フンババ討伐から数ヶ月が経った。
ここウルクの街は活発になり、木材や土地を増やしてから発展が他国と比べて目を見張る物となった。人口問題や資材の確保などは今はとりあえず安定期に入っている。
ギルガメッシュは珍しく暫くの間は自由奔放に城を抜け出す事はなく仕事の粘土板に目を通し、数週間は王としての責務を果たしていた。
エルキドゥについてはリィエルと一緒に仕事の勉強だ。偶にリィエルと街を回って外の世界を見て周った。暫くギルガメッシュが遊び呆けないようにリィエルがエルキドゥに声をかけては外に出てウルクの外に空中散歩に出かけたりなどする。
リィエルについては偶にギルガメッシュやエルキドゥ、文官達に歌を聞かせていた。本来なら宮廷魔導師と言う立場は王の仕事までしないし、何より自由をギルガメッシュ自身が保証していたのだが、シドゥリさん達を見たらそうは言ってられなかったから手伝っていた。
フンババ討伐から随分と国が落ち着いてきた。
騒がしいウルクの街に平和が訪れていた。
だが、そんな平和は徐々に崩壊へと続いていくことに今は誰も知る由はない。
ただそんな中、リィエルは魔杖を持った瞬間に
────────────────────
「王様ー? エルー? 何処に行ったのー?」
リィエルは2人を探していた。仕事はあらかたリィエルが終わらせたが、ギルガメッシュとエルキドゥは最低限の仕事を終えて何処かに消えていた。前に比べればサボりと言う程ではないが、流石にいきなり消えると心配もする。
面倒だが、探知の魔術で城を見渡したら、城の屋根に2人ともう1人浮遊している女神のような女性がそこにはいた。
リィエルはとりあえず浮遊の魔術で城の屋根にたどり着いた。
「王様、エル、探したよ」
「あっ、リィエル」
「むっ、リィエルか。丁度良い。イシュタル、貴様の婚儀など受ける気はない。何故なら、我の相手は既に決まっているのだからな」
「えっ? どう言う状況? 王様何して──きゃっ!?」
ギルガメッシュがリィエルを抱きしめる。
エルキドゥとギルガメッシュに会えたと思えば今度は急に抱きしめられ、それを浮遊した美の女神に見せつけているようだ。流石に状況が飲み込めず、抱きしめられた事に驚いたリィエルがギルガメッシュに
『ちょっ……!! どう言う状況!?』
『この女神が我に求婚してきたのでな。流石にしつこいと思ったその矢先にリィエル、貴様が来たのだ』
『ええぇ、嫌ならハッキリ断りなさいな。私を持ち出さないでよ』
『戯け。貴様は我が友であり我が財になる予定であろうが』
『友は良くても財になる予定はないよ。ハァ……フリをすれば良いの?』
『分かっておるではないか』
『全く……後で何か奢ってよ?』
リィエルは内心ため息をつきながらも、目の前に浮かぶ女神に丁重な口調で挨拶をする。
「初めまして女神様。私はギルの婚約者のリィエルと申します。以後お見知りおきを」
「なっ……! アンタこんなガキと結婚する気!? 悪い事は言わないわ、今すぐ私と婚約しなさい! 女神と婚約出来る事自体が栄誉なのよ? それを断ると言う事がどう言う事か分かってるのかしら!?」
「そんな栄誉など微塵も要らん。我はこの女と決めたのだ。我と対等に存在し、我と共に世界を背負うと言う覚悟を持った我が妻だ。幾ら貴様とて侮辱は神であろうが万死に値すると知れ」
わあ流石王様。女神だろうと容赦ないな。
と言うか我が妻という言葉は嘘でも照れるからやめて欲しい。自由奔放の王に少しでもときめいたら黒歴史を粘土板に綴っている所だった。
まあ無駄に顔はいいからね。この王様。
「この……! 覚えてなさい!!」
「フハハハ! 貴様の事など覚えるつもりは微塵もないわ!」
女神は金色の波紋から天界へと消えていった。
