聖剣伝説3逆行   作:畑中

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18話:昨日の敵は今日の友

 

 

 

 

 

 

 

 美獣がフェアリーを連れたままマナの剣と共に消え去り、紅蓮の魔導師と死を喰らう男も悪態を着きながらすぐに空間転移の魔法で消えた。美獣を追ったのだろう。空間転移といっても長距離は移動できず、一度では聖域からも出れないはずだ。

 

 フェアリーとマナの剣を奪われた。ホークアイも美獣を追うべきだとはわかっていたが、足は動かず声は出ない。

 親友がボロ雑巾のように満身創痍で、肉の焦げた匂いをさせている。その姿はトラウマになった一度目の悪夢によく似ていて、ホークアイは頭が真っ白になってイーグルに縋った。

 

「イーグルっ……イーグル!!」

「ホークアイしゃんじゃまでちっ!デュランしゃん、すずめのなみだでいいからてつだって!」

 

 と、シャルロットがホークアイを無慈悲に蹴り飛ばし、ホークアイはよろよろとデュランに場所を譲った。シャルロットとデュランによる必死の治癒の甲斐あって、イーグルの皮膚は滑らかさを少しずつ取り戻していく。だがシャルロットたちの顔は晴れず、汗が滴っている。見た目より重症だということだ。

 

 油断した。フェアリーを取られた時点で、イーグルから一瞬でも目を離すべきではなかったのに。フェアリーを取り戻したいがあまり、判断を誤った。己の責任だ。足元の地面が落ちていくような錯覚に襲われる。また──また失うのか?

 

 そのとき、水辺に光が浮かび上がった。それはぼんやりと人の形を成して、手のひらをイーグルに向けた。柔らかな光のマナがイーグルを包み、イーグルは「う……」と目を開けた。

 

「っイーグル……!」

 

 と、ホークアイはデュランを押し退けてイーグルの横に膝をつき、イーグルの様子を見た。肌も顔色もすっかり良くなっている。ホークアイは何も考えずにイーグルの頭を抱えた。抱き締め返してくれる手の温かさを背中に感じて、自分が震えていたことに気付く。

 シャルロットが治癒術の手を止めて、「めがみさま……」と呆然と呟いた。

 

 水辺のぼんやりした発光体は、いつの間にか背の高い美女へと変貌していた。編み込んだ長い髪はマナの樹の葉と同じ色をしている。体は半透明で、実体はない。『──私はマナの女神の幻影です』と彼女は改めて自己紹介した。

 

『聖剣の勇者たちよ……どうか、どうか邪悪な者を倒し、フェアリーを助け出して下さい。あなた方に、これを授けましょう』

 

 と、マナの女神はどこからともなく風の太鼓を出現させて、イーグルの前に浮かべた。イーグルはホークアイを支えに立ち上がり、押し付けられたでんでん太鼓を受け取って、「ありがとう」と律儀に礼を言った。

 

「女神様、治療、感謝する。だが、マナの樹が枯れる前にマナの剣を抜けば、覚醒したあんたが奴らを倒してくれると信じてここまで来たんだがな」

『もうマナは失われ過ぎていて、私にあの巨悪を滅す力は残されていません……マナの樹が枯れ果てるのも時間の問題でしょう。私は、それと同時に消える定め』

「マナの樹とあんたが消えたら、世界はどうなるんだ?」

『魔法は使えなくなり、マナの影響下にある土地も様変わりするでしょう。ですが、あなたはフェアリーと充分に信頼関係を築いた……あのフェアリーは、新たなマナの樹となることができるでしょう。フェアリーは、本当に信じあえる人、理解しあえる人と出会ったとき、新たなマナの樹、マナの女神として生まれ変わるのです。ですから……遠い未来の世界のためにも、あのフェアリーを失うわけにはいかないのです。彼女は、最後のフェアリーですから』

 

 二度目のホークアイでさえ初めて聞く情報だった。フェアリーがマナの樹になる?女神に生まれ変わる?いったい何の話だかわからないが、全くもって今回の女神はよく喋る。ホークアイが聖剣の勇者だったときは、彼女はほんの少しだけ姿を現して、風の太鼓をよこしただけですぐに消えた。マナの女神が覚醒できなかったのはマナが減り過ぎていたからだったから、今回は必死に急いで聖域までやってきたのに、それでも遅すぎた。成果はなく、ただ幻影とのお喋りの時間を増やしただけだ。元々信心深いタチでもないので、ありがたくもなんともない。女神様は何でも願いを叶えてくれるとか、誰か言ってなかったか?

