それと、色んな物を詰め込んだので長めです。
結局、先輩たちとは一緒にお昼を食べることになりました。まぁ、食べている時にかなり軽めの物を選んで食べていたので、今井先輩から『谷崎君、本当にそれだけで足りるの?』と心配され、先輩が少しご飯を分けてくれたのだった。
美味しかったか?うん、まぁ……。隣に居た白金先輩の反応が何故か怖くて、味わうひまがそこまで無かった。
昼食を終えて、本当にこれで帰れると思っていたのだが……。
「じゃあ、次は何処のお店見に行く?」
今井先輩が指揮をとると、
「五線紙が切れてきたから、楽器屋に寄りたいわ」
「私も弦の交換をしようと思っていましたので、楽器屋さんで新しい弦を見ようかと」
湊先輩と氷川先輩が、それぞれバンドで使うものを求めて楽器屋に行くことを希望した。
「あこと、燐子は何処か行きたい所ある?」
続いて、あこと白金先輩に解答権が周り、
「あこも楽器屋さん見に行きたい!」
「私も、新しい曲の譜面を見たいので…」
同じように二人共楽器店に行くことを希望した。
やっぱりバンドをしているから、休日でも演奏の事を考えているだな。そう感心して内心頷きながら、食器類をまとめて返却口に返していた。よし、これで俺の役目は終わったし、本屋寄って帰ろう……。
「じゃあ先輩方、僕はこれで……」
何事もなく、後腐れもなく、帰れる内に帰ろうとした……、したのだが……。
「っ…?」
何故か、前に歩き出せないのだけれど?それに何か後ろから引っ張られているような気がし……。
現実とは、何処までも想い通りにはいかないようだ。
「灯兄、帰っちゃうの…?」
あこが服の裾をちょこんと抓みながら、若干目をうるうるさせて見つめていた。まるで、捨てられて新たな飼い主を待つ子犬のような目を。
「えっと、まぁ…。僕、偶々先輩と会って来ただけだから。先輩たちだけで遊んでたりしたんだから、居たら何かな〜って……」
決してきっぱりとは言わず、やんわりと、そうやんわりと断る。
「そ、それに僕、基本的アニメとゲームの事しか知らないし。ほんと、基本家に引きこもってるタイプだから」
そしてここで、悪態を晒すわけだはないが『谷崎灯夜』という人の生態を示し、
「ということで、皆さんで楽しんで来てください」
あこの方に向き直り、深々とお辞儀をしてその場を脱する。後悔?まぁ、無いとは言えないけど…。今は誰かと何をしたいという気分では無いのだ。
「あ、あの谷崎君…」
立ち去る寸前、今度は白金先輩が僕の名前を呼んで引き止めた。
「も、もし一緒にき、来てくれたら……」
「私が何かアニメのグッズを一つ買ってあげます!」
「先輩、それは『フィギュア』、『ドラマCD』、『アクリルキホルダー』も可ですか?」
「えっと、は、はい!」
「先輩……」
まぁ、こんな提案で乗ってしまえば『どんだけだよ!』、『引くな!』と思われそうですが、プライドは無いのかと言われそうですが。
「谷崎灯夜、全身全霊を持って皆様のお荷物をお持ちし、行動を共にしても宜しいですか」
こういう時の行動力は素早く、立ち膝までしていた。
「え、えっと……」
突然の行為に驚き慌てふためく白金先輩、助けを求めて他の先輩方を見渡すも唖然としてピクリとも動いていなかった。あこに関しては、光り輝くほどの笑顔を見せていた。
「この後もよろしくね、谷崎君」
判断を自分で行うことと成った先輩は、結果あこと同じくらいの笑顔で僕に笑いかけるのであった。
「先輩、一つ聞いていいですか?」
「何かな?」
先輩たちに連れられて、楽器屋に来たのだけれど。どうしても一つ気になることがあった。
「何であこは基本的に僕の後を付いて回ろうとするんですか?」
