星の巫女は貴方を待ち続ける   作:アステカのキャスター

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これが幕間の最後です。
後半戦!!では行こう!!

コメント、評価、感想よろしくお願いします!!





貴方を待つのを終えた日 後編

 

 

 星の巫女リィエルは特異な存在だ。

 

 その例えの代表が出典だ。ギルガメッシュは神に創られた星の抑止力を背負わされ、『天の楔』として世界を見定める半神半人。エルキドゥは神々によってギルガメッシュを諫めるために造られた『天の鎖』。この2人に関しては神から造られた存在である為、強さも納得出来る。

 

 だが、リィエルは精霊である事は判明しているとはいえ、どんな精霊から生まれた受肉精霊なのか判明していない謎の少女なのだ。

 

『惹き寄せる力』を持つ精霊に名前はなく、邪精霊と言うには邪な雰囲気を持つような存在でもない。精霊の世界ですら異端な存在は一体どこからやってきたのか。

 

 それが関係しているせいか巡り会う事はすれ違いで終わってしまう。

 

 それはバッドエンドかも知れないが、それが現実だ。

 

 ならば、ハッピーエンド好きの夢魔はバッドエンドで終わらせない。

 

 

 理由は簡単だ。

 

 

ハッピーエンドが見たいから(面白そうだから)☆」

 

 

 理由は本当にクズでロクデナシだ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「リィエルさん!」

 

「任せて」

 

 

 一瞬で構築された魔方陣から大量の魔弾を射出される。

 それだけで敵が一掃されていく。破壊力、判断力はギルガメッシュ叙事詩の中でも最高位の存在であるリィエルにとって、この程度造作もない。圧倒的な物量、全知たる慧眼はギルガメッシュ、戦闘力、天性の勘、戦場を駆け抜ける圧倒的膂力に関してはエルキドゥが上だ。

 

 

「エル、行くわよ」

 

「ああ、分かったよ」

 

 

 マスターである藤丸立香はリィエルとエルキドゥと一緒に種火周回にレイシフトしていた。因みに英雄王は「何故雑種の手伝いをせねばならん」と拒否し、隣にいたエルキドゥが代わりに行く事になった。

 

 

「…………」

 

「リィエル、大丈夫かい?」

 

「えっ? ああ、大丈夫よ」

 

 

 リィエルは最近、やけにボーッとして上の空だ。

 別にボーッとしながらも敵を倒しているけれど、何というか空元気に見える。判断力、思考力、聡明さならギルガメッシュの次にある彼女だが、あれこれ考えているけど纏まらないから力任せに攻撃し、それでも倒せている状態だ。

 

 

「エルキドゥ、あれ大丈夫なの?」

 

「問題はない……と言いたいけどアレばかりは時間との問題だしね」

 

 

 エルキドゥも最初は渋々だったが受け入れるのに時間を要した。賢王ギルガメッシュはかつての友を乗り越えて進んだ事を許せない以上、関わる事はないだろう。

 

 

「ハァ……」

 

「リィエルさん、大丈夫ですか?」

 

「ん。大丈夫よマスターさん。そっちは怪我してない?」

 

「は、はい大丈夫です」

 

 

 藤丸立香(マスター)でさえ気付いているリィエルの空元気な振る舞い。まあ気を遣わないように元気なフリをしているようだけど、気を抜くとため息をついている。

 

 

「フムフム」

 

 

 それを後ろから見るロクデナシが1人。

 当然周回で王の話をしたマーリンはリィエルやエルキドゥと同じく種火周回で来たのだが、マーリンの場合いつも乗り気じゃなかったのに今回ばかりは少し乗り気だ。

 

 空元気なリィエルの後ろ姿を見ていると、首筋にジャキッ! っと言う音が聞こえた。エルキドゥが腕を剣に変えてマーリンに向けている。

 

 

「あまり不埒な視線を向けない方がいい。貴方は油断ならないからね」

 

「おや酷い。私はあの空元気な少女を励まそうとしているのに、ご不満かな?」

 

「彼女に手を出してみるかい? 胴体と首が離れても構わないなら別にいいけど」

 

 

 エルキドゥは今回ばかりはマーリンを警戒していた。

 マーリンはリィエルと同じ『冠位(グランド)』の素質を持っている。リィエルの強みは魔術もそうだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を引き出せる事だ。

 

 リィエルはギルガメッシュに下賜としてあの魔杖を選んだが、並行世界では英雄殺し、龍殺し、神殺し、聖人殺し、数え上げればキリの無い程の武器を手にしていた。

 

 ギルガメッシュと同じく弱点となる原典を引っ張り出し、あらゆる敵の弱点を引き出せると言う事だ。

 