 

「マナの女神さん。頼むよ、イーグルの運命をどうにかしてくれ。こいつフェアリーがいないと、すぐ死にそうになるんだ」

 

 ホークアイはイーグルの腕を掴んで、膝をついてマナの女神に懇願した。女神とフェアリーが同質の存在であるならば、フェアリーにできることならば女神にもできるだろう。世界を救ってくれないのなら、どうかイーグルだけは救ってほしい。

 マナの女神は淡々と首を横に振った。

 

『残念ですが、私がどうにかできる範疇にありません』

 

 ホークアイはふつふつと怒りが込み上げてきた。悪を倒してフェアリーを救えと簡単に言っておきながら、何もしてくれない。こんなことなら、遥々ここまで来たのは無駄足だった。

 

「あんた、いつもそうだ。前だって、聖剣抜いたって何もしてくれなかった。あんた知ってるのか、ひとはツラい時、あんたに祈るんだぜ。あんたが救ってくれると信じて!あんたに聞こえてるのか?聞いたことはあるのか?あんたなら何とかできるって、祈ってる連中の声が!聞いてるワケねぇよなぁ、寝てんだから!」

「ホーク、それくらいにしとけ」

 

 と、イーグルがぽんぽんとホークアイの頭を叩く。落ち着かせようとしてくるその態度が逆に腹立たしい。誰のせいでこんなに頭に血が昇っていると思ってるんだ。イーグルはホークアイの頭に手を置いたまま「女神様、ウチのが申し訳ない。こいつの情緒不安定は俺が原因なんだ」と、何とも言い難い謝罪をした。しっかり自覚があるのもそれはそれで腹が立つ。

 

『……彼のお怒りは、もっともです。ですから、最後の力を使って、あなた方に力を授けましょう』

 

 女神がそう言うと、マナの樹を源に眩しいほどの光がホークアイたち全員を包んだ。妙に温かいそのマナが体の中に染み込んでいって、自分と同化するのを感じた。体からマナが溢れるようだ。

 

「これは……!」

『これで、クラスチェンジアイテムを手に入れさえすれば、クラスチェンジが叶うでしょう……』

 

 デュランが「助かるぜ、女神様」と機嫌を良くし、「ちからがあふれてくるでち!」とシャルロットも喜びの声をあげた。ホークアイは、聞き分けのない子どもみたいに暴言を吐いたのが恥ずかしくなって黙った。

 

『こんなことしかできずに、ごめんなさいね。私が無力なのは、その通りですから』

 

 と、マナの女神は悔しさを滲ませた。どうやら、淡々としているように見えたこの神にも、人間と同じように感情がある。

 

 思えば、彼女はこれから死ぬのだ。創世神話を残すほどの強大な神だった彼女は、その力を失い、何千年と見守ってきた世界が滅びに瀕しているのに何もできずに消えようとしている。それがどんな無力感か、人間のこの身ではきっと理解できないだろう。しかしホークアイも、何も成せずに死んだことがある。何も守れずに死を覚悟したあの時の、絶望と無力感。

 

「……ごめんよ、女神さん。八つ当たりした。イーグルの怪我も、治してくれたのに。ありがとう」

『謝らないでください。どうか、フェアリーを取り戻し、哀れなる魔王を倒せますように。どうか……あなた方に、マナの加護があらんことを……』

 

 祈りながらマナの女神はすうと空気に溶けて消えた。かさかさとマナの樹の葉が乾いた風に揺れる。

 まだ死んだわけではないだろうが、先ほどよりもマナの樹のマナの気配が薄くなった気がした。残された命を振り絞って、マナをホークアイたちに分け与えたからだ。

 

「……美獣を追おう。まだ間に合うかもしれない」

 

 ホークアイはイーグルの手を取りつつ踵を返し、慎重に来た道を戻る。急ぎたいのは山々だが、イーグルの現状を考えると無理は禁物だ。死神が休む暇を与えてくれないのは、もう嫌というほど身に染みている。

 

「悪いな、こんなことになって」

 

 と、イーグルが沈んだ声で言った。ホークアイは「お前のせいじゃない」とだけ返してイーグルの手を強く握る。

 

 アンジェラが急いた様子で前に出て、「ホークアイ、イーグル」と声をかけてきた。

 アンジェラと顔を合わせるのは、火山島ブッカを出た後、ウンディーネを仲間にしてもらうためエルランドに送って以来だ。戦争に赴く兵たちを止めるため、アルテナにひとり残ったのだと聞いている。こちらに攻撃してこなかったギガンテスの様子を見る限り、反戦派の兵たちをまとめ上げる大仕事にも成功したのだろう。

 

「ホークアイ、悪いけど、入り口に残してきた兵たちが心配だから」

「わかった、先に行ってくれ」

 

 ホークアイもナバールのニンジャたちが心配ではあるが、ビルとベンが上手くやっていることを信じるしかない。

 デュランが「前衛が必要だろ、俺も行く」と、アンジェラの後を追った。

 

「ケヴィン、君は?獣人たちはどうしたんだ」

「獣人、聖域来てない。オイラ、止めた」

「!……そうか、すごいぞ。よくやった」

 

 初めて会ったとき、あんなに獣人から逃げ回って、同胞たちと良好な関係性を築けているようにはまるで見えなかったケヴィンが、同胞たちのために彼らの運命を変えたのだ。

 ホークアイはケヴィンの頭をわしわしと撫でてやった。成長期まっさかりの少年は、初めて会った時よりも頭の位置が少し高くなっているような気がする。ケヴィンは「うん、オイラ、頑張った!」と誇らしげに口角を上げた。ビーストキングダムへの里帰りで何があったのか知らないが、ケヴィンは何だか自信をつけ、精神的にもひと回り大きくなって帰ってきたようだ。

 

「ホークアイ。オイラ、前より強くなった。イーグル守るの、ちゃんと手伝える。だから、大丈夫。頼って」

 

