ヤンデレに愛されたいと思う今日この頃……   作:龍宮院奏

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Fifth,ヤンデレ

 今日もまた夢を見た。昨日と同じ真っ黒な海に沈んでいく夢。でも今回は……、怖くなかった……。

 端的に言えば、慣れだ。一度体験しているからなのと、もう一つはっきりとした確証はないが思い当たるものがあった。光だ、光がこの真っ黒な海に差し込んできたのだ。

 

 その光は、けっして眩しいものでもなければ、苦しいものでもない。ただ差し込むだけの優しげな光。

 その光を掴めないと解っていても、分かっていても……。

 

「助けて……」

この手を伸ばしてしまうのだ……。

 

 先輩との生徒会室の昼食が、少しだけ楽しいと思い始めた。今までとは違った、あの場に、あの人に、少しだけ心が開けている気がする。けれど、現実は反比例して、家に帰ると収まらない吐き気と頭痛、学校のクラスの視線が増している気がする。

 それでも、今日も携帯を確認している自分がいる。今日も白金先輩からL○INが着ている……。

 

『すみません、今日は生徒会の会議で…』

『今日は、お昼ご一緒できそうにありません』

クマのスタンプと送られたメッセージを読んで、何かにひびが入るような気がした。

 

 しかし、元々招待してもらっている身……。先輩が謝る必要は無いのに……、携帯を見るか分からないが、

『分かりました』

『また、後日に』

既読しておいて返信をしないのは失礼なので、簡単に返事のメッセージを送る。

 今日はいつもどおりに戻るだけ……、ここ最近が偶然の産物のようなものだったのだから……。言い聞かせるように、心にひたすらに言い聞かせるようにして、昼飯を持って教室を後にした。無論、向かう先は……。

 

「久しぶりだな……」

 

 体育館の裏にある小さな林。学校の中には中庭が……、今日は日当たりも良く雲ひとつ無い晴天と来た……。つまりは、『日差しに当たりたくない』、『人が大量発生するところに近づきたくない』という理由だ。

 ここはとにかく静かで、人の来る気配が全くと言っていい程ない。だから、誰かの視線を、誰かの声を、気にする必要が無いのだ。

 前と同じく一本の樹の下に座り、今日も朝から催したので水分の無い大豆バーを野菜ジュースで流し込む。ここ最近同じものを食べているのに、味がしない。普段、何かを食べている時には何かしらの味を感じるのに……、今日はそれがない。普段と違うことに不快感を覚え、胸の中で胸騒ぎがするのでイヤホンをつけて音楽を流す。

 樹々の間を通り抜けていた風が奏でる音楽から、イヤホンから流れる重厚な楽器の音色に意識が染め上がっていく。

 

 

 白金先輩……、会議長引いているのかな……。

 

 

「うっ……、ふわぁ……」

まただ……、また何時の間にか寝てしまっていたらしい。やばいのかな?最近一人でこうして音楽聞いてると寝れるんだけど。

 

「あ、起きた」

 

 俺以外の声が聞こえる。白金先輩の声でも、クラスで何か話している奴らの声でもない。全く知らない声、幻聴だろうか。幻聴であってほしいと、淡い期待を持ちながら寝起きの意識を集中させる。

 

「何聞いてるの?音楽?」

幻聴じゃなかった……。

 

「どうしたの?そんなに驚いた顔して?」

幻聴じゃ無かったけど……、顔が近い……。

 

「まず聞いてるのは音楽……」

 

「へぇ〜、どんなの?」

どんなの?どんなのと言われても……。説明しても本質は伝わらないし、でも聞かれてるし……。

 

 この時、やはりまだ俺の脳は本調子じゃ無かったようで、

 

「聞くか?」

何故か右耳のイヤホンを取り外し、手渡していた。

 

「うん、聞く」

あっさりと帰ってきた返事と共に、イヤホンを受け取ると隣に座った。

 

 聞いたというか、流していた曲を先頭に巻き戻し、再び流し始めた。ちなみに聞いていたのは『PENGUIN RESEARCH・敗者復活戦自由形』。アニソンじゃないのは偶々、でもPENGUIN RESEARCHは『デュラララ!!・第四期ED』を担当しているので、それから知った。

 

「ギターの音凄い……」

曲が終わると真っ先に口を開くとそう言った。

「何度聞いてもカッコいいよな……」

自然と同じように感想が溢れる。

 音楽の連続再生を止めたので、イヤホンの音は消え風の音が再び耳を包む。

「で、誰なの?」

思わず勢いで曲聞かせてたけど、本当に誰なの?

「えっとね〜、ギタリスト?」

何で疑問系?俺、アナタに質問したよね、それが疑問で帰ってくるのはなんで?

「ギタリストって……」

「信じてないの?」

「信じるも何も、名前も知らない奴の言葉を信じる理由が解らないだが?」

屁理屈を言ったつもりは無いのだが、機嫌を悪くしたのか頬を膨らませる。

「そんなに人のことを信用できないと、人生楽しくないよ?」

「信用ね……」

呆れてそっぽを向こうとすると、

 

「えい」

 

向こうとした方向に指が向けられていて、頬に指が突き刺さる。

「疑っている割には、簡単だね」

思う壺だったのか、嬉しそうに笑みを浮かべる。

少しばかり怒りが湧き上がるが……、ここは冷静に行こう。

「お前な、いき」

 

「あ、もうすぐ授業始まっちゃう」

その言葉通りに直後に昼休みの終わりを告げる予鐘がなる。予鐘を聞くなり、立ち上がりその場を去ろうとする。

 

「じゃあまたね、居眠りの人」

「誰が居眠りだ」

確かに寝てはいたけど……。

「って、お前の名前は何だよ」

思わず大事な事を聞きそびれる所だった、ギタリストってだけじゃ納得できないし。

 

