魔法世界に砲弾を   作:隼河宗

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最初地の文多めです。飛ばしても読めます。その場合「1940年、スペイン」からお読みください


1940/10/**

その劇場の名はアレッシア=ターツィオ

英国人以外に世界を滅茶苦茶にした魔法使いは誰かと問うと、十中八九グリンデルバルドの名前が出てきます。

ゲラート・グリンデルバルド(1883~1998)とはヴォルデモートが英国で暴れまわるまで最も恐れられた闇の魔法使いでありました。ダームストラング専門学校を追放されたただの不良少年だった彼が大きく注目されることになるのはニワトコの杖を手に入れてから、グリンデルバルドは従来の魔法族が考えうる『軍隊』から大きく逸脱する『解放軍』を形成し始め、世界中の魔法世界から耳目と注目を集めてからでした。襲撃のうちいくつかは非魔法族にも注目され、魔法界が見つかって種族間戦争を引き起こす一歩手前まで迫ったことすらありました。

 

その一つは1922年に起こった猟奇殺人事件「ヒンターカイフェック事件」。彼の信者が犯行を行ったこの事件は未解決事件となりましたが、非魔法族による魔法世界への侵入のきっかけを作ってしまいました。事態を重く見たスペイン独立魔術政府とカタルーニャ魔法自治区局の両長官はグリンデルバルドの犯罪行為に対して国際捜査網の枠組みを作ることを提言しました。

 

そうした動きによって作られたのがグリンデルバルト-相互連絡条約機構(G.G Magical Government Mutual Aid Treaty Organization)。通称[MATO]は今までの魔法世界の対立と争いから融和と協力を目指す新たな関係を象徴する機関と言われ、グリンデルバルドのテロに絶望していた各国魔法世界の希望となったのでした。

 

この条約機構の特徴は非魔法族の正規軍を真似た機関軍をもつことを各国に義務付けることでした。海軍で言えば今までのガレオン船を全て廃棄処分し、ユトランド沖海戦で沈んだイギリス巡洋戦艦「インヴィンシブル」や装甲艦などを研究。近代軍艦と魔法技術と組み合わせた「防幗(ぼうかく)艦」艦隊を整備しました。魔法使い達はグリンデルバルドの海軍軍隊と対峙、多大な犠牲を払いながらも1940年の「アルボラン戦役」でグリンデルバルド傘下の軍艦を全て無力化し、闇の勢力に大きな損害を与えたのでした。

 

 

 

…建前上は

 

 

 

 

 

彼女の声で議場の空気は一瞬にして凍りついた。

 

 

「…もう一度言っていただけますか?」

 

スペイン王国のイベリア半島北東岸に位置し地中海に面した平野にあるバルセロナ、カタルーニャ州の州都であるこの場所にMATOは本部を置いている。この本部では通常、陸、海、空軍の統合作戦の立案や、魔法国際犯罪の情報収集などが行われるが、最近の主な会議は「アルボラン戦役をどのように展開していくか」であった。

今回作戦指揮官となったイタリア王国魔法院の女性提督。アレッシア=ターツィオは紅い目を一人の男性に向ける。有り得ないことを言うイギリス魔法省の外交官にもう一度尋ねたのだ。

 

「聞き間違いでなければ…イギリス魔法省のマリナ(海軍)は出せない。この緊急事態に?」

 

目の前の小太りの男は彼女のその言葉に首をかしげる。

 

「はて?私はそんなこと言ってませんよ?ただ最近の第三帝国の動きが活発化しています。ロイヤルネイビーで管理していた多くの魔法艦艇が空襲で焼き払われてしまったので記念艦『リヴェンジ』くらいしか動かすものが無い。と言ったのです」

 

ハロルド・プルウェットは顔色を一切変えずそう言い張った。彼の話に出てきたリヴェンジは16世紀のガレオン船であり、グリンデルバルドの航空攻撃(箒)により簡単に沈むような船である。

 

「(俄純血主義思想のプルウェット家の豚坊め。最初から艦艇を使えなくするために仕組んでいたな)…判りました。イギリス魔法省は後方支援着弾観測の任務に着いてもらいます」

 

「了解しました」

 

「次に、スペイン王国代理、クエンカ城郭管理局長パニエ・ソラノ様」

 

「スペイン王国は現在王国が管理している219騎のクエレブレのうち150騎、又海上での作戦を可能にする為の機竜移動基地をこの作戦に回すことができます」

 

