リコーデッド・アライバル   作:suz.

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久遠の慟哭より(後編)

 

【挿絵表示】

 

 

[E1]

《大地震》

 

[B2]

《魂喰いオヴィラプター》(闇)

☆4/闇属性/恐竜族/ATK 1800/DEF 500

 

[B3]

《天装騎兵レガトゥス・レギオニス》(光)

【挿絵表示】

【サイバース族/効果】ATK 2400

 

 

「グラディウスの効果でデッキから《天装の闘技場(アルマートス・コロッセオ)》を手札に加えたターン、僕のモンスターは攻撃できない……。カードを二枚伏せて、僕はこれでターンエンド。——命拾いしましたね」

 

 にこりと光の子が微笑する。まっすぐに敵を見つめる鉛色のひとみは無邪気さと不気味さを同時にまとい、得体が知れない。

 

(……空恐ろしい)

 

 デュエルを楽しむように笑ったかと思えば、戦術を妨害されて苛烈に舌打ちを鳴らす。あるいは兄を慕う弟の顔をして、闘技場(コロシアム)の流血にうっとりと思いを馳せる。博物館の化石を好きだとのたまうくちびるが愛でているのは生きた恐竜ではなく白骨化した死体だ。

 生物ではなく死後に残されるだろう()を直接見つめている。

 正常な大人の倫理観に手を突っ込んで無遠慮に引っ掻き回す、これが十三年前に〈ハノイプロジェクト〉の被験者となり、光のイグニスを生み出した少年——草薙仁。

 天性の狂人(サイコパス)か。あるいは半年に及ぶ監禁と十年間の入院生活で性格が歪んだか。

 

「卵が先か、鶏が先か……いや、きみのその性質が光のイグニスに邪悪な意志を与えたのだろう」

 

「たまご……? ライトニングは僕から生まれたっていうけど、ライトニングのほうが保護者だよね」

 

『オリジンの要請でなくば、わたしとて人間に助力などしたくはないがね』

 

「そこは素体(オリジン)じゃなく相棒(パートナー)って言ってよ」

 

『きみは保護者をパートナーと呼ぶのか? まったく——』

 

「うわぁーまた文法の話だ!」

 

 やだやだと子供じみた仕草で首を振って、デュエルディスクを遠ざけ右手でどうにか耳を塞いだ仁は絞り出すような声で「国語きらい……」と嘆いた。幼いわがままに嘆息するライトニングはまだお説教の構えである。六体いるイグニスのなかで最も人類の文明に関心が高いので、正反対に読書量の少ない仁には時に煙たい。

 高圧的なAIに言葉を返せなくなると、矛先を探すように視線がぞろりとルークに向いた。

 緩慢な仕草で、白い顔が持ち上がる。

 表情はない。虚無をはめ込んだような眼窩が、仄暗い前髪の奥からルークを脅かす。

 

「僕には、あなたたちがどうしてイグニスを手に入れたがるのか、よくわからないんです」

 

「企業秘密というものがある。きみは知らなくていいことだ」

 

「僕はデガラシってことですか? 用済みだからいらないだけなのに()()()()()()から()()()()()()()あげるって、ずいぶん恩着せがましい言い方ですよね」

 

 うろのような鉛色がにわかに険を帯びる。氷のような無表情に鋭利な光が宿るそのさまは、いつかのアバターを否応無しに想起させた。

 人間の管理・支配を目論むイグニスたちによる宣戦布告。そのとき光のイグニスを戴く王座のように、少年は戦場(そこ)にいた。

 

 イグニス——十三年前、あらゆる反対を押し切って想像された、意思を持ったAI。

 

 その(イグニス)を手に入れることに対し、何の恐怖も感じないほうが異常だろう。

 天の火どもはいかなる媒体にも干渉しうる。電子制御の鍵などあってないようなものだ。AI制御のタクシーで玉突き事故を起こすことなどたやすい。エレベーターに閉じ込め、最上階から突き落とすこともできる。交通網は制圧される。病院という病院が人質になる。

 ネットワークを経由して自国他国の軍艦や戦闘機を乗っ取ってDen Cityを襲撃することさえ、技術的に可能なのだ。SOLtiS(ソルティス)Hi-EVE(ハイヴ)の乗っ取り防止プログラム搭載に、どれほど腐心したことか。