 ホークアイがきょとんとすると、「ホークアイ、初めて会ったときと、おなじ顔してる」と、ケヴィンは言葉を続けた。彼に初めて会いに行ったのは、今と同じくイーグルが死神に狙われていて、精神的にも体力的にも追い詰められていたときだ。年下の少年に気を使わせたことに気がついて、ホークアイは苦笑した。

 

「俺……そんなコワイ顔してる?」

「怖いというよりかは……」

「トゲトゲしてるでち」

「大事な人が危ない状況にいたら、誰だってそうなりますよ」

 

 と、リースがフォローを入れた。刺々しかった前回のリースを思い出して、その説得力にホークアイは思わず「なるほど」と頷いた。

 

 

 

 道中、恐ろしいほど強いラビに遭遇したりと何度か危うい場面はあったものの、ホークアイたちはなんとか逃げ切って、イーグルを守りつつ聖域の入り口に戻った。

 

 聖域の入り口に近づくにつれて、ただならぬ闇の気配がどんどん大きくなってくる。人外共の戦闘による地鳴りと轟音が断続的に響いてきて、ホークアイは怖くなった。死神に魅入られている今のイーグルをつれて、あっちに近づいて本当に大丈夫なのだろうか?

 

 少し離れた場所から覗き見ると、美獣と紅蓮の魔導師、死を喰らう男たちが激しく魔法をぶつけ合っている。地面は割れ、闇のマナと強風が渦巻き、火柱が空高くまで上がり、美しかった聖域の面影はない。

 美獣の持つマナの剣から禍々しい魔力が溢れている。美獣がそれを片手で一振りすると、地面は大きく抉れ、瓦礫が紅蓮の魔導師と死を喰らう男を吹き飛ばした。マナの剣が武器として扱われているのは、前回含め初めて見るが、凄まじい威力だ。

 

 炎や瓦礫、土埃が邪魔で周囲の状況はよく見えない。美獣に握りしめられているフェアリーはだらんとして動いていないようだ。生きてはいるだろう、死んだ後も体が残るタイプの存在ではないはずだ。

 アルテナ兵やナバール兵の姿はない。かつてはこの場所に、数えきれない死体が転がっていた。記憶の中の前回では、アルテナ兵、ナバール兵、ビースト兵、それぞれが人外に利用されて、無駄に命を散らした。

 

「お前ら、無事か」

 

 と、土煙の中から駆けてきたのはデュランだ。後ろにはアンジェラもついてきている。

 

「アルテナ兵もナバールのひとたちも残らず避難させたわ。誰も死んでないと思う」

 

 アンジェラの言葉にホークアイはほっと息を吐き、イーグルが「感謝する」と言った。ひとまず懸念事項のひとつは消えた。

 

「マナの剣、マジでやばすぎる。桁違いだ。だけど、あの猫のオバハン、剣は素人だな。ただ振り回してるだけだ。勝機があるならそこだと思うぜ」

「まず紅蓮の魔導師や死を喰らう男を囮に──」

「フェアリーには、カウンタマジックでこっちの魔法が当たらないようにできる」

「なら遠慮せずにでっかいのブチ込めるわね」

 

 それぞれ口々に作戦を出していき、勝機を探す。イーグルを守りつつ、フェアリーと聖剣を奪い返さなければならないのだ。イーグルを参加させるのもひとりにするのも危険すぎるので、自動的にホークアイも参加できない。できて、遠隔からの補助魔法くらいだ。

 厳しい条件に自然と空気も重くなる。その中で、デュランが突然息を呑んで立ち上がった。

 

「……あいつはっ……!」

 

 戦場の真っ只中に突如現れたのは、黒耀の騎士だ。

 美獣が紅蓮の魔導師に振り下ろしたマナの剣を、その強大なエネルギーごと黒耀の騎士の大剣が受け流す。美獣はマナの剣を振り回すが、ことごとく黒耀の騎士の剣技に受け流され、美獣は舌打ちして距離を取った。

 紅蓮の魔導師が「よくやった!そのまま時間を稼げ!」と笑って詠唱に入る。だが黒耀の騎士は追撃しなかった。

 

「我々は降伏する。紅蓮の魔導師、もうやめろ。全ては終わった」

 

 と、黒耀の騎士は大剣を下ろしてこれ以上戦闘の意思がないことを示した。美獣も片眉を上げて動きを止める。

 紅蓮の魔導師は激怒して「何を言っている……?!そう言えば貴様、竜帝様をお守りせずにこんなところで何を──!」と顔を真っ赤にした。黒耀の騎士は淡々と低い声で続ける。

 

「竜帝は死んだ。その女の仲間の手によって、暗殺された。もう聖剣を手に入れる意味も失われたのだ」

 

 紅蓮の魔導師は絶句し、練り上げられていた魔力も霧散する。美獣は「うふふ、邪眼の伯爵が上手くやったようだねぇ」と嘲笑した。

 

 竜帝の暗殺は、前回も起こったことだ。状況こそ違えど、以前も黒耀の騎士から同じことを聞いた。この黒い騎士はわざわざ紅蓮の魔導師の遺体をホークアイたちの目の前まで持って来て、自陣営の敗北を律儀に告げにやってきた。

 紅蓮の魔導師は「ば、馬鹿な……」と声を震わせる。

 

「し、信じられるか!竜帝様が易々と殺されるわけがなかろう!」

「いや、お前も感じるはずだ。竜帝に与えられた闇の力……その源が消えたのを」

「……!」

 