俺は本当に楽器系、音楽系の知識が壊滅的(アニソン関連は別)なので、白金先輩に付いて回っているだけれど。
「それは、私じゃなくてあこちゃんに聞いたほうが早いと思うんだけど」
えっと、そうなんですけど。何と言うか……。
「視線から感じる『期待』がどうにも僕には厳しくて……」
ずっと何かを期待されているような目をしているのだ。
「そんな事、ありますね…」
僕の言葉を聞いてあこに目を向ける白金先輩、最初は疑っていたようだったけど僅か数秒で納得してくれた。
「あこちゃん、谷崎君に何か聞きたいの?」
納得すると、すぐに白金先輩はあこに事情を聞いてくれた。
「えっと、聞きたいことじゃないんだけど…」
何故か口籠るあこ、先程の無邪気さとはうって変わって不思議な感じになる。
「なんか、りんりんと灯兄が並んで同じものを見てると、こうカップルみたいだな〜って」
「「……」」
あこからの唐突すぎる爆弾発言に、俺も白金先輩も顔が真っ赤に成っていた。
「あ、あこ…あこちゃん…。そ、そんな事無いよ…」
声を震わせながら、あこの肩に手を乗せる白金先輩。でも、滅茶苦茶手が震えてるんですけど。
「そ、そ、そうだぞ…あこ…。だ、大体、僕と先輩、し、知り合ってまだ数週間だし…」
他人事で先輩の事を見ていたけど、実際には俺自身も先輩に負けじ劣らずの声の震えっぷりを見せていた。
「そうなんだ……、でも何かりんりん凄く楽しそうだから」
この時、あこの顔は確かに笑顔だった。笑顔だった……けど……。
「あこちゃん、確かに谷崎君と話したりするのは楽しいよ。でも、それと同じくらいあこちゃんと話をしている楽しいよ」
「りんりん……」
先輩の言葉を聞いて、抱きつくあこ。それにして先輩、気づくの早いな。
あこの笑顔を見て何故深く考えたのか……、それは知っているからだ。現実の体験、実体験では無いにしろ、アニメで、漫画で、ゲームで、同じような光景を何度も目にして来たからだ。
あの時の笑顔には、『白金先輩が離れてしまう』、『白金先輩が幸せになら良いかな』と、極論を言えばこういった感情が混ざりあった笑顔だったから。
「恋人ね……」
そう一言、自分にとっての****の言葉を口にした。
先輩とあこが軽く抱きしめあっているなか、鞄にしまっていた携帯が着信の音を鳴らし始めてきた。普段携帯が着信の音を鳴り響かせることは無いのだけれど……。
「誰だ…?」
親だろうかと、安直すぎる予想を立てながら携帯を取り出して確認してみると、
『非通知』
と画面に表示されていた。
「……」
知らない番号からの電話?無視するべきなのだろうか……。
「先輩、すみません。電話に出るので、一旦僕お店出ますね」
本来なら出ないほうが得策なのだが、宣伝か何かかもしれないので一応出ることにはした。
「分かりました、じゃあ一度荷物は私の方で持っておきます」
了解を得て、先輩に荷物を一度預けて慌てて楽器屋を出た。
「灯兄、誰から電話だろう?」
「親御さんじゃないかな?」
楽器屋を後にして人混みの少ない通路で、携帯を耳に押し当て電話にでる。
「もしもし」
『ようやく出た、遅かったね』
携帯のスピーカーから聞こえてくる口調は、こちらを嘲笑っているように感じさせるものだった。それともう一つ。
「……」
『どうしたんだい?急に黙って』
声だ、声が何よりも俺の心を不快にさせる。機械的な、ドラマとかに出てくるボイスチェンジャーの声が。
「何かの嫌がらせか?」
苛立つ心を押させながらも、口調は見ず知らずの相手に強気になる。
『何でそんな事を』
「じゃあ何で機械じみた声で電話越しに話してるんだ」
『はは、今君に私の声を聞かれるのは困るからだよ』
質問をするも、声の主は愉快そうに笑っている。
『それはそうと、君は何で彼女達と行動を共にしているのかな?』
