では五話目!!言ってみよう!!
エルキドゥが死んでから数日が経った。
『我は旅に出る。我が友であるエルキドゥと同じ死に怯えて生きるのだろう。我はそれを望まない』
『……そう……永遠を望むのね』
『ああ、我は必ず不死の草を持って帰ってくる。リィエル、貴様も来るか?』
リィエルは首を横に振った。
『……ううん、私は残るよ。この国の宮廷魔導師だし、この国を守る責任が私にはあるから』
『……貴様は止めないのか? 我の旅を』
『今回は許すわ。私も同じだもの、ただエルが愛し、貴方が王である故郷を放っておいては行けないわ』
『……そうか』
ギルガメッシュはリィエルに3つの宝剣とギルガメッシュの
『いくら貴様とて1人では限界があろう。だからこれは我の旅路の間、貴様に使用する事を許す。宝剣は結界の触媒にも何でも使え』
リィエルなら任せられる。
ギルガメッシュは恐らく、リィエルの分も持ってくるつもりだろう。リィエルは去りゆくギルガメッシュの背中を見つめながら最後の別れを口にした。
『……
『……?』
『必ず、帰って来なさい。私も、置いてかれるなんて許さないから』
『……戯け、死なぬわ』
旅路は三年だ。三年で必ず戻ってくる。
そう告げてギルガメッシュはウルクの街を去っていった。
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「…………うっ」
目を覚ますと知っている天上があった。傍らには涙を流しながらリィエルが目覚めたのを喜ぶシドゥリが居た。どうやら気を失っていたようだ。おかげで旅路のギルガメッシュの背中が見えた気がした。
「リィエル
「……シドゥリさん、私どれくらい気を失ってました」
「丸2日です。ああ立ち上がらないで! 今は夜遅くですし……民達や文官の人達も眠っている時間帯です」
リィエルがやっていた事はルーン魔術による作物の安定化だ。大地自身にリィエルの魔杖を繋げて、
リィエルの原初のルーンを
並行世界に繋げれば魔力は無限にあるリィエルなら可能な話なのだが、リィエルも精霊の血を宿していても人の身では負担が大きい。
魔術回路が休みを取らずに働いて、その上、魔獣避けの結界を宝剣を触媒にして張り巡らせ、更に仮としての王の責務にいよいよリィエルが倒れたのだ。
「……2日か……ごめんシドゥリさん」
「謝る事ではありません。王が不在の中、私達を支えてくれているのはリィエル様なのですから」
「……あと……何ヶ月後だっけ」
「8ヶ月と3日です。ギルガメッシュ王が帰ってくるのは」
既に二年と四か月が経過した。
ウルクの街は土地神のイシュタルが居なくなった事により、作物問題や輸入、輸出に問題が多発する。王が居る事をリィエルの幻術で誤魔化せては居るが、バレるのは時間の問題だ。
ギルガメッシュが帰ってくる前に攻められたらウルク全体の兵を集めても5桁が精一杯だ。対して他国は6か7桁、いくら対集団戦に魔術を惜しみなく使えるリィエルでさえ勝てない可能性がある。
「シドゥリさん……こんな時間まで私を看病してくれてたんですね。大丈夫なのですか? 寝た方がいいですよ」
「大丈夫です。このくらい自由だった時の王に比べれば軽いものです」
「……シドゥリさん。入ってください、今日だけでいいので一緒に寝ましょう」
「そんな、恐れ多い……」
「私が許してるんですから、それにシドゥリさんに倒れてもらっても困りますから」
リィエルは掛けでいた毛布を広げ、シドゥリを招く。
シドゥリは恐る恐る毛布に入った。その瞬間、リィエルはシドゥリに癒しと眠りの魔術をかけて眠らせていた。
「……実はもの凄い疲れてるのに、私の為にありがとうございます」
リィエルは布団をシドゥリに掛けて、魔杖を持ち文官達が働いている所に向かった。今は文官達も眠っている。それは嘘だ。単にリィエルを休ませる為の嘘なのは分かっていた。
2日休んだ分の遅れを取り戻さないと、とリィエルは再びウルク全体に結界を張り始めた。
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4ヶ月が経過した。
ウルクでは、免れる事の出来ない他国からの宣戦布告を受けた。