 逆にマーリンは対照的な存在で、実質的不死身であり、アーサー王のように『人為的に王を作り上げる』と言う世界有数の『英雄作成(キングメーカー)』であり、世界すら欺く幻術の使い手。

 

 その力はあのティアマトさえ夢に引き込み、眠らせると言う規格外な事をやって退けた。魔術も剣の腕も超一流、リィエルが力をなす魔術師ならば、マーリンは心を掌握する魔術師だ。根本的な違いと言えるだろう。

 

 だが、性格については趣味で人をかき乱すクソ野郎なので、エルキドゥは今回ばかりはリィエルに悪影響と思い、警戒していた。

 

 

「ヤケに好戦的だね。今の彼女を私がどうにか出来る方法を知っていると言うのに」

 

「……信用ならないね」

 

「結構さ。信頼があるなら信用は不要さ。何せ私は夢魔だからね」

 

 

 夢の中を渡り歩く悪趣味な悪魔。

 夢魔と人間の混血であるマーリンはハッピーエンドが見たい為に動く。エルキドゥはリィエルをあのままにするのは少し嫌だと感じている。互いにリィエルの問題を解決したいという意味では利害は一致している。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ふああ」

 

 

 リィエルは目を擦り、ベッドから起き上がる。

 サーヴァントに睡眠は必要ないが、最近のモヤモヤした感情がストレスになり、眠る事に躊躇が無くなっていた。

 

 上半身を起こすと、リィエルはカルデアが用意した部屋ではない事に気付いた。

 

 

「っ!?」   

 

 

 敵襲に反応出来なかった。

 幾らなんでも気が抜け過ぎだ。辺り一面には何もない空間、星空しかない白い世界。それはリィエルが永遠と居続けたであろう場所。

 

 

「聖杯の……中?」

 

「ご明察」

 

 

 リィエルが振り向くと、そこに居たのはマーリンだった。

 マーリンの十八番である夢へ引き摺り込む夢魔としての力をリィエルに使った後、結界を張っていたであろう聖杯の保管庫に侵入し、無断でレイシフトを使い、リィエルを聖杯の中に閉じ込めた。

 

 カラカラと笑いながら近づくマーリンにリィエルは警戒しながら片手を向ける。魔杖は無いし、呼び出せない。マーリンの策略か知らないが黙っているほどリィエルは気が長くない。

 

 

「……何のつもりかしら。同じ『冠位』に選ばれる私が気に食わないからとか言うつもりじゃないわよね?」

 

「いやいや、そんな訳ないさ。私も目的があってやっているが、私個人の私怨や感情は一切ないよ」

 

「こんなもの……っっ!?」

 

 

 聖杯から抜け出そうと外部に干渉しようとするが、弾かれた。

 魔杖が無い今、リィエルの繋がる力は強くない。とは言え、抜け出せるほどの干渉は可能な筈だ。だが、外部に干渉した瞬間、まるで雲を掴むような感覚に襲われる。

 

 

「結構苦労したんだよ? 聖杯に君を封じ込めた後、外の世界を夢の世界で閉じ込めて、内部干渉が出来ないようにするのは私でも骨が折れる作業だったよ」

 

「……何が目的?」

 

「さてね? ウルクの聖杯の時は君の魂があったから聖杯の中でも長く存在したけど、今の君はサーヴァントだ。魔力も1日したら限界を迎える」

 

「っっ!!」

 

 

 それはつまり座に帰ると言う事だ。

 冗談じゃない。やっとギルガメッシュに会えたのに、やっとエルキドゥに会えたのに、やっと想いを伝えられると思ったのに、何も無く座に帰り、悠久の時をまた過ごさないといけないなんて……

 

 

「ふざけるなっ!! 夢魔のロクデナシ!!」

 

「精々、迎えに来るのを期待して待ってるといい。じゃなきゃ、君はサーヴァントとして死ぬからね」

 

「待っ––––––!」

 

 

 魔術で拘束しようとしたが、時既に遅く……いや、最初から幻術で話していたのだろう。今の自分は聖杯の中、自力で抜け出そうと内部から干渉するが、触れようとしているものに触れられない感覚で出る事は難しい。いっそ第二魔法を行使して、聖杯を壊そうと考えるが、魔術王の聖杯が内部から暴走したら大変な事になりかねない。

 

 リィエルは魔力を出来るだけ外部に漏らさないように、誰か助けに来てくれる事を信じて待っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ハァ……よもや夜が明けるとはな」

 

 

