リコーデッド・アライバル   作:suz.

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※前後編2話同時更新です。

追記※いろいろ間違ってますが『こういう展開が書きたかったのにOCG知識が足りなかったんだな…』となまあたたかい目で見てやってください! 一旦下げたりはせず、再構成が終わり次第差し替えます。


ナイト・ナイト・ナイト(後編)

 わけがわからなかった。

 もう何もかも意味不明なのだ、人間とかいう種族のなかは。

 三年前にはSOL(ソル)テクノロジー社の幹部だったホワイトナイトはAi(アイ)が消滅してから二年の間にHDR(ヒドラ)コーポレーションを発起させていて、遊作もその新興企業の研究室に所属していて?

 その白騎士野郎は〈ハノイの騎士〉の共通アバターを使っていながら【機界騎士(ジャックナイツ )】とかいうサイキック族デッキを使う。

 

 ハノイならハノイらしく機械族デッキを使ってろよ……と愚痴めいてこぼすと、Aiは振り払うように遮二無二右手を振り上げた。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 しかしAiは次の瞬間、ハッと大きく目をみはった。

 引き当てたのはレベル8の《グッサリ@イグニスター》。普通に召喚するならリリース素材を二体必要とする最上級モンスターだ。【@イグニスター】における最強の矛は攻撃力・守備力ともに3000と実に頼もしく、このターンでのアドバンス召喚も可能ではある。

 Aiの場では《ライトドラゴン@イグニスター》が燦然と羽ばたき、表側表示の《Ai-シャドー》にセットカードがさらに一枚。メインモンスターゾーン三つは好きに使える。

 相手の伏せカード二枚が気になるが……、視線のマシンガンでフィールドを撫でたAiは、手札に加えたグッサリではないカードを手繰る。

 

 

「フィールド魔法《イグニスターAiランド》の効果発動、手札の《ブルル@イグニスター》を特殊召喚! ブルルのモンスター効果、デッキから《ドヨン@イグニスター》を墓地へ送る。ここで速攻魔法《Aiドリング・ボーン》発動! 戻ってこい、ドヨン!」

 

 

 墓地からサルベージした紫色のモンスターが、どよん……と頼りなく鳴いた。いやもうちょっと気合い見せてくれよここは、と過去の自分に言ってもしょうがない。

 

「現れろ、闇を導くサーキット! 暗影(あんえい)開闢(かいびゃく)——世界に散らばりし闇夜の英知! 我が手に集い、覇気覚醒(はきかくせい)の力となれ!!」

 

 正方形の魔法陣がモンスターの路を照らす。リンクマーカーが召喚条件を満たして赤く輝いた。

 

 

「現れろ、LINK-3《ダークナイト@イグニスター》!」

 

 

 鋭利な翼を翻し、闇色の甲冑が姿を得る。

 攻撃力2300のリンクモンスター、剣を携えた電脳の騎士。《デコード・トーカー》を思わせるその姿は、今からちょうど三年前、パートナーであるPlaymaker(プレイメーカー)に初めてスキル『Storm(ストーム) Access(アクセス)』で手渡すことに初めて成功したあの日を想起させる。あのデュエルも〈ハノイの騎士〉とのスピードデュエルだった。

《ダークナイト@イグニスター》は、Aiにとってアバター的存在だった。

 一種の理想像であると同時に、おまえに騎士(ナイト)役など似合わないと笑う仲間がいてくれなくなったことを実感させる、精神的自傷であったかもしれない。

 

 

「さあバトルだ! ダークナイトでダイレクトアタック!」

 

 

「おっと危ない。リバースカードオープン、速攻魔法《星遺物(せいいぶつ)機憶(きおく)》。デッキから《黄華(おうか)の機界騎士》を守備表示で特殊召喚」

 

 

「守備力2800……」

 

 

「いいえ、フィールド魔法《星遺物が刻む傷痕》が発動している限り、わたしの機界騎士の攻撃力・守備力は300上昇。よって《黄華の機界騎士》の守備力は3100!」

 

 

「ならば俺は永続罠《Ai-シャドー》の効果を発動、ダークナイトの攻撃力を800アップ! これで攻撃力は互角の3100だ!!」

 

 

 相殺——Aiのライフに変動はないが、明らかに負けた心地だった。

 

