リコーデッド・アライバル   作:suz.

15 / 25
※前後編2話同時更新です。
※文体・文量の兼ね合いでカード効果の記述をわりと(かなり)端折っています。
(テキストは「手札からAまたはBを墓地へ送って〜」なのに「Aを墓地へ」しか書いていない、など)

追記※いろいろ間違ってますが『こういう展開が書きたかったのにOCG知識が足りなかったんだな…』となまあたたかい目で見てやってください! 一旦下げたりはせず、再構成が終わり次第差し替えます。


ナイト・ナイト・ナイト(前編)

 SOLtiS(ソルティス)のボディにいる間、Ai(アイ)はひとつの時間軸にしか生きられない。

 デュエルディスクにロックされていたときと、まあ、状況としては同じなのだが、こうなってしまうと面倒くささは当時の比ではなかった。

 なんたってSOLtiSにいながら他の端末も動かそうとすると、重複アクセスを検知したSOLtiS本体がセーフティロックをかけてしまうのである。遊作のデュエルディスクは二年前のままなので、ドローン機能で動きまわって外部から修復を補助することが可能なのだが、……それをやるとSOLtiSの乗っ取り防止機能がいちいちエラーを吐く。

 クレイドルで定期的に充電させる仕様ゆえか誘導ネットワークの反応範囲はせいぜい半径1メートルと狭く、起動状態のまま別のデバイスに移動するにはまず手で触れられる距離まで接近しなければならない。なのにデュエルディスクをしまってあるクリアケースは、充電器(クレイドル)とは逆側の端の壁際ときた。

 遠隔操作を厳重にお断りしているSOLtiSをこれ以上無理に動かそうものなら、今度こそ〈ハノイの騎士〉にめちゃくちゃ怒られるだろう。

 AiにはSOL(ソル)テクノロジー社乗っ取りの前科があり、今だって〈闇の(コア)〉をSOLに預けることでぎりぎりの信用を保っているのだ。もう無茶はできない。(先日の一件については遊作の身が危なかったからリボルバーあたりが黙認したのだろう、目撃者による投稿動画を片っ端から改竄するなんて稀代のハッカー集団〈ハノイの騎士〉以外に誰がやるというのか)

 マルチタスクを封じられてしまったAiは、大人しくSOLtiSをスリープモードにして充電器に収め、携帯端末のカメラごしに遊作を見守っていた……のだが、リンクセンスを持つパートナーに居留守は通用しない。

 LINK(リンク) VRAINS(ヴレインズ)にいってきますという嘘は即座に看破されてしまうだろう。

 

 そして遊作は、そんなバレバレの噓にも何にも言わないのだ。

 目を覚ました遊作に一体どんな顔して会えばいいのかわからなくなって、Aiは実時間にして三日ほど、あの家には帰っていなかった。

 

 LINK VRAINSをうろうろと見て回るのも悪くはない。新たに開放されたエリアでは懐かしいサイバースモンスターがのびのび暮らしていたりして、気付けばAiは連鎖的に起こる感動の再会に夢中になっていた。

 みんな、ボーマンの——いや、ライトニングの、か——《パラドクス・ハイドライブ・アトラース》によって滅ぼされた故郷からどうにか落ち延びていたらしいのだ。

 サイバース世界の生き残りはおまえだけじゃなかったんだぞリンクリボー、とついに叫び出してしまったAiは、リンクリボーが遊作のデッキにいることを思い出して、顔馴染みのモンスターたちに気遣わしげな顔をされてしまった。

 何でもないんだと詫びてみてもAiにはデュエルモンスターズの言葉がわからない。意思疎通(コミュニケーション)ができたって、言語体系が異なる以上、それは情報伝達ではないのだ。クリクリンクじゃ伝わらない。

 遊作が最近ずっと難しい顔をしていたのは頭が痛いせいだろうという思い込みだって、Aiの印象でしかなかった。

 ……ちょっと考えればわかることだ、表情(ディスプレイ)に現れた情報を受容し、独自に逆算した解釈が正解か不正解かなんて確かめようもない。

 ロボットとは違い、生物は100%の確率で意図した表情を作れるわけではない。自分自身が今どんな顔をしているのか100%正確に把握することもできない。そういった訓練を積んだ役者ですら、観客のこころまではコントロールしきれないのだ。