笑っていた、愉快そうな口調から一変して、何か見えない恐怖を感じさせる口調に変わった。それに、何て言った……。
『彼女達と行動を共にしているのかな?』と、今謎の電話の主はそう言ったのか。
『もしかしてびっくりしてるのかな?』
再び愉快そうに、こちらを嘲笑うかのような口調に戻った。
「俺の事を見ているのか?何だ、ストーカーか?」
焦る心で辺りを見わしながら、電話の主のとの対話を続ける。
『ストーカーって良い方は心外だな、私は君の過去を知る者だよ』
「俺の過去……」
『そうだよ、君の過去。君がどんな人生を送ってきたのか、例えば家族構成、学校、さらには友達や恋人についてね』
「俺の過去を知ってどうするつもりだ……」
電話を握っていない片方の手をぎゅっと握りしめる。
『ようやく自分が脅されている事に気づたみたいだね……』
「それで目的は何だ、金なら正直あんまり無いぞ……」
口封じの定番の金が目的なら、最小限の被害で抑えたい。
『お金なんて、別に興味は無いよ』
「何……」
お金が目的じゃない、お金じゃない無いなら……。
『私が欲しいのはただ一つ、決して人を信用しようとしない真っ黒な瞳を持った兎が欲しいんだ』
兎……だと?いや、でもそれにしては変わった言い方をするが……。
『でも、その兎は人を信用しようとしないから外に誘き出すのも困難だったけど……』
突然として背後に気配を感じて振り返る。するとそこには……。
「久しぶりだね、居眠りの人。突然だけど、君を花園ランドに迎えに来たよ」
あの時の、ギタリスト・花園たえが、俺を見つめていたのだ。
谷崎君が電話に出るためにお店を出てのだけれど、
「ねぇ、りんりん。灯兄遅いね……」
あこちゃんが心配そうに私を見つめる。
「そうだね…」
私も少しばかり心配になってきた。だって、もう二十分近く経っているのに、一向に戻ってくる気配が無いのだ。
「あこちゃん、私ちょっと見てくるよ…」
「え、じゃああこも…」
付いて来ようとあこちゃんを止めて、
「私が誘ったんだから、私が探してくるよ。友希那さんたちには、あこちゃんから説明してもらえる?」
代わりに伝言を言い渡してもらう役目を託した。
「わかった、りんりん」
「何、あこちゃん?」
行こうとする私の手を掴み、ぎゅっと両手で握りしめる。
「何かあったらすぐあこを呼んでね」
「大丈夫だよ、少し見に行くだ…」
あこちゃんはその少し行くだけでも、私に何か有ったらと思ったようでその瞳は私を真っ直ぐに見つめていた。
「分かった…、何か有ったらすぐにあこちゃんを呼ぶから…」
握る手を、今度は私が包み込む。
「それじゃあ、谷崎君を探しに行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
あこちゃんの見送りで、お店を後にしたものの……。
「何処に行けば良いの…?」
開始わずか数秒で、私は作が尽き困り果てました……。とほほ……。
「何で……、何で、お前がここに居るんだよ……」
俺の背後に居た花園の手には、確かに携帯が握られていた。それも怪しい機械の付いた。
「あれ、びっくりした?」
何故か飄々として、笑顔を見せる花園はゆっくりと俺に近づいてきた。
「ねぇ、何で離れようとするの…?」
突然の事に恐怖を覚え、体が自然と後方へと足を進める。そして、そんな俺とは反対に花園は距離を詰め寄らせる。
「捕まえたよ…」
下がるにも限界があったようで、下がる先に壁がありぶつかってしまう。壁に当たると、俗世間で言う『壁ドン』をされた。
てか、こんな時に言うのも何だけど『壁ドン』って、普通(男)が(女)にするんじゃないの?恋愛モノのアニメではそう言われてたんですけど?
