魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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とりあえず伏線回収から


婚姻

 

 

 

 

 

 

 それは悪夢。閉ざされ、最早かつての栄華を思わせるものは破壊された美品の品々のみ。それも天井の高い部屋一杯に散乱し、踏み入れる者達を歓迎する素振りも見せぬ。仮に入れたとしてもその土地は異形に溢れ、死して尚怨念を抱き彷徨い続ける亡霊達が闊歩している……地獄そのもの。

 外からその地を見れば、古びた威風のある建物と万年降り続ける雪も相まってどこかの観光地にでも見えるのだろうが。それでも人はやって来ない。分かるのだ。自らの(ソウル)が、この土地は呪われていると。この土地は、そのものが悪夢なのだと。

 

 それは廃城カインハースト。現実ではない、しかし幻でも無い。確かに存在し、しかし月は降りる事はなく。夢、それも暗い悪夢の中に聳える城なのだ。

 

 

 久しぶりにこの城にもやって来た。いつ以来だろうか、確か覚えている限りでは死して尚秘密を秘匿し続ける殉教者をさくっと屠り、女王に血の穢れをこれでもかと捧げ求婚した時以来だ。

 今でも彼女の鉄仮面越しに響く美しい声が脳に木霊している。まどかもほむらも、そして人形ちゃんも確かに甘美な声をしているが、それでもあの女王から発せられる熟しても尚脳を蕩けさせる甘い声色は超えられぬ。

 よく想像したものだ、あの鉄仮面の下に隠れる顔を。すらりと長い手足、雪のように白い肌、それを映えさせる真紅のドレス。いつか彼女の隣に座り、その仮面の下を覗いて百合の花を咲かせてみたいと思ったものだ。

 

 それがまさか、あの貴族の娘だったとは。忘却というものは恐ろしい。何も知らず、彼女の前に跪いた私を……女王はどういう心境で見ていたのだろうか。失望か。それとも。

 

 だが、それももうじき分かる。城内を足速に駆け抜け、道中の亡霊や使用人達に挨拶を済ませるとローゲリウスのいた場所を通り抜けて血の女王の間へと向かえば。

 

 

 

「貴公。また、来たのだな」

 

 

 彼女は。血の女王アンナリーゼは、変わらずそこに座していた。

 私はなんだからしくなく緊張して、ぎこちなく歩く。数多の少女達と触れ合って来たはずなのに、そして何度も穢れを捧げて来たはずなのに。まるで告白間近の少年のように。

 

 いつもならば跪く場所で、私は立ち尽くしたまま彼女を見据えた。互いに何も言わぬ。彼女は私が跪くまで。私は決心がつくまで。

 

「…………」

 

「…………」

 

 静寂の城内で、痛いくらいの沈黙が我々を支配した。最初の一言が発せない。それくらい女王からの威圧感と申し訳なさが凄い。

 私をヤーナムへと誘った本人。悪夢に囚われる間接的な原因。されどそれを恨む事など絶対にするはずもない。なぜなら私は多くの悪夢で狩りをこなし、そして上位者へと至り。本当に大切だったものを見つけることができたのだから。むしろ感謝しなければなるまい。

 

 仕方が無い。ここは、昔の私に頼る事にする。私は夢を利用し、一瞬の内に衣装を着替える。いつもの人形ちゃんの服とヘッドドレス、そしてマリアお姉様のズボンとグローブ。それらをすべて夢に預け、纏うは懐かしき魔法少女の装束。何ら面白味も無い異邦の、全体的に暗い配色の服装。

 それに着替えた私は、胸に両手を当てて瞳を閉じた。深呼吸し、心臓の鼓動を整える。

 

「待たせたね……アンナ」

 

 ずっと、言えなかった名前を呼ぶ。すると私の脳が、(ソウル)が、血の遺志が、過去の情景を思い起こさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、勇者さん。なんで私の名前を呼んでくれないのかしら」

 

 かっぽかっぽと音を鳴らして歩く馬の上で、背中に寄り添う少女は尋ねた。私は振り返ることもせず、一瞬だけ瞳のみを動かして彼女の方を見た。

 返答に困る質問だ。あんなに泣き虫で寂しがり屋なのに、平常時はいつもこうやってお姫様を気取る。それも彼女の個性だし、私も特に何も思わないが。それでもこうやって私のプライベートな部分に貴族らしくズカズカと触れてくるのは辞めてほしい。

 

「別に。大した理由じゃ無い」

 

 素っ気なく、しかしいつも通り私は答えた。秋の太陽はそんな私の冷静さを溶かすように照り付けている。暖かさ、そして寒さも特に感じない魔法少女の私にとっては至極どうでも良い事象だが、後ろの娘にとってその陽気はどうでも良い質問を掘り起こすくらいの動力を得るくらいには役だったのだろう。