いやー、しかし修羅場だったな。あんな弓みたいな乗り物に乗って金色の波紋から天界まで一直線。何というかお転婆な女神だったなー。
……いやちょっと待て、なんかその女神もの凄い心当たりあるんだけど。
「ね、ねえ王様。今の女神の名前は……?」
「むっ、知らなかったのか? 金星の女神イシュタルだ」
物凄い心当たりのある女神様だった。
えっ、イシュタル様だったの? 一応、 ウルクの土地神はイシュタル様で作物とかが育つのは神の加護みたいなものがあるからだ。そのイシュタル様に喧嘩売った事になる。てか完全に巻き込まれたリィエルにとって中々デカいとばっちりである。
「何してんのぉぉぉ!?」
「うおっ!? 急にでかい声出すな戯け!」
「じゃなくて! あれ曲がりなりにもイシュタル神でしょ!? 神様に喧嘩売ってどうすんのよ!? 土地や作物とか不作になったら文官達の仕事がまた増えるでしょーが!!」
「戯け! 貴様はイシュタル自身が我など眼中にない事くらい今ので分かったであろうが!」
「いやまあそうかもしれないけどさ……」
イシュタル神の目的はギルガメッシュの容姿につられて求婚を申し出たわけでない。恐らくはギルガメッシュの『宝物庫』だろう。
ギルガメッシュの『宝物庫』には古今東西、人類が生み出すものであれば、遥か遠い超未来のものまで過去未来の時間軸すら超越して財宝が追加され続ける神秘の蔵だ。
無論、宝石や純金なども山のように置いてある。イシュタルはそれを目当てに求婚したのである。リィエルもエルキドゥも何となく察してはいたのだが……。
「……と言うか私結構なとばっちり食らったんだけど……女神に嘘とは言え恨まれる羽目になったんですけど……」
「知らん」
「横暴!! これでイシュタル様がウルクを襲ったら王様が何とかしてよ!?」
「フハハハ!! その時どうせ貴様も対処に回るから不可能に決まってるわ!!」
「大丈夫だよリィエル、その時は僕も何とかするから」
「ううう……エルが優しくて尊い。正直王様よりエルの方が好きになりそう」
「リィエル貴様!! この我のどこが不満か!?」
「性格、横暴さ含めて全部だよ!!」
ギャーギャーと騒ぎ合っている2人に笑うエルキドゥ。
兵器として心を知らないエルキドゥが作られた心の底から笑う事が出来るようになっていたのを2人は気付いていなかった。
リィエルもギルガメッシュも大切だと思えるからこそ、この暖かい感情を理解して笑い合う事が出来る。エルキドゥ自身の性能を競い合える友が2人もできた。エルキドゥの知らない事を教えてくれる2人に抱く感情はいったい何なのだろうという気持ちさえエルキドゥは心地よいものだった。
「エル、王様、仕事も終わったしバターケーキでも食べに行こうよ。私が出してあげるからさ」
「ほう……貴様がか。珍しい事もあるよな」
「いいでしょ偶には。暫く仕事ばっかりだったし、シドゥリさんにはちゃんと言ってあるんだから」
「ならば良し。エルキドゥ、リィエル、さっさと行くぞ」
「……うん。そうだね」
この3人が揃えば乗り越えられないものなどない。
そう思わされる程、手にした『心』がそう感じさせていた。
────────────────────
イシュタル神の求婚を断ってから一週間が経った。
「っっ……!」
ウルクの天候がやけに酷い。
雨は降り続き、雷が轟き、風が吹き荒れる。しかしリィエルがウルク全体に張った強固な結界のおかげで作物や建物の被害やウルクの民達は無事だが、明らかにおかしいのだ。
何せ
「リィエル、エルキドゥ」
「ああ、
「確定ね。あの台風から
「イシュタルめ……『
『
隕石落下にも等しい大破壊を巻き起こすシュメル最大の神獣。暴風だけで物体を吹き飛ばし、雷鳴で神の力さえ打ち砕き、全盛期ならティグリスも干上がらせる力を持っている天災の化け物。