国内での不作、外国から全く物が入ってこなくなったことが宣戦布告の合図だった。土地や作物はリィエルの力でどうにか出来ても外国に関しては全く別問題だ。
……無論、ウルクの周辺国が敵に回ったことが原因だ。周辺国のいくつかではない。周辺国が全て、それも連合を組んで、ウルクに戦争を持ちかけた。
リィエルが1番恐れていた事態だ。幻術や催眠による傀儡の魔術である程度の事はしていたのだが、とうとうそれが解けてしまったらしい。
こちらがいくら拒否しようと、『神から見捨てられた』とされるウルクの土地を擁護する国などあるわけがない。開幕の火蓋が切って落とされたのは、当然の流れと言えた。
リィエルは周辺国の近くに地雷の魔術を掛ける事でどうにか戦況を慎重に行動させる事が出来たが、それでも20万は下らない兵士がウルクに襲い掛かるのは時間の問題だった。
戦況は……当然ながら、ウルクの圧倒的不利だった。
こちらの持つ兵力は5桁、リィエルの強化をした所で焼け石に水だ。数で圧倒されれば是非もあるまい。どの道以前不利なのに変わりないのだ。
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「防衛戦……それで行くしかないわ」
リィエルはウルク全体に巨大な外壁を二重に作り、兵達をそこに配置させた。リィエルについては空から遊撃、全体の指揮はこの国の一番兵に任せた。リィエルは軍師ではないし、恐らくウルクへの被害を最小限にする為にウルクから遠い場所から待ち構える事になるだろう。
「まあ、とっておきをあれだけ作ったから、恐らくは問題ないと思うけど……」
魔道具生成で兵士一人一人にこの時代では珍しい手榴弾のようなもの渡した。近づかれたら迷わず投げるように指示し、周辺国に対する威嚇にもなる。十全な準備は整えたつもりだ。
「……準備はできた」
リィエルは一人。戦場となるだろう平原で、敵を待ち構えていた。
避難やら住民への説明やらに追われる文官達。
兵達を前線には上げられない。魔獣避けの結界は一度解除しなくてはならないからだ。ウルクに張った防衛戦用の外壁がある以上、無駄に魔力を消費できない。
戦闘力と呼べるものはリィエル以外には人を襲う魔獣のみ。
だから、
この戦争に絶対に勝つ、そして……
「私達が愛した国を渡さない」
ギルガメッシュ、エルキドゥ、力を貸してね。
魔杖を強く握り、リィエルは戦場へ向かった。
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目の前には、人の海。大凡見果てぬ人の塊。向こうも焦れてきたのだろう、最大規模の戦力だった。人の波がウルクを襲えば、一溜りもないだろう。
数の暴力とはよく言ったもの、ウルクを取り囲んでもまだ余りありそうな戦力が、リィエルの前には立っていた。数は黙示しただけで予想より遥か上の40万はいるだろう。
勝鬨のような雄叫びが鼓膜をビリビリと震えさせた。リィエルはそれに臆す事なく、空に浮かんでいた。こんなもの、ギルガメッシュやエルキドゥの性能の競い合いに比べれば恐れるものなどなかった。何だか笑ってしまいそうだ。
進軍を続ける隊が、ピタリとある一点で止まった。
太陽を背に浮かんでいるリィエルの姿を見つけたのだ。
それを見た兵達は嘲り、憐憫、同情、怒り。舐められていると思ったのだろう。だが、数少ない兵士にはこう見えたのだ。
まるで、神の化身であると。
「私の名はリィエル。ウルクの宮廷魔導師にしてウルクを護る『星の巫女』。お前達を冥界へ送る女の名前だ。覚えておくがいい!!」
リィエルは魔杖を軍全体に向けた。
もう詠唱など要らない。対集団戦に於いて、リィエルの右に出るものはあの2人以外存在しないだろう。
そしてこれが、開戦の狼煙を上げるのだ。
出し惜しみなど、する訳ない。
『
フンババの時に使用したリィエルの切り札。
空に浮かぶ無数の魔法陣から、流星群にも等しい攻撃が軍に襲い掛かる。それも雨のように降り注ぐ為、避ける事など無理な話だ。
「ぐああああああっ!!?」
「ほ、砲撃だ!! 全軍退避!!」
「ぐがあああああ!? 腕が……! 腕がああああ!!」
戦場は阿鼻叫喚、地獄絵図である。光が肉体を貫き、風の刃が肉体切り裂き、炎の海が大地もろとも焼き焦がした。
今ので、20分の1くらいは削れたであろう。