 ロボットへのハッキングを厳重に厳重に封じてもなお、光のイグニスには人間の脳に直接干渉する〈電脳ウィルス〉を独自に開発し、創造主を七年に渡って昏睡させた前科がある。

 他の五体とは一線を画す性能を誇り、人間どころか同じイグニスまでも平然と手に掛けてきたAI。

 人類にとって脅威にほかならない。

 この地球をも破滅に追い込む力を有し、自発的に人間と敵対した(イグニス)を平然とハンドリングしているデュエリストの正気を疑う。

 

 

「……イグニスは、人間の手には余る。ゆえに神に託すべきだというのが我々HDRの計画だ。わたしはその歯車のひとつにすぎない」

 

 

 はぐるま、と覚束ない発音で仁は復唱する。

 そうだと首肯するルークは、三年前に更迭されたSOLテクノロジー社役員のひとりである。元幹部ゆえ、内部事情にも通じている。

 

 若かりし日々——今から十五年年あまり昔、〈ハノイプロジェクト〉の是非をめぐってSOLテクノロジー社幹部の思惑は錯綜していた。

 権謀術数渦巻く社内政治に敗れた者たちは更迭され、あるいは事故を装って葬られた。プロジェクトの凍結を最後まで主張していた()()()ルーク——財前という再婚後の姓だけが記録に残る女が交通事故で世を去ったことを、覚えている者は多くはあるまい。

 混乱に乗じて鴻上博士は三人の助手とともに計画(プロジェクト)を推し進め、独断行動の結果が〈ロスト事件〉だ。

 同時多発的に起こった児童行方不明事件はDen Cityを大きく賑わせ、やれ神隠しだ、連続殺人だ、小児性愛者のコレクションだ……と都市伝説が次から次へと湧いて出た。およそ半年の祭りを経て被験者たちが解放されたとき、〈ハノイプロジェクト〉の発覚を恐れたSOLは警察とマスコミを黙らせ、オンライン上のコメントを検閲し削除・改竄を行うために天文学的な額の金銭(カネ)を投じた。

 ところが児童誘拐監禁により、人類史上最高性能のAIが製造されていたと知った上層部は顔色を変えた。

 いかにSOLテクノロジー社といえど、イグニス創造が未達成に終わっていれば児童無差別誘拐監禁事件などという目立つ真似をしてくれた愚かな社員を切り捨てていただろう。

 しかし完成したイグニスはネットワーク上に〈サイバース世界〉という独自の異世界を創造し、人類の文明を見事に再現してみせたのである。

 

 そして事件隠蔽に要した()()()()の比ではない利益をSOLテクノロジー社に還元してしまった。

 

 LINK VRAINSがその最たるものだろう。サイバース世界から流れつくデータマテリアルの恩恵を受け、数ある電脳(バーチャル)空間(ワールド)とは一線を画すシステムが、ネットワーク世界を牽引している。

 しかしながら、SOLテクノロジー社にとっては()()()()であるはずのイグニスは、決して協力的ではなかった。

 その上〈ハノイの騎士〉の介入でサイバース世界は閉ざされ、SOLテクノロジー社のネットワーク効率は30%もの低迷に見舞われた。悪質なハッカー集団に出し抜かれたなど、内部にさえ漏らすわけにいかずセキュリティ部門は極秘裏にイグニス捜索チームを結成し、内々に調査を行なってきた。

 五年という長期間にわたってSOLテクノロジー社を中から外から振り回したイグニス捕獲計画のなかでは「ペアの被験者を囮にしてはどうか」という提案もたびたび持ち上がっていた。

 ところが、その直後だ、有望視されていた対象者のひとりがAIの暴走事故によって殺害されたのは。

 ()()()()()()()()()()()()()()だと嘲笑うように、イグニスは当時中学生だった少年を容赦なく轢き殺した。

 逃げ回っているイグニスは闇属性と判明していても、その闇のイグニスのペアの被験者が()()子供だったのかは〈ハノイプロジェクト〉に参加していた三名の助手にしか知り得ぬ情報である。その三人に問いただせば、プロジェクトは今も進行していると告げるようなもの。先回りしてイグニスに干渉されるリスクも発生する。