「どうしてかな?どうして、君はあの女共と一緒に居るの?」
そうだ、現実は訳も判らず脅迫されている最中だったんだ。壁ドンに気を取られて忘れていた。
「どうしても、こうしても、俺は普通にNFOのグッズを買いに来て、そしたら先輩たちと会っただけだよ」
現実に向き直り、ありのままの事実を花園に伝える。
「そうなの?」
暗く、光の無い真っ黒な瞳、まさにブラックホールと言い表した方が良いのだろうか、そんな瞳で俺の顔をじっと見つめ……、
「そんなに怯えなくて良いよ、疑ってるわけじゃないから。というか、疑う必要性も無いわけだし」
淡々と、冷めきった表情で答える。
「だって、私言ったでしょ。『君の過去を知る者』って……」
そう言って花園は鞄から何か小さなノートを取り出し、パラパラとページをめくりある所でその手を止めた。
「高校一年生 4月25日 学校で君が携帯を気にしていた回数 合計33回
学校で君が携帯の着信に笑顔を見せていた回数 合計25回
学校で君が窓の外を眺めて、何かを考えていた時間 合計1時間33分
学校で君が他の女共と接触、会話した回数 合計10回 内3回は教師
学校で君がカップルを見かけて溜め息をついた回数 合計19回
学校で君がカップルを見かけて『同じ学校か…』と呟いた回数 合計5回」
「え……」
次々に、機械的に花園の口に出る言葉に唖然とする。
「まだあるよ、どうする?続ける?」
唖然として頭の中が危険信号で駆け巡る中で、しっかりと判断を下そうと試みる。
「どっちも聞きたくない、それより別の事が聞きたい」
「何かな?」
「花園、お前が俺の事を『観察』していた理由が知りたい」
実際の所、かなり驚きも有るのだが……。その何だ……、ヤンデレボイスの定番が実際に起こったわけで……、恐怖と好奇心がせめぎ合っている。
「知りたい?本当に知りたいの?」
俺からの問に、不気味な笑みを浮かべる花園。
「じゃあ、一つ条件ね……」
「何だ、言ってみろ……」
この時、ようやくしっかりとした後悔が生まれた。
「最初に言ったとおり、『君を花園ランドに迎えること』、
それから『私以外に君の側に女が居ると邪魔だから死んでもらう』って事かな」
「え……、いや、今なんて言った……」
頭に、耳から入ってきた情報が、処理できずに漂い始めた。
「もう、二度も言わせないでよね」
静かに、ただ静かに笑みを浮かべて花園はもう一度俺に告げた。
「『私の、花園ランドに永遠に入って貰うこと』、
『私以外の女は必要ないから消えて貰うこと』だよ」
俺に、ぞっとする程の満面の笑みを浮かべて。
「最初の提案は理解し難いものがあるが……。二つ目の……本気じゃないよな……」
自分でも判るほどに声が震えている、それに足も力が入らなくなりかけている。
信じていたかった、花園言葉が嘘であることを……。
だけど……。
「ねぇ、君は『ヤンデレに愛されたい』って願っていたんじゃないの?」
「……」
その一言に、俺は黙る。
「だって、私知ってるよ?君がどうしてそこまで『ヤンデレ』にこだわるのか」
「止めてくれ……」
「君はただ怖いんでしょ?」
「止めてくれ……」
「君が『好意を向けて、信じていた人から裏切られる』のが……」
俺の願いは花園に届くことは無く、突きつけられた現実に膝から崩れ落ちることしか出来なかった。
「大丈夫だよ、私はちゃんと分かってるよ……」
俺をこの場に留めていた何かが事切れ、意識が次第に消えていく。そんな俺の頭をそっと撫でる花園。
「私は全部知ってるんだから……」
・・・
「君がアイツの事でどれだけ悩んだのか、どれだけ苦しんだのかもね……」
撫でるだけでは止まらずに、花園はこと切れかけた俺に……。
「だからさ……、もう楽になろうよ……」
悪魔の甘い囁きが、俺を深き闇へと誘い始める。