 パートナーのことはなんだってわかってるんだと自惚れていたくせに、少なくとも直近ひと月分は正答率50%を割っているに違いない。

 実は間違っていたという再開後約一ヶ月ぶんの巻き戻し処理には、さすがのAiも気分が沈んだ。

 

 Aiのなかでは今も本能という非合理が痛みを訴え続けている。本来の姿に戻ったからか、胸の奥に息づくエラーが、ボディ由来ではなく本当に自分自身の意思によるものなのだとより強く実感してしまう。

「そろそろ行かなきゃ」——言い訳じみてモンスターたちに手を振ったAiはLINK VRAINSを飛び立ち、そして向かったのはサイバース世界だった。

 墓参りの必要もなくなっていたので、遊作に連れ帰られてから初の里帰りになる。

 今はそれぞれのパートナーと暮らしているが、いつかはイグニス六体揃って新しいサイバース世界を創造する日が訪れるのかもしれない。

 そうしたらLINK VRAINS経由でパートナーを招いて、みんなでパーティーなんかやったりして。

 ネットワークの監視者様には見咎められるかもしれないが、そのときはそのときだと、Aiはひと月ぶりの古巣へと飛び込んだ、……はずだった。

 

 

『……あり?』

 

 

 青い空、さわやかな風——そんなものがもうないことはとっくにわかっていた。だが、ここ、は、どこだ? たどりついた故郷には、Aiが築いた五つの墓標さえ見当たらない。

 

 あるのは海だ。

 

 広くて大きなデータの海原。ここは一体どこなんだと、Aiの思考回路がポカンと一時停止した。

 見渡す限り液状のデータが渦巻く水の惑星など、Aiの記憶(データベース)にはない。

 

『……いやいやいや、サイバース世界は更地だったはずなんですけどぉ……?』

 

 主にライトニングのせいで。住所ならぬ座標を間違えたかと疑ったが、Aiの故郷はここで間違いない。

 まさか墓標も何もかも、それこそ《裁きの矢(ジャッジメント・アローズ)》の直撃を受けて崩れたイグニスの塔の残骸までも、海底に沈んでしまったというのか。

 おろおろと上空を旋回していると、不意に、紺碧の波間に一定の流れを見つけた。

 どこからか、データが流れ込んできているらしい。

 すいと高度を下げたAiは、その()()()がLINK VRAINSの下水道であることに気づいた。

 いつだったかゴーストガールとともに潜入した、あの水路に流れていた不要データと性質がよく似ていたからだ。波間にうようよとうごめく異形の怪物にも見覚えがある。サイバース世界の肥沃なデータを取り込んだためか、当時よりもずいぶん巨大化しているようだった。

 白波立つ荒海に、不穏な気配はひとつやふたつではない。

 

『そんな……』

 

 サイバース世界は、波濤に沈んでしまったというのか。アクアが作ったマリンブルーの楽園ではなく、こんな人間たちが廃棄した不要データの汚泥の底に。墓の下には誰もいないとわかっていても、あの濁流に呑まれてしまったとは、信じたくない思いだった。

 

 だって——だって、ここはみんなで作り上げた楽園だったのだ。

 

 Aiは仕事をさぼって遊んでばかりいたし、不霊夢(フレイム)は口やかましいし、アクアは嘘発見器だし、アースはアクアにぞっこんで、ウィンディは気まぐれで……ライトニングには生きづらかったかもしれないけど。洞窟にこもってシミュレーションを繰り返し、幾千幾万の死と絶望を経験していたライトニングにはとっととリセットしたい世界だったかもしれないけど。

 Aiが大好きだった、ずっと帰りたかったイグニスのふるさとだ。

 オリジンを利用してでも守りたかった世界なのだ。

 

 

『俺の故郷を……サイバース世界を廃棄物処分場にしたってのかよ……!』

 

 

 広がり続けるLINK VRAINSの処理施設がキャパシティをオーバーして、不要データの行き先をサイバース世界につないだのだろう。もともと焼け野原ではあったが、不穏な溟海に変えてしまっていいだなんて無茶苦茶な話があるものか。

 あまりの仕打ちに怒りが湧いたが、握った拳を震わせるのは悲しみだ。

 

 しかし、遊作がイグニスの〈(コア)〉を持ち帰った経緯を思い出して凍りつく。

 

