『ヤンデレ』というものを、普通の人はどう思っているのだろうか?多分、『怖い』とか、『危ない』とか、そういった所だろう。
だけど、俺はその『怖い』とか、『危ない』という部分に、いつの間に惹かれ虜になっていた。『監禁』、『拘束』、『洗脳』とか、意外と体験したいと思い始めていた。痛いのは嫌いだから、『四肢切断』をされたりするのはされたくないけど。
何でこんな風になったかって?う〜ん?覚えてないな。思い出したくないんだろうな。
それでも、今はっきりしているのは『ヤンデレに愛されたい』ということだけだ。
教室の窓から眺める景色は何時も変わらず色は無くて、グラウンドで練習をしている運動部の声が響くだけ。日も落ちてきて、夕日が教室に差し込む。俺以外に誰も居ない空白の教室を照らし出す。
小さく溜め息をついて、思い足取りで教室を出る。
学校は嫌いだ……、教室という監獄に捉えられて、誰かが笑う姿が眩しく見えて目が潰れそうになる。何が楽しくてそんなに馬鹿みたいにはしゃいでいるのか……、捻くれた考えでは理解し難い光景だ。
下駄箱で上履きを履き替え、学校から逃げるように出ていく。学校を出れば家に帰るだけだが、今日は寄るべき所があった。駅の改札を抜けて、電車に揺られること数駅。目的地が有る駅で降りる。駅から細い暗がりの道を歩いていくと、一軒の店があった。
「新作……、何か無いかな……」
店の入り口で祈るように呟き、ゆっくりと吸い込まれる様に店に足を踏み入れた。
店内は電気が点いたり、消えたりを繰り返していて見通しは良いとは言えない。が、どこを見ても様々な商品が並べられた棚で埋め尽くされていて、これが一斉に倒れてきたら埋もれて死ぬだろうなと思うほどに。
店の電気の明かりだけでは物足りなくて、携帯の懐中電灯機能を付けて商品を見て回る。数分後、気に入った商品が見つかり、そそくさとレジへ行き購入。店から、袋を下げて来た道を戻る。
家に帰ると自分以外はまだ帰宅しておらず、夕飯も『先に食べてて』と書き記されたメモが有ったので、簡単に夕飯を作って食べた。使った調理器具や食器を洗い、風呂の用意をし終えると時間があった。
「課題……あったな……」
買ってきた物を楽しもうかと思ったが、敢えて課題をやることにした。その方が、より一層楽しめるから。
風呂が沸く頃には課題も終わり、着替えを持って風呂に向かった。
「はぁ……」
湯船に浸かり、湯気の上がる体を湯冷めしないように着替える。疲れた体は風呂でほぐされて、気持ち的には体は随分と楽になった。ベッドに横になると、もう何もやる気が起きなくなる。
しかし、机の上に置かれた物を見て、やる気のない体を起こし取りに行く。
CDプレイヤーを出して、電源を入れる。袋から買ったものを取り出して、パッケージを開ける。取り出した中身をCDプレイヤーにセットし、イヤホンを付けて再びベッドに横になる。体勢を整えて、再生ボタンを押した。
『ねぇねぇ?あの女の子は誰?友達?へぇ……、友達なら何であんなに近づいていたの?何で手を繋いでいたり、抱きしめたりしていたの?変だな?オカシイな?だって君は、私の、ワタシの彼氏でしょ?ワタシのことが大好きなんでしょ?ワタシのことを愛してるんでしょ?違うの?違わないよね?そうだよね、だって約束してくれたもんね。『君だけを愛してる』って言ってくれたよね。でも、君は約束破ちゃったから、お仕置きが必要だよね。大丈夫だよ、痛くしないから。君のことは、ワタシが管理してあげる。ワタシが、君の全てを管理してあげるからね』
今回は浮気バレからのヤンデレか……、でも当たりだな……。
音声を繰り返し、繰り返し、聞いて、聞いて、聞き続けていたら何時の間にか眠ってしまった。
今日も変わらず教室は、誰かが言った何が面白いのか分からない発言に大笑いし、誰は何とかだと騒いでいた。
「消えたい……」
一人自分の席でふと呟く。
今日の授業を終える鐘が鳴り、部活に行くもの、遊びに行くもの、バイトに行くものが溢れかえる。この人混みを行く気は無く、夕日が辺りを照らす屋上に行くことにした。
屋上には、自分以外の人影もなく、夕日がフェンスの遠くで眩しく街を照らしていた。景色を見ることはせずに、フェンスに寄り掛かって座った。鞄から隠し持っていた音楽プレイヤーにイヤホンを挿して、中に入れておいたCD集を再生させた。街の喧騒も、鳥の鳴き声も、運動部の声も、何もかもが掻き消されて音声に意識を持ってかれた。
「それでは白金さんは、そちらの方の窓の鍵締めをお願いします」
「はい……」
生徒会長になってから、学校に遅くまで残ることが多くなった。それでも、紗夜さんや市ヶ谷さんが仕事を手伝ってくれるから、何とかこなせているけれど……。
今日も紗夜さんにこうして学校の鍵締めまで手伝ってもらって……、本当にしっかりしないと……。紗夜さんが歩いて行った方向と反対に歩き始める。廊下の窓や、教室の扉が閉まっているかを確認していく。
「後は……、屋上だけ……」
廊下の窓や教室は戸締まりがしっかりしていて、問題は無かった。屋上に向かう階段を登ると、夕日が差し込んで眩しくて目元を手で少しだけ隠して登っていく。
屋上に誰も居ないことを確認するために、扉を開けて辺りを見渡す。物陰に何か見えたので、怖いけど人が居るか確かめに行く。
「あっ……あの……」
