やべ、結構設定入れるのに無茶振りした気がする。
だが後悔はない。
『
それは神々でさえ従わせる事の出来ない聖獣であり、時にイシュタルが厳しく躾ければ、従わせる事が出来る神の暴獣。シュメル神話において、天災の魔獣であり、天界の聖獣である。
だが、それは三人で塵すら残さずに殺した筈だ。天界に
「二体目のグガランナですって……!?」
「蹴散らしなさい!!」
「っっ!!」
リィエルはウルクの兵士、そしてウルクの街全体に強固な結界を張った。グガランナの豪雷や嵐と言う天変地異を引き起こしながらも進む暴獣。リィエルの結界でも防ぎ切れずに兵士達は吹き飛ばされる。
「マアンナ!! 放て!!」
「っ……!? (兵士達を……!?)」
イシュタルが放つ矢は明らかにリィエルではなく兵士達に向いていた。リィエルは一瞬にして兵士全員に物理保護の魔術をかける。しかし、次の瞬間、ドクンッ!! と心臓の音が頭に響く程巨大な音に聞こえるくらいに揺さぶられた。
「かはっ……! あ……! ゴホッ……ゴホッ……!!」
リィエルは大量の血を吐き出した。
身体からどれ程の血を吐いたのだろう。どれ程の魔力を使っただろう。身体は激痛に駆られ、目を瞑れば永眠してしまいそうだ。
「それが貴女の弱点よ。リィエル」
「……弱……点?」
「貴女は精霊に愛され、半身として生まれた受肉精霊よ。けど、それ故に民を愛し、自分の残り少ない力でさえ弱き民達を護るために無茶をする。その甘さこそ、貴女の最大の弱点なのよ」
イシュタルの言う通りだった。
後ろにいる兵士達がリィエルの足枷となっている。それどころか既に限界のリィエルに無理をさせてまで結界を張らせている。そうしなければ死んでもおかしくないからだ。
リィエルの優しさを漬け込んだ最悪の一手は、イシュタルにとって最高の攻撃となってしまっている。
どうしようもない。逃げようとしてもイシュタルはウルクの兵士達を狙い、リィエルはそれを守るために無理をするだろう。
リィエルは意を覚悟して兵士達に告げた。
「……貴方達、撤退しなさい」
それは、リィエルの口から1番聞きたくなかった言葉だ。リィエルを残して自分達は戦場から去る。リィエルはとっくに限界だ。それを見殺しにして自分達の我が身可愛さに逃げるしかない。当然兵士達は困惑する。
「リィエル様! しかし……!」
「こんな事言うのは悪いけど、イシュタルの言う通り、貴方達は弱い。貴方達が束になってもグガランナはおろか、イシュタルにさえ歯が立たない」
それは余りにも現実的で、正論だった。
イシュタルは曲がりなりにも豊穣と美、そして
「──今、私の事を思って動いてくれるなら、お願い」
リィエルはウルクの街と今ここに立っている戦場を繋げてワープゲートのようなものを作った。走れば数秒で全員が撤退できる程の大きさで。
「──行って!! 早く!!」
その怒号にウルクの兵士は血が滲むほど唇を噛みしめながらも決断した。そのワープゲートさえリィエルの身体に激痛が走るくらいだ。結界を張る余裕など当然ない。
「っっ!! 撤退だ! 撤退せよ!!」
ウルクの兵士達はワープゲートに飛び込むように潜り抜けた。
イシュタルのマアンナが光の矢を撃つが、リィエルが魔杖を黄金の長剣に変えて、兵士達に当たる矢全てを切り裂いた。
マアンナの矢を全て切り裂いた頃には既にウルクの兵士達の撤退が完了していた。
「……チッ、逃げられたか。まあいいわ」
.
イシュタルの目的はウルクを滅ぼす事だ。リィエルさえ死ねばギルガメッシュの居ないウルクの均衡は破綻する。魔獣達が押し寄せるし、グガランナは未だ健在。
「(……耳が……聞こえなくなったかな……)」
リィエル自身、豪雷の掠れた音しか拾えなくなっていた。風やイシュタルの声も最早リィエルに届かない。
「ハァ……ハァ……!! っ……! ハアアアァァ!!!」
リィエルは魔杖を黄金の長剣に変えたまま、自身に飛行の魔術をかけて、イシュタルを狙う。グガランナはあくまでイシュタルの手によって管理されている状態だ。
ならイシュタルさえ死ねばグガランナは暴走する。暴走した後は他国にでも転移させて時間を稼げばまだ勝機はある。
「甘いわね。私を狙う気持ちはわかるけど、そんな悠長に攻撃させると思う?」
グガランナが脚を上げた。
2年前は脚を上げる事さえなかったが、その脅威はギルガメッシュが口にしていた。
踏めば豪雷、豪嵐、そして
「っっ!!」
リィエルは瞬間的に結界を張ったが遅かった。
かろうじて拾えていた音さえ、リィエルから消えた。
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!