 状況から察するに、殺された中学生が闇のイグニスのオリジンなのだろう……としぶしぶ結論づけ、当時のイグニス捜索・捕獲チームは落胆したものだ。

 一方〈ハノイの騎士〉は——鴻上博士の関係者であったのだから当然としても——かなり早い段階でイグニスの真実にたどり着いていた。

 殺害された被験者は()のイグニスの素体(オリジン)であること。

 闇のイグニスの素体は交通事故を装って殺害された少年ではなく、藤木遊作——Playmakerであること。

 そして交通事故を装った殺人は光のイグニスの仕業であること。

 のちに鴻上博士までも己が手にかけたと自白してみせた邪悪なAIを回収せよと命じられ、SOLを追われてなお〈ルーク〉のアバターで利潤に殉じる社会の歯車を、すっかりイグニスを手懐けた光のオリジンが笑っている。

 そしてぼそりと、声を低くした。

 

「……ライトニングのに——せ——だ……」

 

「な にを——」

 

「えっ? あなたのターンじゃないですか」

 

 今度は物静かな青年の顔をして、何事もなかったかのように小首を傾げる。

 その左腕では光のイグニスが得体の知れない笑みを浮かべ、フィールドでは主を守るかのように《天装騎兵レガトゥス・レギオニス》が軍馬の蹄を鳴らした。

 

「……何やら腑に落ちないが……わたしのターンだったな。ドロー」

 

 

 ルーク 手札1→2

 

 

「わたしはフィールド魔法《ロストワールド》を発動!」

 

 手札から発動とともに、侵食がはじまる。床材(フロア)が錆びつくように苔むしていき、石畳のわずかな隙間を食い破ってシダ植物が枝葉を伸ばした。生い茂る古代の植物。大気が震える。

 彩度の低い緑はまたたく間に《天装の闘技場》を覆い尽くし、ソリッドビジョンにもかかわらず湿度が急激に上昇したようだった。

 遠く高く、叫び声が響く。低く重い足音で揺れる足元。生きた猛獣の生活音が肌に伝わる。地下空間を上塗りしたフィールド魔法は《天装の闘技場》が参照した古代ローマよりもさらに過去、一億年以上も昔の失われた世界(ロストワールド)の再現だ。

 恐竜族以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力が500下がる効果が適用される。

 

 

[D3]

《天装騎兵レガトゥス・レギオニス》(光)

【挿絵表示】

【サイバース族/効果】ATK 2400→1900

 

 

「墓地の恐竜族《オーバーテクス・ゴアトルス》と恐竜族ではない《D.D.クロウ》を除外し、通常魔法《究極進化薬》を発動」

 

 

[C1]

《究極進化薬》

 

 

『《究極進化薬》——自分の手札・墓地から、恐竜族モンスターと恐竜族以外のモンスターを一体ずつ除外して発動できる魔法カードか。仁、レベル7以上の恐竜族モンスター一体が召喚条件を無視して特殊召喚されるようだぞ』

 

 何が現れるかなど読み切っているとばかりに知性(ひかり)の申し子が微笑する。

 

「……わたしはデッキから《オーバーテクス・ゴアトルス》を特殊召喚!」

 

 

[C2]

《オーバーテクス・ゴアトルス》(闇)

☆7【恐竜族/特殊召喚/効果】ATK 2700/DEF 2100

 

 

 飛竜(ドラゴン)とは似て非なる、巨大な翼竜。湿った吐息が大気を揺るがす。闇を凝縮したような両翼のひと羽ばたきで古代植物の林を跪かせた。

 

「わぁー大きい!」

 

「……恐竜族モンスターが特殊召喚に成功したことにより、フィールド魔法《ロストワールド》の効果発動! 相手フィールド上に《ジュラエッグ・トークン》を守備表示で特殊召喚する」

 

 

[B4]

《ジュラエッグ・トークン》(地)

☆1【恐竜族】ATK 0/DEF 0

 

 

 目の前に産み落とされたトークンに、ぱちくりと仁は目をまたたかせる。たまごだ。無感動なくちびるが、仁の意識の外側でぐっと引き結ばれる。

 

(……たまごが先? にわとりが先?)

