魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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愛を、ください

 

 

 

 

 終わらぬ夜もなく。朝日が必ず地上を照らす。鳥達は太陽の到来を囀りで知らせ、人々は新たな一日を前にして深い微睡から目覚めていく。星々を映す暗い空は段々と光に溢れ、紺紫からの薄青のグラデーションは実に芸術的である。

 夢とはいつか醒めるものだ。そうしてやってくるのは現実。紛れもない真実。こんな、たったそれだけの事実がどれほど素晴らしいものかは今の人々には分からぬだろう。時空は歪まず不必要な物は見えず、ただありのままを見れば良いとは。世界とは本来そうあるべきなのだ。

 

 窓から差し込む光に目が眩み、しかし嫌な気持ちにはならない。はっきりとした意識で私は太陽を眺めた。偽りではない本物の太陽を。

 かつて不死が追い求め、しかし遂には手に入れることは叶わなかった太陽。だがそれで良い。人が太陽を手に入れるなど、身に余る。

 

「狩人様、おはようございます」

 

 ふと、部屋の扉がノックされいつもの格好の人形ちゃんが入ってくる。私は和かに笑い挨拶するのだ。

 

「おはよう。今日も良い一日になりそうだね」

 

 そう言って、窓の下を眺める。そこには学生や社会人達が道を闊歩している。それぞれがなすべき事のために歩く。獣や異形は蔓延っていない。

 私の、世界の新しい夜明け。これこそ人が、魔法少女達が真に求めていたもの。なるほど、やはり人の世とは素晴らしい。

 

 着替えてリビングに降り立てば、やはりいつものように父が新聞を広げてコーヒーを飲んでいた。テレビには朝のニュースが流れ、キッチンでは女性が料理を作っている。鼻を擽る匂いは目玉焼きとトーストの匂い。

 

「おはよう、お父様」

 

「おはよう。どんな気持ちだ、新しい目醒めとは」

 

 父は不意に、そんな事を聞いてきた。何気無く、しかし私の反応をしかと見たいという気持ちが伝わってくる。私は椅子に腰掛け、足を組んで答える。

 

「清々しいものです。かつてヤーナムで幾度も味わった目醒めとは似ても似つかないものです」

 

「そうか。なら良いんだ……お前が決断した事だしな」

 

 相変わらず不器用な父だ。だが良い、父があの時手を出さなかった事は今に繋がっているのだから。

 

「これからはどうするんだ」

 

 人形ちゃんから渡された紅茶を飲み、父の第二の質問に答える。

 

「今まで通りに。やはり私は夢を捨てきれませんから」

 

「そうか。そうだな」

 

 特に何を言うでもなく。父は私を肯定した。元より否定するなどするはずもない。父は私の父で、私は父の娘なのだから。親とは子の願いを応援するものだ。

 と、リビングにもう一人やって来る。それは姉。否、古狩人。スタイルの良い長身に似合わないファンシーなパジャマに身を包み、目を擦る時計塔のマリア。彼女は傍に猫のぬいぐるみを抱え、心底眠そうにして対面の椅子に座る。なんともまぁ、初めて会った時の威厳は無い。

 

「……なんで私も巻き込まれたのだ」

 

 ボソッと、そんな小言を言う。

 

「不満ですか?」

 

「仕事に行きたくない」

 

 それは実に現代人らしい悩みだった。私はくすっと笑ってから言う。

 

「でも、ここでなら猫が飼えますよ。夢には猫は持って来れませんでしたから」

 

 そう言うと少しは納得したのか差し出された朝食であるトーストに齧り付く。

 

「王、朝食ができましたわ」

 

 紫がかった黒髪を揺らしその美人は言った。本来なんの繋がりもない、しかしあの悪夢においては私の母を演じていた上位者。メルゴーの乳母。彼女はにこにこと笑みを溢れさせながら言う。