────────────────────
「キャッ!?」
「な、なんだ!? この揺れは!!」
避難していたウルクの民達でさえ聞こえた大きな轟音に、巨大な地震。正直な話、リィエルが張った結界さえなければウルクはこの地震でさえ壊滅的な被害を及ぼしていただろう。
「た、大変だ!!」
「どうした!?」
「ウルクの兵士達が帰ってきたんだ!! さっき突然空間が歪んだと思ったら、そこからリィエル様を助けに行っていた兵士達がいきなり現れたんだ!!」
「じゃあ! 戦争には勝ったのか!!」
「いや!! まだリィエル様が、イシュタル様が連れたグガランナに1人で立ち向かってる!!」
「何!?」
そして、それは突然だった。
パリンッ!! と硝子が割れたような音がウルクに響き渡る。それは、ウルク全体を守っていたリィエルの結界が消えたと言う事だ。
そしてその理由は二つある。
今の地震に結界が耐えれなくなったか。
リィエル自身に何かあったのか。
又はその両方か。
「シドゥリさん!!」
「離してください!! まだ……! まだ戦場にリィエル様が……!」
「貴女1人が言ったところで何になると言うのですか!! リィエル様を困らせるだけです!! イシュタル様は我らを躊躇なく狙ってきたのです!! 貴女が行っても足手まといにしかなりません!!」
「っっ!!!」
結界が割れてから、リィエル自身が生きているのかさえわからない。だが、今行った所でリィエルの邪魔にしかならない。戻ってきた兵士達が必死にシドゥリを止めた。
「リィエル様……!!」
────────────────────
砂煙で随分と周りが見えない。
リィエルがかろうじて張った結界は砕けてリィエルは吹き飛ばされたのは目に見えたが、砂煙で辺りが全く見えないのだ。イシュタルはマアンナの矢でここら一帯を吹き飛ばそうと考えたその時、突如イシュタルの目の前に宝石が現れた。
カッ!! と割れた宝石から閃光が出た。
イシュタルの弱点である宝石に一瞬でも目が眩んだせいか、その閃光をモロに見たイシュタルは目を抑えていた。
「あああっっ!? 目が……!!」
今の一撃で
頭から血が出て銀色の髪は血に染まり赤くなっている程だ。だが、まだリィエルは倒れなかった。この一瞬、この一瞬を狙って右手に持つ黄金の長剣でイシュタルの喉元を狙う。
「っっ! 甘いわ!!」
しかし、それを読まれていたのか。
マアンナが剣の太刀を止める。グガランナにやられた一瞬の隙でさえ、止められてしまったのだ。
「グガランナ!!!」
グガランナが口を開くと嵐がリィエル目掛けて襲いかかる。
イシュタルが躾けたグガランナはイシュタル本人のみ一切ダメージを受けない。嵐はイシュタルすら巻き込むが、イシュタルには通用しない
「っっ!!! ハアアア!!!」
リィエルはそれを魔力砲で吹き飛ばし、イシュタルに距離を詰めた。グガランナの攻撃を吹き飛ばしたなら、イシュタルと一対一だ。
しかし、リィエルが剣を振い出した瞬間、
ドクンッ!!!と心臓の鼓動が身体から魂を引き剥がすかのように音を立てた。
「がっ……!!ああああっっっ!?!?」
それは、リィエルにも誤算だった。
身体のダメージが深刻な状況の中、リィエルは魔術を使い続けた代償で全身の骨が折れたかのような激痛が走り、身体の魔術回路は幾つか断線し、身体の皮膚から血が吹き出す。
だが、それが決定的な隙だった。
「マアンナ!!!」
「っっ……!!」
それに気づいた時にはもう手遅れだった。
充填されたマアンナの矢は放たれ、リィエルの胴体を引き摺りながらも貫いたのだ。リィエルが持っていた魔杖は手元から離れて、
「カハッ…………!」
数百メートル程引き摺られて胴体を貫いた。
かろうじて自分にかけた物理保護など紙装甲にも等しく意味をなさなかった。
今の一撃は間違いなく致命傷だ。
「(…………ま……だ……)」