人間にとって事実上無敵の神獣であり、勝ち目がないとイシュタルが自負するほどの究極の暴獣、神々ですら手懐けられないが、イシュタルは時に厳しく、時にもっと厳しく扱うことでグガランナを自在に操れるとギルガメッシュは口にした。
金星の女神だけあってその力は折り紙付きだ。
「やっぱ求婚断ったせいじゃん」
「乗っかった貴様も同罪だ戯け。どの道このままでは貴様の張った結界が保たぬからな。我とエルキドゥ、リィエルで大元を叩くぞ」
「はいはい。まあこれだけ強固な結界を維持するのも疲れるし」
「リィエル、だんだんギルに似てきた?」
「ヤバい死にたくなってきた」
「貴様後で覚えておけよ……」
いつものように軽口を叩いている。
リィエルは2人に風避けの魔術をかけて、ギルガメッシュが出したヴィマーナにエルキドゥと一緒に乗って天災の中心地へと飛び込んだ。
────────────────────
「へぇ……これが『
見た感じ全長100メートルはある巨大な牛、蹄は更に大きく踏み潰されれば即死どころか跡形もなく消滅するだろう。
「へぇ、よくノコノコと3人で来たわね」
「イシュタル様、ウルクの土地神である貴方が何故ウルクに『
念の為、リィエルが説得の為に質問する。
まあ何となくだが説得は無理だろうと内心諦めている。だが、会話こそ人間の真心であり優しさだからだ。ダメ元でやってみた。
「決まってるじゃない。貴方達3人を殺すためよ」
「それは何故?」
「神の命に逆らった咎人だからよ。ギルガメッシュは私の求婚を断り、未だウルクの土地に踏ん反り返って、エルキドゥはいつまで経ってもギルガメッシュを殺さない。貴方は私が求婚するにふさわしいギルガメッシュを奪った。既に咎人なのよ」
イシュタルは3人を見ながら嘲笑う。
確かにフンババを討伐出来たことは見事と称してやろう。だが、神でさえ手を焼いたグガランナなど幾らあの三人でも倒す事は出来ないだろう。
この中で3人の決断は早かった。
3人の中でのイシュタルの意識は「あっ、コイツ敵だ」と言う認識に瞬時に切り替わった。悲しいがイシュタルの考えが大体分かるので冷酷無慈悲である。
「よし、なら遠慮は要らないね」
「ああ。エルキドゥ、リィエル、お前達2人で時間稼ぎをせよ。業腹だが、我も宝物庫の鍵を開けるとしよう」
「相変わらず無茶な命令……。もう慣れたけど」
既に戦闘態勢に入り、エルキドゥは大地に手を当てて真名を開放する。
『呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は。故に──』
エルキドゥ自身の体を一つの神造兵器と化す能力。
アラヤやガイアといった抑止力の力を流し込む光の楔となり、膨大なエネルギーを世界が認識できる形に変換して相手を貫く一撃の再現。
『
天の鎖でグガランナを縛る。エルキドゥの天の鎖は神性を持つものによく効く。グガランナは特性上、最強の
『私の声は世界を繋ぎ、私の世界は私という可能性の一つ──』
リィエルが魔杖をグラガンナに向けて、巨大な魔法陣を組み上げる。込められた魔力量からそれは対軍宝具の域にある。
『
リィエルの魔杖が真名を解放する。
そして次の瞬間、
「ハアアァァ!? 何よそれ!?」
イシュタルすら予想していなかっただろう。
リィエルの魔杖『
その力は「
それはつまり自分がこうしていたらというifの世界や、自分に起こり得た別の可能性。即ち並行世界だ。
リィエルの魔杖は幾多の並行世界に接続し、自分がこの場所で「
勿論、並行世界から大気中の魔力を取り出して持ってくる事や、今みたいにグラガンナに「こういう攻撃を並行世界でしていた」と言う結果を引っ張り出して魔法陣を多数、しかも詠唱なしで出現させる事も可能だ。
これは魔術とリィエルは称しているが、後世ではこう名付けられる。
「
「うわぁ、流石リィエル」