「今日は調子が悪そうだね? 先日の不具合が残っているのかな」

 

「うるせー! 俺のバトルフェイズはまだ終わってねぇー!!」

 

 ——と吠えてはみたものの、Aiの場にモンスターはもういない。

 

「……ターンエンドだ」

 

 しぶしぶ引き下がり、手札に温存してしまったグッサリを見つめる。

《グッサリ@イグニスター》には、自分フィールド上のリンクモンスターが破壊されたとき手札から特殊召喚できる効果がある。ダークナイトの破壊をトリガーに特殊召喚し、バトルを継続することも可能な局面だったはずだ。ホワイトナイトの残りライフは3000。グッサリの攻撃力も3000。

 とっとと決着をつけてしまう道だって、あった、はずだ。

 押し黙ってしまったAiを見守るホワイトナイトは、素知らぬふりでデュエルディスクから次なるカードを呼ぶ。

 

「わたしのターン、ドロー」

 

 このスタンバイフェイズ、除外されていた《蒼穹の機界騎士》がフィールドに戻ってくる。

 

 

「フィールド魔法《星遺物が刻む傷痕》の効果を発動。手札の『ジャックナイツ』を一枚捨て、デッキから一枚ドロー。そして手札より《紺碧の機界騎士》を特殊召喚」

 

 

 呼び声に応え、白銀の光が押し寄せる。紺碧の騎士は運命の輪を思わせる月輪刀をまとって、厳然と睨みを効かせた。

 

 

「さらにリバースカードオープン、永続罠《星遺物に眠る深層》。墓地の《翠嵐の機界騎士》を特殊召喚」

 

 

 魔術師じみたエメラルド・グリーンが、墓場から戦場(フィールド)へと呼び戻される。

 

 

 

「わたしは《紺碧の機界騎士》、《蒼穹の機界騎士》、《翠嵐の機界騎士》をリンクマーカーにセット。さあ、現れなさい——新たなる道を拓くサーキット! LINK-3《星痕(せいこん)の機界騎士》!!」

 

 

 

 曇り空を満天の星で染め替えるようにして顕現したリンクモンスターは光属性、攻撃力3000。

 種族は——。

 

 

「サイバース族だって……!?」

 

 

 見覚えがない。知らないカード、知らないモンスターだ。パートナーがいつか使うためにと用意していた備品(マテリアル)は数多く存在するし、それについてはほかのイグニスたちも同じだろう。

 

(光属性……なのにライトニングの気配がしない。ジャックナイツ? あいつ一体どこの——)

 

 ライトニングの被造物には【天装騎兵(アルマートス・レギオー)】と【ハイドライブ】二種類のデッキがあるが、そのどちらとも特徴が一致しない。

 こんな星明かりのようにほのかで、冷たく突き放すようなのに同時にあたたかく見守るような複雑怪奇な神秘性がライトニングの領分ではないことはAiの目にも明らかだった。イグニスアルゴリズムで造られた被造物かどうかも不明だ。

 それにしたってさっきまでの【機界騎士】はサイキック族だったではないか。

 

 この二年の間、六体のイグニスは活動していなかった。さすがにカードの新規創造は一朝一夕では終わらないし、先日ライトニングが即興で新しいモンスターを生んだときにはAiの《ライトドラゴン@イグニスター》を核に使ったくらいだ。

《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》は約二年半ぶりの新規天装騎兵モンスターだった。

 当惑を隠せないAiに、ホワイトナイトはハノイの仮面でにこりと笑う。

 

 

「《星痕の機界騎士》と同じ縦列のセットカードを墓地へ送り、デッキから《黄華の機界騎士》を守備表示で特殊召喚。《星痕の機界騎士》は、同じ縦列に他のカードが存在しない場合、ダイレクトアタックができる」

 

 

「……っ 速攻魔法《Aiドリング・ボーン》!! 墓地のドヨンを守備表示で特殊召喚——!」

 

 

 衝撃に歯を食いしばり、ダメージはないのに痛覚(ノイズ)が押し寄せてくる。

 静かなターンエンドの宣言とともにターンは移り、指先はどうにかデッキトップをめくる。ドロー。しかしスタンバイフェイズで足踏みするAiは、神妙に二枚の手札を見つめた。