今のは初手の奇襲だ。次はそうはいかないだろう。
打ってくる弓矢は自分の周りに張った結界で防ぎ、リィエルは一方的に攻撃を続ける。
「
魔杖から大量の魔力を引っ張り出してリィエルは3万の群勢の周りに結界を張り、閉じ込める。
「な、なんだ!?」
「閉じ込められました!!」
「今すぐ結界を破壊しろ!!」
兵達が結界に攻撃しても、びくともしない。
リィエルは結界を徐々に狭めて、兵士達を圧殺する。それはまるで巨大なプレス機のようで、囲まれた兵士達に逃げる術などない。リィエル以上の魔術が使える人間はこの時代には存在しないからだ。
「あ……がぁ……!」
「あびゃびゃ────ぁ」
「あが、あぎゅ、ごふ」
「あびゃ──た、たす、たすけ」
グチャ、と結界の中が見えないほどの血みどろと圧殺された兵士達の肉塊が転がっていた。唖然とする兵士達、リィエルがまるで悪魔のように見えていた。
「うっ……ぷ」
吐き気がする。血みどろの戦場に潰した兵士の肉の感触が結界越しに伝わってきた。リィエルは戦場に出るのに向いていないと自覚する。対集団戦に於いてリィエルは最強の力を持っているが、リィエル自身が人を殺すのに躊躇があったからだ。
リィエル自身の優しさがそれを阻害する。だが、侵略されればもっと多くの人間が死んでいく。心を鬼にしてそれを無視し、さらに爆破範囲の広いルーンで人を殺していく。
(殺している……私が彼らを殺してる)
相手は血も涙もない侵略者だ。少しでも慈悲を残せば、逆にこちらが滅ぼされる可能性だってある。それでも、それでも何の為に戦うのかの意義すら忘れてしまいそうな程、戦場は血に染まっていた。リィエルは血が滲むほど魔杖を握りしめながら、次の術式を作り上げた。
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兵が半数以上減ってから、リィエルに異変があった。
「ゴホッ……! ハァ……ハァ……!」
リィエルが吐血し出したのだ。
魔杖から魔力を引っ張り出して自身の魔力として術式を作り上げていたリィエルだったが、魔術回路の酷使による身体への負担がいよいよ限界に近づいていた。魔獣寄せの魔術を使ってから身体から途方もない疲労感に襲われ、いよいよ空中に浮遊することさえ維持できなくなっていた。
「くっ……!」
既に戦闘開始から一時間が経過していた。
敵兵からしたら勝機だ。すぐ様兵達を突撃させる。
「っっ……はああああああっ!!」
リィエルに向けて剣が、槍が、槌が、振り下ろされる。それらの衝撃をある程度の障壁魔術で躱しながら、
リィエルの魔杖が並行世界から結果のみを引き摺り出すなら、「
「私が白兵戦が弱いといつ錯覚した!!」
魔力を回すだけで身体が軋む感覚に襲われる。だが、リィエルは『強化』の魔術で戦場を駆け抜け、黄金の長剣でなぎ払い、切り開く。
「くっ…………! はああああああ!!」
障壁の対応が遅れて、矢や剣が身体に刺されるが、リィエルはそれを意にも返さない。エルキドゥとの性能比べの方がもっと痛かった。ギルガメッシュの剣技の方がまだ重かった。自分は断じてこの程度の傷で倒れる程柔ではない。
「ゴホッ……! ハァ……ハァ……! まだまだぁ!!」
血を吐きながらも、限界だと知りながらもリィエルは剣を振るう。魔力の生成も強化も身体が拒絶する程の痛みに気を失いそうになる。それでも剣を振るい、気づけばリィエルは1000という屍の山を積み上げた。
「リィエル様!!」
「っっ!? 貴方達……! 防衛戦の筈では!!」
「戦力を半分割いて参りました。リィエル様の奮闘により、兵士達にも勝機が見えたと思い、我等五千の兵士が貴方に加勢しに来ました!」
馬鹿じゃないの、と罵る力もない。防衛に徹すれば死ぬ可能性は存分に減るというのに、私の為にわざわざ加勢してきてくれた事に文句すら言えない。それでも力を貸してくれたのは、私を信じてくれているからだろう
「……分かったわ。…………っっ、『
リィエルは身体が悲鳴を上げながらも、兵士全員に繋げて身体強化のルーンをかけた。かなり大量の血を吐いたが、今、気にする事ではない。
気を失いそうな激痛に身体を蝕まれながらもリィエルは立ち上がり、兵士達の指揮を上げた。