「と言っても全然効いてないわ。グガランナにとって風の刃は切り傷程度にしかならないよ。
────まあ、もう決着はついたんだけどね」
リィエルが確信する。
ギルガメッシュが何故時間稼ぎをさせたのか、その意味はギルガメッシュが持ち得る最大の攻撃の時間を稼ぐためにあったのだ。
『元素は混ざり』
それはリィエルの『
「全てに繋がる力」の逆は「全ての破壊」司る『乖離剣エア』を引き抜き、掲げるギルガメッシュの姿があった。
「ついでに言っちゃえば王様に強化の魔術もかけたし」
「うん。案外呆気なかったね」
エルキドゥもこの瞬間、勝利を確信した。
リィエルは地面に降りて、余波に巻き込まれないように結界を何重にも張る。最大級の宝具にリィエルの支援、これで死ななかったら逆に拍手を送りたいくらいだ。
『固まり』
かつて混沌とした世界から天地を分けた究極の一撃。それは神であろうが星であろうが切り裂く原初の地獄の再現。
『万象織りなす星を生む!』
天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった原初の地獄そのもの。その道理であるならば、ギルガメッシュは『天の理』によって全てを開闢をもって切り裂く。
『死して拝せよ!』
混沌とした世界から天地を分けた『乖離剣エア』
ギルガメッシュはそれをグガランナに振り下ろした。
『
エアから放たれた原初の地獄はグガランナ相手に塵すら残さなかった。
その後、イシュタルを嘲笑う2人の姿とそれに苦笑いしながらも助ける気はないリィエルの姿がそこにあった。嵐は止み、暴風は消え、空が明けたように日が地上を照らす。
暖かな空の日差しにリィエルは笑いながら2人に抱きついた。
「王様、エル! 今日は飲もう! シドゥリさん達も明日くらいなら休日にするくらい許してくれそうだし!」
「フハハハ!! 良いぞ! 今日は最高に良い気分だ! 我が蔵からとっておきを出してやろう!!」
「飲み比べと行くかい2人とも?」
「良かろう!」
「いやそれ絶対エルが勝つじゃん!?」
笑い合いながらウルクの城に帰る3人を見てイシュタルは血が滲むほど拳を握り締めた。そしてほくそ笑む。
神でさえ止められる術を知らない3人。この3人なら天上の神々さえ殺せる程、驚異であると再認識させられたのだ。
これが後にどうなるか、まだ3人は知らなかった。
宝具
『
* ランク:EX
* 種別:対界宝具
* レンジ:──
* 最大捕捉──
ギルガメッシュの宝物庫に持て余していた魔杖。
ギルガメッシュでさえ素材すら千里眼で見通す事が出来なかった魔杖であり、その力だけ言えばギルガメッシュの『乖離剣エア』に匹敵する。
詳しく詳細は未だハッキリしていないが、ギルガメッシュの持つ乖離剣が『全てを破壊するもの』ならリィエルの持つ魔杖は『全てと繋がるもの』だと言う。
宝具
『
* ランク:EX
* 種別:対界宝具
* レンジ:10〜200
* 最大捕捉:10000
真名開放したその能力は「
それはつまり自分がこうしていたらというifの世界や、自分に起こり得た別の可能性。即ち幾多の並行世界に接続し、自分がこの場所で「
勿論、並行世界から大気中の魔力を取り出して持ってくる事や、グラガンナに「こういう攻撃を並行世界でしていた」と言う結果を引っ張り出して魔法陣を多数、しかも詠唱なしで出現させる事も可能だ。
これは魔術とリィエルは称しているが、後世ではこう名付けられる。
「
余談ではあるが、リィエル自身は並行世界を移動出来ず、あったであろう現象や過程、もしくは並行世界の大気中のエーテルを引きつける事しかできない為、リィエル自身が魔法使いと言われるとそれは違うらしい。
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