「もしも君が私のモノに成ってくれるのなら、私が君を永遠に愛して、あいして、アイしてあげるよ」
「お、俺は……」
悪魔から差し伸べられた、深い闇への誘いの手に無意識に手を伸ばし始めていた。
「は、離してください!」
何処からか、突然あの人の声が聞こえてきた……。
「良いじゃねかよ、ちょっと位付き合えよ」
その直後に声からして柄の悪そうな男の声が聞こえてきた。
「ほら、暴れんなって!」
「い、嫌!」
あの人が、あの人が、今誰かに危害を加えられている……。
「待って、何処に行くつもりなの……」
「え……」
気づけば崩れ落ちた膝は立ち上がり、声のする方へと向かい始めていた。そしてそれを止めるように、花園は俺の手首を掴んでいた。
「……助けなきゃ」
消えかけた意識の中で、ただ一点に燃え始めた言葉を口にする。
「白金先輩を……、助けなきゃ……」
そして今度は、しっかりとあの人の名前を口にする。名前を口にすると、花園の手に力が籠もる。
「行かせない……、君は私のモノになるんだから!」
俺の目を見つめ花園は宣言する。
しかし、その言葉に反して俺は……、
「俺はお前のモノにはならない……。俺は絶対に成らない……」
悪魔の誘いを、花園の誘いを断り、掴んでいた手を引き離した。
「どうして……」
俺の確固たる意思を聞いて、手を離された花園が今度はその場に膝をついた。そんな花園を俺は振り返ること無く、ただ先輩の元へと駆けていった。
「おい……」
花園と話していた通路から、少し走った所に先輩とその男は居た。
「先輩から……、俺の先輩から離れろ……」
一点に、先輩の腕を掴み無理矢理に連れて行こうとする男を睨みつける。白金先輩が僕の声に振り返ると、男の方も振り返り、
「あんだ、てめぇ?いきなり現れて、『俺の先輩から離れろ』だ?」
俺の方を睨み返してきた。
「言っておくがな、俺はこの譲ちゃんと少しお茶をしようってだけなんだよ」
「へぇ〜、嫌がる女の子を無理やり連れて行こうとするのが、大人のお茶のお誘い方なんですね」
「何だと……」
軽く発破を掛けて、男を小馬鹿にする。直後に男は先輩から手を離し、怒りに任せて勢いよく殴り掛かって来た。
けれど、その拳は空を切るだけに終わり、何かに当たることは無かったのだ。いや、出来なかったのだ。何故なら、向かってくる拳よりも早く、男の腹に向けて回し蹴りを喰らわせる。
「お、お前・・・」
口から僅かに胃液らしき物が出てきたが、男は衝撃に耐えられずその場にうつ伏せに倒れ込んだ。
「俺の先輩に手を出すなって言っただろうが……」
何が起こったのか、今自分の目の前で何が起こったのか整理が追いつかない。でも一旦落ち着こう……。
えっと…、谷崎君を探している内に知らない男の人に絡まれて、心の中で『誰か助けて』と助けを求めていたら突如として彼が現れたのだ。
『先輩から……、俺の先輩から離れろ……』、確かにそう言ってくれた。口調や、身に纏う雰囲気が何時もと違っていたけれど、紛れもない彼だった。
「白金先輩、大丈夫ですか?」
私の顔を覗き込むようにして、心配そうに手を差し伸べてくれる谷崎君。
「だ、大丈夫…」
びっくりして、大きく手を振りながら答えてしまった。
「良かった……」
私が『大丈夫』と、この一言が彼に伝わると胸を撫で下ろして安堵していた。
「あ、ありがとう。谷崎君?」
「何で疑問系なんですか?」
案の上、彼にツッコまれました。
「そう言えば、何で先輩はこんな所に?」
楽器屋さんに戻る前に、谷崎君が理由を尋ねてきた。
「あの…、あまりにも帰りが遅いので、あこちゃんと心配だったの…」
「……、すみません」
素直な理由を伝えると、頭を下げて謝ってきた。
「僕の所為で、先輩に多大な迷惑を……」
谷崎君から反省の意思と、物凄い後悔の念がひしひしと感じ取れる。