「私?花園たえだよ」

 

「花園か……、俺は」

名前を聞いたので、礼儀として名前を名乗ろうとする。

 

「谷崎灯夜でしょ?」

 

「え?」

俺の名前をしって……。

 

「じゃあこれで本当にまたね」

驚きのあまりその場に立ち尽くしていると、綺麗な黒髪をたなびかせて、透き通るエメラルドの瞳で笑顔で微笑まれて行ってしまった。

 

 俺は彼女・花園たえを知らない。名前は疎か、姿、声すら知らなかった。なのに何故だ……、変だ、可笑しい、奇妙だ、謎だ。グルグルと思考を掻き乱していく中で『オモシロイ』と思う自分が微かにいた。

 自分の周りに俺の名前を呼ぶやつは居なかった、けど先輩と出会ってからは先輩が呼んでくれた。『谷崎君』と。

 けれど、どういう経路で俺の名前を知ったのかが解らない以上警戒は必要か……。そんな事を考えていると午後の授業はあっという間に終わり、下校時刻となった。何時ものように少し時間をずらし、下駄箱で靴を履き替え校門に向かう。

 

「あ、た、谷崎君……」

校門に近づき、カバンからヘッドホンを取り出そうとすると、門の側に僕の名前を呼ぶ、

 

「白金先輩……」

が立っていた。

 

「どうして……」

先輩とは昼休みにしか会っていないから、違う時間帯に会えるの珍しい。

「今日は…、一緒にお昼を取れなかっので…」

「あ、いえ……。僕の方は招待されている身ですから、生徒会の仕事なら仕方ないですよ」

「ありがとう…、谷崎君」

朝L○INにメッセージで伝えれくれたのに、こうして直接言ってくれるだなんて……。

「それにしても、先輩は今から帰りですか?」

俺は時間をずらして下校をしているから、他の生徒よりも遅いのだが。

「え、えっと…、今日はその…」

何か言おうとしているのだが、先輩緊張しているのか中々言い出せないでいた。

 

「一緒に帰りませんか…?」

 

「……、い、良いですよ」

間が空いてからの返答だったけれど、先輩と下校か……。取り出したヘッドホンをしまい、断る理由も無いので頷く。

 

「じゃ、じゃあ…、帰りましょうか…」

何故か顔を真っ赤にする白金先輩。理由は解らないので考えないことにした。

「今日はどんな仕事をしていたんですか?」

帰り道、何も話さずに居るのは気まずいので、お昼の生徒会での仕事に付いて話をふる。

「今日は…部活の予算決めと最近の構内での風紀について…」

「予算決めも生徒会なんですね……」

「はい…各部活が予算を上げて欲しいと言うので…。無理に決まってるじゃないですか……」

今一瞬先輩の闇が見えたような気がするが、それだけ仕事が大変なのだろう。

「生徒会のお仕事お疲れ様です、先輩のお陰で後輩一同の学校生活は平和ですよ」

お金に換算すれば一円も価値は無いだろう(自分で言っておいて何だが)けど、慰めに言葉を掛ける。

「ありがとう…」

疲れていながらも、そっと微笑む先輩。

その後も、NFOの話やアニメの話をしていると、結果的に先輩を家まで送り届ける形と成った。

「じゃあ…また明日生徒会室で…」

「はい、お昼に生徒会室で」

先輩が家に入っていくのを確認してから、ゆっくりと自分の家路に足取りを向ける。

「そういえば、先輩に話さなかったな……」

違う、話さなかったのではなく、話したくなかったのだ。

 

「花園たえか……」

あの突然現れ、俺の名前を知るアイツの名前を出すことを恐れたのだ。先輩に言っても何かが変わるわけでもないが、何故か先輩には話せなかった。

「言わぬが仏か……」

もしもだ、もし仮に俺と先輩が一緒に居るところ、俺と花園が一緒に居るところを、先輩が、花園が、見た時どんな反応をするのだろう。いや、何でこんな事考えてるんだ……。

 家に向かう重い足を早めて、考えを捨て去るように音楽で蓋をして歩き出した。

 

「ねぇ、おたえ?」

 

有咲の家の蔵での練習、蔵練の最中に香澄がお昼のことを聞いてきた。

「何?」

「今日お昼の時、お弁当食べた後どこ行ってたの?」

「ん〜とね、迷子のうさぎがいたからついて行ってみた」

質問に答えると、

「はぁ?迷子のうさぎだ?」

有咲が信じられないと声を上げる。

「おたえちゃん、本当にうさぎが居たの?」

りみりんがチョココロネを食べる手を止めて不思議そうに聞いてくる。

「居たよ、寝てたけど」

あの寝顔を可愛かったな……。

「そのうさぎはどうしたの?」

沙綾が心配そうな顔をしているが、

「もしかして連れてきたの?」

香澄と有咲が同時に驚く、本当に仲が良いな。

「んん、逃げられちゃった…」

「捕まえようとしたんだ……」

「でも、そのうさぎって野生のかな?」

「いや、誰かが飼ってるうさぎじゃなくてか?」

「まさか…脱走!」

香澄たちがうさぎについて考えているようだけど、

 

「大丈夫、今度は捕まえて私の花園ランドに入ってもらうから」




お久しぶりです。
今回は燐子をヤンデレ化に向けての第一回でした。
でも内容は……、花園ランドの主がメインに……。
たえが言う『花園ランドに入ってもらうから』とは……、
これから主人にどう絡んでいくのか、キーマンですね。
燐子の出番を増やしていきたいです……。
今回もご閲覧していただきありがとうございました。
感想などをお待ちしております。
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