 紅蓮の魔導師は脱力して膝を地面に落とした。

 

「ひひひ、ライバルが減って良かったデス……と、喜びたいところデスが……?」

 

 死を喰らう男は鎌の上に乗って距離をとった。美獣の「オホホ!」という高笑いが響く。

 

「察しのいいピエロだこと。お前のところの主、仮面の道士といったかしら?今頃は──」

「!!せ、戦略的撤退デス!」

 

 死を喰らう男は瞬時に姿を消した。

 美獣は勝ち誇って「アーハッハッハッ!」と哄笑してから、遠巻きにしているホークアイたちに侮蔑の目を向けて、マナの剣とフェアリーを両手にぶら下げて悠々と忘却の島に続く次元の扉を歩いて出て行った。

 ホークアイは足が竦んで追いかけられなかった。怖いのは美獣ではない。ふとした拍子にイーグルを失うかと思うと、動けなかった。

 

 美獣が消えて、その場に残された黒い騎士に駆け寄ったデュランは、口を開けては閉じて、何か言おうとしては黙った。久しぶりに再会した父への言葉が見つからないようだ。

 

 黒耀の騎士はそんなデュランを兜の隙間からじっと見つめている。懐かしいものを見る目だ。フレイムカーンも、何故だか時折そんな目でホークアイを通して何かを見ていた。

 黒耀の騎士は、言い淀むデュランの代わりに口を開いた。

 

「私たちは、手を引く……見ていた通り、あの女の力はお前たちを遥かに凌ぐ。むざむざ犬死にすることはない。お前たちも、手を引きなさい」

 

 ホークアイでもわかる、それは子に対する親の口調だった。デュランがまた息を呑む。竜帝が死に、彼の父はその支配から逃れ、今や正気を取り戻しているように見える。

 

 地面に膝をつき項垂れたままの紅蓮の魔導師が、喉の奥でくぐもった笑いをあげた。

 

「私がやってきたことは……全て、無駄だった、というわけか。ふふふ。はっははは!」

 

 絶望してひとり高笑う姿は狂人のそれだ。

 紅蓮の魔導師はしばらく笑って、ぴたりと笑いを止めて空を見上げた。

 

「──もう、生きている意味も失われたな……」

 

 そう小さく呟くと、紅蓮の魔導師はぶつぶつと詠唱して、魔力が膨れ上がる。その魔力の矛先は紅蓮の魔導師自身を向いている。死ぬ気だ。「やめなさい!」「やめろ!」と同時にアンジェラとデュランの声が響く。

 

「ッ……!」

 

 止めたのは黒耀の騎士の拳だった。黒い籠手が紅蓮の魔導師の腹に容赦なくめり込み、赤いローブの体が宙に浮き、地面に叩きつけられた。魔力が霧散する。紅蓮の魔導師は大きく咳き込んで、涙を滲ませながら黒耀の騎士を睨んだ。

 

「貴様あっ!!」

「正気に帰れ、紅蓮の魔導師。お前が闇の魔力を得る代償として命の半分を払った竜帝は、もう死んだのだ。お前の命と精神を染めていた闇も、徐々に薄まってきているはず……折角生き永らえた命だ。無駄にするな」

「……!」

 

 唖然とする紅蓮の魔導師の胸ぐらを、アンジェラが勢いよく掴んで持ち上げた。

 

「紅蓮の魔導師!死ぬなんて私が許さないわ!これだけアルテナをぐちゃぐちゃにしておいて、ひとり逃げようだなんて、絶対に、許さないっ!!」

 

 突然の開戦や、アンジェラへの死刑宣告。そこに、アンジェラの母の意志はなかったのだ。アルテナの女王は尊厳を踏みにじられ、この下種の操り人形と化していた。ホークアイはアンジェラの憎しみが痛いほどわかる。アンジェラにとっての紅蓮の魔導師は、ホークアイにとっての美獣だ。

 紅蓮の魔導師は薄い唇を歪めて笑った。

 

「ハッ……あんな国、滅べばいい。お前だってあいつらが憎いはずだ、出来損ないの王女さま!それとも力を手に入れた今、次はお前が君臨するのか?出来損ない共を虐げる番がようやく回ってきたんだものなぁ!」

「……っ、あんたと一緒にしないでよ!自分の力で見返すこともできずに、命を売って力を得て、情けない!あんたのせいで、何人傷ついたか──」

「私が憎いか!殺したいか!お前の好きにするといい、さぁ殺せ!!」

 

 紅蓮の魔導師の頬をアンジェラの平手が鋭く打つ。パァンと乾いた音が響き、紅蓮の魔導師の体が揺れた。

 アンジェラは紅蓮の魔導師を冷えた瞳で睨みつけ、言った。

 

「いいわ、私に処遇を任せるということね。あんたは死なせないわ、紅蓮の魔導師。あんたは私たちに従いなさい。私たちの言う通りに戦って、アルテナで裁判を受けて、罪を償いながら、地べたを這いつくばって生きなさい。楽になんかさせてやらないわ」

「な……」

「私の好きにしろと言ったのはあんたよ」

 

 膝を地面についたまま、紅蓮の魔導師はアンジェラを呆然と見上げた。

 

「……お前、変わったな。アンジェラ」

「あんたほどじゃないわよ」

「……ひとつ、教えてくれ。落ちこぼれのお前が、どうやってそこまで?」

 