「そんなに気にしないで…、私が自分で探しに行ったんだから…」
「だとしても、すみませんでした……」
中々、私の許しを受け取ってくれないので、先輩は意地悪をしたいと思います。
「あ、あの、そこまで謝るなら…。私のお願いを一つ聞いて貰って良いですか…」
「良いですよ…、煮るなり焼くなり……」
待って、君の中で私のイメージってどうなってるの?いけない、気を取り直して…。
「これからも私と一緒に遊んでくださいね」
「えっと…、そのくらいなら…、というか寧ろこちらからもお願いします…」
私のお願いを聞いて、すんなりと聞き入れてくれた。確かにその場で考えたから、これっていったアイデアは思いつかなかってけど……。
あんまりにも谷崎君の反応が淡白なので、
「やっぱり、もう一つお願いを聞いて貰うことにします…」
「一つのはずじゃ…、でも良いですよ」
一瞬驚いて慌てたけれど、自分に負い目があると余程感じて居るようで反論は帰ってこなかった。
「じゃあ…灯夜君…」
私の前を歩く彼の動きが一瞬にして止まり、私の方に振り返ってきた。
「これからは『谷崎君』じゃなくて、名前で呼ばせてもらうね」
「は、はい…白金先輩…」
名前を初めて呼ばれた彼は、顔から湯気が出そうな程真っ赤だった。そして、私も同じように何故だか顔が急に熱くなってきたのだった。
「あ、りんりん!灯兄!」
楽器屋に付くと、先輩たちがお店の前に勢揃いしていた。あこは白金先輩に真っ先に抱きついていたけど。
「もう、二人共!何処にいたの?」
今井先輩が携帯を片手に、顔を強張らせて怒っていた。
「燐子には電話を掛けても通じないし、谷崎君に関しては燐子しか連絡手段無いんだから」
「「すみませんでした…」」
「それで、何をしていてたんですか?電話にしては長いと思うのですが?」
今井先輩に続いて、今度は氷川先輩からの説教が始まろうとしていた。
「い、いや、電話が終わった後に、帰ろうとしたら迷子の子供が居て…」
その場で考えた安易な誤魔化しを試みる。
「その子の親を探していたら、遅くなりました……」
「それは本当ですか?」
氷川先輩の目から凍てつくような厳しい視線が突き刺さる中、
「ほ、本当です……」
真実は言えないので嘘で誤魔化す。
「それで燐子、貴女の方はどうしたの?」
氷川先輩から俺の質問が終わり、今度は湊先輩から白金先輩への質問に切り替わる。
「えっと…、谷崎君を探しに行ったのは良かったんですけど……」
白金先輩の表情が明らかにテンパっているようだが、
「何処に居るのか検討がつかないで、半分迷子状態に成ってました……」
「それって、僕が電話出てると思って電話掛けられなかったせいじゃ……」
少しの間を置いてから、こくりと小さく頷く白金先輩。
「本当にすみませんでした……」
切り替え早く、白金先輩に頭を下げる。
「もう見つかったので、大丈夫ですよ」
白金先輩が優しく微笑む。
「この後、最後に雑貨屋さんに行くんだけど。どうかな?」
先輩たちで俺と白金先輩が居ない間に話し合っていた提案を聞く。俺にも行くのか聞かれたのだが……。
「僕も先輩ともう少し遊びたいので、ご一緒させてください」
先輩の笑顔が見たいと、一緒に居たい思ってしまったのだった。
燐子メイン、谷崎君メイン、のダブルメインで書かせてもらいました。
本来ならここで燐子をヤンデレ覚醒に繋げる予定だったですけど、
作者の興がのり、たえを谷崎君に絡ませてみました。
たえちゃんの雰囲気出すのは難しいです……。花園節は難しい…。
谷崎君の過去を知る者と名乗りましたけど、一体どういう事なんでしょう。
それに谷崎君も気になる所が多々……。
これからの物語の展開にご期待ください。
今回もご閲覧していただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。