に言われたくはないね」

 

 自分自身と歪み合う。まったく、これくらいは少女の嗜みだろうに。さて、残りの遺志も頂こうか。

 仲間を取り込まれた子供たちは、対する私を前に後退りしてみせた。

 

 

 さやかもまた、偽街の子供たちと交戦していた。彼女らは普通の使い魔とは違い、個々の能力が高い。魔女にも匹敵する魔力と魔法少女並みのスキルの高さはまさしくほむらが積み上げてきたものなのだろう。

 あの剣聖でさえも一苦労だ。故にそれに劣る恭介と仁美は二人で一人を相手している。隙の少ない攻撃を繰り出す偽街の子どもは銃撃パリィするのには向いていないから厄介だ。

 対するさやかは四人の子供たちに囲まれながらも反撃していた。弾き、弾かれ隙を見ては攻撃するものの相手もまた手練れ。気がつけばさやかは完全に包囲される。

 

 

「ちっ。わけわかんねー事に巻き込みやがって」

 

 

 そんな彼女の窮地を救ったのは杏子。燃える三節棍は子供たちを吹き飛ばすと、さやかの背後に背中合わせで杏子は着地した。

 

「胸糞悪い夢を見たんだ」

 

 杏子は独白する。

 

「あんたが、死んじまう夢を。でも本当はそっちが現実で、今こうして二人で戦ってるのが夢だって……そういう事なのか、さやか」

 

 重く、しかし確信を得ていた杏子は問う。

 

「夢っていうほど、哀しい物じゃないよ」

 

 迫る子供たちを不死斬りで弾くと、さやかは晴れた笑みを見せた。

 

「何の未練もないつもりだったけどさ。それでもこんな役目を引き連れて戻ってきちゃったって事は、やっぱりあたし、心残りだったんだろうね、あんたを置き去りにしちゃった事」

 

 そっと、杏子の背中に寄り掛かる。ふわりと杏子の鼻をさやかの香りが擽った。

 

「もし。もし、あんたがあの坊ちゃんと別れたら……」

 

 その先を、杏子は言えなかった。さやかが言わせてくれなかったのだ。ぎゅっと、杏子の背中をさやかが抱きしめる。

 

「ごめん。私にできるのは、これくらい」

 

「……十分さ」

 

 そんな、甘く苦い百合の花。心苦しい少女たちの心。それは私の大好物。混ざりたいが、空気を読もう。

 

「なぎさはただもう一度心ゆくまでチーズが食べたかっただけなのです!」

 

 しかしこの幼子は分かっていながらそんな空気を破壊してみせた。彼女なりの思いやりだったのかもしれない。この子はこれでも、賢いのだから。

 怒るさやかに逃げるなぎさ。そして笑う杏子。これで良いのだ。私達とは、今を生き、今に恋する魔法少女なのだから。

 

 さて、あともう一踏ん張りだ。さやかと杏子は手を繋げば、辺り一面を血の炎で焼いてみせる。あれは穢れた血と青ざめた血の一部によって為せる血の業。カインハーストの血族である杏子、そして今となっては私の眷属であるさやかが齎す少女の炎だ。

 

 そして夢とは醒めるもの。今は目醒めの時だ。

 

 魔法少女と魔女達が活路を開き、私は宇宙へと祈る。蛞蝓を手に、私の中に流れる啓蒙が高次元の暗黒への道を拓くのだ。

 

「彼方への呼びかけ」

 

 呼びかけとは、失敗するもの。それが齎すは流星の煌めき。宇宙から訪れた最大級の隕石は、ほむらが秘匿する結界に綻びを生じさせる。さぁ、あとは君が役目を果たす番だぞまどか。

 まどかは弓を引き絞ると、一気に空へと解放する。

 

 歌が聞こえた気がした。朝を告げる歌が。

 

「見えた!」

 

 まどかが叫べば夜の空は晴れ、禍々しいインキュベーターの封印が露わになる。そうなればあとはあの装置を壊し、ほむらを解放するだけ。今頃お父様やお姉様方が外で暴れているだろうからキュゥべぇ達が円環の理を観測する手段は無いはずだ。

 

 さやかが叫んだ。

 

「ほむら!あれを壊せばあんたは自由になれる!インキュベーターの干渉を受けないまま、外の世界で……」

 

 歌が聞こえた気がした。ラジオの電波に乗って、それは啓蒙を介して。禍々しく、しかし神秘に満ちた曲は私の脳髄に流れ込んで何かを予感させる。

 

 

 ━━本当のまどかに会える!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡る。言葉が巡る。思いが巡る。すべての記憶が巡る。その中でただ一人、私は覚えている。

 荒野の中、私はただ一人戦い続ける。人々のためではなく。魔法少女のためではなく。

 

 ただ、友との約束を果たすため。

 

 壊れた世界の中で。誰も生きて貴女に感謝することはせず。ただその瞳に円環の理という概念だけを目にして。

 私だけ。私だけが貴女を覚えている。この心に。人間性に。世界が終わるその日まで。

 この世界すべてが貴女を忘れてしまっても。

 

 

 私だけは覚えている。

 

 

 

 

 いつか、いつか。

 

 

 死んで円環の理に導かれ。

 

 

 ━━駄目。彼女を危険に晒す事になる。

 

 

 あの優しい笑顔が私を見てくれると信じて。

 

 

 ━━駄目。私は彼女にあってはいけない。

 

 

 再び巡り合える時を信じて。

 

 

 ━━私は一人死ななくちゃならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━ダメだよ、ほむらちゃん。

 

 

 

 世界が晴れる。その中に、その中心にあの子の笑顔が。

 

 

 

 ━━一人ぼっちにならないでって、言ったじゃない。

 

 

 

 ああ、まどか。

 

 ━━何があっても、ほむらちゃんはほむらちゃんだよ。私は絶対に見捨てたりはしない。

 

 

 だから。諦めないで。

 

 

 

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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