 アンジェラは少しだけ口角を上げて、「私たちの役に立ってくれたら教えてあげてもいいわ」と、毒気を抜かれたような顔をしている紅蓮の魔導師を見下ろした。

 

 アンジェラと紅蓮の魔導師のやりとりを見ていた黒耀の騎士は、紅蓮の魔導師の希死念慮がとりあえず薄れたのを見て、ゆっくりと踵を返した。それを見て焦ったのはデュランだ。

 

「待ってくれ!……──親父」

 

 デュランが恐る恐る呼びかけると、黒耀の騎士は黒い兜の隙間からデュランを見返した。その目つきの優しさが、デュランに父の正気を確信させたようだ。デュランの目が潤む。

 

「……もう、完全に竜帝の支配は消えたんだな」

「……そのようだ」

「そう、か」

 

 十二年ぶりの親子の会話は随分と辿々しい。

 

「……本当に、竜帝は死んだのか?十二年前のように、魂が体にしがみついていたりしないのか」

「死んだ。私の魂を支配し、繋ぎ止めていた竜帝の魔力が溶け消えた……確信を得たいなら、ガラスの砂漠の北にあるドラゴンズホールに向かうといい。その何処かで朽ちているだろう」

「……全部終わったら、そうさせてもらう。親父。あんたは?」

「私は竜帝によって、仮初の時間を与えられた亡霊に過ぎない。竜帝が死んだ今、私も長くはなかろう。お前たちの邪魔はしない」

「……前にあんた、俺に、一緒に来いと言ったよな。次は、俺が言う。一緒に来い。その体と魂の繋がりがなくなるまでの短い間だけでいい。世界を救う手伝いをしてくれ」

 

 と、デュランは黒耀の騎士にゆっくりと手を差し出した。デュランの顔を見ると、平然を装っているもののガチガチに緊張しているのが見てとれた。

 黒耀の騎士は差し出された息子の手をじいっと眺めて、「……いい手だ。鍛錬を怠っていないのがよくわかる」と、剣士らしい感想を言った。この親にしてこの子ありだ。

 

「……お前が、そう望むのなら」

 

 と、黒耀の騎士はデュランの手を取った。親子は無言で見つめ合い、それが彼らの再会の喜びの表現らしかった。死別して十二年ぶりに再会した不器用な親子の交流としては、まぁ上出来だろう。

 

 アンジェラとデュランはいい仕事をしてくれた。紅蓮の魔導師と黒耀の騎士、彼らに協力を仰げるのなら心強い。少なくとも、イーグルを守ることに専念できる。

 

 

 

 

 

 

 ホークアイたちは紅蓮の魔導師と黒耀の騎士をつれて、聖域から忘却の島へと戻った。やはり外はマナが薄い。

 

 美獣の姿はもうとっくに消えていて、残されているのはナバール兵やアルテナ兵たちだ。

 紅蓮の魔導師とアンジェラが共に歩く姿を見たアルテナ兵たちは騒然としたが、アンジェラが紅蓮の魔導師を従えてギガンテスの前に立つと、兵たちはぴたりと黙った。

 

「戦争はお終いよ。みんな、アルテナに帰りましょう」

 

 と、アンジェラが高らかに終戦を宣言する。アルテナ兵たちはどよめき、歓声を上げたり泣き出したり嘆いたりと反応はそれぞれだったが、誰も否を唱える様子はない。戦争を先導していた紅蓮の魔導師が粛々とアンジェラに従っているのは大きいだろう。

 

 アンジェラの指示で、彼らは不時着した空中魔導要塞ギガンテスの整備のためにギガンテスに乗り込んでいった。船尾の黒煙は収まってはいるが、果たしてまともに動くのかどうか。

 

 ナバール兵はビルとベンによって海岸に集められていて、ホークアイたちの姿を認めると正気に戻った兵たちが「イーグル様!」「ホークアイ!」とそれぞれ駆け寄ってきた。ホークアイはその中に死んでいたはずの顔を複数見つけて、泣きたくなった。

 

「お前たち、よくやってくれた。いい仕事だった」

 

 イーグルはまるで一仕事終えたときのように彼らを労った。悪どい商売で甘い汁を啜っているクズ共にお灸を据えて、お宝を抱えきれないほど盗み帰ってきたときみたいに。

 ホークアイと同じことを思ったのは他にも数人いたようで、彼らは咽び泣いた。男泣きする連中にイーグルは「むさ苦しいぞ、やめろ」と笑った。

 

 

 デュランと黒耀の騎士は積もる話もあるようで、離れたところで途切れ途切れに立ち話をしている。リースはアマゾネスをつれてローラント船の出航準備に向かった。ケヴィンとシャルロットはホークアイと共にイーグルの側についてくれている。頼ってくれと言ったケヴィンは、その言葉を守るようにしっかり周囲を警戒してくれていて、ホークアイは少しずつ気分が落ち着いてくるのを感じた。目的を同じとしてくれる仲間がいるというのは、本当に心強い。

 

 まだ美獣の洗脳が解けておらず虚空を見ている兵たちに、イーグルは一人ずつ洗脳解除の魔法をかけていった。美獣が去り自然解除も時間の問題だろうが、できることなら、これ以上同胞たちが正気を失っている姿を見ていたくなかったからだ。