 だが、私のこんな回答じゃ満足しないのも当たり前だ。出会ってもう一月。常に共にいるのだから、それくらいの事は分かる。

 

「あのね、私が尋ねてあげてるのよ。ちゃんと答えて」

 

 本当にこの娘は。顔は良いし髪も輝き、私よりも少し高い背丈で美しいのに図々しい。

 私はため息混じりに振り返らずに口を開いた。

 

「名前を呼べば、きっと忘れられなくなる」

 

「え……貴女、もしかしてそっちの気があるの?」

 

「違う、そうじゃない……だから言いたくないんだ」

 

 ムカっとして今度こそ私は殻に閉じこもった。誤解など、今更だ。長い人生の中で理解される事の方が少ない。だがこれほどまでにこの少女に勘違いされる事が苦痛だとは思わなかったが。

 すると少女はふぅん、と何かを納得したように唸った。こういう時、この図々しくて遠慮が無く、それでいて聡明だったりするこの娘は的確に物を当ててくる。

 

「意中の人に振られたとか?」

 

「……」

 

「本当?」

 

「言いたくない」

 

「それは答えを言っているようなものよ」

 

 そうして少女はふふっと笑う。私はうんざりしながらも、馬を歩かせる。まだ町までは距離がある。この話も途切れる事はないだろう。彼女は空気を読まない。

 

「それで?」

 

「なんだ」

 

「だから、どんな男にどうやって振られたの?」

 

「君は本当にアレだな……ふぅ」

 

 込み上げる苛立ちを抑える。そしてしばらくしてから、きっと真後ろで瞳を輝かせている思春期の少女に聞こえるくらいの小声で言った。

 

「男じゃない。私の……友だ」

 

「やっぱり貴女、そっちじゃない!」

 

「話を聞き給えよ、貴公……彼女は、私の戦友だった」

 

 それだけ言えば、聡明な少女は話の半分を理解出来た。急に大人しくなった少女に、身の上話をする。

 

「彼女はまだ幼く未熟な私を支えてくれた。私の半身のような人だった。可憐で、美しく、魔法少女の模範のような気高い少女。きっと英雄とはああいう者の事を言うのだろうね。私はずっと彼女の背中を見て育ち、戦って来た。血生臭い戦場を、しかし心折れる事なく」

 

 左手を、太陽に透かす。私の魂である指輪が、キラリとその存在を主張した。

 

「ずっと一緒だった。何をするにも。彼女の名前を呼ぶ度に、あの子も私を呼んでくれた」

 

「……私、貴女の名前すらまだ知らないわ」

 

 手を下げ、前を見る。

 

「名を教えれば、君は私の事を呼ぶだろう。そうなれば私も君の名を呼びたくなる」

 

「その子は、どうなったの?」

 

「死んだ。殺された。どちらでも同じだ、私の前で死んでしまった。それからは誰とも徒党を組まず、一人さ」

 

 あの時の事を思い出す。もうずっと前の事だ。正確な時間など忘れてしまった。それほどまでに私は世界を彷徨っていたのだろう。

 当時、私は相棒の少女、アンリを中心とした魔法少女の集団に属していた。身勝手な願いで魔法少女となり、行く当てもない私を拾ってくれたアンリはまさしく私の中の希望。彼女はただ強く、正義感に溢れ、そして気高い一輪の百合……いや、百合など、気高くはない。現に私は意地汚く生き残る老害のようなものだから。

 

 数年、戦はあれど、死人は出れど、私達は魔女を狩り、そして敵対する悪い魔法少女と戦い生き延びて来た。魔法少女が魔女になるという事実を堪え、それでも戦った。だが常勝の軍などどこにもありはしない。唐突に、終わりはやって来た。

 あの吹雪の日。いつものようにテリトリーの村からの要請で私達は山賊と化していた魔法少女集団の討伐に当たった。だが、それは罠だった。いくら人を助けようとも、魔なる存在は例え魔法少女であろうとも人に受け入れられるはずもなし。気味悪がり、魔女と呪う村人達は敵対する魔法少女と結託し殺しにかかったのだ。おかしな話だろう?私達が魔なるものならば、彼らが結託した者達も同じじゃないか。人とは実に愚かなものだ。

 そうして私達は奇襲を受け、多過ぎる犠牲を払いながら敵を皆殺しにし。結果は、知っての通り。私だけが生き残った。

 それ以来私の心はアンリに取り憑かれ、彼女の愛を掻っ攫って行ったあの女神への呪いを忘れられずに生きている。ここでまた愛する者を得てしまったのならば、別れが辛過ぎる。

 

 彼女が呼ぶように、私は勇者などではない。臆病で汚らしい魔女にもなれない半端者なのだ。

 

 

 気がつけば、それらをすべて少女に話していた。ハッとして、私は黙り込んでしまった少女に向けて結言を述べる。

 