リィエルは地に倒れ、起き上がる事さえ出来なかった。
胴体には魔術でも塞ぐ事のできない程、大きな穴が開きそこから止め処なく血が流れ落ちる。けれどリィエルはまだ生きていた。身体を引き摺りながらも魔杖のある方向へ片腕で這い蹲る。
「……まだ生きていたの。しぶといわね」
地上から降りたイシュタルが這い蹲るリィエルの頭を踏みつける。最早勝敗も格の違いもついた。リィエルが死ぬ事によりウルクが滅ぶ事が決定したイシュタルは笑う。ゴリッ、ゴリッと頭蓋骨を踏み潰さんとばかりに力を入れる。
「………………あ…………」
「んっ? 何? 聞こえないわ。もっとちゃんと喋って頂戴。ああ、頭を踏みつけられてちゃ喋れないわよね」
イシュタルはリィエルの髪を掴んで持ち上げる。
面白そうな顔をしながらも泣いて許を請うリィエルの姿を想像しながらも、リィエルが口にした言葉に耳を傾けた。
「…………『接続……崩壊』」
────その言葉と同時に、イシュタルが気付かなかったリィエルの切札、既に千切れた筈の
「なっ……! っあぁ──!?」
さっき左腕を失った時に、密かに魔杖で
至近距離の爆発。イシュタルの体が吹き飛び、顔面から少なくない血が流れていた。顔を抑えて膝を着いている姿が目に入った。
「神なら……特にアンタなら……慢心するよね」
「っっアンタ……!! 美の象徴であるこの私の顔に……傷をっ!!!」
イシュタルは右手で焼かれたような痛みが走る顔を押さえていた。顔の半分程に軽度の火傷を負ったのだ。美の象徴である自分の顔を傷つけたその不敬に怒り震えるイシュタル。
逆にリィエルは痛みで思考が上手く回らない、零れ落ちる血、僅かながらの動揺をしながらも、怒りに震えるイシュタルにリィエルは何もできない。血を流し過ぎて、魔術を使えば命を枯らす。
だから、アレが今出来る精一杯だったのに、殺せなかった。リィエルは見上げて、口元を歪めて笑う事しかできない。
「ザマア……ミロ……お、似合いの……顔、にな……ったわね」
「っっ……!! マアンナ!!」
イシュタルはマアンナに乗り、空高くからリィエルを狙う。
否、正確にはリィエルの死体を残さない程の威力で、この一帯を全て消し去るつもりだ。
「(ああ……もう……身体が……冷たい……)」
身体は血を失い、体温を奪っていく。
激痛で指一本動かせる気がしない。
「(……私は何、してたんだっけ……?)」
考えている間にも、身体は深く、深く。重力に押し潰され、飲み込まれるような勢いに逆らうこともせず、リィエルは諦めたように流されていた。
「(眠いなぁ…………)」
酷く、疲れている。喉の奥が焼け付くように何かを叫ぼうとしていたが、そんなこともどうでもよく感じてしまっていた。
意識など要らないくらいに思考を放棄したい。今はただ、泥のように眠っていたい。
リィエルの意識はここで途絶えた。
────────────────────
声が聞こえた。
何か懐かしい声が聞こえた。
『貴様の歌声は何物にも勝る美酒のようだ。良いぞ。貴様にこの我の財となることを赦そう』
気が付けば、私はそこに居た。
そこには……誰だっけ?
顔が見えない。まるで思考がモヤにかかったように働かない。
『えっ、普通に嫌です』
『そうかそうか。ならば我の元に………………はっ?』
それが私と×××××××の始まりだった。
……名前、なんだったかな。思い出そうとしても顔が見えない。
『こらー! 待ちなさい!』
『フハハハ! だが断る! 今日は劇を見に行くのでな!』
『仕事サボるんじゃありません! シドゥリさんが過労死しちゃうでしょうが!! ××ー! ×××××××を止めて!!』
『なっ……! 我が友を使うのは狡いではないか!』
『知るかー! ならせめて仕事してから行きなさーい!』
それから私は×××××××と×××××をいつも追いかけて居た。
あれ? 私は誰を追いかけて居たんだっけ……?