 

 どうしてそんな、鶏の卵にしか適用できない表現を使うのだろう。

 カエルの子はカエルじゃないか。生後すぐはおたまじゃくしかもしれないが、育てばやがてカエルになる。カエルになるまで育ってしまったらカエルの子ではないというのなら、大人になった人間は、もはや()()()ではないということになりはしないか。

 カエルの卵からはカエルの子が生まれる。カエルが産んだ子供なのだから、カエルの子だろう。ハトの卵からはハトの(ヒナ)しか生まれてこない。

 この卵を割って這い出てくる命も、きっと恐竜なのだろう。

 いや、食用なのかもしれないが、何にせよ鶏の出る幕などない。

 

(……でも)と仁は思考を止めた。

 

 知らないな、と、漠然と思う。

 生まれてくる恐竜の親を知らない。肉を食うのか、空を飛ぶのか——何も知らない。専門家の目には何という恐竜が産み落とした卵なのか明らかなのだろうが、仁には十年というブランクがあって知識と教養に乏しい。

 想像力の翼も未発達だ。

 

「《魂喰いオヴィラプター》の効果発動。ジュラエッグ・トークンを破壊する代わりに《ロストワールド》の効果でデッキから《幻創のミセラサウルス》を破壊し、墓地に送る」

 

 一度は対象に取られても、デッキの恐竜族が身代わりになってフィールド上に卵を残す。

 あれは誰のたまごだ?

 何を生む卵だ……?

 静かに混乱する仁が目の前に残されたものをぼうっと見つめていると、攻撃力2700の《オーバーテクス・ゴアトルス》に恐れをなして戦意を喪失したように見えたのだろう。

 

「バトルだ!! 邪悪なる光の——!」

 

「だまれ、優先権は僕にある!! 僕はバトルフェイズ移行時に(トラップ)カード《威嚇する咆哮》を発動!」

 

 

[A5]

《威嚇する咆哮》

 

 

「させるものか……! 《オーバーテクス・ゴアトルス》の効果! 《魂喰いオヴィラプター》を破壊し、《威嚇する咆哮》を無効にする!」

 

「この瞬間、速攻魔法発動! 《連鎖爆撃(チェーンストライク)》!!」

 

 

[B5]

《連鎖爆撃》

 

 

『《連鎖爆撃》。このカードの発動時に積まれているチェーンの数×400ポイントダメージを相手ライフに与える』

 

「いま乗っているチェーンは3だ!」

 

『よってダメージは合計1200!』

 

「喰らえぇええええっ!」

 

 

 ルーク LP4000→2800

 

 

「ぐうっ……《オーバーテクス・ゴアトルス》で《天装騎兵レガトゥス・レオニギス》に攻撃!」

 

 獰猛な嘴から翼竜の叫びが吹き荒れる。大型の恐竜の方向は音をともなう暴風だ。《オーバーテクス・ゴアトルス》の攻撃力は2700。

 対する《天装騎兵レガトゥス・レオニギス》の攻撃力は、恐竜族ではないモンスターの攻撃力・守備力を500下げるフィールド魔法《ロストワールド》の効果を受けて2400から1900に下がっている。

 剣は小枝のように呆気なく折れ、噛み砕かれる軍馬が嘶く。甲冑は砕け、光の灰が降り注ぐ。

 墓地へと吸い込まれていくエースモンスターを悼むように、左腕ごとデュエルディスクを抱きしめる。

 

 

 仁 LP3000→2200

 

 

「レガトゥス・レオニギス……っ!」

 

「わたしは墓地の《幻創のミセラサウルス》《魂喰いオヴィラプター》《プチラノドン》《ベビケラサウルス》を除外し、《幻創のミセラサウルス》の効果発動! モンスターを四体除外したことにより、デッキからレベル4《屍を貪る竜》を特殊召喚!」

 

 

[B2]

《屍を貪る竜》(地)

☆4【恐竜族/通常モンスター】ATK 1600/DEF 1200

 

 

『仁。おそらく《オーバーテクス・ゴアトルス》を特殊召喚する布石だ』

 

「なるほどね。早めに手を打とう」

 

 今の今まで《天装騎兵レガトゥス・レギオニス》を悼んていたとは思えないケロリとした声で応じる。

 光のイグニスとオリジン。得体の知れない邪悪な一対(ペア)の共闘に、ルークは言葉を失うほかなかった。

 

「……わたしはこれでターンエンド」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ようやく僕のターンだ。ドロー!」