 彼女も満更でもないのだろう。それは良かった。今となっては君もまた私の家族なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が登校していく。制服を身につけ。友達や恋人と共に。

 ふと、偽街の子供たちが視界の淵で走った気がした。一瞬の出来事。私の視線がそちらを向けば、優雅に小川の近くで朝のティータイムをする黒髪の美少女と青髪の活発な少女が何やら揉めているように見える。

 

「やらかしたね、あんた」

 

 滲み出る殺意をほむらにぶつけるさやか。当の本人はどこ吹く風で、紅茶を嗜んでいる。耳にぶら下がるピアスが朝日を反射させた。

 

「その、やらかしたというのはやめなさい……それにしても、貴女はやはり覚えているのね」

 

 クールにほむらは呟く。さやかはほむらの対面に座り、問い詰めた。

 

「自分のした事分かってるんだよね」

 

 そう言うさやかの表情は優れない。今にも斬りかかりそうな程に緊迫している。しかしほむらはニヤッと笑い、ただ言い返す。

 

「ただ円環の理の一部を分けただけよ。人間としての彼女と、女神としての彼女をね」

 

「魔法少女の希望を……勝手にもぎ取るなんて事、許されると思ってるの?」

 

 さやかの言葉を鼻で笑う。

 

「そうね。あんなに神聖なモノを私は奪ってしまった。それは許される事では無いわ」

 

 ふぅ、とさやかは頭を悩ませる。

 

「あんた、魔法少女や魔女からも外れて何になったつもり?」

 

 そう問われ、ほむらは自身のソウルジェム……否、ダークオーブを取り出して太陽に透かす。清々しい程に黒く染まったそれは決して陽の光を通す事はない。それは深淵の、人間性の凝固に近い。

 

「それはもう、魔なるモノかしら?」

 

「何カッコつけてんだか、痛々しい」

 

 そんなほむらを、今度はさやかが笑って呆れた。

 

「まぁ良いじゃない。私が世界を改変した事によって、本来ここにいられるはずも無い貴女や百江なぎさ達も受肉したのだから」

 

 道行く人々を見渡す。その中には元気に走り回るなぎさやあやか、そしてこのみの姿すらも見受けられる。

 彼女たち、円環の理の使者は世界の再編に巻き込まれたのだ。暁美ほむらが望む世界、その犠牲者となった彼女達は知る由も無い。自らが一度は絶望に染まり、世界に深淵を齎そうとしていた事など。すべての魔法少女が復活などはできないが、少なくともあの場にいた者達は今一度人としての余生を過ごす事ができるのだ。

 誰でも無い、神を奪った悪魔によって。

 

「これからどうするつもり?悪魔らしく世界と宇宙を滅ぼすの?ゴジラかよ」

 

「貴女私を馬鹿にしてるでしょう。でも、そうね。それも面白そうね……魔獣を打ち滅ぼしたらやってみようかしら、世界滅亡」

 

 その時は改めて、貴女達の敵になってあげると告げて。軽く、しかしどこまで本気かは分からないが言った。だがそんな悪魔にも怖いものはある。

 

「……やめておきましょう。ここには薪の王がいて、悪魔殺しや狩人もいる。敵になれば私の手に余るわ。貴女はどうなの?記憶は無くならないまま、私の所業を知っている円環の聖剣。良いのよ別に。私に立ち向かっても、ね」

 

 ここで。もしさやかが剣を抜くのであれば、ほむらは悪魔の権限を持ってさやかの記憶を消すつもりでいた。敵は少なければ少ないほど良いというのは繰り返した時間の中で知っている。そして美樹さやかという少女は正義感故に幾度もほむらを直接的に、そして間接的に妨害してきたものだ。

 さやかは瞳を閉じ、一考してから答える。それは悪魔にとっては予想外で。

 

「……今の私はリリィの眷属。円環の理の、その右腕じゃない。今更どんな顔して正義の魔法少女面すれば良いのさ」

 

