魔法少女ぶらぼ☆マギカ   作:Ciels

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前話に一部加えました。ブラボらしいでしょう!


You Wish I'd Never Been Born
病の幼子


 

 少女の心は麗かで清く、そして美しい。かつて私はイズと大聖堂にて星の娘と会い、あまりの宇宙的な美しさに心を奪われたものだ。これほどまでに澄んだガラス細工のような瞳と心があるのかと。それからかもしれない。私が人である事を辞め……いや、更なる進歩を遂げたいと考えたのは。

 故に、少女の心は割れやすい。多感な感情を処理し切るには、少女の心では器として小さすぎるのだろうか。清く、美しく、しかし小さい心では溢れる呪いには立ち向かえないのだろうか。

 

 夕暮れの病室で、美しい人魚の少女は思い他人と時間を分かち合う。バイオリンの優雅で清々しい音色を互いに耳にし、今この場だけは二人の夢。

 夢は有限かつ無限である。広大な夢の中では何もかも願いが叶うものだ。しかし夢とは、悪夢ではない。巡らず、そして目醒めの時がやってきてしまう。

 この場合、少女の目醒めは思い他人の少年が音色を聴きながら石と化した左腕を僅かばかりに動かした事だった。それを見て、人魚姫の淡い恋夢は打ち破られる。

 純粋なまでに清らかな心は、その呪いに耐えきれない。いつしかのようにバイオリンを奏でたいという少年の、呪いにも似た願望は多感な少女にも伝染する。

 だから悩む。呪いを共有する者として、少年と目醒めを迎えたい者として。

 美樹さやかという健気で多感で気高い少女は、恋という呪いに支配されている。

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女体験ツアーも二日目となる夜。マミは異形の使者達を、自身が誇る巨大な砲でもって粉砕してみせた。そして帰路に着く彼女達は、巴マミという魔法少女のルーツを知り。美樹さやかという恋を抱く少女は自らの願いの一端を告げ、否定される。否定され、問いかけられるのだ。

 自らの願いは、果たして自らの利となるものなのか。または他人からの感謝を拝領したいが為の……恩を着せるためのものなのか。

 同時に聖女であり女神は、宇宙からの使者によって自らの魔法少女としての素質を啓蒙される。そして父に問うのだ。願いとは何なのか、夢とは何なのか。生き方とは。

 

 

 

 

 

 

 私は私で、今日はツアーに参加せずに一人街を練り歩いていた。マミやまどか達には参加できない事を告げている。今は夕暮れ、きっとマミは今使い魔を狩っている頃合だろうか。まぁ良い。魔法少女の狩りを見られない事は残念だが、それよりもやらなくてはならないことが私にはあったのだから。

 クレープとチーズをコンビニという店で買い、私は見滝原の病院へと辿り着いた。一人の、少女とはまだ呼ぶには早い幼子に会うために。

 

 瞳の囁きに導かれるまま、私はとある個室を訪れる。病室の札には可愛らしい名が刻まれている。百江なぎさ。その幼子に、私は用があったのだ。

 扉を開けると、まるでいつしかの私のようにチューブに繋がれた少女がベッドに横たわっていた。朦朧とする意識の中、少女は私に気が付かずに窓際にいる何者かと交信している。宇宙からの使者、キュゥベぇだ。

 

「やぁキュゥベぇ、契約はまだだね?」

 

 そう尋ねると、キュゥべぇは血のように赤い瞳をこちらに向け、表情を一切変える事なく言う。

 

「驚いた、まさか君がここに来るとはね。理由を聞いてもいいかな?」

 

 明らかにキュゥべぇは上位者でありながら狩人たる私を警戒しているようだった。無理もないだろうか。世界は違えど互いに上位者である事は変わらない。そして争うのは、大概同じ種族同士だ。ならばこそ、彼らは私を警戒する。

 私はようやくこちらに気がついた少女の傍に近寄り、彼女を挟んでキュゥべぇの対面へと座る。ゴツゴツとしたプラスチック製の椅子はひんやりと私の肌を冷やす。

 

「君と同じさ。魔法少女となり得る幼子に、ちょっとした助言をしにきた」

 

「まさか君まで魔法少女になるな、なんて言わないよね?」

 

 あからさまに警戒するキュゥべぇを、私は笑う。嘲り。

 