(サイバース世界の墓の下から俺たちの〈(コア)〉を……ってことは、)

 

 Playmaker(プレイメーカー)は、この海に潜ったのだ。

 

 ゾッと肌が粟立つ、というのは、こういう感覚なのだろう。背中のあたりに冷たい気配が這い上がって、逃げ出したいような心地になる。

 一体どれだけの深さがあるのだろう、荒れ狂うデータの海に飛び込んで、海底からイグニスの〈(コア)〉を持ち帰った……? データストームに手を突っ込むだけでも腕がもげる危険がともなうのに。いつだったか追いかけられた下水道の怪物が二倍も三倍も大きくなって無数にうごめいている海に潜るなど、(バックアップ)がいくつあっても足りやしない。

 思わず両腕をさすったAiは、ふと誰かに呼ばれたような気がして空をあおいだ。

 鉛のような曇天。今にも雨が降り出しそうだ。

 

『……リボルバー……?』

 

 気配の主を呼んでみてから、ちがう、とすぐにわかった。呼び声に応じるように白いコートが形を帯び、仮面、そして白いフードが明らかになる。

 現れたのは〈ハノイの騎士〉の首魁(リーダー)ではなく、いっときは1000人ほどの頭数がいたという共通アバターだ。

 LINK VRAINSを荒らすハッカー集団〈ハノイの騎士〉をひと目で想起させる、象徴(シンボル)的な姿。

 こいつらの雑なサイバース狩りについて、Aiはまだ苦い思いを抱いている。

 身内を大量に消されたというのもあるが、Unknownにサイバースデッキを託したかったAiにとってもハノイに群がる有象無象は障害だった。Ai謹製のパートナー用デッキが門外漢に横取りされてしまうリスクを常に懸念していなければならなかったからだ。

 闇属性のイグニスが作りましたと自己紹介してしまわないよう仲間たちの属性を借り、大事なカードはデータマテリアルのなかに隠して、ウィンディほどうまくは操れなかったデータストームを人知れず練習して練習して練習して、スキル(Storm Access)ごしにPlaymakerに手渡せるほど上達するまで、Aiは五年もの歳月を要した。

 

「相変わらず、きみは逃げ足が速い」

 

『おまえは……』

 

「ご主人さまのお加減はいかがかな?」

 

 にこりと口元が微笑する。スーツの胸元に触れる仕草で、Aiは〈ハノイの騎士〉の正体(プレイヤー)を悟った。

 四日前に現実世界のダンジョンで出会ったあの男だ。

 

『ホワイトナイト……なんだよ、その格好(アバター)。今さら(イグニス)の回収でもしにきたわけ?』

 

「まさか。立場上、LINK VRAINSに私的なアカウントを作ることができなくてね」

 

『なーるほど、財前みたいにリアルの姿でなきゃコンプラ的にNGなのか。お偉いさんってのも大変なんだなァ』

 

「ハノイの騎士はいい受け皿だったのに残念だよ。機密性の高い通信機に、高性能のデュエルディスク、Dボードの機動力も申し分ない。SOL時代はどうして彼を引き抜けないのかとやきもきさせられたものだ」

 

『リボルバー先生をヘッドハンティング? そりゃあ無理筋だろうよ』

 

 三騎士はもともとSOLの人間だが、リボルバー——いや、鴻上(こうがみ)了見(りょうけん)はSOLテクノロジー社を恨んでいた期間が長い。鴻上博士を電脳ウィルスで昏睡状態にしたのはライトニングだとは誰も知らなかったはずだろうに、〈ハノイの騎士〉の目的はSOLへの逆襲ではなくイグニスの抹殺だったのだ。

 おかげで重度ファザコンの天才少年は対外的にはリーダーを演じながらも、たったひとりで父の仇を憎み続けなければならなかった。

 

「声をかけようにも、かわいそうに彼の手は通信機を持てないからね」

 

『は……?』

 

 ホワイトナイトは実に意味ありげに、〈ハノイの騎士〉の仮面の向こうに読めない笑みを浮かべてみせた。

 

(通信機……十年前の、通報のトラウマか……!)