「……あら、意外ね。てっきり貴女の事だから、感情に任せて斬りかかってくると思ったのに」

 

「でもね、ほむら」

 

 ダンッと、さやかは召喚した剣を目にも留まらぬ速さでテーブルに突き刺した。世界が改変され彼女が復活しても、その剣筋は衰えていない。その素早さは正しく剣聖。ほむらは動じず、さやかの青い瞳を見詰める。

 

「まどかが全てを思い出して、助けを求めるのなら。私は喜んであんたの敵になるよ。覚えときな」

 

 そう言って剣を引き抜き、鞘に納める。そして踵を返せばさやかは立ち去る。一言だけ、ほむらに言い残して。

 

「それまでは意地っ張りで天邪鬼で、自分に正直になれないほむらの友達でいてあげるよ」

 

 少女達が惚れそうなくらい爽やかな表情で彼女は言って見せた。そんな、ある意味男らしいさやかにほむらは面食らったのも事実だった。

 彼女が立ち去れば、ほむらは一人呟く。少しばかり顔を赤く染めて。

 

「……円環の魔法少女が惚れるのも分かるわね、美樹さやか」

 

 偽街の子供達は嘲笑う。主の醜態を見るのもまた、彼女達には娯楽になり得る。

 

 

 

「もう良いのかい、さやか」

 

 道路で待っていた恭介が、戻ってきたさやかを見て言った。さやかは適当に頷けば、彼の左手を握る。その反対側の手は、仁美が握っていた。

 

「ま、今すぐに何かする訳じゃ無いみたいだし。いいんじゃない?」

 

「では、参りましょう」

 

 そうして三人は進んでいく。いつもの日常へと。血の匂いなどしない、健全な道へと。それで良い。学生の本業は学問と恋愛なのだから。君達は異性に酔いしれ、成長すればそれで良いのだ。

 

 

 

 

 

 

「リリィ遅いぞ!何分待たせるんだ!」

 

 通学路で、私はその人を見た。長い金髪を一本に纏め、凛々しさを溢れ出すその少女を。私はしばし立ち止まり、懐かしさとよく分からない感情を抑え込めばその少女と、その隣で不機嫌そうにそっぽ向く星の娘に合流する。

 

「済まない、中々髪型が決まらなくてね」

 

 適当な返答をして二人に混ざれば金髪の少女……アンリがムッとして私の髪を眺める。

 

「そういう割には寝癖があるぞ」

 

「え、本当かい?」

 

「ほら、じっとしていろ」

 

 そう言うとアンリは鞄から櫛を取り出して私の髪を梳かす。セミロングの銀髪に、櫛は何ら抵抗もなく流れていく。それが気持ちが良い。

 ふと、そんな撫でられている猫のような私をジッと見詰める者がいた。人間の姿に擬態し、見滝原中学の制服に身を包んだエーブリエタース……星の娘。どうやら嫉妬しているらしい。

 

「ご機嫌ねリリィ。ああそうよね、美人に髪を弄られるの好きだものね」

 

「おや、嫉妬かな?朝から可愛いね。えいっ」

 

 ふんっとそっぽ向く彼女の脇腹を触る。すると星の娘はびくっと無言で身体を驚かせ、まるで初めて嘆きの祭壇で出会った時のようにその翠の瞳で私を全力で見つめた。

 

「リリィ〜……!」

 

「はははっ、身体は正直……あひゃ!?」

 

 と、真後ろから私は胸を触られる。思わず変な声が出てしまい、梳かされているのも忘れて振り返ればニコニコとしたマミがいた。

 いや、これは怒っている時の笑みだ。私が何をしたと言うのだ。

 

「おはようリリィさん。楽しそうね、他の女の子に手を出すのは」

 

「マ、マミ。待ち給えよ。別にそんな卑猥な事は……」

 