「だから私は、誰の名も呼ばない。誰からも名を呼ばれない。そうすればきっと、私は呪われずに済むから」

 

 秋の日が照らす中。馬は進んでいく。黙り込んだ少女達を乗せて。ぎゅっと、私の背中を抱きしめる少女の温もりを否定しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━名を、呼んだ。女王はしばらくそのままじっと仮面越しに私を見ていた。その瞳に抱く感情は、鉄仮面越しには分かるまい。私は蛇に睨まれた蛙が如くずっと立ち尽くす。

 じとりと汗が滲む。思えば彼女と対面するときはずっと私のペースを崩されていた。あの我儘で泣き虫で寂しがり屋で図々しい貴族の娘は、凍えてしまった私の心を確かに溶かしていたのだろう。私はとうとうその事にも気付かず、気付こうとせず、狩人となりその暖かい思い出も忘れ去ってしまった。罪人とは、真私の事だ。

 

「……あの旅で、私は最後まで貴公の名を知る事はなかった」

 

 女王が、立ち上がる。ゆっくりとした足取りで階段を降りて来る。私はそれが怖かった。恐ろしかった。彼女に嫌われてしまったのではないかと勝手に思って。

 

「あの旅は、私にとって何よりも大切な思い出だった。掛け替えのない、導きだった」

 

 女王がその仮面に手を掛ける。

 

「貴公が孤独な私の前に再び現れた時。心が跳ね上がった。迎えに来てくれたのだと、喜びが胸を支配した」

 

 私は気付かぬ内に頭を垂れていた。項垂れるように。合わせる顔が無かった。

 

「跪き、穢れた血を求めた瞬間。私は貴公がかつて言っていた事を理解したよ。嗚呼、確かに、名など教えるものでは無かったと。心の底から後悔したものだ」

 

 眼下で鉄仮面が転がるも、私は彼女の顔を見れない。

 

「穢れを捧げ、求婚されてもその後悔は消えず。ただ、空虚の中に訪れたその喜びもまた、私は抑え込んでしまった。きっとまた、貴公は私を忘れてしまうのだろうと、な」

 

 そっと、私の頬に彼女の両手が触れる。氷のように冷たく、しかし人間性の暖かさと血の熱さが通う愛しき手。

 

「だが、こうして。貴公はまた戻って来てくれた。私の名を呼んで。……ねぇ、貴女。お願い。顔を上げて」

 

 優しい手が、私の顔を上げた。私の頬に涙が伝う。懺悔、後悔、悲しみ、そして贖罪。すべて同じ事。

 

「だから。貴女も名前を教えて、勇者さん。そしてもう一度、指輪を渡して。きっと今なら、貴女の気持ちに答えられるから」

 

 あの時から何も変わらぬ。ただ美しく、聡明で、泣き虫な、でもしっかりと成長したあの子がそこにはいた。同じく涙を流し。細やかな肌を伝って行く。

 私は無理に笑顔を作り、それでもしっかりと告げる。

 

「リリィ。私の名前は、リリィ」

 

「リリィ。お帰りなさい……さぁ」

 

 促され、私は懐から古めかしい指輪を取り出す。

 それは婚姻の指輪。地下に潜りし聖杯にて得た上位者達のもの。かつての私には、その意味が理解できなかった。高次元暗黒に潜む彼らが何を思い、何を込め、人に渡したのか。でも今なら分かる。人の温もりを取り戻し、真に闇を理解した私ならば。

 

 その指輪を片手に、跪く。そして彼女の左手を、そっともう片手で優しく掴んだ。

 

「やっと、報われる。王女としてでは無く、赤子など関係が無い。一人の乙女として、永遠に貴女のものになる」

 

 彼女の左手の薬指に指輪を嵌める。優しく撫でるように、そっと。ファンタジーのように光り輝いたりもしない。何か特別な事は起きない。でもそれで良いのだ。婚姻とは、正しく当事者だけの幸せなのだから。それが例え、同性同士でも。

 私という百合は今、幸せの絶頂にいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと。

 

 

 星の娘とマミにどう説明すれば良いのだと深刻な悩みが頭を過るが、それは今は良い。ただ彼女の唇と私の唇を重ね、百合の花を咲かせれば良いのだ。数回死んだ所で痛くも痒くもない。そういう事にしておこう。

 




すべての血族の願望、それはアンナリーゼ様と結ばれる事なのです。
何度も求婚してると笑うアンナリーゼ様マジ最高可愛い……バババババ(UAV online)

どこまで書いたら良いかアンケート取ります。反映するかしないかは気分です(横暴)

  • アニメ本編のみ。あともうちょい
  • 叛逆。展開は変えるかもしれません
  • 叛逆後も。クオリティ低し(断言)
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