『ほう……『
「今更何言ってんの? 星を見定める王、×××××××の宮廷魔導師ならそれくらいの覚悟がなくちゃ、笑われるでしょ?」
それから私は誇りを持った。×××××××の背中を追い続けた。
確か……王様だった……けど、名前が分からない。
「××、××! 今日は飲もう! シドゥリさん達も明日くらいなら休日にするくらい許してくれそうだし!」
「フハハハ!! 良いぞ! 今日は最高に良い気分だ! 我が蔵からとっておきを出してやろう!!」
「飲み比べと行くかい2人とも?」
「良かろう!」
「いやそれ絶対××が勝つじゃん!?」
それから私達は誰にも負けなかった。
フンババにもグガランナにも負けなかった。
あの2人の名前が思い出せない……
「×××××、お前は1人ではない。我も1人になる事はない。貴様は我が生涯で最初の友であるのだからな。いずれ遠い未来で、また会おう友よ」
それを優しく、そして辛くないように×××××××は約束をした。
「××、私達は貴方を愛してる。だから、だからね……! いつかまた、明日を見に行こう……!」
私はいつまでも忘れないように明日をまた生きる事を約束した。
誰……? 誰だったかな……?
「……××……リィエル……ありがとう……僕も……2人……を忘れない…………大好き…………だよ」
私と×××××××は×××××と未来の約束をした。
何か……大事な事を忘れてる気がする。
忘れてはいけない。大事な約束を……
「……リィエル……」
「……なに……王様……」
私を抱き締めたまま、×××××××は口にした。
一体誰だった……? 私は……誰に抱き締められた?
「貴様は、貴様だけは……我を置いて死ぬな」
あの時、……私と王様は泣いていた。
「約束するよ……
ああ、そうだ思い出した。
あの時、私に約束させた人の名前は……
────────────────────
そうだ。そうだったよ。
思い出したのだ。私の
私の歌が王に届いたから、今の私はここに居る。
私の力が認められたから、私は2人と肩を並べた。
私を信じて託してくれたから、今の私は背負っているのだ。
世界の理も、友の約束も、ウルクを守る事も、
そしてギルガメッシュを置いて死なないと。
「……漸く、気づいたようだね」
世界が真っ白に変わった。
そこには何も無かった。自分の世界はいつも空っぽだった。
「君は一体何なのか。何者なのか」
私は歌が好きだった。
ただ
歌う事に意味なんてなく、歌が好きだったからそれしかなかった。
けれどギルガメッシュが色を与えてくれた。エルキドゥが筆を持たせてくれた。それは絵具のように私の心を彩るような刺激的な毎日があったのだ。
ギルガメッシュとエルキドゥと共に肩を並べあって、世界を背負ったのだ。それは重くとも支え合って、繋ぎ合って、それでいて辛くなかった。誇りに思えた。
私が今、ここに居るのは……
「うん。全部分かったんだ。私はギルガメッシュとエルキドゥの側に居たから、今の私の全てがあるって、気付けたんだ」
もう全部分かった。
リィエルと言う1人の人間を認めてくれた王がいた。
リィエルを親友と呼ぶ兵器がいた。
片方は無知にして私と同じかもしれなかった存在、神の兵器として生まれながらも、私と共に空を見た大切な友達。
片方は傲慢で、自由で、横暴で、食えない王だった。それでも気高く、神すら恐れない王が居た。
2人が私を認めてくれたから、今の私はここに居る。
「私は……ギルガメッシュの側に居たい。ギルガメッシュと一緒に世界が見たい。だから私は……ギルガメッシュと約束した事を
振り返ると、そこには懐かしく感じた。
大事な約束をしたもう1人の『
『心』を手にし、私とギルガメッシュが約束したもう1人の友が居た。ゆらゆらと棚引く緑色の長い髪、宝石のような金色の瞳、天の鎖としてギルガメッシュとリィエルと共にあった存在。
「私はまだ生きるよ。約束はまだ先になっちゃうね」
「構わないさ。ギルを1人にしたくないのは僕も同じさ」
リィエルは大事な人に大事な約束をしていた。