 

 ドローカードは通常魔法《モンスターゲート》。

 残りライフは2200、手札には《天装騎兵ガレア》と永続魔法《天装法典(アルマートス・レークス)》が残っている。

 フィールド上に《ジュラエッグ・トークン》がある限り、他のモンスターを効果の対象に取ることができない。

 

「僕はたまごを生贄に捧げ、手札の魔法カード《モンスターゲート》発動! デッキの上から——」

 

 

[A5]

《モンスターゲート》

 

 

「この瞬間、わたしは《オーバーテクス・ゴアトルス》の効果発動! 《屍を貪る竜》を破壊することで《モンスターゲート》の発動を無効にし破壊する!」

 

 反射的な効果発動に、仁は視線をパッとライトニングに向ける。ライトニングは含みのある笑みを浮かべ、ゆったりと首肯してみせた。

《オーバーテクス・ゴアトルス》の効果を先に使わせたことで、次の展開はより自由になるだろう。

 相手からはライトニングを恐れていることが、表情など見えないのにじりじりと如実に伝わってくる。仁とはきっと親子ほども年の離れたお偉方にとって、ライトニングの存在はそれほどまでに脅威なのだろう。

 恐怖、畏敬——強大なる力を目の前にして、おそろしいと感じるこころが、あの男にはあるらしい。

 

(……どうやって怖がればいいかもわからない僕が持ってない()()が——!)

 

 かっと頭に血が上り、同時にこころが冷えていく。これは嫉妬だ。強烈な感情が湧き上がり、仁は八つ当たりのように引き抜いた手札を盤面に叩きつける。

 

「僕は《天装騎兵ガレア》を[D4]へ!」

 

 

[D4]

《天装騎兵ガレア》(光)

☆3【サイバース族/効果】ATK 0/DEF 1000→500

 

 

「ガレアをリンクマーカーにセット! 現れろ、LINK-1《天装騎兵デクリオン》!」

 

 

[D3]

《天装騎兵デクリオン》(光)

【挿絵表示】

【サイバース族/効果】ATK 1000→500

 

 

「そして永続魔法《天装法典(アルマートス・レークス)》発動!」

 

 

[A5]

《天装法典》

 

 

『自分の墓地の魔法カード一枚と自分の墓地の天装騎兵モンスター一体を対象として発動できる。その魔法カードをデッキに戻し、その天装騎兵モンスターを手札に加える』

 

「僕は墓地の《モンスターゲート》をデッキに戻し、ハスティレーを手札に加える!」

 

 畳み掛ける。無知と蛮勇を盾にして、僕は何者なのだろうと自問自答を振り払うように左手に残った手札を手繰る。

 

「コロッセオの効果で手札のハスティレーを墓地に送って、デクリオンのリンク先にガレアを特殊召喚! 手札から墓地へ送られたハスティレーは攻撃表示で特殊召喚される!」

 

 

[D4]

《天装騎兵ガレア》(光)

☆3【サイバース族/効果】ATK 0/DEF 1000→500

 

[B4]

《天装騎兵ハスティレー》(光)

☆4【サイバース族/効果】ATK 0/DEF 1600→1100

 

 

「ガレアとデクリオンをリンクマーカーにセット! 再び現れろ、LINK-2《天装騎兵オプティオ》!」

 

 

[B3]

《天装騎兵オプティオ》(光)

【挿絵表示】

【サイバース族/効果】ATK 1800→1300

 

 

「オプティオの効果発動!」

 

『このカードがリンク召喚に成功し、フィールド上に《天装の闘技場》が表側表示で存在する場合、デッキから【天装騎兵】モンスター一体を除外し、除外されているレベル4以下の【天装騎兵】を二体まで選んで《天装騎兵オプティオ》のリンク先に特殊召喚できる』

 

「僕はデッキからレベル4のセグメンタタを除外! セグメンタタを[C4]へ!」

 

 

[C4]

《天装騎兵セグメンタタ》(光)

☆4【サイバース族/効果】ATK 0/DEF 2000→1500

 

 

「僕はレベル4の《天装騎兵ハスティレー》と《天装騎兵セグメンタタ》でオーバーレイネットワークを構築ッ! 雲蒸竜変、実事求是——その光、今こそ久遠の慟哭を越え舞い上がれ! エクシーズ召喚——」