 このターンでスキル『Storm Access』を使ってもいいが、データストームの中に隠したカードたちはすべて記憶している。どれをつかみ取れるかは完全にランダムで、確率を操作することはさすがのAiにも不可能だ。

 引きの良さという不確定要素に頼るよりも、ここはAIらしく勝つための計算をするしかない。

 

 

「俺はフィールド魔法《イグニスターAiランド》の効果で手札の《ドヨン@イグニスター》を特殊召喚。ドヨンをリンクマーカーにセット——来い、LINK-1《リングリボー》! ドヨンがリンク素材として墓地へ送られたことで、俺は墓地の《Aiドリング・ボーン》を手札に加えて発動! 戻ってこい、アチチ! さらにアチチの効果でデッキからピカリを手札に加えて通常召喚! ピカリの効果発動、デッキから『Ai』魔法・罠カード一枚を手札に加える——」

 

 

 次の手を考えろ、考えて、少しでも多くの情報を引き出す。

 

 

「俺はリングリボー・ピカリ・アチチをリンクマーカーにセット! 再び現れろ、闇を導くサーキット! LINK-3《ダークナイト@イグニスター》!」

 

 

 再び闇をまといし電脳の騎士がフィールドに雄々しくひざまずく。

 

「さらに手札から魔法カード《Ai–マイン》を発動、デッキから一枚ドロー——こいつも伏せるぜ! さぁバトルだ!」

 

「しかしダークナイトの攻撃力は2300」

 

「俺は永続罠《Ai–シャドー》の効果を発動!」

 

 ダークナイトの攻撃力は3100に上昇する。バトルフェイズの中止はなく攻撃は通り、ホワイトナイトのライフは3000から2900へ。Aiのライフには傷ひとつついていない。

 

「ダークナイトが相手モンスターを破壊したことで、墓地のライトドラゴンを特殊召喚!」

 

 リンク先にモンスターが特殊召喚されたことにより、バトルフェイズの終わりには墓地からピカリとアチチが蘇った。

 現実世界へと持ち出されたピカリは今やライトニングの〈(コア)〉だし、アチチは不霊夢(フレイム)の〈核〉だ。Aiにとって@イグニスターモンスターたちはもはや失われた同胞たちの身代わりではない。

 

「俺はこれでターンエンドだ」とAiの喉が低くうなる。

 

 

「わたしのターン、ドロー。《星遺物が刻む傷痕》の効果発動。手札の『ジャックナイツ』を一枚捨て、デッキから一枚ドロー。そして手札より《機界騎士アヴラム》を通常召喚」

 

 

「へー、通常モンスターもいるんだな、機界騎士って?」

 

 

「フィールド魔法《星遺物が刻む傷痕》のもうひとつの効果! 自分の墓地・フィールドの表側表示モンスターの中から《蒼穹の機界騎士》、《紫宵の機界騎士》、《翠嵐の機界騎士》、《紺碧の機界騎士》、《紅蓮(ぐれん)の機界騎士》、《橙影(とうえい)の機界騎士》、《黄華の機界騎士》、そして《機界騎士アヴラム》を除外。相手の手札・エクストラデッキのカードをすべて墓地へ送る!」

 

 

「……んだって……ッ!?」

 

 手札の《グッサリ@イグニスター》がはたき落とされ、動揺がAiの喉を締め上げた。くちびるがひきつる。待ってくれ、いかないでくれと手を伸ばしそうになる。

 

「永続魔法《星遺物へ至る鍵》を発動。《紅蓮の機界騎士》を手札に戻し、自身の効果で特殊召喚。そして墓地の《星痕の機界騎士》を除外することで、《ライトドラゴン@イグニスター》を破壊!」

 

「……っあ、 」

 

 ぐらり、Dボードの上で一歩後退る。

 ライトドラゴンまでも墓地へ沈められ、Aiのそばに残ったのはピカリとアチチのみ。はじめに墓地へ送っておけなかったモンスターたちだ。リンク召喚で早いうちに墓地を肥やしておけばいくらでも打てる手はあったのに、墓の下で眠らせることへの抵抗感からエクシーズ召喚という手段を選んでしまった。

