琴美とのデート当日の朝9時半、俺は駅前に来ていた。
一刻も早く会いたいという思いから、早めに家を出たのだが…
(少し早く着きすぎたかな)
「……洸希!」
あと30分、何をして待とう……ん?
「待った?」
「……琴美」
待ち人はすぐに目の前に現れた。
「洸希に早く会いたくて、早めに来ちゃった」
えへへ、と笑う琴美。
昨日ぶりに見た笑顔に、また視線が釘付けになってしまう。
「あ、えと、俺もだよ」
ぎこちなく返す。
「そっか、嬉しい」
昨日ほどではないが、どうしても挙動不審気味になってしまう。
今日はなるべく自然体でいると決めたのに…
「洸希、この服似合ってる…かな…」
そう言って、少し近づいてくる琴美。
白のワンピースと、薄桃色のカーディガン。
「えと……」
見慣れてきた制服姿とは違う、大人びた姿に目を奪われる。
「洸希?」
「…………似合ってる。すごく綺麗だ」
どうにか、率直な感想を伝えることができた。
「……ありがと」
そう言って、顔を赤くする琴美。
多分、俺の顔も同じくらい真っ赤になってると思う。
「それと、これ…」
そう言って、髪の左側に付けている赤色の髪留めを指してくる。
「ああ、それも似合って……あれ?」
その髪留めってたしか…
「それ、昔も付けてたよな」
「うん、洸希と久しぶりのお出かけだから」
いつ頃からか毎日付けていた髪留め。
いつから付けてたんだっけ……あっ
「それって、昔……」
「うん、洸希がくれたやつだよ」
小学校3年生のときだったか。
誕生日プレゼントに少ない小遣いで買って渡した物だ。
「今日は洸希と2人きりだから……久しぶりに付けて来ちゃった」
「まだ取っておいてくれたのか」
「洸希がくれたのだもん」
「えと、ありがとう」
嬉しさからか顔が熱くなる。
「洸希?どうしたの?」
「……行こうか」
「うん」
恥ずかしくなってきたので話題をそらしつつ足を進めることにした。
あんな安物まだ持っててくれたのか…
……そういえば、あげたときも喜んでくれて──俺も凄く嬉しくなった。
──「ここに来るのも久しぶりだね」
「ああ」
駅から歩いて10分程。
琴美の提案の元、俺たちは昔よく遊んだゲームセンターに来ていた。
前に一度、学校帰りに行ったのがバレて先生に怒られたんだっけ。
「で、何する?」
「あれやろうよ!」
そう言って琴美が指を指したのは、対戦格闘ゲームだった。
「洸希、あれ得意だったでしょ?また対戦しようよ」
「ああ、そうだな」
あの時遊んでいたのと同じ筐体だ。
どれだけ昔覚えたコツを思い出せるか…
──「負けたー…」
「そんなに落ち込むなよ、琴美」
「でも!10連敗って…悔しいよー!」
「まあほら、昔は20連敗したこともあるし」
「フォローになってないから!」
そう言って、体当たりを仕掛けてくる琴美。
「本当、変わってないな」
昔もよく体当たりされたっけ。
「変わってないけど!今それ言う!?」
「いつ言うんだよ」
「それは……」
「え?」
言い淀んで俯いき、顔を赤くする琴美。
意味深気な反応に、こっちまで言葉に詰まってしまう。
「なんでもない。次、あれやろ」
そう言って、ガンシューティングを指指す。
「うん」
俺たちは微妙な雰囲気で次のゲームへ向かった……
──「楽しかったね、洸希」
「そうだな」
目に付いたゲームを一通り遊び、俺たちはゲームセンターを出た。
昔と同じか、それ以上に楽しめたと思う。
「次はどこ行こっか」
「えーと……」
女の子とデートするなんて初めてだからな……
こういう時どこへ行けばいいのか検討もつかない。
昼食……にはまだ早いしどうしたものか。
「洸希?」
「えーと……」
何か買い物とか……何の店で何を買えばいいんだ?