「まさか!魔法少女は尊いだろう?尊いものが産み出される事は、素晴らしいじゃないか……なぁ、なぎさ?」

 

 幼子に問いかけると、彼女は朧げな瞳で口を開いた。

 

「だれ……?」

 

 そう尋ねる幼子に、私は優しく頭を撫でた。薬で抜け落ちてしまったであろう帽子で隠された頭部を、直接素手で撫でたのだ。

 

「人はこう呼ぶ、月の香りの狩人と。だが今の私は百合の狩人と名乗っている……そして、友人達は私をマリアとも呼ぶ」

 

 幼子は答える事なく、私の瞳越しに宇宙を啓蒙した。なるほど、良い魔法少女たり得るな、この娘は。それほどまでに高い啓蒙を宿しながら……いや、死と向き合う幼子だからこそだろう、そうでなければこれほどの啓蒙を純粋に人は持ち得ない。ヤーナムであれば良い狩人になっただろうか。

 病とは、どんな時代でも恐ろしいものだ。彼女が私の瞳を覗き、その苦痛を少しでも和らげられるよう祈る。

 

「なぎさは、どんな願いを望む?」

 

 キュゥべぇの仕事を取るように、私はなぎさに問いかけた。少しばかりの啓蒙を授かったなぎさは掠れた声色で答える。

 

「一つでいいから、チーズを……最期に、食べたいのです」

 

「美味しいものね、チーズは。私も好きだ」

 

 だが、そうではないだろう。君なら分かるはずだ、なぎさ。願いを叶えられる機会を与えられ、そして啓蒙もある君ならば。

 

「でも、本当は。元気になって、お母さんに甘えたいのです」

 

「それが君の願いかい?」

 

 キュゥべぇが食い気味に言って見せた。タイミングは完璧だった。感情がほとんど無い君達がよく最初の願いを素通りして見せたと、褒めてやりたい。

 そうしてなぎさという幼子は肯く。自らの願い、それは反動として呪いを生み出すことになるとこの幼子は知りながら。それでもどうしても叶えたい願いは、叶えるべきだ。

 青ざめた血を求めた私のように。狩人の悪夢で、真実を知りたいがためにすべてを犠牲にした私のように。それが、彼女には赦される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸が騒つく。そこまで野生の勘などには強くはないと理解はしているが、大概こう言う時は良くない事が起こる前兆だと人は言う。論理的で冷徹なほむらは、現れるであろうお菓子の魔女を待ちながら、そんな事を考える。

 ほむらは知っている。今日、この病院にてお菓子の魔女が産まれる事を。弱々しい少女が契約し、その直後に絶望し、消え入るようにグリーフシードを経てから危険な魔女に至ると。

 だがその兆候がまるで無いのだ。

 

 道路を挟んで向かい側のビルの上から、狙撃用の小銃に備え付けられた眼鏡を覗き込み、グリーフシードを探す。本来ならばある場所を中心に、見える範囲を探して。

 ふと、眼鏡の端に見知った少女達が映った。桃色の髪を結んだ鹿目まどかと、その友人であり哀れな恋心を抱く美樹さやか。そして、今最も危惧しているイレギュラー……白百合マリア。その三人を。

 

「白百合マリア……」

 

 その存在は、未来の可能性を身を以て体験してきたほむらからすれば異常とまで言える。魔法少女では無いのにも関わらず魔女と戦える未知の戦闘能力と、一部の少女達が持つキュゥべぇが見える……所謂、魔法少女としての素質を兼ね備えたイレギュラー。そんなもの、彼女は知る由も無かった。

 あるいは、こう言えば多少なりとも考察する余地はあったのだろうか━━上位者と。

 耳を澄ませば、魔法少女の聴力は離れた場所にいる三人の会話を傍受できる。

 

「いや〜わざわざ会いに来てやったのに失礼しちゃうわよね〜」

 

「残念だったね……上条くん、体調よく無いのかな」

 

 ほむらは知っている。美樹さやかが同級生であり幼なじみである上条恭介のお見舞いに来ていて、鹿目まどかはその付き添い。であれば、白百合マリアも同様だろうか。

 

「上条くん……さやかの幼なじみだったかな?ほう、なるほどなるほど、さやかも立派な乙女という訳か。ふふ」

 

「ちょ、違うって!恭介とはそういう間じゃ……」

 

 どうやら白百合マリアは上条恭介についての知識が無いようだった。ならば、彼女は如何にして見舞いの付き添いに来たのだろうか?