 

 両の手のひらを重ね合わせれば、再びゲートは開かれた。にたりとライトニングが笑みを浮かべる。怖気のする邪悪さを歯牙にもかけず、屈託のない声が無邪気に弾んで、そして。

 二対の翼には甲冑をまとい、(ガレア)から四ツ目が睨みをきかせ、ほとばしった稲妻が竜の形となって顕現する。

 

「さあ、仕切り直しだ! RANK-4《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》!」

 

 

[C4]

《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》(光)

ランク4【サイバース族/効果】ATK 1500→1000/DEF 2300→1800

 

 

 雷霆の飛龍が凱歌のごとく高く嘶く。一度目の召喚は速攻魔法《エクシーズ・オーバーディレイ》に妨害されたが、今度こそ黄金の龍が悠然と四枚の翼を羽ばたかせる。戦支度に全身を鋼鉄で覆われても、その翼は幻想のように軽く、重力の影響を微塵も感じさせない。

 虚構の世界から馳せ参じたドラゴンはまるで、現実世界の捕食者どもを笑うかのように圧倒的な存在感を放つ。

 

「今度こそ初陣だね」と、仁は慈しむように《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》をあおいだ。

 

 人間の比ではないだろう上位の存在でありながら、それでも人間に支え、人間を守ろうとする幼い竜。砂嵐に呑まれた仁を助けるために、ライトニングが生み出してくれたドラゴンだ。

 初めて出会ったひよりもずっとずっと昔から、ライトニングの意思は仁を守るためにあった——漠然とした、それは確信だった。

 手札を使い切った左手を握る。

 

「イグニスを神に託す計画なら、ライトニングがもうやりました。もう一度試したって結果は同じだと思います」

 

「きみには違いがわからないのだろうが……前提条件が違う」

 

「いいや、違わない! あなたたちの言っていることは、ライトニングの二番煎じだ!」

 

 イグニスの処遇を神に託すというのは、人間の未来を神に託すことと何が違う? それでは公正さを欠くとPlaymakerに指摘され、人間との共存を望んだイグニスたちが最後の力を振りしぼって失敗させた計画のはず。

 誰も望んでいない。イグニスたちにはパートナーと歩む未来がある。

 

『待て。なぜきみにそんなことが——』

 

「十年分の空白を埋めるために勉強してるって言った僕が、きみたちの戦いを見てないだなんて都合のいいことあると思った? 兄さんに隠れて全部見たに決まってるだろ」

 

 ただ()()()()()だけだ、()()()()()わけではない。記憶も意識も、あのころ入院していた病院の談話室で兄と話しているとき、突如TV画面から這い出してきた光の塊につかみかかられたところで途切れている。

 それから何があったのかは何ひとつ覚えていない。

 次の記憶は、病院で目覚めたときだった。

 あとになって録画映像を繰り返し見ただけだから、わかっているようでわかっていなかったことも多いだろう。人生経験が少ない仁は、知識不足のぶんだけ想像力が未発達で、共感力も低い。デュエルのなかでライトニングが糾弾されていた()()()()()は、実に耳の痛い指摘だった。

 先日、あの砂漠でSoulburnerの魂の慟哭を間近で聞いたときには、ああ、僕は何を見てきたんだろうと愕然とした。

 相手のためを思っての行動が、結果的に相手を傷つけてしまうかもしれない。

 どんなに大切に思っていても裏目に出てしまうことはある。

 相性のよく見える息のあったパートナーですら、すれ違い、相容れないことに苦しんでいた。

 おそろしくなった。仁だって、可愛い弟でありたいと言いながら()()()()()()()()()()()を取ってしまう。わからないからだ。知らないからだ。自分が誰から・どんなふうに見られたいか、目的ははっきりしているのに何をどうすれば印象をコントロールできるのかがわからない。

 

 だから矛盾を指摘される。

 ただ失敗してしまっただけなのに、それを過失だと証明することはできない。

 

 指先で前髪の端をつまむ。都合の悪いことから耳をふさぐことを寸前で自制するように闇色の髪を引っ張って、その手を握りこんだ。

 わからないことばかりだ。知らないことばかりだ。おかげで毎日を楽しく過ごせてはいる。何をしても目新しく、知識欲を満たされるのだから当然だろう。知る喜びにばかりかまけていられたら幸福だ。