物陰に見えていたのは、やっぱり人だった。一人の男子生徒が、イヤホンを耳に付けたまま眠っていたのだ。起きてもらおうと声を掛けるけど、イヤホンを付けてるから聞こえないんだった。
「だ、大丈夫だよね……」
恐る恐る、眠っている男子生徒に近づいて肩をそっと叩く。
「うっ……うぅ……」
肩を叩くと、男子生徒は少し嫌そうな顔をしながら目を覚ました。
「寝てたのか……」
瞼を手でこする。
「あ、あの……。下校時刻ですよ……」
男子生徒に伝えると……、
「そんな時間……、っ、失礼します……」
私の方を見て、慌てて荷物を纏めて立ち去ってしまった。先程彼が眠っていた場所には彼の物であろう生徒手帳が落ちていた。
「谷崎……灯也……」
生徒手帳に書かれた名前を読み上げる。学年はどうやら、私の一つ下のようだった。
「明日、届けに行かないと……」
そう呟いて、屋上に続くドアの鍵を締めてその場を後にした。
階段を全速力で駆け下りていた。理由は単純、
「見られた……、いや聞かれたのか……」
俺があの場で『ヤンデレのボイス集』を聞きながら寝ていたのが、他の生徒に見られたことだ。普段から一人で過ごしてはいるが、ああいった不意打ちには慣れていない為に弱い。
「同じ学年ではなさそうだが……、しばらくは警戒しなければ……」
もし何も知らない人が聞けば、『学校で一体に何を警戒するんだ』と思うだろう。在るんだよ……、学校で警戒すべき点は……、星の数ほどな……。夕日が沈み、夜の顔ぶれが見え始めた空を睨みながら家路に着いた。
翌日になって、自分が寝ていたこと以外の失敗に気づいた。
「生徒手帳が……無い……」
鞄の外側の方のポケットに入れていたから、慌てて持ち去った時に落ちたのか……。そうなると、あの場に居た『あの人』が拾って先生に渡しているのか?もしそうなら、担任から連絡が来るはずだし……。
頭の中で思考が錯綜していくが、先生の所に行くのも億劫だった。仕方ないか……、やっぱり帰りに聞きに行くかな……。覚悟を決めて先生に行くことは決定したので、昼飯を食べることにした。無論、一人で食べるが?
「あ、あの……、『谷崎灯也』君を呼んでもらえますか……」
遠くで誰かが俺の名前を言っているような気がしたが、ストレスによる幻聴だろう。そうだ、俺の名前を呼ぶクラスメイトなんて存在しないのだから。はぁ……、気晴らしにでも何か聞くか。何にしよう、『彼女モノ』、『姉・妹モノ』、『教師モノ』、『先輩・後輩モノ』、『人外モノ』……、ネタあれど何を……。
「谷崎くん、先輩が君のことを呼んでるよ?」
どうやら、幻聴ではなかったようだ。俺を呼んでいる先輩が遣わしたであろう、クラスメイトが俺を呼んできたのだ。
「どこに居るの?」
正直、腹の中では今でも内蔵がひっくり返りそうな程気持ち悪いが抑え込む。
「あそこの扉、何か『落とし物』がどうとか?それじゃ、私はこれで」
メッセンジャーとしての役目を終えたクラスメイトは、自分の所属するクラスのグループに戻っていった。
昼飯を一時中断して、指を指していた方へ足を運ぶ。そこには、案の定昨日出くわした人だった。
「あの……、これ……」
先輩が拾ってくれた生徒手帳を俺に手渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
生徒手帳を受け取り、礼を言って教室に戻る。これで放課後に職員室に行く手間が省けた、ある意味幸いだ。
すると、先輩に呼び止められてしまった。
「あ、あの……。お昼ご飯一人なんですか……?」
「そうですけど……」
何でだ?何故俺を誘う……。理解らない、理由が、考えが、全く持って読めない。先輩の方を見ていると、慌てたように、
「よ、良かったら……。お昼一緒に、ど、どうですか……?私も一人なので……」
先程の質問の答えと、お誘いが返ってきた。
「先輩の方が良いのでしたら……、教室からは出ようと思っていたので……」
理由はよく理解らないが、誘いを断る理由もない。教室を出ようというのは本当だ。体育館の裏の樹の下で食べようかと、割と真剣に考えていたから。
「じゃあ……、生徒会室に来て下さい……。鍵は開いてますので……」
と言い残して、先輩は名前を名乗らずに去ってしまった。
しかしながら、あの先輩は……。ヤンデレ化したら大変楽しそうだな、と内心でとても失礼な考えを抱いていた。まぁ、それを抜きにしても綺麗な先輩だとは思う。
自分の昼飯を取ろうと、席に向かう途中で、
『あれ、生徒会長だよね?』
『そうそう、白金先輩だよ』
『何で、白金先輩がウチのクラスに?』
『さぁ?でも、呼ばれてた人居たじゃん。男子だったし』
『恋仲かな?』
クラスのあちこちで、訳のわからない話を始まっていた。呼ばれたくらいで、馬鹿馬鹿しい……。恋仲もなにも、お互いに名前しか知らないんだから……。
会話を聞いて、少しばかり不愉快にはなったけれど。反論はせずに、黙って教室を出て生徒会室に向かった。
知っている人は、今回も読んでくれて有難うございます。
知らない人は、どうも始めまして。
今回は、『執事シリーズ』でヤンデレについて考えていたら、何時の間にかこうなっていました……。
連載作品がまだ幾つもあるのに……、他の作品もちゃんと出していきますから。
他の作品もよろしければ、読んでみて下さい。お願いします。
読んでいただき、有難うございました。
感想などをお待ちしております。