 

 美獣の支配から解放されたばかりの連中を見ると、どうやら洗脳されている間の記憶の保持には個人差があるらしい。自分がどんな状態だったのかわかっている者もいれば、ここがどこなのかもわかっていない様子の者もいる。こればかりは生まれ持った資質の差だろう。

 

 ホークアイとイーグルは場の盗賊団全員を集めて、改めて現状の説明をした。美獣の正体や目的、ローラントの状況、ホークアイの持つ記憶のこと。今でこそイーグルが聖剣の勇者となっているが、元々はホークアイの方こそが勇者だったことを知ると、ホークアイのシーフとしての常しか知らない彼らはホークアイに胡乱な目を向けてきた。心外だが気持ちはよくわかる。

 

「それで、ホークアイ。俺たちはナバールに帰れるのか?美獣はどこに行ったんだ?」

 

 と、ビルが代表してホークアイに尋ねた。しばらく旅の一行に同行していた双子は、この場において仕切るのがイーグルでなくホークアイだと知っている。

 

「……美獣はダークキャッスルに戻ったはずだ。ナバールを徘徊してるモンスターも近いうちに消えるだろう。もう少しで、帰れる状態にはなるはずだ」

 

 ホークアイがそう言うと、ナバールの仲間たちはどよめきつつ歓声を上げた。

 前回の旅路では、美獣はフェアリーを攫いマナの剣と交換だと言って、ナバールを交換場所に指定した。だが今回はフェアリーもマナの剣もすでに奴らの手の内だ。もはやナバールに用はなく、根城に戻ったと考えるのが自然だろう。

 

「だけど、まずはローラントの復興支援に尽力してほしい。ローラントの支援部隊と砂漠に帰る部隊に分かれて、サルタンやディーン、砂漠の民への支援も並行して進めよう。配給をやめてたから随分貯まってるはずだ。これからもナバール盗賊団が存続できるかどうかって緊急時だ、宝物庫をカラにしたって構わないだろ、イーグル」

「……ああ、まぁ、その件は俺に任せてくれ。少し時間が欲しい」

 

 と、イーグルは珍しく歯切れが悪い。何か隠し事か、とホークアイがじっと見つめると、イーグルは二秒で白旗を上げた。

 

「実のところ、もう既にカラなんだ。宝物庫」

「は?」

「美獣がナバール王国がどうとか言い出した日に、持ち出して隠した。軍事費に使われたくなかったからな」

 

 ということは、美獣に喧嘩を売りに行ったあの日には既に隠されていたということになる。さすがの慧眼だな、と思うと同時に、そこは冷静だったのに何故あの夜はあんなに無鉄砲だったのかと文句が喉まで出てくる。

 

「なら早く回収しないと。どこに?」

「……火炎の谷だ。よっぽどの手練れじゃなきゃ見つからんよ。俺の部下にとってこさせるから任せてくれ」

「何か俺に見られたらマズイものが?」

「……そう、その通り。お前は絶対怒る。頼むからこれ以上は聞いてくれるな」

「ふーん……ま、人選は任せるよ」

「助かる」

 

 と、イーグルは目に見えてほっとして直属の部下を集めて指示を始めた。何がマズイのか気になるが、他の仲間たちの目もあることだし、素直さに免じて追求は後々することにする。

 盗賊団の面々を砂漠に帰しても、ホークアイとイーグルはまだ故郷に帰るわけにはいかないのだ。フェアリーを助けなければ、どんなに見張っていてもイーグルが死神に連れて行かれてしまうのは時間の問題だ。

 

 丁度、アマゾネスたちとローラント船の出航準備をしてくれていたリースや、ギガンテスでアルテナ兵たちへの指揮をとっていたアンジェラも紅蓮の魔導師をつれてこちらに戻ってきた。それを見たデュランと黒耀の騎士も親子の話を終えて、旅の一行が全員揃ったところで今後の予定を話し合う。本来は聖域が最終目的地だったはずだが、マナの女神が復活せず、結局魔族たちは自分で倒さなければならなくなった。

 

「状況が変わったから、一応、確認する。抜けたいやつがいればここで抜けてくれ」

「ふざけんなよ。状況が変わろうが、こちとらとっくに世界救うつもりでついてきてんだよ」

「オイラも。ホークアイたちの、力になりたい」

「エリオットを救出するまで、帰るわけには行きません。敵は同じです」

 

 と、それぞれ理由は違えど抜ける気はないらしい。アンジェラとシャルロットは宣言すらせず、ホークアイ側に立っている。紅蓮の魔導師だけは「選択肢をもらえるならすぐ抜けるが」とブツブツ言っていた。

 ホークアイは仲間たちに感謝して、「よし」と仕切り直す。

 

「まずはフェアリーの救出が最優先だ。ダークキャッスルに向かう」

 

 仲間たちは頷く。リースは特に気合が入っている。ダークキャッスルにはエリオットもいるからだ。

 

「ザンネンですが、それは悪手だと思いますヨォ」

「!」

 

 突然聞こえた声に臨戦態勢を取ったのは全員だった。話し合いに交じるかのように、円の外周に死を喰らう男も立っている。囲まれて武器を向けられ、死を喰らう男は「ヒェッ、やめてくださいヨ!ワタクシにはもう戦う気なんてこれっぽちもないんデスから!」と両手を上げた。