それを邪魔する神が居る。いや、神が人と共にあるなら、あの神はこの世界に存在してはいけない神だ。
だが、神の時代である以上、天の法には逆らえない。民達は怯え、恐怖してしまう。今の人間はグラガンナも私利私欲で持ち込んだあの女神に逆らえない。
だからリィエルは考えた。
この先をどうすればいいか。
「私は今から、大馬鹿な事をするよ? ギルガメッシュでさえ驚く程の大馬鹿を」
「ハハハ……! 良いんじゃないかな? それが
お互いに笑い、リィエルは手を伸ばした。
そうだ。いつも大馬鹿やらかして、私が追いかけて、捕まえて、それでいてまた繰り返し。けれど偶に一緒に馬鹿をやらかして、笑い合う。
それが私達の在り方だった。
「
恐らくは
意気込んでも風前の灯のような命だ。大馬鹿やらかしても後など殆どないだろう。約束は守れない。けど、無かったことになんかさせない。
ならば燃やすとしよう。最後の命の蝋燭が切れるまで、最後まで醜く生きよう。それが、
ギルガメッシュ、そしてリィエルの友である
「勿論さ。リィエル」
2人が手を繋ぎ合わせると、白い世界は何処か懐かしい金色の光と共に消えていった。
────────────────────
イシュタルのマアンナが最大出力まで魔力を溜めている。
生きしぶといリィエルでさえ、この一帯すら消し飛ばす対山宝具には耐える事すら出来ないだろう。
「…………何? この歌は?」
それはまるで幻想的な歌だった。惹き込まれるような優しくも可憐で、美しい声で歌われている。まるで魅了されたかのように大地が、空が、風が音を止めるようだ。
リィエルではない。リィエルを見ても口すら動いていない。イシュタルは歌が聞こえる方向を見た。そこにあったのはリィエルの魔杖である『
あの魔杖から歌声が聞こえる。
それも、何十、何百もの声が重なって紡がれた歌にイシュタルでさえ聞き惚れてしまうほどだ。
「……っ!? なっ!? この私が聞き惚れたですって!? 認めるもんですか!! マアンナ!!」
それは美の象徴からすれば一瞬の敗北。
イシュタルはマアンナの矢を撃つ方向をリィエルから魔杖に変える。ここでリィエルを殺すなど造作も無いが、屈辱だが自分でさえ聞き惚れてしまったリィエルの歌声に苛立ち、魔杖を先に破壊する為にマアンナを向けた。
しかし、その杖の後ろに誰かが立っている。
「……無粋な事を……しないでほしいわね」
いつの間にか倒れていたリィエルが浮いた魔杖を手に取った。
見るからに致命傷、なのにまだ立ち上がり魔術を使って浮いている。吐き出す血はもう無い。身体を走る激痛などもう忘れた。
何故死なない。何故立ち上がるのか。どちらにせよマアンナが狙う方向にリィエルが居るなら一石二鳥だ。
「マアンナ!! 全力掃射!!」
マアンナの矢はリィエルを定めて放たれた。
しかしリィエルは避ける素振りすらなかった。
ただ、リィエルは叫んだ。
自分の友の名を……!
「
マアンナから放たれた矢は天の鎖が完全に縛った。
それだけでは無い。全力を放ったイシュタルに出来た隙に天の鎖は捕らえていた。イシュタルもグガランナも天の鎖に縛られて動けなくなっていた。
「なあっ……!?」
イシュタルは驚愕した。
アレは自分が殺した存在だ。なのに何故、リィエルが持っている? 更には、何故グガランナを縛れる程の力を持つ? 意思のない神造兵器如きに何故自分は縛られている?
訳が分からない。
あの小娘に何故これ程の力を持っているのか。
「貴女には……永遠に分からないでしょうね、イシュタル」
「たかが精霊の半身程度が、なんでこれだけの力を……!!」
リィエルは笑った。
その理由はきっと永遠に手にする事は無いだろう。エルと私にあった縁や絆が繋がっているから、エルが私を
兵器に心は無い、なんて神の常識を覆した。
人が神すら凌駕した。なのに神はそれを認めない。
人間は神に逆らえない、それが今の世界の理ならば……
……私は叫ぼう。世界に届くように。
……あの、偉大な王のように!!