 

「でもマリアちゃん、偶然だね。マリアちゃんの知り合いも入院してるの?」

 

「うん?あぁ、そうさ。と言っても、もう元気になったから退院するけれどね」

 

 知り合いが入院している。その情報はほむらが持ち得ていなかった情報だ。

 以前、というより彼女が転校してきた初日にほむらは白百合マリアという人物の身辺調査をしている。親はイギリス人と日本人で共に海外で働き、今は近場のマンションで一人暮らし。兄弟は居らず。親戚や知り合いも見滝原にはいなかったはずだ。

 そもそも白百合マリアという人物には不明な点が多い。産まれも育ちもイギリスなのに、わざわざ日本に来る理由がない。学業も優秀、日本語と英語を使いこなし、イギリスでは優秀なお嬢様学校に入学していた……

 にも関わらず、彼女はわざわざ都心から離れた見滝原という地の至って普通の中学校を選んだ。

 

「一体何を考えているの……」

 

 故にほむらは危惧する。噂によれば、彼女は狩人と呼ばれる魔法少女にも近い存在らしい。そんな不審でしかない彼女が、あの二人に良い傾向を齎すなどとは考えようがないのだ。

 

 と。不意に彼女達の頭上の窓が開いた。三階の、確か個室だったはずだ。そこの窓が開かれて一人の少女が天真爛漫に手を振ったのだ。

 

「マリア〜!またチーズを持ってくるのです!」

 

 眼鏡越しに映った光景が信じられなかった。銀髪の幼子……百江なぎさ。お菓子の魔女となる、末期の小児癌の患者である彼女が、まるで病気などしていないように手を振っているのだから。

 そんなはずはない。どの世界でも、彼女は末期癌で、頭髪は抗癌剤で抜け落ち、立ち上がる元気も最早無かったのだから。そしてチーズを一つ食べたいという哀れな契約をし、お菓子の魔女と化す。そんな末路が待っている幼子なのだ。

 

「今度は退院してから会おう、なぎさ」

 

 幼子に気を取られている隙に、白百合マリアが彼女に小さく手を振る。そして、なぎさの振る手に、正確には薬指に取り付けられた指輪を見て確信する。あの狩人が、彼女を魔法少女に仕立て上げたのだと。

 

「〜!」

 

 即座に眼鏡の十字線の中心を白百合マリアの頭部と重ねる。そして引き金をゆっくりと絞っていく。

 最早イレギュラーどころではない。彼女は敵だ。少女を魔法少女へと変えてしまう、悪しき宇宙の手先だ。それを許すわけにはいかない。

 

 だが。ほむらは知らない。宇宙を覗き込んだ先に何があるのかを。そしてまた、宇宙を覗けばまた、宇宙も彼女を認識しているのだと。

 

 目が、合った。少なくとも数百も離れている距離から、あの冷血で冷酷な狩人は、ほむらを見ていた。寒気のするような笑みを浮かべ、まるでほむらを狩の対象とするような、そんな気配を醸し出して。故に、宇宙悪夢的な瞳はほむらを狂わせる。

 

「〜、つぁ!」

 

 湧き上がるように、沸騰するように血が滾り、少女の身体では抑えきれずに溢れた血が瞳から涙のように溢れた。すぐさまほむらは小銃を盾に収納し、その場を離れる。全力で、ひたすらに逃げるように。

 狩人?一体彼女は何を狩ってきたのだ。魔女ですらない。そんな、少女如きの呪いで済むものではない。もっと業が深い何かを、彼女は狩ってきたのだと。

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 息を切らし、それでも精神を落ち着かせるようにほむらは逃げる。そして決意もした。

 彼女は排除しなければならない。でなければ、鹿目まどかが危ない。きっと奴は彼女の素質に気がついている。気がついていて、法則を曲げてまで転校してきたのだ。

 神秘に触れた魔法少女は、故に狩らなければならない。あの狩人を自称する悪魔を。だが悲しいかな、その神秘を理解するには人の身では啓蒙が足りないのだ。━━魔法少女とて、私からすれば人の子だろう?

 




なぎさの設定は考察を見て流用したものです。合ってるかどうかは啓蒙が低いのでわかりません
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