 さっきだってフィールドのピカリとアチチをリリースしてグッサリをアドバンス召還することは充分に可能な状況だった。

 

 なのにAiは、そうしなかった。

 

 Ai(ダークナイト)が戦闘破壊されたとき、遊作(グッサリ)を盾になど、できるわけがない。喚べなかった。……呼べなかった。盾にしてしまうことが、墓地へ送られることが、とにかくおそろしくてたまらなくて、Aiには選べなかった。

 自業自得でこの状況を作り出してしまった後悔がせりあがってくる。

 

(お れは……っ)

 

 勝つことよりも自分のこころを守ろうとしているのか……? そんなんじゃ守れないと頭ではわかっているはずなのに、なぜ非合理に過ぎる選択をするのか。

 当惑しても混乱しても、バトルフェイズは待ってくれない。

 攻撃力2300。それにしては巨大な斧が高々と振り上げられる。

 白銀の光がまるで(ひび)のようにAiの双眸に映りこむ。SOLtiSのそれとは違う、人間仕様の金目が血色を透かして揺らぐ。

 

「《紅蓮の機界騎士》で《ダークナイト@イグニスター》に攻撃!」

 

「《Ai–シャドー》の効果発動!! ダークナイトの攻撃力を800アップだ!」

 

「こちらは永続罠《星遺物の(ささや)き》を発動、《紅蓮の機界騎士》の攻撃力・守備力を1000上昇!」

 

 永続罠《Ai–シャドー》の効果でダークナイトの攻撃力は3100。

 かたやフィールド魔法 《星遺物が刻む傷痕》と永続罠《星遺物の囁き》の効果を受けた《紅蓮の機界騎士》は攻撃力3600。

 

 

 

「っ……俺は《Ai–打ち》を発動ッ!!」

 

 

 

 速攻魔法《Ai–打ち》は双方の攻撃力を揃えるカードだ。攻撃力で上回っている《紅蓮の機界騎士》を一方的に戦闘破壊し、ダークナイトの戦闘破壊を無効にさせる。

 白銀の斧は砕け散り、乱れ舞う赤のかけらは血液などではないのに、きらきら散ればAiのこころをかき乱す。

 

 

「ダー クナイトの効果で、墓地の《グッサリ@イグニスター》を特殊召喚ッ……グッサリの効果で《紅蓮の機界騎士》の攻撃力分のダメージを相手に与える……!!」

 

 

 血を吐くような宣言だった。

 自分モンスターの攻撃力を効果ダメージをして食らい、ホワイトナイトのライフは尽きる。オーバーキルの余韻はなぜだかAiの背筋ばかりを凍えさせて、おののくくちびるをきつく噛みしめた。

 敵を撃破したことに、なんの達成感もない。

 

「お見事」

 

「なにがだよ……ッ!」

 

 泣きわめくように両手を振り回す。ぶざまだ。Aiにとってこうも後味の悪い勝利はない。

 

「わたしはこれで引き下がりましょう。負けてしまった以上、きみとともに歩む道もなくなった」

 

「な に、俺を味方につけて何かいいことあったワケ?」

 

「何にでもメリットはあるものだよ。きみは『砂漠のヌシ』と名付けていたっけね」

 

「今なんて——ッ」

 

 追いかけようとしたつま先が、Dボードを傾かせる。ぐらり、踏み外す。足場を見失った体は、勢いのままDボード上から投げ出された。

 とっさに手を伸ばしたが今はSOLtiS(アンドロイド)型ではなく人間型のアバターだ。指先は空を掻く。届かない。人間の体に各種便利機能はついていない。手首は外れないしワイヤーは内蔵されてないし高度計も落下傘も未実装、脆弱な種族だろうに残機もなければバックアップもとれやしない。

 身を守るすべが、ああ、なにも搭載されていない。

 足を滑らせれば紺碧の奈落が呼ぶまままっさかさま、ただただ無様にもがくばかりだ。

 

 落ちる——!!

 

 金色の目が見開かれ、そしてはるかな海面に叩きつけられたAiがデータの水柱に呑まれるさまを、ホワイトナイトは憐れむように見つめていた。




Pixivではクリスマスに投稿した回でした(年末落下)


次回『奈落の棺が開くとき』は来週(2/12)投稿予定です。
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