 

「というのもですネ、あの猫女共、ワタクシの主仮面の道士様をあっさり殺しちゃって、ミラージュパレスは滅んでしまったんデス!ワタクシも逆らうと殺されちゃいますから、仕方無くこうして、メッセンジャーボーイとしてこき使われてるんでございマス。でもね、どーせ用がすんだら、ワタクシも殺されちゃうんですよ、きっと!だから仲間になったフリだけしておいて、このまま逃げちゃおうと思ってるんデス!」

 

 と、死を喰らう男は記憶にある前回と全く同じ話をした。シャルロットが詰め寄る。

 

「ヒースは?ヒースがどこにいっちゃったかは、やっぱりわからないんでちか?」

「ヒースぅ?知らんネ!自分が誰だか分かんなくなっちゃったみたいで、どこかに消えていったヨ」

「はぁ、あんたしゃんって、あいかわらずのむのうでち」

 

 死を喰らう男は「こ、このちんちくりんが……」と青筋を立てたが、戦う気がないと言った通り、魔法を使う気配も見せない。最も、戦闘になれば人数差でこちらに分があるだろう。

 

「ワタクシが無能なら、アンタたちはおバカの極みデスヨ!あーんな化け物共に逆らうなんてネ、おバカ以外の何者でもありませんネ。あの化け猫、神獣を復活させちまったんデスヨ。それで、アンタたちに神獣を倒して欲しいってサ!倒さなかったら、フェアリーはブッ殺しちゃうそうデス。ワタクシ、キチンと伝えましたからネ!」

 

 死を喰らう男は「じゃっ、バイビー!」と陽気な声と共に空間移動の魔術で忽然と消えた。

 

「神獣……創世神話に出てくる、女神が倒したという八つの災厄のことですね。何故、わざわざ蘇らせて、倒させようとするのでしょうか……?」

 

 と、リースが当然の疑問を口にする。ホークアイは改めて前回あったことの説明をした。

 美獣にマナの剣が奪われた後、それぞれのマナストーンに封じられていた神獣が解放されたのは、以前もあったことだ。

 神獣が全て合体して最終形態になってしまえば世界にとって脅威となる。まだ目覚めたばかりの八つに分かれている状態ならまだ間に合うとフェアリーに言われて焦って倒していったが、それは美獣の罠だった。倒させて、彼らは神獣の力をマナの剣に吸収させていたのだ。

 

「では……倒したら、みすみす敵を強くしてしまうのですね」

「それでも、倒すしかない。フェアリーが人質に取られてるんだから」

 

 神獣を倒せば、その神獣の力を黒の貴公子に奪われる。神獣を倒さなければ、神獣はよりその力を増し、世界を破滅に導く災厄となる。いずれにしても、神獣も黒の貴公子もどちらも倒す必要がある。どちらが先かというだけだ。

 

「なら、やっこさんの脅しを利用してやろうじゃないか。神獣討伐に乗り出せば、脅迫に従ってると思ってくれるさ。そこに油断が生まれる」

 

 と、言ったのはイーグルだ。

 

「神獣討伐組に派手に暴れてもらって、少人数でダークキャッスルに忍び込むんだ。どうやって神獣の力をマナの剣に吸収させるのか知らないが、辺鄙な山奥の城に籠りながら遠隔で可能だとは思えないな。現地に行くか、マナエネルギー収束地であるこの島か、どちらかだ。マナの剣を雑魚に預けるわけがないし、幹部のどちらかは留守にできる」

 

 一理ある。こんな状況でもイーグルは変わらないな、とホークアイは思った。状況を見通す目と、理路整然とした思考回路。盗賊団の仕事でも、作戦を立案するのはほとんどイーグルだった。最近は大規模作戦の指揮も任されるようになって、イーグルを次の首領にという声はますます大きくなっている。頼むからあとはいざというときの冷静さだけ兼ね揃えてくれ、と常々ホークアイは思っている。

 

「そうしよう。どうせ倒すなら、神獣討伐は早ければ早いほどいい。時間が経つほど神獣は力を増すし、その分吸収される力も多くなるだろうから」

「どうやってチームをわけるでち?」

「俺とイーグルはダークキャッスルにいくよ。潜入には慣れてる。あと、えーと、あんた──黒耀の騎士さん?デュランの親父さん?何て呼べばいいかな」

 

 デュランの隣で静かに話を聞いていた黒耀の騎士は顔を上げて、「ロキでいい」と低い声で言った。

 

「じゃあ、ロキさんで。紅蓮の魔導師、あんた名前は?」

「……名乗る名はない。好きに呼べ」

 

 と、紅蓮の魔導師はつれない返答だ。援護を求めてアンジェラを見るが、アンジェラは「本人が教えないって言ってるのに、私から言うのはナシでしょ」と肩をすくめたので、名前を聞くのは諦める。長いが今まで通り呼ぶしかなさそうだ。

 

「オーケー、じゃあ紅蓮の魔導師とロキさんはダークキャッスルについてきてくれ。他のみんなは神獣を倒しつつ、クラスチェンジを進めておいてほしい。クラスチェンジアイテムの種を落とすモンスターを教えておく」