「出たわね巨乳。今は私とリリィの時間なの。貴女はお呼びじゃないわ」

 

「あら?ごめんなさい、リリィさん貴女の身体じゃ満足してなさそうだったから」

 

「なんですって〜!」

 

 気がつけば私をそっちのけでマミとエブちゃんがキャットファイトを始める。毎度の事だが、見ていて飽きない。だってそうじゃないか、私を目当てに争うなんて、それこそハーレムもののお約束だ。

 私はニヤニヤと笑みを隠さず、

 

「まぁ落ち着き給えよ、二人とも」

 

「ちょっとリリィ!貴女は結局誰が一番なのよ!」

 

「答えてリリィさん!」

 

 しかしこれもお約束か、いつの間にか二人は私に詰め寄っていた。うっ、と私はたじろいでどう返答するか悩む。

 ああ、結局脳に瞳を宿したとしても少女達を満足させることは難しいのだな。隣で呆れるアンリに助けを求めるが、彼女は私に自業自得だ、と言うと歩いて行ってしまった。ならば私も逃げるまで。

 

 猛ダッシュする。まるでヤーナムタイムアタックの如く走る。スタミナをしっかり管理して走る。

 

「私は先に失礼するよ!」

 

「あ!ちょっと待ちなさい!」

 

「リリィ!私よね!私なのよね!」

 

 二人も魔法少女と上位者パワーで執拗に追いかけてくる……朝から姦しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしいのはホームルームでも同じ事だ。相変わらず先生は男運が無いらしく、卵焼きの持論を展開している。私達クラスメイトはその恒例行事を苦笑いで暖かく見守るだけ。

 仲の良いさやかとアンリはまたダメだったのかと呆れ、仁美はニコニコと恭介を眺めている。恭介よ、そんな迷惑そうな顔をするな、男だろう。

 そしてほむらは。相変わらず冷静に……しかしどこか気怠けに呆然としている。それはキャラ作りだろうか。あんまり似合わないぞ。

 

「あ、そうだ。今日は転校生を紹介しま〜す」

 

 唐突な転校生の紹介。皆が呆れる中、入ってきたのは。

 

「えっと、鹿目まどかです」

 

「鹿目タツヤです!よろしくぅ!」

 

 トレードマークのリボンを外した美少女、鹿目まどかとその弟である騒がしい鹿目タツヤだった。まどかを見た瞬間、ほむらがふっと微笑む。分かるよ、ほむら。君の愛は本物だ。滲み出る闇を介さずとも、君の愛は伝わる者には伝わっている。

 どうやら二人は母の海外出張から戻ってきた帰国子女という事らしい。なるほど、あまり得意でない英語を補強するためにそういう設定にしてあげたのかほむらよ。私としても英語を話せる相手は好ましい。今でこそ当然のように日本語を話しているが、私は元々英語が母語だからね。

 

 そこからは、いつか私が受けたようにクラスメイトからの質問責めにあっていた。

 

「鹿目さん英語ペラペラなの?すっごーい!」

 

「髪良い匂いするね、シャンプー何使ってるの?」

 

「鹿目さんちっちゃくて可愛い、小学生みたいだね……ちょっと抱きしめてもいい?」

 

 おかしいな、少女達しか話しかけていないはずなのに邪な念をひしひしと感じるぞ。

 もしかすればこれもほむらの影響なのかもしれない。悪魔として産まれ変わったほむらの愛は、それこそ一人の身体に納められるようなものではない。溜め過ぎた人間性は時として周囲に影響を与えるのだろうから、それも仕方ないか。

 

 タツヤの方も男子からの人気は厚いようだ。スポーツの事とか、趣味の事とか、あのゲームはやってるかとか実に男子らしい。

 

「えっと……あはは……」

 

 と、あまりの質問責めにまどかが困惑している。

 

「みんな。一気に質問されて鹿目さんが困っているわよ」

 