 賢王ギルガメッシュはカルデアに来てから、現場を指揮している。七つの特異点が消えた後の空白の一年、魔術協会の報告は勿論レイシフトについてや、サーヴァントの確認、機材の確保に夥しい数の書類整理、それはウルクと変わらず忙しいものだった。

 

 

「流石に我も疲れた……寝るとするか」

 

 

 賢王が宝物から取り出したベッドに身体を沈めようとした時、部屋の扉が勢いよく開き、肩で息をするマスター、藤丸立香がギルガメッシュの元に走り込み、部屋に押しかけた。

 

 

「ギルガメッシュ王!!」

 

「……雑種、今の我は機嫌が悪い。寝間に押しかけたその不敬、貴様一体何をもって償う」

 

「リィエルさんが……リィエルさんが居ないんです! カルデアの何処にも!!」

 

「っっ!?」

 

 

 賢王は立ち上がり、マスターに近づく。

 リィエルが突然居なくなっただと? あり得ない。リィエルは突然居なくなるような人間じゃないし、座に帰るにしてもマスターに一言も言わずに帰るなんてあり得ない。

 

 ギルガメッシュは徹夜明けの頭を目一杯回しながら考える。

 

 

「居ないとはどう言う事だ……」

 

「他のキャスター達に調べて貰いましたけど、カルデアにリィエルさんの魔力は感知できない上に、消えた後の痕跡すら無いんです!!」

 

「となると……高位のキャスターかアサシンに大体絞られる筈だ。情報抹消の力を持つアサシンでリィエルを襲う程の私怨を持つような輩は居ない。ならば……あの夢魔か」

 

「マーリン……! そう言えば今朝から見当たらない!?」

 

 

 マーリンならばリィエルに気づかれないで消えれる手腕があるだろう。腐っても『冠位(グランド)』。ギルガメッシュより英霊としてはマーリンの方が上だ。夢の世界を渡り歩き、夢の中で感情を喰らう人の皮を被ったエイリアン。非人間なら罪悪感もギルガメッシュへの恐怖心も無く、リィエルを連れ出す事が出来るだろう。

 

 

「王様、千里眼は?」

 

「……ノイズで見えん。マーリンが何か細工したな。雑種、令呪を使いマーリンを呼び出せ」

 

「はい! 令呪をもって命ずる! 来い! マーリン!」

 

 

 令呪が赤く光り、マーリンが呼び出される。

 しかし出てきたのはマーリンではなく、一枚の紙だった。令呪による干渉が効かない例外はBBやギルガメッシュの他にも少数居る。マーリンも例外ではない。

 

 

「紙?」

 

 

 代わりに出てきたのは折り畳まれた紙だ。ギルガメッシュは拾い上げ、広げる。そこにはマーリンが書いたような字でこう書かれていた。

 

 

『面白そうだから手を出しちゃった☆』

 

 

 ブチッ!!!! 

 賢王の顔は見た事のない程、青筋を浮かべ精神が蝕まれるような圧倒的な静寂。それがどのくらい続いただろうか。

 実際にはおそらく数秒といったところなのだろうが、藤丸立香には数分以上にも感じられた。もし本当に数分間も続いていたなら発狂していたかもしれない。

 

 

「……フッ、フフハハハハハハ」

 

「お、王様?」

 

 

 ギルガメッシュから溢れたのは乾いた笑いだった。

 笑いながらも部屋から出て歩き始める。向かう先は分からないが、通りすがった子供のサーヴァントはその顔を見て、恐怖心で泣き出す程だ。

 

 

「マーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺す!!!!!」

 

「ああ!? 王様がXみたいに!?」

 

 

 ただならぬ殺意と繰り返す呪詛のようにマーリンへの怒りが激増する。徹夜明けのギルガメッシュには応えたのだろう。急いで管制室に向かうギルガメッシュについて行く藤丸、リィエルがカルデアに居ないのならばレイシフトしたに違いない。

 

 

「……万能の!!」

 

「来ると思ったよ賢王様、リィエルの事だろう?」

 

「我を今すぐバビロニアにレイシフトさせよ!! 奴の事だ、大方リィエルを隠した場所くらい分かるわ!!」

 

「はいはーい。藤丸くん、ついていってあげて。幾ら賢王と言えどマスター無しじゃキツいだろうから」

 

「分かりました」

 

 

 2人はリィエルを探すべく、バビロニアにレイシフトした。賢王は既にリィエルが何処に居るか分かっていた。それは最後にリィエルと別れを告げたあの場所しかない。

 

 マーリンは後で殺す事を決意したが、リィエルがカルデアから消えたのが分かったのは半日前だ。急がないとリィエルを維持している魔力が消え始めてしまう。

 

 