「全員、生きて帰りなさい!!後方支援はこの『星の巫女』たるリィエルが引き受けるわ!!今此処にウルクの民は健在であると!!ウルクの兵士としての意地を存分に発揮しなさい!!」
その怒号のような指揮に全員が雄叫びを上げる。
これが最後の戦いになるだろう。兵士は10万程度とは言え此方より数が多い。ただ、ウルクの民は此処に健在だと。あの王は必ず言った筈だ。
リィエルは軋む身体に耐えながら、兵士達の後方支援として魔術を使い続けた。血を吐きながら、激痛に駆られながら、それでもリィエルは最後まで立ち続けた。
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「ハァ……ハァ……ハァ……」
ウルクの兵士は三桁になった。
だが、最後の敵兵をリィエルが斬り殺し、敵兵の全てを殲滅した。
勝ったのだ。この戦い、ウルクが勝利したのだ。
「……終わった……これで……私達の国は……」
全員が喜びに満ち溢れた。
アレだけの絶望を覆したのだ。ギルガメッシュ、エルキドゥがいない中、リィエルの力で国を守り抜いたのだ。最早戦場に血に汚れていない場所などないくらいの過酷な戦場を生き延びたのだ。
「……守り抜いたよ……エル、ギルガメッシュ」
安堵しながら、魔杖に身体を支えながら天を見上げた。
パチパチパチ
そこに水を差す拍手が聞こえた。
ウルクの兵士達がその方向を見る。青い巨大な弓に乗って、悠然と座りながら見下ろす女神が1人、そこにはいた。忘れはしない。エルキドゥを殺した神の一柱。
「この場合、お疲れ様とでも言えばいいのかしら? ウルクの人間達」
「イシュタル……!!」
「もう様は付けないのね。不敬だわ」
「エルキドゥを殺し、ウルクを滅ぼそうとした頭のイカれた神に今更敬語使わなければいけない方が頭イカれてるわ。今更貴女が捨てたこの地に何の用かしら?」
イシュタルは鼻で笑いながら口にした。
リィエルはイシュタルを目に移した瞬間、激昂し魔力が溢れ出た。自分の身体の痛みなど知った事ではない。エルキドゥを殺した張本人だ。今すぐに殺したいくらい憎んでいた。
「当然、ウルクを滅ぼしに来たのよ」
「はっ……幾ら神とは言え所詮一柱、私1人で十分。恐れるに足らないわ」
地上において神の法や権能が使えない中で、神一柱などリィエルには及ばない。イシュタルは戦と美の神であろうが、エルキドゥやギルガメッシュと対等に張り合ったリィエルには及ばないだろう。
身体に負担が大きいが、自分が倒れる前にイシュタルを殺す自信がある。最悪、相打ちに出来るくらいの余裕がリィエルにはまだあった。
「ああ、安心しなさい。戦うのは私1人じゃないわ」
だがイシュタルはそれを否定した。
イシュタルは笑いながらリィエルを見下していた。
「まだ気付かないのかしら。今、この場所で1匹たりとも魔獣が現れない事に」
「っっ!? まさか……!」
リィエルは感知の結界でウルクを見渡す。身体の痛みなど気にしている暇などなかった。思わず目を見開いた。
外壁に魔獣が押し寄せてくる。まるでそれは
魔獣を押し寄せない為に魔獣避けの結界を張ったが意味すらない。まるで
「イシュタル!! 貴女一体何をしたぁ!!」
「三女神達が誰がウルクを滅ぼすか競い合っているのよ。まあ、私も貴女を殺す為にわざわざ天界からエンリル神に許可を貰って持ってきたわけだけど」
「なにっ!? っっ……!!」
空が曇っていく。一瞬にして空は曇天に変わり、風が吹き飛ばさんとばかりに吹き荒れた。そして雨が降り戦場の爪痕を濡らし、血の海がまるで地獄を連想させる。
これは忘れもしない2年前の……
「絶望なさい。地を這う虫ケラが如何に群れようと天に届かない事をたーっぷり教えてあげるわ」
嫌な笑みを浮かべ、イシュタルが更に上に飛ぶ。
雷が轟く。風が吹き荒れて立つ事すらままならない。
曇天から現れたのは黄金の蹄、身体が、足が、胴が、頭が、全て黄金のような巨大な牛。
それは忘れもしない2年前に
「……嘘でしょ……」
それは
イシュタル「グガランナが何故二体目が居ないと錯覚した?」
いやー明日から学校で投稿が2日後になるかもしれません。本当にすいません。忙しくなりそうなので投稿したいけど出来ない可能性があります。それだけ覚えておいてください。