 不意に。ほむらが立ち上がった。そして彼女を守るように女子生徒達を落ち着かせる。ほむらを見た少女達は一斉に黙り、教室にはしばしの沈黙が訪れた。

 やはりほむら。君は孤独の道を選ぶか。それもまた、君の選択なのだろう。それは良い。真に愛する者だけ、それ以外とは馴れ合うことすらもしないとは。

 

 が。その沈黙もすぐに終わりを告げる。

 

「お、お姉様!」

 

「ほむらお姉様!ごめんなさい、別に他の女に手を出そうとしてる訳じゃなくて!」

 

「クールなお姉様と小動物系の鹿目さん……ああぁんどっちも好きぃ〜!」

 

 私の同情を返せほむら。クラスの女子を全て百合に目覚めさせてどうするのだ。

 

「え、ちょっと」

 

 だがこれはほむらには想定外だったらしく。何やら熱い感情を持ってほむらを囲む女生徒達に困惑している。

 なるほど、世界を改変したのは良いが力の使い方が下手だね。いやまだ分かっていないのか。細かい部分まで改変することを忘れて君の愛に触れた少女達の影響を考えていなかったね。

 

 ほむらが私を見つめて暗に助けを求めてくるが、私はただ笑って見守ることにした。ほむらよ、それも試練だ。他の百合に惑わされる事なくただまどかを愛するのだよ。

 

「あいつ馬鹿だ……」

 

 ふと、さやかが呆れたように呟く。

 

「そうかな。羨ましいけれど」

 

「リリィ……そういうところだぞ」

 

 記憶を持たぬアンリが呆れる。良いでは無いか、君もいずれ私を求めるようになるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほむらは何とかまどかを連れ出すと、校内を案内するという名目で二人人気の無い通路を歩く。狂気に染まった女生徒達にもみくちゃにされてくたくたなほむらと、それを困ったような目で見るまどか。

 そんなほむらだったが、ふと冷静になれば自分の名前すらも告げていない事に気がつく。これが初めてでは無いが、いつもの繰り返す時間の中では概ねまどかの方から話しかけられていたから自ら自己紹介するという概念が薄い。

 

「鹿目さん、自己紹介がまだだったわね。私は……」

 

 その時。不意にまどかが足を止めた。それを不思議がって、ほむらは振り返る。

 

「……鹿目さん?」

 

 いくら悪魔でも、他人の心を全ては理解できない。

 

「ねぇ、ほむらちゃん」

 

 俯く桃色の少女は、まだ聞いてもいない少女の名を呼んだ。ほむらの心臓の鼓動が跳ね上がる。

 喉が自ずと乾き、ごくりと息を飲んだ。それでも余裕な表情は絶やさず、ただほむらはいつものように答える。

 

「なに、まどか」

 

 だから、まどかと。愛する友の名を呼んでみせる。まるで旧知の仲のように。

 その少女は面を上げると、その瞳を見せた。闇夜に浮かぶ星空のように、金色に光り輝く円環の星。その女神たる瞳を隠すことはせず。けれどその表情は、いつか見たあどけない少女のまま。

 

「ほむらちゃんは、後悔してない?」

 

 すべての質問を、投げ掛ける。覚悟を決めなければならなかった。ここで逃げるのは容易い。だがそうしてはならないと、ほむらの人間性が熱を帯びる。

 ほむらはしっかりとまどかと向き合い、その表情を変えた。決意に染まった、確かな表情。とても悪魔とは思えぬ真剣な面持ちだった。

 

 ぐっと拳を握りしめると、彼女はただ告げる。

 

「後悔なんて、あるわけない」

 

 まどかはじっと、ほむらの瞳を見詰めていた。狂気は無い。ただ、愛するが故に。

 

「私はきっと、敵になるよ」

 

「それでも。私は何度でもまどかを取り戻す」

 

「きっと、ほむらちゃんを傷つけちゃうよ」

 