 ────────────────────

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 何度も干渉するが綻びが少し出来ただけだ。綻びから結界を破る程の魔力は無い。あったとしても使い切って外に出てもカルデアとは限らない。

 

 

「……くっ!」

 

 

 魔杖の魔力供給無しで長い時間粘ったが、リィエルに単独行動のスキルはない。マスターの藤丸が近くに居なければ魔力の維持が出来ない。このままでは確実に消えてしまう。

 

 

「っっ……ギル」

 

 

 もう待つのは嫌だ。

 待ち続けるのは寂しい事だ。悠久の時を生きるのは果てしなく辛い事だ。やっと会えたのに、すれ違ってサヨナラなんてしたくない。

 

 

「ギル…………!」

 

 

 魔力体であるリィエルの体が徐々に薄れてきている。

 時間にして18時間、綻びを作るのでさえこれだけ時間がかかったのだ。マーリンが厳重に結んだ結界に内部から干渉して綻びを入れるだけ、偉業とも言えるが魔杖による魔力供給も出来ないリィエルにとってこれが精一杯だった。

 

 

 

 

 

「ギル…………助けて……」

 

 

 ウルクで一度も弱音を吐かずに守り続けたリィエルから溢れた小さな本音。消えていく身体に恐怖を覚えながら、涙が流れはじめた。魔力が無くなっていく。

 

 ギルガメッシュに伝えられない事がまだ沢山あるのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………弱音など、貴様らしくないわ戯け」

 

 

 突如、白い世界に罅が入る。

 

 

「我との約束を忘れたつもりか?」

 

 

 そこから聞こえた懐かしい声。

 青年のギルガメッシュより少し低く、リィエルが待ち続けていた存在。来て欲しかったが、来ると思わなかった。自分のせいで私が死んだと思っていたから。もう関わる事すら無くなってしまうのかと思っていた。顔が涙でぐしゃぐしゃだ。もう一度だけ、ごく僅かな可能性に期待していたリィエルにとって、1番に来て欲しかった相手。

 

 

「迎えに来たぞ。リィエルよ」

 

 

 賢王ギルガメッシュがリィエルの前に立っていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 数分前の事だ。

 

 ギルガメッシュはヴィマーナを取り出してウルクから外れた土地。イシュタルとグガランナを星で潰し、リィエルが最後にギルガメッシュと約束を告げた場所に向かった。その場所の名はカラヴィ、星の墓場と象徴としてシドゥリが名付けた場所だ。

 

 

「やあ、待ちくたびれたよ」

 

 

 ラスボス気取りにその場所に立つマーリン。

 バビロニアにレイシフトした後、マーリンはこの場所でリィエルを閉じ込めていたのだろう。夢の世界に綻びが生じる程、リィエルの干渉は強かったのが予想外だった為、マーリンが近くで修復していくしかなかったのだ。

 

 まあ、そんな事情はブチ切れの賢王と、聖杯を勝手に持ち出されて勝手使われている事を知ってブチ切れの藤丸と仕事に追われて忙しいダヴィンチに更に仕事を増やしたロクデナシに一切容赦をする気がない。

 

 

「藤丸、やれ」

 

「令呪をもって命ずる。マーリン、その場から絶対に動くな!」

 

「なぬっ!? ちょっ、それはズルいんじゃないか!?」

 

「令呪をもって命ずる。王様、宝具開放」

 

「フッ、分かっておるではないか」

 

 

 一気に令呪を使った藤丸。

 だが仕方ない。このロクデナシのせいで色々大変になっているのだから。もはや手加減無し。出張ってきたラスボス感も強キャラの伏線も全力で無視。

 

 

『––––––矢を構えよ。我が許す』

 

「えっ、う、嘘だよね。いや確かに悪い事をしたと思ってるよ? けど、ほら。来るって分かってたから……」

 

『至高の財を以ってウルクの護りを見せるがよい、大地を濡らすは我が決意!!』

 

「ちょっ!? 待って! 本当に待って!! 幾ら不死身の私でもギルガメッシュ王の宝具は!!」

 

 

 ギルガメッシュの号令で弩に装填された財によるウルク城塞からの遠距離爆撃。ギルガメッシュのみならず、神代を生きたウルクの民の総力までもが結集された驚異の砲撃。 「王の財宝」を弩に装填し放つ使い捨てだが、ギルガメッシュの財宝の中には当然不死殺しが混ざっている。

 

 一見不死身なマーリンだが、それを打ち込まれたらどうなるか。

 

 

 

王の号令(メラム・ディンギル)!!!』

 

 

 