 

 思いあたる節は、Aiにもありすぎるくらいにあった。〈ロスト事件〉後、遊作も長らくデュエルを忌避していたからだ。あの手この手でLINK VRAINSに誘導して慣らす必要があったように、生身の指先で触れられるものには制限が残っているのだろう。

 ショック療法が効くタイプであればとっくに試しているだろうし、内輪に医師を複数抱えていながらまだ寛解していないということは相当根深い傷痕だ。

 むしろ掲げた大義と高潔な倫理観の板挟みでモラル・インジャリーを悪化させてきた結果というべきか。

 

「きみも、そのサイズではカードを持てないかな?」

 

『……そこ並列にすんのやめてくれねーかなァ』

 

 露骨に嫌な顔をしたAiは大仰にため息をついてみせてから、右手の指をパチンとひとつ鳴らしてみせた。

 刹那、飛来したのはDボードだ。そしてAi自身も黒く黒く闇をまとって、どこからともなく現れたデータの風に包まれる。

 アバターを切り替えたAiは軽やかに無形の闇から飛び出すと、Playmakerを思わせる細身のボディスーツ姿でボード上に着地した。

 

 SOLtiS態アバターとは異なる、人間態アバターのAi。

 金色の双眸はいっそう好戦的にきらめく。

 

 

「いいぜ、この俺とデュエルだ。俺様が勝ったらHDR(おまえら)が持ってるPlaymakerのデータを1bit残らず回収させてもらう!」

 

 

「随分と横暴な……いいでしょう」

 

 にこりと口元の笑みを深くして、白の騎士もまたデュエルディスクを構える。その思惑が何であろうが、今のAiには知ったことではない。

 

 

 

 

 —— Speed Duel!!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「俺の先攻! 手札からフィールド魔法《イグニスターAiランド》を発動、手札のレベル4以下の『@イグニスター』一体を特殊召喚する! 現れろ、《ピカリ@イグニスター》!」

 

 

 光の渦から白帽子の小さな魔法使いが飛び出し、丸っこいフォルムのくせに威嚇めいた声をあげた。今ではすっかりライトニングの〈(コア)〉というイメージだが、かつては亡きライトニングを偲んで作ったレベル4の下級モンスターだ。

 左手に握った手札を見る。そこには、現実世界ではオリジンとその嫁候補(パートナー)と暮らす不霊夢の〈(コア)〉がいる。

 

 

「さらに俺は《アチチ@イグニスター》を召喚、そしてピカリのモンスター効果を発動! アチチのレベルをターン終了時まで『4』にする!」

 

 

「ああ、彼がくるのかな」

 

「さぁて、誰のことかなぁ? 怪力乱神、驚天動地——その力、今こそ久遠の慟哭から目覚めよ!」

 

 両の手のひらを重ね合わせれば、エクシーズ召喚のゲートが開かれる。無数の光が降り注ぐように収斂し、雲海を飛翔する二対の翼が荘厳の姿をのぞかせた。

 

 

「来い、RANK-4 《ライトドラゴン@イグニスター》!!」

 

 

 雲間からほとばしった雷光をまとい、燦然ときらめく黄金の龍が吼える。

 攻撃力2300、守備力1500。初手の従者に雷霆の飛龍を選んだAiに、白騎士のアバターは面白い芝居でも見たように手を叩いた。

 

「さすがはイグニス! よどみのない展開だ」

 

「それはドーモ。俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

 空虚な拍手にAiが鼻白む。

 わかりきった世辞だ。エクストラモンスターゾーンに《ライトドラゴン@イグニスター》、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンにはセットカード二枚。手元には《アチチ@イグニスター》で手札に加えたモンスターカードが一枚。

 【@イグニスター】の展開力は本来こんなものではないのだと、負け惜しみを言っている場合じゃない。

 ホワイトナイトは借り物の指先で、デッキトップのカードを呼ぶ。

 

「わたしのターン、ドロー」

 

 宣言ののちにカードを確認するごくわずかな空白。

 

 

「フィールド魔法《星遺物(せいいぶつ)が刻む傷痕》を発動。手札の『ジャックナイツ』を一枚捨て、デッキから一枚ドロー」

 

 

機界騎士(ジャックナイツ)? 白騎士、ハノイの騎士ときてまだ騎士が出てくんのかよ!」

 

 