「構わない。その痛みも、私は愛おしい」

 

「なら、誓って。ずっと私を愛するって。深淵の中に佇んでても、私を迎えに来るって、誓ってよ、ほむらちゃん」

 

 一歩、また一歩。ほむらは重い足を踏みしめてまどかに近づく。そうして踏み出せぬ程に近付けば、震える腕で彼女を抱き締める。

 

「もう、放さない。二度と。まどかは私のものよ。だから、お帰り、まどか」

 

「……ただいま、ほむらちゃん」

 

 女神と悪魔。相容れぬ者達は、しかし互いを愛する。その内に深い人間性を宿し。

 だがそれで良いのだろう?人とは愛を求め、愛に生き、愛に死ぬのだから。それは悪魔も女神も変わらぬ事なのだ。故にこの二人もまた、結ばれる。

 その先に血みどろの世界が訪れようとも。祝福されずとも。彼女達は互いを愛する。それこそダークソウルの極み。かつて父が奴隷騎士の中に見た、深い愛。

 

 私は、確かに少女達の歴史を見た。そして一つの終焉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、これは予想外だね」

 

 屋上。トップハットを深く被り、煙管を咥えたキュゥべぇが言う。その隣で遠くから少女を見詰めるのは悪魔殺し(Slayer of the demons)。満足そうに二人を見詰める彼はふっと笑えば語った。

 

「そうだろうか。俺にはこの結末は必然であったように見える」

 

 ぷはーっと煙を吐き出すと、キュゥべぇはふぅん、とだけ反応した。彼にとっては少女達の愛はどうでも良いらしい。ただ何となく、しかし不満がないように生きられればそれで良いのだ。宇宙の事など最早どうでも良い。それがこの個体だ。

 

「少女達は愛を自覚し、傷付け、しかし最後には愛に溶け合う。それこそ人の(ソウル)だろう?悪魔殺し(Slayer of the demons)よ」

 

 その背後で、私は制服に身を包んだまま彼に問う。タツヤは何も言わず、しかしずっと姉とその友を眺めていた。満足そうに、それでいてその瞳には野心を抱き。その野心は波乱を呼ぶに違いない。

 だが悪くはなさそうだ。いつまでも何事も無く平和なのは良いが、それだと生きる喜びを補えない。

 

「これから君はどうするのかな、悪魔殺し(Slayer of the demons)よ」

 

 そう問えば、彼は立ち上がってぐっと背伸びをした。何かをやり切ったように。しかしこれから何かをするかのように。

 

「先程はああ言ったが……そうだな。やはり悪魔を見ると血が騒ぐ」

 

「ふん……だろうね」

 

「止めないのか?」

 

「止めるとも。だが今じゃない……そうだね、もっと彼女達の愛が燃え盛った頃、止めることにしよう」

 

 それだけ言えば、タツヤは満足したように頷いて立ち去る。

 

(ソウル)を求めよ、狩人」

 

 それだけ言って、彼は濃霧の中に消えて行く。私はキュゥべぇの横に座る。

 

「君達は物事を厄介にする達人だね。折角仕事も終わったのにさ」

 

「その折はありがとう。だが良い経験になっただろう?」

 

「どうかな。僕としては気ままにあの夢でのんびりするのも悪くないんだけどね……まぁ同胞達が困惑する様は楽しめたよ。ああそうだ、君の使者達、ちゃんと躾といてくれよ。毎回会う度に仲間だと思われて囲まれるのは精神衛生上良くないんだ」

 

「ふふ、分かったよ」

 

 じゃあ、またね。そう言って彼はどこかへ立ち去る。こうして日々は続いて行く。その時を待ちながら。

 百合の花は咲き乱れ。しかしそれでは満足できぬ。その花を手に入れたいと思う事は、おかしい事だろうか。

 




これで叛逆は終わります
少し日常回を挟んで、次の物語へ

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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