「……あっ」
そうこう悩んでいると、琴美の髪留めが目に入った。
さっきも話題になった、俺が小さい頃プレゼントした赤い髪留め。
「じゃあさ……」
──「ここに?」
「ああ」
駅前周辺に戻ること5分ほど。
俺たちはアクセサリーショップに来ていた。
「何か買うものでもあるの?」
「えっとさ」
少し間が空いて、答えを出す。
「新しい髪留めか何か、プレゼントしたくてさ」
「それならもうあるけど……」
そう言って自分の付けている髪留めを指さす。
「……新しいのをあげたいんだ」
昔あげた物を付けてくれるのも嬉しいけど、それ以上にプレゼントしたものを付けてほしいと思う。
「……そっか」
そう言って嬉しそうに微笑む琴美。
「でもこういうのってこっそり買って驚かせるものじゃないの?」
「……思ったけど、好みに合わなかったらどうしようって」
「もう……そんなの気にしないのに」
そう言ってまた、笑う。
そして俺も、その笑顔に釘付けになってしまう。
「…行こう」
「うん!」
そして2人で店内に入る。
──「えーと、これとか似合いそうだけど……」
「……私より真剣に選んでる」
「当たり前だろ?」
女の子に贈り物するなんてそれこそ久しぶりだからな…
「これとかどうかな」
そう言って、桜の花の形をした髪飾りを指さす。
「……うん、すごくいいと思う」
「それならよかった」
正直、俺にこういったものへの知識はほとんど無い。
気に入ってくれるか不安だったが、大丈夫だったらしい。
「アクセサリーとかよく分からないからさ」
「でもこれ、可愛いと思うし、それに」
一拍置いて、言った。
「洸希が選んでくれた物だから…凄く嬉しい」
「……そっか」
それを聞いて、俺もまた嬉しくなった。
あの日、琴美の誕生日に髪留めを渡したときのように。
「……じゃ、あれにするか」
「うん……ありがと、洸希」
──「結構な時間経ってたんだな」
会計を終えて店を出た後、時間を見るともう11時半過ぎになっていた。
二人でいると時間を忘れるのは今も昔も変わらないようだ。
「洸希……本当にありがとう」
「さっきからそればっかりだな」
「嬉しいんだもん」
笑顔で言う琴美の髪にはさっきの髪飾りが付けられていた。
「洸希……これ、ずっと大事にするね」
「あ、ありがと」
どうやらかなり気に入ってくれたらしい。
……再会してからずっと思ってたけど、琴美の笑顔は本当に可愛い。
もっと琴美の笑顔が見たい。
「少し早いけど昼にするか?」
「……うん!」
──それから、俺たちはまた時間を忘れたように二人で楽しんだ。
昔、いつか行きたいと言ったファミレスで食事をして
昔流行ってた映画の新作を見て
ただただ目的もなく、二人で歩いて。
やっぱり、琴美といると本当に楽しい。
「……琴美」
「何?」
「これからまたずっと、一緒に居られたらいいな」
「っ……」
顔を赤く染める琴美。
たしかに今のは自分でも恥ずかしいと思ったが……
「……あのね、洸希」
「……ん?」
「最後に、ね……行きたいところがあるの」
最後に、か…
もっと琴美といたい。そんな気に襲われる。
明後日になればまた学校で会えるけど、もっと一緒の時間を過ごしたい。
「……うん、どこ?」
「……それはね」
──「懐かしいね」
「ああ」
そして、俺たちはある公園に来ていた。
小学校のころ、ほぼ毎日二人で遊んだ公園だ。
当時と比べて遊具は安全面などを考慮して減ってしまったが、それ以外は何も変わっていなかった。
「……洸希はこの木、覚えてる?」
「覚えてるよ。二人でよく登ったよな」
枝に座って周りを見下ろすのが好きだった。
今はもうできる気がしないけど。
「私ね、昔から洸希と一緒にいるときが一番楽しかった」