「了解です。次に…亡命フランス魔法議連、エメ・デュ・ベレー様」

 

「幸いなことに所属艦艇をアメリカに逃していましたので全ての艦艇を使うことができます。ガルグイユ級召喚支援艦艇6隻とペルーダ級四号砲艦3隻、及び小さな護衛艇数隻を使えます」

 

「次に…」

 

 

 

イギリスと話をつけるとトントン拍子で他の魔法機関からの協力を求めたターツィオは、次に続いた白ロシア、ウクライナ、バルト、アイルランド…ユーゴなどの地域から早々に派遣を取り付けた。

 

「では、最後にナチ…いえドイツ魔法科学院のゲッペルス様は…」

 

彼女が目を向けるナチドイツ第三魔法院の札は伏せられ、席には誰も座っていなかった。

 

 

「…ゲッペルス様はどちらに?」

 

彼女の問いにバルト代表の男が困惑の色で語った。

 

「『ドイツ第三魔法院はグリンデルバルドの一切の行為に遺憾の意を表するが、艦隊派遣は行わない』と言って先ほど出ていかれました」

 

 

 

 MATOの会議を終え、イタリアの自宅に転移魔法で直帰したターツィオは、ぬいぐるみ(ピンク色のふわふわなやつ)を抱きながらベットに倒れこんだ。かわいい。そのまま脚をバタバタさせてありったけの罵声を吐く。

 

 

「爬虫類のくせに████████やがって!████████!████!█!豚坊はなんだ!この███!」

「██████████████████████████!████████████████!」

「██████!」

 

 

 

 

 

 

いつもMATOではクールなターツィオ。彼女の天敵と言ってもいい人物は二人いる。一人は豚。もう一人は爬虫類のような目をしたカマキリだ。

 

一人目の豚、ことハロルド・プルウェットは平たく言えばグリンデルバルド派からの離反者。が、こちらに寝返ってからも何処かグリンデルバルドに資金を提供している、などという疑惑(証言)がよく持ち上がる人物だ。しかし、追求や追放することは困難であった。一応イギリスの聖28家に入る名家。おまけに当時のイギリス魔法界で一番の富豪だった。彼が提供する潤沢な資金はww2に揺れ各国魔法省が資金を出し渋るMATOの運営に必要不可欠となっていた。

それに、MATO関係者はグリンデルバルドとの戦闘のために存在している。彼を殺し、グリンデルバルドを倒せばMATOの存在意義が無くなってしまうと皆は彼の追求を行なっていなかった。

 

二人目の爬虫類キメラカマキリことゲッペルス・カロッサは、その人物そのものよりも彼が仕える国家の方が問題だ。グリンデルバルドがドイツ生まれだと知った魔法院は注意と抗議こそすれ、一度も彼に対して敵対的な行動を取っていないのだ。噂では彼に協力を求め闇の魔術の研究を行なっている『アーネンエルベ』の『UG機関』に取り込むつもりらしい。だが、あくまで噂は噂。しかも、ドイツも魔法研究のためにMATOに大量の資金を投入しているからこちらも文句は言えない…。下手すれば豚よりも厄介な奴だ。

 

 

しかし、この作戦を遂行する上で、ドイツの魔術力とイギリスの海軍力はどうしても必要であった。それは疑惑と嫌疑しかない彼らと組み、彼らとつながっていると思われる親玉を倒すということ...

 

 

「あ゛〜!」

 

 

どう考えても、この作戦は失敗する。MATOの誰もがそう思っていた。それで問題が無いのだ。グリンデルバルドは生き延び猛威を振るい。MATOは存在出来る。

 

ただ、彼女はその組織の意向とは正反対、一刻も早く自称革命家を抹殺したいと考えていた。

彼女の母国イタリアは比較的魔法族とマグルの交流が多い。非公式ではあるが魔法族の村とマグルの街が姉妹友好都市のような関係になっているところもある(主に南部)。よってグリンデルバルドの軍が真っ先に攻撃してきたのはイタリアであり、マグルと交流する魔法族だった。その攻撃は彼女の知人や両親にも及んだ。それに…

 

 

 

「…ハンナ」

 

 

 

 

 

「貴女を…こんな風にした奴らを、私は絶対に許さない」

 

 

 

 

 

「あの時みたいな弱い私じゃないから…」

 

 

 

 

 

 

「元の姿に戻るまでもうすこし待ってて…」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、やせ細った黒猫が反応することは無かった。

 

 

 

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