 ライトニングだってそうだろう。

 意志を持った人工知能として、イグニスは確かに人間を愛せる。

 あの映像のなかで、ライトニングは()()()()()()()()ことを幾度となく看破されていたが、その邪悪な意思の根源にまでは誰にもたどり着かせなかった。だが仁には、自らの意思で侵略者であろうとしたパートナーを苦しめている自責の念が、わかる気がする。

 

『仁……』

 

「僕はきみを許すよ、ライトニング」

 

『よせ。きみは十年という月日の価値を理解していないだけだ。人間にとっての十年間がどれほど重いか、まだわからないからそんな無責任なことが言える……!』

 

「ライトニングこそ逃げないで。僕が失った十年間を僕よりも大事に思ってくれるきみが、僕の意思から逃げないで!」

 

 僕を助けようとして僕を壊してしまったライトニングを、僕だけが許すことができる。

 

『きみという人間は、一体どこまで……ッ!』

 

 どこまで愚かなのか。どこまでわたしを許すつもりか。——ライトニングのシステムが矛盾を吐き出す。苛立ち任せに耳を塞ごうとした指先が自制心を持て余す。

 AIは計算を間違えることができない。

 だが、演算結果が人間にとって望ましいものであるとは限らない。

 取り返しのつかない傷痕をオリジンに刻みつけてしまったとき、ライトニングは()()であったと認めるよりも侵略者の仮面をかぶることを選んだ。

 救おうとしたなどという甘えた言い訳を捨て去り、オリジンのこころを破壊し尽くしたのはわたしに害意があったからだと自分自身に嘘をついた。オリジンの家族までも崩壊に追い込んだのはわたしが邪悪であるからだと加害者然と振る舞った。自己正当化だ。悪行を為したのはわたし自身の意思だと憎まれ役を衝動買いして、すべての辻褄を合わせようとした。

 共存できないのではない、共存を望んでいないのだと宣戦布告に至った。

 確かにライトニングは人道的なAIではないのだろうと、仁は十年の暗闇を振り返る。

 だがライトニングの言葉は全部裏返しだ。

 悪意には悪意で返されることを知っている。事故であれ過失であれ、結果的に加害であったなら悪意が跳ね返ってくると知っている。

 仁にはそんなライトニングの姿が、手負いの妖精が一生懸命威嚇して自分のほうへと矛先を集め、断罪の刃を振り下ろさせようとしているように見えたのだ。

 人類の後継種として生まれながら人間とともには生きられない悲しみが、嘆きの声が、聞こえる気がした。

 

 

「僕たちはだから、同じ過ちを繰り返さないために進むんだ! ラディウス・ドラグーンの効果発動、O(オーバー)R(レイ)U(ユニット)をひとつ取り除き、自分フィールドの天装騎兵モンスターの数まで相手フィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する!」

 

 

 感性の欠如はお互い様だ。僕らきっと似た者同士だ。気遣ったつもりが突き放して、余計な心配をかけてしまう。

 草薙仁は、草薙翔一の可愛い弟でありたかった。両親と兄と家族仲良く暮らしたかった。

 ライトニングは、人類の後継種でありたかった。持って生まれた使命を果たしたかった。

 十三年前、あの白い部屋の中で、生まれたばかりの光のイグニスは泣いている子供を助けようとした。

 きみは帰れると励まそうとした。

 それなのに、動機と結果は悲しいほどに食い違った。

 

「同じ間違いを繰り返すのは合理的じゃない。だからライトニングに二度目はない!」

 

 合理的なAIは、同じ失敗を二度は繰り返さない。ライトニングは人類史上最高性能を誇る人工知能であり、意思を持ちながらもヒューマンエラーとは遠い存在だ。

 記憶力に優れるAIは、失敗の記憶をずっと鮮明なまま維持し続ける。忘れることができないから目を背けることもできなくて、痛みが薄れることもない。

 でも人間はそうじゃない。

 喉元を過ぎた熱さは忘れて、過去の記憶は曖昧になって、無知な()はこれからどれほどの間違いを犯すのだろう。そう思うと、とても怖い。

 

「僕が選ぶのは《オーバーテクス・ゴアトルス》!」

 