「えと、俺もだよ」
今も昔も、その思いは変わっていない。
琴美も同じだと言ってくれたのがとても嬉しい。
「それでね、それはやっぱり洸希が一番の友達だからだって、そう思ってた」
思い返すように言う琴美。
「それで、中学校に入って洸希と会わなくなって……凄く寂しかった。友達はたくさんできたけど、心のどこかでいつも洸希のこと考えてた」
「琴美……」
「それで、入学式のあの日、洸希に会えて本当に嬉しかった。また二人でいられるんだって、そうしたいって」
潤んだ瞳でこっちを見つめてくる。
「洸希!」
意を決したように声を上げる琴美。
そして──
「私……洸希が好き!」
──泣きそうな声で、告白された。
「それって……」
「うん、洸希のこと、友達じゃなくて……1人の男の人として、大好き」
「……琴美」
やっとわかった。
なんで琴美の事を考えると、こうも胸が苦しくなるのか。
ずっと二人でいたいって、心から思えるのか。
「俺も、琴美が好きだ」
「えっ……」
「昔からずっと、辛いときも楽しいときも俺のそばにいてくれて、俺に笑顔を見せてくれた……そんな琴美が好きなんだ」
両親が頻繁に仕事で家を空け、寂しい思いをした幼い頃の日々。
でも、琴美がそばにいてくれたから。毎日が楽しかった。
「洸希……っ!」
そして、俺は琴美を抱きしめた。
「……洸希?」
「嫌だった?」
「……ううん、すっごく嬉しい」
「そっか」
そうして、俺達はしばらくの間抱き合い続けた……
──「「……」」
公園のベンチに二人並んで座る。
さっきまでハグしていたが…今はそれ以上に恥ずかしくなっていた。
多分琴美も同じ気持ちだと思う。
「……洸希」
「……ん?」
「私たち、恋人同士になったんだよね……」
「…………ああ」
嬉しさと照れが半々くらいに混ざった感情。
今なら心から言える。幸せだって。
「……まだまだ一緒にいたい」
「……俺も」
お互い、かなりぎこちなくなっていた。
「……今日お母さんにね、帰り遅くなるって言ってあるの」
「……俺、しばらく家に一人なんだ」
「……」
もうお互いに視線が合わなくなっていた。
「……洸希の家、行っていい?」
「……いいよ」
「……コンビニ、寄ってこうか」
──「あんまり変わってないね」
「まあ、うん」
あの後俺の家に琴美を招いた。
そして今、俺の部屋。家に二人きり。
「昔はよくこの部屋でゲームしたよね」
「新作が出てすぐの休みは泊まりがけでやってたっけ」
この部屋にもまた、琴美との思い出が詰まっていた。
「……洸希」
「琴美……」
いつの間にか、琴美が目の前に来ていた。
その視線に、俺の目は釘付けになっていく。
「……あ」
二人の距離がどんどん近くなっていくのが自然と感じられる。
そして──
「んっ……」
「……ん」
お互いの唇が重なる。
初めてするキス。
心が幸せで溢れそうになる。
「ん……ふう……」
「……ん」
──どれくらいキスしていただろうか。
それすらわからないくらい、俺は琴美に夢中になっていた。
「洸希……」
琴美が火照った顔で唇を動かす。
「……いいよ」
──「もうこんな時間になっちゃったんだね」
「ああ」
時計を見ると、もう9時半になっていた。
家に着いたのが7時くらいだったから、2時半近く経っているということだ。
「送ってくよ」
「いいの?」
「もう遅いし、暗いと危ないだろ?」
「……心配してくれるんだ」
「当たり前だろ」
そう言って、琴美を抱きしめる。
「やっぱり、洸希は優しいね」
琴美もこっちに身を寄せてくる。
「洸希……これからいっぱい、新しい思い出を作っていこうね」
「俺も……もっとほしい。琴美との思い出」
俺たちは見つめ合う。
そして、またキスをした。