「おい、親父はともかく、その赤マントまで連れて行って大丈夫かよ」

「アンジェラ、どう思う?」

「逃げる気ならもうとっくに逃げてるわ。それに……感じるのよ。今こうしてる間にも、こいつの中から、邪悪なマナが抜けていってるのを」

 

 アンジェラは「……庇うわけじゃないけど、元々は、嫌なヤツじゃないのよ」と肩をすくめた。その横で紅蓮の魔導師は盛大に顔を歪めている。反論したいが藪蛇を突くことになるのをわかっている顔だ。同窓時代のエピソードなどを出されたらたまったものではないだろう。

 彼はフレイムカーンやアンジェラの母のように自由意志を奪われて操られていたわけではないが、竜帝の魔力が思想や人格に影響を与えるのは、ロキの例を見ても明らかだ。だから、ホークアイもいったん紅蓮の魔導師を信用しようと思っている。アンジェラがそうしているからだ。デュランもとりあえずは納得したようで、それ以上は何も言わなかった。

 寧ろ、血走った目で詰め寄ってきたのはリースだ。

 

「ホークアイさん、私も行きます」

「……リース。ダークキャッスルは、二度目のクラスチェンジもせずに向かうには危険すぎる場所なんだ。紅蓮の魔導師やロキさんなら、美獣や邪眼の伯爵とも渡り合えるから」

「ダークキャッスルには、エリオットもいるんでしょう?!」

 

 リースの旅の目的だ。大切な弟を助けるために、彼女は国も放って遥々こんな旅路についてきた。弟が囚われている場所にホークアイたちが赴くのに、姉である自分は手をこまねいて見ているだけなんて、我慢できないだろう。

 ギラギラと炎が揺れるリースの目を見て、止めるのは無理だとホークアイは悟った。連れて行けないと置いて行っても、無理をしてでも後を追ってくる目だ。下手すれば単独で侵入を試みるかもしれない。

 

「……わかったよ、一緒に行こう」

 

 ため息混じりにそう言うと、リースは「ありがとうございます!」と嬉しそうに破顔した。

 

「ホークアイ、俺たちも行くぞ。エリオット王子が囚われている責任は俺たちにある」

 

 と、次に同行したいと口を挟んできたのはビルとベンだ。洗脳が溶けたばかりのナバール兵たちの世話に追われていたはずだが、話を聞いていたらしい。

 ホークアイはきっぱりと首を横に振った。

 

「お前らが来ると、ナバール兵の指揮を取れるやつがいなくなる。洗脳が解けたばかりで右も左もわからない奴もいるし、ナバールに残されてる奴らなんか、洗脳が解けるのはこれからだ」

 

 ビルとベンは言葉に詰まって歯噛みした。彼らなりにエリオットの件に対し責任を感じているらしい。だが贖罪がしたいなら他にも方法はある。

 

「ビル、ベン。ニンジャ隊をつれて、ローラントの上空に現れる神獣を倒すんだ」

 

 火の神獣ザン・ビエがいるのは火炎の谷の最奥で人里とはかなり距離があるが、風の神獣ダンガードはバストゥーク山をひっきりなしに飛び回り、ローラントのすぐ真上を掠めることもある。ローラントの民への被害を考慮すると早急に倒すべき神獣のひとつだ。前回はフラミーに手伝ってもらって事なきを得たが、今回は闇の城までの足であるフラミーを貸すわけにはいかない。苦戦を強いられるのは必至だ。

 ビルとベンは風の神獣ダンガードの討伐を贖罪のひとつとして納得し、ダークキャッスルへの同行を諦めた。

 

「……わかった。ホークアイ、エリオット王子を頼んだぞ。必ず、助け出してくれ」

「言われなくとも」

 

 ホークアイとて、二度もあの幼い子どもを魔族への生贄にするなんてまっぴらごめんなのだ。

 

 そういうわけで、ホークアイとイーグル、リース、紅蓮の魔導師と黒耀の騎士ロキという異色の組み合わせでダークキャッスルへと向かうこととなった。

 死別以降、十二年ぶりの再会にもかかわらずすぐに別行動が決まったデュランとロキは、もの言いたげに見つめ合っている。

 恥ずかしがってないでハグでもしろ、とホークアイは思った。その正体が屍人なのだとしても、もう二度と会えなかったはずの大切な人に会えたのだから。いつまた会えなくなるとも限らないのだから。

 

 ホークアイは、もう二度と会えなかったはずの親友の手を強く握りしめる。うっかりすり抜けてしまわないように。死神が連れていってしまわないように。

 

 ホークアイたちはそれぞれの神獣について覚えていることを全員に共有した後、風の太鼓でフラミーを呼び出し、北東へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 











ケ「イーグル、しんぱい……大丈夫かな」
デ「初めて会ったときもあんな感じだったよな。ラビの森なんかで死にかけてよ。懐かしい」
ア「ラビの森で?!どうやって死ぬのよあんな森で」
ケ「ラビに食べられそうになって、死にかけてた…」
デ「マイコニドの毒を大量に吸ったりな」
ケ「それ治すためのプイプイ草、のどに詰まらせたり」
デ「あ、それ俺知らねえ」
ケ「まんまるドロップとか、食べ物も詰まらせるから、ホークアイが小さくしてから、あげてた」
デ「やってたなー」
ア「幼児?!幼児なの?!」
シ「いっしょにいかなくてよかったでち……しんどすぎでち」
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