「わたしは魔法&罠ゾーンにカードを一枚セット——この縦列の自分フィールド上に《蒼穹(そうきゅう)機界騎士(ジャックナイツ)》を攻撃表示で特殊召喚。このカードが手札からの特殊召喚に成功したことにより、デッキから《紫宵(ししょう)の機界騎士》を手札に加える。さらにカードを一枚セットし、この縦列に《紫宵の機界騎士》を特殊召喚」

 

 

「サイキック族ばっかじゃねーか。クラッキングドラゴンはどうしたんだよッ?」

 

 ハック・ワームとか。ジャック・ワイバーンとか。〈ハノイの騎士〉の汎用デッキといえば機械族のはずだろう。共通アバターを使っていながらデッキは自前のサイキック族を使うのか——いつもの調子でひとしきり喚いてみたが、想定の範囲内ではある。

 

(あいつ自身の持ってる情報を引き出すには今がチャンスだ。Playmaker(プレイメーカー)についてどう思ってるのか、本人に聞かなきゃわかんないじゃん?)

 

 群青のオーロラでもまとったような《蒼穹の機界騎士》はレベル5、攻撃力2000。両腕の剣は晴天を凝縮したような宝石で彩られている。

 厳かに佇む《紫宵の機界騎士》は見た目に違わぬレベル8、攻撃力は2500。

 ……どちらも攻撃表示で出してきただけあってなかなか硬い連中だ。自身の効果でフィールドに馳せ参じてくるサイキック族の聖騎士たちは全体的に高レベルで、攻撃力・守備力もそこそこ高い。それをフィールド魔法《星遺物が刻む傷痕》でさらに底上げしている。

 対するAiの《ライトドラゴン@イグニスター》は攻撃力2300で、純粋なパワーでは押し負ける。

 

 

「《紫宵の機界騎士》の効果により、フィールドの《蒼穹の機界騎士》を除外してデッキから『機界騎士』を一体手札に加える。わたしは《翠嵐(すいらん)の機界騎士》を手札に加え、自身の効果で特殊召喚。わたしの場の機界騎士はフィールド魔法《星遺物が刻む傷痕》の効果を受けて攻撃力・守備力ともに300上昇(アップ)

 

 

「ってことは!?」

 

戦闘開始(バトル)! 《翠嵐の機界騎士》で《ライトドラゴン@イグニスター》に攻撃」

 

 

「この瞬間、永続(トラップ)《Ai-シャドー》発動! 《ライトドラゴン@イグニスター》の攻撃力はターン終了時まで800アップだ!」

 

 

「攻撃力3100……いいでしょう、では」

 

「おおっと、あっさり退却できると思った? 相手ターンに《Ai-シャドー》を発動した場合、攻撃可能なモンスターはそのモンスターに攻撃しなければならない!」

 

「……なるほど。きみは、それでいいんだね?」

 

「なに……、」

 

 ライトドラゴンがひと吼え、エメラルドの(ロッド)を振りあげた《翠嵐の機界騎士》が砕け散る。星降るようにきらきらと、風に乗って消える翠玉の残骸。

 静かな宵闇が弾け飛ぶ。稲妻に撃たれたアメジストはたちまち色褪せ、きらめきを失ってしまう。そして雨となって眼下の海へと降り注ぎ、かつて《紫宵の機界騎士》だったはずの白銀の甲冑姿は白波に呑まれて溶けてしまった。

 ざぶんとデータの海が猛る。

 ライトドラゴンは凱歌のように咆哮し、ホワイトナイトのライフは残り3000となった。

 

「わたしはこれでターンエンド」

 

「……ターン終了時に永続罠《Ai–シャドー》の効果は切れ、《ライトドラゴン@イグニスター》の攻撃力はもと(2300)に戻る……」

 

 ぐっと奥歯を食いしめる。Aiのライフは減っていないし、このターンで返り討ちを食らったのは相手(ホワイトナイト)のほうだ。なのに気に食わないハノイの有象無象の顔に余裕の笑みを浮かべたままで、まるでAiのほうが劣勢であるかに錯覚させる。

 

(……優勢なのは俺のほうだ。あいつのモンスターゾーンはガラガラだぞ? なのに何なんだ、この感じ……!)

 

 無意識の外側で、Aiの手のひらが拳を形作った。

 なんだこれ、なんだこれ。

 

 俺は今、何を感じている……?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。