「天上の神々よ!! 今、この時をもって神代の時代は終わりを告げよう!! 此れより紡ぐは人の時代、神の要らない世界を我等は紡ぎ出す!!!」
此れより
此れより始まるは
リィエルは考えた。神と人は共にあるべき存在だとエルキドゥが言っていた。それはリィエル自身も同じ事を考えていた。だが、神は気まぐれにしか人を見ない。故にイシュタルのような傲慢な神や、三女神と言う人間を滅ぼす事を楽しむ神が生み出してしまったのだ。
そしてそれが神の傲慢さを招いてしまった。天界も冥界も決して人が自分から立ち入る事が出来ない場所だ。にも関わらず神は人間の世界で自由に生き、自由に殺し、自由に全てを我が物にしようとしている。
「(神の傲慢で……人を傷つける神が居る)」
神が人間を見下しているなら、リィエルは神に頼らない。
共にあり続ける神を待ち、見下している神を……
『
「我が名はリィエル!! 原初の精霊の半身にしてウルク一の宮廷魔導師!!『星の巫女』にしてギルガメッシュと共に世界の理を背負った人の時代の開闢者よ!!」
これは禁忌に近い力だ。
────私は世界と共に在り
そしてリィエルの歌は全てを惹き寄せ魅了する。人も、風も、大地も、空も、それは
────私は歌い、世界は踊る
故に『
────私は星の灯火を人の時代に移し
惹き寄せるものは既に決まっている。ただし、それは世界を滅ぼしかねない最悪の一手、『星の巫女』として最後の願い。世界すら崩壊へ導き、抑止力すら動き兼ねない裁きの鉄槌。
────神の時代の最後の星となろう
───あぁ、そうだ。
もし、名前をつけるなら
あの2人と同じが良いな。
『
ねえ、エルキドゥ。ギルガメッシュ。
私ね。やっと……
–––––––
遠かった2人に追いつけた気がするよ。
────────────────────
それはリィエルが惹き寄せた星の鉄槌。
そしてそれは名を馳せる英雄の中で、リィエルしか使う事の出来ない領域の魔術、他に使うのが可能だとするならば、『
放たれたのは最早、宝具の枠に収まり切らない質量の塊。
世界すら崩壊しかねない禁断の力をリィエルは使用したのだ。リィエルの魔術回路の殆どは千切れ、壊死して、それでもウルクの街にリィエルが使える最大硬度の結界を張った。
『朱い月』が放つのが『月落とし』ならば『星の巫女』の放つそれは『
リィエルが命をかけて紡いだ歌に惹かれて、落とされた星は
そのランクは抑止力すら動きかねない『
原初の魔術を全て理解し、人々の絆を繋ぎ、幾多の世界に干渉し、幾多の世界から可能性を惹き寄せ、星さえも魅了する存在ならば、それは天上の神々を超える存在。
名付けるなら『
そして、そのリィエルが惹き寄せた星は……
イシュタルとグガランナには止められない。
天の鎖で抵抗する事も出来ないまま。
圧倒的質量でイシュタルとグガランナを押し潰した。
────────────────────
そしてイシュタルは人界で死んだ事により天界から二度と出る事は出来なくなった。
惹き寄せた星は奇跡的にもウルクに何一つ被害を及ぼす事は無かった。それは偶然なのか、リィエルの力なのかは知る由も無い。
イシュタルが天界に送還されたことによって、人の時代の幕を開けた。神の時代は此れより終わり、人が世界の歴史を紡ぐのだ。
そしてその予兆に気が付いたのは、
「…………?」
ウルクから遠い場所に居たギルガメッシュ一人のみであった。
第二宝具
『
* ランク:EX
* 種別:対粛正/対星宝具
* レンジ:測定不能
* 最大捕捉:測定不能
存在しない筈のリィエルの第二宝具。
リィエルの原初の精霊としての本質が「惹き寄せる力」であったことで、リィエルはありとあらゆる全てを惹き寄せる。「惹き寄せる」と言う事はつまり「誰からも愛されて、誰からでも全てを手に入れる事」が出来てしまう。自分と言う人間に惹かれてしまえば、相手を思うがままに出来ると言う規格外の力を持つ。
リィエルはそれを
リィエルは幾多の世界の自分と繋がり、
だが、強大すぎる力のせいか、魔術回路が殆どが壊死している上に威力が強すぎて
弱点としては、発動時間が長すぎる事にあり、歌で星を呼び掛ける事自体が規格外ゆえ、発動される前に攻撃されたら使えないのが弱点。
ただ一度発動されれば、対抗できるのはあの2人を置いて居ないだろう。
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