 だがそんな事一切気にせずにギルガメッシュは宝具を向ける相手に対する0.1割の敬意と9.9割の殺意をもって最大威力をマーリンに叩き込んだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……これが、リィエルを閉じ込めた聖杯か」

 

「ふぁい」

 

 

 マーリンは宝具を打ち込まれた後、天の鎖で縛り顔面が見る影なく腫れ上がるまで殴られていた。まあ今回ばかりは藤丸も止めるつもりはなかった。

 

 聖杯の中にリィエルを閉じ込め、何重にも張られた結界の中に夢の檻を仕掛けている。ティアマトの時と同じくらいの強度を成しているが、外部からの干渉はかなり弱い。恐らくわざとマーリンがそう作ったのであろう。

 

 

「……雑種、そのロクデナシを連れて先に行け。其奴なら敵に遭遇しても回避できるであろうからな」

 

「……1時間待ちます。それまでに来てください」

 

「よかろう」

 

 

 藤丸はマーリンを引き摺ってカラヴィを降り始めた。

 ギルガメッシュは膝をついて、結界を破り聖杯に触れる。そこから聞こえたのは、リィエルの泣き声だった。

 

 ずっと悲しかったのだろう。

 ずっと寂しかったのだろう。

 もしかしたら泣いていたのかもしれない。

 

 それでも変わらず自分を待ち続けてくれた女が居た。あの時の約束は皮肉にもこの状況と同じ、いつか辿っていたかもしれない聖杯に眠る彼女を解き放つギルガメッシュ叙事詩の最後の1ページの神話。

 

 

「…………弱音など、貴様らしくないわ戯け」

 

 

 それはずっと叶わなかった。

 叶う事のなかった最後の神話。

 

 

「我との約束を忘れたつもりか?」

 

 

 いつも可憐で星のように輝く蒼い瞳で、綺麗な声で歌っていた彼女をもう離したくない。約束はこの時、果たされたのだから。

 

 

「迎えに来たぞ。リィエルよ」

 

 

 ギルガメッシュがリィエルを迎えに行く最後の神話。

 最後のページにはそうであって欲しいというウルクの願いが込められている。神話の終わりは悲しいが2人の永遠の別れだった。けれど、もしも最後の1ページが書き加えられたなら……

 

 ハッピーエンドで終わってほしかった、とある人は言っていたのかもしれない。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……長い間、待たせてしまったな」

 

 

 賢王とリィエルは藤丸達の所に歩いて向かっている。ギルガメッシュがリィエルの魔杖を持ってきてくれて魔力の心配もなくなった。だから少しだけゆっくり歩いている。

 

 

「……少し、寂しかった」

 

「……そうか」

 

「でも……迎えに来てくれるって、信じてたから。迎えに来てくれた時は嬉しかった」

 

 

 形はどうあれ、賢王としてのギルガメッシュはリィエルを迎えに行く事が出来たのだ。リィエルは悠久の時を経て、ギルガメッシュに会う事が出来た。ギルガメッシュがリィエルを解き放つ事が出来なかった過去は確かに存在した。

 

 けれど、いいのだ。

 

 賢王としてのギルがリィエルを想ってくれていた事は理解出来たから。リィエルにとってはそれだけで充分だったのだ。

 

 

「ギル」

 

 

 てくてくと歩きながら、再び背後からリィエルの声が。今度は一体何なんだと思いながら賢王は背後を振り返えると────両手を広げて飛び込んでくる彼女の姿があった。 

 

 予想外の事態に少し動揺するが、不意打ちにも関わらずリィエルの身体をしっかりと受け止めることができた。

 

 

「いきなり危ないであろうが……戯け」

 

「ごめんね。でもね、私どうしても伝えたいことがあったのよ」

 

 

 長い間、ずっと伝えられなかった言葉。

 永遠に伝えられるはずの無かった事だったが、この物語に存在しない最後の1ページがあるならば、最後のシーンの相場は決まっている。見せ物じゃないけれど、物語の終幕になる。

 

 

 

 

 

「迎えに来てくれてありがとう」

 

 

「約束……だったからな」

 

 

「あともう一つ」

 

 

「?」

 

 

 

 

 頬は林檎のように赤くなりながらも、最後に伝えたかった小さな言葉を静かに耳元でリィエルが伝えたかった愛をギルガメッシュに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、貴方の事が────―」

 

 

 

 

 

 それが、2人の最後の神話だ。

 君たちに幸運がありますようにと、星空が2人を祝福してくれているようだった。

 

 幾千もの星を眺め、星の彼方にて待ち続けたリィエル。

 最後に約束した願いを拾い、迎えに来たギルガメッシュ。

 

 その2人の手が重なった長く短い時だった。

 

 

 

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