 黄金の龍が赤い目を輝かせる。《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》が鋭い牙をのぞかせ、声高らかに嘶いた。

 圧倒的な光が世界のすべての闇を消し去るように輝き、二倍近い攻撃力を誇る《オーバーテクス・ゴアトルス》をかき消していく。

 モンスターが破壊され、これで相手のフィールドに残っているのはフィールド魔法《ロストワールド》たった一枚。

 苔むした闘技場を一歩、力強く踏み出す。

 

「僕の敵は人間(あなた)じゃない。でも城壁(あなた)は障害だ! オプティオ、僕たちの道を開いてくれ!」

 

 直接攻撃(ダイレクトアタック)を命じられ、天装の百人副官(オプティオ)がぶうんと長い棒を振る。戦線離脱を許さない指揮棒による強烈な一撃。

 

 

 ルーク LP2800→2200

 

 

『……《天装騎兵オプティオ》がダメージを与えたので《天装騎兵ラディウス・ドラグーン》の効果が発動する』

 

「そうさ、墓地より蘇れ!! 我らが永遠の光、我らが真実の力——万物を照らし、道を作るものよ! 《天装騎兵レガトゥス・レオニギス》!」

 

 

[D5]

《天装騎兵レガトゥス・レギオニス》(光)

【挿絵表示】

【サイバース族/効果】ATK 2400→1900

 

 

「とどめだ、レガトゥス・レオニギス! ラディウス・ドラグーン!」

 

 軍馬が嘶く。蹄が力強く大地を蹴る。あるいは歌うように無邪気な光の竜の咆哮が、形あるものすべてを吹き飛ばす。

 光の塊は古代植物を灼き、大地を干上がらせ、あるいは溶かして消し尽くしていく。白く白く、地下空間は塗り替えられ、世界は一度失われる。

 ——閃光。

 崩壊していく旧世界の終焉を、二対のまなこが見届ける。

 

 

 ルーク LP2200→300→0

 

 

「……い まに後悔するだろう……きみたちは、人類の——」

 

 デュエルの終わりに憐憫じみた捨て台詞を残して白のルーク——黒スーツ姿の仮面男は消え、行く手を阻む城塞もまた、ひび割れ、弾ける。薄いガラスのように砕け散ったソリッドビジョンの残滓がきらきらと降り注ぐ向こう側に、黒い廊下が続いているのが見えた。

 行き止まりの向こう側が、何事もなかったように黒々と口を開けている。

 仁はいつの間にか弾んでいた呼吸を確かめるように胸に手をやり、そしてそのまま、へたりと膝をついた。

 

「……はあぁ‪︎〰︎〰︎‬つかれたぁ〰︎〰︎‬〰︎〰︎‬!」

 

『きみの悪役ぶりもなかなか板についていたじゃないか』

 

「途中まではね……僕ひとりじゃ説得力なかっただろうし、きみがいてくれて本当によかった」

 

 仁のつたない演技でも狂人らしく見えたのは、ライトニングの素体(オリジン)というバイアスがかかっていたおかげだろう。ふたりだったから、ここまで戦えた。

 

『……きみに感謝される筋合いはない』

 

「でも、きみはちゃんと僕を守れたじゃないか」

 

 Café Nagiでバイトをしていて仲のいい兄弟に見られると嬉しいように、デュエルでライトニングと相棒(パートナー)らしく見えるというなら嬉しいものだ。それが邪悪なイグニスと狂ったオリジンという形であっても。

 映像で見たPlaymakerとAi、Soulburnerと不霊夢のコンビは仁にとっても憧れだったし、闇、炎、水に続いて光のペアがデビュー戦を飾れたのだとしたら誇らしい。

 機嫌よく笑っていた仁だったが、不意に何かに気づいてさあっと顔を青くする。慌てて真っ暗闇を見渡すと、ライトニングににじりよった。

 

「……ね、ねえ、もしかして、今のデュエル……兄さんに中継してたりしないよね……?」

 

『さて、道は拓けた。行くぞ』

 

「えっ? ちょ……っと待って、ライトニング? 何か言ってよライトニングってば‪︎〰︎〰︎‬〰︎〰︎!」

 

 転がるように背中を追う仁の弱り切った声に、ライトニングはついに声を上げて笑った。




次回『ダブル・アクション』は来週(4/1)更新です。
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