『架空の財閥を歴史に落とし込んでみる』外伝:戦後の新線   作:あさかぜ

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関西新路線④:大阪市営地下鉄今里長居線

 この世界の大阪府は、中外グループによる堺を始めとした泉州地域における経済活動によって、南部の地盤沈下は最小限だった。

 それ処か、泉北の開発が進み、堺市の政令指定都市化は早く、1969年には堺市・和泉市・泉大津市・高石市・松原市・忠岡町の5市1町が合併し、新しい「堺市」が誕生した。2020年現在の堺市の人口は約145万人であり、関西では大阪市・神戸市に次ぎ京都市とほぼ同数の人口を有している。

 今後も、関西は首都圏に次ぐ経済圏として、それに相応しい人口を維持すると見られている。

 

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 堺市の拡張によって、大阪市南部の人口も増加した。それによって、周辺道路の渋滞は悪化し、周辺地域から大阪市への放射状の鉄道の輸送量も限界に近付きつつあった。特に、東西間の交通が貧弱な南部の整備が叫ばれる様になるのは必然であり、その中でも鉄軌道の整備は沿線住民が最も熱望した。

 1982年に大阪府と大阪市が共同で構想した「鉄道網整備調査委員会」において、今里長居線の南北部分に当たる太子橋今市~湯里六丁目が検討された。ここまでは史実通りだが、この時に住之江公園~喜連瓜破も追加された。南部の交通網改善が叫ばれていた事から編入された。

 その後、1989年の運輸政策審議会答申第10号において、上新庄~今里~湯里六丁目と住之江公園~湯里六丁目~喜連瓜破の両方が組み込まれたが、両方とも「整備をするか検討すべき路線」という最低評価が下された。前者は、この世界の千日前線は南巽から南進して八尾南に至っている為、部分的とは言え並行路線となる事が評価を下げた。後者は、南部の交通網の整備という目的があるものの、こちらも南海急行電鉄八尾線と並行している事から、緊急の整備をする必要は無いと判断された。

 

 しかし、南部の人口増加は早く、1994年には住之江公園~湯里六丁目~喜連瓜破の特許が許可された事で、1996年に整備される予定だった。それが、前年に発生した阪神・淡路大震災の影響で延期となり、その間に上新庄~今里~湯里六丁目の沿線予定地での宅地開発が進んだ事で、同時に整備される事となった。

 また、別の路線とするよりも1つの路線とした方が効率的であるという意見が多かった事、井高野経由に変更した事などもあり、1999年に住之江公園~湯里六丁目~今里~井高野~岸辺というルートに変更された。規格は、環状線としての性格が強い事、それ故に輸送量は決して多くないと見られた事、新技術導入から1435㎜・直流1500V・鉄輪式リニアモーターカーとされた。

 

 工事は1998年に住之江公園側から始まった。翌年には湯里六丁目でも工事が始まり、2000年には湯里六丁目~今里~井高野での工事も始まった。井高野~正雀は阪急との協議が遅れており、工事開始は2003年となった。

 工事だが、多くの場所で遅れ気味だった。後発故に地下深く掘る必要があり、予定地の多くが軟弱地盤である事から、細心の注意を払う必要があった。また、道路幅が狭い場所もあり、その様な場所では上下にトンネルを建設するなど、今までとは違う工事を行う事が多かった。その為、当初の予定では4500億円と見積もられていた建設費だが、最終的に7000億近くも掛かる事となった。

 それでも、2005年8月21日に最初の区間である住之江公園~湯里六丁目が開業した。開業前に、新線に「今里長居線」の名称が付与された。その後は順次開業し、2006年12月24日に湯里六丁目~今里、2007年10月28日に今里~北江口、2013年3月23日に北江口~岸辺が開業した事で全線が開業した。

 

 車輛は、2005年の開業時に導入されたのが史実の70系であり、その後延伸による増備が行われ、2次車以降は史実の80系となる。

 建設費が高騰した事から当初予定されていた自動運転は取り止めとなり、2次車以降はATO(自動列車運転装置)に関する設備は設置されていない。だが、導入した場合を考慮して、設置スペースは確保されている。また、製造コストの削減から、2次車以降は直線が多用されている。これにより、全線開業時に増備された4次車と1次車とでは15%のコスト削減に成功している。

 

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 開業した今里長居線だが、利用者はそこそこいるのだが、決して多くない。開業前の予測では1日の平均利用者数を17.5万人と見込んでいたが、開業初年度は9.8万人と10万人を切る数字だった。その後は少しずつ増加しているが、2020年現在でも12.5万人と開業前の予測に達していない。

 理由は複数あり、他路線への乗り換えを重視して繁華街など集客力のある場所を通っていない事、並行するバスの存在、運賃の高さが挙げられる。これらの要因から、バスの利用者が地下鉄にシフトせず伸び悩んでいる。建設費の想定外の高騰もあり、大阪市交通局の赤字を増加させた元凶と見做される事が多い。

 

 一方で、今までバスしか公共交通機関が無かった場所に大量輸送機関である地下鉄が通った影響は大きかった。沿線の再開発や大型量販店の進出、地下鉄へシフトする利用者の増加による渋滞の減少、駅周辺の駐輪場の整備による不法駐輪の減少などが見られ、少しずつではあるが利用者は増加している。今里長居線と連絡している路線の混雑率も数%から10数%ではあるが低下しており、別路線へのフィーダーとしての機能を発揮している。

 それでも、大阪市高速電気軌道(2018年4月1日に民営化。愛称は「大阪メトロ」)の路線では最も利用者が少ない路線であり、増便はされているものの6両化の目処は立っていない。沿線人口の増加も鈍化しており、急速な高齢化の兆候も見られており、「大阪メトロの中で、将来性が一番良くない」という評価が下されている。利用者増の具体策は中々出ず、沿線の開発は管轄外である事から、将来性は今一つと言われている。

 

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(大阪市営地下鉄今里長堀線)

◎住之江公園:大阪市営地下鉄御堂筋線支線、大阪市交通局南港ポートタウン線

・住之江区役所前

・千躰

◎長居:JR阪和線、大阪市営地下鉄御堂筋線

・長居公園東口

・湯里六丁目

・中野

・今川

◎東部市場前:JR関西本線

・大池橋

◎今里:大阪市営地下鉄千日前線

◎緑橋:大阪市営地下鉄中央線

◎鴫野:JR片町線・おおさか東線

・蒲生四丁目

◎関目成育:京阪本線(関目)

・新森古市

・清水

◎太子橋今市:大阪市営地下鉄谷町線

・だいどう豊里

・瑞光四丁目

・北江口

・井高野

◎正雀:阪急京都線

◎岸辺:JR東海道本線


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